(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024729
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】建物ロック装置
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20250214BHJP
F16F 15/027 20060101ALI20250214BHJP
F16F 9/46 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
E04H9/02 331B
F16F15/027
F16F9/46
E04H9/02 331D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128947
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】カヤバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122323
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 憲
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 健斗
(72)【発明者】
【氏名】臼井 隆充
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J069
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AB16
2E139BA12
2E139CA02
2E139CA11
2E139CB07
2E139CB08
2E139CC02
3J048AB08
3J048AB11
3J048AC04
3J048AD12
3J048BE03
3J048EA38
3J069AA50
3J069AA64
3J069DD16
3J069EE11
(57)【要約】
【課題】大地震時にシリンダ装置Dをロック状態としても、シリンダ装置をフリー状態に復帰させて建物を中立位置へ戻すことができる建物ロック装置の提供を目的としている。
【解決手段】本発明の建物ロック装置1は、伸縮を可とするフリー状態と伸縮を不可とするロック状態とに選択的に切換え可能であって、建物Sと地盤Gとの間に介装されるシリンダ装置Dと、シリンダ装置Dの伸縮の可不可を切換制御するコントローラCとを備え、コントローラCは、地震時にシリンダ装置Dをフリー状態として地震時の建物の振動を抑制するとともに、地震時であっても建物Sの地盤Gに対する中立位置からの変位が変位閾値以上となるとシリンダ装置Dをロック状態とするとともに、地震時であってシリンダ装置Dを所定時間ロック状態とした後、シリンダ装置Dをフリー状態とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮を可とするフリー状態と伸縮を不可とするロック状態とに選択的に切換え可能であって、建物と地盤との間に介装されるシリンダ装置と、前記シリンダ装置の伸縮の可不可を切換制御するコントローラとを備え、前記コントローラは、地震時に前記シリンダ装置を前記フリー状態とするとともに、地震時であっても前記建物の前記地盤に対する中立位置からの変位が変位閾値以上となると前記シリンダ装置をロック状態とする建物ロック装置であって、
前記コントローラは、地震時であって前記シリンダ装置を所定時間前記ロック状態とした後、前記シリンダ装置を前記フリー状態とする
ことを特徴とする建物ロック装置。
【請求項2】
前記シリンダ装置は、フリー状態では前記建物と前記地盤との間に介装されて前記建物を免震支承する支持装置による振動絶縁機能の発揮を許容し、ロック状態では前記支持装置による振動絶縁機能の発揮を許容せず、
前記コントローラは、
前記シリンダ装置を前記フリー状態とした後、前記変位が前記変位閾値よりも小さな値に設定される再ロック可能閾値以下になってから再び変位閾値以上になると、再度、前記シリンダ装置を前記ロック状態とする
ことを特徴とする請求項1に記載の建物ロック装置。
【請求項3】
前記所定時間は、前記建物の一次固有周期以上に設定される
ことを特徴とする請求項1に記載の建物ロック装置。
【請求項4】
前記シリンダ装置は、伸縮時に減衰力を発揮する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の建物ロック装置。
【請求項5】
前記シリンダ装置に並列されて建物と地盤との間に介装されて、伸縮時に減衰力を発揮するダンパを備えた
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の建物ロック装置。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記地盤の加速度を検知する加速度センサと風速を検知する風速センサとを有し、
前記建物の前記変位が変位閾値未満であっても、前記加速度センサが検知する加速度が加速度閾値未満であって、前記風速センサが検知する風速が風速閾値以上であると前記シリンダ装置をロック状態とする
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の建物ロック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、建物ロック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
