(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024618
(43)【公開日】2025-02-20
(54)【発明の名称】2-ナフタレン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 1/32 20060101AFI20250213BHJP
C07C 15/24 20060101ALI20250213BHJP
C07C 43/18 20060101ALI20250213BHJP
C07C 41/30 20060101ALI20250213BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250213BHJP
【FI】
C07C1/32
C07C15/24
C07C43/18 A
C07C41/30
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128857
(22)【出願日】2023-08-07
(71)【出願人】
【識別番号】000113780
【氏名又は名称】マナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】村上 聡
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC29
4H006BA21
4H006BA48
4H006BB11
4H006BC19
4H006BD80
4H039CA41
4H039CL25
(57)【要約】
【課題】
除去が困難な不純物を制御し、選択的に2-ナフタレン誘導体を高純度で得られる製造方法を提供すること。
【解決手段】
スルホニルオキシ化合物を、ニッケル化合物の存在下、有機金属ハロゲン化物と、溶媒中で反応させることを特徴とする、2-ナフタレン誘導体の製造方法であって、前記反応における反応液の滞留時間が1分以内であることを特徴とする、製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、C2~6アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、スルホ基、スルホンアミド基、又はカルボキシル基もしくはそのエステル基を表し、Aは、C1~6アルキル基、モノもしくはジC1~6アルキルアミノ基、C1~6アルキル基及びニトロ基からなる群より選択される1もしくは2個の置換基で置換されていてもよいフェニル基、又はハロC1~3アルキル基を表す)
で表されるスルホニルオキシ化合物を、ニッケル化合物の存在下、一般式(2):
【化2】
(式中、Arは、C6~20アリール基であり、Mは、MgX又はMgX LiClであり、そして、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表す)
で表される有機金属ハロゲン化物と、溶媒中で反応させることによる、一般式(3):
【化3】
(式中、R
1及びArは、前記と同義である)で表される2-ナフタレン誘導体の製造方法であって、前記反応における反応液の滞留時間が1分以内であることを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記製造方法が、(1)一般式(1):
【化4】
式中、R
1及びAは、請求項1と同義である)
で表されるスルホニルオキシ化合物及びニッケル化合物を含む溶液を調製する工程;
(2)一般式(2):
【化5】
(式中、Ar及びMは、請求項1と同義である)
で表される有機金属ハロゲン化物を含む溶液を調製する工程;及び
(3)工程(1)の溶液と工程(2)の溶液を混合し、反応させる工程
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(2)中のArがフェニル基であり、MがMgXであり、Xが臭素原子、塩素原子又はヨウ素原子である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ニッケル化合物が2座ホスフィン系配位子を形成する化合物である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記反応に使用する反応装置がフローリアクターであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記フローリアクターが、送液菅、反応槽、及び排出菅を備え、前記一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物を含む溶液と前記一般式(2)で表される有機ハロゲン化物を含む溶液が、それぞれ別の送液菅から反応槽に送液され、かつ反応液の反応槽における滞留時間が1分以内であることを特徴とする、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
反応が、一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物及びニッケル化合物を含む溶液と一般式(2)で表される有機ハロゲン化物を含む溶液の一括投入により実施されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-ナフタレン誘導体を従来法よりも高純度且つ低コストで製造する方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
