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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024759
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】アルミニウム合金管及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20250214BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20250214BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20250214BHJP
【FI】
C22C21/00 J
C22F1/04 C
C22F1/00 604
C22F1/00 612
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 651A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/00 685Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023128999
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】弁理士法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】東森 稜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太一
(57)【要約】
【課題】耐食性及び加工性に優れるアルミニウム合金管を提供する。
【解決手段】0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超えるFeと、0質量%を超えるCuと、を含有し、Feの含有量x(質量%)とCuの含有量y(質量%)が、下記式(1):x+7y≦0.70(1)の関係を満足し、任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなること、を特徴とするアルミニウム合金管。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超えるFeと、0質量%を超えるCuと、を含有し、
Feの含有量x(質量%)とCuの含有量y(質量%)が、下記式(1):
x+7y≦0.70 (1)
の関係を満足し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなること、
を特徴とするアルミニウム合金管。
【請求項2】
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.40質量%以下のFeと、0質量%を超え0.10質量%以下のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
管の円周方向に垂直な断面における円相当径1.0μm以上の金属間化合物の数密度が1.4×10個/mm以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金管。
【請求項3】
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.70質量%以下のFeと、0質量%を超え0.04質量%未満のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなること、
を特徴とするアルミニウム合金管。
【請求項4】
管の円周方向に垂直な断面における平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項記載のアルミニウム合金管。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項記載のアルミニウム合金管を製造する方法であり、少なくとも、前記アルミニウム合金の組成を有する鋳塊を鋳造する鋳造工程と、該鋳塊を押し出して押出管を作製する押出工程と、を有することを特徴とするアルミニウム合金管の製造方法。
【請求項6】
更に、前記押出管を焼鈍する焼鈍工程を有するか、あるいは、前記押出管の引抜加工を行う引抜工程を有するか、あるいは、前記押出管の引抜加工を行う引抜工程と該引抜加工後の管を焼鈍する焼鈍工程とを有することを特徴とする請求項5記載のアルミニウム合金管の製造方法。
【請求項7】
前記焼鈍工程において、昇温速度を60℃/h以上とすることを特徴とする請求項6記載のアルミニウム合金管の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車及び各種産業用の熱交換器に用いられるアルミニウム合金のうち、特に耐食性及び加工性に優れた自動車の熱交換器用アルミニウム合金管及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来は、この種の熱交換器の配管などの材料として、JIS1000系合金、JIS3000系合金、JIS6000系合金などが良く使われている。配管材の耐食性を向上させるために、心材となる3000系等の合金に、心材よりも電位的に卑な犠牲材をクラッドし、犠牲材による犠牲防食作用により板厚方向への腐食の進行を抑制する方法(特許文献1)等が提案されている。
【0003】
ただし、特許文献1に開示された熱交換器の配管材は、熱交換器用アルミニウム合金配管材として総合的な最適化が達成されたものではない。犠牲材をクラッドした配管材の製造工程においては、心材合金と皮材合金をそれぞれ個別に作製し、それらを合わせる必要があり、製造工程が煩雑になるという製造上の難点がある。そのため、単層のアルミニウム合金管で良好な耐食性を得ることが望まれる。
【0004】