建物を地震から守る目的で建物を地盤から振動的に絶縁する免震装置を設置する場合がある。免震装置は、地盤と建物との間に介装されるボールアイソレータやゴムといった支持装置を備え、建物を地盤に対して変位可能に支持しており、地震動の構造物への伝達を絶縁する。
【0003】
また、支持装置のみでは建物の振動を減衰させられないので、地盤と建物との間に介装されるダンパ等のシリンダ装置によって地震時の建物の振動エネルギを吸収して建物の振動を抑制する建物ロック装置が支持装置とともに設置されて免震装置が構成されることが多い。
【0004】
建物ロック装置は、建物と地盤との間に介装されて伸縮時に減衰力を発生するシリンダ装置とシリンダ装置を伸縮不可とするロック状態と伸縮可とするフリー状態とに切り換え制御するコントローラとを備えている。また、コントローラは、加速度センサを備えており、加速度センサによって地震を検知するとシリンダ装置をフリー状態として地盤に対して建物の変位を許容する。このように建物ロック装置は、地震時にシリンダ装置をフリー状態とすることにより、地盤に対する建物の変位を許容して支持装置を機能させ、地盤から建物へ振動が入力されるのを絶縁しつつ、シリンダ装置が発生する減衰力で建物の振動を抑制できる。
【0005】
このように、建物ロック装置は、地震時にはシリンダ装置をフリー状態として建物の地盤に対する変位を許容して支持装置を機能させつつシリンダ装置が発生する減衰力で振動を抑制できるが、大地震の発生時には建物の地盤に対する変位が大きくなって建物を取り囲む擁壁と衝突する恐れがある。
【0006】
そのため、従来の建物ロック装置は、加速度センサの他に変位センサを備えており、建物の地盤に対する中立位置からの変位が所定の変位閾値以上になるとシリンダ装置をロック状態として建物の地盤に対する変位を拘束して建物と擁壁との衝突を防止する(たとえば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の建物ロック装置では、建物の地盤に対する中立位置からの変位が所定の変位閾値以上になるとシリンダ装置をロック状態とするので、建物が擁壁に衝突するのを回避できるが、建物の地盤に対する変位が前記変位閾値未満にならないとシリンダ装置をフリー状態に戻すことをせずロック状態に維持する。
【0009】
従来の建物ロック装置では、シリンダ装置がリリーフ弁を備えており、ロック状態であっても過大な力が作用すると伸縮し得るが、シリンダ装置がロック状態とされると基本的には建物を地盤に対して変位しないように拘束するため、一度シリンダ装置がロック状態となると建物の変位が変化せずそのままシリンダ装置をロックする状態を継続してしまう場合がある。
【0010】
よって、従来の建物ロック装置では、大地震によってシリンダ装置がロック状態となった後に、地震が終息しても建物が地盤に対して偏った位置に留まって中立位置に戻らなくなってしまう可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、大地震時にシリンダ装置をロック状態としても、シリンダ装置をフリー状態に復帰させて建物を中立位置へ戻すことができる建物ロック装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記した目的を達成するために、本発明の建物ロック装置は、伸縮を可とするフリー状態と伸縮を不可とするロック状態とに選択的に切換え可能であって、建物と地盤との間に介装されるシリンダ装置と、シリンダ装置の伸縮の可不可を切換制御するコントローラとを備え、コントローラは、地震時にシリンダ装置をフリー状態とするとともに、地震時であっても建物の地盤に対する中立位置からの変位が変位閾値以上となるとシリンダ装置をロック状態とする建物ロック装置であって、コントローラは、地震時であってシリンダ装置を所定時間ロック状態とした後、シリンダ装置をフリー状態とする。
【0013】
このように構成された建物ロック装置によれば、大地震の発生によって建物が大振幅で変位する際にはシリンダ装置をロック状態として建物の地盤に対する変位を拘束して建物と擁壁との干渉を抑制できるとともに、所定時間の経過後にシリンダ装置をフリー状態に復帰させるので、シリンダ装置をロック状態としたまま建物が中立位置へ戻るのを阻害することがない。
【0014】
また、建物ロック装置におけるシリンダ装置は、フリー状態では建物と地盤との間に介装されて建物を免震支承する支持装置による振動絶縁機能の発揮を許容し、ロック状態では支持装置による振動絶縁機能の発揮を許容せず、コントローラは、シリンダ装置をフリー状態とした後、変位が変位閾値よりも小さな値に設定される再ロック可能閾値以下になってから再び変位閾値以上になると、再度、シリンダ装置をロック状態としてもよい。このように構成された建物ロック装置によれば、建物の変位に基づいてシリンダ装置をロック状態からフリー状態に切り換えた後、一度建物の変位がシリンダ装置をロック状態とする基準である変位閾値より小さな値に設定される再ロック可能閾値以下にならないと、シリンダ装置を再度ロック状態に切り換えない。このように建物ロック装置が構成されると、建物ロック装置がシリンダ装置をフリー状態としても直後にロック状態とすることを繰り返してダンパが実質的にロック状態に維持されるのを防止できる。よって、地震が継続している場合には、建物ロック装置は、建物を免震支承する支持装置による建物への振動の伝達を絶縁する機能を減殺することがなく、地震が終息している場合には、建物が中立位置に復帰するのを邪魔することがない。
【0015】
