(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002449
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】光干渉計
(51)【国際特許分類】
G01S 17/34 20200101AFI20241226BHJP
G01S 17/931 20200101ALI20241226BHJP
【FI】
G01S17/34
G01S17/931
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102636
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉元 直輝
(72)【発明者】
【氏名】守口 智博
(72)【発明者】
【氏名】大山 浩市
【テーマコード(参考)】
5J084
【Fターム(参考)】
5J084AA05
5J084AA07
5J084AD01
5J084AD08
5J084BA03
5J084BA45
5J084BA48
5J084BB28
5J084CA08
5J084CA33
5J084EA01
(57)【要約】
【課題】ノイズフロアの上昇を抑制することができる光干渉計を提供する。
【解決手段】光干渉計は、光源20と、光源20が出力した光信号を測定信号と参照信号とに分ける分岐部30と、測定信号を外部空間に送信するとともに、外部空間から戻った測定信号を受信する送受信部40と、送受信部40が受信した測定信号と参照信号とを干渉させて干渉信号を生成する干渉部60と、分岐部30から干渉部60までの参照信号の遅延長である参照信号遅延長を調整する遅延長調整部50と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光干渉計であって、
光源(20)と、
前記光源が出力した光信号を測定信号と参照信号とに分ける分岐部(30)と、
前記測定信号を外部空間に送信するとともに、前記外部空間から戻った前記測定信号を受信する送受信部(40)と、
前記送受信部が受信した前記測定信号と前記参照信号とを干渉させて干渉信号を生成する干渉部(60)と、
前記分岐部から前記干渉部までの前記参照信号の遅延長である参照信号遅延長を調整する遅延長調整部(50)と、を備える光干渉計。
【請求項2】
前記参照信号遅延長の変化に対する前記干渉信号の変化に基づいて前記参照信号遅延長を設定する信号処理部(80)を備える請求項1に記載の光干渉計。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記干渉信号を周波数領域に変換して得られたスペクトルのスロープ形状に基づいて前記参照信号遅延長を設定する請求項2に記載の光干渉計。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記スペクトルのスロープ高さが0に近づくように前記参照信号遅延長を設定する請求項3に記載の光干渉計。
【請求項5】
前記信号処理部は、前記干渉信号の中心周波数に基づいて前記参照信号遅延長を設定する請求項2に記載の光干渉計。
【請求項6】
前記信号処理部は、前記中心周波数が0Hzに近づくように前記参照信号遅延長を設定する請求項5に記載の光干渉計。
【請求項7】
前記光源は、時間の経過とともに周波数が変化する光信号を出力し、
前記信号処理部は、前記干渉信号に基づいて、前記外部空間において前記測定信号を反射した物体の測距を行い、
前記光源は、前記信号処理部が前記参照信号遅延長の設定を行うときには、前記信号処理部が前記測距を行うときに比べて、前記周波数の変化率を大きくする請求項6に記載の光干渉計。
【請求項8】
前記遅延長調整部は、入力された光信号が複数のミラー(51、52、53、54)で反射した後に出力される光路を備え、複数の前記ミラーのうち少なくとも一部の位置を変化させることにより、前記参照信号遅延長を変化させる請求項1に記載の光干渉計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光干渉計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の周囲の物体を検知するFMCW方式のLiDAR等に用いられる光干渉計では、光学窓、ファイバ出射端、光IC(集積回路)出射端等からの後方散乱(Back Reflection)により測距性能が劣化することが知られている。FMCWは、Frequency Modulated Continuous Waveの略である。LiDARは、Light Detection And Rangingの略である。例えば、後方散乱の光が光源に戻ると、出力光の振幅および位相雑音が増加し、線幅が増加する。
