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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024794
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】液式鉛蓄電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/12 20060101AFI20250214BHJP
   H01M 4/74 20060101ALI20250214BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20250214BHJP
   H01M 50/466 20210101ALI20250214BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20250214BHJP
【FI】
H01M10/12 K
H01M4/74 B
H01M4/68 A
H01M50/466
H01M50/414
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129063
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】荻野 由涼
【テーマコード(参考)】
5H017
5H021
5H028
【Fターム(参考)】
5H017AA01
5H017AS02
5H017CC05
5H017EE02
5H017HH01
5H017HH04
5H017HH05
5H021CC18
5H021EE02
5H021HH10
5H028AA05
5H028AA06
5H028CC05
5H028CC07
5H028CC08
5H028HH01
5H028HH05
(57)【要約】
【課題】大きなコスト上昇や寿命低下を招くことなく、RCを高めて液式鉛蓄電池の性能ランクを向上させる。
【解決手段】積層体6は、正極板10が収納された袋状セパレータ3と負極板20とが交互に配置されて形成され、袋状セパレータ3は、多孔性合成樹脂製でオイルを含むものであって、板状のベース部31と、ベース部31の板面から突出する複数のリブ32とを有し、リブ32が内側に配置されている。正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなる打ち抜き加工品であって、正極合剤が保持された格子状部が、複数のリブ32と対向し、一つのセル室における、ベース部31と、複数のリブ32と、正極合剤が保持された格子状部と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板の間にセパレータが配置され、前記正極板が収納された袋状セパレータと前記負極板とが交互に配置されて形成された積層体を有し、
前記正極板は、格子状部を含む正極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、前記格子状部に保持された正極合剤と、を有し、
前記負極板は、格子状部を含む負極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、前記格子状部に保持された負極合剤と、を有し、
前記正極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から一方にずれた位置に配置され、前記負極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置され、
前記極板群は、さらに、複数枚の前記正極耳部を連結する正極ストラップおよび複数枚の前記負極耳部を連結する負極ストラップを有し、
前記袋状セパレータは、多孔性合成樹脂製でオイルを含むものであって、板状のベース部と、前記ベース部の板面から突出する複数のリブとを有し、前記リブが内側に配置され、
前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品であって、前記正極合剤が保持された前記格子状部が、前記複数のリブと対向し、
一つの前記セル室における、前記ベース部と、前記複数のリブと、前記正極合剤が保持された前記格子状部と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、前記正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上である液式鉛蓄電池。
【請求項2】
前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなる打ち抜き加工品である請求項1記載の液式鉛蓄電池。
【請求項3】
前記袋状セパレータのオイル含有率は、5質量%以上20質量%以下である請求項1または2記載の液式鉛蓄電池。
【請求項4】
セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板の間にセパレータが配置され、前記正極板が収納された袋状セパレータと前記負極板とが交互に配置されて形成された積層体を有し、
前記正極板は、格子状部を含む正極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、前記格子状部に保持された正極合剤と、を有し、
前記負極板は、格子状部を含む負極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、前記格子状部に保持された負極合剤と、を有し、
前記正極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から一方にずれた位置に配置され、前記負極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置され、
前記極板群は、さらに、複数枚の前記正極耳部を連結する正極ストラップおよび複数枚の前記負極耳部を連結する負極ストラップを有し、