単層で良好な耐食性を有するアルミニウム合金(特許文献2~4)も提案されている。特許文献2では、約0.05~0.5%(質量%、以下同じ)のSi、約0.1%~最大1.0%のFe、最大約2.0%のMn、約0.06~1.0%のZn、約0.03~0.35%のTi及び残部アルミニウムウム及び不可避的不純物を含むアルミニウム合金であり、少なくとも0.5%の容積分率でアルミニウムマトリックス全体に分散された金属間化合物を含むように、MnとFeの比が約0.5%超~約6.0%以下、及びFeとMnの合計量が約0.30%超を維持されること、及び前記物品のアルミニウムマトリックスと前記金属間化合物との電解電位差が約0.2ボルト未満であって前記金属間化合物が約5.0未満のアスペクト比を有すること、を特徴とするアルミニウム合金材が規定されている。
【0005】
特許文献3では、Siを0.05~0.6%、Feを0.05~0.7%、Cuを0.04~0.2%、Mnを0.6~1.0%、Mgを0.01~0.15%、Znを0.1~3.0%含有し、残部がAlと不可避不純物からなるアルミニウム合金配管材が規定されている。また、特許文献4では、Cu:約0.01%~約0.6%、Fe:約0.05%~約0.40%、Mg:約0.05%~約0.8%、Mn:約0.001%~約2.0%、Si:約0.05%~約0.25%、Ti:約0.001重量%~約0.20%、Zn:約0.001%~0.20%、Cr:0%~約0.05%、Pb:0%~約0.005%、Ca:0%~約0.03%、Cd:0%~約0.004%、Li:0%~約0.0001%、Na:0%~約0.0005%、個々に約0.03%まで、及び合計で約0.10%までの他の元素、及び残部Alを含むアルミニウム合金が規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5-65588号公報
【特許文献2】特開2002-53923号公報
【特許文献3】特開2005-89788号公報
【特許文献4】特表2018-536088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2~4の合金では、厳しい腐食環境下では耐食性が不十分となる懸念があり、更なる耐食性の向上が望まれる。
【0008】
従って、本発明の目的は、配管などに用いられるアルミニウム合金管における上記従来の問題点を解消することであり、耐食性に優れるアルミニウム合金管及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、アルミニウム合金管のFeの含有量及びCuの含有量がともに高い場合、耐食性が著しく低下する虞があり、アルミニウム合金管のFeの含有量とCuの含有量の関係がともに高くならない特定の関係式を満たすか、アルミニウム合金管のFeとCuの含有量とがともに高くなく、かつ、アルミニウム合金管の金属間化合物の数密度が所定値以下であるか、アルミニウム合金管のCuの含有量が所定量より高くならないか、のいずれかにより、耐食性に優れるアルミニウム合金管を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超えるFeと、0質量%を超えるCuと、を含有し、
Feの含有量x(質量%)とCuの含有量y(質量%)が、下記式(1):
x+7y≦0.70 (1)
の関係を満足し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなること、
を特徴とするアルミニウム合金管を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.40質量%以下のFeと、0質量%を超え0.10質量%以下のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
管の円周方向に垂直な断面における円相当径1.0μm以上の金属間化合物の数密度が1.4×10個/mm以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金管を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.70質量%以下のFeと、0質量%を超え0.04質量%未満のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなること、
を特徴とするアルミニウム合金管を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、管の円周方向に垂直な断面における平均結晶粒径が100μm以下であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかのアルミニウム合金管を提供するものである。
【0014】
また、本発明(5)は、(1)~(3)のいずれかのアルミニウム合金管を製造する方法であり、
少なくとも、請求項1~3いずれか1項記載のアルミニウム合金の組成を有する鋳塊を鋳造する鋳造工程と、該鋳塊を押し出して押出管を作製する押出工程と、を有することを特徴とするアルミニウム合金管の製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(6)は、更に、前記押出管を焼鈍する焼鈍工程を有するか、あるいは、前記押出管の引抜加工を行う引抜工程を有するか、あるいは、前記押出管の引抜加工を行う引抜工程と該引抜加工後の管を焼鈍する焼鈍工程とを有することを特徴とする(5)のアルミニウム合金管の製造方法を提供するものである。
【0016】
また、本発明(7)は、前記焼鈍工程において、昇温速度を60℃/h以上とすることを特徴とする(6)のアルミニウム合金管の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐食性に優れたアルミニウム合金管及びその製造方法を提供することができる。本発明のアルミニウム合金管は、単層で構成されたアルミニウム合金管であり、優れた耐食性を有し、板厚方向への局所的な腐食が生じ難く、貫通までの期間を長くすることが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金管は、
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超えるFeと、0質量%を超えるCuと、を含有し、
Feの含有量x(質量%)とCuの含有量y(質量%)が、下記式(1):
x+7y≦0.70 (1)
の関係を満足し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなること、
を特徴とするアルミニウム合金管である。
