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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002450
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】透明部材破壊構造
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/00 20060101AFI20241226BHJP
   B60J 1/17 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60R21/00 330
B60R21/00 310N
B60J1/17 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102638
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】下池 昌弥
(72)【発明者】
【氏名】香川 亮太
【テーマコード(参考)】
3D127
【Fターム(参考)】
3D127AA07
3D127CB05
3D127CC05
(57)【要約】
【課題】非常時において透明部材を容易に破砕できる透明部材破壊構造を提供する。
【解決手段】透明部材破壊構造15は、車両10に配設され、透明部材16を破壊できるように構成された構造である。透明部材破壊構造15は、破壊構造部19を具備する。透明部材16は、車体11の開口12を閉鎖するように配設される。破壊構造部19は、開口12を閉鎖している状態の透明部材16の下側辺から、透明部材16を破壊する外力を透明部材16に付与する部材である。
【選択図】図3B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に配設され、透明部材を破壊できるように構成された透明部材破壊構造であり、
前記透明部材は、車体の開口を閉鎖するように配設され、
前記開口を閉鎖している状態の前記透明部材の下側辺から、前記透明部材を破壊する外力を付与する破壊構造部を具備することを特徴とする透明部材破壊構造。
【請求項2】
前記破壊構造部は、前記開口を閉鎖している状態の前記透明部材の前記下側辺よりも、下方側に配設された挿入用開口部であることを特徴とする請求項1に記載の透明部材破壊構造。
【請求項3】
前記開口は、前記車両のドアに形成され、
前記ドアは、アウタパネルと、インナパネルと、ドアトリムと、を有し、
前記破壊構造部は、前記インナパネルに形成された第1挿入用開口部と、前記ドアトリムに形成された第2挿入用開口部と、を有することを特徴とする請求項1に記載の透明部材破壊構造。
【請求項4】
前記第1挿入用開口部は、上下方向に沿う長手方向を有する長孔であることを特徴とする請求項3に記載の透明部材破壊構造。
【請求項5】
前記開口は、前記車両のドアに形成され、
前記ドアに収納空間を形成し、
前記収納空間に、破壊治具を収納することを特徴とする請求項1に記載の透明部材破壊構造。
【請求項6】
前記破壊構造部は、前記開口を閉鎖している状態の前記透明部材の前記下側辺よりも下方に配設された挿入用開口部であり、
前記挿入用開口部は、前記収納空間に形成されることを特徴とする請求項5に記載の透明部材破壊構造。
【請求項7】
前記破壊構造部は、破壊治具を有し、
前記破壊治具は、当接部と、前記当接部と連続する操作部と、回転中心軸と、を有し、
前記当接部は、前記回転中心軸を中心に回転することで、前記透明部材の前記下側辺に接触するように構成され、
前記操作部は、曲折可能とされることを特徴とする請求項1に記載の透明部材破壊構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられる透明部材破壊構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が水没する等の緊急時においては、ドアの開口から脱出する必要性が生じることがあり得る。係る場合、ドアの開口を閉鎖するドアガラスは、水圧や電装品の不具合等により、開閉できないことも考えられる。よって、緊急時において、ドアの開口から脱出する場合、ドアガラスを破壊する必要がある。ドアガラスを破壊する機構を車両に備える事項が、以下の特許文献に記載されている。
【0003】
引用文献1には、ウィンドウガラス手動破壊装置が記載されている。ここでは、緊急時に迅速に車外へ脱出できるように、ウィンドウガラス破壊装置は、車体に組み込まれる。またウィンドウガラス破壊装置は、弾性体を用いた機構により、ウィンドウガラスを破壊できる。この仕組みにより、力が弱い人でも、ウィンドウガラスを破壊できる。
【0004】
引用文献2には、リンク機構によりドアガラスを破壊できる車両用ドアガラス破壊装置が記載されている。即ち、引用文献2に記載された車両用ドアガラス破壊装置では、車両用ドア装置におけるドアの内側壁にガイド孔を設ける。また、このガイド孔に、ドアガラス面に向かって先端の尖った破壊棒を、進退可能に嵌挿する。更に、破壊棒を覆うようにドアの内壁面にドア内部部材を設ける。また、このドア内部部材に操作レバーを設置し、この操作レバーを操作することにより、リンク機構を介して破壊棒の先端をドアガラスに押圧可能とする。これにより、ドアガラスを破砕できる。