前記袋状セパレータは、多孔性合成樹脂製でオイルを含むものであって、板状のベース部と、前記ベース部の板面から突出する複数のリブとを有し、前記リブが内側に配置され、
前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品であり、前記正極合剤が保持された前記格子状部が、前記複数のリブと対向する液式鉛蓄電池の製造方法であって、
一つの前記セル室における、前記ベース部と、前記複数のリブと、前記正極合剤が保持された前記格子状部と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、前記正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上となるように、前記袋状セパレータのリブを設計する液式鉛蓄電池の製造方法。
【請求項5】
前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなる打ち抜き加工品である請求項4記載の液式鉛蓄電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液式鉛蓄電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な鉛蓄電池である液式鉛蓄電池は、セル室を有する電槽と、セル室に収納された極板群と、セル室に注入された電解液と、を備えている。極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板と、正極板と負極板との間に配置されたセパレータと、を備える積層体を有する。
正極板は、格子状部を含む正極集電板と、格子状部に保持された正極合剤(正極活物質を含む合剤)と、を有し、格子状部の両板面に正極合剤からなる層が形成されている。負極板は、格子状部を含む負極集電板と、格子状部に保持された負極合剤(負極活物質を含む合剤)と、を有し、格子状部の両板面に負極合剤からなる層が形成されている。
【0003】
正極板は、格子状部を含む正極集電板と、格子状部の電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、格子状部に保持された正極合剤(正極活物質を含む合剤)と、を有し、負極板は、格子状部を含む負極集電板と、格子状部の電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、格子状部に保持された負極合剤と、を有する。
正極耳部は、格子状部の幅方向(電槽の上下方向と積層体の積層方向の両方に垂直な方向に沿わせる方向)の中心から一方にずれた位置に配置され、負極耳部は、格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置されている。極板群は、さらに、複数枚の正極板および負極板の耳部をそれぞれ連結する正極ストラップおよび負極ストラップを有する。電解液としては希硫酸が使用されている。このような液式鉛蓄電池は自動車用バッテリーなどとして広く使用されている。
【0004】
自動車用の鉛蓄電池では、多くの場合、正極集電板として、カルシウム(Ca)系鉛合金製の圧延板を、エキスパンド法や打ち抜き法で加工したもの(エキスパンド加工品、打ち抜き加工品)を用いている。その理由は、この方法では集電板が連続的に生産できることから、鋳造法と比較して生産性とコスト面で優れるためである。
しかし、正極集電板が鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品および打ち抜き加工品の場合、高温過充電環境下において、正極板に、腐食による格子状部の伸び(いわゆる「グロース」)が生じることが知られている。そのため、エキスパンド加工品よりも、格子状部の四方が枠で囲われている打ち抜き加工品を正極集電板として用いる方が、強度が高いため、グロース対策としては有利である。
【0005】
一方、鉛蓄電池は、電池サイズの他、性能ランク毎に製品種が分類される。性能ランクは、「√(リザーブキャパシティ(RC)×コールドクランキング・アンペア(CCA))/2.8」で算出される値であり、鉛蓄電池の性能を比較するための指標の一つである。この性能ランクを向上させるには、RCの値および/またはCCAの値を高める必要がある。
【0006】
RCは、満充電した蓄電池を、25℃±2℃、一定電流25Aで連続放電し、端子電圧が10.5Vに達するまでの持続時間(分)である。CCAは、-18℃の環境でバッテリーを定電流放電させて、30秒後のバッテリー電圧が7.2V以上を保つことができる、限界の放電電流値のことである。
CCAを高めたい場合は電気抵抗を小さくすることが重要である。これに関連し、特許文献1、2には、オイルを含むセパレータのオイル含有率と電気抵抗との関係についての記載がある。
【0007】
特許文献1には、以下の記載がある。
リブ付きセパレータの耐酸化性の低下を防ぐための手段の一つとして、セパレータに鉱物オイルを含有させる方法がある。この方法では、セパレータの内外表面をオイルにより被覆できるので、酸化雰囲気に弱いポリオレフィン系樹脂の表面を保護でき、酸化劣化の進行を遅らせることができる。
【0008】
通常は、押出成形の原料混合物に配合する可塑剤として予め鉱物オイルを用いておき、有機溶剤による可塑剤(鉱物オイル)の抽出除去工程において、可塑剤のすべてを除去せず、一定量をシート中に残留させるといった方法によるのが一般的である。
鉱物オイルを含有させて耐酸化性の向上を図るには、鉱物オイルは、セパレータの質量に対して5~30質量%含有している必要がある。5質量%未満では、リブ付きセパレータに鉛蓄電池用セパレータとして充分な耐酸化性を付与することができない。また、30質量%を越える場合は、オイルが微孔空間(空隙)を埋める割合が大きくなることによる電気抵抗の増大や、希硫酸電解液中へのオイルの溶出による電槽内の汚染をもたらす。この場合の鉱物オイルは、可塑剤としての機能の他に、微孔形成剤や耐酸化性付与剤の機能も併せ持っている。
【0009】
特許文献2には、以下の記載がある。