【0003】
特許文献1では、光源の出力光の偏波と後方散乱の光の偏波とを1/4波長板等の偏光子を用いて直交させることにより、後方散乱の光が偏光子を通過して光源に戻ることを抑制し、後方散乱の影響を緩和する手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光干渉計では、光源から出力された光を測定信号と参照信号とに分け、これらの干渉信号を用いて測距等を行う。そして、光干渉計では、光源に戻る後方散乱成分の他に、測定信号と同じ経路を辿って参照信号と干渉する後方散乱成分も存在する。これによってノイズフロアが上昇してSN比が低下し、検知距離の低下等の性能低下が生じるおそれがあるため、後方散乱成分と参照信号との干渉によるノイズフロアの上昇の抑制が必要である。しかしながら、特許文献1では、これらの干渉についての対策は提案されていない。
【0006】
本開示は上記点に鑑みて、ノイズフロアの上昇を抑制することができる光干渉計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示の1つの観点によれば、光干渉計は、光源(20)と、光源が出力した光信号を測定信号と参照信号とに分ける分岐部(30)と、測定信号を外部空間に送信するとともに、外部空間から戻った測定信号を受信する送受信部(40)と、送受信部が受信した測定信号と参照信号とを干渉させて干渉信号を生成する干渉部(60)と、分岐部から干渉部までの参照信号の遅延長である参照信号遅延長を調整する遅延長調整部(50)と、を備える。
【0008】
これによれば、参照信号遅延長を調整して後方散乱の光の遅延長に近づけることが可能となるため、後方散乱の干渉信号への影響を低減し、ノイズフロアの上昇を抑制することができる。
【0009】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態にかかる光干渉計の構成を示す図である。
【
図3】参照信号および受信信号の周波数を示す図である。
【
図7】ノイズフロアのスロープ高さを示す図である。
【
図9】第2実施形態における遅延長調整方法について説明するための図である。
【
図10】チャープレートとビート周波数分解能との関係を示す図である。
【
図11】測定信号と調整用信号の中心周波数を示す図である。
【
図12】第3実施形態における遅延長調整部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。本実施形態では、光干渉計をFMCW方式のLiDARに用いる場合について説明するが、光干渉計を他の用途に用いてもよい。
【0013】
図1に示すように、光干渉計は、筐体10と、光源20と、分岐部30と、送受信部40と、遅延長調整部50と、干渉部60と、受光部70と、信号処理部80と、光IC90と、基板100とを備えている。光源20~基板100は、筐体10の内部の空間に配置されている。
【0014】
光源20は、半導体光増幅器等で構成されたレーザー光源である。光源20、分岐部30、干渉部60、受光部70は、半導体プロセスで形成された光IC90に配置されており、光IC90と信号処理部80は、シリコン等で構成された基板100に配置されている。光源20は光IC90に形成された導波路によって分岐部30に接続されており、光源20が出力した光信号は、分岐部30に入力される。
【0015】
分岐部30は、光源20が出力した光信号を測定信号と参照信号とに分けるものである。測定信号は、物体を検出するための光信号であり、参照信号は、FMCW方式の測距のための光信号である。分岐部30は、導波路を分岐させるカプラ等で構成されており、光源20から延設された導波路を2つに分けるように設けられている。
【0016】
分岐部30で分岐した2つの導波路のうち、一方の導波路は、光IC90の端面まで延設され、基板100上の導波路によって基板100の端面に接続されており、基板100の端面から射出された測定信号が送受信部40に入力される。他方の導波路は、遅延長調整部50を介して干渉部60に接続されており、参照信号は、この導波路を伝搬して干渉部60に入力される。なお、遅延長調整部50は、例えば光ファイバーケーブルによって基板100に接続されており、分岐部30および干渉部60は、光IC90上の導波路と、基板100上の導波路と、この光ファイバーケーブルとによって遅延長調整部50に接続されている。そして、参照信号は、分岐部30から基板100の端面まで延設された導波路と、遅延長調整部50の入力側の光ファイバーケーブルとを伝搬して、遅延長調整部50に入力される。遅延長調整部50を通った参照信号は、遅延長調整部50の出力側の光ファイバーケーブルと、基板100の端面から干渉部60まで延設された導波路とを伝搬して、干渉部60に入力される。