さらに、建物ロック装置において、所定時間が建物の一次固有周期以上に設定されてもよい。このように構成された建物ロック装置によれば、シリンダ装置をロック状態とした際に建物が擁壁に衝突するのを防止できるとともに、地震が継続している状態でシリンダ装置をフリー状態に復帰させて建物の振動を抑制できる機会を多く得られる。
【0016】
また、シリンダ装置が伸縮時に減衰力を発揮してもよく、その場合には、シリンダ装置がフリー状態に切り換わると、シリンダ装置が発生する減衰力で建物の振動を抑制させ得る。
【0017】
さらに、建物ロック装置は、シリンダ装置に並列されて建物と地盤との間に介装されて、伸縮時に減衰力を発揮するダンパを備えてもよい。このように構成された建物ロック装置によれば、シリンダ装置がフリー状態とされると、シリンダ装置に並列されるダンパが発生する減衰力で建物の振動を抑制させ得る。
【0018】
また、建物ロック装置におけるコントローラは、地盤の加速度を検知する加速度センサと風速を検知する風速センサとを有し、建物の変位が変位閾値未満であっても、加速度センサが検知する加速度が加速度閾値未満であって、風速センサが検知する風速が風速閾値以上であるとシリンダ装置をロック状態としてもよい。このように構成された建物ロック装置によれば、地震が発生していないが強風によって建物が振動するような状況となるとシリンダ装置をロック状態として建物の振動を抑制できる。
【発明の効果】
【0019】
よって、本発明の建物ロック装置によれば、大地震時にシリンダ装置をロック状態としても、シリンダ装置をフリー状態に復帰させて建物を中立位置へ戻すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施の形態における建物ロック装置を建物に適用した状態を示した図である。
【
図3】コントローラの構成を示したブロック図である。
【
図4】コントローラの処理手順を示すフローチャートの一例である。
【
図5】ダンパを備えた建物ロック装置を建物に適用した状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、図示した実施の形態に基づいて、この発明を説明する。一実施の形態の建物ロック装置1は、
図1に示すように、シリンダ装置Dと、コントローラCとを備えて構成されている。
【0022】
シリンダ装置Dは、本実施の形態では、
図1に示すように、円盤状のゴムを積層して構成されて建物Sを弾性的に支持して免震支承する支持装置Mとともに、地盤Gと建物Sとの間に水平横置きに介装されており、伸縮時に建物Sの振動を抑制する減衰力を発揮するようになっている。
【0023】
なお、支持装置Mは、図示するところでは、積層ゴムで構成されているが、建物Sを地盤Gに対し転がり支承するボールアイソレータを採用してもよいし、他の公知の構成とされてもよい。建物Sと建物Sを取り囲む擁壁Wとの間には、地盤Gに対する建物Sの変位を許容するために所定の免震クリアランスLが設けられている。建物Sが地盤Gに対して中立位置にある場合、
図1中であれば、建物Sの左右に免震クリアランスLの隙間があるので、建物Sは、中立位置から左右にそれぞれ免震クリアランスLの隙間距離だけ変位できる。よって、建物Sは、免震クリアランスLの二倍以内の振幅で
図1中左右方向への変位が許容されている。
【0024】
シリンダ装置Dは、
図2に示すように、シリンダ10とロッド12とを備えて伸縮時に減衰力を発揮するシリンダ本体DBと、液圧回路FCと、作動液体を貯留するリザーバタンクTを備えて構成されている。
【0025】
シリンダ本体DBは、シリンダ10と、シリンダ10内に摺動自在に挿入されてシリンダ10内を伸側室R1と圧側室R2とに区画するピストン11と、ピストン11に連結されるロッド12とを備えている。シリンダ装置Dにおけるシリンダ10内には、この場合、作動液体として作動油が充填されている。リザーバタンクTには、作動液体としての作動油の他、気体が充填される。ここでは、作動液体は、作動油以外の流体とされてもよく、また、錆等の弊害がなければ水や水溶液としても差し支えない。リザーバタンクT内の気体は、空気でもよいが、不活性ガスとされてもよい。
【0026】
また、液圧回路FCは、本例では、シリンダ10の伸側室R1とリザーバタンクTとを接続する通路13中に設けたシリンダ10の伸縮の可不可を切り換えるロック弁20と、上記通路13のロック弁20よりもリザーバタンクT側に設けた減衰力発生要素としての減衰弁21と、ロック弁20の背圧室20cをリザーバタンクTへ接続する通路14の途中に設けた電磁開閉弁Vとを備えている。また、液圧回路FCは、圧側室R2をリザーバタンクTに接続する吸込通路16と、圧側室R2と伸側室R1とを接続する整流通路17とを備えている。吸込通路16の途中には、リザーバタンクTから圧側室R2へ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁18が設けられ、整流通路17の途中には、圧側室R2から伸側室R1へ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁19が設けられている。さらに、液圧回路FCは、通路13に並列してシリンダ10の伸側室R1とリザーバタンクTとを接続するリリーフ通路15が設けられており、このリリーフ通路15にリリーフ弁22が設けられている。
【0027】
そして、作動油が伸側室R1から液圧回路FCを介してリザーバタンクTへ排出可能な状態でシリンダ装置Dが伸長すると、ピストン11の変位により伸側室R1から押し出された作動油がリザーバタンクTへ排出される。他方、拡大する圧側室R2内にはリザーバタンクTから吸込通路16を介して作動油が供給される。