2-ナフタレン誘導体は有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称する)材料の製造中間体として汎用されており、極めて有用な化合物である。
【0003】
近年、特にディスプレイ分野において、折り畳むことや丸めることが可能なフレキシブルディスプレイの開発が本格的に進んでいる。フレキシブル化にはガラスに代わるポリマーフィルムが必要とされており、ナフタレン環を有するポリマーフィルムの使用が提案されている。ナフタレン環を持たないポリマーフィルムではディスプレイに加工し使用された際に傷や凹み、さらにはフィルムの割れが生じる場合があったが、ナフタレン環を有するポリマーフィルムは、光学特性、耐熱性、耐屈曲性、ハンドリング性に優れることから、フレキシブルディスプレイの折り曲げや衝撃による破損を防ぐことが期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
2-ナフタレン誘導体の合成方法は鈴木-宮浦カップリング反応を用いる方法が一般的に知られている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、この製法では、原料である2-ブロモナフタレンや2-ナフタレンボロン酸が非常に高価であることや、品質が不安定であり、安定調達が困難であるという問題がある。また、この製法では、副生物であるビナフチル体が大量に副生し、かつ精製除去することが非常に困難であるため、副反応を制御することは依然として課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tetrahedron Letters, 2004, Vol. 45, Pages 6527-6530
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記の問題点を解決し、除去が困難な不純物の副生を制御し、選択的に2-ナフタレン誘導体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、スルホニウム化合物とニッケル化合物及び有機金属ハロゲン化物を速やかに液中に拡散させて反応させること、及び反応液の滞留時間を極めて短時間に制御することにより、除去が困難な不純物を制御し、選択的に2-ナフタレン誘導体を高純度で得られる製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の通りである。
【0009】
一般式(1):
【化1】
(式中、R
1は、水素原子、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、C2~6アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、スルホ基、スルホンアミド基、又はカルボキシル基もしくはそのエステル基を表し、Aは、C1~6アルキル基、モノもしくはジC1~6アルキルアミノ基、C1~6アルキル基及びニトロ基からなる群より選択される1もしくは2個の置換基で置換されていてもよいフェニル基、又はハロC1~3アルキル基を表す)
で表されるスルホニルオキシ化合物を、ニッケル化合物の存在下、一般式(2):
【化2】
(式中、Arは、C6~20アリール基であり、Mは、MgX又はMgX LiClであり、そして、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子を表す)
で表される有機金属ハロゲン化物と、溶媒中で反応させることにより、一般式(3):
【化3】
(式中、R
1及びArは、前記と同義である)で表される2-ナフタレン誘導体の製造方法であって、前記反応における反応液の滞留時間が1分以内であることを特徴とする、製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、有機EL分野において、極めて有用な有機合成中間体である2-ナフチル誘導体を選択的かつ効率的に製造することができる。また、本発明の製造方法は除去が困難な不純物の副生を抑制することが可能なため、工業的にも有用であると期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態について詳細に説明する。先ず、本明細書及び特許請求の範囲において用いられる用語について説明する。各用語は、他に断りのない限り、以下の意義を有する。
【0012】
本発明において「C1~6アルキル基」は、単独で又は他の用語との組み合わせにおいて、炭素数1~6の直鎖状又は分岐状の脂肪族飽和炭化水素の1価の基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基及びそれらの異性体などが挙げられる。
【0013】
本発明において「C1~6アルコキシ基」は、単独で又は他の用語との組み合わせにおいて、基RO-(ここで、Rは、前記C1~6アルキル基である)を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びそれらの異性体などが挙げられる。
【0014】
