(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024805
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】走間板厚変更の可否判定方法、走間板厚変更方法、走間板厚変更の可否判定装置、及び走間板厚変更の可否判定プログラム
(51)【国際特許分類】
B21B 37/26 20060101AFI20250214BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20250214BHJP
B21B 1/38 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B21B37/26
B21B37/00 221Z
B21B1/38 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129085
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下司 佑馬
(72)【発明者】
【氏名】馬場 渉
(72)【発明者】
【氏名】坂元 利行
【テーマコード(参考)】
4E002
4E124
【Fターム(参考)】
4E002AD11
4E002BA01
4E002BC02
4E002BC03
4E002BC05
4E002CA08
4E124AA07
4E124BB02
4E124BB03
4E124CC01
4E124CC03
4E124EE01
4E124EE16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】先行材と後行材の組合せについて過去の操業実績が少ない条件であっても走間板厚変更時の張力変動量を精度よく予測し、適切な走間板厚変更の可否判定方法、可否判定装置、及び可否判定プログラムを提供する。
【解決手段】先行材と後行材が接合部を介して接合された被圧延材をタンデム圧延機により連続圧延する際の走間板厚変更の可否判定方法であって、タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得ステップと、先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま接合部が圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算ステップと、張力変動量計算ステップで計算した張力変動量に基づいて走間板厚変更の可否を判定する判定ステップと、を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行材と後行材が接合部を介して接合された被圧延材をタンデム圧延機により連続圧延する際の走間板厚変更の可否を判定する走間板厚変更の可否判定方法であって、
前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得ステップと、
前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算ステップと、
前記張力変動量計算ステップで計算した張力変動量に基づいて前記走間板厚変更の可否を判定する判定ステップと、
を含む、走間板厚変更の可否判定方法。
【請求項2】
前記張力変動量計算ステップは、前記設定値取得ステップで取得する前記先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値、及び前記圧延スタンドを通過する前記後行材に対して設定される板厚及び変形抵抗を用いて、前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する、請求項1に記載の走間板厚変更の可否判定方法。
【請求項3】
前記走間板厚変更において、前記ロールギャップ及びロール周速の変更開始点を先行材の位置に設定し、前記ロールギャップ及びロール周速の変更終了点を後行材の位置に設定する、請求項1に記載の走間板厚変更の可否判定方法。
【請求項4】
前記先行材の変形抵抗と前記後行材の変形抵抗との差が80MPa以上である、請求項1に記載の走間板厚変更の可否判定方法。
【請求項5】
請求項1~4のうち、いずれか1項に記載の走間板厚変更の可否判定方法を用いて、前記タンデム圧延機の全ての圧延スタンドにおいて走間板厚変更が可能と判定された場合に走間板厚変更を実行し、前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいて走間板厚変更が不可と判定された場合には前記後行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を変更する、走間板厚変更方法。
【請求項6】
先行材と後行材が接合部を介して接合された被圧延材をタンデム圧延機により連続圧延する際の走間板厚変更の可否を判定する走間板厚変更の可否判定装置であって、
前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得手段と、
前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算手段と、
前記張力変動量計算手段によって計算された張力変動量に基づいて前記走間板厚変更の可否を判定する判定手段と、
を備える、走間板厚変更の可否判定装置。
【請求項7】
先行材と後行材が接合部を介して接合された被圧延材をタンデム圧延機により連続圧延する際の走間板厚変更の可否を判定する走間板厚変更の可否判定プログラムであって、
コンピュータを、
前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得手段と、
前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算手段と、
前記張力変動量計算手段によって計算された張力変動量に基づいて前記走間板厚変更の可否を判定する判定手段と、
