(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024594
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】評価システム、評価方法および評価プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20250213BHJP
【FI】
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128810
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000108328
【氏名又は名称】ゼブラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(74)【代理人】
【識別番号】100144440
【弁理士】
【氏名又は名称】保坂 一之
(72)【発明者】
【氏名】増子(▲高▼木) 悠衣
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆章
(72)【発明者】
【氏名】後藤(赤塚) めぐみ
【テーマコード(参考)】
4C038
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB12
4C038VC20
(57)【要約】
【課題】運筆動作の巧緻性を適切に評価すること。
【解決手段】評価システムは、被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得部であって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得部と、筆記データに基づいて、少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出部と、少なくとも一つのパラメータについての少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定部と、各作業内統計値についての判定の結果に基づいて、被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価部と、を備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得部であって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得部と、
前記筆記データに基づいて、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出部と、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定部と、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価部と、
を備える評価システム。
【請求項2】
前記少なくとも一つの領域が複数の領域であり、
前記算出部が、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、
前記複数の領域のそれぞれについて、該パラメータの統計値を領域内統計値として算出し、
複数の前記領域内統計値に基づいて前記少なくとも一つの作業内統計値を算出する、
請求項1に記載の評価システム。
【請求項3】
前記算出部が、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、
前記複数の領域のそれぞれについて、前記領域内統計値として、該パラメータの代表値である領域内代表値を算出し、
前記少なくとも一つの作業内統計値として、複数の前記領域内代表値の代表値である作業内代表値と、該複数の領域内代表値のばらつきとを算出し、
前記判定部が、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業内代表値および前記ばらつきが前記所定の基準を満たすか否かを判定し、
前記評価部が、前記少なくとも一つのパラメータの前記作業内代表値および前記ばらつきのそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記巧緻性を評価する、
請求項2に記載の評価システム。
【請求項4】
前記評価部が、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値の全てが前記所定の基準を満たす場合に、前記巧緻性として第1評価値を設定し、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値の少なくとも一部が前記所定の基準を満たさない場合に、前記巧緻性が前記第1評価値よりも低いことを示す第2評価値を設定する、
請求項1~3のいずれか一項に記載の評価システム。
【請求項5】
前記少なくとも一つのパラメータが、前記筆記具の速度を更に含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の評価システム。
【請求項6】