本発明において「C2~6アルケニル基」とは、単独で又は他の用語との組み合わせにおいて、少なくとも1個の二重結合を含む、炭素数2~6の直鎖状又は分岐状の脂肪族不飽和炭化水素の1価の基を意味し、例えば、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-ペンテニル基及びそれらの異性体などが挙げられる。
【0015】
本発明において「カルボキシル基もしくはそのエステル基」とは、-COOR’基(ここで、R’は、水素原子、前記C1~6アルキル基、C6~20アリール基又はC7~26アラルキル基である)を意味する。
【0016】
本発明において「モノもしくはジC1~6アルキルアミノ基」とは、モノC1~6アルキルアミノ基及びジC1~6アルキルアミノ基を意味する。「モノC1~6アルキルアミノ基」とは、1個の前記C1~6アルキル基がアミノ基に結合した基を意味する。モノC1~6アルキルアミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基等が挙げられる。「ジC1~6アルキルアミノ基」とは、2個の前記「C1~6アルキル基」がアミノ基に結合した基を意味する。2個のアルキル基は、同一でも異なっていてもよい。ジC1~6アルキルアミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、N,N-ジイソプロピルアミノ基、N-メチル-N-エチルアミノ基、N-イソプロピル-N-メチルアミノ基、N-n-ブチル-N-メチルアミノ基、N-tert-ブチル-N-メチルアミノ基、N-メチル-N-n-ペンチルアミノ基、N-n-ヘキシル-N-メチルアミノ基、N-イソプロピル-N-エチルアミノ基等が挙げられる。
【0017】
本発明において「ハロC1~3アルキル基」は、1個以上のハロゲン原子で置換された、前記C1~3アルキル基を意味し、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基などが挙げられる。
【0018】
本発明において「C6~20アリール基」は、単独で又は他の用語との組み合わせにおいて、少なくとも1個の芳香環を含む、炭素数6~20の単環式又は多環式炭化水素化合物の1価の基を意味し、例えば、前者の例としては、フェニルが挙げられ、後者の例としては、ビフェニリル及びテルフェニリルなどの環集合芳香族炭化水素化合物の1価の基や、ナフチル、テトラヒドロナフチル、アントリル、ピレニル、インデニル、フルオレニル、アセナフチレニル、フェナントリル及びフェナレニルなどの縮合多環式芳香族化合物の1価の基が挙げられる。また、これらは、反応に関与しない、一以上の任意の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基としては、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、C3~6シクロアルキル基、C6~20アリール基及びC2~20ヘテロアリール基などが挙げられる。
【0019】
本発明において「C7~26アラルキル基」は、前記C6~20アリール基で置換されたC1~6アルキル基を意味する。「炭素数6~20のアリール」及び「炭素数1~6のアルキル」は、上記で定義したとおりである。C7~26アラルキル基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、フェニルペンチル、フェニルヘキシル等が挙げられる。
【0020】
本発明において「C3~6シクロアルキル基」は、炭素数3~6の環状の脂肪族飽和炭化水素の1価の基を意味し、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基及びシクロへキシル基などが挙げられる。
【0021】
本発明において「C2~20ヘテロアリール基」は、少なくとも1個の芳香環を含む、炭素数2~20の単環式又は縮合多環式複素環化合物の1価の基を意味し、例えば、フリル、ベンゾフラニル、ジベンゾフラニル、チエニル、ベンゾチエニル、ジベンゾチエニル、ピロリル、インドリル、カルバゾリル、イミダゾリル、ベンゾイミダゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、ベンゾオキサゾリル、チアゾリル、ベンゾチアゾリル、フラザニル、ピリジル、ピラニル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、トリアジニル、アゼピニル、キノリル、テトラヒドロイソキノリル、インドリジニル、シンノリニル、プリニル、カルボニリル、フェナントロリニル及びイミダゾピリミジニルなどが挙げられる。また、これらは、反応に関与しない、一以上の任意の置換基で置換されていてもよい。そのような置換基としては、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、C3~6シクロアルキル基、C6~20アリール基及びC2~20ヘテロアリール基などが挙げられる。
【0022】
次に、本発明の製造方法について詳しく述べる。
本発明は、一般式(1):
【化4】
(式中、R
1は、水素原子、C1~6アルキル基、C1~6アルコキシ基、C2~6アルケニル基、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、スルホ基、スルホンアミド基、カルボキシル基もしくはそのエステル基を表し、AはC1~6アルキル基、モノもしくはジC1~6アルキルアミノ基、C1~6アルキル基及びニトロ基からなる群より選択される1もしくは2個の置換基で置換されていてもよいフェニル基、又はハロC1~3アルキル基を表す)
