(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002451
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】透明部材破壊構造
(51)【国際特許分類】
B60R 21/00 20060101AFI20241226BHJP
B60J 1/17 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
B60R21/00 330
B60J1/17 Z
B60R21/00 310N
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102639
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】下池 昌弥
(72)【発明者】
【氏名】香川 亮太
【テーマコード(参考)】
3D127
【Fターム(参考)】
3D127AA07
3D127CB05
3D127CC05
(57)【要約】
【課題】運転時における乗員の視認性を確保しつつ、緊急時において乗員が確実に使用できる透明部材破壊構造を提供する。
【解決手段】透明部材破壊構造15は、透明部材16を破壊できるように構成された破壊構造部19を有する構造体である。透明部材16は、車体11の開口12に対して開閉可能に配設された第1透明部材17と、第1透明部材17に隣接された第2透明部材18と、を有する。破壊構造部19は、固定部20と、可動部21と、当接部22と、を有する。固定部20は、第2透明部材18の近傍に固定される。可動部21は、固定部20に対して移動可能に配設され、平常時においては第2透明部材18の近傍に配設され、緊急時においては第1透明部材17の近傍に配設さる。当接部22は、緊急時において第1透明部材17に接近するように、可動部21に備えられる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明部材を破壊できるように構成された破壊構造部を有する透明部材破壊構造であり、
前記透明部材は、車体の開口に対して開閉可能に配設された第1透明部材と、前記第1透明部材に隣接された第2透明部材と、を有し、
前記破壊構造部は、固定部と、可動部と、当接部と、を有し、
前記固定部は、前記第2透明部材の近傍に固定され、
前記可動部は、前記固定部に対して移動可能に配設され、平常時においては前記第2透明部材の近傍に配設され、緊急時においては前記第1透明部材の近傍に配設され、
前記当接部は、前記緊急時において前記第1透明部材に接近するように、前記可動部に備えられることを特徴とする透明部材破壊構造。
【請求項2】
前記可動部は、前記固定部に対してスライド可能とされ、
前記緊急時において、前記可動部を前記第1透明部材の側にスライドさせることで、前記当接部を前記第1透明部材に接近させることを特徴とする請求項1に記載の透明部材破壊構造。
【請求項3】
前記車体の前記開口は、前方ドアに設けられたものであり、
前記第1透明部材は、前記前方ドアの前記開口に対して上下方向にスライド可能に取り付けられたドアガラスであり、
前記第2透明部材は、前記第1透明部材の前方において前記前方ドアに固定された固定窓であることを特徴とする請求項1に記載の透明部材破壊構造。
【請求項4】
前記可動部は、前記固定部に対して着脱可能とされることを特徴とする請求項1に記載の透明部材破壊構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明部材破壊構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が水没する等の緊急時においては、ドアの開口から脱出する必要性が生じることがあり得る。係る場合、ドアの開口を閉鎖するドアガラスは、水圧や電装品の不具合等により、開閉できないことも考えられる。よって、緊急時において、ドアの開口から脱出する場合、ドアガラスを破壊する必要がある。ドアガラスを破壊する機構を車両に備える事項が、以下の特許文献に記載されている。
【0003】
引用文献1では、ウインドウガラス手動破壊装置が記載されている。ここでは、緊急時に迅速に車外へ脱出できるように、ウィンドウガラス破壊装置は車体に組み込まれる。またウィンドウガラス破壊装置は、弾性体を用いた人力により、ウィンドウガラスを破壊できる。この仕組みにより、力が弱い人でも、ウィンドウガラスを破壊できる。
【0004】
引用文献2では、特別な工具を使わずに車両ガラスを破壊できる車両脱出装置が記載されている。車両脱出装置は、衝撃部材ピンと、ピンをガラスに向かって破壊位置まで移動させるレバーと、を備えている。ピンはドアガラスを破壊しやすい形状であり、レバーは緊急時に手前に引くことでピンをストロークさせ、ガラスを破壊する。これにより、車両ガラスを破壊し、安全かつ迅速に脱出が可能となる。
【0005】
引用文献3に記載された発明では、窓ガラス破壊装置を自動車や建築物に取り付けることができる。窓ガラス破壊装置では、破壊ヘッドが窓ガラスに衝突する際、操作者の手は遠ざかっているため、破片による怪我を防止できる。窓ガラス破壊装置は、固定または組込み式で、緊急脱出が必要な場合に、迅速に窓ガラスを破壊できる。これにより、収納時に窓ガラス面への突出物がないため、視界を遮らず、自動車のドア部以外にもフロントガラスや後部ガラスに取り付けが可能である。