前記少なくとも一つのパラメータが、前記筆記具を通る軸回りの該筆記具の角速度を更に含む、
請求項1~3のいずれか一項に記載の評価システム。
【請求項7】
プロセッサを備える評価システムにより実行される評価方法であって、
被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得ステップであって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得ステップと、
前記筆記データに基づいて、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価ステップと、
を含む評価方法。
【請求項8】
被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得ステップであって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得ステップと、
前記筆記データに基づいて、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価ステップと、
をコンピュータに実行させる評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一側面は評価システム、評価方法および評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の筆記動作に基づいてその被験者を評価する手法が知られている。
【0003】
特許文献1には、被検者の描画作業の運動軌跡と時間経過情報とをコンピュータに取り込み、所定のパラメータを計算する脳・神経系疾患の症状診断のための支援システムが記載されている。支援システムは、データベースから注出された健常者の所定のパラメータ値を指標として被検者のパラメータをグラフ表示させる。
【0004】
特許文献2には、タッチペンなどの入力手段での入力に関する情報を測定し、測定結果に基づいて入力手段での入力に対するユーザの熱中度を算出する情報処理装置が記載されている。タッチペンは例えば筆圧検出部を備え、入力に関する情報として筆圧が検出される。
【0005】
非特許文献1には、幼児が直径3cmの円を水性ペンで塗る課題を行う経過をビデオカメラで撮影し、幼児の筆記具操作を解析した実験の概要が記載されている。実験では、描画結果である円の塗りあがり状態を塗り残し面積と塗りすぎの面積とから評価し、筆記具操作と描画結果との関係を検討している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4524054号公報
【特許文献2】特開2017-41117号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】尾崎康子、「知っておきたい気になる子供の手先の器用さのアセスメント:PWT描線テストの手引きと検査用紙」2018年,pp.51-64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
運筆動作の巧緻性を適切に評価する手法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一側面に係る評価システムは、被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得部であって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得部と、筆記データに基づいて、少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出部と、少なくとも一つのパラメータについての少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定部と、少なくとも一つのパラメータについての少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについての判定の結果に基づいて、被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価部と、を備える。
【0010】
このような側面においては、塗りつぶし作業において被験者が使用した筆記具の筆圧の経時変化を少なくとも示す筆記データに基づいて、その作業における筆圧の統計値が算出され、その統計値に基づいて被験者の運筆動作の巧緻性が評価される。塗りつぶし作業における筆圧は、運筆動作に関する能力を反映しやすい。筆圧の統計値を用いることによって、被験者の運筆動作の巧緻性を適切に評価することができる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一側面によれば、運筆動作の巧緻性を適切に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】評価システムに関連するハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図3】評価システムに関連する機能構成の一例を示す図である。
【