セパレータ中のオイルの含有量は、例えば、10質量%以上であり、13質量%以上が好ましい。オイルの含有量がこのような範囲である場合、優れた高温過充電寿命を確保し易い。セパレータ中のオイルの含有量は、例えば、20質量%以下であり、18.0質量%以下であることが好ましく、17.5質量%以下であることがさらに好ましい。オイルの含有量がこのような範囲である場合、セパレータは低抵抗になる。なお、評価は低温環境下での大電流放電試験により行っている。
【0010】
特許文献1、2には、RCを高めることで性能ランクを向上させることについて記載されていないし、そのような記載は他の文献においても見当たらない。
また、特許文献1には、セパレータについて、袋状に加工して陽極板または陰極板を収納して用いられると記載され、特許文献2には、未化成の各負極板を、袋状セパレータに収容し、セル当たり未化成の負極板7枚と未化成の正極板6枚とで極板群を形成した、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2001-338631号公報
【特許文献2】WO2020/066808パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、大きなコスト上昇や寿命低下を招くことなく、RCを高めて液式鉛蓄電池の性能ランクを向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、RCとセパレータとの関係に注目した。一般に、CCAと比較し小さい電流での放電試験の結果として得られるRCを高める場合は、正負極の活物質を増量することや密度を低下させる必要がある。しかし、活物質量を増やせば重量やコストが増加し、活物質の密度を低下させれば寿命が低下するデメリットがある。このようなデメリットを生じさせずに、RCを高くすることが、商品価値を高める上で重要となる。
【0014】
本発明者等は、鋭意研究した結果、袋状セパレータに正極板を収納して積層体を作製した場合、袋状セパレータ内に保持される電解液の体積と正極活物質の量との関係が、RC利用率(RC試験での放電容量/正極活物質の理論容量)に大きな影響を与えることを見出した。
【0015】
上記知見に基づく本発明の第一態様は、以下の構成(1)~(4)を有する液式鉛蓄電池である。
(1)セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備える。前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板の間にセパレータが配置され、前記正極板が収納された袋状セパレータと前記負極板とが交互に配置されて形成された積層体を有する。前記正極板は、格子状部を含む正極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、前記格子状部に保持された正極合剤(正極活物質を含む合剤)と、を有する。前記負極板は、格子状部を含む負極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、前記格子状部に保持された負極合剤(負極活物質を含む合剤)と、を有する。前記正極耳部は、前記格子状部の幅方向(前記電槽の上下方向と前記積層体の積層方向の両方に垂直な方向に沿わせる方向)の中心から一方にずれた位置に配置され、前記負極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置されている。前記極板群は、さらに、複数枚の前記正極耳部を連結する正極ストラップおよび複数枚の前記負極耳部を連結する負極ストラップを有する。
【0016】
(2)前記袋状セパレータは、多孔性合成樹脂製でオイルを含むものであって、板状のベース部と、前記ベース部の板面から突出する複数のリブとを有し、前記リブが内側に配置されている。
【0017】
(3)前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品であって、前記正極合剤が保持された前記格子状部が、前記複数のリブと対向する。
【0018】
(4)一つの前記セル室における、前記ベース部と、前記複数のリブと、前記正極合剤が保持された前記格子状部と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、前記正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上である。
上記知見に基づく本発明の第二態様は、上記構成(1)~(3)を有する液式鉛蓄電池の製造方法であって、下記の構成(5)を有する。
【0019】
(5)一つの前記セル室における、前記ベース部と、前記複数のリブと、前記正極合剤が保持された前記格子状部と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、前記正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上となるように、前記袋状セパレータのリブを設計する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、大きなコスト上昇や寿命低下を招くことなく、RCを高めて液式鉛蓄電池の性能ランクを向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態の液式鉛蓄電池を説明する図であって、電槽から蓋を外した状態を示している。
図2】実施形態の液式鉛蓄電池の部分断面図である。
図3】実施形態の液式鉛蓄電池を構成する積層体の平断面図であって、図2のA-A断面図に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
[電池全体の構成]
実施形態の液式鉛蓄電池は、図1に示すように、モノブロックタイプの電槽1と、図示されない蓋と、六個の極板群2とを有する。電槽1の形状は直方体であり、電槽1は、底面をなす長方形の一対の長辺上に形成された一対の第一の壁11と、一対の短辺上に形成された一対の第二の壁12を有する。電槽1の内部は、第二の壁12と平行な五枚の隔壁13により、六個のセル室4に区画されている。
