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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024520
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】乳化用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/10 20160101AFI20250213BHJP
   A23D 7/005 20060101ALI20250213BHJP
   A23J 3/20 20060101ALI20250213BHJP
【FI】
A23L29/10
A23D7/005
A23J3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128689
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000210067
【氏名又は名称】池田食研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 直樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 優一
【テーマコード(参考)】
4B026
4B035
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC06
4B026DL03
4B026DL04
4B026DL09
4B026DX04
4B026DX08
4B035LC01
4B035LC16
4B035LE01
4B035LG12
4B035LG15
4B035LG17
4B035LG50
4B035LG54
4B035LK13
4B035LP21
4B035LP24
4B035LP56
(57)【要約】
【課題】 本発明は、植物性タンパク質加水分解物由来の不快な風味がなく、かつ乳化安定性の高い乳化物を調製できる乳化用組成物、乳化安定性の高い水中油型乳化物及びその製造方法、乳化粉末等を提供することを課題とする。
【解決手段】 酵母タンパク質加水分解物が乳化剤として使用できることを見出し、本発明を完成した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母タンパク質加水分解物を有効成分とする、乳化用組成物。
【請求項2】
油脂100重量%に対して酵母タンパク質加水分解物として5~70重量%配合させることで乳化力を有する、請求項1記載の乳化用組成物。
【請求項3】
酵母タンパク質加水分解物中の不溶性ペプチドが20重量%未満である、請求項1又は2記載の乳化用組成物。
【請求項4】
酵母タンパク質加水分解物、油脂及び水を配合して乳化処理する水中油型乳化物の製造方法であって、油脂100重量%に対して酵母タンパク質加水分解物を5~70重量%配合する、水中油型乳化物の製造方法。
【請求項5】
酵母タンパク質加水分解物中の不溶性ペプチドが20重量%未満である、請求項4記載の水中油型乳化物の製造方法。
【請求項6】
酸でpH5.0~8.0に調整する工程を含む、請求項4又は5記載の水中油型乳化物の製造方法。
【請求項7】
酵母タンパク質加水分解物、油脂及び水を含む水中油型乳化物であって、油脂100重量%に対して酵母タンパク質加水分解物を5~70重量%含む、水中油型乳化物。
【請求項8】
酵母タンパク質加水分解物中の不溶性ペプチドが20重量%未満である、請求項7記載の水中油型乳化物。
【請求項9】
水中油型乳化物のpHが5.0~8.0である、請求項7又は8記載の水中油型乳化物。
【請求項10】
請求項7又は8記載の水中油型乳化物を噴霧乾燥してなる乳化粉末。
【請求項11】
乳化粉末を100重量%とした場合に、酵母タンパク質加水分解物を2~40重量%に、油脂を5~80重量%、糖質を5~90重量%含む、請求項10記載の乳化粉末。
【請求項12】
請求項10記載の乳化粉末を含む飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳化用組成物、水中油型乳化物及び乳化粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
植物性タンパク質は、動物性タンパク質の代替品として利用が進んでいるが、植物性タンパク質特有の不快な風味が問題となっている。
【0003】