で表されるスルホニルオキシ化合物を、ニッケル化合物の存在下、一般式(2):
【化5】
(式中、Arは、C6~20のアリール基であり、Mは、MgX又はMgX LiClであり、そして、Xは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を表す)
で表される有機金属ハロゲン化物と、溶媒中で反応させることによる、一般式(3):
【化6】
(式中、R
1及びArは、前記と同義である)で表される2-ナフタレン誘導体の製造方法であって、前記反応における反応液の滞留時間が1分以内であることを特徴とする、製造方法に関するものである。
【0023】
本発明の一実施態様では、前記製造方法は、
(1)前記一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物及びニッケル化合物を含む溶液を調製する工程;
(2)前記一般式(2)で表される有機金属ハロゲン化物を含む溶液を調製する工程;及び
(3)工程(1)の溶液と工程(2)の溶液を混合し、反応させる工程
を含むことを特徴とする。
【0024】
前記一般式(1)の化合物において、R1は、水素原子、C1~6のアルキル基、C1~6アルコキシ基、C2~6のアルケニル基、ニトロ基、シアノ基、アルデヒド基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基、スルホ基、スルホンアミド基、カルボキシル基もしくはそのエステル基である。R1は好ましくは、水素原子、C1~6アルキル、C1~6アルコキシ基、カルボキシル基もしくはそのエステル基であり、より好ましくは、水素原子、C1~4アルキル、C1~4アルコキシ基、カルボキシル基もしくはそのエステル基である。
【0025】
前記一般式(1)の化合物において、AはC1~6のアルキル基、モノもしくはジC1~6アルキルアミノ基、C1~6アルキル基及びニトロ基からなる群より選択される1もしくは2個の置換基で置換されていてもよいフェニル基、又はハロC1~3アルキル基である。Aは好ましくは炭素数1~3のアルキル基、モノもしくはジC1~3のアルキルアミノ基、C1~3アルキル基及びニトロ基からなる群より選択される1もしくは2個の置換基で置換されていてもよいフェニル基、又はハロC1~3アルキル基である。
【0026】
本発明に用いるニッケル化合物は、特に限定されるものではないが、目的とする化合物に対して、適宜選択することができる。反応性向上や入手のしやすさから、多座ホスフィン系配位子を含むニッケル化合物が好ましく、2座ホスフィン系配位子とのニッケル(II)錯体がより好ましい。例えば、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンニッケル(II)クロリド、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケル(II)クロリド、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンニッケル(II)クロリド、1,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタンニッケル(II)クロリド、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパンニッケル(II)クロリド、1,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタンニッケル(II)クロリド、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンニッケル(II)ブロミド、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケル(II)ブロミド、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタンニッケル(II)ブロミド 、1,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)ペンタンニッケル(II)ブロミド、1,3-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)プロパンニッケル(II)ブロミド、1,4-ビス(ジシクロヘキシルホスフィノ)ブタンニッケル(II)ブロミド等が挙げられる。ただし、鉄を含む[1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン]ジクロロニッケル(II)等は収率や反応制御の観点から除いた方が好ましい。
【0027】
本発明において、前記ニッケル化合物の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(1)で表される化合物に対して、通常0.01~10mol%の範囲であり、反応の観点から、0.1~6.0mol%の範囲が好ましい。
【0028】