【0006】
引用文献4では、インナーミラーの支持構造でフロントウィンドウを破壊する破壊構造が記載されている。この破壊構造において、本体部をルーフに取り付ける支持部は、フロントウインドウに対して凸状に屈曲した屈曲部を有していると共に、回転軸によって車両前後方向に回動可能とされる。屈曲部の車両前後方向の前側には、フロントウインドウに向かって凸状の鋲が設けられている。乗員は、インナーミラーを回動させることによりフロントウインドウに鋲を突き当て、フロントウインドウを破壊することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-352214号公報
【特許文献2】特開平08-164809号公報
【特許文献3】特開平11-188660号公報
【特許文献4】特開2017-071244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述した各特許文献に記載された発明では、緊急時における安全性の観点から改善の余地があった。
【0009】
具体的には、車両が水没するなどの緊急時においては、車両に搭乗する乗員は混乱状態である場合が多い。よって、ウィンドウを破壊する破壊装置が、車内に装備されていたとしても、破壊装置が認識容易な箇所になければ、緊急時において破壊装置を乗員が発見できない課題がある。
【0010】
一方、破壊装置の視認性を向上させるために、ウィンドウガラスと重畳する箇所に破壊装置を配置すると、通常走行時における運転者等の視認性を、破壊装置が低下させる恐れがある。
【0011】
本発明は、このような問題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、運転時における乗員の視認性を確保しつつ、緊急時において乗員が確実に使用できる透明部材破壊構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造は、透明部材を破壊できるように構成された破壊構造部を有する透明部材破壊構造であり、前記透明部材は、車体の開口に対して開閉可能に配設された第1透明部材と、前記第1透明部材に隣接された第2透明部材と、を有し、前記破壊構造部は、固定部と、可動部と、当接部と、を有し、前記固定部は、前記第2透明部材の近傍に固定され、前記可動部は、前記固定部に対して移動可能に配設され、平常時においては前記第2透明部材の近傍に配設され、緊急時においては前記第1透明部材の近傍に配設され、前記当接部は、前記緊急時において前記第1透明部材に接近するように、前記可動部に備えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造によれば、平常時においては、可動部が第2透明部材の近傍に配設されることにより、可動部が乗員の視野を制限することが無い。緊急時においては、可動部を第1透明部材の側に移動させることで、当接部を第1透明部材に接近させることができる。よって、緊急時においては、例えば、乗員が可動部を叩くことにより当接部が第1透明部材に当たり、これにより第1透明部材を破砕でき、乗員は車体の開口から車外に脱出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明の実施形態に係る破壊構造部を備えた車両を示す側面図である。
【
図1B】本発明の実施形態に係る破壊構造部を備えた車両を示す拡大側面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る破壊構造部が車両に備えられる構成を示す図である。
【
図3A】本発明の実施形態に係る破壊構造部を示す斜視図である。
【
図3B】本発明の実施形態に係る破壊構造部を示す側面図である。
【
図3C】本発明の実施形態に係る破壊構造部を示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る破壊構造部を示す斜視図である。
【
図5A】本発明の実施形態に係る破壊構造部の平常時における状態を示す図である。
【
図5B】本発明の実施形態に係る破壊構造部の緊急時における状態を示す図である。
【
図6A】本発明の他形態に係る破壊構造部の平常時における状態を示す断面図である。
【
図6B】本発明の他形態に係る破壊構造部の緊急時における状態を示す断面図である。
【
図6C】本発明の他形態に係る破壊構造部の緊急時における状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係る破壊構造部19および車両10を図面に基づき詳細に説明する。以下の説明に於いては前後上下左右の各方向を用いるが、左右とは車両10を後方から見た場合の左右である。更に、以下の説明では、同一の部材には原則的に同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0016】