【0005】
引用文献3には、特別な工具を使わずに車両ガラスを破壊できる車両脱出装置が記載されている。当該車両脱出装置は、衝撃部材ピンと、ピンをガラスに向かって破壊位置まで移動させるレバーと、を備えている。ピンは、ドアガラスを破壊しやすい形状であり、レバーは、緊急時に手前に引くことでピンをストロークさせ、ガラスを破壊する。これにより、車両ガラスを破壊し、安全かつ迅速に脱出が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-352214号公報
【特許文献2】特開2012-245952号公報
【特許文献3】特開平08-164809号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した各特許文献に記載された発明では、ドアガラスを効果的に破砕する観点から改善の余地があった。
【0008】
具体的には、各特許文献に記載された発明では、緊急時においてドアガラスを破壊することはできる。しかしながら、ドアガラスの内側主面に対して衝撃を与えるものであったことから、ドアガラスを即座に破壊することが簡単ではない場合が考えられる。また、ドアガラスの破砕に際しては、比較的に大きな力が必要になる。よって、乗員が非力な女性や高齢者であると、ドアガラスの破砕が簡単ではない課題がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、非常時において透明部材を容易且つ確実に破砕できる透明部材破壊構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造は、車両に配設され、透明部材を破壊できるように構成された透明部材破壊構造であり、前記透明部材は、車体の開口を閉鎖するように配設され、前記開口を閉鎖している状態の前記透明部材の下側辺から、前記透明部材を破壊する外力を付与する破壊構造部を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の透明部材破壊構造によれば、破壊機構により、透明部材に対して、その脆弱部である下側辺側から外力を加えることができる。よって、乗員は、車両水没時等において透明部材を容易に破壊することでき、車体の開口から車外に即座に脱出できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造を備えた車両を示す側面図である。
図1B】本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造を備えた車両を示す拡大側面図である。
図2】本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造を備えた車両を内側から示す図である。
図3A】本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造を備えたドアを示す側面図である。
図3B】本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造を備えたドアを示す断面図である。
図4A】本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造によりドアガラスを破壊する状況を示す断面図である。
図4B】本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造によりドアガラスを破壊する状況を示す断面図である。
図5A】本発明の他形態に係る透明部材破壊構造を備えた車両を内側から示す図である。
図5B】本発明の他形態に係る透明部材破壊構造を備えた車両を示す断面図である。
図6A】本発明の更なる他形態に係る透明部材破壊構造を備えた車両の内側から示す斜視図である。
図6B】本発明の更なる他形態に係る透明部材破壊構造の動作を車両の内側から示す斜視図である。
図7A】本発明の更なる他形態に係る透明部材破壊構造の動作を車両の内側から示す斜視図である。
図7B】本発明の更なる他形態に係る透明部材破壊構造の動作を車両の内側から示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る透明部材破壊構造15および車両10を図面に基づき詳細に説明する。以下の説明に於いては前後上下左右の各方向を用いるが、左右とは、車両10を後方から見た場合の左右である。更に、以下の説明では、同一の部材には原則的に同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。更に、以下の説明においては、右方が幅方向外側であり、左方が幅方向内側である。
【0014】
図1Aは、透明部材破壊構造15を備えた車両10を示す側面図である。
【0015】