特許文献1には、植物性タンパク質加水分解物を含む乳化物にポリフェノールを含有させることでタンパク質加水分解物由来の不快な風味が抑えられ、風味が改善された水中油型乳化物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-51627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、植物性タンパク質加水分解物由来の不快な風味がなく、かつ乳化安定性の高い乳化物を調製できる乳化用組成物、乳化安定性の高い水中油型乳化物及びその製造方法、乳化粉末等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、酵母タンパク質加水分解物が乳化剤として使用できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]の態様に関する。
[1]酵母タンパク質加水分解物を有効成分とする、乳化用組成物。
[2]油脂100重量%に対して酵母タンパク質加水分解物として5~70重量%配合させることで乳化力を有する、[1]記載の乳化用組成物。
[3]酵母タンパク質加水分解物中の不溶性ペプチドが20重量%未満である、[1]又は[2]記載の乳化用組成物。
[4]酵母タンパク質加水分解物、油脂及び水を配合して乳化処理する水中油型乳化物の製造方法であって、油脂100重量%に対して酵母タンパク質加水分解物を5~70重量%配合する、水中油型乳化物の製造方法。
[5]酵母タンパク質加水分解物中の不溶性ペプチドが20重量%未満である、[4]記載の水中油型乳化物の製造方法。
[6]酸でpH5.0~8.0に調整する工程を含む、[4]又は[5]記載の水中油型乳化物の製造方法。
[7]酵母タンパク質加水分解物、油脂及び水を含む水中油型乳化物であって、油脂100重量%に対して酵母タンパク質加水分解物を5~70重量%含む、水中油型乳化物。
[8]酵母タンパク質加水分解物中の不溶性ペプチドが20重量%未満である、[7]記載の水中油型乳化物。
[9]水中油型乳化物のpHが5.0~8.0である、[7]又は[8]記載の水中油型乳化物。
[10][7]~[9]の何れかに記載の水中油型乳化物を噴霧乾燥してなる乳化粉末。
[11]乳化粉末を100重量%とした場合に、酵母タンパク質加水分解物を2~40重量%に、油脂を5~80重量%、糖質を5~90重量%含む、[10]記載の乳化粉末。
[12][10]又は[11]記載の乳化粉末を含む飲食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、植物性タンパク質加水分解物由来の不快な風味が抑えられ、乳化物全体の風味が改善された水中油型乳化物及び乳化粉末を提供することができ、風味が改善されることで、乳アレルギーフリーやアニマルフリーの乳化物として、広く利用することが可能となった。また、乳化安定性の高い乳化物を調製できる乳化用組成物、乳化安定性の高い水中油型乳化物及び乳化粉末の提供が可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の乳化用組成物は、酵母タンパク質加水分解物を有効成分とする乳化用組成物であって、該酵母タンパク質加水分解物、油脂及び水を配合し、油脂100重量%に対して酵母タンパク質加水分解物を5~70重量%配合して乳化処理する製造方法により、本発明の水中油型乳化物が得られる。さらに、該水中油型乳化物を噴霧乾燥することで、本発明の乳化粉末が得られる。
【0010】
本発明に記載の酵母タンパク質加水分解物は、酵母タンパク質を、アルカリ処理、酸処理、酵素処理等により加水分解したタンパク質加水分解物であればよく、アルカリ加水分解処理したタンパク質加水分解物が好ましく、アルカリ処理は、酵母タンパク質1重量部に対して例えば2~100重量部、好ましくは3~50重量部、より好ましくは4~30重量部の水を加えた酵母タンパク質含有液に、塩基として、例えば水酸化ナトリウム、重曹、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等から選ばれる少なくとも一種を、酵母タンパク質100重量部に対して好ましくは1~40重量部、より好ましくは2~30重量部、さらに好ましくは3~20重量部配合し、例えばpH9.0~13.0、好ましくはpH9.5~12.5の条件下で、例えば60~140℃、好ましくは80~130℃、より好ましくは90~125℃で、例えば10分~4時間、好ましくは20分~3時間加熱することで、酵母タンパク質加水分解物含有液が得られ、該溶液中に酵母タンパク質がアルカリ加水分解された酵母タンパク質加水分解物を含む。尚、該溶液中の酵母タンパク質加水分解物と水又は塩基との比率は、原料とした酵母タンパク質と水又は塩基との比率と同じである。該溶液を乾燥させることで、粉末状の酵母タンパク質加水分解物としてもよい。また、加水分解前の酵母タンパク質含有液中は、可溶性成分がほとんどないが、アルカリ加水分解することで可溶化されるため、酵母タンパク質加水分解物中の不溶性ペプチドは20重量%未満が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましく、原料とした酵母タンパク質を100重量%とした場合に、アルカリ処理後の酵母タンパク質加水分解物は好ましくは20重量%未満が不溶性ペプチド、好ましくは80重量%以上が可溶性ペプチドであることを意味する。