【0023】
六個のセル室4には、それぞれ一つの極板群2が配置され、各セル室4内に電解液が注入されている。電解液は、比重が1.28以上1.30以下(20℃換算)の希硫酸である。また、図示されていないが、蓋を電槽1に固定することで全てのセル室4の上方が塞がれている。なお、図1に示すように、セル室4の配列方向をX方向、これに垂直な方向をY方向とする。
【0024】
図2に示すように、極板群2は、積層体6を有し、積層体6は、交互に配置された複数枚の正極板10および負極板20と、正極板10と負極板20との間に配置されたセパレータ30とで構成されている。
積層体6を構成する正極板10の枚数は、負極板20の枚数と同じでもよいし、負極板20の枚数より多くても良い。この例では、正極板10が負極板20より一枚少なくなっている。
【0025】
正極板10は、正極集電板と正極合剤(正極活物質を含む合剤)で構成され、正極集電板は、長方形の格子状部と格子状部をなす長方形の一辺から突出する耳部とを有し、格子状部に正極合剤が保持されている。図2においては、正極合剤が保持された状態の格子状部を符号101で、正極板10の耳部を符号120でそれぞれ示している。正極板10の耳部120は、格子状部の幅方向(図2の紙面に垂直な方向)の中心から一方にずれた位置に配置されている。正極板10については後に詳述する。
【0026】
負極板20は、負極集電板と負極合剤(負極活物質を含む合剤)で構成され、負極集電板は、長方形の格子状部と格子状部をなす長方形の一辺から突出する耳部とを有し、格子状部に負極合剤が保持されている。図2においては、負極合剤が保持された状態の格子状部を符号201で、負極板20の耳部を符号220でそれぞれ示している。負極板20の耳部220は、格子状部の幅方向(図2の紙面に垂直な方向)の中心から他方にずれた位置に配置されている。負極板20については後に詳述する。
【0027】
図3に示すように、積層体6は、正極板10が収納された袋状セパレータ3と負極板20とが交互に配置されて形成されている。袋状セパレータ3は、多孔質ポリエチレン製でオイルを5質量%以上20質量%以下の割合で含むものであって、対向する一対の板状のベース部31と、ベース部31の板面から突出する複数のリブとを有し、リブ32が内側に配置されている。
【0028】
例えば、ベース部31の厚さは0.15mm~0.25mmで、リブ32の突出高さtは0.4mm~0.6mmで、リブ32の幅は0.1mm~0.4mmで、リブ32の設置間隔は2mm~10mmである。
袋状セパレータ3は、ベース部31の板面から複数のリブ32が突出している帯状の多孔質ポリエチレン膜から、所定長さに切り出した長方形の膜を、リブ32側を内側に二つ折りにして、左右の端部を溶着により接合したものである。よって、正極板10が収納された袋状セパレータ3と負極板20とが交互に配置されることで、袋状セパレータ3を構成する一対のセパレータ30が、正極板10と負極板20との間に配置された状態となる。つまり、袋状セパレータ3は、二枚のセパレータ30の電槽の底側と、収納する正極板の幅方向両側が閉塞され、電槽の上側が開放されているものである。
【0029】
正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなる打ち抜き加工品であって、正極合剤が保持された格子状部101が、複数のリブ32と対向している。全てのリブ32は、正極合剤が保持された格子状部101と接触しているが、撓んではいない。
そして、一つのセル室4における、ベース部31と、全てのリブ32と、正極合剤が保持された格子状部101と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上になっている。つまり、一つのセル室4にN枚の正極板10を有する(積層体6を構成する「正極板10が収納された袋状セパレータ3」の個数がNの)場合、一つの袋状セパレータ3内に体積が「Ve/N」の電解液保持空間が存在する。また、W〔g〕は、一枚の正極板10が有する正極合剤の質量のN倍となる。
【0030】
積層体6は、積層方向をX方向に沿わせ、且つ、正極板10および負極板20の板面をセル室4の上下方向に沿わせて、セル室4内に収容されている。
各極板群2は、さらに、正極ストラップ71および負極ストラップ72と、正極ストラップ71および負極ストラップ72からそれぞれ立ち上がる正極中間極柱71aおよび負極中間極柱72aを有する。正極ストラップ71および負極ストラップ72は、積層体6を構成する複数枚の正極板10の耳部120および負極板20の耳部220をそれぞれ、正極板10および負極板20の幅方向(セル室に入った時にY方向となる方向)の異なる位置で連結している。セル配列方向の両端のセル室に配置される極板群2は、外部端子となる正極極柱8および負極極柱9をそれぞれ有する。
【0031】
隣接するセル室4の正極中間極柱71aおよび負極中間極柱72aが抵抗溶接されて、隣接するセル間が電気的に直列に接続されている。正極極柱8および負極極柱9は、正極ストラップ71および負極ストラップ72に、それぞれ小片部71b,72bを介して形成されている。正極極柱8および負極極柱9は蓋を貫通して、外部に露出している。
【0032】
[正極板および負極板について]
〔正極板および負極板の製造方法〕
正極合剤および負極合剤は、それぞれの格子状部の開口部内に充填されているとともに、格子状部の両板面にも層状に存在する。正極合剤および負極合剤は各集電板の格子状部に対して、例えば、以下のようにして形成される。
【0033】
先ず、鉛粉に必要な添加剤(ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、導電性カーボン等)を添加し、乾式混合にて混ぜ合わせた後、水を添加して練り合わせて水練り物を得、この水練り物に硫酸を添加して練り合わせて正極用ペースト、負極用ペーストを作製する。この時、負極の添加剤として良く用いられるリグニンなどの有機防縮剤は水溶性のため、水と同時に添加してもよい。次に、得られた正極用ペースト、負極用ペーストを、各格子状部の開口部内に充填した後、予熱、熟成、乾燥工程を行って、化成前の正極板、化成前の負極板を得る。さらに、これらを用いて液式鉛蓄電池を組み立てた後に化成を行うことで、各格子状部に正極合剤、負極合剤が形成される。
