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特開2025-24718超音波接合用チップおよびこれを用いた超音波接合装置ならびに超音波接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024718
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】超音波接合用チップおよびこれを用いた超音波接合装置ならびに超音波接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/10 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
B23K20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128922
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】518347587
【氏名又は名称】株式会社LINK-US
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】頓田 一真
(72)【発明者】
【氏名】山内 基士
(72)【発明者】
【氏名】中村 恭大
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 裕一郎
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167BE02
4E167BE03
4E167BE04
4E167BE07
(57)【要約】
【課題】ワーク同士の接合の質の向上を図りうる超音波接合用チップ、およびこれを用いた超音波接合装置ならびに超音波接合方法を提供する。
【解決手段】略円柱状のロッド部44の軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1(略円形状の断面の半径)に対するロッド部44の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が30以上である。その一方、略円柱状のロッド部44の軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1に対するロッド部44の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が120以下である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、当該基部に対して軸線方向に連続して延在しているロッド部と、を有し、
前記ロッド部の前記軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1に対する前記ロッド部の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が、30~120の範囲に含まれるように形成されている超音波接合用チップ。
【請求項2】
請求項1に記載する超音波接合用チップにおいて、
前記ロッド部の前記軸線方向に垂直な方向についての最大断面積s1に対する、前記基部の前記軸線方向に垂直な方向についての最大断面積S1の比率(S1/s1)が、6.2~52.9の範囲に含まれるように形成されている
超音波接合用チップ。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波接合用チップにおいて、
前記超音波接合用チップが前記一方のワークに当接していない状態において、前記超音波接合用チップを含む振動系全体の共振周波数f1に対する、前記超音波接合用チップの単独での共振周波数f2の比率f2/f1が、1.005~1.07の範囲に含まれるように形成されている
超音波接合用チップ。
【請求項4】
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の超音波接合用チップにおいて、
前記基部の前記軸線方向に垂直な方向についての断面積または断面の周縁部までの最大距離が、前記ロッド部に近づくにつれて小さくなるように形成されている
超音波接合用チップ。
【請求項5】
請求項1~3のうちいずれか1項に記載の超音波接合用チップにおいて、
前記基部および前記ロッド部のそれぞれを構成する材料の相違により、前記基部における音速よりも前記ロッド部における音速が大きくなるように構成されている
超音波接合用チップ。
【請求項6】
軸線方向に延びるように形成されている、超音波接合用チップであって、
前記超音波接合用チップの軸線方向に対して垂直な断面について、前記超音波接合用チップが前記軸線方向について中間部分で局所的に細くなっている単一の指定部分を有し、
前記単一の指定部分の前記軸線方向の長さd2に対する前記超音波接合用チップの前記軸線方向の長さD2の比率(D2/d2)が1.5~3.5の範囲に含まれ、かつ、
前記軸線方向において垂直な断面における、前記単一の指定部分の最小断面積s2に対する前記超音波接合用チップの最大断面積S2の比率(S2/s2)が2~7の範囲に含まれるよう形成されている
超音波接合用チップ。
【請求項7】
縦振動およびねじり振動を合成することにより複合振動を誘起する振動要素と、
超音波接合用チップと、
前記振動要素の複合振動を制御する制御装置と、を備えている超音波接合装置であって、
前記超音波接合用チップが一方のワークに当接している状態で、当該一方のワークの他方のワークに対する接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値に応じた信号を出力する指定センサを備え、
前記超音波接合用チップは、
前記振動要素に対して固定されているまたは着脱自在に取り付けられる基部と、当該基部に対して軸線方向に連続して延在しているロッド部と、を有し、
前記ロッド部の前記軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1に対する前記ロッド部の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が30~120の範囲に含まれるように形成され、
前記制御装置は、前記指定センサの出力信号に基づき、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したか否かを判定し、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したと判定した場合に前記振動要素の複合振動を停止させる
超音波接合装置。
【請求項8】
縦振動およびねじり振動を合成することにより複合振動を誘起する振動要素と、