該酵母タンパク質加水分解物は、乳化作用を有しており、乳化用組成物として利用することができ、酵母タンパク質加水分解物を、油脂100重量%に対して好ましくは5~70重量%、より好ましくは8~60重量%、さらに好ましくは10~50重量%配合させることで、高い乳化効果が得られ、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤を含まなくても、添加する油脂について乳化安定性が高い水中油型乳化物を製造することができる。酵母タンパク質を、加水分解処理したタンパク質加水分解物とすることで、適度な長さのペプチドになり、それにより乳化力に優れた乳化用組成物とすることができるが、アミノ酸まで分解されると、乳化力が弱くなり、不適である。
【0011】
本発明の水中油型乳化物は、酵母タンパク質加水分解物、油脂及び水を配合して乳化処理することで製造できる。乳化処理時及び得られる水中油型乳化物のpHは5.0~8.0程度、好ましくはpH5.5~7.5であり、油脂と混合する水相のpHを、油脂添加前に前記pHに、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、ギ酸、酢酸、塩酸等の酸で調整するのが好ましい。乳化処理は、酵母タンパク質加水分解物、油脂及び水を混合すればよく、例えば、酵母タンパク質加水分解物を含む水相に油脂を含む油相を添加、混合し、均質化すればよく、加熱してもよく、一般的な乳化方法で行うことができる。詳細には、乳化装置を用いて行うことができ、高圧ホモジナイザー、コロイドミル、超音波乳化機、ホモミキサー、ホモディスパー等を例示でき、二種類以上の装置を組み合わせてもよい。乳化処理して得られる水中油型乳化物を100重量%とした場合に、酵母タンパク質加水分解物を0.5~30重量%含むのが好ましく、1.0~20重量%含むのがより好ましく、2.0~15重量%含むのがさらに好ましく、また、油脂を1.0~60重量%含むのが好ましく、2.0~50重量%含むのがより好ましく、5.0~40重量%含むのがさらに好ましく、また、水を10~95重量%含むのが好ましく、15~90重量%含むのがより好ましく、20~85重量%含むのがさらに好ましく、また、さらに糖質を含ませてもよく、1.0~70重量%含むのが好ましく、2.0~60重量%含むのがより好ましく、5.0~50重量%含むのがさらに好ましい。
【0012】
本発明の乳化粉末は、前記水中油型乳化物を、乾燥することによって得ることができ、糖質を含む水中油型乳化物を乾燥するのが好ましい。乾燥は、本発明の乳化粉末が得られれば特に限定されないが、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、フリーズドライヤー等による乾燥が例示でき、スプレードライヤーによる噴霧乾燥が好ましい。乳化粉末を100重量%とした場合に、酵母タンパク質加水分解物を2~40重量%含むのが好ましく、3~30重量%含むのがより好ましく、4~20重量%含むのがさらに好ましく、また、油脂を5~80重量%含むのが好ましく、10~75重量%含むのがより好ましく、15~70重量%含むのがさらに好ましく、また糖質を5~90重量%含むのが好ましく、10~80重量%含むのがより好ましく、15~75重量%含むのがさらに好ましい。乳化粉末の表面オイルは、乳化が壊れていなければ特に限定されないが、評価試験3の方法で粉化直後の乳化粉末を測定した際に、好ましくは3重量%以下、より好ましくは2.5重量%以下、さらに好ましくは2.0重量%以下である。
【0013】
本発明に記載の油脂は、食用であれば特に限定されず、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、ナタネ油、ヒマワリ油、トウモロコシ油、オリーブ油、ゴマ油、米ぬか油、サフラワー油、綿実油、落花生油、アマニ油、エゴマ油、ブドウ種子油、シソ油、藻類油等の植物性油脂、魚油、豚脂、鶏油、牛脂、乳脂等の動物性油脂及びこれらの加工油脂(硬化、分別、エステル交換等)が例示でき、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
本発明に記載の糖質は、乳糖、トレハロース等の二糖類、還元水あめ、マルチトール等の糖アルコール、アラビアガム、キサンタンガム等の増粘多糖類、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ等の澱粉、加工澱粉、水あめ、デキストリン等が例示でき、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。糖質の含有量は、油脂100重量%に対して10~400重量%が好ましく、20~350重量%がより好ましく、30~300重量%がさらに好ましい。