【0019】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金管は、単層のアルミニウム合金からなる。つまり、本発明の第一の形態のアルミニウム合金管は、アルミニウム合金からなるベアー管である。また、本発明の第一の形態のアルミニウム合金管は、押出成形により製造された押出成形管である。
【0020】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、必須元素としてMn、Mg、Zn、Si、Fe、Cuを含有する。なお、本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、必須元素と、必要に応じて添加される任意添加元素と、それら以外の残部としてアルミニウムと不可避的不純物で構成される。
【0021】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超えるFeと、0質量%を超えるCuと、を含有し、Feの含有量x(質量%)とCuの含有量y(質量%)が、下記式(1):
x+7y≦0.70 (1)
の関係を満足する。
【0022】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、任意添加元素として、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有してもよい。つまり、本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金中、Crの含有量は0.00~0.30質量%であり、Zrの含有量は0.00~0.20質量%であり、Tiの含有量は0.00~0.15質量%である。
【0023】
Mnはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のMnの含有量は、0.30質量%以上1.50質量%、好ましくは0.30~1.20質量%、より好ましくは0.30~1.00質量%、さらに好ましくは0.30~0.80質量%、よりいっそう好ましくは0.30~0.70質量%である。アルミニウム合金のMn含有量が上記範囲より少ないと十分な強度向上効果が得られず、上記範囲を超えて含有すると、押出加工時の変形抵抗が上昇し押出性が阻害される。
【0024】
Mgはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のMgの含有量は、0.001質量%以上0.24質量%以下である。Mg含有量の上限値は、好ましくは0.20質量%、より好ましくは0.15質量%である。また、Mg含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%、より好ましくは0.03質量%、より好ましくは0.04質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.06質量%である。Mgの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のMg含有量が上記範囲を超えると、押出加工時の変形抵抗が上昇し押出性が阻害される。アルミニウム合金のMg含有量が上記範囲未満だと十分な強度向上効果が得られない。
【0025】
Znはアルミニウム合金管の孔食を抑制し、腐食形態を全面腐食とするために添加されるものである。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のZnの含有量は、0.001質量%以上1.0質量%以下である。Zn含有量の上限値は、好ましくは0.80質量%、より好ましくは0.60質量%、より好ましくは0.40質量%である。Zn含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.15質量%、より好ましくは0.20質量%である。Znの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のZn含有量が上記範囲を超えると、腐食速度の増加が顕著となり、耐食性が低下する。アルミニウム合金のZn含有量が上記範囲未満だと十分な孔食抑制効果が得られない。
【0026】
Feはアルミニウム合金管の強度向上に寄与する。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のFe含有量は、0質量%を超え、以下の式(1)を満足する。Fe含有量の下限値は、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.15質量%である。また、Fe含有量の上限値は、好ましくは0.60質量%、より好ましくは0.50質量%、より好ましくは0.40質量%、より好ましくは0.39質量%、より好ましくは0.35質量%、より好ましくは0.30質量%、より好ましくは0.28質量%である。
【0027】
Cuはアルミニウム合金管の強度向上に寄与する。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のCu含有量は、0質量%を超え、以下の式(1)を満足する。Cu含有量の下限値は、好ましくは0.001質量%である。また、Cu含有量の上限値は、好ましくは0.08質量%、より好ましくは0.06質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.04質量%、より好ましくは0.03質量%である。
【0028】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のFeの含有量x(質量%)とCuの含有量y(質量%)は、下記式(1):
x+7y≦0.70 (1)
の関係を満足する。
Fe及びCuの含有量が式(1)の関係を満足することにより、耐食性に優れるアルミニウム合金管となる。Fe及びCuの含有量が式(1)の関係を満足しない、例えばFe含有量とCu含有量がともに高い場合、カソードとして作用し腐食を促進する粗大な金属間化合物が結晶粒界に多く存在し、かつ、Cuを含有する金属間化合物が結晶粒界近傍に析出して、アルミニウム母相中に周囲よりも電位的に卑なCu欠乏層が形成されることで、アルミニウム母相の電位差が大きい金属間化合物が多く存在することとなり、腐食が促進されることで耐食性が著しく低下する虞がある。
【0029】
Siはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のSi含有量は、0.001質量%以上0.50質量%以下である。Si含有量の上限値は、好ましくは0.45質量%、より好ましくは0.40質量%、より好ましくは0.35質量%、より好ましくは0.30質量%、より好ましくは0.25質量%、より好ましくは0.20質量%、より好ましくは0.15質量%、より好ましくは0.12質量%、より好ましくは0.10質量%である。Si含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.03質量%、より好ましくは0.05質量%である。Siの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のSi含有量が上記範囲を超えると、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する。アルミニウム合金のSi含有量が上記範囲未満だと、十分な強度向上効果が得られない。
【0030】
本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、Cr、Zr、Tiを、耐食性の最適化及びスクラップ配合性向上の観点から含有してもよい。ただし過剰な添加は押出性を低下させる懸念がある。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のCrの含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。Zrの含有量は、0.20質量%以下、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。Tiの含有量は、0.15質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。
【0031】
上記以外の不純物元素は、本発明の効果に影響しない範囲で含有してもよく、その他不純物元素の含有量は、各々で0.05質量%以下、合計で0.15質量%以下の範囲で許容される。
【0032】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管は、
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.40質量%以下のFeと、0質量%を超え0.10質量%以下のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなり、
管の円周方向に垂直な断面における円相当径1.0μm以上の金属間化合物の数密度が1.4×10個/mm以下であること、
を特徴とするアルミニウム合金管である。
【0033】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管は、単層のアルミニウム合金からなる。つまり、本発明の第二の形態のアルミニウム合金管は、アルミニウム合金からなるベアー管である。また、本発明の第二の形態のアルミニウム合金管は、押出成形により製造された押出成形管である。
【0034】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、必須元素としてMn、Mg、Zn、Si、Fe、Cuを含有する。なお、本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、必須元素と、必要に応じて添加される任意添加元素と、それら以外の残部としてアルミニウムと不可避的不純物で構成される。
【0035】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.40質量%以下のFeと、0質量%を超え0.10質量%以下のCuと、を含有する。
【0036】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、任意添加元素として、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有してもよい。つまり、本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金中、Crの含有量は0.00~0.30質量%であり、Zrの含有量は0.00~0.20質量%であり、Tiの含有量は0.00~0.15質量%である。
【0037】
Mnはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のMnの含有量は、0.30質量%以上1.50質量%、好ましくは0.30~1.20質量%、より好ましくは0.30~1.00質量%、さらに好ましくは0.30~0.80質量%、よりいっそう好ましくは0.30~0.70質量%である。アルミニウム合金のMn含有量が上記範囲より少ないと十分な強度向上効果が得られず、上記範囲を超えて含有すると、押出加工時の変形抵抗が上昇し押出性が阻害される。
【0038】
Mgはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のMgの含有量は、0.001質量%以上0.24質量%以下である。Mg含有量の上限値は、好ましくは0.20質量%、より好ましくは0.15質量%である。また、Mg含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%、より好ましくは0.03質量%、より好ましくは0.04質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.06質量%である。Mgの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のMg含有量が上記範囲を超えると、押出加工時の変形抵抗が上昇し押出性が阻害される。アルミニウム合金のMg含有量が上記範囲未満だと十分な強度向上効果が得られない。
【0039】