前記振動要素に対して固定されているまたは着脱自在に取り付けられる超音波接合用チップと、
前記振動要素の複合振動を制御する制御装置と、を備えている超音波接合装置であって、
前記超音波接合用チップが一方のワークに当接している状態で、当該一方のワークの他方のワークに対する接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値に応じた信号を出力する指定センサを備え、
前記超音波接合用チップは、
前記超音波接合用チップの軸線方向に対して垂直な断面について、前記超音波接合用チップが前記軸線方向について中間部分で局所的に細くなっている単一の指定部分を有し、
前記単一の指定部分の前記軸線方向の長さd2に対する前記超音波接合用チップの前記軸線方向の長さD2の比率(D2/d2)が1.5~3.5の範囲に含まれ、かつ、
前記軸線方向において垂直な断面における、前記単一の指定部分の最小断面積s2に対する前記超音波接合用チップの最大断面積S2の比率(S2/s2)が2~7の範囲に含まれるよう形成され、
前記制御装置は、前記指定センサの出力信号に基づき、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したか否かを判定し、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したと判定した場合に前記振動要素の複合振動を停止させる
超音波接合装置。
【請求項9】
縦振動およびねじり振動を合成することにより複合振動を誘起する振動要素と、前記振動要素に対して固定されているまたは着脱自在に取り付けられる超音波接合用チップと、を備えている超音波接合装置を用いて、ワークおよび他方のワークを接合する超音波接合方法であって、
前記超音波接合用チップが接合対象であるワークに当接している状態で、当該一方のワークの他方のワークに対する接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値に応じた信号を出力する指定センサを備え、
前記振動要素に対して固定されているまたは着脱自在に取り付けられる基部と、当該基部に対して軸線方向に連続して延在しているロッド部と、を有し、
前記ロッド部の前記軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1に対する前記ロッド部の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が、40≦(D1/d1)≦100となるように形成されているチップが前記超音波接合用チップとして用いられ、
前記超音波接合用チップが接合対象である前記一方のワークに当接している状態で、当該一方のワークの前記他方のワークに対する接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値に応じた信号に基づき、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したか否かを判定する工程と、
前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したと判定された場合に前記振動要素の複合振動を停止させる工程と、を含んでいる
超音波接合方法。
【請求項10】
縦振動およびねじり振動を合成することにより複合振動を誘起する振動要素と、前記振動要素に対して固定されているまたは着脱自在に取り付けられる超音波接合用チップと、を備えている超音波接合装置を用いて、ワークおよび他方のワークを接合する超音波接合方法であって、
軸線方向に対して垂直な断面について、前記超音波接合用チップが前記軸線方向について中間部分で局所的に細くなっている単一の指定部分を有し、
前記単一の指定部分の前記軸線方向の長さd2に対する前記超音波接合用チップの前記軸線方向の長さD2の比率(D2/d2)が1.5~3.5の範囲に含まれ、かつ、
前記軸線方向において垂直な断面における、前記単一の指定部分の最小断面積s2に対する前記超音波接合用チップの最大断面積S2の比率(S2/s2)が2~7の範囲に含まれるよう形成されているチップが前記超音波接合用チップとして用いられ、
前記超音波接合用チップが接合対象である前記一方のワークに当接している状態で、当該一方のワークの前記他方のワークに対する接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値に応じた信号に基づき、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したか否かを判定する工程と、
前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したと判定された場合に前記振動要素の複合振動を停止させる工程と、を含んでいる
超音波接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波振動により金属、半導体および/またはプラスチック等のワークを接合するために当該一方のワークに当接する超音波接合用チップ、および、当該超音波接合用チップを用いた超音波接合装置ならびに超音波接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品パック等に用いられるプラスチック、または電池部品等の金属を接合するため、超音波接合が利用されている。一般的な超音波接合装置は、接合用チップ(工具)の先端を超音波振動させ、接合対象物(ワーク)に繰り返し圧力を加えることにより接合する。
【0003】
超音波接合ではワークに対する適切な超音波振動の印加時間があり、下記非特許文献1にあるように、印加時間が長すぎると、接合部の接合強度が下がるほか、ワークに亀裂などのダメージが発生しうる。
【0004】
従来は、所定の超音波振動の印加時間通りに接合を行う接合方法が実施されている。例えば、下記特許文献1では、接合開始時に超音波による振幅を高めたうえで、あらかじめ設定された減衰開始時間に達すると、超音波振動のホーンの振幅を小さくする。さらに一定時間経過後に超音波振動の付与を停止し、接合処理を完成させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】作山英雄、渡辺健彦、柳沢敦、小沼静代「アルミニウム合金と鉄鋼の超音波接合」,「溶接学会全国大会講演概要」,2005,2005f巻,平成17年度秋季全国大会,セッションID416,p.167
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006―263816
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記の方法では以下のような問題がある。
