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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024732
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】電気自動車の車体下部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D25/20 G
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128952
(22)【出願日】2023-08-08
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2025-01-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 孝信
【テーマコード(参考)】
3D203
【Fターム(参考)】
3D203AA02
3D203AA31
3D203BB06
3D203BB12
3D203BB22
3D203CA02
3D203CA25
3D203CB03
3D203CB07
3D203DB05
(57)【要約】
【課題】側面衝突時にバッテリーを保護する電気自動車の車体下部構造を提供する。
【解決手段】本発明に係る電気自動車の車体下部構造は、左右一対のサイドシル10と、サイドシル10の間に配設されたバッテリーパック20と、車体幅方向に直線状に延在する溝形状を有するフロアクロスメンバ30と、車体幅方向に延在する溝形状を有する地面側クロスメンバ40と、を備え、サイドシル10は、ハット断面形状のサイドシルインナ11と、溝形状のサイドシルアウタ13と、を有し、サイドシルインナ11の側面部11aとフロアクロスメンバ30の車体幅方向の先端に設けられた面部30aは、車体前後方向に直交する断面の形状が略同一であり、かつ、サイドシルインナ11は、車体上下方向の稜線部11bがフロアクロスメンバ30の面部30aの上端縁及び下端縁と重なるように配置されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体幅方向の車外側に配設されて車体前後方向に延在する左右一対のサイドシルと、
該左右一対のサイドシルの間に配設されたバッテリーパックと、
該バッテリーパックの上面側に設置され、車体幅方向に延在するフロアクロスメンバと、
前記バッテリーパックの下面側に設置され、車体幅方向に延在する溝形状を有する地面側クロスメンバと、を備えた電気自動車の車体下部構造であって、
前記サイドシルは、
車体幅方向の車内側に位置する側面部と、該側面部の上端縁と下端縁のそれぞれから稜線部を介して車外側に連続し、車体水平方向に対して傾斜している傾斜面部と、該各傾斜面部から連続するフランジ部と、を有し、車体幅方向の車外側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルインナと、
車体幅方向の車外側に位置する底面部と、該底面部の上端縁と下端縁のそれぞれから車内側へと屈曲して連続する壁面部と、を有し、車体幅方向の車内側に向かって開口する溝形状のサイドシルアウタと、を備え、
前記サイドシルインナと前記サイドシルアウタは、互いの開口側を向かい合わせた状態で、前記サイドシルインナの車体上方側の前記フランジ部と前記サイドシルアウタの上端部、及び、前記サイドシルインナの車体下方側のフランジ部と前記サイドシルアウタの前記底面部又は車体下方側の前記壁面部が接合され、
前記フロアクロスメンバは、車体下方側に向かって開口し、車体幅方向の両先端に面部が設けられて閉じた直線状の溝形状であり、前記各面部が左右それぞれの前記サイドシルインナの前記側面部に当接し、
前記サイドシルインナの前記側面部と前記フロアクロスメンバの前記面部は、車体前後方向に直交する断面形状が略同一であり、かつ、前記サイドシルインナの車体上方側及び車体下方側の前記稜線部と前記フロアクロスメンバの前記面部の上端縁及び下端縁とが車体上下方向において重なるように位置し、
前記地面側クロスメンバは、前記溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、端部が前記サイドシルアウタの車体下方側の前記壁面部に接続している、ことを特徴とする電気自動車の車体下部構造。
【請求項2】
前記地面側クロスメンバは、
車体幅方向に直交する断面においてハット断面形状が少なくとも3つ連続する連続ハット断面形状部材と、
該連続ハット断面形状部材の上面を覆う上部金属板と、
前記連続ハット断面形状部材の下面を覆う下部金属板と、を備えて構成されていることを特徴とする請求項1に記載の電気自動車の車体下部構造。
【請求項3】
前記フロアクロスメンバは、前記溝形状の前記両先端において端板が溶接又は接着されて前記面部が形成されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車の車体下部構造。
【請求項4】
前記フロアクロスメンバは、車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車の車体下部構造。
【請求項5】
前記サイドシル及び前記フロアクロスメンバは、引張強度980MPa級以上の鋼板を用いて形成され、