図4】評価システムの動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本開示での実施形態を詳細に説明する。図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0014】
[システムの概要]
本開示に係る評価システムは、筆記具を用いて領域を塗りつぶす作業における筆記データに基づいて、被験者の運筆動作の巧緻性を評価するコンピュータシステムである。運筆動作とは、筆記具を使用する際の身体の動きをいい、例えば、筆記具で文字を書くかまたは図形を描く際の手、指、肘または腕の動作をいう。運筆動作の巧緻性とは、運筆動作の巧みさおよび緻密さの程度を示す指標をいう。すなわち、運筆動作の巧緻性とは、被験者が筆記具をどの程度精確にコントロールできるかを示す指標である。運筆動作の巧緻性を「運筆巧緻性」ともいう。被験者とは、評価システムによって運筆巧緻性が評価される人をいう。被験者は、例えば幼児、小児、成人または高齢者であり得る。評価システムは、教育、調査、検査、臨床などの種々の場面で利用され得る。例えば、評価システムは、児童または成人の発達状況または書字能力を評価するために利用されてもよいし、高齢者または手術後の患者の脳機能または運動機能の評価に利用されてもよい。
【0015】
被験者には、塗りつぶし作業を行うために媒体が提供される。媒体は紙であってもよいし、タブレットまたはペンタブレット等の、タッチスクリーンを有する電子デバイスであってもよい。媒体には1以上の領域が示される。領域とは、筆記具によって塗りつぶされる、指定された部分をいう。領域は、円、多角形などの所定の形状の枠で囲まれた部分であってもよい。複数の領域が用意される場合には、領域の形状および大きさは統一されてもよいし、少なくとも二つの領域の間で形状および大きさの少なくとも一方が異なってもよい。
【0016】
被験者による塗りつぶし作業によって筆記データが生成され、評価システムはこの筆記データに基づいて運筆巧緻性を評価する。筆記データとは、塗りつぶし作業の過程で測定される、筆記に関する情報をいう。筆記データは、塗りつぶし作業における、筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す時系列データとして表される。パラメータは筆圧、速度、加速度、角速度、角加速度、位置、傾き、筆記具を把持する圧力などの物理量である。筆記データは筆記具または媒体により測定されてもよいし、筆記具および媒体とは別の測定装置によって測定されてもよい。
【0017】
[システムの構成]
図1は、一例に係る評価システム1の適用の一例を示す図である。この例では、評価システム1は端末10を備える。端末10は近距離無線通信により筆記具20と接続され、通信ネットワークNを介してデータベース30と接続される。近距離無線通信は、Bluetooth(登録商標)、Wi-Fi(登録商標)などの通信方式であってもよい。通信ネットワークNは、例えばインターネットを含んで構成されてもよいし、イントラネットを含んで構成されてもよい。この例では、評価システム1は、用紙40上の3個の領域41を塗りつぶす作業における筆記データに基づいて運筆巧緻性を評価する。
【0018】
端末10は、被験者の運筆巧緻性を評価するコンピュータである。端末10は、高機能携帯電話機(スマートフォン)、タブレット端末、ウェアラブル端末(例えば、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)、スマートグラス、またはスマートウォッチ)、ラップトップ型パーソナルコンピュータ、携帯電話機などの携帯端末でもよい。あるいは、端末10はデスクトップ型パーソナルコンピュータなどの据置型端末でもよい。
【0019】
筆記具20は、文字、記号およびイラストなどの筆記に使用される道具である。筆記具20は、例えば鉛筆、ボールペン、万年筆、マーカーおよびシャープペンシルといった、インクまたは黒鉛を用いて筆記できるペンであってもよいし、スタイラスなどのポインティングデバイスであってもよい。筆記具20は、少なくとも一つのパラメータを測定して筆記データを生成することが可能なセンサペンであり得る。
図1の例では、一つの筆記具20が端末10と通信するが、2以上の筆記具20が一つの端末10と通信してもよい。
【0020】
データベース30は、評価システム1によって用いられる各種のデータを記憶する非一時的な記憶装置である。データベース30は単一のデータベースとして構築されてもよいし、複数のデータベースの集合であってもよい。
【0021】
図2は、評価システム1に関連するハードウェア構成の一例を示す図である。
図2は、端末10として機能する端末コンピュータ100を示す。
【0022】
一例として、端末コンピュータ100はハードウェア構成要素として、プロセッサ101、主記憶部102、補助記憶部103、通信部104、入力インタフェース105および出力インタフェース106を備える。
【0023】
プロセッサ101は、オペレーティングシステムおよびアプリケーションプログラムを実行する演算装置である。例えば、プロセッサ101は例えばCPUまたはGPUである。
【0024】