として機能させる、走間板厚変更の可否判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走間板厚変更の可否判定方法、走間板厚変更方法、走間板厚変更の可否判定装置、及び走間板厚変更の可否判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
冷間圧延工程では、先行被圧延材(以降「先行材」と表記)と後行被圧延材(以降「後行材」と表記)をタンデム圧延機の入側で接合(溶接が代表的な手段)し、先行材と後行材とを連続した金属帯としてタンデム圧延機で冷間圧延する。そして、タンデム圧延機の出側において冷間圧延が完了した金属帯を製品単位の位置で切断し、切断された金属帯をテンションリールで順次巻き取る。また、金属帯を冷間圧延する際、硬度、母板厚、及び仕上厚のいずれかが先行材と後行材とで異なる場合、「走間板厚変更」が実施される。「走間板厚変更」とは、ライン停止をせずに歩留まりを向上させるために、連続圧延中に接合部(接合点ともいう)の前後で圧延条件を変化させる処理を意味する。
【0003】
走間板厚変更の際に接合部の前後で圧延条件が大きく変化する場合、接合部が各圧延スタンドを通過する際の張力変動量が大きくなり、金属帯の破断や絞込み等が発生することがある。金属帯の破断や絞込み等が発生した場合、タンデム圧延機の稼働能率が低下する。そこで、接合部がタンデム圧延機の各圧延スタンドを通過する際の張力変動量を予測し、予測される張力変動量が大きい場合、タンデム圧延機の操業条件を変更する技術が提案されている。具体的には、特許文献1には、走間板厚変更時に発生する張力変動量を予測する予測手段を備え、予測された張力変動量が許容範囲内となるように走間板厚変更時間を最適化する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法では、予測手段は、一次遅れの特性を有する張力発生モデルと実際の張力変動量を学習した補正項とを用いている。また、特許文献1には、予測手段として、張力変動量の実績値を教師データとするニューラルネットワークにより学習された予測手段を適用できることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、走間板厚変更における張力変動予測方法として、機械学習により学習された予測モデルを用いて、接合点が圧延スタンドを通過する際の張力変動量を予測する方法が記載されている。特許文献2に記載の予測モデルは、先行材の圧延操業パラメータと、先行材と後行材の圧延操業パラメータの差分値を表す圧延操業パラメータ変更量と、を入力データとし、接合点が圧延スタンドを通過する際の張力変動情報を出力データとしている。一方、特許文献3には、接合点が圧延スタンドを通過するタイミングにおけるアクチュエータ変更量を計算し、計算されたアクチュエータ変更量と予め定めた閾値とから走間板厚変更の可否を判定する方法が記載されている。また、特許文献3には、精度の高い張力変動予測モデルを使用する必要なく、圧延スケジュール計算におけるアクチュエータ変更量から走間板厚変更の可否を簡易に判定できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-249423号公報
【特許文献2】特開2022-21794号公報
【特許文献3】特開2019-111568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法による張力変動量の予測精度は低い。詳しくは、走間板厚変更は、先行材と後行材とで母材板厚、仕上厚、変形抵抗のいずれかが異なる場合に実行されるものであるが、先行材及び後行材のこれらの変更量には圧延スタンド毎に種々の組合せがある。また、先行材と後行材の組合せは、タンデム圧延機の生産スケジュールに従って設定され、必ずしも走間板厚変更における張力変動量を低減するために設定されるものではない。このため、張力変動量の実績値を教師データとするニューラルネットワークにより学習された予測手段を用いたとしても、過去に操業実績がない先行材と後行材の組合せが設定された場合には張力変動量の予測精度は低下する。一方、特許文献1には、予測手段には物理モデルに基づいて決定される張力発生モデルを用いることが記載されている。ところが、張力発生モデルを用いた場合には、先行材と後行材の接合点を境として、ロールギャップやロール周速度が変更され、母材板厚、仕上厚、変形抵抗等が急激に変化するような非定常状態における張力変動量を精度よく計算することは難しい。
【0007】
また、特許文献2に記載の機械学習により学習された予測モデルも同様に、過去に操業実績がない先行材と後行材の組合せが設定された場合には張力変動量の予測精度は低下する。先行材の圧延操業パラメータと、先行材と後行材との圧延操業パラメータの差分値を表す圧延操業パラメータ変更量と、の組合せは多数あるためである。一方、特許文献3に記載の方法は、張力変動量と相関のあるアクチュエータ変更量に基づいて走間板厚変更の可否を判定する方法であるが、走間板厚変更時の張力変動量を予測するものではない。このため、走間板厚変更の可否判定に用いる閾値によっては、必ずしも適切な可否判定ができない可能性がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、先行材と後行材の組合せについて過去の操業実績が少ない条件であっても走間板厚変更時の張力変動量を精度よく予測し、適切な走間板厚変更の可否判定を実行可能な走間板厚変更の可否判定方法、可否判定装置、及び可否判定プログラムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、金属帯の破断や絞込み等が発生することを抑制して金属帯を歩留まりよく圧延可能な走間板厚変更方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る走間板厚変更の可否判定方法は、先行材と後行材が接合部を介して接合された被圧延材をタンデム圧延機により連続圧延する際の走間板厚変更の可否を判定する走間板厚変更の可否判定方法であって、前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得ステップと、前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算ステップと、前記張力変動量計算ステップで計算した張力変動量に基づいて前記走間板厚変更の可否を判定する判定ステップと、を含む。