【0028】
また、作動油が伸側室R1から液圧回路FCを介してリザーバタンクTへ排出可能な状態でシリンダ装置Dが収縮すると、ピストン11の変位により圧側室R2から押し出された作動油が整流通路17を介して伸側室R1へ移動する。この状況では、シリンダ10内に侵入するロッド12の体積分の作動油がシリンダ10内で過剰となるので、作動油は、シリンダ10から液圧回路FCを介してリザーバタンクTへ排出される。つまり、このシリンダ装置Dにあっては、伸長しても収縮してもシリンダ10内から作動油が押し出されるユニフロー型に設定されている。
【0029】
ロック弁20は、具体的には、ポペット型の弁体20aと、通路13中に形成されて弁体20aが離着座する弁座20bと、弁体20aの背面側に形成される背圧室20cと、弁体20aに設けられて弁座20bよりも上流側の圧力を背圧室20cに導く絞り通路20dとを備えている。また、背圧室20cは、上述したように通路14によってリザーバタンクTに連通されており、前述のように通路14の途中に通路14を開閉する電磁開閉弁Vが設けられている。
【0030】
他方、電磁開閉弁Vは、本例では、スプリングオフセットの電磁式2位置の開閉弁として構成され、通電時に作動油の背圧室20cからリザーバタンクT側への移動を阻止して逆方向への移動を許容する遮断ポジションと、非通電時に作動油の通過を許容する連通ポジションとを備えている。電磁開閉弁Vは、コントローラCによって制御されており、コントローラCからの電流供給の有無によって遮断ポジションと連通ポジションとに切換わる。
【0031】
電磁開閉弁Vが通路14を遮断する遮断ポジションを採る場合、背圧室20cとリザーバタンクTとの連通が断たれて背圧室20cが閉鎖され、背圧室20c内の作動油はリザーバタンクTへ移動できなくなる。よって、弁体20aは、背圧室20cを縮小させる方向へ移動できなくなって上記弁座20bから離座できなくなるため、ロック弁20は閉弁状態となる。逆に、電磁開閉弁Vが通路14を開放する連通ポジションを採る場合、作動油は、通路14を通過できるようになるため、シリンダ10内から弁体20aに設けた絞り通路20dおよび背圧室20cを通過してリザーバタンクTに移動できる。前述のように、作動油が絞り通路20dを通過すると、圧力損失により弁体20aの弁座20b側となる前面側の室と弁体20aの背面側の背圧室20cの圧力に差が生じ、弁体20aが後退、すなわち
図2中右方に移動せしめられて、ロック弁20は通路13を開放する。前述のように、ロック弁20の開閉は、通路14を開閉する電磁開閉弁Vへの通電の有無によって切り換えできるので、コントローラCによって制御できる。なお、前述の電磁開閉弁Vの遮断ポジションは完全にリザーバタンクTとロック弁20との間の連通を遮断するようにしてもよいが、本実施の形態では、電磁開閉弁Vが遮断ポジションを採ってもリザーバタンクTからロック弁20への作動油の移動を許容される。そのため、ロック弁20が開弁状態から閉弁状態へ移行する際に、弁体20aが着座方向へ移動するが、この弁体20aの移動によって拡大される背圧室20c内にリザーバタンクTから作動油が供給され、背圧室20c内の圧力が負圧にならないので、弁体20aの閉弁方向への移動がスムーズとなりロック弁20は速やかに閉弁できる。
【0032】
つぎに、減衰力発生要素たる減衰弁21は、通路13の上流側の油圧をパイロット圧として流路面積を変化する減衰力可変弁であって、上流側の油圧が高まるにつれ流路面積を増加するように設定されている。なお、減衰力発生要素としては、単なる絞り弁を使用してもよいが、減衰弁21を使用することにより、シリンダ装置Dの伸縮速度に応じて減衰特性を変化させることができるので、シリンダ装置Dに並列される支持装置Mの振動絶縁性を損なわずに、建物Sの振動の抑制に適した減衰特性を得られる利点がある。
【0033】
このように構成されたシリンダ装置Dは、電磁開閉弁Vを連通ポジションとして、ロック弁20が開弁可能な状態になると、液圧回路FCを介してシリンダ10内とリザーバタンクTとで作動油のやり取りを行うことができる状態となり、シリンダ本体DBの伸縮が許容されるフリー状態となる。そして、シリンダ本体DBがフリー状態とされて伸長する場合には、作動油の流れに減衰弁21が抵抗を与えるので、シリンダ装置Dは、シリンダ本体BDの伸長を抑制する減衰力を発揮する。シリンダ本体DBがフリー状態とされて収縮する場合にも、作動油の流れに減衰弁21が抵抗を与えるので、シリンダ装置Dは、シリンダ本体DBの収縮を抑制する減衰力を発揮する。
【0034】
他方、電磁開閉弁Vを遮断ポジションとすると、ロック弁20が閉弁状態となる。ロック弁20が閉弁状態とされ、伸側室R1内の圧力がリリーフ弁22の開弁圧に達しない場合、シリンダ10内から作動油がリザーバタンクTへ移動できなくなるので、シリンダ装置Dは、シリンダ本体DBの伸縮が不能なロック状態となる。なお、ロック弁20が閉じた状態でも、シリンダ本体DBに過大な軸方向の外力が加わって、伸側室R1内の圧力がリリーフ弁22の開弁圧に達すると、リリーフ弁22がリリーフ通路15を開放して、シリンダ10内の作動油をリザーバタンクTへ排出できるようになる。このようにロック弁20が閉弁してロック状態であってもリリーフ弁22が開弁すると、シリンダ本体DBの伸縮が可能となってリリーフ弁22が作動油の流れに抵抗を与えるので、シリンダ装置Dは、シリンダ本体DBの伸縮に伴って減衰力を発揮する。リリーフ弁22が作動油の流れに与える抵抗は、同流量であれば、減衰弁21が作動油の流れに与える抵抗よりも大きくなるように設定されている。よって、シリンダ本体DBの伸縮速度が同じであれば、ロック弁20が開弁してシリンダ本体DBがフリー状態にて発生する減衰力よりもロック弁20が閉弁してシリンダ本体DBがロック状態でリリーフ弁22が開弁した際に発生する減衰力の方が大きい。