主記憶部102は、端末10を実現させるためのプログラム、プロセッサ101から出力された演算結果などを記憶する装置である。主記憶部102は、例えばROMおよびRAMのうちの少なくとも一つにより構成される。
【0025】
補助記憶部103は、一般に主記憶部102よりも大量のデータを記憶することが可能な装置である。補助記憶部103は、例えばハードディスク、フラッシュメモリなどの不揮発性記憶媒体によって構成される。補助記憶部103は、端末コンピュータ100を端末10として機能させるためのクライアントプログラムP1と各種のデータとを記憶する。
【0026】
通信部104は、通信ネットワークNを介して他のコンピュータとの間でデータ通信を実行する装置である。通信部104は、例えばネットワークカードまたは無線通信モジュールにより構成される。
【0027】
入力インタフェース105は、ユーザの操作または動作に基づいてデータを受け付ける装置である。例えば、入力インタフェース105は、キーボード、操作ボタン、ポインティングデバイス、マイクロフォン、センサおよびカメラのうちの少なくとも一つによって構成される。キーボードおよび操作ボタンはタッチパネル上に表示されてもよい。
【0028】
出力インタフェース106は、端末コンピュータ100で処理されたデータを出力する装置である。例えば、出力インタフェース106はモニタ、タッチパネル、HMDおよびスピーカのうちの少なくとも一つによって構成される。
【0029】
端末10の各機能要素は、評価プログラムの一例であるクライアントプログラムP1をプロセッサ101または主記憶部102に読み込ませて、プロセッサ101にそのプログラムを実行させることで実現される。クライアントプログラムP1は、端末10の各機能要素を実現するためのコードを含む。プロセッサ101は、クライアントプログラムP1に従って通信部104、入力インタフェース105または出力インタフェース106を動作させ、主記憶部102または補助記憶部103におけるデータの読み出しおよび書き込みを行う。この処理により端末10の各機能要素が実現される。
【0030】
クライアントプログラムP1は、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に非一時的に記録された上で提供されてもよい。あるいは、クライアントプログラムP1は、搬送波に重畳されたデータ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0031】
図3は、評価システム1に関連する機能構成の一例を示す図である。端末10は、機能要素として通信部11、算出部12、判定部13および評価部14を備える。通信部11は、筆記具20との間およびデータベース30との間において、各種のデータの送受信を行う機能要素である。通信部11は、筆記データを取得する取得部として機能する。算出部12は、筆記データに基づいて統計値を算出する機能要素である。判定部13は、その統計値が所定の基準を満たすか否かを判定する機能要素である。評価部14は、判定部13による判定の結果に基づいて、被験者の運筆巧緻性を評価する機能要素である。
【0032】
筆記具20は、機能要素として測定部21および通信部22を備える。測定部21は、筆記具20に関する少なくとも一つのパラメータを測定し、その測定結果に基づいて筆記データを生成する機能要素である。通信部22は、端末10との間において各種のデータの送受信を行う機能要素である。これらの機能要素は筆記具20のプロセッサによって実現される。
【0033】
一例では、データベース30は、被験者の筆記データに加えて、被験者データ、統計データ、基準データ、サンプルデータ、判定データおよび評価データを記憶する。被験者データは被験者の属性を示すデータである。統計データは、筆記データに基づいて算出される統計値を示すデータである。基準データは、統計値を判定するために用いられる基準を示すデータである。サンプルデータは、サンプルとして集められた人々から得られる筆記データであり、基準を設定するために用いられる。判定データは統計値と基準とに基づく判定の結果を示すデータである。評価データは運筆巧緻性の評価結果を示すデータである。一例では、データベース30はそれぞれの被験者について筆記データ、被験者データ、統計データ、判定データおよび評価データを記憶する。
【0034】
[システムの動作]
図4を参照しながら、評価システム1の動作について説明する。
図4はその動作の一例を処理フローS1として示すフローチャートである。以下では、筆記具20に関するパラメータとして筆圧、速度および角速度を例示する。
【0035】
ステップS11では、通信部11が、被験者による塗りつぶし作業における筆記データを取得する。この筆記データは、筆記具20に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す。
【0036】