前記地面側クロスメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて形成されている、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電気自動車の車体下部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体下部のフロア部にバッテリーパックが配設された電気自動車の車体下部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特に自動車産業においては環境問題に起因して、エンジン車から電気自動車等への置換が進みつつある。電気自動車等は車体下部のフロア部に大きな電池(バッテリー)を収容したバッテリーパックを配置している。そして、バッテリーにはLi系の材料を用いることが多く、衝突時にバッテリーパックが破損してバッテリーから液漏れすると発火の危険性があるので、バッテリーパックを守る構造が必要となる。
【0003】
一般に、電気自動車等は、車体両側に配設された左右一対のサイドシルと、バッテリーパックの上方に設けられて左右のサイドシルに接続するフロアクロスメンバと、によりバッテリーパックが囲まれた構造を備えている。そして、側面衝突時においては、車両の側面に入力した衝突荷重によってサイドシル等が変形して衝突エネルギーを吸収することで、バッテリーパックに入力する荷重を低減してその変形を抑制することが重要である。
そこで、例えば特許文献1~7に開示されているように、側面衝突時にバッテリーパックを保護する構造がこれまでに提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-83033号公報
【特許文献2】特許6889419号公報
【特許文献3】特開2020-189567号公報
【特許文献4】特開2021-88364号公報
【特許文献5】特開2022-77194号公報
【特許文献6】特許6734709号公報
【特許文献7】特許6887469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1~3の構造は、断面ハット状のフロアクロスメンバ(特許文献2ではクロスメンバ、特許文献3では第1、第2クロスメンバ)の端部に形成されたフランジ部がサイドシル(特許文献1ではロッカ)の側面に接続されたものである。しかしながら、これらの構造では、側面衝突時に入力した衝突荷重に対して断面ハット状のフロアクロスメンバが開口する変形が生じやすいため、衝突エネルギーを十分に吸収することができなかった。
【0006】
また、特許文献4の構造は、アウタ部とインナ部が一体成形されたサイドシル(特許文献4ではロッカ)を備え、インナ部は、車体幅方向に沿って切断された断面形状がL字の異形である。そのため、このような断面形状を有するサイドシルをプレス成形により製造することが困難であり、生産性の低下や製造コストの増加が問題であった。
その上、特許文献4の構造は、側突時に入力した衝突エネルギーを吸収するため、サイドシル内に一体形成された梯子状の衝撃吸収部(衝突エネルギー吸収部材)が設けられたものであるが、車体重量の増加を招くものであった。
【0007】
さらに、特許文献5~7の構造は、フロアクロスメンバの端部がサイドシルの上部に位置するものである。そのため、側面衝突時においてフロアクロスメンバに伝達した衝突荷重の反力によりサイドシルを十分に潰すことができず、衝突エネルギーを十分に吸収することができなかった。
また、特許文献5~7の構造において、フロアクロスメンバはサイドシルの上部又はパンチ底の一部と部分的に接触しているため、側面衝突時においてサイドシルを完全に押し潰すことができず、衝突エネルギーの吸収効率が低かった。
【0008】
このように、側面衝突時にバッテリーパックを保護する従来の構造は、衝突エネルギーを十分に吸収することができないため、バッテリーパックに入力する荷重を低減して変形を抑制することができないという問題があった。さらに、衝突エネルギーを十分に吸収するためには衝撃吸収部(衝突エネルギー吸収部材)を別途設けることを要し、車体重量が増加するものであった。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、電気自動車の側面衝突時において、重量効率を低下せずにバッテリーパックに入力する荷重の低減と変形の抑制をすることができる電気自動車の車体下部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明に係る電気自動車の車体下部構造は、車体幅方向の車外側に配設されて車体前後方向に延在する左右一対のサイドシルと、
該左右一対のサイドシルの間に配設されたバッテリーパックと、
該バッテリーパックの上面側に設置され、車体幅方向に延在するフロアクロスメンバと、
前記バッテリーパックの下面側に設置され、車体幅方向に延在する溝形状を有する地面側クロスメンバと、を備えたものであって、
前記サイドシルは、
車体幅方向の車内側に位置する側面部と、該側面部の上端縁と下端縁のそれぞれから稜線部を介して車外側に連続し、車体水平方向に対して傾斜している傾斜面部と、該各傾斜面部から連続するフランジ部と、を有し、車体幅方向の車外側に向かって開口するハット断面形状のサイドシルインナと、