Znはアルミニウム合金管の孔食を抑制し、腐食形態を全面腐食とするために添加されるものである。本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のZnの含有量は、0.001質量%以上1.0質量%以下である。Zn含有量の上限値は、好ましくは0.80質量%、より好ましくは0.60質量%、より好ましくは0.40質量%である。Zn含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.15質量%、より好ましくは0.20質量%である。Znの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のZn含有量が上記範囲を超えると、腐食速度の増加が顕著となり、耐食性が低下する。アルミニウム合金のZn含有量が上記範囲未満だと十分な孔食抑制効果が得られない。
【0040】
Feはアルミニウム合金管の強度向上に寄与する。本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のFe含有量は、0質量%を超え0.40質量%以下である。Feの含有量が0.40質量%を超えると、材料の製造工程において、熱間加工時に肌荒れが発生しやすくなる。Fe含有量の上限値は、好ましくは0.39質量%、より好ましくは0.35質量%、より好ましくは0.30質量%、より好ましくは0.28質量%である。また、Feの含有量が低いと結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下することがある。Fe含有量の下限値は、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.15質量%である。Feの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。
【0041】
Cuはアルミニウム合金管の強度向上に寄与する。本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のCu含有量は、0質量%を超え0.10質量%以下である。Cuの含有量が0.10質量%を超えると、Cuのカソードとしての作用が顕著となり、耐食性を低下させる。Cu含有量の上限値は、好ましくは0.08質量%、より好ましくは0.06質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.04質量%、より好ましくは0.03質量%である。Cuの含有量が上記範囲を超える場合、Cuを含有する金属間化合物が結晶粒界近傍に析出して、アルミニウム母相中に周囲よりも電位的に卑なCu欠乏層が形成される。これらが同時に起こる場合、アルミニウム母相の電位差が大きい金属間化合物が多く存在することとなり、腐食が促進されることで耐食性が著しく低下する。Cu含有量の下限値は、好ましくは0.001質量%である。Cuの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。
【0042】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のFeの含有量は、0質量%を超え0.40質量%以下であり、かつ、Cuの含有量は、0質量%を超え0.10質量%以下である。Fe及びCuの含有量がともに高くないことで、耐食性に優れる。例えばFe含有量とCu含有量がともに高い場合、カソードとして作用し腐食を促進する粗大な金属間化合物が結晶粒界に多く存在し、かつ、Cuを含有する金属間化合物が結晶粒界近傍に析出して、アルミニウム母相中に周囲よりも電位的に卑なCu欠乏層が形成されることで、アルミニウム母相の電位差が大きい金属間化合物が多く存在することとなり、腐食が促進されることで耐食性が著しく低下する虞がある。
【0043】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管では、管の円周方向に垂直な断面における円相当径1.0μm以上の金属間化合物の数密度が1.4×10個/mm以下である。本発明の第二の形態のアルミニウム合金管において、管の円周方向に垂直な断面における円相当径1.0μm以上の金属間化合物の数密度が上記範囲にあることにより、耐食性に優れる。円相当径1.0μm以上の金属間化合物の数密度が1.4×10個/mmを超える場合、カソードとして作用し腐食を促進する粗大な金属間化合物が結晶粒界に多く存在するため、耐食性が低くなる。なお、金属間化合物とは、例えばAl-Mn系、Al-Fe系、Al-Mn-Fe系、Al-Mn-Si系、Al-Fe-Si系、Al-Mn-Fe-Si系、Al-Cu系、Al-Mn-Cu系、Al-Fe-Cu系、Al-Mn-Fe-Cu系、Al-Mn-Si-Cu系、Al-Fe-Si-Cu系、Al-Mn-Fe-Si-Cu系化合物である。
【0044】
Siはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のSi含有量は、0.001質量%以上0.50質量%以下である。Si含有量の上限値は、好ましくは0.45質量%、より好ましくは0.40質量%、より好ましくは0.35質量%、より好ましくは0.30質量%、より好ましくは0.25質量%、より好ましくは0.20質量%、より好ましくは0.15質量%、より好ましくは0.12質量%、より好ましくは0.10質量%である。Si含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.03質量%、より好ましくは0.05質量%である。Siの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のSi含有量が上記範囲を超えると、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する。アルミニウム合金のSi含有量が上記範囲未満だと、十分な強度向上効果が得られない。
【0045】
本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、Cr、Zr、Tiを、耐食性の最適化及びスクラップ配合性向上の観点から含有してもよい。ただし過剰な添加は押出性を低下させる懸念がある。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のCrの含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。Zrの含有量は、0.20質量%以下、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。Tiの含有量は、0.15質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。