【0008】
ワークの材質、形状、ワークの押さえ方および/またはワークの形状のバラツキによって当該一方のワークに対する超音波振動の印加時間は異なる。そのため適切な印加時間を個別に、または、正確に予め定めることは困難である。また、ワークの形状のバラツキに対して事前に印加時間を設定するだけでは、ワーク同士の接合強度を安定させることは困難な場合がある。さらに、チップの減衰時間を事前に設定するだけでは、必要以上に超音波を印加してしまう可能性があり、ワークの接合の質が低下しうる。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ワーク同士の接合の質の向上を図りうる超音波接合用チップ、およびこれを用いた超音波接合装置ならびに超音波接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1態様としての超音波接合用チップは、
基部と、当該基部に対して軸線方向に連続して延在しているロッド部と、を有し、
前記ロッド部の前記軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1に対する前記ロッド部の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が、30~120の範囲に含まれるように形成されている。
【0011】
当該構成の超音波接合用チップによれば、(D1/d1)が30以上である。このため、当該超音波接合用チップが当接している一方のワークおよび他方のワークの超音波接合の完了前および完了後において、当該一方のワークから当該超音波接合用チップに作用する力の変化に応じた、当該超音波接合用チップの超音波振動の振幅の変化の感度の向上が図られる。その一方、(D1/d1)が120以下である。このため、超音波接合用チップの超音波振動を一方のワークに対して効率的に伝達させ、ひいては当該一方のワークと他方のワークとの接合効率の向上が図られる。
【0012】
したがって、超音波接合用チップの超音波振動の振幅など、一方のワークおよび他方のワークの接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる。そして、当該判定結果が一方のワークおよび他方のワークの接合が完了したことを示している場合、超音波接合用チップの超音波振動を停止させ、その結果として、超音波接合用チップを超音波振動させている期間が、一方のワークおよび他方のワークの接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【0013】
前記構成の超音波接合用チップにおいて、
前記ロッド部の前記軸線方向に垂直な方向についての最大断面積s1に対する、前記基部の前記軸線方向に垂直な方向についての最大断面積S1の比率(S1/s1)が、6.2~52.9の範囲に含まれるように形成されている
ことが好ましい。
【0014】
当該構成の超音波接合用チップによれば、(S1/s1)が6.2以上である。このため、超音波接合用チップの超音波振動を一方のワークに対して効率的に伝達させ、ひいては当該一方のワークと他方のワークとの接合効率の向上が図られる。その一方、(S1/s1)が52.9以下である。このため、当該超音波接合用チップが当接している一方のワークおよび他方のワークの超音波接合の完了前および完了後において、当該一方のワークから当該超音波接合用チップに作用する力の変化に応じた、当該超音波接合用チップの超音波振動の振幅の変化の感度の向上が図られる。
【0015】
前記構成の超音波接合用チップにおいて、
前記超音波接合用チップが前記一方のワークに当接していない状態において、前記超音波接合用チップを含む振動系全体の共振周波数f1に対する、前記超音波接合用チップの単独での共振周波数f2の比率f2/f1が、1.005~1.07の範囲に含まれるように形成されている
ことが好ましい。
【0016】
当該構成の超音波接合用チップによれば、当該超音波接合用チップの超音波振動の振幅など、一方のワークおよび他方のワークの接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる。そして、当該判定結果が一方のワークおよび他方のワークの接合が完了したことを示している場合、超音波接合用チップの超音波振動を停止させ、その結果として、超音波接合用チップを超音波振動させている期間が、ワークおよび他方のワークの接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【0017】
前記構成の超音波接合用チップにおいて、
前記基部の前記軸線方向に垂直な方向についての断面積または断面の周縁部までの最大距離が、前記ロッド部に近づくにつれて小さくなるように形成されている
ことが好ましい。
【0018】
当該構成の超音波接合用チップによれば、チップの基部の形状が、ロッド方向に向かうにつれてその軸線方向に垂直な方向の断面積が小さくなっていることから、一方のワークに対して均一な超音波エネルギーを伝達可能である。これにより、当該一方のワークおよび他方のワークの接合の質の向上が図られる。
【0019】
前記構成の超音波接合用チップにおいて、
前記基部および前記ロッド部のそれぞれを構成する材料の相違により、前記基部における音速よりも前記ロッド部における音速が大きくなるように構成されている
ことが好ましい。
【0020】
当該構成の超音波接合用チップによれば、基部との連続箇所におけるロッド部の軸線方向に対して垂直な方向への変位量の、当該軸線方向についての増加率の抑制が図られる。これにより、ロッド部における超音波複合振動の安定化が図られ、ひいては一方のワークおよび他方のワークの接合の質の向上が図られる。
【0021】
本発明の第2態様としての超音波接合用チップは、
軸線方向に延びるように形成されている、超音波接合用チップであって、
前記超音波接合用チップの軸線方向に対して垂直な断面について、前記超音波接合用チップが前記軸線方向について中間部分で局所的に細くなっている単一の指定部分を有し、
前記単一の指定部分の前記軸線方向の長さd2に対する前記超音波接合用チップの前記軸線方向の長さD2の比率(D2/d2)が1.5~3.5の範囲に含まれ、かつ、
前記軸線方向において垂直な断面における、前記単一の指定部分の最小断面積s2に対する前記超音波接合用チップの最大断面積S2の比率(S2/s2)が2~7の範囲に含まれるよう形成されている。
【0022】