車体幅方向の車外側に位置する底面部と、該底面部の上端縁と下端縁のそれぞれから車内側へと屈曲して連続する壁面部と、を有し、車体幅方向の車内側に向かって開口する溝形状のサイドシルアウタと、を備え、
前記サイドシルインナと前記サイドシルアウタは、互いの開口側を向かい合わせた状態で、前記サイドシルインナの車体上方側の前記フランジ部と前記サイドシルアウタの上端部、及び、前記サイドシルインナの車体下方側のフランジ部と前記サイドシルアウタの前記底面部又は車体下方側の前記壁面部が接合され、
前記フロアクロスメンバは、車体下方側に向かって開口し、車体幅方向の両先端に面部が設けられて閉じた直線状の溝形状であり、前記各面部が左右それぞれの前記サイドシルインナの前記側面部に当接し、
前記サイドシルインナの前記側面部と前記フロアクロスメンバの前記面部は、車体前後方向に直交する断面形状が略同一であり、かつ、前記サイドシルインナの車体上方側及び車体下方側の前記稜線部と前記フロアクロスメンバの前記面部の上端縁及び下端縁とが車体上下方向において重なるように位置し、
前記地面側クロスメンバは、前記溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、端部が前記サイドシルアウタの車体下方側の前記壁面部に接続している、ことを特徴とするものである。
【0011】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、
前記地面側クロスメンバは、
車体幅方向に直交する断面においてハット断面形状が少なくとも3つ連続する連続ハット断面形状部材と、
該連続ハット断面形状部材の上面を覆う上部金属板と、
前記連続ハット断面形状部材の下面を覆う下部金属板と、を備えて構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、
前記フロアクロスメンバは、前記溝形状の前記両先端において端板が溶接又は接着されて前記面部が形成されている、ことを特徴とするものである。
【0013】
(4)上記(1)乃至(3)のいずれかに記載のものにおいて、
前記フロアクロスメンバは、車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であることを特徴とするものである。
【0014】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載のものにおいて、
前記サイドシル及び前記フロアクロスメンバは、引張強度980MPa級以上の鋼板を用いて形成され、
前記地面側クロスメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて形成されている、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、側面衝突時にサイドシルに入力してフロアクロスメンバへと伝達した荷重の反力によりサイドシルを十分に潰すことで高い衝突吸収エネルギーを得ることができる。これにより、側面衝突時にバッテリーパックに入力する荷重を低減してバッテリーパックの変形を抑制することで、バッテリーの損傷を防いで保護することができ、安全な電気自動車を製造することができる。
さらに、本発明においては、サイドシルインナの断面形状を小さくすることができるため、側面衝突性能を低下させずに車体を軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造の構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造の構成を説明する図である((a)従来の車体下部構造と、その側面衝突時における変形挙動、(b)本実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造のサイドシルとその周辺の拡大図)。
図3】本発明の実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造の地面側クロスメンバの構造を示す図である((a)車体幅方向の直交断面図、(b)車体前後方向の直交断面図、(c)車体幅方向の直交断面の拡大図)。
図4】実施例における側面衝突解析を説明する図である。
図5】実施例において、発明例に係る車体下部構造を示す図である((a)車体上方からの斜視図、(b)車体下方からの斜視図)。
図6】実施例において、試験対象とした電気自動車の側面にポールが衝突する車体前後方向(TL)の位置を示す図である。
図7】実施例において、側面衝突性能の評価項目を説明する図である((a)バッテリーパックへの入力荷重、(b)バッテリーパックの変形量)。
図8】実施例において、発明例に係る車体下部構造の比較対象とした参考例の車体下部構造を示す図である((a)車体下方からの斜視図、(b)車体前後方向の直交断面図)。
図9】実施例において、発明例1と参考例1に係る車体下部構造を備えた車両の側面衝突過程における変形の様子を示す図である((a)参考例1、(b)発明例1)。
図10】実施例において、発明例2と参考例2に係る車体下部構造を備えた車両の側面衝突過程における変形の様子を示す図である((a)参考例2、(b)発明例2)。
図11】実施例において、発明例1及び参考例1に係る車体下部構造を対象とした側面衝突試験で得られた評価項目の結果を示すグラフである((a)バッテリーパックへの入力荷重、(b)バッテリーパックの変形量)。