【0010】
前記張力変動量計算ステップは、前記設定値取得ステップで取得する前記先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値、及び前記圧延スタンドを通過する前記後行材に対して設定される板厚及び変形抵抗を用いて、前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算するとよい。
【0011】
前記走間板厚変更において、前記ロールギャップ及びロール周速の変更開始点を先行材の位置に設定し、前記ロールギャップ及びロール周速の変更終了点を後行材の位置に設定するとよい。
【0012】
前記先行材の変形抵抗と前記後行材の変形抵抗との差が80MPa以上であるとよい。
【0013】
本発明に係る走間板厚変更方法は、本発明に係る走間板厚変更の可否判定方法を用いて、前記タンデム圧延機の全ての圧延スタンドにおいて走間板厚変更が可能と判定された場合に走間板厚変更を実行し、前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいて走間板厚変更が不可と判定された場合には前記後行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を変更する。
【0014】
本発明に係る走間板厚変更の可否判定装置は、先行材と後行材が接合部を介して接合された被圧延材をタンデム圧延機により連続圧延する際の走間板厚変更の可否を判定する走間板厚変更の可否判定装置であって、前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得手段と、前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算手段と、前記張力変動量計算手段によって計算された張力変動量に基づいて前記走間板厚変更の可否を判定する判定手段と、を備える。
【0015】
本発明に係る走間板厚変更の可否判定プログラムは、先行材と後行材が接合部を介して接合された被圧延材をタンデム圧延機により連続圧延する際の走間板厚変更の可否を判定する走間板厚変更の可否判定プログラムであって、コンピュータを、前記タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する前記圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得手段と、前記先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま前記接合部が前記圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算手段と、前記張力変動量計算手段によって計算された張力変動量に基づいて前記走間板厚変更の可否を判定する判定手段と、として機能させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る走間板厚変更の可否判定方法、可否判定装置、及び可否判定プログラムによれば、先行材と後行材の組合せについて過去の操業実績が少ない条件であっても走間板厚変更時の張力変動量を精度よく予測し、適切な走間板厚変更の可否判定を実行することができる。また、本発明に係る走間板厚変更方法によれば、金属帯の破断や絞込み等が発生することを抑制して金属帯を歩留まりよく圧延することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明が適用される冷間連続圧延設備の構成例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、被圧延材の出側板厚とロールギャップとの関係を示す図である。
【
図3】
図3は、被圧延材の出側板厚とロールギャップとの関係を示す図である。
【
図4】
図4は、先行材の圧延中における後行材に対する設定計算の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、走間板厚変更の開始点及び終了点を説明するための図である。
【
図6】
図6は、張力変動指標の計算方法を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施形態である走間板厚変更の可否判定方法の流れを示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、2段走間板厚変更を説明するための図である。
【
図9】
図9は、2段走間板厚変更の開始点及び終了点を説明するための図である。
【
図10】
図10は、被圧延材のユニット張力の変動を示す図である。
【
図11】
図11は、張力変動指標と張力変動の実績値との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態である走間板厚変更の可否判定方法、走間板厚変更方法、走間板厚変更の可否判定装置、及び走間板厚変更の可否判定プログラムについて説明する。
【0019】
〔冷間連続圧延設備の構成〕
まず、
図1を参照して、本発明が適用される冷間連続圧延設備の構成例について説明する。
【0020】
図1は、本発明が適用される冷間連続圧延設備の構成例を示す模式図である。
図1では、冷間連続圧延設備に附帯する他の装置(例えば入側に設置される巻戻機、溶接機、及びルーパ、並びに出側に設置される切断機及び巻取機等の装置)については図示を省略している。
図1に示すように、本発明が適用される冷間連続圧延設備1は、タンデム圧延機2、タンデム圧延機2を制御する圧延制御コントローラ(PLC)3、及び圧延制御コントローラ3を含む冷間連続圧延設備1を管理する制御用計算機(プロセスコンピュータ)4を備えている。
