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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024733
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】トルクリミッタ
(51)【国際特許分類】
   F16D 7/02 20060101AFI20250214BHJP
   F16D 41/20 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F16D7/02 F
F16D41/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128956
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】598102546
【氏名又は名称】南真化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097559
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 浩司
(74)【代理人】
【識別番号】100196829
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 言一
(72)【発明者】
【氏名】板橋 昭男
(57)【要約】
【課題】組み立てる際の作業性が良く、低コスト化が図れるトルクリミッタを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明のトルクリミッタ1は、外周面にコイルバネ40が巻回保持される内輪部材10と、内輪部材10を覆うように配設される外輪部材30と、を備えている。内輪部材10には、軸方向一方の端部に内輪部材10と一体回転するようにヘッド部材50が取り付けられ、コイルバネ40は、内輪部材10の軸方向一方の端部側に形成され、外輪部材30の内面と対向するフランジ部12と、ヘッド部材50との間に配設されている。そして、ヘッド部材50は、外輪部材30の開口部内に、外輪部材と摺動可能に保持されている。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にコイルバネが巻回保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設される外輪部材と、を備え、前記内輪部材に巻回保持されたコイルバネの端部が前記外輪部材に固定されることで、前記内輪部材と前記コイルバネとの摩擦力によって前記内輪部材と前記外輪部材との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限するトルクリミッタにおいて、
前記内輪部材には、軸方向一方の端部に前記内輪部材と一体回転するようにヘッド部材が取り付けられ、
前記コイルバネは、前記内輪部材の軸方向一方の端部側に形成され、前記外輪部材の内面と対向するフランジ部と、前記ヘッド部材との間に配設されており、
前記ヘッド部材は、前記外輪部材の開口部内に、外輪部材と摺動可能に保持されている、
ことを特徴とするトルクリミッタ。
【請求項2】
前記ヘッド部材は、前記内輪部材の端部に結合され、前記外輪部材の内面と摺動可能に嵌合する環状の突部を備えており、
前記環状の突部が、前記外輪部材の端部の内面に複数個所形成された突起を乗り越えることで、前記ヘッド部材は前記外輪部材の開口部内に、外輪部材と摺動可能に保持されることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記ヘッド部材は、前記コイルバネの軸方向移動を規制する環状突起を有することを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記環状突起の前記コイルバネと対向する対向面は、前記コイルバネの巻回端部と略平行となるように傾斜を有することを特徴とする請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記内輪部材の軸方向一方の端部側に形成されるフランジ部と、前記環状突起との間で前記コイルバネが配設される領域の寸法L1は、前記コイルバネのバネ長L2に対して、L1-L2≦0.5mmとなるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記外輪部材の外周面にはゴムローラが装着されており、
前記外輪部材は、軸方向他方の端部側で、前記内輪部材と接触する摺動部を備えており、
前記摺動部の接触長さは、2.5mm以上に設定されていることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項7】
前記外輪部材の内面と摺動する前記内輪部材のフランジ部には、前記コイルバネの巻回端部を受ける段差が形成されており、
前記段差の前記コイルバネと対向する対向面は、前記コイルバネの巻回端部と略平行となるように傾斜を有することを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項8】