図12】実施例において、発明例2及び参考例2に係る車体下部構造を対象とした側面衝突試験で得られた評価項目の結果を示すグラフである((a)バッテリーパックへの入力荷重、(b)バッテリーパックの変形量)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造1(以下、単に「車体下部構造1」という)は、図1に一例として示すように、サイドシル10と、バッテリーパック20と、フロアクロスメンバ30と、地面側クロスメンバ40と、を備えたものである。以下、図1及び図2に基づいて、本実施の形態に係る車体下部構造1を説明する。
なお、本明細書及び図面において、同一の機能構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を割愛する。
【0018】
サイドシル10は、車体幅方向の車外側に配設されて車体前後方向に延在する左右一対のものであり、図1に示すように、サイドシルインナ11と、サイドシルアウタ13と、を有する。
【0019】
サイドシルインナ11は、車体幅方向の車外側に向かって開口するハット断面形状である。そして、サイドシルインナ11は、車体幅方向の車内側に位置する側面部11aと、側面部11aの上端縁と下端縁のそれぞれから稜線部11bを介して車外側に連続し、車体水平方向に対して傾斜している傾斜面部11cと、を有する。さらに、サイドシルインナ11は、各傾斜面部11cから連続するフランジ部11dを有する。
【0020】
サイドシルアウタ13は、車体幅方向の車内側に向かって開口する溝形状である。そして、サイドシルアウタ13は、車体幅方向の車外側に位置する底面部13aと、底面部13aの上端縁と下端縁のそれぞれから車内側に屈曲して連続する壁面部13bと、を有する。本実施の形態において、サイドシルアウタ13は、車体上方側の壁面部13bから車体上方側へと連続するフランジ部13cをさらに有する。
なお、サイドシルアウタ13の下方側の壁面部13bは、後述するように、地面側クロスメンバ40の端部40aとの接続を確保するため、車体幅方向において地面側クロスメンバ40の端部40aと接続できる位置まで延在する形状とすることが好ましい。
【0021】
サイドシルインナ11とサイドシルアウタ13は、互いの開口側を向かい合わせた状態で、サイドシルインナ11の車体上方側のフランジ部11dとサイドシルアウタ13の上端部であるフランジ部13cとが接合されている。さらに、サイドシルインナ11の車体下方側のフランジ部11dとサイドシルアウタ13の底面部13aが接合されている。
【0022】
バッテリーパック20は、図1に示すように、左右一対のサイドシル10の間に配設されたものであり、内部にバッテリーセル21が搭載されている。
本実施の形態において、バッテリーパック20は、車体幅方向外周側に配設されたバッテリーフレーム23により支持されている。
【0023】
フロアクロスメンバ30は、図1に示すように、バッテリーパック20の上面側に設置され、車体幅方向に延在するものである。さらに、フロアクロスメンバ30は、車体下方側に向かって開口し、車体幅方向の両先端に面部30aが設けられて閉じた直線状の溝形状であり、各面部30aが左右それぞれのサイドシルインナ11の側面部11aに当接している。なお、フロアクロスメンバ30の面部30aは、サイドシルインナ11の側面部11aと接触している状態であってもよいし、ブラケット等で接合してもよい。
【0024】
そして、サイドシルインナ11の側面部11aとフロアクロスメンバ30の面部30aは、車体前後方向に直交する断面形状が略同一であり、車体上下方向の位置も略同一である。
そのため、サイドシルインナ11の車体上方側及び車体下方側の稜線部11bとフロアクロスメンバ30の面部30aの上端縁及び下端縁とが車体上下方向において重なるように位置している。
【0025】
地面側クロスメンバ40は、図1に示すように、バッテリーパック20の下面側に設置され、車体幅方向に延在する溝形状を有するものである。
【0026】
地面側クロスメンバ40は、溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、車体幅方向における端部40aがサイドシルアウタ13の車体下方側の壁面部13bに接続している。
【0027】
地面側クロスメンバ40の端部40aとサイドシルアウタ13の下方側の壁面部13bとの接続方法は特に問わない。例えば、地面側クロスメンバ40の車内側の端部40aの上面(図2(b)に示す上部金属板43)とサイドシルアウタ13の下方側の壁面部13bを固定用ボルトで締結するか、溶接(スポット溶接等)により接合するとよい。
【0028】
本実施の形態に係る車体下部構造1において、バッテリーパック20に入力する荷重が低減することでバッテリーパック20の変形を抑制し、バッテリーパック20を保護することができる理由を、図2に基づいて以下に説明する。
【0029】
従来の車体下部構造3においては、図2(a)(i)に例示するように、サイドシルインナ51の側面部51aの断面高さはフロアクロスメンバ30の面部30aの断面高さよりも高く、車体前後方向に直交する断面形状が異なるものであった。さらに、フロアクロスメンバの面部30aは、サイドシルインナ51の側面部51aの上部に当接している構造であった。
そして、従来の車体下部構造3は、車両の側面衝突時においては図2(a)(ii)に示すように、フロアクロスメンバ30からの反力によりサイドシル50を十分に潰すことができず、衝突エネルギーの吸収効率が低い構造であった。そのため、バッテリーパック20に荷重が入力してバッテリーパック20が変形してしまっていた。