【0035】
以上より、建物ロック装置1では、コントローラCの電磁開閉弁Vの切換えによって、シリンダ装置Dをフリー状態とロック状態とに選択的に切換えできる。また、ロック弁20がシリンダ装置Dをロック状態としてもリリーフ弁22が開弁すると、シリンダ本体DBは、伸縮可能な状態となってロック弁20の開弁時よりも大きな減衰力を発揮するのである。なお、リリーフ弁22の設置は任意であり、リリーフ弁22を設けなくてもよい。
【0036】
また、液圧回路FCにおける通路13,14、ロック弁20、減衰弁21および電磁開閉弁Vを1つのユニットとして、複数のユニットをシリンダ本体DBとリザーバタンクTとの間に並列に設けてもよい。この場合、各ユニットの電磁開閉弁Vの制御については1つのコントローラCで制御すればよい。また、前記ユニットを複数設ける場合、シリンダ装置Dが伸縮する際に、ロック弁20の開閉を個別に制御して、有効とする減衰弁21の数を変えることで、シリンダ装置Dが発生する減衰力を調節してもよいし、減衰弁21の圧力流量特性についてもそれぞれ異なる特性に設定しておいてもよい。
【0037】
つづいて、コントローラCは、
図3に示すように、地震を検知する加速度センサ30と、建物Sの周辺の風速を検知する風速センサ31と、建物Sと地盤Gとの変位を検知する変位センサ32と、電磁開閉弁Vを制御する制御部33とを備えて構成されている。本実施の形態の建物ロック装置1では、強風時にシリンダ装置Dをロック状態として強風による建物Sの揺れを抑制するために風速センサ31を備えている。
【0038】
加速度センサ30は、本例では、地盤Gに設置されて加速度を検知し、検知した地盤Gの加速度を制御部33へ入力する。風速センサ31は、本例では、建物Sの屋上に設置されて風速を検知して、検知した風速を制御部33へ入力する。風速センサ31は、本例では、建物Sの屋上に設置されているが、建物Sの屋上以外に設置されてもよい。また、加速度センサ30および風速センサ31は、建物Sから物理的に離間した場所に設置されてもよい。
【0039】
変位センサ32は、建物Sと地盤Gとの間にシリンダ本体DBと平行に設置されており、建物Sの地盤Gに対する中立位置からの変位を検知して、制御部33へ入力する。また、変位センサ32は、シリンダ本体DBのシリンダ10とロッド12との間に介装されてもよいし、シリンダ本体DBに内蔵されてもよい。シリンダ本体DBは、建物Sと地盤Gとの間に介装されるので、変位センサ32をシリンダ本体DBに組み込んでも建物Sの地盤Gに対する変位を検知できる。このようにシリンダ本体DBに変位センサ32を搭載させる場合、変位センサ32を建物Sと地盤Gとの間に設置するための固定具を別途設けなくとも変位センサ32の設置が可能となり、変位センサ32の設置作業が非常に簡単となる。
【0040】
制御部33は、加速度センサ30で検知した加速度と、風速センサ31で検知した風速と、変位センサ32で検知した変位に基づいてシリンダ装置Dをロック状態とするかフリー状態とするかを判断する判断部331と、判断部331の指示通りに電磁開閉弁Vを開閉駆動させる駆動部332とを備えて構成されている。
【0041】
制御部33は、基本的には、通常の状態では、地震の発生に備えてシリンダ装置Dをフリー状態とし、
図4に示したフローチャートに従って処理を行ってシリンダ装置Dをフリー状態とするかロック状態とするかを判断し、シリンダ装置Dをフリー状態とロック状態とに選択的に切り換える制御を行う。なお、
図4に示したフローチャートは、一例であって他の処理手順に従って処理をしてもよい。
【0042】
まず、判断部331は、変位センサ32で検知した変位が所定の変位閾値以上であるか否か判断する(ステップF1)。なお、ステップF1での処理にあたり、変位センサ32が検知した建物Sの中立位置からの変位が建物Sの変位の方向によって正の値と負の値を採る場合、判断部331は、当該変位の絶対値が変位閾値以上であるか否かを判断すればよい。変位閾値は、建物Sと擁壁Wとの間の免震クリアランスLの5分の4程度に設定され、かつ、建物Sが変位閾値以上に変位してもシリンダ本体DBにはストロークの余裕があるよう設定される。
【0043】
判断部331は、ステップF1の処理での判断で、変位が変位閾値以上である場合、ステップF2へ移行して、シリンダ装置Dをロックすべきと判断し、シリンダ装置Dをロック状態とする。判断部331は、変位センサ32から受け取った建物Sの地盤Gに対する変位が変位閾値以上になっている場合、建物Sと擁壁Wとが接近しすぎており干渉の危険が有るため、シリンダ装置Dをロック状態に切り換えて建物Sの地盤Gに対して変位しないように建物Sを拘束する。他方、ステップF1での判断で、変位が変位閾値未満である場合、ステップF6へ移行する。
【0044】
判断部331は、ステップF2でシリンダ装置Dをロック状態とすると、ステップF3へ移行して、シリンダ装置Dをロック状態としてからの経過時間が所定時間以上となったか否かを判断する。そして、判断部331は、シリンダ装置Dをロック状態としてからの経過時間が所定時間以上となると、シリンダ装置Dをロック状態からフリー状態へ切り換える(ステップF4)。所定時間は、建物Sの一次固有周期と等しい時間に設定されており、このようにコントローラCは、シリンダ装置Dをロック状態としてから一次固有周期と等しい時間が経過するとシリンダ装置Dをフリー状態とするので、地震動によって建物Sが大振幅で振動すると、シリンダ装置Dで一次固有周期の一周期分に相当する時間に渡って建物Sの地盤Gに対する変位を拘束でき、建物Sが擁壁Wに衝突するのを防止でき、その後、シリンダ装置Dをフリー状態に復帰させて支持装置Mの免震機能を発揮させる状態にして地盤Gからの振動が建物Sへ伝達するのを絶縁できる。