【0015】
本発明の水中油型乳化物及び乳化粉末は、上記のとおり、酵母タンパク質加水分解物を乳化用組成物として使用することで、乳化物中の不快臭、特に植物タンパク質加水分解物を使用しないことで、植物性タンパク質由来の不快な臭いを抑えることができ、かつ乳化安定性に優れているため、飲料、食品、調味料、機能性食品、サプリメント等の各種飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料等に幅広く利用でき、乳化粉末を粉末クリームとしても利用できる。前記製品中の含有量は特に限定されないが、好ましくは0.01~100%、より好ましくは0.1~80%、さらに好ましくは0.5~60%である。
【実施例0016】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。尚、本発明において、%は別記がない限り全て重量%である。
【0017】
[実施例1]
水道水各250gに、酵母タンパク質(Nutritional Yeast(酵母プロテイン)、タンパク質80%、株式会社中原)25g及び48%水酸化ナトリウム水溶液4.2gを加えて、90℃、30分間(実施例1-1)、70℃、240分間(実施例1-2)又は121℃、30分間(実施例1-3)の加熱処理を行った後、50%クエン酸水溶液を5g(実施例1-1)、4.5g(実施例1-2)又は3.8g(実施例1-3)加え、各々pH7.2に調整し、各酵母タンパク質加水分解物含有液を調製した。次いで、油脂であるサフラワーサラダ油100gを加え、高圧ホモジナイザーを用いて各々乳化処理(40MPa)することで、実施品1-1~1-3の各水中油型乳化物を調製した。酵母タンパク質加水分解物含有液と油脂の配合割合を表1に示し、また、酵母タンパク質加水分解物含有液の原料について、乳化物中の割合として括弧内に示した。
【0018】
[比較例1]
水道水250gに、酵母タンパク質(Nutritional Yeast、タンパク質80%)25gを加えて、90℃、30分間の加熱処理を行い、酵母タンパク質含有液を調製した。次いで、油脂であるサフラワーサラダ油100gを加え、高圧ホモジナイザーを用いて乳化処理(40MPa)することで、比較品1の水中油型乳化物を調製した。酵母タンパク質含有液と油脂の配合割合を表1に示し、また、酵母タンパク質含有液の原料について、乳化物中の割合として括弧内に示した。尚、原料の酵母タンパク質は、乳化物中では酵母タンパク質加水分解物として含まれている。
【0019】
[評価試験1]
実施品1-1~1-3及び比較品1について、固形分あたりの表面オイル量を測定した。各サンプル10gにへキサン50mLを加え、25℃、15分間、200rpmで振盪撹拌した後、ヘキサン層を回収し、さらにヘキサン25mLで洗浄した。続いて、エバポレーターでヘキサンを除去し、得られた油脂の重量を測定し、固形分あたりの表面オイルとして表1に示した。
【0020】
[評価試験2]
実施例1-3の酵母タンパク質加水分解物含有液中の不溶性成分(不溶性ペプチド)及び比較例1の酵母タンパク質含有液中の不溶性成分(不溶性タンパク質)について測定した。実施例1-3の酵母タンパク質加水分解物含有液及び比較例1の酵母タンパク質含有液を調製し、遠心後、上清の一部を回収し、105℃で、4時間乾固させて得られた乾燥物の重量を測定して可溶性成分の量を算出後、各サンプルの原料とした酵母タンパク質に対する不溶性成分の量を算出した。実施例1-3の酵母タンパク質加水分解物含有液中の原料とした酵母タンパク質に対する不溶性成分は4.5%、比較例1の酵母タンパク質含有液中の原料とした酵母タンパク質に対する不溶性成分は99.3%だった。
【0021】
【表1】
【0022】
表1に示したとおり、固形分あたりの表面オイルについて、比較品1は6.1%と高い値を示しており、乳化が壊れてオイルの浸み出しがみられたが、実施品1-1~1-3は0.02~0.08%と極めて低い値で、オイルの浸み出しがほとんど見られなかった。
何れの実施品でもオイルの浸み出しがほとんど見られなかったことから、酵母タンパク質をアルカリ条件下で加熱処理(70~121℃、30~240分間)して得られる酵母タンパク質加水分解物は、乳化剤として用いることができ、該酵母タンパク質加水分解物を用いることで、乳化安定性の高い水中油型乳化物が得られることが分かった。
さらに、得られた水中油型乳化物は、植物性タンパク質の加水分解物を用いた際の不快な風味がなく、酵母タンパク質の加水分解物を用いることで、乳化物の風味を改善できることが分かった。
【0023】
[実施例2]