【0030】
これに対し、本実施の形態に係る車体下部構造1においては、図2(b)に示すように、サイドシルインナ11の側面部11aとフロアクロスメンバ30の面部30aの断面形状が略同一である。そして、サイドシルインナ11の車体上下方向の稜線部11bとフロアクロスメンバ30の面部30aの上端縁及び下端縁は、車体上下方向において重なるように位置している。
【0031】
これにより、車体下部構造1は、車両の側面衝突時に、サイドシルアウタ13からサイドシルインナ11の車体上下の傾斜面部11cを経由してフロアクロスメンバ30の面部30aの上端縁及び下端縁に衝突荷重を伝達できる。そして、車体下部構造1は、フロアクロスメンバ30からの反力をサイドシルインナ11の稜線部11bに伝達させることが可能となり、サイドシル10を十分に潰すことができ、衝突エネルギーの吸収効率を向上させることができる。その結果、バッテリーパック20への荷重の入力を低減し、バッテリーパック20の変形を抑制することができた。
【0032】
また、車体下部構造1において、フロアクロスメンバ30は、溝形状の両先端に面部30aが設けられて閉じた形状であり、サイドシルインナ11の側面部11aに当接している。これにより、側面衝突時にサイドシル10が変形してフロアクロスメンバ30の先端に荷重が入力しても、溝形状が開くような形状崩れに起因する耐力の低減を押さえることができる。
【0033】
さらに、車体下部構造1においては、バッテリーパック20の下面側に地面側クロスメンバ40が設置されていることにより、車体下部構造1の側面に入力した荷重をフロアクロスメンバ30と地面側クロスメンバ40に分散して伝達することができる。これにより、バッテリーパック20の保護性能をより有効に向上することができる。
特に、地面側クロスメンバ40の溝形状を直線状とし、車体幅方向に直交する断面形状を車体幅方向に沿って略一定とすることで、サイドシルアウタ13の断面高さを最大限とることができる。その結果、サイドシルアウタ13の変形による衝突吸収エネルギーを増大させることが可能となる。さらに、地面側クロスメンバ40の溝形状を直線状とし、車体幅方向に直交する断面形状を車体幅方向に沿って略一定とすることで、側面衝突時において、地面側クロスメンバ40を折れ変形(座屈変形)しにくい構造とし、バッテリーパック20に入力する荷重を低減することができる。
【0034】
このように、車体下部構造1によれば、側面衝突時においてサイドシル10を十分に潰して衝突吸収エネルギーを増大させることにより、バッテリーパック20への入力荷重を低減し、バッテリーパック20の変形量を抑制することができる。
【0035】
さらに、サイドシルインナ11は、側面部11aの断面高さがサイドシルアウタ13の底面部13aよりも低く、側面部11aから車体下方側の傾斜面部11cを介して連続するフランジ部11dがサイドシルアウタ13の底面部13aに接続している。これにより、側面衝突時における衝突吸収エネルギーを低下させることなくサイドシルインナ11の断面形状を小さくすることができるため、軽量化に寄与することができる。
【0036】
以上、本実施の形態に係る電気自動車の車体下部構造1によれば、側面衝突時にバッテリーパック20に入力する荷重を低減し、バッテリーパック20の変形を抑制することができる。これにより、側面衝突時においてもバッテリーを保護する安全な電気自動車を製造することができる。
さらに、本実施の形態に係る車体下部構造1においては、サイドシルインナ11の断面形状を小さくすることができ、側面衝突性能を低下させずに車体を軽量化することができる。
【0037】
上記の説明において、サイドシルインナ11の車体下方側の傾斜面部11cは、サイドシルアウタ13の底面部13aに接続するものであったが、本発明はこれに限定されるものではなく、サイドシルアウタ13の車体下方側の壁面部13bに接続するものであってもよい。
【0038】
また、サイドシルインナ11の傾斜面部11cの傾斜角度についても、特に制限はなく、側面部11aの断面形状や、サイドシルアウタ13の配置や接続する部位に応じて、適宜設定すればよい。
もっとも、サイドシルインナ11とサイドシルアウタ13とにより形成される閉断面に関しては、車両の前突性能の確保や各種ハーネスを収納することが要求されることがある。そのため、傾斜面部11cの傾斜角度(車体水平面と車体下方側の傾斜面部11cがなす鋭角側の角度)は20°以上であることが好ましい。
また、サイドシルインナ11の稜線部11bが受け止めたフロアクロスメンバ30からの反力を伝達させる観点から、サイドシルインナ11の車体下方側の傾斜面部11cの傾斜角度は45°以下であることが好ましい。
【0039】
さらに、地面側クロスメンバ40は、車体幅方向に延在する溝形状を有するものとして、図3に示すように、連続ハット断面形状部材41と、上部金属板43と、下部金属板45と、を備えて構成されたものであることが好ましい。
【0040】
連続ハット断面形状部材41は、車体幅方向に直交する断面においてハット断面形状が3つ連続するように形成された部材である。図3(c)に示す連続ハット断面形状部材41は、車体上方側に向かって開口した2つのハット断面形状と、該2つのハット断面形状の間において車体下方側に向かって開口した1つのハット断面形状と、が車体前後方向に沿って連続して形成されたものである。