【0046】
上記以外の不純物元素は、本発明の効果に影響しない範囲で含有してもよく、その他不純物元素の含有量は、各々で0.05質量%以下、合計で0.15質量%以下の範囲で許容される。
【0047】
本発明の第三の形態のアルミニウム合金管は、
0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.70質量%以下のFeと、0質量%を超え0.04質量%未満のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなること、
を特徴とするアルミニウム合金管である。
【0048】
本発明の第三の形態のアルミニウム合金管は、単層のアルミニウム合金からなる。つまり、本発明の第三の形態のアルミニウム合金管は、アルミニウム合金からなるベアー管である。また、本発明の第三の形態のアルミニウム合金管は、押出成形により製造された押出成形管である。
【0049】
本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、必須元素としてMn、Mg、Zn、Si、Fe、Cuを含有する。なお、本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、必須元素と、必要に応じて添加される任意添加元素と、それら以外の残部としてアルミニウムと不可避的不純物で構成される。
【0050】
本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.70質量%以下のFeと、0質量%を超え0.04質量%未満のCuと、を含有する。
【0051】
本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、任意添加元素として、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有してもよい。つまり、本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金中、Crの含有量は0.00~0.30質量%であり、Zrの含有量は0.00~0.20質量%であり、Tiの含有量は0.00~0.15質量%である。
【0052】
Mnはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のMnの含有量は、0.30質量%以上1.50質量%、好ましくは0.30~1.20質量%、より好ましくは0.30~1.00質量%、さらに好ましくは0.30~0.80質量%、よりいっそう好ましくは0.30~0.70質量%である。アルミニウム合金のMn含有量が上記範囲より少ないと十分な強度向上効果が得られず、上記範囲を超えて含有すると、押出加工時の変形抵抗が上昇し押出性が阻害される。
【0053】
Mgはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のMgの含有量は、0.001質量%以上0.24質量%以下である。Mg含有量の上限値は、好ましくは0.20質量%、より好ましくは0.15質量%である。また、Mg含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.02質量%、より好ましくは0.03質量%、より好ましくは0.04質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.06質量%である。Mgの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のMg含有量が上記範囲を超えると、押出加工時の変形抵抗が上昇し押出性が阻害される。アルミニウム合金のMg含有量が上記範囲未満だと十分な強度向上効果が得られない。
【0054】
Znはアルミニウム合金管の孔食を抑制し、腐食形態を全面腐食とするために添加されるものである。本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のZnの含有量は、0.001質量%以上1.0質量%以下である。Zn含有量の上限値は、好ましくは0.80質量%、より好ましくは0.60質量%、より好ましくは0.40質量%である。Zn含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.15質量%、より好ましくは0.20質量%である。Znの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のZn含有量が上記範囲を超えると、腐食速度の増加が顕著となり、耐食性が低下する。アルミニウム合金のZn含有量が上記範囲未満だと十分な孔食抑制効果が得られない。
【0055】
Feはアルミニウム合金管の強度向上に寄与する。本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のFe含有量は、0質量%を超え0.70質量%以下である。Feの含有量が0.70質量%を超えると、AlFe化合物が過剰に析出して耐食性を低下させる。Fe含有量の上限値は、好ましくは0.65質量%、より好ましくは0.60質量%、より好ましくは0.55質量%、より好ましくは0.50質量%、より好ましくは0.45質量%である。また、Feの濃度が低いと結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下することがある。Fe含有量の下限値は、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.10質量%、より好ましくは0.15質量%である。Feの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。
【0056】