本実施形態において、平常時とは、乗員が平常心をもって車両10を運転または停車できる状況である。一方、緊急時とは、例えば、車両10が水没等した状態であり、乗員が車両10から車外に脱出するべき状態である。
【0017】
図1Aは、後述する破壊構造部19を備えた車両10を示す側面図である。
【0018】
車両10は、例えば、エンジン車、EV(Electric Vehicle)、HEV(Hybrid Electric Vehicle)やPHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等である。
【0019】
車両10は、車体11を有する。車体11には、乗員が出入りするためのドアが取り付けられる。このドアの1つとして、車体11の右側面の前方側に取り付けられる前方ドア13が図示されている。前方ドア13の前方にはサイドミラー14が取り付けられる。
【0020】
車両10には、後述する透明部材破壊構造15が取り付けられる。透明部材破壊構造15の詳細は、
図2以降の図を参照して後述する。
【0021】
図1Bは、破壊構造部19を備えた車両10を示す拡大側面図である。
【0022】
開口12は、前方ドア13の上方部分に形成される。開口12は、平常時において視野を大きく確保すると共に、緊急時において乗員が脱出できる大きさとされる。
【0023】
透明部材16は、開口12を閉鎖する板状部材である。透明部材16は、例えば、ガラス板、透明合成樹脂板、または、これらの複合板である。透明部材16は、第1透明部材17と、第2透明部材18と、を有する。
【0024】
第1透明部材17は車体11の開口12に対して開閉可能に配設される。第1透明部材17は、例えば、前方ドア13の開口12に対して、上下方向にスライド可能に取り付けられたドアガラス171である。ドアガラス171は、上昇することにより開口12を塞ぎ、下降することにより開口12を開放する。ドアガラス171の昇降は、手動またはモータ駆動による。
【0025】
第2透明部材18は、第1透明部材17に隣接される。第2透明部材18は、例えば、第1透明部材17の前方において前方ドア13に固定された固定窓181である。固定窓181は、開口12の前端部分を塞ぐ略三角形の板材であることから、三角窓とも称される。
【0026】
ドアサッシュ23は、ドアガラス171と、固定窓181との間に配設される。ドアサッシュ23は、上下方向に沿って細長く伸びる長尺部材である。ドアサッシュ23は、固定窓181の後方側辺を支持する。また、ドアサッシュ23は、ドアガラス171の前方側辺をスライド可能に支持する。
【0027】
透明部材破壊構造15は、開口12の前端近傍に配設される。透明部材破壊構造15の詳細は
図2等を参照して後述する。
【0028】
図2は、破壊構造部19が車両10に備えられる構成を示す図である。
【0029】
破壊構造部19は、前方ドア13に備えられる。透明部材破壊構造15は、緊急時において乗員が車外に脱出するべく、透明部材16を破壊するための構造である。透明部材破壊構造15は、前方ドア13のドアトリム上面に固定される。具体的には、透明部材破壊構造15の後述する固定部20の下面が、前方ドア13のドアトリム上面に固定される。
【0030】
本実施形態では、車両10として、右方側にステアリングホイールが取り付けられる右ハンドル車を例示する。よって、透明部材破壊構造15も、緊急時において運転者が車外に脱出するために、右側の前方ドア13に取り付けられる。ここで、車両10が、左方側にステアリングホイールが取り付けられる左ハンドル車である場合は、左側の前方ドアに、透明部材破壊構造15が取り付けられる。更にまた、透明部材破壊構造15は、前方ドア13以外のドア、例えば、後方右側ドア、後方左側ドアの何れかまたは複数に取り付けることもできる。
【0031】
図3Aは、透明部材破壊構造15の破壊構造部19を示す斜視図である。
図3Bは、破壊構造部19を示す側面図である。
図3Cは、破壊構造部19を示す断面図であり、
図3BのA-A切断面線における断面である。
図3Aないし
図3Cでは、平常時における透明部材破壊構造15を示す。
【0032】
前述した透明部材破壊構造15は、破壊構造部19を有する。破壊構造部19は、緊急時において透明部材16を破壊できるように構成される。
【0033】
図3Aを参照して、破壊構造部19は、固定部20と、可動部21と、当接部22と、を有する。固定部20は、可動部21の内部に配置されるため、
図3Aでは、固定部20は現れない。可動部21の右側面は、前述した透明部材16に対して略平行である。
【0034】
図3Bおよび
図3Cを参照して、可動部21の右側面には、当接部22が固定される。当接部22は、右方に向かって突起する、鋭利且つ高硬度な部材である。後述するように、当接部22は、緊急時において第1透明部材17に接近するように、可動部21に備えられる。緊急時においては、当接部22の右端が、前述したドアガラス171に当接することで、ドアガラス171が破壊される。係る事項は、
図5Bを参照して後述する。
【0035】
図4は、破壊構造部19を示す斜視図である。
図4では、固定部20および当接部22を点線で示し、可動部21を実線で示す。
図4では、緊急時における破壊構造部19を示す。
【0036】