水道水各250gに、酵母タンパク質(Nutritional Yeast、タンパク質80%)25g及び48%水酸化ナトリウム水溶液4.2gを加えて、90℃、30分間の加熱処理を行った後、50%クエン酸水溶液を4.9g(実施例2-1)又は5.1g(実施例2-2)加え、各々pH7.2に調整し、各酵母タンパク質加水分解物含有液を調製した。次いで、油脂であるエゴマ油(実施例2-1)又は中鎖脂肪酸(MCT)オイル(サンクリスタル(登録商標)、日清オイリオグループ株式会社)(実施例2-2)100gを加え、高圧ホモジナイザーを用いて各々乳化処理(40MPa)することで、実施品2-1又は2-2の各水中油型乳化物を調製した。酵母タンパク質加水分解物含有液と油脂の配合割合を表2に示し、また、酵母タンパク質加水分解物含有液の原料について、乳化物中の割合として括弧内に示した。尚、原料の酵母タンパク質は、乳化物中では酵母タンパク質加水分解物として含まれている。
実施品2-1及び2-2の水中油型乳化物について、前記評価試験1に従って、表面オイルを測定し、表2に示した。
【0024】
【表2】
【0025】
表2に示したとおり、固形分あたりの表面オイルについて、実施品2-1及び2-2は0.06~0.11%と極めて低い値で、オイルの浸み出しがほとんど見られなかった。
実施品1-1のサフラワーサラダ油に加え、エゴマ油及びMCTオイルでもオイルの浸み出しがほとんど見られなかったことから、酵母タンパク質加水分解物を乳化剤として用いることで、幅広い種類の油脂で安定した乳化組成物が得られ、酵母タンパク質加水分解物を幅広い種類の油脂の乳化において乳化剤として利用できることが分かった。
【0026】
[実施例3]
表3記載の配合量(g)で、水道水に、酵母タンパク質(Nutritional Yeast、タンパク質80%)及び48%水酸化ナトリウム水溶液を加えて、121℃、30分間の加熱処理を行った後、50%クエン酸水溶液を加え、pH7.2に調整し、実施例3-1~3-3の各酵母タンパク質加水分解物含有液を調製した。次いで、賦形剤として糖類を使用し、乳化粉末を調製した。詳細には、表3記載の配合量(g)で、糖類である水あめ(ハローデックス(登録商標)、株式会社林原)及び油脂であるサフラワーサラダ油(実施例3-1~3-3)を加え、高圧ホモジナイザーを用いて各々乳化処理(40MPa)することで、実施例3-1~3-4の各水中油型乳化物を調製した。各水中油型乳化物を、スプレードライヤーを使用して噴霧乾燥し、各乳化粉末として、304.2gの実施品3-1、319.3gの実施品3-2、214.5gの実施品3-3を得た。酵母タンパク質加水分解物含有液の原料について、乳化物中の割合として括弧内に示した。尚、原料の酵母タンパク質は、乳化物中では酵母タンパク質加水分解物として含まれている。また、油脂100%に対する酵母タンパク質加水分解物(原料としたNutritional Yeast中のタンパク質含量として)の割合及び油脂100%に対する糖類(賦形剤)の割合を算出して表3に示した。
【0027】
[評価試験3]
実施品3-1~3-3について、固形分あたりの表面オイル量を測定した。各サンプル10g、無水硫酸マグネシウム5g及びヘキサン50mLを、25℃、15分間、200rpmで振盪撹拌した後、ろ紙(ADVANTEC No.2)を介してヘキサン層を回収し、さらにヘキサン25mLで洗浄した。続いて、エバポレーターでヘキサンを除去し、得られた油脂の重量を測定し、固形分あたりの表面オイルとして表3に示した。
【0028】
【表3】
【0029】
表3に示したとおり、固形分あたりの表面オイルについて、実施品3-1~3-3は1.3~1.8%と、粉末油脂としては低い値だった。
酵母タンパク質加水分解物を乳化剤として用いることで、乾燥しても乳化が壊れにくく、乳化安定性の高い乳化粉末が得られることが分かった。
【0030】
[評価試験4]
実施例3-1で使用した酵母タンパク質(タンパク質80%)の代わりに、ソラマメタンパク質(タンパク質80%)又はヒヨコマメタンパク質(タンパク質63%)を、タンパク質含量として等量含むよう使用し、ソラマメタンパク質加水分解物又はヒヨコマメタンパク質加水分解物を使用した乳化粉末を、調製し、それぞれ比較品3-1及び3-2とし、評価試験3に従って、表面オイルの測定をした。尚、ヒヨコマメタンパク質の重量増加分は糖類で調整した。
実施品3-1、並びに比較品3-1及び3-2の乳化粉末について、粉化性、風味及び苦味について評価した結果を表4に示した。
【0031】
【表4】
【0032】
表4に示したとおり、粉化性は、酵母タンパク質加水分解物を使用した乳化粉末、植物性タンパク質加水分解物であるソラマメタンパク質加水分解物又はヒヨコマメタンパク質加水分解物を使用した乳化粉末の何れもで良好だったが、表面オイルは、植物性タンパク質加水分解物を使用した乳化粉末に比べて、酵母タンパク質加水分解物を使用した乳化粉末の方が少なかった。また、植物性タンパク質加水分解物が何れもマメ臭があり、苦味もあったのに対し、酵母タンパク質加水分解物を使用した乳化粉末では、風味がほぼ無く、苦味も無かった。よって、酵母タンパク質を使用することで、植物性タンパク質に比べて添加する食品等への風味の影響が少ない乳化粉末を製造できることが分かった。