当該構成の超音波接合用チップによれば、(D2/d2)が3.5以下であり、かつ、(S2/s2)が2以上である。このため、当該超音波接合用チップが当接している一方のワークおよび他方のワークの超音波接合の完了前および完了後において、当該一方のワークから当該超音波接合用チップに作用する力の変化に応じた、当該超音波接合用チップの超音波振動の振幅の変化の感度の向上が図られる。その一方、(D2/d2)が1.5以上であり、かつ、(S2/s2)が7以下である。このため、超音波接合用チップの超音波振動を一方のワークに対して効率的に伝達させ、ひいては当該一方のワークと他方のワークとの接合効率の向上が図られる。
【0023】
したがって、超音波接合用チップの超音波振動の振幅など、ワークおよび他方のワークの接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる。そして、当該判定結果がワークおよび他方のワークの接合が完了したことを示している場合、超音波接合用チップの超音波振動を停止させ、その結果として、超音波接合用チップを超音波振動させている期間が、ワークおよび他方のワークの接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【0024】
本発明の第1態様としての超音波接合装置は、
縦振動およびねじり振動を合成することにより複合振動を誘起する振動要素と、
本発明の第1態様としての超音波接合用チップと、
前記振動要素の複合振動を制御する制御装置と、を備えている超音波接合装置であって、
前記超音波接合用チップが一方のワークに当接している状態で、当該一方のワークの他方のワークに対する接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値に応じた信号を出力する指定センサを備え、
前記制御装置は、前記指定センサの出力信号に基づき、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したか否かを判定し、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したと判定した場合に前記振動要素の複合振動を停止させる。
【0025】
当該構成の超音波接合装置によれば、本発明の第1態様としての超音波接合用チップの超音波振動の振幅など、一方のワークおよび他方のワークの接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる。そして、当該判定結果が一方のワークおよび他方のワークの接合が完了したことを示している場合、超音波接合用チップの超音波振動を停止させ、その結果として、超音波接合用チップを超音波振動させている期間が、一方のワークおよび他方のワークの接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【0026】
本発明の第2態様としての超音波接合装置は、
縦振動およびねじり振動を合成することにより複合振動を誘起する振動要素と、
前記振動要素に対して固定されているまたは着脱自在に取り付けられる 本発明の第2態様としての超音波接合用チップと、
前記振動要素の複合振動を制御する制御装置と、を備えている超音波接合装置であって、
前記超音波接合用チップが一方のワークに当接している状態で、当該一方のワークの他方のワークに対する接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値に応じた信号を出力する指定センサを備え、
前記制御装置は、前記指定センサの出力信号に基づき、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したか否かを判定し、前記一方のワークと前記他方のワークとの接合が完了したと判定した場合に前記振動要素の複合振動を停止させる。
【0027】
当該構成の超音波接合装置によれば、本発明の第2態様としての超音波接合用チップの超音波振動の振幅など、一方のワークおよび他方のワークの接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる。そして、当該判定結果が一方のワークおよび他方のワークの接合が完了したことを示している場合、超音波接合用チップの超音波振動を停止させ、その結果として、超音波接合用チップを超音波振動させている期間が、一方のワークおよび他方のワークの接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】超音波接合装置の構成説明図。
図2】本発明の一実施形態としての超音波接合用チップの構成説明図。
図3】超音波接合装置の機能に関するフローチャート。
図4】超音波接合用チップの振幅およびパワーの変化を示す図(従来)。
図5】本発明の他の実施形態としての超音波接合用チップの構成説明図。
図6】超音波接合用チップの構成の相違による振幅変化態様の差異に関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(構成)
図1に示されている本発明の第1実施形態としての超音波複合振動装置1は、金属板等の接合対象物であるワークW1およびW2を後述する超音波複合振動を利用して接合する超音波接合装置の構成要素である。超音波接合装置は、例えば、リチウムイオン電池および/または半導体素子の電極、同種または異種の金属の接合に用いられる。
【0030】
図1に示されているように、超音波複合振動装置1は、略円柱状の第1振動要素11と、略円柱状、略円筒状または略有底円筒状の中間振動要素10と、略円筒状または略有底円筒状の第2振動要素12と、を備えている。第1振動要素11、中間振動要素10および第2振動要素12は「振動要素」を構成する。超音波接合装置は、超音波複合振動装置1と、ホーンチップ40(超音波接合用チップ)と、アンビル18と、を備えている。
【0031】
第1振動要素11および中間振動要素10が、超音波複合振動装置1の中腹部または中間部において、機械的連結機構(ボルトおよび/またはクランプ機構など)により同軸に連結されている。中間振動要素10および第2振動要素12が、超音波複合振動装置1の中腹部において、機械的連結機構により同軸に連結されている。第1振動要素11、中間振動要素10および第2振動要素12が機械的に連結されるのではなく、一体的に構成されていてもよい。
【0032】
中間振動要素10が第1振動要素11の構成要素であってもよい。すなわち、第1振動要素11が2つの振動要素により構成されていてもよい。この場合、第1振動要素11および中間振動要素10が機械的に連結されるのではなく、一体的に構成されていてもよい。中間振動要素10が第2振動要素12の構成要素であってもよい。すなわち、第2振動要素12が2つの振動要素により構成されていてもよい。この場合、第2振動要素12および中間振動要素10が機械的に連結されるのではなく、一体的に構成されていてもよい。
【0033】
図1に示されているように、第1振動要素11には、その軸線方向を圧電分極方向とする圧電体112が設けられている。