車両10は、例えば、エンジン車、EV(Electric Vehicle)、HEV(Hybrid Electric Vehicle)やPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等である。
【0016】
車両10は、車体11を有する。車体11には、乗員が出入りするためのドアが取り付けられる。このドアの1つとして、車体11の右側面の前方側に取り付けられる前方ドア13が図示されている。前方ドア13の前方部分には、サイドミラー14が取り付けられる。
【0017】
更に、車両10には、水没等の緊急時において、後述するドアガラス171を破砕するための透明部材破壊構造15が取り付けられる。透明部材破壊構造15の詳細は、図2以降の図を参照して後述する。透明部材破壊構造15は、前方ドア13の内側面側に配設されるため、車両10の外観には現れない。
【0018】
図1Bは、透明部材破壊構造15を備えた車両10を示す拡大側面図である。
【0019】
開口12は、前方ドア13の上方部分に形成される。開口12は、視野を大きく確保すると共に、緊急時に乗員が脱出できる大きさとされる。
【0020】
透明部材16は、開口12を閉鎖する板状の透明部材である。透明部材16は、例えば、ガラス板、透明合成樹脂板、または、これらの複合板である。透明部材16は、第1透明部材17と、第2透明部材18と、を有する。
【0021】
第1透明部材17は、車体11の開口12に対して開閉可能に配設される板状部材である。第1透明部材17は、例えば、前方ドア13の開口12に対して上下方向にスライド可能に取り付けられたドアガラス171である。ドアガラス171は、上昇することにより開口12を塞ぎ、下降することにより開口12を開放する。ドアガラス171の昇降は、手動またはモータ駆動による。
【0022】
第2透明部材18は、第1透明部材17に隣接される板状部材である。第2透明部材18は、例えば、第1透明部材17の前方において、前方ドア13の開口12に固定された固定窓181である。固定窓181は、開口12の前端部分を塞ぐ略三角形の板材であることから、三角窓とも称される。
【0023】
ドアサッシュ23は、ドアガラス171と、固定窓181との間に配設される部材である。ドアサッシュ23は、上下方向に沿って細長く伸びる長尺部材である。ドアサッシュ23は、固定窓181の後方側辺を支持する。また、ドアサッシュ23は、ドアガラス171の前方側面をスライド可能に支持する。
【0024】
透明部材破壊構造15は、ドアガラス171の下方側に配置される。透明部材破壊構造15は、前方ドア13の幅方向内側に配置される。また、透明部材破壊構造15は、前方右側以外のドアにも配設できる。具体的には、前方左側のドア、後方右側のドア、後方左側のドア等に、透明部材破壊構造15を配設できる。このようにすることで、水没等の緊急時において、各座席に着座した乗員は、透明部材破壊構造15によりドアガラス171を破砕し、車外に即座に脱出できる。
【0025】
図2は、透明部材破壊構造15を備えた車両10を内側から示す図である。
【0026】
透明部材破壊構造15は、車両10の前方ドア13に配設され、透明部材16を破壊できるように構成される構造である。透明部材破壊構造15は、破壊構造部19を具備する。破壊構造部19は、開口12を閉鎖している状態のドアガラス171に対して、下側辺172の側から外力を付与する部材である。破壊構造部19によりドアガラス171を破壊する方法は、図4を参照して後述する。
【0027】
破壊構造部19は、前方ドア13の幅方向内側部分に配設される。破壊構造部19は、開口12を塞いでいる状態の、ドアガラス171の下側辺172よりも、下方側に配置される。ここでは、開口12を閉鎖している状態のドアガラス171の下側辺172を、点線で示す。破壊構造部19の具体構成は、図3等を参照して説明する。
【0028】
図3Aは、破壊構造部19である透明部材破壊構造15を備えた前方ドア13を、車室内部から示す側面図である。図3Aでは、ドアガラス171の下側辺172を点線で示す。ドアガラス171の下側辺172は、ガラス小口とも称される。
【0029】
図3Aを参照して、破壊構造部19は、前方ドア13に形成された孔部である挿入用開口部194を有する。挿入用開口部194は、開口12を閉鎖している状態の透明部材16の下側辺172よりも、下方側に配設される。
【0030】
挿入用開口部194は、第1挿入用開口部191と、第2挿入用開口部193と、を有する。第1挿入用開口部191および第2挿入用開口部193は、少なくとも部分的に、ドアガラス171の下側辺172よりも下方側に形成される。また、第1挿入用開口部191および第2挿入用開口部193は、車両幅方向に沿ってこれらを見た場合、少なくとも互いが部分的に重畳するように形成される。
【0031】
第1挿入用開口部191は、後述するインナパネル132に形成され、上下方向に沿う長手方向を有する長孔192である。第2挿入用開口部193は、後述するドアトリム133に形成された孔部である。
【0032】