【0017】
送受信部40は、測定信号を筐体10の外部空間に送信するとともに、筐体10の外部空間から戻った測定信号を受信するものである。送受信部40は、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー等で構成されている。
【0018】
筐体10には開口部が設けられており、この開口部は、ガラス(SiO2)等の光信号が透過する材料で構成された板状の光学窓11によって覆われている。分岐部30から送受信部40に入力された測定信号は、送受信部40が備えるMEMSミラーによって反射した後、光学窓11を通過して筐体10の外部空間に照射される。そして、送受信部40がMEMSミラーを揺動させることにより、筐体10の外部空間において測定信号が走査される。
【0019】
筐体10の外部空間にある物体で反射した測定信号が光学窓11を通過して筐体10の内部に戻ると、この測定信号は送受信部40が備えるMEMSミラーで反射して、基板100の端面に照射される。この端面には干渉部60に接続された導波路が露出しており、送受信部40が受信した光信号は、干渉部60に入力される。
【0020】
なお、矢印A1で示すように、光学窓11では測定信号の後方散乱が生じ、送受信部40から光学窓11に照射される測定信号の一部は、光学窓11で反射して送受信部40によって受信され、干渉部60に入力される。すなわち、送受信部40が受信した光信号を受信信号とすると、受信信号には、光学窓11を通過して筐体10の内部に戻った測定信号と、光学窓11で反射した測定信号とが含まれる。光学窓11を通過して筐体10の内部に戻った測定信号を第1受信信号とし、光学窓11で反射した測定信号を第2受信信号とする。
【0021】
遅延長調整部50は、分岐部30から干渉部60までの参照信号の遅延長(以下、参照信号遅延長という)を調整するものである。参照信号遅延長は、具体的には、分岐部30から干渉部60までの参照信号が伝搬する光路の長さである。遅延長調整部50は、入力された光信号が複数の折り返しミラーで反射した後に出力される光路を備えており、複数のミラーのうち少なくとも一部の位置を変化させることにより、参照信号遅延長を変化させる。
【0022】
本実施形態では、
図2に示すように、遅延長調整部50は、ミラー51、52、53、54を備え、入力光は矢印A2で示すようにミラー51~54で順に反射した後に出力されるようになっている。ミラー52、53は可動ミラーとされており、遅延長調整部50は、矢印A3、A4で示すようにミラー52、53の位置を変化させることによって参照信号遅延長を調整する。
【0023】
具体的には、遅延長調整部50は、ミラー52をミラー51に近づけるとともにミラー53をミラー54に近づけることにより、参照信号遅延長を短くする。あるいは、遅延長調整部50は、ミラー52をミラー51から遠ざけるとともにミラー53をミラー54から遠ざけることにより、参照信号遅延長を長くする。
【0024】
例えば、遅延長調整部50は、図示しないレール状の部材を備えており、ミラー52、53は、このレール状の部材に配置されている。そして、遅延長調整部50は図示しないモータ、ギア等を組み合わせた機構を備えており、この機構を用いてミラー52、53をレール状の部材の上でスライドさせることにより、ミラー52、53の位置を変化させる。
【0025】
また、光干渉計の出荷前に参照信号遅延長を調整する場合には、ミラー52、53の位置を手動で調整してもよい。例えば、上記のレール状の部材の上で、ミラー52、53を手動でスライドさせ、参照信号遅延長を調整した後にミラー52、53を固定してもよい。また、例えば、ミラー52、53をねじで固定し、ミラー52、53と固定部材との間にシムプレートを挟み、このシムプレートの厚さを変えることにより、ミラー52、53の位置を変化させてもよい。分岐部30が生成した参照信号は、遅延長調整部50を通過して干渉部60に入力される。
【0026】
干渉部60は、送受信部40が受信した測定信号と参照信号とを干渉させて干渉信号を生成するものである。干渉部60は、2つの導波路を合流させるカプラ等を備え、分岐部30から遅延長調整部50を介して接続された導波路と、送受信部40に対向する基板100の端面から接続された導波路とを合流させ、これらの導波路を伝搬した光を合波するように設けられている。干渉部60によって合流した導波路は、受光部70に接続されており、干渉信号は受光部70に入力される。