【0041】
上部金属板43は、連続ハット断面形状部材41の上面を覆うものであり、連続ハット断面形状部材41において車体上方側に開口した2つのハット断面形状の開口を塞ぐように設けられている。上部金属板43と連続ハット断面形状部材41を片側溶接またはボルトで接続するとよい。
【0042】
下部金属板45は、連続ハット断面形状部材41の下面を覆うものであり、車体上方側に開口した2つのハット断面形状の天板部を繋ぐように設けられている。下部金属板45と連続ハット断面形状部材41を片側溶接またはボルトで接続するとよい。
【0043】
このように、連続ハット断面形状部材41を上部金属板43と下部金属板45とにより挟んだ構成とすることで、側突荷重に対する曲げ剛性を高め、地面側クロスメンバ40を折れ変形(座屈変形)しにくい構造にすることができる。これにより、側面衝突時において、バッテリーパック20に入力する荷重を低減することができる。
【0044】
なお、図3(c)に示す連続ハット断面形状部材41はハット断面形状が3つ連続するように形成されたものであったが、本発明において、連続ハット断面形状部材は、ハット断面形状が少なくとも3つ連続するように形成されたものであればよい。
【0045】
また、本発明において、連続ハット断面形状部材は、外側の2つのハット断面形状の開口が車体下方側に向かい、中央のハット断面形状の開口が車体上方側に向かうように配置されたものであってもよい。
この場合、上部金属板は、連続ハット断面形状部材の外側の2つのハット断面形状の天板部を繋ぐように設けることで連続ハット断面形状部材の上面を覆うものとすればよい。さらに、下部金属板は、連続ハット断面形状部材の真ん中のハット断面形状の開口を塞ぐように設けることで、連続ハット断面形状部材の下面を覆うものとすればよい。
【0046】
本発明において、フロアクロスメンバは、両先端に面部が設けられて溝形状が閉じた形状であればよく、溝形状の両先端において端板が溶接又は接着されて閉じた形状が形成されたものが好ましい。ここで、端板の溶接は、スポット溶接、レーザー溶接又はアーク溶接のいずれであってもよい。
【0047】
もっとも、フロアクロスメンバは、直線状の溝形状と両先端の閉じた形状とが絞り成形により一体形成されたものであってもよい。
【0048】
さらに、本発明において、フロアクロスメンバは、車体幅方向に湾曲した起伏のない直線状の溝形状とし、車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であることが好ましい。ここで、断面形状が略一定であるとは、車体幅方向の断面形状の変化が端部における溝高さの90%以下であること、とするとよい。
【0049】
このように、フロアクロスメンバの断面形状が車体幅方向に湾曲した起伏のない直線状であり車体幅方向に沿って略一定であることにより、側面衝突時においてフロアクロスメンバの折れ変形(座屈変形)しにくい構造とすることができる。これにより、サイドシルを十分に潰すことができ、高い衝突吸収エネルギーを稼ぐことができる。
【0050】
本発明に係る車体下部構造においては、電気自動車の側面に衝突荷重が入力する位置によらず当該衝突荷重を受け止めてバッテリーパックをより効果的に保護することができるように、フロアクロスメンバを設置する位置と本数を適宜設定すればよい。
【0051】
また、地面側クロスメンバは、フロアクロスメンバと同様、車両幅方向の断面形状の変化が中央部の1.2倍未満であることが好ましい。
さらに、左右一組の地面側クロスメンバを設置する位置と数についても、フロアクロスメンバと同様に適宜設定すればよい。好ましくは、フロアクロスメンバと車体前後方向にオーバーラップする位置に地面側クロスメンバを設置するとよい。これにより、衝突荷重をフロアクロスメンバと地面側クロスメンバに効率良く分散することができ、バッテリーパックの保護性能をより向上させることができる。
【0052】
サイドシルインナの側面部に当接するフロアクロスメンバの面部の高さは、フロアクロスメンバの面部の上端縁が、サイドシルインナの側面部の上端部側の稜線部の範囲(稜線部の曲げRにおける側面部側のR止まりと傾斜面部側のR止まりの間の車体上下方向の範囲)に重なり、フロアクロスメンバの面部の下端縁が、サイドシルインナの側面部の下端部側の稜線部の範囲に重なるように決定するのが好ましい。また、フロアクロスメンバの面部の高さは、客室スペースとの関係から100mm以下とするのが好ましく、40~60mmとするのがより好ましい。
【0053】
本発明において、サイドシル及びフロアクロスメンバは、引張強度980MPa級以上の鋼板を用いて形成されていることが好ましい。引張強度980MPa級以上の鋼板としては、980MPa級、1180MPa級、1370MPa級、1470MPa級、1760MPa級、1960MPa級の鋼板が例示できる。
【0054】
また、地面側クロスメンバは、引張強度590MPa級以上の鋼板を用いて形成されることが好ましい。地面側クロスメンバ40の端部40aは、側面衝突によりサイドシルアウタ13の圧壊後、車体に入力した衝突荷重が地面側クロスメンバ40に直接伝達される(図1参照)。しかしながら、地面側クロスメンバ40は、フロアクロスメンバ30よりも折れ変形が生じやすく、地面側クロスメンバ40に折れ変形により破断が生じると、衝突エネルギー吸収性能が大幅に低下してしまう。