図3Bは、破壊構造部19を備えた前方ドア13を示す断面図である。前方ドア13は、幅方向外側である右方側から、アウタパネル131、インナパネル132およびドアトリム133を有する。
【0033】
第1挿入用開口部191は、前述した様に、上下方向に沿って長細である長孔192とされる。第1挿入用開口部191の上端は、下側辺172の近傍とされる。即ち、第1挿入用開口部191の上端は、ドアガラス171と同程度の高さでも良いし、下側辺172よりも上方側に配置されても良い。このようにすることで、後述する破壊治具21の曲折部211を、第1挿入用開口部191に沿って下側辺172まで上昇させることができる。
【0034】
第2挿入用開口部193は、略円形に形成された孔部である。第1挿入用開口部191および第2挿入用開口部193を、車両幅方向に沿ってこれらを見た場合、第2挿入用開口部193は、第1挿入用開口部191の下端近傍に配設される。
【0035】
破壊治具21は、金属等から成る棒状部材である。破壊治具21の断面は、第1挿入用開口部191および第2挿入用開口部193の断面よりも小さくされる。このようにすることで、第1挿入用開口部191および第2挿入用開口部193に対して、破壊治具21を挿通できる。破壊治具21の先端部は、曲折する曲折部211とされる。後述するように、ドアガラス171を破壊する際には、曲折部211が下側辺172に当接する。破壊治具21は、破壊構造部19とは別に車両10に備えられて透明部材破壊構造15を構成しても良いし、乗員が有する棒状部材を破壊治具21として採用することもできる。
【0036】
図4Aおよび図4Bは、破壊構造部19によりドアガラス171を破壊する状況を逐次的に示す断面図である。
【0037】
前述した車両10が水没する等の緊急時においては、ドアガラス171に水圧が作用すること等により、ドアガラス171を下降させて開くことが困難になる。本実施形態では、破壊構造部19によりドアガラス171を破壊する。これにより、乗員は、図1に示した開口12を経由して、迅速に車外に脱出することができる。
【0038】
図4Aを参照して、ドアガラス171を破壊するに際し、先ず、乗員は、破壊治具21を挿入用開口部194に挿入する。前述した様に、挿入用開口部194は、第1挿入用開口部191および第2挿入用開口部193を有するため、破壊治具21の先端部は、第1挿入用開口部191および第2挿入用開口部193に挿通される。破壊治具21の左端部である曲折部211は、下側辺172の下方に配置される。
【0039】
図4Bを参照して、次に、乗員は、破壊治具21の左端部を下方に押し下げる。このようにすると、破壊治具21は、第2挿入用開口部193に挿入されている部分、具体的には第2挿入用開口部193の下端を支点として、回動する。即ち、第2挿入用開口部193よりも左方部分の破壊治具21は下方に変位し、第2挿入用開口部193よりも右方部分の破壊治具21は上方に変位する。また、第2挿入用開口部193よりも左方部分の破壊治具21は、第2挿入用開口部193よりも右方部分の破壊治具21よりも長い。よって、破壊治具21にはテコの作用が生じる。即ち、破壊治具21の左端部を乗員が押し下げると、曲折部211は、その数倍の力を下側辺172に加える。更に、第1挿入用開口部191は、前述したように長孔192であるため、曲折部211の上方への移動を、第1挿入用開口部191が阻害することはない。
【0040】
上記したように、ドアガラス171の下側辺172は脆弱な部位である。よって、ドアガラス171は、下側辺172の曲折部211が当接した部位からヒビが入って容易に破壊される。その後、乗員は、ドアガラス171が破砕された開口12から、車外に迅速に脱出できる。
【0041】
図5Aは、他形態に係る透明部材破壊構造15を備えた車両10を内側から示す図である。図5Bは、図5AのB-B切断面線における断面である。ここでは、前方ドア13に収納空間20が形成され、その他の構成は前述したものと同様である。
【0042】
図5Aおよび図5Bを参照して、収納空間20は、前方ドア13のドアトリム133を、幅方向外側である右方に向かって窪ませた部位である。収納空間20は、前後方向に細長く伸びる略直方体形状を呈する空間である。前述した第2挿入用開口部193は、収納空間20の右側面に形成される。
【0043】
蓋部22は、前方ドア13の内側面に取り付けられ、収納空間20を塞ぐ板状の部位である。蓋部22の右側面には、破壊治具21が取り付けられる。これにより、収納空間20に破壊治具21が収納される。よって、前後方向において、蓋部22および収納空間20は、破壊治具21よりも長くされる。平常時において、破壊治具21、収納空間20、第2挿入用開口部193等を蓋部22により隠すことで、前方ドア13の内側面の意匠性を向上できる。また、収納空間20に破壊治具21を収納することにより、非常時において乗員が破壊治具21を容易に発見できる。
【0044】