【0027】
受光部70は、干渉部60が生成した干渉信号を電気信号に変換するものであり、フォトディテクタ等で構成されている。受光部70は基板100に形成された電気配線によって信号処理部80に接続されており、受光部70の出力信号は信号処理部80に入力される。
【0028】
信号処理部80は、電気信号に変換された干渉信号に基づいて、筐体10の外部空間において測定信号を反射した物体の測距を行うものである。信号処理部80は、基板100に配置されたIC等で構成されている。
【0029】
信号処理部80が行うFMCW方式の測距について説明する。光源20は、時間の経過とともに周波数が変化する光信号を出力する。ここでは、この光信号の周波数が、単調増加と単調減少とを繰り返す三角波状に変化する場合について説明する。
【0030】
FMCW方式では、受信信号と参照信号とが干渉することで発生するビート信号を検出し、ビート信号の周波数に基づいて物体の距離および速度を算出する。第1受信信号は、参照信号に対して、光干渉計と物体との距離によって位相シフトするとともに、物体の光干渉計に対する相対速度によってドップラーシフトする。ビート信号の周波数は、この位相シフトとドップラーシフトによる参照信号と第1受信信号との周波数差が反映されたものとなる。信号処理部80は、受光部70から送信された信号を周波数領域に変換してビート信号の周波数を検出し、検出された周波数を用いて物体の距離および速度を算出する。
【0031】
図3において、実線は参照信号の周波数を示す。測定信号が光干渉計に対する相対速度が0の物体で反射すると、第1受信信号の周波数は、一点鎖線で示すようになる。すなわち、第1受信信号は、光干渉計と物体との距離に応じて、参照信号に対して位相遅れが生じる。そして、測定信号が光干渉計に接近する物体で反射すると、第1受信信号の周波数は参照信号よりも周波数が高くなり、二点鎖線で示すようになる。
【0032】
検知された物体の相対速度が0の場合には、参照信号と受信信号との周波数差であるビート周波数fbeatは、数式1のようになる。
【0033】
【数1】
FMWは、参照信号および測定信号の周波数掃引幅である。Disは、参照信号と受信信号との時間差である。Tは、参照信号および測定信号の周波数の掃引時間である。
【0034】
物体が光干渉計に対して相対速度を持つ場合には、
図3の一点鎖線のグラフと二点鎖線のグラフとの周波数差であるドップラーシフトf
dは、数式2のようになる。
【0035】
【数2】
f
LOWは掃引開始周波数である。Veloは物体の光干渉計に対する相対速度である。Cは光速である。
【0036】
干渉部60によって生成されるビート信号からは、ビート周波数fup、fdownの成分が検出される。ビート周波数fupは、参照信号および受信信号の周波数が単調増加しているときの参照信号と受信信号との周波数差である。ビート周波数fdownは、参照信号および受信信号の周波数が単調減少しているときの参照信号と受信信号との周波数差である。数式3、数式4に示すtDis、Vdiffは、ビート周波数fbeatおよびドップラーシフトfdに対応するパラメータであり、ビート周波数fbeatおよびドップラーシフトfdはビート周波数fup、fdownを用いてこのように算出される。
【0037】
【0038】
【数4】
数式3を数式1に代入することにより、光干渉計と物体との距離Lは、ビート周波数f
up、f
downを用いて数式5のように算出される。また、数式4を数式2に代入することにより、物体の相対速度Veloは、ビート周波数f
up、f
downを用いて数式6のように算出される。
【0039】
【0040】
【数6】
信号処理部80は、このようにして物体の距離および速度を算出する。しかしながら、前述したように、光学窓11で後方散乱が生じるため、受信信号には第1受信信号に加えてノイズである第2受信信号が入る。
【0041】
第1受信信号と参照信号の干渉により生成されるビート信号の強度は、以下のようになる。第1受信信号と参照信号の光エネルギーをそれぞれESignal、ELocalとすると、光エネルギーESignal、ELocalは、数式7、数式8のようになる。
【0042】
【0043】
【数8】
tは時間である。A
S、A
Lはそれぞれ光エネルギーE
Signal、E
Localの振幅である。iは虚数単位である。πは円周率である。f
S、f
Lはそれぞれ光エネルギーE
Signal、E
Localの位相であり、数式9によって求められる。
【0044】
【数9】
F
intは参照信号および測距信号のチャープレート、すなわち、周波数の変化率であり、F