前記ヘッド部材には、動力伝達するギア部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項9】
前記ヘッド部材は、汎用樹脂で一体形成されていることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載のトルクリミッタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方向に伝達される回転、又は、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを所定値以下に制限するトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、トルクリミッタは、回転伝達機構において、ある一定値を超える大きなトルクが作用したときに、その一定値以上のトルクの伝達を遮断するものであり、例えば、プリンタや複写機等の電子情報機器の用紙搬送機構(給紙機構)のローラ部分に設置されている。このようなトルクリミッタは、機械的な摩擦によって回転トルクを得る接触式のものがあり、例えば、特許文献1に開示されているように、内輪部材(ボビンとも称される)と、この内輪部材の外周に締まり嵌めされるコイルバネと、コイルバネの一端部を固定し、前記内輪部材を覆う外輪部材(ケース部材又はハウジングとも称される)とを備えたものが知られている。
【0003】
また、トルクリミッタには、一方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限する以外にも、例えば、特許文献2に開示されているように、双方向に伝達される回転に伴う負荷トルクを制限するものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2023-73602号
【特許文献2】特開2023-73603号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記内輪部材に巻回されるコイルバネは、内輪部材の一端部側に一体形成されたフランジに当て付いて軸方向に移動が規制されている。このため、特許文献1の図2のように、コイルバネは、内輪部材の他端部側から挿入して、所定の位置に設置する必要があり、挿入位置から設置位置までの距離が長く、コイルバネの組み込み作業が難しいという問題がある。また、コイルバネが取り付けられた内輪部材を外輪部材に挿入する際、外輪部材の内面に形成された固定部(係止部)に対し、コイルバネの端部が当て付いて固定される挿入位置が分かり難く、組み込み作業が難しい。更に、前記内輪部材に形成されたフランジは、外輪部材と摺動し、更には、外輪部材にゴムローラを取着した構成では、ゴムローラからのラジアル荷重が加わることから、フランジと外輪部材の接触部分で摩耗が生じ易くなる。この場合、外輪部材を、摩耗が生じないような材料で形成するとコストが高くなってしまう。
【0006】
本発明は、上記した問題に着目してなされたものであり、組み立てる際の作業性が良く、低コスト化が図れるトルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明に係るトルクリミッタは、外周面にコイルバネが巻回保持される内輪部材と、前記内輪部材を覆うように配設される外輪部材と、を備え、前記内輪部材に巻回保持されたコイルバネの端部が前記外輪部材に固定されることで、前記内輪部材と前記コイルバネとの摩擦力によって前記内輪部材と前記外輪部材との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限するように構成されている。そして、前記内輪部材には、軸方向一方の端部に前記内輪部材と一体回転するようにヘッド部材が取り付けられ、前記コイルバネは、前記内輪部材の軸方向一方の端部側に形成され、前記外輪部材の内面と対向するフランジ部と、前記ヘッド部材との間に配設されており、前記ヘッド部材は、前記外輪部材の開口部内に、外輪部材と摺動可能に保持されている、ことを特徴とする。
【0008】
上記した構成によれば、ヘッド部材を外輪部材に装着する前の内輪部材に対して、コイルバネを、軸方向一方の端部側に形成されたフランジ部に向けて短い距離の側から組み付けることができるので、コイルバネの組み付け位置までの距離が短くなり、組み付け作業性の向上が図れる。また、外輪部材に対して、コイルバネが組み付けられた内輪部材を組み込む(挿入する)際に、外輪部材に形成されているコイルバネの端部を固定する固定部が視認し易くなり、コイルバネの端部を位置合わせして組み込むことが容易に行える。更に、ヘッド部材は、内輪部材とは別体で取り付けられることから、内輪部材を摩耗し難い高価な材料で形成しても、ヘッド部材は、外輪部材と共に低コストの一般材料で形成することができるとともに、外輪部材との間で摺動摩擦による摩耗を軽減することが可能となる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトルクリミッタによれば、内輪部材の端部にヘッド部材を取り付けたことで、コイルバネの組み込み、及び、コイルバネが組み付けられた内輪部材の外輪部材に対する組み込みが容易に行えるようになる。また、ヘッド部材を設けたことで、ヘッド部材と外輪部材を一般材料(一般的な樹脂材料など)で構成することができ、低コスト化を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係るトルクリミッタの一構成例を示す断面図であり、(a)は長手方向に沿った断面図、(b)は左側面図、(c)は右側面図。