【0034】
〔正極集電板〕
正極板10を構成する正極集電板は、鉛合金(Pb-Ca系合金)製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品である。正極集電板の厚さは、例えば0.7mm以上1.1mm以下である。
【0035】
〔負極集電板〕
負極板20を構成する負極集電板は、鉛合金(Pb-Ca-Sn系合金等)を用い連続鋳造法で形成されたもの、または、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品あるいは打ち抜き加工品である。負極集電板の厚さは、例えば0.8mm以上1.1mm以下である。
【0036】
[作用、効果]
上記実施形態の液式鉛蓄電池は、一つのセル室4における上述の比(Ve/W)が0.150以上になっていることにより、比(Ve/W)が0.150未満の場合と比較して、コスト上昇や寿命低下を招くことなく、RCを高めて液式鉛蓄電池の性能ランクを向上させることができる。
【0037】
比(Ve/W)が大き過ぎると、正極合剤の質量(W)が低下し過ぎることで必要なRC容量が得られなくなる場合があるため、0.150以上0.350以下であることが好ましい。比(Ve/W)のより好ましい範囲は0.160以上0.300以下であり、特に好ましい範囲は0.190以上0.260以下である。
また、袋状セパレータ3が、オイルを5質量%以上20質量%以下の割合で含むことにより、高温過充電耐久性に優れるとともに、抵抗値が低く抑えられてCCAも良好になる。袋状セパレータ3のオイル含有率が5質量%未満であると高温過充電耐久性が不十分になる場合があり、20質量%を超えると抵抗値が高くなってCCAの規格値が達成できない場合がある。
【0038】
袋状セパレータのオイル含有率のより好ましい範囲は10質量%以上15質量%以下である。
上記実施形態の液式鉛蓄電池は、一つのセル室4における上述の比(Ve/W)が0.150以上となるように、袋状セパレータ3のリブ32を設計する方法で製造されることにより、正極合剤の質量を増やしたり、密度を低下させたりすることなく、つまり、コスト上昇や寿命低下を招くことなく、RCを高めて液式鉛蓄電池の性能ランクを向上させることができる。
【実施例0039】
[試験電池の作製]
実施形態の液式鉛蓄電池と同じ構造の液式鉛蓄電池として、以下に示す構成のサンプルNo.1-1~No.1-7,No.2-1~No.2-7の液式鉛蓄電池を作製した。ただし、リブ32の断面形状は、図3に示すような台形ではなく、長方形とした。
サンプルNo.1-1~No.1-7の液式鉛蓄電池は、Qサイズ、公称電圧12Vの液式鉛蓄電池であり、袋状セパレータ3のリブ32のベース部31からの突出寸法t(mm)、リブ32の本数、リブ32の幅(mm)、および正極合剤の質量Wの少なくともいずれかを、表1に示すように変えた以外は、全て同じ構成とした。
【0040】
サンプルNo.2-1~No.2-7の液式鉛蓄電池は、Mサイズ、公称電圧12Vの液式鉛蓄電池であり、袋状セパレータ3のリブ32のベース部31からの突出寸法t(mm)、リブ32の本数、リブ32の幅(mm)、および正極合剤の質量Wの少なくともいずれかを、表2に示すように変えた以外は全て同じ構成とした。
また、表1、表2のVeは{(H-リブ体積×リブ本数×2)×正極枚数}をcm3に換算して計算された値である。なお、Hは、正極板の格子状部の面積をs(mm2)として、H=s×t×2で算出された体積値であり、正極枚数は、後述のように、No.1-1~No.1-7では7枚、No.2-1~No.2-7では6枚であり、Wは、正極板一枚の正極合剤の質量に、上記各枚数を掛けた値である。
【0041】
〔No.1-1~No.1-7〕
<化成前の正極板の製造>
スラブ鋳造工程、圧延工程、打ち抜き工程をこの順に行って正極集電板を製造した。
【0042】
先ず、以下の方法でスラブ鋳造工程を行った。
Caが0.06質量%、Snが1.6質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金のブロックを用意し、加熱により溶融して溶湯を得た。この溶湯を相対する2つの金属ロール間に流し込み、金属ロールによって溶湯を冷却することで、鉛合金スラブを得た。
【0043】
次に、得られた鉛合金スラブを、上下一対の圧延ロール間に通すことで、圧下率90%で圧延工程を行い、幅320mm×厚さ1.0mmの圧延シートを得た。
次に、得られた圧延シートをプレス成型機にかけて、厚さ方向に打ち抜くことにより、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の正極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が116.5mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が137.0mm、厚さが1.0mmである。よって、格子状部の面積は15960.5mm2である。また、耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
【0044】
得られた正極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した正極用ペーストを充填し、通常の方法で熟成と乾燥を行って、化成前の正極板(正極充填板)を得た。
【0045】
<化成前の負極板の製造>
Caが0.09質量%、Snが0.4質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金を用いて、連続鋳造方式により、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の負極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が115mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が135mm、厚さが0.8mmである。耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