【0034】
図1に示されているように、中間振動要素10には、その軸線方向の中間位置において、全周にわたり径方向に張り出している、略円環板状の中間フランジ100が形成されている。中間振動要素10は、少なくとも中間フランジ100においてクランプ機構(図示略)により全周にわたりクランプまたは支持されるように構成されている。中間振動要素10が、機械的支持機構により支持されることが担保されている場合、中間フランジ100は省略されてもよい。図1に示されているように、中間振動要素10は、中間フランジ100より後方(図1の左方向)においては外径が軸線方向に略一定の略円筒状である。図1に示されているように、中間振動要素10は、中間フランジ100より前方(図1の右方向)においては先端部に向かって途中まで連続的に縮径した後、略一定の外径を有する略円筒状(略円錐台筒状および略円筒状が同軸に連結された形状)である。
【0035】
図1に示されているように、第2振動要素12には、その軸線方向の中間位置において、全周にわたり径方向に張り出している、隅角が丸い略正八角形状の周波数調整要素120が設けられている。周波数調整要素120により超音波振動の縦振動成分およびねじり振動成分の共振周波数が調整される。
【0036】
図1に示されているように、第2振動要素12には、周波数調整要素120より後方において、外側面に複数のスリット124が形成されている。複数のスリット124が、周波数調整要素120より前方において第2振動要素12の外側面に形成されていてもよい。スリット124は、第2振動要素12において、側方から見た際に斜めに延在するように、あるいは、同位相で周方向に変位しながら軸線方向に延在している。N本(N=2、3,‥)のスリット124は、第2振動要素12の中心軸線まわりのN回回転対称性(例えば、N=8、12または16)を有するように配置されていてもよい。
【0037】
図1に示されているように、第2振動要素12には、その軸線方向の先端位置において、全周にわたり径方向に張り出している、隅角が丸い略正八角形状の先端部126が設けられている。先端部126には、その周方向に離間した複数の箇所のそれぞれに穴128(または貫通孔)が形成されている。N個(N=2、3,‥)の穴128は、第2振動要素12の中心軸線まわりのN回回転対称性(例えば、N=4)を有するように配置されていてもよい。穴128の内側面にはメネジが設けられている。
【0038】
ホーンチップ40は、略円錐台状の基体部と、ワークW1およびW2のうち最も上にある一方のワークW1に対して当接する先端部とを有している。ホーンチップ40の基端部に設けられているオネジが、第2振動要素12の先端部126の穴128に設けられているメネジに螺合することにより、ホーンチップ40が第2振動要素12に対して取り外し可能に固定される。様々な形状のホーンチップ40が準備されることにより、接合対象となる金属の種類などに応じてホーンチップ40が適宜交換可能である。
【0039】
第2振動要素12の先端部126、ひいてはホーンチップ40における縦振動およびねじり振動の位相差を調整するためのバランサのオネジが穴128のメネジに螺着されることにより、当該バランサが第2振動要素12の先端部126に対して取り外し可能に固定されてもよい。
【0040】
アンビル18は、ホーンチップ40の先端部に対して鉛直方向に対向するように配置されている。アンビル18の上部表面には、例えば略平板状のワークW1およびW2が重ねて載置される。アンビル18は、ワークW1およびW2を介して受けるホーンチップ40の圧力に応じて上下に受動的または能動的に変位するように構成されていてもよい。
【0041】
図1に示されているように、超音波接合装置は、制御装置20と、高周波電源装置21と、加圧装置22と、状態センサ24と、インターフェース装置26と、をさらに備えている。
【0042】
高周波電源装置21は、商用電源(図示略)から供給された電力に応じて、第1振動要素11の圧電体112に高周波交流電圧を印加することにより、第1振動要素11を軸線方向に励振するように構成されている。加圧装置22は、加圧ブロックを備え、当該加圧ブロックにより中間振動要素10を支持しているクランプ機構等の支持機構を変位させることにより、ホーンチップ40からワークW1およびW2に対して圧力を加えるように構成されている。状態センサ24は、加圧装置22を構成する加圧ブロックの変位量に応じた信号を出力するストロークセンサのほか、ホーンチップ40の振幅(指定パラメータに該当する。)に応じた信号を出力する振幅センサを含んでいる。振幅センサは、撮像装置および当該撮像装置を通じて取得された撮像画像の解析により当該振幅を算定する機器とにより構成されるセンサモジュールであってもよい。
【0043】
インターフェース装置26は、例えば、ディスプレイにより構成され、当該ディスプレイに状態センサ24の出力信号に応じた加圧ブロックの変位量および/または圧力の時系列などを表示または出力する。当該ディスプレイがタッチパネル式のディスプレイにより構成され、ユーザにより目標圧力の時系列パターンを定める複数の接合モードのうちの一の接合モードなど、パラメータを直接的または間接的に指定させるための設定操作を受け付けるように構成されていてもよい。
【0044】
制御装置20は、マイクロコンピュータ、ひいては演算処理装置(CPU、マイクロプロセッサ、プロセッサコアなど)および記憶装置(ROM、RAMなどのメモリ)により構成されている。制御装置20は、例えば、状態センサ24を構成するストロークセンサの出力信号により表わされる加圧ブロックの変位量の時系列に基づき、加圧装置22による当該加圧ブロックの変位動作を制御するように構成されている。制御装置20は、状態センサ24を構成する振幅センサの出力信号により表わされるホーンチップ40の振幅(指定パラメータに該当する。)に基づき、圧電体112に対する供給電力を制御し、ひいては振動要素(第1振動要素11、中間振動要素10および第2振動要素12)の超音波振動パワーおよびホーンチップ40の超音波振動パワーを制御するように構成されている。状態センサ24として、加圧装置22の加圧ブロックから中間振動要素10に作用する圧力(~ホーンチップ40がワークW1およびW2に加える圧力)に応じた信号を出力する圧力センサが設けられ、当該圧力センサの出力信号に基づき、当該圧力の時系列が一定にまたは指定態様に制御されるように制御装置20により制御されてもよい。
【0045】
図2に示されているように、ホーンチップ40は、取付部41、基部42およびロッド部44を備えている。取付部41は略円柱状に形成され、その外側面には第2振動要素12の先端部126の穴128に形成されているメネジに螺合するオネジが形成されている。基部42は、取付部41に対して同軸に連続し、当該取付部41よりも大径の略円柱状の第1部分と、当該第1部分と略同径の下底面を有する略円錐台状の第2部分と、を有している。ロッド部44は、基部42の第2部分に同軸に連続し、当該第2部分の上底面よりも小径に形成されている略円柱状に形成されている。