図2】内輪部材のコイルバネが組み込まれる部分を示す図。
図3図2に示す構成の主要部を拡大して示す図。
図4】(a)及び(b)は、それぞれヘッド部材の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るトルクリミッタについて説明する。
図1(a)~図1(c)は、本発明に係るトルクリミッタの一構成例を示している。
【0012】
本実施形態のトルクリミッタ1は、円筒状に形成された内輪部材(ボビンとも称される)10と、内輪部材10を覆うようにして装着される円筒状に形成された外輪部材(ケース部材又はハウジングとも称される)30と、内輪部材10の外周面に巻回保持されるコイルバネ40と、を備えている。
【0013】
前記内輪部材10には、軸方向一方の端部(図1では右側端部)に、内輪部材10と一体回転するようにヘッド部材50が取り付けられている。このヘッド部材50は、前記コイルバネ40が組み付けられた内輪部材10を、軸方向一方の端部(図1では右側の端部)から外輪部材30に挿入して固定された後、外輪部材30の一方の端部の開口を閉塞するように取り付けられる。
【0014】
本実施形態のトルクリミッタは、双方向の回転に伴う負荷トルクを所定値以下に制限する双方向型に構成されている(双方向トルクリミッタ)。このため、前記コイルバネ40は、隣り合う巻回部同士が密着した状態で螺旋状に延びるとともに、一端部40a及び他端部40bが、それぞれ外輪部材30の内面に形成された固定部に回り止め係止されるようになっている。
【0015】
この場合、コイルバネ40両端部40a,40bは、外輪部材30の内面30aに、周方向に沿って所定間隔をおいて軸方向に延出するように形成された複数のリブ31の内の2個所に、コイルバネ40が緩む方向にだけ回り止めされるように係止される。
【0016】
このような構成では、内輪部材10とコイルバネ40との摩擦力により、両回転方向において内輪部材10と外輪部材30との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限する。具体的には、外輪部材30側から時計回り方向、或いは、反時計回り方向の回転が作用した場合において、各方向の回転に対して、それぞれ一定値以上のトルクが作用したときに滑り(スリップ)が生じ、動力伝達が阻止される。
【0017】
すなわち、いずれの回転方向の負荷トルクに対しても、それぞれトルク制限値以下のときはトルクを伝達し(ON状態)、トルク制限値を超えた負荷トルクが加わると、回転による動力伝達が阻止される(OFF状態)。
なお、この動力伝達をOFFにするトルクについては、コイルバネ40の構造(例えば、線径、巻径、巻数などのバネ構造)によって調整可能である。
【0018】
上記したコイルバネ40については、一方向コイルバネにし、端部40a,40bのいずれかを外輪部材30のリブ31に回り止め係止する一方向トルクリミッタであっても良い。このような構成では、外輪部材30から一方向に一定値以上の回転トルクが発生した場合、内輪部材とコイルバネを滑らせる(内輪部材10と外輪部材30との間で動力伝達をOFFにする)機能を果たす。
【0019】
すなわち、外輪部材30が一方向に回転した場合、一方向コイルバネは締め付けられ、内輪部材10との間で動力伝達はON状態になる。また、外輪部材30が他方向に回転した場合、一方向コイルバネは径方向に膨らむ状態(緩む状態)となり、その回転力がある程度大きくなって所定のトルクを超えると、内輪部材10の外周面とそこに装着されている一方向コイルバネの内面との間でスリップが生じて動力伝達はOFF状態となる。
【0020】
このような一方向トルクリミッタは、一方向の回転は常に動力伝達状態となり、逆方向の回転については、所定のトルクが作用した場合、内輪部材10材と外輪部材30との間で滑りが生じ、動力伝達はOFF状態となる。
なお、このような一方向トルクリミッタにおいても、動力伝達をOFFにするトルクについては、コイルバネ40のバネ構造によって調整可能である。
【0021】
本実施形態の上記したコイルバネ40は、内輪部材10の軸方向一方の端部側に形成され、外輪部材30の内面30aと対向するフランジ部12と、前記ヘッド部材50との間に設置される。
【0022】
前記フランジ部12は、環状に構成されており、その外径は、外輪部材30の内面30aよりも僅かに小さく形成されている。また、フランジ部よりも開口側の内輪部材10には、コイルバネ40が配設されるように、直線部を備えている。すなわち、この直線部にコイルバネ40を配設し、その端部40a,40bを前記外輪部材30のリブ31に回り止め係止することで、内輪部材10と外輪部材30との間で所定のトルクを発生させつつそのトルクを所定値以下に制限する。