本発明において、前記一般式(2)で表される有機金属ハロゲン化物は、いわゆるグリニャール(Grignard)試薬及びターボグリニャール(Turbo Grignard)試薬のことを表し、公知のグリニャール試薬と同様の調製法に従って、具体的には、対応するハロゲノ芳香族化合物(Ar-X:ここで、Ar及びXは、前記と同義である)にマグネシウムを作用させて得ることができる。
前記一般式(2)において、ArはC6~20アリール基であり、Mは、MgX又はMgX LiClであり、そして、Xは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。Arは、例えば、C1~6アルキル基及びC1~6アルコキシ基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基で置換されていてもよい、フェニル基又はナフチル基であり、好ましくはフェニル基、1つ以上のC1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基で置換されたフェニル基、ナフチル基、又は1つ以上のC1~6アルキル基又はC1~6アルコキシ基で置換されたナフチル基であり、より好ましくはフェニル基である。Xは、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子から選択され、好ましくは塩素原子、臭素原子であり、より好ましくは臭素原子である。
【0029】
前記有機金属ハロゲン化物の使用量は、特に限定されないが、混合手法に応じて、適宜選択することができる。例えば、前記一般式(1)で表される化合物1molに対して、通常0.5~3.0molの範囲であり、0.9~1.5molの範囲が好ましい。
【0030】
本発明に用いる溶媒は、反応に関与しないものであれば特に限定されるものではない。例えば、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;塩化メチレン等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
溶媒の使用量は、特に限定されないが、前記一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物に対して、0.1~50倍量が好ましく、特に好ましくは、1~25倍量程度である。
【0032】
本発明の製造方法における反応温度は、0~100℃の範囲が好ましい。反応を促進するためには、20~40℃がより好ましい。反応圧力は、加圧、減圧、大気圧のいずれでもよいが、大気圧が好ましい。反応雰囲気は、空気中又は不活性ガス雰囲気下のいずれでもよいが、窒素又はアルゴン等の不活性ガス雰囲気下が好ましい。
【0033】
本発明の製造方法における滞留時間は、使用する出発物質や溶媒の量や種類、反応温度等の反応条件、使用する反応装置等に応じて適宜設定することができるが、ビナフチル体のような除去が困難な不純物の副生の抑制の観点から、反応液の滞留時間は、好ましくは1分以内、より好ましくは30秒以内、特に好ましくは10秒以内である。なお、反応液の滞留時間とは、反応に必要な反応試剤(出発物質、触媒、及び溶媒)の反応容器における滞留時間を意味する。
【0034】
本発明の製造方法における混合手法については、特に問わないが、反応液の滞留時間を極めて短時間に制御することのできる手段が好ましい。例えば、反応装置としてフローリアクターやCSTR(連続槽型反応器)を用いることにより、あるいは各反応試剤を一括投入により接触させることにより、速やかに反応することができる。
【0035】
例えば、本発明の製造方法で使用できるフローリアクターは、送液菅、反応槽、及び排出菅を備える。フローリアクターを用いる本発明の製造方法の一実施態様では、前記一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物を含む溶液と、前記一般式(2)で表される有機ハロゲン化物を含む溶液は、それぞれ別の送液菅から反応槽に送液される。ニッケル化合物はさらに別の送液菅から反応槽に送液されてもよいし、前記一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物を含む溶液に添加して反応槽に送液されてもよい。また反応槽にそれぞれ送液された反応試剤により形成された反応液は、順次、反応槽から排出菅を通じて排出され、続く後処理(失活)工程に付されるが、反応槽における滞留時間(すなわち、反応試剤が送液菅からの反応槽内へ供給されてから、反応液が反応槽外(排出菅)へ排出されるまでの時間)が1分以内となるよう、流量(mL/min)を調節することが好ましい。
【0036】
また本発明の製造方法は、各反応試剤を一括投入により接触させる混合手法により実施してもよい。かかる混合手法は、例えば、一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物及びニッケル化合物を含む溶液と、一般式(2)で表される有機ハロゲン化物を含む溶液とをそれぞれ調製し、その一方を入れた反応容器に、他方を一括投入することで実施できる。なお本発明において一括投入とは、反応試剤の滴下や分注等の緩徐な混合手法ではなく、極めて短時間(例えば、数秒)に一度に行われる添加混合を意味する。具体的には、一般式(1)で表されるスルホニルオキシ化合物及びニッケル化合物を含む溶液の全量を加えた反応容器に、一般式(2)で表される有機ハロゲン化物を含む溶液の全量を一括投入する混合手法により、本発明の製造方法を実施してもよい。また一括投入により形成された反応液は、速やかに、続く後処理(失活)工程に付されるが、反応容器における滞留時間(すなわち、反応試剤が反応容器外へ排出されるか、反応容器内で失活処理に付されるまでの時間)が1分以内となるように処理することが好ましい。