【0046】
また、得られた負極集電板の格子状部の中骨は、上枠骨に対して略垂直な縦中骨16本と、縦中骨に対して略垂直な横中骨7本で構成されている。
得られた負極集電板の格子状部に、以下の方法で作製した負極用ペーストを55g充填した後、熟成前の熱処理を400℃または300℃で行った。次に、40℃、相対湿度90%で熟成した後、60℃で乾燥を行って、各サンプル用の負極充填板(化成前の負極板)を得た。
【0047】
負極用ペーストの作製は、鉛粉に水と硫酸を添加して練り合わせて水練り物を得た後、この水練り物に導電性カーボンとしてアセチレンブラック(AB)またはケッチェンブラック(KB)を、鉛粉100質量部に対して0.2質量部となる割合で添加して練り合わせることにより行った。
【0048】
<化成前の極板群の作製>
オイル含有率が5質量%である縦リブ付きの多孔性ポリエチレン製セパレータを、縦リブ側が内側になるように袋状にした袋状セパレータであって、リブ32のベース部31からの突出寸法t、リブ32の本数、およびリブ32の幅が表1に示す通りのものを用意した。また、ベース部31の寸法は、No.1-1~No.1-7の正極充填板が適度な隙間を介して袋状セパレータに挿入可能な寸法とした。
【0049】
袋状セパレータに各サンプル用の正極充填板を一枚ずつ収納した。正極充填板入り袋状セパレータ7個と負極充填板8枚を交互に積層することで、各サンプル用の積層体を6個ずつ作製した。
次に、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用いて、得られた各サンプル用の六個の積層体の正極充填板および負極充填板に、それぞれストラップ、中間極柱、端子極柱を形成することで、各サンプル用の六個の極板群を得た。
【0050】
<電池の組み立て>
次に、得られた各サンプル用の六個の極板群を、ポリプロピレン製のモノブロックタイプの電槽の六個のセル室にそれぞれ入れた。
【0051】
次に、通常の方法で、隣接するセル室間の中間極柱の抵抗溶接、電槽と蓋の熱溶着を行った。次に、比重が1.250(20℃換算値)である希硫酸からなる電解液を蓋の各注液孔から各セル室内へ注入した。次に、注液孔を塞いで未化成の液式鉛蓄電池を組み立てた。
その後、通常の方法で電槽化成を行うことで、正極充填板および負極充填板を正極板および負極板にして、液式鉛蓄電池を完成させた。なお、この状態で、袋状セパレータ内でリブ32の全先端面がNo.1-1~No.1-7の各正極充填板に接触している。
【0052】
〔No.2-1~No.2-7〕
<化成前の正極板の製造>
No.1-1~No.1-7と同じ方法で得られた圧延シートをプレス成型機にかけて、厚さ方向に打ち抜くことにより、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の正極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が105.0mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が113.0mm、厚さが1.0mmである。よって、格子状部の面積は11865.0mm2である。また、耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
【0053】
得られた正極集電板の格子状部に、通常の方法で作製した正極用ペーストを充填し、通常の方法で熟成と乾燥を行って、化成前の正極板(正極充填板)を得た。
【0054】
<化成前の負極板の製造>
Caが0.09質量%、Snが0.4質量%、Alが0.02質量%、残部が鉛と不可避的不純物からなる鉛合金を用いて、連続鋳造方式により、格子状部の上枠骨から上側に耳部が延びている形状の負極集電板を得た。格子状部の寸法は、耳部が伸びている方向の寸法(高さ)が100mm、これに垂直な方向の寸法(幅)が100mm、厚さが0.8mmである。耳部の寸法は幅が10mmで、高さが15mmである。耳部は格子状部の幅方向中心と端部との間から延びている。
【0055】
また、得られた負極集電板の格子状部の中骨は、上枠骨に対して略垂直な縦中骨16本と、縦中骨に対して略垂直な横中骨10本で構成されている。
得られた負極集電板の格子状部に、以下の方法で作製した負極用ペーストを75g充填した後、熟成前の熱処理を400℃または300℃で行った。次に、40℃、相対湿度90%で熟成した後、60℃で乾燥を行って、化成前の負極板(負極充填板)を得た。
【0056】
負極用ペーストの作製は、鉛粉に水と硫酸を添加して練り合わせて水練り物を得た後、この水練り物に導電性カーボンとしてアセチレンブラック(AB)またはケッチェンブラック(KB)を、鉛粉100質量部に対して0.2質量部となる割合で添加して練り合わせることにより行った。
【0057】
<化成前の極板群の作製>
オイル含有率が5質量%である縦リブ付きの多孔性ポリエチレン製セパレータを、縦リブ側が内側になるように袋状にした袋状セパレータ3であって、リブ32のベース部31からの突出寸法t、リブ32の本数、およびリブ32の幅が表2に示す通りのものを用意した。また、ベース部31の寸法は適度な隙間を介して袋状セパレータに挿入可能な寸法とした。
【0058】
袋状セパレータに各サンプル用の正極充填板を一枚ずつ収納した。正極充填板入り袋状セパレータ6個と負極充填板7枚を交互に積層することで、各サンプル用の積層体を6個ずつ作製した。
次に、COS(キャストオンストラップ)方式の鋳造装置を用いて、得られた各サンプル用の六個の積層体の正極充填板および負極充填板に、それぞれストラップ、中間極柱、端子極柱を形成することで、各サンプル用の六個の極板群を得た。
【0059】
<電池の組み立て>