被験者は、「丁寧に塗りつぶしてください」というような指示を受けて、筆記具20を使用して各領域41を塗りつぶす作業を行う。筆記具20では、測定部21がその作業における筆圧、速度および角速度のパラメータの経時変化を示すデータを筆記データとして取得する。筆圧とは、用紙40などの媒体に押し付けられた筆記具20の先端(すなわち、ペン先)に生じる圧力をいう。速度とは筆記具20の所定の部分の移動速度をいう。その部分は例えば、筆記具20の中央または先端であってもよい。角速度とは、筆記具20を通る軸周りに沿って測定される筆記具20の角速度であり、筆記具20の3軸のそれぞれについて測定される。測定部21は、筆記具20の先端から後端に向かう方向に沿った第1軸を中心とする角速度である第1角速度(GyroX)と、第1軸に垂直な第2軸を中心とする角速度である第2角速度(GyroY)と、第1軸および第2軸に垂直な第3軸を中心とする第3角速度(GyroZ)とを測定する。
【0037】
一例では、被験者が筆記具20で各領域41を塗りつぶしている間、測定部21は所定のサンプリング周波数で筆圧、速度および角速度を測定または算出する。サンプリング周波数は100Hzでもよく、この場合には、測定部21は0.01秒間隔で筆圧、速度および角速度を測定する。測定部21は圧力センサまたは荷重センサを用いて筆圧を測定し、速度センサまたは加速度センサを用いて速度を測定または算出し、ジャイロセンサを用いて角速度を測定または算出する。そして、測定部21は筆圧の経時変化を示す筆圧データと、速度の経時変化を示す速度データと、角速度の経時変化を示す角速度データとのセットを筆記データとして生成する。角速度データは第1角速度、第2角速度および第3角速度を示す。
【0038】
通信部22は筆記データを端末10に送信する。通信部11はその筆記データを受信する。通信部11は、被験者を特定する識別子である被験者IDをその筆記データに関連付ける。通信部11は、データベース30内の被験者データから被験者IDを読み出してもよいし、入力インタフェース105を介して被験者IDを受け付けてもよい。通信部11は被験者IDに関連付けられた筆記データをデータベース30に格納してもよい。
【0039】
ステップS12では、算出部12が、取得された筆記データに基づいて、各パラメータについて1以上の作業内統計値を算出する。作業内統計値とは、所定の個数の領域を塗りつぶす作業におけるパラメータの統計値をいう。用紙40のように複数の領域が存在する場合には、算出部12は該複数の領域のそれぞれについて領域内統計値を算出し、複数の領域内統計値に基づいて作業内統計値を算出してもよい。領域内統計値とは、一つの領域を塗りつぶす作業におけるパラメータの統計値をいう。
図1の例では、算出部12は各パラメータについて、3個の領域41のそれぞれについて該パラメータの領域内統計値を算出し、3個の領域内統計値に基づいて作業内統計値を算出する。
【0040】
作業内統計値は代表値およびばらつきの少なくとも一つであってもよい。代表値は、例えば平均値、中央値、最大値、最小値、最頻値、四分位数または任意のα(0≦α≦1)における100αパーセンタイルなどであってもよい。ばらつきはデータがどの程度散らばっているかを示す値であり、例えば標準偏差、分散、四分位範囲、最小値から最大値までの範囲(変動範囲)、変動係数、平均絶対偏差または中央絶対偏差などであってもよい。パラメータの種類が2以上である場合に、作業内統計値として用いる統計値の種類または個数が少なくとも2種類のパラメータの間で異なってもよい。
【0041】
算出部12は筆記データに基づいて、1以上の領域のそれぞれについて、該領域の塗りつぶし作業の開始から終了までの時間幅を作業時間として特定し、その作業時間における筆記データを保持する。この筆記データは、筆圧データ、速度データおよび角速度データの組合せであり得る。例えば、算出部12は、筆圧が15g以下である時間区間の筆記データを破棄し、残った1以上の作業時間について筆記データを保持する。保持される筆記データは、1以上の領域のそれぞれについての筆記データであるといえる。算出部12は各領域の筆記データに基づいて1以上の作業内統計値を算出する。
【0042】
筆圧の作業内統計値の算出手順を説明する。一例では、算出部12は各領域41について、該領域41に対応する筆圧データで示される、所定のサンプリング周期で得られた複数の筆圧の平均値を領域内平均値として算出する。算出部12は、複数の領域41に対応する複数の領域内平均値に基づいて作業内統計値を算出する。一例では、算出部12は作業内統計値として、複数の領域内平均値の平均値である作業内平均値と、領域内平均値の標準偏差とを算出する。作業内平均値は、以下では、筆圧の作業内平均値を筆圧平均値ともいい、筆圧の標準偏差を筆圧標準偏差ともいう。
【0043】
算出部12は、筆圧と同様に、各領域41の速度データに基づいて速度について作業内平均値および標準偏差を算出する。以下では、速度の作業内平均値を速度平均値ともいい、速度の標準偏差を速度標準偏差ともいう。
【0044】
算出部12は、筆圧と同様に、各領域41の角速度データに基づいて角速度について作業内平均値および標準偏差を算出する。パラメータとしての角速度は、第1角速度(GyroX)、第2角速度(GyroY)、および第3角速度(GyroZ)の少なくとも一つを用いて表現されてよい。例えば、算出部12はパラメータとしての角速度として3軸の角速度のうちの一つを選択してもよい。あるいは、算出部12は3軸の角速度の積(すなわち、(GyroX)×(GyroY)×(GyroZ))、または3軸の角速度の和(すなわち、(GyroX)+(GyroY)+(GyroZ))を角速度として表現してもよい。あるいは、算出部12は3軸の角速度の二乗和平方根(すなわち、√{(GyroX)2+(GyroY)2+(GyroZ)2})を角速度として表現してもよい。いずれにしても、算出部12は、パラメータとしての角速度について作業内平均値および標準偏差を算出する。以下では、角速度の作業内平均値を角速度平均値ともいい、角速度の標準偏差を角速度標準偏差ともいう。