int=FMW/Tである。dis
varは遅延長に応じた時間である。具体的には、dis
Sは分岐部30の導波路が分岐した部分から第1受信信号が干渉部60に入力されるまでの遅延長を光速Cで割ったものである。dis
Lは分岐部30の導波路が分岐した部分から干渉部60までの遅延長すなわち参照信号遅延長を光速Cで割ったものである。PhaseNoiseは時間で変動する位相雑音の成分である。
【0045】
第1受信信号と参照信号の干渉信号の光エネルギーをE1とすると、E1(t)=ESignal(t)+ELocal(t)であるので、信号処理部80が検出するビート信号の強度は、数式10のようになる。
【0046】
【数10】
第2受信信号と参照信号の干渉により生成されるビート信号の強度についても、同様である。すなわち、第2受信信号の光エネルギーをE
BackReflectionとすると、光エネルギーE
BackReflectionは、数式11のようになる。
【0047】
【数11】
A
Bは光エネルギーE
BackReflectionの振幅である。f
Bは光エネルギーE
BackReflectionの位相であり、数式9によって求められる。dis
Bは分岐部30の導波路が分岐した部分から第2受信信号が干渉部60に入力されるまでの遅延長を光速Cで割ったものである。第2受信信号と参照信号の干渉信号の光エネルギーをE
2(t)とすると、E
2(t)=E
BackReflection(t)+E
L(t)であるので、信号処理部80が検出するビート信号の強度は、数式12のようになる。
【0048】
【数12】
すなわち、後方散乱によって受信信号に第2受信信号が入ると、信号処理部80が検出するビート信号の強度に、数式12の成分が含まれるようになる。
図4、
図5は、第2受信信号を含む受信信号と参照信号との干渉によって生成されたビート信号の振幅と、ビート信号のパワースペクトルの一例である。ビート信号に数式12の成分が含まれた結果、
図5に示すように、ビート信号のパワースペクトルにスロープ状のノイズが入り、SN比が低下する。
【0049】
これに対して、数式12において、位相雑音の差分成分である余弦波成分の周波数を0とすることにより、すなわち、disL=disBとしてfL=fBとすることにより、後方散乱によるノイズを低減できると考えられる。信号処理部80は、disLをdisBに近づけるように、参照信号遅延長を調整する。本実施形態では、信号処理部80は、ビート信号を周波数領域に変換し、これにより得られたスペクトルのスロープ形状に基づいて、参照信号遅延長を設定する。
【0050】
具体的には、光干渉計の起動後、1回目の調整においては、信号処理部80は、参照信号遅延長を現在の距離よりも長い距離、あるいは、短い距離に設定し、設定した距離に応じた信号を遅延長調整部50に送信する。
【0051】
遅延長調整部50は、信号処理部80から送信された信号に応じて、ミラー52、53の位置を変化させる。すなわち、信号処理部80が参照信号遅延長を現在よりも長い距離に設定した場合には、遅延長調整部50は、信号処理部80内の光路長が現在よりも長くなるようにミラー52、53を移動させる。一方、信号処理部80が参照信号遅延長を現在よりも短い距離に設定した場合には、遅延長調整部50は、信号処理部80内の光路長が現在よりも短くなるようにミラー52、53を移動させる。
【0052】
遅延長調整部50がミラー52、53を移動させることにより、参照信号遅延長が変化し、ビート信号のスペクトルの形状が変化する。2回目以降の調整では、信号処理部80は、ビート信号のスペクトル形状が変化した後のノイズフロアのスロープ高さと、前回の、すなわち、ビート信号のスペクトル形状が変化する前のノイズフロアのスロープ高さとに基づいて、参照信号遅延長を設定する。ここでのスロープ高さは、平均スペクトルの特定の周波数帯域における振幅値またはパワーと理想のノイズフロアレベルとの差分である。
【0053】
信号処理部80は、変化後のスロープ高さが変化前よりも大きい場合には、参照信号遅延長を前回とは逆方向に変化させた距離に設定し、設定した距離に応じた信号を遅延長調整部50に送信する。一方、信号処理部80は、変化後のスロープ高さが変化前よりも小さい場合には、参照信号遅延長を前回と同じ方向に変化させた距離に設定し、設定した距離に応じた信号を遅延長調整部50に送信する。参照信号遅延長の変化量は、例えば現在のスロープ高さと前回のスロープ高さとの差の絶対値に応じて設定される。
【0054】
ビート信号のスペクトルは、例えば
図6に示すようになる。そして、このようなスペクトルの平均は、例えば
図7に示すようになる。