【0046】
取付部41が省略され、基部42の第1部分の端面から軸線方向にのびるにネジ穴が形成され、第2振動要素12の先端部126に対して螺着されたまたは固定されたボルトまたはオネジが当該ネジ穴のメネジに螺合されることにより、ホーンチップ40が第2振動要素12に対して取り付けられてもよい。
【0047】
ロッド部44の軸線方向(または長手方向)に垂直な方向について、最大断面積を有する略円形状の断面の中心から、当該略円形状の断面の周縁部までの最大距離d1(円形断面の半径)に対する、ロッド部44の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が、40~100の範囲に含まれるように形成されている。例えば、略円柱状のロッド部44の軸線方向の長さD1が60mmである場合、当該ロッド部44の半径は(60/100)~(60/40)mm=0.6~1.5mmの範囲に含まれるように設計されている。
【0048】
ロッド部44の軸線方向に垂直な方向についての最大断面積s1に対する、基部42の軸線方向に垂直な方向についての最大断面積S1の比率(S1/s1)が、6.2~52.9の範囲に含まれるようにホーンチップ40が形成されている。本実施形態では、ロッド部44が略円柱状であるため、その半径rを用いて最大断面積S1はπr2と表わされ、基部42が略円柱状の第1部分および略円錐台状の第2部分の組み合わせであるため、第1部分の径Rを用いて最大断面積s1はπR2と表わされるので、当該比率(S1/s1)=(r2/R2)が6.2~52.9の範囲((r/R)が2.89~7.27の範囲)に含まれている。
【0049】
基部42は略円柱状の第1部分および略円錐台状の第2部分の組み合わせとは異なる形状であってもよい。例えば、基部42が略円柱状、略角柱状、略円錐台状または略角錐台状であってもよい。ロッド部44の断面形状は略円形状のほか、略楕円形状、略矩形状(正方形状、平行四辺形状など)、略多角形状(例えば、正M角形(例えばM=8~16)、略星形M角形(例えばM=4~16))など、さまざまな形状であってもよい。ロッド部44は、軸線方向の断面形状が、当該軸線方向に沿って略円形状のほか、略楕円形状、略矩形状(正方形状、平行四辺形状など)、略多角形状(例えば、正M角形、略星形M角形)など、さまざまな形状にさまざまな順序で変化するように形成されていてもよい。
【0050】
ホーンチップ40がワークW1に当接していない状態において共振周波数で共振している際の、ホーンチップ40を含む振動系全体の共振周波数f1に対する、ホーンチップ40の単独での共振周波数f2の比率(f2/f1)が、1.005~1.07の範囲に含まれるように形成されていてもよい。当該構成により、ホーンチップ40の超音波振動の振幅など、一方のワークW1および他方のワークW2の接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる。そして、当該判定結果が一方のワークW1および他方のワークW2の接合が完了したことを示している場合、ホーンチップ40の超音波振動を停止させ、その結果として、ホーンチップ40を超音波振動させている期間が、ワークW1および他方のワークW2の接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【0051】
ホーンチップ40がワークW1に当接していない状態では、ロッド部44の自由端部が超音波複合振動の定在波の腹となる。このため、ロッド部44の自由端部と、当該自由端部から最も近い当該定在波の節の位置との位相差は(π/2)になる。図2には、ホーンチップ40がワークW1に当接している状態において共振周波数で共振している際の超音波複合振動の定在波(振幅は軸線方向に対して垂直な方向の振幅またはホーンチップ40の変位量を表わしている。)が実線で示されている。図2には、ホーンチップ40の曲がり角度の変化態様が破線で示されている。ロッド部44の基端部と定在波の自由端部に最も近い節の位置との定在波の位相差が0.10π~0.21πの範囲に含まれるように、ホーンチップ40およびワークW1の当接状態(当接圧力など)が調整されていてもよい。
【0052】
基準振幅A0が設定される(図3/STEP01)。例えば、インターフェース装置26を構成するタッチパネル式のディスプレイを通じて、ユーザにより基準振幅A0を定める複数の接合モードのうちの一の接合モードなど、当該基準振幅A0が直接的または間接的に指定されていてもよい。
【0053】
加圧装置22により、第1振動要素11、中間振動要素10および第2振動要素12ならびにホーンチップ40が下方に動かされる(図3/STEP02)。ホーンチップ40の先端部(ロッド部44の自由端部)が、ワークW1およびW2から受ける圧力Pが状態センサ24を構成する圧力センサの出力信号に基づいて測定される(図3/STEP04)。ホーンチップ40の先端部が、ワークW1から離間している状態ではP=0であり、ワークW1に当接するとP>0となる。
【0054】
ホーンチップ40が受ける圧力Pが指定圧力P0以上になったか否かが判定される(図3/STEP06)。当該判定結果が否定的である場合(図3/STEP06‥NO)、加圧装置22により、加圧装置22により、第1振動要素11、中間振動要素10および第2振動要素12ならびにホーンチップ40が下方に動かされる(図3/STEP02)。これにより、ホーンチップ40の鉛直位置、ひいては当該ホーンチップ40の先端部からワークW1およびW2に加えられる静圧が指定静圧範囲(例えば、200N~800N)に含まれるように調節される。
【0055】
当該判定結果が肯定的である場合(図3/STEP06‥YES)、振動要素において超音波振動が発生される(図3/STEP08)。具体的には、商用電源(図示略)から高周波電源装置21に電力が供給されたことに応じて、高周波電源装置21によって第1振動要素11の圧電体112に対して高周波交流電圧が印加される。これにより、第1振動要素11が、例えば約20KHzでその軸線方向に振動し、超音波振動が発生する。第1振動要素11から中間振動要素10に対してその軸線方向に超音波振動が伝達され、当該超音波振動の振幅が増幅される。さらに、中間振動要素10から振幅が増幅された超音波振動が第2振動要素12に対してその軸線方向に伝達される。
【0056】