【0045】
算出部12は、筆圧、速度および角速度の少なくとも一つについて、データの最大値、最小値、または変動範囲を作業内統計値として算出してもよい。
【0046】
算出部12はそれぞれの作業内統計値に被験者IDを関連付けて統計データを生成し、この統計データをデータベース30に格納してもよい。例えば、算出部12は筆圧平均値、筆圧標準偏差、速度平均値、速度標準偏差、角速度平均値および角速度標準偏差の組合せと被験者IDとの対応を示す統計データをデータベース30に格納する。
【0047】
ステップS13では、判定部13が、各作業内統計値が所定の基準を満たすか否かを判定する。
【0048】
基準は作業内統計値毎に設定される。個々の基準は、年齢、年齢層、就学段階、性別、各種の経験などのような被験者の属性ごとに設定されてもよいし、その属性に依存することなく設定されてもよい。基準は下限値および上限値で規定される数値範囲によって設定されてもよい。この場合には、判定部13は、作業内統計値がその数値範囲内であれば基準が満たされると判定し、そうでない場合には基準が満たされないと判定する。別の例として、判定部13は、作業内統計値がその数値範囲外であれば基準が満たされると判定し、そうでない場合には基準が満たされないと判定してもよい。あるいは、基準は単一の下限値によって設定されてもよい。この場合には、判定部13は、作業内統計値が下限値以上であれば基準が満たされると判定し、そうでない場合には基準が満たされないと判定する。あるいは、基準は単一の上限値によって設定されてもよい。この場合には、判定部13は、作業内統計値が上限値以下であれば基準が満たされると判定し、そうでない場合には基準が満たされないと判定する。以下では、基準として設定される数値範囲、下限値および上限値をそれぞれ、基準範囲、基準下限値および基準上限値ともいう。
【0049】
一例では、それぞれの基準は、データベース30内のサンプルデータを用いて設定される。例えば、サンプルデータが年齢ごとにグループ化されて、各年齢について次のように基準が設定される。すなわち、その年齢に対応する各サンプルについて作業内統計値が算出され、作業内統計値の四分位範囲に基づいて外れ値が除外される。続いて、残った作業内統計値の群に基づいて基準が設定される。例えば、基準は、残った作業内統計値の群についての平均μおよび標準偏差σに基づいて設定されてもよい。例えば、μ±2σの範囲が該作業内統計値の基準範囲として設定されてもよい。あるいは、μ-2σが基準下限値として設定されてもよいし、μ+2σが基準上限値として設定されてもよい。
【0050】
設定された各基準は基準データとしてデータベース30に予め記憶される。基準は端末10以外のコンピュータによって設定されてデータベース30に記憶されてもよい。あるいは、判定部13がサンプルデータをデータベース30から読み出し、そのサンプルデータに基づいて上記の手法によって各基準を設定してもよい。
【0051】
判定部13は各パラメータの各作業内統計値について、該作業内統計値が基準を満たすか否かを判定する。例えば、判定部13は筆圧平均値が基準範囲内であるか否かを判定してもよいし、筆圧平均値が基準下限値以上であるか否かを判定してもよいし、筆圧平均値が基準上限値以下であるか否かを判定してもよい。判定部13は筆圧標準偏差、速度平均値、速度標準偏差、角速度平均値および角速度標準偏差についても同様に、対応する基準を用いて判定を実行する。
【0052】
角速度に関して判定部13は次のような判定を実行してもよい。一例では、判定部13は、最大値が基準上限値を超えている場合に基準が満たされると判定し、そうでない場合に基準が満たされないと判定してもよい。あるいは、判定部13は、最小値が基準下限値未満である場合に基準が満たされると判定し、そうでない場合に基準が満たされないと判定してもよい。さらに別の例として、判定部13は変動範囲の下限値および上限値のそれぞれの絶対値の和を求め、その和が基準上限値を超えている場合に基準が満たされると判定し、そうでない場合に基準が満たされないと判定してもよい。
【0053】
判定部13は判定結果に被験者IDを関連付けて判定データを生成し、この判定データをデータベース30に格納してもよい。例えば、判定部13は筆圧平均値、筆圧標準偏差、速度平均値、速度標準偏差、角速度平均値および角速度標準偏差についての判定結果の組合せと被験者IDとの対応を示す判定データをデータベース30に格納する。
【0054】
ステップS14では、評価部14が各作業内統計値についての判定の結果に基づいて、被験者の運筆巧緻性を評価する。一例では、評価部14は、運筆巧緻性が適切であるか否かを推定するための指標である評価値を用いて評価結果を表現する。
【0055】