図7の実線は実際のノイズフロアを含むビート信号のスペクトルの平均を示し、破線は理想のノイズフロアレベルを示す。そして、例えば矢印A5で示すスロープ高さに基づいて、参照信号遅延長が設定される。
【0055】
このように、信号処理部80は、参照信号遅延長の変化に対する干渉信号の変化に基づいて新たな参照信号遅延長を設定する。信号処理部80は、このような処理を繰り返すことにより、スペクトルのスロープ高さを0に近づける。この参照信号遅延長の調整処理は、光干渉計の出荷前に行ってもよいし、出荷後に行ってもよい。参照信号遅延長の調整処理を出荷後に行う場合には、例えば、光干渉計の起動中、測距処理と参照信号遅延長の調整処理とが交互に実行される。
【0056】
なお、
図8に示すように、送受信部40は射出光の角度を変えて光学窓11に照射することにより、所定の検知範囲を走査する。光学窓11における後方散乱は、射出光の角度によって遅延長および光量が異なる。例えば
図8の矢印A6~A10で示す射出光では、矢印A6、A10で示す射出光の遅延長が最長となり、矢印A8で示す射出光の遅延長が最短となる。そして、後方散乱の光量は、矢印A8で示す射出光の光量が最大となり、矢印A6、A10で示す射出光の光量が最小となる。信号処理部80によってノイズフロアのスロープ高さを0に近づける際には、光量の多い射出光の遅延長に対応して参照信号遅延長が調整される。例えば
図8では、矢印A8で示す射出光の遅延長に対応して参照信号遅延長が調整される。
【0057】
以上説明したように、本実施形態では、遅延長調整部50により、参照信号遅延長を調整して後方散乱の光の遅延長に近づけることが可能であるため、後方散乱の干渉信号への影響を低減し、ノイズフロアの上昇を抑制することができる。
【0058】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0059】
(1)参照信号遅延長の変化に対する干渉信号の変化に基づいて参照信号遅延長を設定する信号処理部80を備える。これによれば、参照信号遅延長を効率的に後方散乱の光の遅延長に近づけることができる。
【0060】
(2)信号処理部80は、干渉信号を周波数領域に変換して得られたスペクトルのスロープ形状に基づいて参照信号遅延長を設定する。これによれば、ノイズフロアレベルを直接制御することができる。
【0061】
(3)信号処理部80は、干渉信号を周波数領域に変換して得られたスペクトルのスロープ高さが0に近づくように記参照信号遅延長を設定する。これによれば、ノイズフロアを理論値付近まで低減することができる。
【0062】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して参照信号遅延長の調整方法を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0063】
本実施形態の信号処理部80は、干渉信号の中心周波数に基づいて参照信号遅延長を設定する。具体的には、
図9に示すようにビート信号のスペクトルの中心周波数が検出された場合に、矢印A11で示すように、この中心周波数をDCすなわち0Hzに近づけるように参照信号遅延長を設定する。
【0064】
例えば、光干渉計の起動後、1回目の調整においては、信号処理部80は、参照信号遅延長を現在の距離よりも長い距離、あるいは、短い距離に設定し、設定した距離に応じた信号を遅延長調整部50に送信する。そして、遅延長調整部50は、信号処理部80から送信された信号に応じて、ミラー52、53の位置を変化させる。
【0065】
遅延長調整部50がミラー52、53を移動させることにより、参照信号遅延長が変化し、ビート信号のスペクトルの中心周波数が変化する。信号処理部80は、変化後の中心周波数が前回よりも高い場合には、参照信号遅延長を前回とは逆方向に変化させた距離に設定する。一方、信号処理部80は、中心周波数が前回よりも低い場合には、参照信号遅延長を前回と同じ方向に変化させた距離に設定する。信号処理部80は、このような処理を繰り返すことにより、ビート信号の中心周波数を0Hzに近づける。
【0066】
なお、参照信号および測定信号のチャープレートが高いほどビート周波数も高くなり、ビート周波数の遅延時間に対する感度が高くなる。したがって、チャープレートを高くすることにより、参照信号遅延長の調整精度を向上させることができる。そこで、参照信号遅延長の調整時には、光源20から出力される光信号のチャープレートを測距時よりも高くしてもよい。
【0067】
すなわち、測距時、調整時のチャープレートをそれぞれFMW
1、FMW
2とし、測距時、調整時のビート周波数をそれぞれf
beat1、f
beat2とし、FMW