【0045】
なお、所定時間は、建物Sの一次固有周期未満に設定されると、建物Sに大きな加速度が作用している状態で拘束が解かれてしまう場合があるが、少なくとも、建物Sが一次固有周期の一周期分の振動を拘束できれば建物Sが擁壁Wに衝突するのを十分に回避できる。よって、所定時間を建物Sの一次固有周期以上に設定することによって、シリンダ装置Dをロック状態とした際に建物Sが擁壁Wに衝突するのを防止できる。なお、所定時間は、建物Sの一次固有周期以上に設定されればよいが、あまり長時間に設定すると、シリンダ装置Dがロック状態を継続する時間が長くなって支持装置Mの振動絶縁と建物Sが地盤Gに対して中立位置へ復帰するのを阻害するため、一次固有周期の数倍程度の時間を超えないように設定するのが好ましい。よって、所定時間は、具体的には1秒から10秒の間程度であり、建物Sの一次固有周期に合わせて適宜設定すればよい。所定時間が1秒から10秒の範囲内に設定されると、地震が継続している状態でシリンダ装置Dをフリー状態に復帰させてシリンダ装置Dに減衰力を発揮させるとともに支持装置Mによる振動絶縁を発揮させて建物Sの振動を抑制できる。
【0046】
なお、判断部331は、ステップF3での判断で、シリンダ装置Dをロック状態としてからの経過時間が所定の所定時間未満である場合、経過時間のカウントを継続してステップF3の判断を繰り返す。
【0047】
判断部331は、経過時間が所定時間に達してシリンダ装置Dをロック状態からフリー状態に復帰させた後、変位センサ32が検知した変位が変位閾値よりも小さな値に設定される再ロック可能閾値以下となったか否かを判断する(ステップF5)。シリンダ装置Dをロック状態とすると、リリーフ弁22の開弁によってシリンダ装置Dが伸縮して建物Sの変位が変位閾値未満になっている可能性があるものの、リリーフ弁22が開弁しない場合には建物Sの地盤Gに対する変位が拘束されるため、所定時間が経過しても建物Sの中立位置からの変位が変位閾値以上となっている場合がある。そうすると、シリンダ装置Dをロック状態からフリー状態に切り換えた直後に変位センサ32が検知した変位が変位閾値以上になっていると再度シリンダ装置Dがロックされてしまい、折角、シリンダ装置Dをフリー状態としても直後にロック状態とすることが繰り返されてしまって、地震が終息してもシリンダ装置Dが実質的にロック状態に維持される状況が生じ得る。そのため、判断部331は、ステップF5の処理を行って、変位センサ32が検知した変位が変位閾値よりも小さな値に設定される再ロック可能閾値以下となるまでは、ステップF5の判断を繰り返し行って、シリンダ装置Dを再度ロック状態とする処理を行わないようにする。なお、再ロック可能閾値は、変位閾値を1割から5割程度減少させた値に設定されており、建物Sの仕様等に応じて適宜設定されればよい。他方、判断部331は、シリンダ装置Dをロック状態からフリー状態に復帰させた後、変位センサ32が検知した変位が再ロック可能閾値以下となると、ステップF1の処理へ移行して、変位センサ32が検知した変位が変位閾値以上になっているか否かを判断して、再度、変位が変位閾値以上になっていれば、シリンダ装置Dをフリー状態からロック状態に切り換える(ステップF2)ことができる。このように建物ロック装置1では、建物Sの変位に基づいてシリンダ装置Dをロック状態からフリー状態に切り換えた後、一度建物Sの変位がシリンダ装置Dをロック状態とする基準である変位閾値より小さな値に設定され得る再ロック可能閾値以下にならないと、シリンダ装置Dを再度ロック状態に切り換えないので、シリンダ装置Dが実質的にロック状態に維持されるのを防止して、地震が継続している場合には、支持装置Mを機能させるとともにシリンダ装置Dの伸縮に伴って発生する減衰力によって建物Sの振動を抑制でき、地震が終息している場合には、建物Sが支持装置Mの復元力によって中立位置に復帰するのを邪魔することがない。
【0048】
つづいて、判断部331は、ステップF1の処理での判断で、変位が変位閾値未満である場合、ステップF6の処理を行う。判断部331は、加速度センサ30で検知した加速度と予め設定される加速度閾値とを比較して、加速度が加速度閾値以上であると地震発生中であると判断して(ステップF6)、ステップF1へ移行する。なお、加速度閾値は、たとえば、震度3から4程度に検知される加速度の値に設定されるが、これ以外の値に任意に設定できる。なお、
図4に示したフローチャートではステップF1の処理を実行する際は、シリンダ装置Dがフリー状態となっているので、ステップF6の判断で地震が発生していると判断されると、シリンダ装置Dの状態を切り換える処理を行う必要はなく、シリンダ装置Dがフリー状態に維持される。よって、建物ロック装置1は、支持装置Mを機能させるとともにシリンダ装置Dの伸縮が許容されて建物Sの振動をシリンダ装置Dが発生する減衰力で抑制する。他方、判断部331は、ステップF6の処理で加速度センサ30が検知した加速度が加速度閾値未満であって、地震は発生していないと判断すると(ステップF6)、ステップF7へ移行する。ステップF6の判断で加速度センサ30が検知した加速度が加速度閾値未満である場合、地震が発生しておらず、ステップF1の処理によって変位も変位閾値未満である状態であり、シリンダ装置Dをロック状態とするか否かは強風の有無によって決してもよい状況である。