可動部21は、固定部20を上方左側から覆うような構成を有している。可動部21は、固定部20に対して変位可能とされる。固定部20と、可動部21との間には、ここでは図示しないスライド機構が介装されている。当該スライド機構は、例えば、スライド壁とスライド溝とからなる機構である。
【0037】
前述した様に、固定部20の下面は前方ドア13の内装部位に固定されている。よって、非常時において乗員が可動部21を後方に引っ張ると、可動部21は後方に向かってスライド移動する。同時に、可動部21の右側面に固定されている当接部22も、後方に向かってスライド移動する。
【0038】
図5Aは、平常時における破壊構造部19の状態を示す図である。
図5Aは、前方右側に配置された座席に着座した運転者の視点で、破壊構造部19等を示す。
【0039】
前述した様に、破壊構造部19の固定部20は、固定窓181の近傍に固定される。具体的には、固定部20は、ドアサッシュ23よりも前方側に配置される。よって、固定部20と重なる可動部21も、平常時においては固定窓181の近傍、即ち、ドアサッシュ23の前方側に配設される。このようにすることで、破壊構造部19がドアガラス171と重畳しないことから、運転時におけるドアガラス171を透過した視界を、破壊構造部19が阻害することがない。特に、ドアガラス171の前部外側は、サイドミラー14を確認するために頻繁に注視される。破壊構造部19は、サイドミラー14と乗員との間に配設されない。よって、サイドミラー14を確認する視界が、破壊構造部19により阻害されることは無い。
【0040】
図5Bは、緊急時における破壊構造部19の状態を示す図である。
図5Bは、前方右側に配置された座席に着座した運転者の視点で、破壊構造部19等を示す。
【0041】
緊急時において、可動部21を第1透明部材17の側にスライドさせると、当接部22は、ドアガラス171の近傍、即ちドアガラス171と重畳する位置に移動する。可動部21のスライドは、人がその手により可動部21を後方に引き出すものでも良い。また、可動部21のスライドは、モータ等のアクチュエータによるものでも良い。アクチュエータによる場合は、車両10に備えられた衝撃センサ等のセンサの出力を受けたCPU等の演算制御部の指示に基づき、アクチュエータが作動する。
【0042】
緊急時においては、可動部21と共に当接部22も、ドアガラス171と重畳する位置に移動する。この構成において、可動部21は、幅方向外側に向かって変位できるように構成される。よって、乗員がその手で可動部21を外側に向かって叩くと、可動部21に押された当接部22の先端部が、ドアガラス171の内面に当接する。更に、乗員が可動部21を叩き続けると、その回数に応じて当接部22がドアガラス171の内面の同一箇所に当接し続ける。このようにすることで、ドアガラス171を破砕することができる。
【0043】
ドアガラス171が破砕すれば、
図1Bに示した前方ドア13の開口12から、乗員は車外に脱出できる。
【0044】
図6A等を参照して、他形態に係る透明部材破壊構造15の構造および動作を説明する。
図6Aは、平常時における透明部材破壊構造15の破壊構造部19を示す断面図である。
図6Bおよび
図6Cは、他形態に係る破壊構造部19の緊急時における動作を示す断面図である。
図6A等の断面図は、
図3Bに示した断面に対応する。ここでは、透明部材破壊構造15の可動部21は、着脱可能とされる。
【0045】
図6Aを参照して、破壊構造部19は可動部21を有する。可動部21の右側面には、当接部22、第1クリップ24および第2クリップ25が配設されている。第1クリップ24および第2クリップ25が係合する構造が、前述した固定部として機能する。当接部22、第1クリップ24および第2クリップ25は、可動部21の右側の側面から、右方に向かって突出するように構成される。可動部21は、射出成形された合成樹脂等から成る部材である。
【0046】
当接部22は、その大部分が可動部21に埋め込まれ、その鋭利な先端部が、可動部21の右側面から右方に向かって突出する。当接部22の突出部は、固定窓181の左側面を部分的に窪ませた収納部26に収納される。よって、当接部22の右方側先端部は、固定窓181の左側面には接しない。
【0047】
第1クリップ24および第2クリップ25の右方側部分は、固定窓181の左方側面に係合される。第1クリップ24および第2クリップ25の左方側部分は、可動部21に固定される。第1クリップ24および第2クリップ25の係合は、車両10の運転等に起因した振動等によっては解かれることはない。一方、第1クリップ24および第2クリップ25の係合は、緊急時における乗員の操作によっては解くことができる程度とされる。
【0048】
前後方向において、可動部21の前端と第2クリップ25との距離L10は、可動部21の後端部と第1クリップ24との距離L11よりも長くされる。このようにすることで、後述するように、緊急時において、可動部21の後方への突出量を大きくすることができる。よって、可動部21の後端近傍に配設された当接部22を、ドアガラス171に確実に接近させることができる。
【0049】
ここで、第1クリップ24および第2クリップ25に替えて、ネジ締結または金属ピン等を採用することもできる。
【0050】