Cuはアルミニウム合金管の強度向上に寄与する。本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のCu含有量は、0質量%を超え0.04質量%未満である。Cuの含有量が高くなると、Cuのカソードとしての作用が顕著となり、耐食性を低下させる。Cuの含有量の上限値は、好ましくは0.03質量%である。Cuの濃度が上記範囲を超える場合、Cuを含有する金属間化合物が結晶粒界近傍に析出して、アルミニウム母相中に周囲よりも電位的に卑なCu欠乏層が形成される。これらが同時に起こる場合、アルミニウム母相の電位差が大きい金属間化合物が多く存在することとなり、腐食が促進されることで耐食性が著しく低下する。Cu含有量の下限値は、好ましくは0.001質量%である。Cuの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。
【0057】
本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のFeの含有量は、0質量%を超え0.70質量%以下であり、かつ、Cuの含有量は、0質量%を超え0.04質量%未満である。Fe及びCuの含有量がともに高くないことで、耐食性に優れる。例えばFe含有量とCu含有量がともに高い場合、カソードとして作用し腐食を促進する粗大な金属間化合物が結晶粒界に多く存在し、かつ、Cuを含有する金属間化合物が結晶粒界近傍に析出して、アルミニウム母相中に周囲よりも電位的に卑なCu欠乏層が形成されることで、アルミニウム母相の電位差が大きい金属間化合物が多く存在することとなり、腐食が促進されることで耐食性が著しく低下する虞がある。
【0058】
Siはアルミニウム合金管の強度を向上するために機能する。本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のSi含有量は、0.001質量%以上0.50質量%以下である。Si含有量の上限値は、好ましくは0.45質量%、より好ましくは0.40質量%、より好ましくは0.35質量%、より好ましくは0.30質量%、より好ましくは0.25質量%、より好ましくは0.20質量%、より好ましくは0.15質量%、より好ましくは0.12質量%、より好ましくは0.10質量%である。Si含有量の下限値は、好ましくは0.01質量%、より好ましくは0.03質量%、より好ましくは0.05質量%である。Siの含有量は、上記上限値及び下限値を組み合わせた範囲とすることができる。アルミニウム合金のSi含有量が上記範囲を超えると、結晶粒が粗大化し、曲げ加工性が低下する。アルミニウム合金のSi含有量が上記範囲未満だと、十分な強度向上効果が得られない。
【0059】
本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金は、Cr、Zr、Tiを、耐食性の最適化及びスクラップ配合性向上の観点から含有してもよい。ただし過剰な添加は押出性を低下させる懸念がある。本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金のCrの含有量は、0.30質量%以下、好ましくは0.20質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。Zrの含有量は、0.20質量%以下、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。Tiの含有量は、0.15質量%以下、より好ましくは0.10質量%以下である。
【0060】
上記以外の不純物元素は、本発明の効果に影響しない範囲で含有してもよく、その他不純物元素の含有量は、各々で0.05質量%以下、合計で0.15質量%以下の範囲で許容される。
【0061】
本発明の第一の形態、第二の形態及び第三の形態のアルミニウム合金管は、好ましくは、管の円周方向に垂直な断面における平均結晶粒径が100μm以下、より好ましくは80μm以下である。平均結晶粒径が上記範囲であることにより、曲げ加工や拡管加工などの加工時に肌荒れなどの不具合を生じ難く、加工性に優れたアルミニウム合金管となる。
【0062】
本発明のアルミニウム合金管は、如何なる製造方法により製造されたものであってもよく、例えば、以下に述べる本発明のアルミニウム合金管の製造方法により、好適に製造される。
【0063】
本発明のアルミニウム合金管の製造方法は、本発明の第一の形態、第二の形態及び第三の形態のいずれかのアルミニウム合金管を製造する方法であり、少なくとも、本発明の第一の形態、第二の形態及び第三の形態のいずれかのアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金の組成を有する鋳塊を鋳造する鋳造工程と、該鋳塊を押し出して押出管を作製する押出工程と、を有することを特徴とするアルミニウム合金管の製造方法である。また、本発明のアルミニウム合金管の製造方法は、更に、焼鈍工程及び/又は引抜工程を有することができる。
【0064】
以下、本発明のアルミニウム合金管の製造方法について説明する。
本発明のアルミニウム合金管の製造方法では、本発明の第一の形態、第二の形態及び第三の形態のアルミニウム合金管のいずれかの組成を有するアルミニウム合金の溶湯を常法に従って造塊する鋳造工程を行い、得られた鋳塊(ビレット)を均質化処理した後、ビレットを再加熱して押出工程を行い、押出管を作製し、必要に応じて、更に、焼鈍工程及び/又は引抜工程を施す。
【0065】
鋳造工程で鋳造する第一の形態のアルミニウム合金鋳塊は、0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超えるFeと、0質量%を超えるCuと、を含有し、
Feの含有量x(質量%)とCuの含有量y(質量%)が、下記式(1):
x+7y≦0.70 (1)
の関係を満足し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
また、鋳造工程で鋳造する第二の形態のアルミニウム合金鋳塊は、0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.40質量%以下のFeと、0質量%を超え0.10質量%以下のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金からなる。
また、鋳造工程で鋳造する第三の形態のアルミニウム合金鋳塊は、0.30質量%以上1.50質量%以下のMnと、0.001質量%以上0.24質量%以下のMgと、0.001質量%以上1.0質量%以下のZnと、0.001質量%以上0.50質量%以下のSiと、0質量%を超え0.70質量%以下のFeと、0質量%を超え0.04質量%未満のCuと、を含有し、