【0049】
よって、ステップF7の処理では、判断部331は、風速センサ31で検知した風速と予め設定される風速閾値とを比較して、風速が風速閾値以上であるか否かについて判断する。そして、判断部331は、風速が風速閾値以上であると強風発生中であると判断して、ステップF8へ移行する。ステップF8に至るには、建物Sの変位が変位閾値未満で、加速度が加速度閾値未満であって、風速が風速閾値以上である必要がある。つまり、地震が発生しておらず、建物Sの変位も小さく、強風が発生している状況となっている。よって、建物ロック装置1は、シリンダ装置Dをロック状態に切り換え(ステップF8)、強風による建物Sの振動を抑制する。なお、風速閾値は、建物Sが揺れる恐れのある程度の風速の値に設定されればよい。
【0050】
さらに、判断部331は、ステップF8でシリンダ装置Dをロック状態とすると、ステップF9へ移行して、シリンダ装置Dをロック状態としてからの経過時間が予め設定される所定の設定時間以上となったか否かを判断する。そして、判断部331は、シリンダ装置Dをロック状態としてからの経過時間が所定の設定時間以上となると、シリンダ装置Dをロック状態からフリー状態へ切り換える(ステップF10)。設定時間は、任意に設定できるが、たとえば、1時間程度に設定されており、このようにコントローラCは、シリンダ装置Dをロック状態としてから1時間が経過するとシリンダ装置Dをフリー状態とするので、強風発生による建物Sの振動を抑制でき、その後、シリンダ装置Dをフリー状態に復帰させて支持装置Mの免震機能を発揮させる状態にして地震の発生に備える。
【0051】
なお、設定時間の経過によって、シリンダ装置Dがフリー状態となっても強風が吹き続けている場合、変位と加速度が小さく風速が大きな場合には再度ステップF8でシリンダ装置Dをロック状態とすることができる。
【0052】
コントローラCは、前述したフローチャートにしたがって処理を継続して実行することで、地震の発生、強風の発生に対してシリンダ装置Dの状態を適切に切り換えて建物Sの振動を抑制できる。
【0053】
なお、前述したとおり、
図4に示したフローチャートは、一例であって、地震発生時で変位が小さな場合にはシリンダ装置Dをフリー状態とし、変位が大きな場合にはシリンダ装置Dをロック状態とできればよいので、前述とは異なる処理手順によってこれらを実現してもよい。
また、本実施の形態の建物ロック装置1では、地震が発生しておらず強風が発生している場合にはシリンダ装置Dをロック状態としているので、強風時の建物Sの振動を阻止し得るが、強風に対してシリンダ装置Dの状態を切り換える必要が無ければ風速センサ31および風速に関する処理を省略できる。
【0054】
判断部331は、前述のようにシリンダ装置本体DBをロック状態とするかフリー状態とするかを判断し、ロック状態とする場合には、駆動部332へ電磁開閉弁Vを遮断ポジションとする指令を出力し、フリー状態とする場合には、駆動部332へ電磁開閉弁Vを連通ポジションとする指令を出力する。
【0055】
駆動部332は、判断部331から受け取った指令通りに、電磁開閉弁Vを駆動して、判断部331の決定通りにシリンダ本体DBをロック状態或いはフリー状態とする。
【0056】
以上、建物ロック装置1は、伸縮を可とするフリー状態と伸縮を不可とするロック状態とに選択的に切換え可能であって、建物Sを免震支承する支持装置Mとともに建物Sと地盤Gとの間に介装されるシリンダ装置Dと、シリンダ装置Dの伸縮の可不可を切換制御するコントローラCとを備え、コントローラCは、地震時にシリンダ装置Dをフリー状態として地震時の建物の振動を抑制するとともに、地震時であっても建物Sの地盤Gに対する中立位置からの変位が変位閾値以上となるとシリンダ装置Dをロック状態とするとともに、地震時であってシリンダ装置Dをロック状態とした後、所定時間以上経過するとシリンダ装置Dをフリー状態とする。
【0057】
このように構成された建物ロック装置1によれば、建物Sの変位が小さい場合には支持装置Mの振動絶縁性能を減殺することが無く、大地震の発生によって建物Sが大振幅で変位する際にはシリンダ装置Dをロック状態として建物Sの地盤Gに対する変位を拘束して建物Sと擁壁Wとの干渉を抑制できるとともに、所定時間の経過後にシリンダ装置Dをフリー状態に復帰させるので、シリンダ装置Dをロック状態としたまま建物Sが中立位置へ戻るのを阻害することがない。
【0058】
よって、本実施の形態の建物ロック装置1によれば、大地震時にシリンダ装置Dをロック状態としても、シリンダ装置Dをフリー状態に復帰させて建物Sを中立位置へ戻すことができる。
【0059】
また、本実施の形態の建物ロック装置1におけるシリンダ装置Dは、フリー状態では建物Sと地盤Gとの間に介装されて建物Sを免震支承する支持装置Mによる振動絶縁機能の発揮を許容し、ロック状態では支持装置Mによる振動絶縁機能の発揮を許容せず、コントローラCは、シリンダ装置Dをフリー状態とした後、変位が変位閾値よりも小さな値に設定される再ロック可能閾値以下になると、再度、シリンダ装置Dをロック状態とする。このように構成された建物ロック装置1によれば、建物Sの変位に基づいてシリンダ装置Dをロック状態からフリー状態に切り換えた後、一度建物Sの変位がシリンダ装置Dをロック状態とする基準である変位閾値より小さな値に設定される再ロック可能閾値以下にならないと、シリンダ装置Dを再度ロック状態に切り換えないので、シリンダ装置Dが実質的にロック状態に維持されるのを防止できる。よって、建物ロック装置1は、地震が継続している場合には、支持装置Mを機能させて建物Sへの振動の伝達を絶縁でき、地震が終息している場合には、建物Sが支持装置Mの復元力によって中立位置に復帰するのを邪魔することがない。また、本実施の形態では、シリンダ装置Dは、伸縮時に減衰力を発生してダンパとして機能できるので、シリンダ装置Dが実質的にロック状態に維持されるのを防止して、地震が継続している場合には、シリンダ装置Dが伸縮に伴って発生する減衰力によって建物Sの振動を抑制でき、シリンダ装置Dが建物Sと地盤Gとの間に支持装置Mと並列される場合には支持装置Mによる振動絶縁機能の発揮を許容して建物Sへの振動の伝達を絶縁できる。