このため、地面側クロスメンバは、サイドシル及びフロアクロスメンバに用いる鋼板よりも延性の高い鋼板を用いて形成されていることが好まく、フロアクロスメンバと同等の引張強度、若しくは、フロアクロスメンバよりも引張強度が低く延性の高い590MPa級以上の鋼板を用いて形成されることが好ましい。
【0055】
これらの引張強度の鋼板を用いてサイドシル、クロスメンバ及び地面側クロスメンバを製作することにより、側面衝突時にサイドシルの上部と下部を十分に潰すことで衝突エネルギーを効率的に吸収することができる。
【実施例0056】
本発明に係る車体下部構造の作用効果について検証するための具体的な解析を行ったので、その結果について以下に説明する。
【0057】
本実施例では、前述した実施の形態で図1に示した車体下部構造1を備えた車両101の側面に対して、図3に示すように、車体幅方向車外側からポール103に衝突させるポール側面衝突試験の衝突解析を行った(発明例)。
【0058】
車体下部構造1は、実施の形態で述べたように、サイドシル10と、バッテリーパック20と、フロアクロスメンバ30と、地面側クロスメンバ40と、を備えたものである。
【0059】
フロアクロスメンバ30は、フロントシート(図示無し)の締結用に設けられたものであり、図5(a)に示すように、車体前後方向に間隔を空けて2本設置した。
2本のフロアクロスメンバ30は、いずれも、車体幅方向に延在する溝形状の両先端に面部30aを設けることで閉じた形状とし、左右のサイドシル10の側面(サイドシルインナ11の側面部11a)に当接させた。
【0060】
地面側クロスメンバ40は、図5(b)に示すように、バッテリーパックの下面側において、車体前後方向に間隔を空けて4本設置した。
【0061】
そして、各地面側クロスメンバ40は、前述した図3に示すように、連続ハット断面形状部材41と、上部金属板43と、下部金属板45と、を備えて構成されたものとした。また、各地面側クロスメンバ40は、図3(b)、(c)に示すように、溝形状が直線状かつ車体幅方向に直交する断面形状が車体幅方向に沿って略一定であり、溝高さを12.6mmとした。
【0062】
本実施例に係る車体下部構造1において、サイドシル10及びフロアクロスメンバ30は、引張強度980MPa級の鋼板を用いて形成し、地面側クロスメンバ40は、引張強度980MPa級の鋼板を用いて形成した。
【0063】
本実施例では、32km/hまで加速した車両101の側面に対して衝突角度75°でポール103に衝突させるポール側面衝突試験の衝突解析を行った(図4)。
【0064】
電気自動車においては、車両101の側面におけるポール103の衝突位置によらずバッテリーパック20を保護することができるエニーウェア要件が厳しく求められる。そこで、本実施例では、図6に示すように、車体前後方向(TL)におけるNo.1~No.5の5箇所をポール103の衝突位置とした(No.1:TL=520mm、No.2:TL=905mm、No.3:TL=1080mm、No.4:TL=1260mm、No.5:TL=1605mm)。
そして、No.1~No.5の各衝突位置についてポール側面衝突の衝突解析を行い、バッテリーパック20側に入力する荷重(バッテリーパックへの入力荷重)と、バッテリーパック20の変形量(バッテリーパックの変形量)を評価した。
【0065】
バッテリーパックへの入力荷重については、図7(a)に示すように、衝突過程におけるサイドシルインナ11の接触によりバッテリーフレーム23に生じる反力(接触反力)とした。
【0066】
電気自動車等に搭載される電池に関しては、国連協定規則「UN ECE R100-0.2.Part.II」に適合することが要求され、車両衝突時における電池の安全性評価に関する試験項目として圧壊試験(衝撃試験)が規定されている。この圧壊試験では、100kN以上105kN以下の力で、3分未満の開始期間、100ms以上10s以下の保持期間で、試験対象装置(バッテリーパック)を押しつぶし、電池の破砕や電解液漏れ、火災又は爆発の兆候の有無を評価する(インターネット<URL:https://www.mlit.go.jp/jidosha/un/UN_R100.pdf>[令和5年6月21日検索]参照)。
そこで、本実施例では、バッテリーパックへの入力荷重の目標値を、国連協定規則「UN ECE R100-0.2.Part.II」の圧壊試験において電池に加える荷重である105kN以下とした。
【0067】
一方、バッテリーパックの変形量については、図7(b)に示すように、車体前後方向の12か所においてバッテリーパック20の変形前と変形後それぞれの車体幅方向の長さを測定し、変形前後の差分を求めた。ここで、変形前のバッテリーパック20の内面とバッテリーセル21の最小間隔は、バッテリーパック20の板厚を考慮すると11mmであった。そこで本実施例では、ポール側面衝突時にバッテリーパック20とバッテリーセル21が接触しない条件として、バッテリーパックの変形量10mm未満を目標とした。
【0068】
本実施例では、バッテリーパック20の幅が異なる発明例1、発明例2とした。発明例1は、バッテリーパック20を基準幅(車体幅方向におけるバッテリーパック20とサイドシルインナ11との間の距離を90mm)としたものである。一方、発明例2は、バッテリーパック20を基準幅よりも+60mm(車体幅方向におけるバッテリーパック20とサイドシルインナ11との間の距離を60mm)としたものである。