【0037】
反応終了後、得られた反応液は通常の方法で後処理を行うことができる。後処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、水又は酸性水溶液(希塩酸など)で得られた反応液中の有機金属ハロゲン化物を失活(クエンチ)させ、次いで洗浄を行い、酸成分及び無機塩などを反応系内から除去する処理などが挙げられる。さらに所望により、目的の前記一般式(3)の化合物の性質に従い、蒸留、再結晶、クロマトグラフィーなどの一般的な方法によりさらに分離、精製してもよい。
【実施例0038】
以下に、本発明を具体的な実施例により示すが、本発明は実施例の内容に制限されるものではない。
【0039】
実施例、比較例で得られた反応液及び目的物の純度は、ガスクロマトグラフィー(GC)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて測定した。
【0040】
<ガスクロマトグラフィー(GC)>
GC装置 :GC-2030(株式会社島津製作所製)
カラム :HP-Ultra1(アジレント・テクノロジー社製)
(I.D.0.32mm×25m、0.52μm)
カラム温度 :100℃→[10℃/分で昇温]→280℃[10分保持]
気化室温度 :280℃
検出器温度 :300℃
キャリヤーガス :ヘリウムガス
検出器 :水素炎イオン化検出器(FID)
【0041】
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)>
検出器 :SPD-20A(株式会社島津製作所製)
オーブン :CTO-20A(株式会社島津製作所製)
ポンプ :LC-20AD(株式会社島津製作所製)
カラム :ODS-80Tm(東ソー株式会社製)
カラム温度 :40℃
移動相 :アセトニトリル:水=700:300(0~40min)
流速 :1.0mL/min
波長 :254nm
【0042】
(合成例1)
攪拌装置、温度計、U字管、還流冷却器を備えた1Lガラス製フラスコを用いて、アルゴン雰囲気下、2-ナフトール80.0g(0.55mol)(富士フイルム和光純薬(株)製)及びp-トルエンスルホニルクロリド111.9g(0.58mol)(東京化成工業(株)製)、塩化メチレン800gを加えて、攪拌しながら、10~20℃にてトリエチルアミン61.8g(0.61mol)(東京化成工業(株)製)を滴下することで反応を進行させた。同温度で1時間反応させた後、1M塩酸水溶液で酸洗浄し、水層を分離した。得られた有機層は水洗し、常圧下、濃縮操作により溶媒を留去した後、酢酸エチル408gを注入し、加温にて約70℃まで昇温して溶解させた。次いで、内温5~10℃まで徐冷し、析出した結晶をヌッチェにて固液分離した。得られた結晶は、40℃減圧下で乾燥させて、GC純度99.9%のp-トルエンスルホン酸2-ナフチル144.8gを収率88%で得た。
【0043】
<実施例1>
(A溶液(p-トルエンスルホン酸2-ナフチル+触媒/トルエン溶液)の調製)
アルゴン雰囲気下、p-トルエンスルホン酸2-ナフチル20.9g(0.07mol)(マナック(株)製)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケル(II)クロリド2.3g(4.21mmol)(東京化成工業(株)製)、トルエン350gを混合したものをA溶液とした。
(B溶液(Grignard試薬/テトラヒドロフラン溶液)の調製)
攪拌装置、温度計、U字管、還流冷却器を備えた100mLガラス製フラスコを用いて、アルゴン雰囲気下、マグネシウム0.8g(0.03mol)(山石金属(株)製)、テトラヒドロフラン53.4gを加えて、攪拌しながら、内温20~30℃にて、ブロモベンゼン4.7g(0.03mol)(マナック(株)製)を滴下し、同温度で1時間反応させて、約0.5Mフェニルマグネシウムブロミドテトラヒドロフラン溶液を得た。これをB溶液とした。
(2-フェニルナフタレンの製造)
A液(4.00mL/分)、B液(2.13mL/分)を、フローリアクターに備えられた2つの送液管のそれぞれから送液し、20~30℃水浴下に固定したT字管ミキサー(φ1.5mm)(GLサイエンス(株)製フランジ型3方ジョイント)に続く排出管(内径1.0mm、長さ68cm)内で混合することにより、反応を行った。反応管及び排出管を通った反応液は、希塩酸を張ったサンプル瓶に直接注入することでクエンチを行った。この時のHPLC反応純度は、96.3%(ビナフチル体0.41%、目的物/ビナフチル体比率=235)であった。
次いで得られた反応液は、カラムクロマトグラフィーなどの精製手段を用いて、精製してもよい。
【0044】
<実施例2>
A液(4.00mL/分)、B液(1.55mL/分)とした以外は、実施例1と同様の条件にて反応を実施した。この時のHPLC反応純度は、93.4%(ビナフチル体0.48%、目的物/ビナフチル体比率=195)であった。
【0045】
<実施例3>
A液(4.00mL/分)、B液(2.76mL/分)とした以外は、実施例1と同様の条件にて反応を実施した。この時のHPLC反応純度は、95.8%(ビナフチル体0.20%、目的物/ビナフチル体比率=479)であった。