【0060】
さらに、本実施の形態の建物ロック装置1では、所定時間が建物の一次固有周期以上に設定されている。このように構成された建物ロック装置1によれば、シリンダ装置Dをロック状態とした際に建物Sが擁壁Wに衝突するのを防止できるとともに、地震が継続している状態でシリンダ装置Dをフリー状態に復帰させてシリンダ装置Dが発生する減衰力で建物Sの振動を抑制させるとともに支持装置Mによる振動絶縁を発揮させて建物Sの振動を抑制できる機会を多く得られる。
【0061】
本実施の形態の建物ロック装置1では、
図2に示すように、シリンダ装置Dが減衰弁21を備えており、伸縮が可能である状態で伸縮すると減衰弁21によって自身の伸縮を妨げる減衰力を発生してダンパとして機能する。このようにシリンダ装置Dがダンパであると伸縮が可能なフリー状態とされると、シリンダ装置Dが発生する減衰力で建物Sの振動を抑制させ得る。また、シリンダ装置Dが建物Sと地盤Gとの間に支持装置Mと並列される場合には支持装置Mによる振動絶縁機能の発揮を許容して建物Sへの振動の伝達を絶縁できる。
【0062】
また、シリンダ装置Dは、
図2に示した回路から減衰弁21を廃止した構成を備えていてもよく、この場合、建物ロック装置1は、シリンダ装置をロック状態とフリー状態とに切り換えることによって、支持装置Mが振動を絶縁する機能を発揮できる状態と地盤Gに建物Sを拘束する状態とに切り換えできる。よって、このようにシリンダ装置Dがロック状態とフリー状態とに切り換え可能であってフリー状態では減衰力を発揮しない場合であっても、建物ロック装置1によれば、建物Sの変位が小さい場合には支持装置Mの振動絶縁性能を減殺することが無く、大地震の発生によって建物Sが大振幅で変位する際にはシリンダ装置をロック状態として建物Sの地盤Gに対する変位を拘束して建物Sと擁壁Wとの干渉を抑制できるとともに、大地震時にシリンダ装置をロック状態としても、シリンダ装置Dをフリー状態に復帰させて建物Sを中立位置へ戻すことができる。
【0063】
このようにシリンダ装置Dがダンパとして機能しない場合、
図5に示すように、シリンダ装置Dに並列して建物Sと地盤Gとの間に伸縮時に減衰力を発生するダンパD1を介装してもよい。このようにすると、建物ロック装置1Aは、シリンダ装置Dをロック状態とフリー状態とに切り換えることによって、支持装置Mが振動を絶縁する機能を発揮できる状態と地盤Gに建物Sを拘束する状態とに切り換えできるとともに、シリンダ装置Dをフリー状態とするとシリンダ装置Dに並列されるダンパD1によって減衰力を発生できる。よって、ダンパD1をシリンダ装置Dと並列に備える建物ロック装置1Aによれば、建物Sの変位が小さい場合には支持装置Mの振動絶縁性能を減殺することが無く、大地震の発生によって建物Sが大振幅で変位する際にはシリンダ装置をロック状態として建物Sの地盤Gに対する変位を拘束して建物Sと擁壁Wとの干渉を抑制できるとともに、大地震時にシリンダ装置Dをロック状態としても、シリンダ装置Dをフリー状態に復帰させて建物Sを中立位置へ戻すことができる。また、建物ロック装置1Aでは、シリンダ装置Dがフリー状態とされると、シリンダ装置Dに並列されるダンパD1が発生する減衰力で建物Sの振動を抑制させ得る。シリンダ装置Dが建物Sと地盤Gとの間に支持装置Mと並列される場合には支持装置Mによる振動絶縁機能の発揮を許容して建物Sへの振動の伝達を絶縁できる。
【0064】
また、本実施の形態の建物ロック装置1におけるコントローラCは、地盤Gの加速度を検知する加速度センサ30と風速を検知する風速センサ31とを有し、建物Sの変位が変位閾値未満であっても、加速度センサ30が検知する加速度が加速度閾値未満であって、風速センサ31が検知する風速が風速閾値以上であるとシリンダ装置Dをロック状態とする。このように構成された建物ロック装置1によれば、地震が発生していないが強風によって建物が振動するような状況となるとシリンダ装置Dをロック状態として建物の振動を抑制できる。
【0065】
なお、本発明の建物ロック装置1は、履歴系ダンパと併用し、履歴系ダンパで風揺れを抑制して、大振幅地震動時の建物Sと擁壁Wとの干渉の防止に利用することも可能である。また、本発明の建物ロック装置1は、新築の建物に組み込んで使用する他、既存の建物の既存ダンパの代わりに或いは追加して組み込んでの使用も可能であり、既存の支持装置の性能向上も図れる。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施の形態を詳細に説明したが、特許請求の範囲から逸脱しない限り、改造、変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1・・・建物ロック装置、20・・・ロック弁、22・・・リリーフ弁、30・・・加速度センサ、31・・・風速センサ、C・・・コントローラ、D・・・シリンダ装置、DB・・・ダンパ本体、D1・・・ダンパ