係る構成において、車両10の水没等の非常事態が発生した場合、蓋部22が収納空間20から取り外される。蓋部22の取り外しは、乗員の手動によるものでも良いし、演算制御部の指示を受けたアクチュエータによるものでも良い。その後、乗員は、破壊治具21を、蓋部22から取り外し、前方ドア13の第2挿入用開口部193に挿入し、ドアガラス171を破壊し、開口12から車外に脱出する。係る事項は、図4を参照して説明した通りである。
【0045】
図6Aないし図7Bを参照して、更なる他の形態に係る透明部材破壊構造15の構成および動作を説明する。ここでは、透明部材破壊構造15の破壊治具24として、リンク機構を備えたものを採用する。換言すると、ここでの破壊治具24は、曲折可能な構成を備えている。透明部材破壊構造15の他の形態は、上述したものと同様である。
【0046】
図6Aは、平常時においてドアに収納されている状態の、透明部材破壊構造15を構成する破壊治具24を示す斜視図である。
【0047】
破壊治具24は、当接部241と、操作部242と、回転中心軸243と、を有する。破壊治具24は、平常時においては前方ドア13の厚み部分に内蔵される。破壊治具24は、例えば鉄等の金属から成る部材である。
【0048】
当接部241は、上下方向に沿って略棒状に伸びる部材である。後述するように、当接部241は、非常時においてドアガラス171を破砕する際に、下側辺172に当接する部位である。
【0049】
操作部242は、当接部241と連続する部位であり、緊急時において乗員が押圧力を加える等の操作を行う部位である。平常時において、操作部242は、前方ドア13の厚み部分に収納される。操作部242は、操作固定部2421と、操作可動部2422と、曲折部2423と、を有する。
【0050】
操作固定部2421は、当接部241の上端部から連続する略棒状の部材である。操作固定部2421の長手方向は、当接部241の長手方向に対して略直交する。図6Aに示す収納状況では、操作固定部2421の長手方向は、左右後方に対して略平行である。当接部241と操作固定部2421との相対的な位置関係は、平常時においても緊急時においても変更されない。
【0051】
操作可動部2422は、操作固定部2421の後端と連続する略棒状の部材である。操作固定部2421と操作可動部2422とは、曲折部2423を介して連続する。曲折部2423は、例えば、操作固定部2421の後端と、操作可動部2422の前端とを、上下方向に沿って貫通するビス状の部材から成る。係る構成により、操作可動部2422は、操作固定部2421に対して、上下方向に伸びる回転軸である曲折部2423を回転中心として、回転可能とされる。
【0052】
回転中心軸243は、緊急時において破壊治具24が回転する際に回転中心となる軸である。回転中心軸243は、前後方向に沿って伸びる回転軸である。回転中心軸243において、破壊治具24は、前方ドア13に対して回転可能に備えられる。
【0053】
図6Bは、緊急時において利用できる状態とした破壊治具24を示す斜視図である。
【0054】
緊急時において、乗員の手による操作を行うことで、または、図示しないアクチュエータの動力により、曲折部2423を回転中心として操作可動部2422は回動する。これにより、操作固定部2421と操作可動部2422とは、操作部242として略直線状となる。この状態で、操作部242は、左右方向に対して略平行となり、前方ドア13の内面から車室側に向かって突出する。これにより、乗員は操作部242に対して力を加えやすくなる。また、曲折部2423は、上下方向に伸びる軸を回転中心として、操作可動部2422の回転動作を許容するのみである。よって、曲折部2423を起点として、操作可動部2422が下方に曲折することはない。
【0055】
図7Aおよび図7Bは、緊急時において、破壊治具24によりドアガラス171を破壊する状況を逐次的に示す斜視図である。
【0056】
図7Aを参照して、乗員が、その手により、操作部242の左方側端部を、上方から下方に向かって叩くように力を加える。
【0057】
図7Bを参照して、乗員が操作部242の左方側端部を下方に向かって叩くと、破壊治具24は回転する。具体的には、破壊治具24を前方から見た場合、破壊治具24は、回転中心軸243を回転中心として、時計回りに回転する。そのようにすると、当接部241は、ドアガラス171の下側辺172に下方から当接する。また、テコの原理により、当接部241は、操作部242に乗員が加えた力に比して、数倍程度の力を下側辺172に与える。これにより、当接部241が当接する部分の下側辺172から、ドアガラス171は破砕される。その後、乗員は、開口12から車外に脱出することができる。
【0058】
以下に、前述した本実施形態から把握できる技術的思想を、その効果と共に記載する。
【0059】
本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造は、車両に配設され、透明部材を破壊できるように構成された透明部材破壊構造であり、前記透明部材は、車体の開口を閉鎖するように配設され、前記開口を閉鎖している状態の前記透明部材の下側辺から、前記透明部材を破壊する外力を付与する破壊構造部を具備することを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、破壊機構により、透明部材に対して下側辺側から外力を加えることができる。よって、乗員は、車両水没時等において透明部材を容易に破壊することができ、車体の開口から車外に脱出できる。