【0023】
前記コイルバネ40は、予め内輪部材10に組み付けられており、コイルバネ40が組み付けられた内輪部材は、外輪部材30内の所定の位置に組み込まれる(挿入される)。この場合、前記外輪部材30の内面30aには、周方向に所定間隔をおいて複数のリブ30dが軸方向に延出するように一体形成されており、内輪部材10を外輪部材30に挿入すると、前記内輪部材のフランジ部12がリブ30dの端面30d´に当て付いて、軸方向に位置決め成される。
【0024】
本実施形態のヘッド部材50は、略キャップ状に形成されており、ヘッド部材50の軸方向内面側には、前記円筒状に形成された内輪部材10の開口端縁10Aが嵌合される環状凹部51が形成されている。この開口端縁10Aが環状凹部51嵌合することで、ヘッド部材50は、前記内輪部材10の軸方向一方の端部に固定されている。また、ヘッド部材50は、前記外輪部材30の内面30aに対して周方向に摺動可能に嵌合する環状の突部(フランジ)52を備えている。
【0025】
前記外輪部材30の開口部側の内面には、一定間隔をおいて複数個(本実施形態では、略120°間隔で3個)の突起33が形成されている。各突起33は、前記ヘッド部材50の環状の突部52が乗り越えることができる大きさ、形状に形成されており、前記ヘッド部材50を前記外輪部材30の開口部30bに圧入し、前記環状の突部52が各突起33を乗り越えることで、ヘッド部材50は外輪部材30の開口部30b内に、摺動可能(周方向に摺動可能)に保持されて内輪部材10の端部と結合される。
【0026】
前記ヘッド部材50は、前記コイルバネの軸方向移動を規制する環状突起55を有している。この環状突起55は、前記ヘッド部材50が内輪部材10の端部に保持された際、前記コイルバネ40の巻回端部(ヘッド側端面)が当て付いてコイルバネ40の軸方向移動を規制するものであり、環状で軸方向に突出するように形成されている。
【0027】
また、前記内輪部材10の前記フランジ部12の開口部側には、前記コイルバネ40の巻回端部(フランジ部側の端部)を受ける段差13が形成されている。すなわち、前記コイルバネ40は、前記ヘッド部材50の環状突起55と、前記内輪部材10の段差13との間の直線部に配設される。
【0028】
このように、コイルバネの両端側において、前記ヘッド部材50に環状突起55を設けると共に、内輪部材10の端部側に段差13を設けることで、コイルバネのスラスト方向での接触条件(コイルバネの摺動)が同じになり、双方向のトルク差を軽減することが可能となる。
【0029】
この場合、コイルバネ40が配設される領域(環状突起55と前記内輪部材10の段差13との間の距離)L1は、コイルバネ40のバネ長L2に対して長く形成されるが、距離L1を余り長くし過ぎると、回転変更時のトルクが直ちに安定し難くなる。このため、本実施形態のような双方向トルクリミッタでは、回転変更時のトルクが速く安定するように、0.5mm以下(L1-L2≦0.5mm)に設定しておくことが好ましい。
【0030】
本実施形態のトルクリミッタ(双方向トルクリミッタ)は、プリンタや複写機等に用いられる用紙搬送機構のローラ部分に設置されている。このため、前記外輪部材30の外周面には、ゴムローラ70が一体的に装着されている。また、外輪部材30は、軸方向他方の端部側で、前記内輪部材10の外面と接触する摺動部36を備えている。
【0031】
上記のように、ローラ一体型のトルクリミッタは、ラジアル荷重を受けるため、ラジアル荷重による摩耗低減(径拡大によるガタ防止)が図れるように、摺動部36の接触長さL3については、ある程度の長さ以上、具体的には、2.5mm以上に設定しておくことが好ましい。
【0032】
また、本実施形態のトルクリミッタは、双方向トルクリミッタとして構成されており、回転方向によるトルク差を軽減し、回転方向の変化時に早くトルクが安定するようにしている。すなわち、上記のように、コイルバネ40の一方の巻回端部と環状突起55、及び、他方の巻回端部と段差13との間で規制される条件(接触条件)が同じになるように構成することでトルク差の軽減が図れる。また、上記したように、回転方向変更時のコイルバネ40の軸方向移動をできるだけ小さくする(L1-L2≦0.5mm)ことで、回転方向の変化時に早くトルクが安定するようにしている。
【0033】
また、図3に示すように、前記環状突起55の前記コイルバネ40と対向する対向面55aは、コイルバネ40の巻回端部40Aと略平行に傾斜する(コイルバネの巻回と同様な螺旋状に傾斜する)ように構成されている。この場合、図3の実線で示すように、環状突起55の対向面55aが傾斜していない(コイルバネの螺旋角度と交わる状態)では、コイルバネ40の巻回端部と環状突起55の縁部Rが点接触となってしまい、潤滑剤が入り込めず、これが異音やスティックスリップ(ビビリ)の原因となっている。本実施形態では、前記対向面55aに傾斜を持たせることで点接触を緩和して潤滑剤が入り込めるようにしており、これにより、異音やビビリの発生を防止するように構成している。