【0046】
<実施例4>
A液(4.00mL/分)、B液(3.84mL/分)とした以外は、実施例1と同様の条件にて反応を実施した。この時のHPLC反応純度は、94.9%(ビナフチル体0.14%、目的物/ビナフチル体比率=678)であった。
【0047】
<実施例5>
A溶液の調製に用いたトルエンを塩化メチレンへ変更した以外は、実施例1と同様の条件にて反応を実施した。この時のHPLC純度は、57.5%(ビナフチル体0.24%、目的物/ビナフチル比率=240)であった。
【0048】
<実施例6>
A溶液の調製に用いたp-トルエンスルホン酸2-ナフチルを2-ナフチルジメチルスルファメートに変更した以外は、実施例1と同様の条件にて反応を実施した。この時のHPLC純度は、90.3%(ビナフチル体0.14%、目的物/ビナフチル体比率=645)であった。
【0049】
<実施例7>
B溶液の調製に用いたブロモベンゼンを4-ブロモトルエン(マナック(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様の条件にて反応させた。この時のHPLC反応純度は、92.0%(ビナフチル体0.28%、目的物/ビナフチル体比率=329)であった。
【0050】
<実施例8>
B溶液の調製に用いたブロモベンゼンを4-ブロモアニソール(マナック(株)製)に変更した以外は、実施例1と同様の条件にて反応させた。この時のHPLC反応純度は、94.7%(ビナフチル体0.23%、目的物/ビナフチル体比率=412)であった。
【0051】
<実施例9>
アルゴン置換した試験管へ撹拌子、p-トルエンスルホン酸2-ナフチル298mg(1.0mmol)、(マナック(株)製)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケル(II)クロリド32.5mg(0.06mmol)(東京化成工業(株)製)、THF250mgを仕込み、マグネチックスターラーにて撹拌を開始した。次いで、オイルバスにて内温20~30度に調温した後、実施例1で調製したB液;0.5Mフェニルマグネシウムブロミドテトラヒドロフラン溶液6.0mL(3.0mmol)をシリンジにて一括注入し、反応させた。反応時は瞬間的に沸騰する様子が確認された。注入して30秒後、希塩酸を加え、クエンチを行った。この時のHPLC純度は、77.3%(ビナフチル体0.3%、目的物/ビナフチル比率=258)であった。
【0052】
<実施例10>
ニッケル化合物を1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタンニッケル(II)クロリド31.6mg(0.06mmol)に変更した以外は、実施例9と同様の条件にて反応させた。この時のHPLC反応純度は、85.6%(ビナフチル体0.4%、目的物/ビナフチル体比率=214)であった。
【0053】
<比較例1>
撹拌装置、冷却管、温度計、滴下漏斗を備えた100mLのガラス製四つ口フラスコをアルゴン置換した後、p-トルエンスルホン酸2-ナフチル298mg(1.0mmol)、(マナック(株)製)、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケル(II)クロリド32.5mg(0.06mmol)(東京化成工業(株)製)、THF250mgを仕込み、撹拌を開始した。次いで、オイルバスにて内温20~30℃に調温した後、実施例1で調製したB液;0.5Mフェニルマグネシウムブロミドテトラヒドロフラン溶液6.0mL(3.0mmol)をシリンジポンプにより約3時間で滴下し、反応させた。反応終了後、希塩酸を加え、クエンチを行った。この時のHPLC反応純度は、68.5%(ビナフチル体12.1%、目的物/ビナフチル体比率=5.7)であった。
【0054】
<比較例2>
オイルバスを内温60~65℃に調温した以外は、比較例1と同様の条件にて反応させた。この時のHPLC反応純度は、76.6%(ビナフチル体6.4%、目的物/ビナフチル体比率=12)であった。
【0055】
<比較例3>
A溶液の調製に用いたトルエンを塩化メチレン(170mg)へ変更し、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンニッケル(II)クロリドの添加量を2.7mg(0.005mmol)に変更した以外は、比較例1と同様の条件にて反応させた。この時のHPLC反応純度は、49.1%(ビナフチル体3.3%、目的物/ビナフチル体比率=15)であった。
【0056】
<比較例4>
ニッケル化合物をビス(トリフェニルホスフィン)ニッケル(II)ジクロリド39.2mg(0.06mmol)に変更した以外は、比較例2と同様の条件にて反応させた。この時のHPLC反応純度は、68.5%(ビナフチル体7.2%、目的物/ビナフチル体比率=9.5)であった。
本発明の製造方法によれば、有機EL分野において、有用な有機合成中間体である2-ナフチル誘導体を選択的かつ効率的に製造することができる。特に、実施例1~9で示したように、反応液の滞留時間を、特定の反応装置(フローリアクター)や混合方法(一括投入)を用いて極めて短時間に制御することにより、ビナフチル体のような除去が困難な不純物の副生を抑制することが可能なため、工業的にも有用であると期待できる。