2>FMW
1とすると、
図10、
図11に示すように、f
beat2>f
beat1となる。例えば、FMW
2=2FMW
1とすると、f
beat2=2f
beat1となる。なお、
図10の実線、破線はそれぞれ測距時の参照信号、受信信号の周波数を示し、一点鎖線、二点鎖線はそれぞれチャープレートの調整時の参照信号、受信信号の周波数を示す。
【0068】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0069】
また、上記実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0070】
(1)光源20は、信号処理部80が参照信号遅延長の設定を行うときには、信号処理部80が測距を行うときに比べて、出力する光信号の周波数の変化率を大きくする。これによれば、参照信号遅延長の調整精度を向上させることができる。
【0071】
(2)信号処理部80は、干渉信号の中心周波数に基づいて参照信号遅延長を設定する。中心周波数は光路長に対応しているため、中心周波数を参照することにより、必要な遅延量を直接導出することができる。
【0072】
(3)信号処理部80は、中心周波数が0Hzに近づくように参照信号遅延長を設定する。これによれば、第2受信信号と参照信号との時間差を光路長に対応した中心周波数で制御することができる。
【0073】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して遅延長調整部50の構成を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0074】
図12に示すように、本実施形態の遅延長調整部50は、ミラー51~54の前段に光位相シフタ55を備えており、入力された光信号が光位相シフタ55を通過した後にミラー51~54で反射して出力されるようになっている。そして、遅延長調整部50は信号処理部80からの信号に応じて、ミラー52、53の位置に加えて、光位相シフタ55による位相シフト量を変化させることにより、参照信号遅延長を調整する。
【0075】
本実施形態では、光位相シフタ55は光IC90に形成されるが、参照信号の伝搬経路を光ファイバで構成する場合には、この光ファイバに光位相シフタ55を形成してもよい。
【0076】
本実施形態は、第1実施形態と同様の構成および作動からは第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0077】
(他の実施形態)
なお、本開示は上記した実施形態に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。また、上記各実施形態は、互いに無関係なものではなく、組み合わせが明らかに不可な場合を除き、適宜組み合わせが可能である。また、上記各実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、上記各実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されるものではない。また、上記各実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されるものではない。
【0078】
第3実施形態において、第2実施形態のようにビート信号の中心周波数に基づいて参照信号遅延長を調整してもよい。
【0079】
第3実施形態において、遅延長調整部50がミラー51~54を備えず、光位相シフタ55のみによって参照信号遅延長を調整してもよい。
【0080】
送受信部40を光源20等と共に光IC90に形成してもよい。例えば、送受信部40を光IC90に形成された回折格子で構成し、この回折格子から光を射出してもよい。また、送受信部40を分岐部30から光IC90の端面まで延設された複数の導波路で構成し、この複数の導波路の端面から光を射出してもよい。
【0081】
参照信号遅延長を光学窓11以外での後方散乱成分の遅延長に合わせて調整してもよい。例えば、光IC90、基板100の測定信号が射出される端面における後方散乱の遅延長に合わせて参照信号遅延長を調整してもよい。また、送受信部40を前述したように回折格子や導波路で構成する場合には、送受信部40の出射面における後方散乱の遅延長に合わせて参照信号遅延長を調整してもよい。また、送受信部40において測定信号を光ファイバから出射する構成とする場合には、ファイバ出射端における後方散乱の遅延長に合わせて参照信号遅延長を調整してもよい。
【符号の説明】
【0082】
20 光源
30 分岐部
40 送受信部
50 遅延長調整部