使用する電槽の寸法をNo.2-1~No.2-7の極板群の寸法に合わせて変えた以外は、No.1-1~No.1-7と同様の方法で電池の組み立てを行った後、通常の方法で電槽化成を行うことで、正極充填板および負極充填板を正極板および負極板にして、液式鉛蓄電池を完成させた。なお、この状態で、袋状セパレータ内でリブ32の全先端面がNo.2-1~No.2-7の各正極充填板に接触している。
【0060】
[リザーブキャパシティ試験]
得られた各サンプルの液式鉛蓄電池を用い、「JIS D 5301」の「10.2 リザーブキャパシティ(RCe)試験」で規定された方法に沿い、25℃水槽中で10.5Vまで25Aにて放電する試験を行い、放電持続時間を分単位で記録して、有効リザーブキャパシティ(RCe:単位は分)を算出した。
そして、算出されたRCe(分)を用い、放電容量(Ah)を算出した。算出した放電容量(Ah)を「1セルあたりの正極活物質の理論容量」で除して、リザーブキャパシティの利用率(以下、「RC利用率」、または単に「利用率」とも称する)を算出した。
これらの結果をセパレータの構成、比(Ve/W)とともに表1、表2に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
表1の結果から分かるように、Qサイズの場合、比(Ve/W)が0.150以上であるNo.1-3~No.1-7の液式鉛蓄電池は、RC利用率が37%以上となっているのに対し、比(Ve/W)が0.150未満であるNo.1-1とNo.1-2の液式鉛蓄電池では、RC利用率が35%程度になっている。また、基準となるNo.1-2との利用率の差が2.0以上であれば、必要な規定を満たすものと考えられるが、比(Ve/W)が0.150以上であるNo.1-3~No.1-7の液式鉛蓄電池は、No.1-2との利用率の差が2.3%以上となっている。
【0064】
また、表2の結果から分かるように、Mサイズの場合、比(Ve/W)が0.150以上であるNo.2-3~No.2-7の液式鉛蓄電池は、RC利用率が29.5%以上となっているのに対し、比(Ve/W)が0.150未満であるNo.2-1とNo.2-2の液式鉛蓄電池では、RC利用率が27%未満になっている。また、基準となるNo.2-2との利用率の差が2.0以上であれば、必要な規定を満たすものと考えられるが、比(Ve/W)が0.150以上であるNo.2-3~No.2-7の液式鉛蓄電池は、No.2-2との利用率の差が2.9%以上となっている。
【0065】
以上のことから以下のことが分かる。先ず、体積Veを大きくすること、つまり、比(Ve/W)を大きくすることで、基準品から、活物質の質量を増やしたり、活物質の密度を低下させたりすることなく、利用率を高くすることができる。そして、比(Ve/W)を0.150以上とすることで、必要な規定を満たすものとすることができる。
【0066】
[オイル含有率の違いによる評価]
<電池の組み立て>
オイル含有率が3質量%、10質量%、15質量%、20質量%、25質量%である袋状セパレータ3を使用した以外は、No.1-3と同様の方法で電池の組み立てを行って、No.1-11~No.1-15の液式鉛蓄電池を作製した。
【0067】
オイル含有率が3質量%、10質量%、15質量%、20質量%、25質量%である袋状セパレータ3を使用した以外は、No.2-4と同様の方法で電池の組み立てを行って、No.2-11~No.2-15の液式鉛蓄電池を作製した。
【0068】
<試験方法>
先ず、「JIS D 5301」に沿って、-18℃の電池温度にて、No.1-3,No.1-11~No.1-15の液式鉛蓄電池については590Aで、No.2-4,No.2-11~No.2-15の液式鉛蓄電池については310Aで放電試験を実施し、30秒目電圧を測定した。
【0069】
次に、高温過充電耐久性を評価するため、「JIS D5301」に記載の軽負荷寿命試験を行った。その際、腐食速度を速めるため、試験温度は41℃から75℃に変更し、放電時間は240秒から60秒に変更した。つまり、75℃環境下において、放電電流25Aで60秒間放電し、次いで充電電圧14.8Vで10分間充電することを1サイクルとした。
【0070】
これを480サイクル繰り返す毎に、No.1-3,No.1-11~No.1-15では590Aで、No.2-4,No.2-11~No.2-15では310Aで、30秒間の寿命判定放電を実施した。この30秒目電圧が7.2Vまで低下した時点でのサイクル数を、又は、上記10分間の充電時に電流値が上昇傾向を示し、短絡が示唆された場合は、その時点でのサイクル数を、それぞれ高温過充電寿命とした。
【0071】
これらの結果を表3、表4に示す。なお、表3では、高温過充電寿命をNo.1-3の値(サイクル数)を100とした相対値で示し、表4では、高温過充電寿命をNo.2-4の値(サイクル数)を100とした相対値で示した。
【0072】
【表3】
【0073】
【表4】
【0074】
表3の結果から分かるように、袋状セパレータのオイル含有率が3質量%以上20質量%以下であるNo.1-3,No.1-11~No.1-14の液式鉛蓄電池では、30秒目電圧をCCAの規格値である7.2V以上とすることができたが、25質量%であるNo.1-15の液式鉛蓄電池では、30秒目電圧が6.8Vと規格値未満の値となった。
また、袋状セパレータのオイル含有率が5質量%以上25質量%以下であるNo.1-3,No.1-12~No.1-15の液式鉛蓄電池では、高温過充電寿命の相対値が100以上であったのに対し、袋状セパレータのオイル含有率が3質量%であるNo.1-11の液式鉛蓄電池では、高温過充電寿命の相対値が95(100未満)となった。
【0075】
また、表4の結果から分かるように、袋状セパレータのオイル含有率が3質量%以上20質量%以下であるNo.2-4,No.2-11~No.2-14の液式鉛蓄電池では、30秒目電圧をCCAの規格値である7.2V以上とすることができたが、25質量%であるNo.2-15の液式鉛蓄電池では、30秒目電圧が7.1Vと規格値未満の値となった。
また、袋状セパレータのオイル含有率が5質量%以上25質量%以下であるNo.2-4,No.2-12~No.2-15の液式鉛蓄電池では、高温過充電寿命の相対値が100以上であったのに対し、袋状セパレータのオイル含有率が3質量%であるNo.2-11の液式鉛蓄電池では、高温過充電寿命の相対値が93(100未満)となった。
