(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024716
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】浮体式構造物の設置方法
(51)【国際特許分類】
B63B 77/10 20200101AFI20250214BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20250214BHJP
【FI】
B63B77/10
B63B35/00 T
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128916
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100197848
【弁理士】
【氏名又は名称】石塚 良一
(72)【発明者】
【氏名】三城 健一
(72)【発明者】
【氏名】山下 力蔵
(57)【要約】
【課題】浮体式構造物を安定して設置することが可能な、浮体式構造物の設置方法を提供する。
【解決手段】浮体式構造物100を該浮体式構造物100の設置場所に曳航するステップと、前記浮体式構造物100に仮設補助浮体20を設置するステップと、前記浮体式構造物100のバラストタンク10に注水して該浮体式構造物100を所定の深度まで沈降させるステップと、前記所定の深度において前記浮体式構造物100にアンカー40に接続された係留索41を接続するステップと、前記浮体式構造物100に前記係留索41が接続された後に、前記バラストタンク10の排水を行うステップと、前記バラストタンク10の排水を行った後に、前記仮設補助浮体20を撤去するステップと、を少なくとも有することを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮体式構造物を該浮体式構造物の設置場所に曳航するステップと、
前記浮体式構造物に仮設補助浮体を設置するステップと、
前記浮体式構造物のバラストタンクに注水して該浮体式構造物を所定の深度まで沈降させるステップと、
前記所定の深度において前記浮体式構造物にアンカーに接続された係留索を接続するステップと、
前記浮体式構造物に前記係留索が接続された後に、前記バラストタンクの排水を行うステップと、
前記バラストタンクの排水を行った後に、前記仮設補助浮体を撤去するステップと、を少なくとも有する
ことを特徴とする浮体式構造物の設置方法。
【請求項2】
前記仮設補助浮体は、水密性が確保されて着脱が可能な構造物である
請求項1に記載の浮体式構造物の設置方法。
【請求項3】
前記浮体式構造物は、TLP(テンションレグプラットフォーム)型浮体式構造物であり、
前記係留索は、緊張係留索である
請求項1又は2に記載の浮体式構造物の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上において設置する浮体式構造物の設置方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンエネルギーである洋上風力発電のニーズの高まりによって、種々の浮体式構造物の設置工法が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、風車等からなる発電装置を、浮体式構造物で支持する浮体式風力発電装置の発明が開示されている。
【0003】
例えば、TLP(テンションレグプラットフォーム)型浮体式構造物では、テンドン(緊張係留索)及び海底に定着させたアンカーにより緊張係留させて安定を確保させることを特徴とする。そして、施工過程では浮体本体とテンドンを接合するために、浮体内のバラストタンクにバラスト水を注水し、浮体本体を沈降させることが必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5565803号公報
【特許文献2】特許第5738431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、
図1に示されるように、浮体式構造物100は自然浮遊時には安定してその姿勢が維持されるものの、バラストタンク10にバラスト水を注水して沈降させると不安定になり、姿勢の安定した維持が困難となる。
【0006】
そこで従来の方法では、特許文献1の
図8等に示されるような専用船を製造して浮体式構造物を把持するように構成したり、特許文献2の
図1等に示されるようなコラム(22a、22b、22c)を設けたりして浮体式構造物の安定を図っていた。
【0007】
しかし、上記専用船を建造することになれば施工費は非常に高額になる上、汎用性が無いためにプロジェクトごとに異なる専用船の建造が必要となり、非常に不経済である。
【0008】
また、浮体式構造物と一体となったコラムが設置完了後も一部水面上に残る構造にすると、供用後は無用に高くコラムが水面上に存在することになり、波浪の影響を受けて不安定となる。さらにその対策を講じるとなると浮体式構造物の大型化につながり不経済である。
【0009】
そこで本願発明は、上記した問題点等に鑑み、浮体式構造物を安定して設置することが可能な、浮体式構造物の設置方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)に係る発明は、浮体式構造物を該浮体式構造物の設置場所に曳航するステップと、前記浮体式構造物に仮設補助浮体を設置するステップと、前記浮体式構造物のバラストタンクに注水して該浮体式構造物を所定の深度まで沈降させるステップと、前記所定の深度において前記浮体式構造物にアンカーに接続された係留索を接続するステップと、前記浮体式構造物に前記係留索が接続された後に、前記バラストタンクの排水を行うステップと、前記バラストタンクの排水を行った後に、前記仮設補助浮体を撤去するステップと、を少なくとも有することを特徴とする浮体式構造物の設置方法である。