図6Bを参照して、車両が水没する等の緊急時において、乗員がその手により破壊構造部19を左方に向かって引き抜く。これにより、第1クリップ24および第2クリップ25と、第1取付部27および第2取付部28との係合を解き、破壊構造部19を固定窓181から引き抜くことができる。
【0051】
図6Cを参照して、乗員がその手による操作により、破壊構造部19を再び固定窓181に取り付ける。その際、可動部21の前後方向を逆とし、第1クリップ24を第2取付部28に係合させ、第2クリップ25を第1取付部27に係合させる。これにより、当接部22の先端部は、ドアサッシュ23よりも後方側に配置され、ドアガラス171の左側面に接触する。または、当接部22の先端部は、ドアガラス171の左側面に接近する。
【0052】
この状態で、乗員がその手により、可動部21の左側面を右方に向かって叩くと、当接部22の右方先端部が、ドアガラス171の左側面に強く押し付けられる。また、乗員が可動部21を複数回叩くと、当接部22の先端部がドアガラス171の同一箇所を複数回に渡り叩くことになる。これにより、当接部22とドアガラス171との接触点を起点として、ドアガラス171を確実に破砕することができ、乗員は車外に脱出できる。
【0053】
以下に、前述した本実施形態から把握できる技術的思想を、その効果と共に記載する。
【0054】
本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造は、透明部材を破壊できるように構成された破壊構造部を有する透明部材破壊構造であり、前記透明部材は、車体の開口に対して開閉可能に配設された第1透明部材と、前記第1透明部材に隣接された第2透明部材と、を有し、前記破壊構造部は、固定部と、可動部と、当接部と、を有し、前記固定部は、前記第2透明部材の近傍に固定され、前記可動部は、前記固定部に対して移動可能に配設され、平常時においては前記第2透明部材の近傍に配設され、緊急時においては前記第1透明部材の近傍に配設され、前記当接部は、前記緊急時において前記第1透明部材に接近するように、前記可動部に備えられることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、平常時においては、可動部が第2透明部材の近傍に配設されることにより、可動部が乗員の視野を制限することが無い。緊急時においては、可動部を第1透明部材の側に移動させることで、当接部を第1透明部材に接近させることができる。よって、緊急時においては、例えば、乗員が可動部を叩くことにより当接部が第1透明部材に当接し、これにより第1透明部材を破壊でき、乗員は車体の開口から車外に脱出できる。
【0055】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記可動部は、前記固定部に対してスライド可能とされ、前記緊急時において、前記可動部を前記第1透明部材の側にスライドさせることで、前記当接部を前記第1透明部材に接近させることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、スライドさせる簡易な動作により、可動部を第1透明部材の側に移動させ、当接部を第1透明部材に接近させることができる。
【0056】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記車体の前記開口は、前方ドアに設けられたものであり、前記第1透明部材は、前記前方ドアの前記開口に対して上下方向にスライド可能に取り付けられたドアガラスであり、前記第2透明部材は、前記第1透明部材の前方において前記前方ドアに固定された固定窓であることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、平常時においては、可動部が固定窓の近傍に配設されることにより、可動部が乗員の視野を制限することが無い。更に、可動部がドアガラスの移動を阻害することは無い。緊急時においては、可動部をドアガラスの側に移動させることで当接部をドアガラスに接近させる。よって、緊急時においては、例えば、乗員が可動部を叩くことにより当接部がドアガラスに当接し、これによりドアガラスを破壊でき、乗員はドアの開口から車外に脱出できる。
【0057】
また、本発明の一実施形態に係る透明部材破壊構造では、前記可動部は、前記固定部に対して着脱可能とされることを特徴とする。本発明の透明部材破壊構造によれば、緊急時において可動部を着脱することで、当接部を第1透明部材の側に配置することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更が可能である。また、前述した各形態は相互に組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 車両
11 車体
12 開口
13 前方ドア
14 サイドミラー
15 透明部材破壊構造
16 透明部材
17 第1透明部材
171 ドアガラス
18 第2透明部材
181 固定窓
19 破壊構造部
20 固定部
21 可動部
22 当接部
23 ドアサッシュ
24 第1クリップ
25 第2クリップ
26 収納部
27 第1取付部
28 第2取付部