【0060】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記破壊構造部は、前記開口を閉鎖している状態の前記透明部材の前記下側辺よりも、下方側に配設された挿入用開口部であることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、挿入用開口部を介して、透明部材の下側辺の下方側に破壊治具を挿入し、当該破壊治具により、透明部材に対して下側辺側から外力を加え、透明部材を容易に破壊できる。
【0061】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記開口は、前記車両のドアに形成され、前記ドアは、アウタパネルと、インナパネルと、ドアトリムと、を有し、前記破壊構造部は、前記インナパネルに形成された第1挿入用開口部と、前記ドアトリムに形成された第2挿入用開口部と、を有することを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、第1挿入用開口部および第2挿入用開口部を介して、透明部材の下側辺の下方側に破壊治具を挿入し、破壊治具により透明部材に対して下側辺側から外力を加え、透明部材を容易に破壊できる。
【0062】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記第1挿入用開口部は、上下方向に沿う長手方向を有する長孔であることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、第1挿入用開口部が上下方向に長手方向を有する長孔であることから、第1挿入用開口部および第2挿入用開口部から、透明部材の下方側に破壊治具を挿入し、第1挿入用開口部を支点として、破壊治具の挿入された部分を上方に動かすことができる。よって、テコの原理を用いて、破壊治具により透明部材を破壊できる。
【0063】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記開口は、前記車両のドアに形成され、前記ドアに収納空間を形成し、前記収納空間に、破壊治具を収納することを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、破壊治具を、透明部材の近傍に配置された収納空間に収納できるので、乗員は、緊急時において容易に破壊治具を収納空間から取り出し、破壊治具により透明部材を破壊できる。
【0064】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記破壊構造部は、前記開口を閉鎖している状態の前記透明部材の前記下側辺よりも下方に配設された挿入用開口部であり、前記挿入用開口部は、前記収納空間に形成されることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、収納空間に挿入用開口部が形成されるので、乗員は収納部から取り出した破壊治具を、挿入用開口部に容易に挿入できる。
【0065】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記破壊構造部は、破壊治具を有し、前記破壊治具は、当接部と、前記当接部と連続する操作部と、回転中心軸と、を有し、前記当接部は、前記回転中心軸を中心に回転することで、前記透明部材の前記下側辺に接触するように構成され、前記操作部は、曲折可能とされることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、操作可動部が操作固定部に対して曲折可能であることで、操作可動部が長尺部材であったとしても、通常時において操作可動部を曲折した状態でコンパクトに収納することができる。
【0066】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、前述した各形態は相互に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 車両
11 車体
12 開口
13 前方ドア
131 アウタパネル
132 インナパネル
133 ドアトリム
14 サイドミラー
15 透明部材破壊構造
16 透明部材
17 第1透明部材
171 ドアガラス
172 下側辺
18 第2透明部材
181 固定窓
19 破壊構造部
191 第1挿入用開口部
192 長孔
193 第2挿入用開口部
194 挿入用開口部
20 収納空間
21 破壊治具
211 曲折部
22 蓋部
23 ドアサッシュ
24 破壊治具
241 当接部
242 操作部
2421 操作固定部
2422 操作可動部
2423 曲折部
243 回転中心軸
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B