【0011】
(2)に係る発明は、前記仮設補助浮体は、水密性が確保されて着脱が可能な構造物である上記(1)に記載の浮体式構造物の設置方法である。
【0012】
(3)に係る発明は、前記浮体式構造物は、TLP(テンションレグプラットフォーム)型浮体式構造物であり、前記係留索は、緊張係留索である上記(1)又は(2)に記載の浮体式構造物の設置方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、浮体式構造物の沈降前に仮設補助浮体を取り付けることで、沈降中における浮体式構造物の安定性を確保することが可能となり、さらに、沈降を完了して係留索と接続した後は、仮設補助浮体が取り外されるので、浮体式構造物が供用後に受ける波浪の影響を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明の一実施形態における、浮体式構造物の曳航態様を示す側面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における、浮体式構造物への仮設補助浮体の設置態様を説明する側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態における、浮体式構造物の沈降態様を説明する側面図である。
【
図5】本発明の一実施形態における、浮体式構造物へのテンドンの接続態様を説明する側面図である。
【
図6】本発明の一実施形態における、テンドンの緊張態様を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ、本発明の浮体式構造物の設置方法の一実施形態について、TLP(テンションレグプラットフォーム)型浮体式構造物を例に説明する。
【0016】
図2には、浮体式構造物100が当該浮体式構造物100の設置位置までタグボート30によって曳航される態様が示されている。本実施形態の浮体式構造物100はTLP(テンションレグプラットフォーム)型浮体式構造物であり、設置位置の海底にはアンカー40が設置されて、当該アンカー40にはテンドン41(緊張係留索)が接続されている。
【0017】
なお曳航中は、浮体式構造物100のバラストタンク10には注水されておらず、安定して洋上を曳航されることとなる。
【0018】
続いて、
図3に示されるように、浮体式構造物100の設置位置まで曳航された当該浮体式構造物100は、複数のタグボート30等に連結されて定点保持される。そして浮体式構造物100に対して着脱可能な仮設補助浮体20を接続する。
【0019】
本実施形態では、上記仮設補助浮体20として、円筒形の構造物を接続しているが、必ずしもこのような製品に限定されるものではなく、必要な浮力に応じて種々の浮体を単体でもしくは複数を連結して仮設補助浮体20とすることができる。また、必要に応じて起重機船によって浮体式構造物100を吊り補助するようにしてもよい。
【0020】
続いて、
図4に示されるように、浮体式構造物100のバラストタンク10に注水して当該浮体式構造物100を所定の深度まで徐々に沈降させる。このとき、仮設補助浮体20の少なくとも一部が水面上に浮上し、浮体式構造物100を仮設補助浮体20の浮力によって安定して沈降させることが可能となる。
【0021】
続いて、
図5に示されるように、所定の深度まで沈降した浮体式構造物100にテンドンを接続し、その後、浮体式構造物100のバラストタンク10の排水を行う。
【0022】
そして、
図6に示されるように、仮設補助浮体20を撤去する。仮設補助浮体20の撤去に際しては、潜水士による人力作業のほか、ROV(水中ドローン等)や自動玉掛け玉外し装置を適用することが可能である。これにより、浮体式構造物100の浮力によりテンドンが緊張する。
【0023】
以上のように、浮体式構造物100を該浮体式構造物100の設置場所に曳航するステップと、浮体式構造物100に仮設補助浮体20を設置するステップと、浮体式構造物100のバラストタンク10に注水して当該浮体式構造物100を所定の深度まで沈降させるステップと、所定の深度において浮体式構造物100にアンカー40に接続された係留索41を接続するステップと、浮体式構造物100に係留索41が接続された後に、上記バラストタンク10の排水を行うステップと、当該バラストタンク10の排水を行った後に、上記仮設補助浮体20を撤去するステップと、を少なくとも有することにより、従来のようにコラムが水面上に存在して波浪の影響を受けることもなく、さらに、従来の方法に比べて格段に低コストで安定した浮体式構造物100の設置が可能となる。
【0024】
(別実施形態)
以上、本実施形態の浮体式構造物100の設置方法について説明したが、本発明は必ずしも前述した実施形態に限定されるものではない。
【0025】
例えば、前述した実施形態は、TLP(テンションレグプラットフォーム)型浮体式構造物を例に説明したが、これに限定されるものではなく、カテナリー型の浮体式構造物の設置に際しても本発明を適用することが可能である。
【0026】
また、図示した実施形態では、浮体式構造物100としてセンターコラム型を例にして説明したが、必ずしもこのような形状に限定されるものではなく、種々の形状のコラムの沈降に際して本発明は適用可能である。
【0027】
また、本発明の範囲は、上記した各実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。また、上記実施形態に記載された具体的な材質、寸法形状等は本発明の課題を解決する範囲において、変更が可能である。
【符号の説明】
【0028】
10 バラストタンク
20 仮設補助浮体
30 タグボート
40 アンカー
41 テンドン(緊張係留索)
100 浮体式構造物