【0076】
以上のことから分かるように、比(Ve/W)が0.150以上であるRCの高い液式鉛蓄電池において、袋状セパレータのオイル含有率を5質量%以上20質量%以下とすることで、CCAと高温過充電寿命の両方を高めることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 電槽
11 電槽の第一の壁
12 電槽の第二の壁
13 電槽の隔壁
2 極板群
3 袋状セパレータ
30 セパレータ
4 セル室
6 積層体
10 正極板
101 正極合剤が保持された状態の正極集電板の格子状部
120 正極集電板の耳部
20 負極板
201 負極合剤が保持された状態の負極集電板の格子状部
220 負極集電板の耳部
71 正極ストラップ
72 負極ストラップ
71a 正極中間極柱
72a 負極中間極柱
8 正極端子
9 負極端子
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2024-05-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板の間にセパレータが配置され、前記正極板が収納された袋状セパレータと前記負極板とが交互に配置されて形成された積層体を有し、
前記正極板は、格子状部を含む正極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、前記格子状部に保持された正極合剤と、を有し、
前記負極板は、格子状部を含む負極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、前記格子状部に保持された負極合剤と、を有し、
前記正極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から一方にずれた位置に配置され、前記負極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置され、
前記極板群は、さらに、複数枚の前記正極耳部を連結する正極ストラップおよび複数枚の前記負極耳部を連結する負極ストラップを有し、
前記袋状セパレータは、多孔性合成樹脂製でオイルを含むものであって、板状のベース部と、前記ベース部の板面から突出する複数のリブとを有し、前記リブが内側に配置され、
前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品であって、前記正極合剤が保持された前記格子状部が、前記複数のリブと対向し、
一つの前記セル室における、前記ベース部と、前記複数のリブと、前記正極合剤が保持された前記格子状部と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、前記正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上0.350以下である液式鉛蓄電池。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項4
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項4】
セル室を有する電槽と、前記セル室に収納された極板群と、前記セル室に注入された電解液と、を備え、
前記極板群は、交互に配置された複数枚の正極板および負極板の間にセパレータが配置され、前記正極板が収納された袋状セパレータと前記負極板とが交互に配置されて形成された積層体を有し、
前記正極板は、格子状部を含む正極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する正極耳部と、前記格子状部に保持された正極合剤と、を有し、
前記負極板は、格子状部を含む負極集電板と、前記格子状部の前記電槽の上下方向の上側に突出する負極耳部と、前記格子状部に保持された負極合剤と、を有し、
前記正極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から一方にずれた位置に配置され、前記負極耳部は、前記格子状部の幅方向の中心から他方にずれた位置に配置され、
前記極板群は、さらに、複数枚の前記正極耳部を連結する正極ストラップおよび複数枚の前記負極耳部を連結する負極ストラップを有し、
前記袋状セパレータは、多孔性合成樹脂製でオイルを含むものであって、板状のベース部と、前記ベース部の板面から突出する複数のリブとを有し、前記リブが内側に配置され、
前記正極集電板は、鉛合金製の圧延板からなるエキスパンド加工品または打ち抜き加工品であり、前記正極合剤が保持された前記格子状部が、前記複数のリブと対向する液式鉛蓄電池の製造方法であって、
一つの前記セル室における、前記ベース部と、前記複数のリブと、前記正極合剤が保持された前記格子状部と、で形成される空間の体積(Ve〔cm3〕)の、前記正極合剤の質量(W〔g〕)に対する比(Ve/W)が0.150以上0.350以下となるように、前記袋状セパレータのリブを設計する液式鉛蓄電池の製造方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
例えば、ベース部31の厚さは0.15mm~0.25mmで、リブ32の突出高さtは0.4mm~0.6mmで、リブ32の幅は1mm~4mmで、リブ32の設置間隔は2mm~10mmである。
袋状セパレータ3は、ベース部31の板面から複数のリブ32が突出している帯状の多孔質ポリエチレン膜から、所定長さに切り出した長方形の膜を、リブ32側を内側に二つ折りにして、左右の端部を溶着により接合したものである。よって、正極板10が収納された袋状セパレータ3と負極板20とが交互に配置されることで、袋状セパレータ3を構成する一対のセパレータ30が、正極板10と負極板20との間に配置された状態となる。つまり、袋状セパレータ3は、二枚のセパレータ30の電槽の底側と、収納する正極板の幅方向両側が閉塞され、電槽の上側が開放されているものである。