【0034】
なお、傾斜する角度αについては、コイルバネ40の構成にもよるが、コイルバネ40の軸方向に対する螺旋する角度をθとした場合、傾斜角度αは、θ(0°)に対して、0°より大きく、3°以下となっていれば良い。
【0035】
また、上記した傾斜面は、コイルバネ40の反対側の端部を受ける段差13側にも形成しておくことが好ましい。すなわち、段差13の前記コイルバネ40と対向する対向面13a(図2参照)についても、コイルバネ40の巻回端部と略平行となるように傾斜を有するように構成することで、異音やスティックスリップの発生を防止することが可能となる。
【0036】
次に、上記したトルクリミッタ1の組み立て工程について説明する。
最初に内輪部材10の所定位置にコイルバネ40を組み付ける。このコイルバネ40の組み付けは、内輪部材10の開口部の近くで短い範囲の直線部で行なうため、コイルバネ40の組み付け操作が容易に行えるようになる。そして、この状態で内輪部材10を外輪部材30に対して軸方向に挿入する。図1では、外輪部材30の開口部30b側から内輪部材10が挿入される。内輪部材10を外輪部材30に挿入して行くと、前記フランジ部12が外輪部材30のリブ30dの端面30d´に当接し、軸方向の位置決めが成される。
【0037】
上記した内輪部材10の外輪部材30に対する挿入操作では、内輪部材10に組み付けられたコイルバネ40の端部40a,40b、及び、外輪部材30のリブ31が視認できるので、前記外輪部材30のリブ31に対する組み込み位置(挿入位置)が把握し易くなり、組み込み作業が容易に行えるようになる。
【0038】
前記内輪部材10が外輪部材30に組み込まれた後、前記ヘッド部材50を外輪部材30の開口部30bに取り付ける。この際、前記内輪部材10が中心出しのガイドとなるため、ヘッド部材50をスムーズに取り付けることが可能となる。そして、ヘッド部材50の軸方向内側に形成された環状凹部51が、前記内輪部材10の開口端縁10Aに嵌合し、ヘッド部材50の環状の突部52が外輪部材30の開口部側の内面に形成された突起33を乗り越えることで、ヘッド部材50は、外輪部材30の開口部30b内に、周方向に摺動可能に保持されて内輪部材10の端部と結合される。
【0039】
上記したような組み立て操作は、コイルバネ40が組み付けられた内輪部材10の組み込み操作を、ヘッド部材50を固定する前に、外輪部材30の開口側で行なうため、正確な位置決め、組み込み操作を素早く行うことができる。
【0040】
上記した構成では、ヘッド部材50は、例えば、ポリアセタール等の汎用樹脂で一体形成することが可能である。すなわち、このような汎用樹脂でヘッド部材50を形成することで、外輪部材30の摩耗を防止することが可能となる。また、外輪部材30についても、低コスト化が図れるように、ヘッド部材50と同じ汎用樹脂で形成しても良い。
【0041】
なお、内輪部材10については、前記コイルバネ40が摺動することから、高強度の樹脂材、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、又は、ポリフェニレンサルファイドを基材として、カーボン繊維、ポリテトラフルオロエチレン、グラファイトを具備した充填材を添加したものを用いるのが好ましい。これにより、内輪部材10の耐久性(耐摩耗性)及び摺動特性の向上が図れるようになる。
【0042】
図4(a)及び(b)は、それぞれヘッド部材の変形例を示す図である。
上記したように、ヘッド部材50を、内輪部材10及び外輪部材30と別体構造にし、コイルバネ40が組み付けられた内輪部材10を外輪部材30に組み込んだ後に取り付ける構造では、トルクリミッタの機能に影響なく、取付条件や伝達機構の付加などに適応してヘッド部材50に様々な機能を持たせることが可能である。
【0043】
例えば、図4(a)に示すヘッド部材50Aは、軸方向に突出する部分にギア58を形成した例(ギアタイプ)を示している。このようなギア58を形成することで、トルクリミッタを動力伝達経路に配設することが可能となる。また、一般樹脂でギア58を一体形成することで、相手側のギアの摩耗を効果的に防止することが可能となる。
【0044】
図4(b)に示すヘッド部材50Bは、軸方向に突出する部分にU字状の溝59が形成されている。このような構成では、内輪部材10の内部に、係止ピンが設けられた軸(図示せず)が挿通され、両者を回り止め固定することができる。これにより、軸と内輪部材10は回転固定して動力伝達が成される。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態の構成に限定されることはなく、種々変形することが可能である。例えば、内輪部材10、外輪部材30、ヘッド部材50の構成材料については限定されることはない。また、ヘッド部材50の形状や外輪部材30に対する固定方法も適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 トルクリミッタ
10 内輪部材
30 外輪部材
40 コイルバネ
50,50A,50B ヘッド部材
70 ゴムローラ
図1
図2
図3
図4