【0069】
さらに、本実施例では、図8に示すように、フロアクロスメンバ30の面部30aよりも断面高さが高い側面部51aを有するサイドシルインナ51を備えた車体下部構造3を参考例とした。
車体下部構造3においては、サイドシル50は、ハット断面形状のサイドシルアウタ53とサイドシルインナ51が接合されたものとし、バッテリーパック20、フロアクロスメンバ30及び地面側クロスメンバ40は、発明例に係る車体下部構造1と同一とした。さらに、フロアクロスメンバ30の面部30aをサイドシルインナ51の側面部51aの上部に当接させ、地面側クロスメンバ40の車体幅方向の両端部40aをサイドシルインナ51の下方側の壁面部51bに接続させた構造とした。
【0070】
参考例のサイドシルインナ51(図8)と発明例のサイドシルインナ11(図1)を比較すると、発明例のサイドシルインナ11の方が断面形状が小さい。そのため、発明例に係る車体下部構造1は、参考例に係る車体下部構造3よりも5.1kgの重量減である。
【0071】
そして、参考例についても、発明例に係る車体下部構造1と同様にポール側面衝突の衝突解析を行い、バッテリーパック20を基準幅とした車体下部構造3を参考例1、バッテリーパック20の幅を基準幅よりも60mm広くした車体下部構造3を参考例2とした。
【0072】
図9に、バッテリーパック20を基準幅とした車体下部構造1(発明例1)及び車体下部構造3(参考例1)を備えた車両101の側面に対してポール103を衝突させたポール側面衝突過程における変形挙動を示す。なお、図9に示す結果は、車体前後方向TL=905mmの位置(図6(b))にポールを衝突させた場合の結果である。
【0073】
参考例1においては、図9(a)に示すように、フロアクロスメンバ30の面部30aがサイドシルインナ51の側面部51aの上部に当接しているため、サイドシルインナ51の下部に潰れ残りがあり、衝突エネルギーを十分に吸収していないことが示唆される。
【0074】
これに対し、発明例1においては、図9(b)に示すように、サイドシル10は完全に潰れ切っていることから衝突エネルギーを十分に吸収していることが分かる。
【0075】
図10に、バッテリーパック20の幅を基準幅よりも60mm広くした車体下部構造1(発明例2)及び車体下部構造3(参考例2)を備えた車両101の側面に対してポール103を衝突させたポール側面衝突過程における変形挙動を示す。図10に示す結果は、車体前後方向TL=905mmの位置(図6(b))にポール103を衝突させた場合の結果である。
【0076】
バッテリーパック20の幅を基準幅よりも60mm広くした場合においても、参考例2に係る車体下部構造3では、サイドシルインナ51の下部に潰れ残りがあり、衝突エネルギーを十分に吸収していないことが示唆される。
これに対し、発明例2に係る車体下部構造1では、サイドシル10を完全に潰すことにより衝突エネルギーを十分に吸収している。
【0077】
図11に、バッテリーパック20を基準幅とした場合において、ポール103が衝突する車体前後方向の各位置について求めたバッテリーパックへの入力荷重とバッテリーパックの変形量の評価結果を示す。
発明例1におけるバッテリーパックへの入力荷重は、いずれの衝突位置においても、参考例1と同等か参考例1よりも低減し、目標とした105kNを大幅に下回る結果であった。
【0078】
発明例1におけるバッテリーパックの変形量に関しても、同様に、いずれの衝突位置においても、参考例1と同等か参考例1よりも低減し、目標とした10mm未満であった。
【0079】
図12に、バッテリーパック20の幅を基準幅よりも60mm広くした場合において、ポール103が衝突する車体前後方向の各位置について求めたバッテリーパックへの入力荷重とバッテリーパックの変形量の評価結果を示す。
発明例2におけるバッテリーパックへの入力荷重は、いずれの衝突位置においても、参考例2と同等か参考例2よりも低減し、目標とした105kN以下であった。
【0080】
発明例2におけるバッテリーパックの変形量に関しても、同様に、いずれの衝突位置においても、参考例2と同等か参考例2よりも低減し、目標とした10mm未満であった。
【0081】
電気自動車のポール側面衝突におけるエニーウェア要件は非常に難しい条件であるが、本発明に係る車体下部構造1によれば、ポール衝突位置によらずバッテリーパックの変形量の目標を達成し、バッテリーを保護できることが実証された。さらに、本発明に係る車体下部構造1は、側面衝突性能を低下させずに車体を軽量化できることが示された。
【符号の説明】
【0082】
1 車体下部構造
3 車体下部構造
10 サイドシル
11 サイドシルインナ
11a 側面部
11b 稜線部
11c 傾斜面部
11d フランジ部
13 サイドシルアウタ
13a 底面部
13b 壁面部
13c フランジ部
20 バッテリーパック
20a 端部
21 バッテリーセル
23 バッテリーフレーム
30 フロアクロスメンバ
30a 面部
40 地面側クロスメンバ
40a 端部
41 連続ハット断面形状部材
41a 天板部
43 上部金属板
45 下部金属板
50 サイドシル
51 サイドシルインナ
51a 側面部
51b 壁面部
53 サイドシルアウタ
101 車両
103 ポール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12