任意に、0.30質量%以下のCr、0.20質量%以下のZr及び0.15質量%以下のTiのうちの1種又は2種以上を含有し、
残部Al及び不可避的不純物からなる。
【0066】
鋳造工程で鋳造する第一の形態のアルミニウム合金鋳塊の組成は、本発明の第一の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金の組成と同様である。鋳造工程で鋳造する第二の形態のアルミニウム合金鋳塊の組成は、本発明の第二の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金の組成と同様である。鋳造工程で鋳造する第三の形態のアルミニウム合金鋳塊の組成は、本発明の第三の形態のアルミニウム合金管に係るアルミニウム合金の組成と同様である。
【0067】
鋳塊(ビレット)の均質化処理は、450℃~620℃の温度域で2時間以上の時間行うのが好ましい。均質化処理温度が450℃より低い場合、及び均質化処理時間が2時間より短い場合は、拡散エネルギー不足となってビレットの鋳塊組織のミクロ偏析が解消されず、曲げ加工性や拡管加工性などの加工性が低下し易くなる。均質化処理温度が620℃より高いと、固相線温度以上となりビレットが部分溶融するおそれがある。均質化処理は2時間以上行えば必要とされる性能が得られるが、製造コストを考慮すると実用上24時間以下とするのが好ましい。
【0068】
押出工程は、400℃~550℃の温度で行なうのが望ましい。押出温度が400℃より低い場合は押出圧力が高くなり、押出が困難となるおそれがある。押出温度が550℃より高い場合は、押出時に押出されたアルミニウム合金管にムシレ欠陥が生じ易くなる。
【0069】
押出後の引抜き加工は、断面減少率30%以上の加工度で行うのが好ましい。断面減少率が30%未満の場合は、冷間加工度が小さいために軟化後の結晶粒径が粗大となり、曲げ加工や拡管加工などの加工時に肌荒れなどの不具合を生じるおそれがある。
【0070】
焼鈍工程における軟化処理は、300~560℃の温度域で0時間を超え3時間以下の時間行い、300℃~560℃の温度域における昇温速度は60℃/h以上とするのが好ましい。軟化処理温度が300℃より低い場合は軟化が不十分となり、部分的に強度が不均一となって曲げ加工性や拡管加工性などの加工性が低下する。軟化処理温度が560℃より高い場合、軟化処理時間が3時間より長い場合、昇温速度が60℃/h未満の場合は、結晶粒が粗大化し、曲げ加工や拡管加工などの加工時に肌荒れなどの不具合を生じるおそれがある。
【0071】
本発明のアルミニウム合金管の製造方法では、押出後の引抜き加工をしてもしなくてもよく、焼鈍工程を含んでも含まなくてもよい。本発明のアルミニウム合金管の製造方法における工程の組み合わせとしては、(1)鋳造工程→押出工程、(2)鋳造工程→押出工程→焼鈍工程、(3)鋳造工程→押出工程→引抜工程、(4)鋳造工程→押出工程→引抜工程→焼鈍工程の順に行う工程の組み合わせが挙げられる。
【実施例0072】
以下、本発明の実施例を説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されない。
【0073】
[実施例1]
<試験材の製造方法>
表1に示す組成を有するアルミニウム合金A~Dを溶解し、半連続鋳造により直径254mmのビレット形状に造塊した。得られたビレットを600℃で10時間の均質化処理を施した後、450℃の温度で外径47mm、肉厚3.5mmのパイプ形状に押出加工した。その後、さらに外径17mm、肉厚1.0mmとなるように引抜き加工し、さらに400℃の温度で1時間の焼鈍処理を施し、これらを試験材1~4とした。
【0074】
【表1】
【0075】
<金属間化合物の数密度測定方法>
試験材1~4について、管の円周方向に直角な断面を削り出し、研磨を行って表面を調整した。次に、SEM(走査型電子顕微鏡、Scanning Electron Microscope)にて管の肉厚の中央における86μm×127μmの領域の二次電子像を撮影した。得られた二次電子像における金属間化合物の面積Sから、式(2)により円相当径Dを計算した。
D=(4S/π)1/2 式(2)
円相当径が1.0μm以上の金属間化合物の数を観察領域の面積で除することで、表2の通り数密度を求めた。
<耐食性評価方法>
試験材1~4から120mm長さのサンプルを切り出し、両端をマスキングして露出部の長さを100mmとし、ASTM-G85-Annex A3に規定されたSWAATを480時間実施した。試験後のサンプルについては、試験法の定める手順で酸洗浄を行って腐食生成物を除去し、貫通が生じていないものを合格(〇)、貫通が生じているものを不合格(×)とした。
<耐食性評価結果>
試験材耐食性評価結果を表3に示す。本発明に従う試験材1、2、3は、腐食貫通が生じておらず、耐食性に優れていた。一方、試験材4は、Fe濃度、Cu濃度、金属間化合物の数密度が本発明の範囲から外れていたため、耐食性評価において腐食貫通が生じた。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
[実施例2]
<試験材の製造方法>
表1に示す組成を有するアルミニウム合金Aを溶解し、連続鋳造により直径254mmのビレット形状に造塊した。得られたビレットを600℃で10時間の均質化処理を施した後、450℃の温度で外径47mm、肉厚3.5mmのパイプ形状に押出加工した。その後、さらに外径17mm、肉厚1.0mm、となるように引抜き加工し、さらに表4に示す昇温速度で400℃まで加熱して軟化処理を施し、これらを試験材5、6として、結晶粒径を評価した。
<結晶粒径評価方法>
試験材5、6より20mm長さのサンプルを切り出し、管の長さ方向と平行な断面の組織観察を実施した。サンプルは研磨後にエッチングを施し、偏光顕微鏡を用いて50倍でそれぞれ任意の一視野を撮影し、管の長さ方向と肉厚方向の結晶粒径を交差法で測定し、それらの平均から平均結晶粒径を算出した。
<評価結果>
結晶粒径評価結果を表4に示す。試験材5は平均結晶粒径が100μm以下であり、曲げ加工や拡管加工などの加工時に肌荒れなどの不具合の懸念が小さいものであった(判定◎)。一方、試験材6は軟化処理における昇温速度が小さいために平均結晶粒径が100μmを超えており、試験材5に比べ、加工性が低くなるものの、加工は可能であると推測される(判定〇)。
【0079】
【表4】