評価部14は各パラメータの各作業内統計値が基準を満たす場合に、巧緻性として第1評価値を設定し、少なくとも一つの作業内統計値が基準を満たさない場合に、巧緻性が該第1評価値よりも低いことを示す第2評価値を設定してもよい。すなわち、評価部14は、全ての作業内統計値が基準を満たす場合に第1評価値を設定し、1以上の作業内統計値の少なくとも一部が基準を満たさない場合に第2評価値を設定する。第1評価値および第2評価値のそれぞれは、「高」および「低」のように表されてもよい。一例として、作業内統計値が筆圧平均値、筆圧標準偏差、速度平均値、速度標準偏差、角速度平均値および角速度標準偏差であるとする。評価部14は、これら6個の作業内統計値の全てが基準を満たす場合には第1評価値を設定し、少なくとも一つの作業内統計値が基準を満たさない場合には第2評価値を設定する。すなわち、評価部14は、筆圧、速度および角速度についての全ての作業内統計値が基準を満たせば被験者の運筆巧緻性が相対的に高いと判定し、いずれかの作業内統計値が基準を満たさなければその運筆巧緻性が相対的に低いと評価する。
【0056】
あるいは、評価部14は、基準を満たさない作業内統計値の個数に応じて評価値を設定してもよい。あるいは、評価部14は作業内統計値の判定結果に対して重み付けを実行してスコアを決定し、そのスコアの合計に基づいて評価値を設定してもよい。
【0057】
評価部14は設定された評価値を出力する。例えば、評価部14は評価値をモニタ上に表示してもよいし、評価値を他のコンピュータに送信してもよい。あるいは、評価部14は評価値に被験者IDを関連付けて評価データを生成し、この評価データをデータベース30に格納してもよい。
【0058】
[変形例]
以上、本開示での様々な例を詳細に説明した。しかし、本開示は上記の例に限定されるものではない。本開示に関しては、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0059】
評価システムは、筆記具に関するパラメータとして、一つの領域の塗りつぶし作業の開始から終了までの時間幅である作業時間を処理してもよい。評価システムは、上記の例における筆圧、速度および角速度と同様に、作業時間についての処理を実行し得る。すなわち、算出部が筆記データに基づいて作業時間について作業内統計値を算出し、判定部が、その作業内統計値が所定の基準を満たすか否かを判定し、評価部がその判定結果に基づいて被験者の運筆巧緻性を評価してもよい。
【0060】
本開示において、「少なくとも一つのプロセッサが、第1の処理を実行し、第2の処理を実行し、…第nの処理を実行する。」との表現、またはこれに対応する表現は、第1の処理から第nの処理までのn個の処理の実行主体(すなわちプロセッサ)が途中で変わる場合を含む概念を示す。すなわち、この表現は、n個の処理の全てが同じプロセッサで実行される場合と、n個の処理においてプロセッサが任意の方針で変わる場合との双方を含む概念を示す。
【0061】
少なくとも一つのプロセッサにより実行される方法の処理手順は上記の例に限定されない。例えば、上述したステップの一部が省略されてもよいし、別の順序で各ステップが実行されてもよい。また、上述したステップのうちの任意の2以上のステップが組み合わされてもよいし、ステップの一部が修正または削除されてもよい。あるいは、上記の各ステップに加えて他のステップが実行されてもよい。
【0062】
二つの数値の大小関係の比較では、「以上」および「よりも大きい」という二つの基準のどちらが用いられてもよく、「以下」および「未満」という二つの基準のうちのどちらが用いられてもよい。
【0063】
[付記]
上記の様々な例から把握されるとおり、本開示は以下に示す態様を含む。
(付記1)
被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得部であって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得部と、
前記筆記データに基づいて、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出部と、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定部と、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価部と、
を備える評価システム。
(付記2)
前記少なくとも一つの領域が複数の領域であり、
前記算出部が、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、
前記複数の領域のそれぞれについて、該パラメータの統計値を領域内統計値として算出し、
複数の前記領域内統計値に基づいて前記少なくとも一つの作業内統計値を算出する、
付記1に記載の評価システム。
(付記3)
前記算出部が、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、
前記複数の領域のそれぞれについて、前記領域内統計値として、該パラメータの代表値である領域内代表値を算出し、
前記少なくとも一つの作業内統計値として、複数の前記領域内代表値の代表値である作業内代表値と、該複数の領域内代表値のばらつきとを算出し、