このように、第2振動要素12に対して伝達された超音波振動の縦振動成分(第2振動要素12の軸線方向成分)の一部が、第2振動要素12の外側面に形成されている複数のスリット124により、ねじり振動成分に変換される。そして、縦振動成分およびねじり振動成分が複合されることにより生じた複合振動が、第2振動要素12の先端部126に固定されたホーンチップ40に対して伝達される。
【0057】
これに応じて、ホーンチップ40の先端部が円軌道または楕円軌道を描くように水平方向に変位または振動する。これにより、図4に模式的に示されているように、振動開始時刻t=t0から、ホーンチップ40の振幅および超音波振動パワーが徐々に増大していく。この際、ワークW1およびW2の接触面の不純物が排除され、さらにワークW1およびW2の接触面の塑性変形が促進されうる。そして、図4に示されているように、ホーンチップ40の振幅および超音波振動パワーの増大率が時刻t=t1で大きく減少した後、ホーンチップ40の振幅および超音波振動パワーが徐々に増大していく。これは、一方のワークW1および他方のワークW2のそれぞれの接合面を構成する金属の酸化被膜等が除去され、当該接合面に清浄かつ活性化した金属原子が現れ、摩擦熱による温度上昇で原子の運動が活発となり、原子間の相互引力が発生したことに由来している。
【0058】
この際、ホーンチップ40によるワークW1およびW2の押し込み量および/またはワークW1およびW2にかける静圧が調整されながら、当該一方のワークW1およびW2に対して複合振動が与えられることでワークW1およびW2が固相接合されうる。
【0059】
状態センサ24を構成する振幅センサにより、ホーンチップ40の指定箇所(例えば、振幅が比較的大きい箇所)における振幅Aが光学的に測定される(図3/STEP10)。ホーンチップ40の振幅Aの時間微分δA(=今回振幅A(k)-前回振幅A(k-1))が負であり、かつ、振幅Aが基準振幅A0以下であるか否かが判定される(図3/STEP12)。当該判定処理に代えて、振幅Aが減少を開始した時点での極大値を基準として、当該振幅Aが基準振幅A0だけ(または極大値を基準とした基準比率)だけ低下したか否かが判定されてもよい。
【0060】
当該判定結果が否定的である場合(図3/STEP12‥NO)、振動要素において超音波振動が継続的に発生される(図3/STEP08)。その一方、当該判定結果が肯定的である場合(図3/STEP12‥YES)、振動要素において超音波振動の発生が停止される(図3/STEP14)。例えば、図4に示されているように、ホーンチップ40の振幅が増加から減少に転じ、かつ、基準振幅A0以下になった時刻t=t2の後、若干の応答遅れを伴ってホーンチップ40の超音波パワーが0になるように制御される。
【0061】
(効果)
前記構成の超音波複合振動装置1によれば、略円柱状のロッド部44の軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1(略円形状の断面の半径)に対するロッド部44の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が40以上である。ロッド部44の軸線方向に垂直な方向についての最大断面積s1に対する、基部42の軸線方向に垂直な方向についての最大断面積S1の比率(S1/s1)が52.9以下である。このため、当該ホーンチップ40が当接しているワークW1およびワークW2の超音波接合の完了前および完了後において、当該一方のワークW1から当該ホーンチップ40に作用する力の変化に応じた、当該ホーンチップ40の超音波振動の振幅Aの変化の感度の向上が図られる。
【0062】
その一方、略円柱状のロッド部44の軸線方向に垂直な方向について、最大断面積を有する断面の中心から、当該断面の周縁部までの最大距離d1に対するロッド部44の軸線方向の長さD1の比率(D1/d1)が100以下である。また、ロッド部44の軸線方向に垂直な方向についての最大断面積s1に対する、基部42の軸線方向に垂直な方向についての最大断面積S1の比率(S1/s1)が6.2以上である。このため、ホーンチップ40の超音波振動を一方のワークW1および他方のW2に対して効率的に伝達させ、ひいては当該一方のワークW1および他方のワークW2の接合効率の向上が図られる。
【0063】
したがって、ホーンチップ40の超音波振動の振幅Aなど、一方のワークW1および他方のワークW2の接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる(図3/STEP12および図4のホーンチップの振幅参照)。そして、当該判定結果が一方のワークW1および他方のワークW2の接合が完了したことを示している場合、ホーンチップ40の超音波振動を停止させることができる(図3/STEP12‥YES→STEP14および図4の時刻t=t2以降の超音波振動パワー参照)。その結果、ホーンチップ40を超音波振動させている期間が、一方のワークW1および他方のワークW2の接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【0064】
(本発明の他の実施形態)
前記実施形態では、一方のワークW1および他方のワークW2の接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータとして、ホーンチップ40の振幅Aが測定されたが、他の実施形態として、振動要素(例えば、第2振動要素12)の軸線方向の変位量、変位速度および/または変位加速度が指定パラメータとしてその値が測定されてもよい。
【0065】
図5に示されているように、本発明の他の実施形態としてのホーンチップ40は、その軸線方向に沿って中間部分にある単一の指定部分440が、基端部441および先端部442と比較して局所的に縮径されている。基端部441は、略円柱状に形成されている。先端部442は、基端部441より小径の略円柱状である第1部分および当該第1部分と略同径の下底面を有する略円錐台状の第2部分とが同軸に連続するように組み合わせられた形状に形成されている。指定部分440は、先端部442の第1部分よりも小径の略円柱状に形成されている。基端部441の基端側に前記実施形態と同様に取付部41が設けられていてもよい。
【0066】
指定部分440は、基端部441の側の一端部から先端部442の側の他端部にかけて(ホーンチップ40の軸線方向または長手方向に)徐々に縮径して中間領域で最小径を示した後で徐々に拡径する略皷状であって、少なくとも当該中間領域においてホーンチップ40の最小径となるような略皷状に形成されてもよい。この場合、指定部分440は、一端部において基端部441と略同径または小径であってもよく、他端部において先端部442の第1部分と略同径または小径であってもよい。また、ホーンチップ40の軸線方向(x方向)について径(=2r)の2次微分値(=2(d2r/dx2))が負から正に変化する箇所から、正から負に変化する箇所までが指定部分440として定義されていてもよい。