前記判定部が、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業内代表値および前記ばらつきが前記所定の基準を満たすか否かを判定し、
前記評価部が、前記少なくとも一つのパラメータの前記作業内代表値および前記ばらつきのそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記巧緻性を評価する、
付記2に記載の評価システム。
(付記4)
前記評価部が、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値の全てが前記所定の基準を満たす場合に、前記巧緻性として第1評価値を設定し、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値の少なくとも一部が前記所定の基準を満たさない場合に、前記巧緻性が前記第1評価値よりも低いことを示す第2評価値を設定する、
付記1~3のいずれか一つに記載の評価システム。
(付記5)
前記少なくとも一つのパラメータが、前記筆記具の速度を更に含む、
付記1~4のいずれか一つに記載の評価システム。
(付記6)
前記少なくとも一つのパラメータが、前記筆記具を通る軸回りの該筆記具の角速度を更に含む、
付記1~5のいずれか一つに記載の評価システム。
(付記7)
プロセッサを備える評価システムにより実行される評価方法であって、
被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得ステップであって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得ステップと、
前記筆記データに基づいて、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価ステップと、
を含む評価方法。
(付記8)
被験者が筆記具を使用して少なくとも一つの領域を塗りつぶす作業における、該筆記具に関する少なくとも一つのパラメータのそれぞれの経時変化を示す筆記データを取得する取得ステップであって、該少なくとも一つのパラメータが該筆記具の筆圧を少なくとも含む、該取得ステップと、
前記筆記データに基づいて、前記少なくとも一つのパラメータのそれぞれについて、前記作業における該パラメータの少なくとも一つの統計値を少なくとも一つの作業内統計値として算出する算出ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについて、該作業内統計値が、該作業内統計値に対応する所定の基準を満たすか否かを判定する判定ステップと、
前記少なくとも一つのパラメータについての前記少なくとも一つの作業内統計値のそれぞれについての前記判定の結果に基づいて、前記被験者の運筆動作の巧緻性を評価する評価ステップと、
をコンピュータに実行させる評価プログラム。
【0064】
付記1,7,8によれば、塗りつぶし作業において被験者が使用した筆記具の筆圧の経時変化を少なくとも示す筆記データに基づいて、その作業における筆圧の統計値が算出され、その統計値に基づいて被験者の運筆動作の巧緻性が評価される。塗りつぶし作業における筆圧は、運筆動作に関する能力を反映しやすい。筆圧の統計値を用いることによって、被験者の運筆動作の巧緻性を適切に評価することができる。
【0065】
付記2によれば、複数の領域を塗りつぶす作業における筆記データに基づいて作業内統計値が算出されるため、個々の塗りつぶし作業のむらを考慮して被験者の運筆巧緻性をより高精度に評価することができる。
【0066】
付記3によれば、複数の領域のそれぞれについて領域内代表値が算出され、この領域内代表値に基づいて、作業内代表値と領域内代表値のばらつきとが作業内統計値として算出される。このように代表値とばらつきとの双方を考慮することにより、被験者の運筆巧緻性をより詳細に評価することができる。
【0067】
付記4によれば、全ての作業内統計値が所定の基準を満たす場合に運筆巧緻性として第1評価値が設定され、作業内統計値の少なくとも一部が所定の基準を満たさない場合に運筆巧緻性として第2評価値が設定される。これにより運筆巧緻性が比較的厳しく評価されるため、被験者の運筆巧緻性に関する問題が見落とされるリスクを小さくすることができる。
【0068】
付記5によれば、筆記具の速度に更に基づいて被験者の運筆巧緻性が評価される。その速度は被験者の手、指、肘および腕の運動を特に反映する。そのため、速度を更に考慮することで、被験者の運筆巧緻性をより精度良く評価することができる。
【0069】
付記6によれば、筆記具を通る軸回りの角速度に更に基づいて被験者の運筆巧緻性が評価される。その角速度は被験者の手、指、肘および腕の運動を特に反映する。そのため、角速度をさらに考慮することで、被験者の運筆巧緻性をより精度良く評価することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…評価システム、10…端末、11…通信部、12…算出部、13…判定部、14…評価部、20…筆記具、21…測定部、22…通信部、30…データベース、40…用紙(媒体)、41…領域、P1…クライアントプログラム(評価プログラム)。