【0067】
基端部441、指定部分440および先端部442の形状は、さまざまに変更されてもよい。例えば、基端部441、指定部分440および先端部442のそれぞれは、略円柱状、略角柱状、略円錐台状もしくは略角錐台状またはこれらの組み合わせであってもよい。基端部441、指定部分440および先端部442のそれぞれは、軸線方向の断面形状が、当該軸線方向に沿って略円形状のほか、略楕円形状、略矩形状(正方形状、平行四辺形状など)、略多角形状(例えば、正M角形(例えばM=8~16)、略星形M角形(例えばM=4~16))など、さまざまな形状にさまざまな順序で変化するように形成されていてもよい。
【0068】
単一の指定部分440の軸線方向の長さd2に対するホーンチップ40の軸線方向の長さD2の比率(D2/d2)が1.5~3.5(好ましくは、1.8~3.0、2.0~3.0または2.2~2.8)の範囲に含まれている。軸線方向において垂直な断面における、指定部分440の最小断面積s2に対するホーンチップ40の最大断面積S2の比率(S2/s2)が2~7(好ましくは、2.5~6.2、3.2~5.5または3.8~4.6)の範囲に含まれている。本実施形態では、指定部分440は略円柱状であるため、その半径qを用いて最小断面積s2はπq2と表わされる。本実施形態では、ホーンチップ40の断面積が最大になるのは略円柱状の基端部441における断面であるため、当該基端部441の半径Qを用いてホーンチップ40の最大断面積S2はπQ2と表わされる。このため、指定部分440の最小断面積s2に対するホーンチップ40の最大断面積S2の比率(S2/s2)=(Q2/q2)が2~7の範囲((Q/q)が1.14~2.65の範囲)に含まれている。
【0069】
当該構成のホーンチップ40によれば、(D2/d2)が3.5以下であり、かつ、(S2/s2)が2以上である。このため、当該ホーンチップ40が当接している一方のワークW1および他方のワークW2の超音波接合の完了前および完了後において、当該一方のワークW1から当該ホーンチップ40に作用する力の変化に応じた、当該ホーンチップ40の超音波振動の振幅の変化の感度の向上が図られる。その一方、(D2/d2)が1.5以上であり、かつ、(S2/s2)が7以下である。このため、ホーンチップ40の超音波振動を一方のワークW1に対して効率的に伝達させ、ひいては当該一方のワークW1と他方のワークW2との接合効率の向上が図られる。
【0070】
したがって、ホーンチップ40の超音波振動の振幅Aなど、一方のワークW1および他方のワークW2の接合の進捗状況に応じて変化する指定パラメータの値の変化態様に応じて、当該接合が完了したか否かが精度良く判定されうる(図3/STEP12および図4のホーンチップの振幅参照)。そして、当該判定結果が一方のワークW1および他方のワークW2の接合が完了したことを示している場合、ホーンチップ40の超音波振動を停止させることができる(図3/STEP12‥YES→STEP14および図4の時刻t=t2以降の超音波振動パワー参照)。その結果、ホーンチップ40を超音波振動させている期間が、一方のワークW1および他方のワークW2の接合の質の向上の観点から適当に制御されうる。
【0071】
図2に示されているように、ホーンチップ40の外形には、基部42およびロッド部44の連続箇所において径または断面積の相違に由来する段差が存在する。当該段差、ひいてはホーンチップ40の断面積の変化が過度に大きい場合、ロッド部44の基部42との連続箇所における振幅(軸線方向に垂直な方向への変位量)が過度に大きくなる可能性がある。このため、ホーンチップ40の当該連続箇所における破損の可能性が高まるだけでなく、振動状態が不安定になる可能性がある。このため、ホーンチップ40が一体的に形成され、基部42およびロッド部44の連続箇所における断面積の変化が低減されるように外形が設計されることが好ましいが、ホーンチップの製造コストの増大を招く。
【0072】
製造コストの抑制を図る観点から、別個に形成された基部42およびロッド部44によりホーンチップ40が構成されている。ロッド部44の後端部がロッド部42の先端部に形成された穴に圧入され、あるいは、ロッド部44の後端部に形成されたオネジがロッド部42の先端部の穴に形成されたメネジに螺合される。
【0073】
前記問題を解決するため、基部42およびロッド部44のそれぞれを構成する材料の相違により、基部42における音速cs42よりもロッド部44における音速cs44が大きくなるように構成されていることが好ましい。音速cs(棒状部材の縦振動の速さ)は(E/ρ)1/2(E:ヤング率、ρ:比重)により定義されるので、基部42を構成する材料のヤング率E42および比重ρ42と、ロッド部44を構成する材料のヤング率E44および比重ρ44と、が、(E42/ρ421/2<(E44/ρ441/2という大小関係になるように当該材料(例えば、ステンレス鋼などの金属材料)が選択されることが好ましい。例えば、基部42を構成する材料としてステンレス鋼が採用され、ロッド部44を構成する材料としてタングステン合金などの合金が採用されることが好ましい。
【0074】
図6には、cs42よりもロッド部44における音速cs44となるように基部42およびロッド部44のそれぞれを構成する材料が差異化された場合の当該ロッド部44の振幅(軸線方向に対して垂直な方向への変位量)が実線により示されている。基部42およびロッド部44のそれぞれを構成する材料が同一である場合(cs42=cs44である場合)の当該ロッド部44の振幅が破線により示されている。ロッド部44の後端部における当該変位量の軸線方向についての増加率に関して前者の場合は後者の場合よりも小さくなっていること、ひいては、ホーンチップ40の破損の可能性が低減されていることがわかる。音速が高い材料は通常ヤング率Eも高くなるので、ロッド部44の振幅も低減されて振動が中心軸から外れることなく安定した振動状態を維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0075】
1‥超音波複合振動装置
10‥中間振動要素
100‥中間フランジ
11‥第1振動要素
112‥圧電体
12‥第2振動要素
120‥周波数調整要素
121‥円柱状部分
122‥円筒状部分
124‥スリット
126‥先端部
128‥穴
18‥アンビル
20‥制御装置
21‥高周波電源装置
22‥加圧装置
24‥ストロークセンサ
26‥インターフェース装置。
40‥ホーンチップ(超音波接合用チップ)
41‥取付部
42‥基部
44‥ロッド部
440‥指定部分
441‥基端部
442‥先端部
W1‥一方のワーク
W2‥他方のワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6