【0021】
タンデム圧延機2は、被圧延材5の通板方向の入側から順に第1圧延スタンド2A~第5圧延スタンド2Eを有する連続式冷間タンデム圧延機である。各圧延スタンドには、ワークロール21、ワークロール21のロール周速を変更する電動機であるロール周速制御装置22、及び上下のワークロール21のロールギャップを変更する圧下制御装置23が設置されている。また、各圧延スタンドの下側のバックアップロールの下部にはロードセルからなる圧延荷重検出器24が設けられている。さらに、各圧延スタンドには、圧下位置を検出する圧下位置検出器25が設けられている。さらに、各圧延スタンド間には、被圧延材5の張力を検出する張力計26が設けられている。さらに、第1圧延スタンド2Aの出側及び第5圧延スタンド2Eの出側には、被圧延材5の厚み(板厚)を検出する板厚計27が設けられている。
【0022】
圧延制御コントローラ3は、圧延荷重検出器24によって検出される圧延荷重や張力計26によって検出される張力等の圧延操業データを所定のサンプリング周期で収集し、それを制御用計算機4に出力する。また、圧延制御コントローラ3は、制御用計算機4から取得した各値に基づいて各圧延スタンドのロール周速制御装置22及び圧下制御装置23を制御するための処理を実行する。また、圧延制御コントローラ3は、先行材と後行材の接合点のトラッキングを行う他、被圧延材5上の指定された位置についてもトラッキングを行う機能を有する。これにより、圧延制御コントローラ3は、接合点を含む被圧延材5の予め設定された位置がタンデム圧延機2の各圧延スタンドを通過するタイミングで、所定の設定値変更の指令値をロール周速制御装置22や圧下制御装置23等の制御装置に出力できる。
【0023】
制御用計算機4は、後述する圧延スケジュール及び走間板厚変更部を設定し、走間板厚変更部に対応する各圧延スタンドのロールギャップ及びロール周速の設定値変更の指令値を生成する。ロールギャップ及びロール周速の設定値変更の指令値は、先行材に対する設定値と後行材に対する設定値の差を用いることが多く、これを差分指令値と呼ぶ。また、制御用計算機4は、上位計算機から与えられる母材寸法や製品目標寸法等の情報に従って、先行材及び後行材のパススケジュール、各圧延スタンドの圧延荷重及び先進率の予測値、並びにロールギャップ及びロール周速の設定値を計算する。そして、制御用計算機4は、計算されたこれらの値を下位の圧延制御コントローラ3に設定する。
【0024】
〔ロールギャップと板厚との関係〕
次に、
図2,
図3を参照して、先行材から後行材へのロールギャップの設定変更工程について説明する。
【0025】
まず、
図2を参照して、圧延機のロールギャップと被圧延材の板厚との一般的な関係について説明する。圧延機では、被圧延材に付与する圧延荷重の反力によって圧延機全体が縦方向に変形し、予め設定されたロールギャップが広がる。このため、所定の板厚の被圧延材を得るためには、圧延荷重と圧延機の変形量を考慮してロールギャップを設定しなければならない。
図2は、圧延機の入側板厚がHである被圧延材を圧延した際の被圧延材の出側板厚hとロールギャップSとの関係を示す図である。
図2に示すように、圧延機の変形は弾性変形であるため、ロールギャップSは圧延荷重Pに対して概ね線形に大きくなる。この特性を圧延機の弾性特性曲線という。一方、種々の出側板厚hを仮定して2次元圧延理論から算出される圧延荷重Pを結んだ曲線を圧延材料の塑性特性曲線と呼ぶ。実際の圧延では、それらの圧延荷重Pが釣り合う条件(
図2に示す曲線の交点)から被圧延材の出側板厚hが決定される。
【0026】
次に、
図3を参照して、走間板厚変更における出側板厚hとロールギャップSとの関係について説明する。
図3は、先行材の入側板厚がH1、後行材の入側板厚がH2であって、先行材が硬質材(塑性特性曲線の傾きが大きい)、後行材が軟質材(塑性特性曲線の傾きが小さい)であるときの被圧延材の出側板厚とロールギャップとの関係を示す図である。
図3に示すように、走間板厚変更では、先行材に対しては、目標の出側板厚h1が得られるようにロールギャップSを第1ロールギャップS1に設定する。そして、接合点が圧延スタンドを通過すると、塑性特性曲線は先行材(硬質材)の塑性特性曲線から後行材(軟質材)の塑性特性曲線に遷移する。これにより、ロールギャップS1を保持した状態では弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が交点aから交点bに遷移する。その結果、接合点が圧延スタンドを通過すると後行材の出側板厚はhcに変化する。一方、後行材に対してロールギャップを第2ロールギャップS2に変更すると、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が交点bから交点cに遷移し、後行材の出側板厚が目標板厚であるh2となり、走間板厚変更が完了する。
【0027】
走間板厚変更では、接合点が圧延スタンドに到達したタイミングに合わせて、ロールギャップの変更指令が出されるのが通常である。しかしながら、ロールギャップの変更には一定の時間を要するため、ロールギャップの変更(第1ロールギャップS1から第2ロールギャップS2への変更)が完了するよりも前に接合点の通過が完了するのが通常である。従って、接合点の通過前後の板厚変動は、過渡的にはh1→hc→h2に近い経路となる。このような過渡的な板厚変動により、各圧延スタンドにおけるマスフローバランスが変化し、大きな張力変動が発生する。特に、接合点を挟んで塑性特性曲線が大きく変化する場合には、板厚変動(h1→hc)が顕著になる。先行材と後行材の変形抵抗が異なる場合に大きな張力変動が生じる理由はこのためである。
【0028】
〔ロールギャップ及びロール周速の設定計算〕
次に、タンデム圧延機における被圧延材に対するロールギャップ及びロール周速の設定計算の方法について説明する。
【0029】
ロールギャップ及びロール周速の設定計算は、制御用計算機4が、上位計算機から与えられる母材寸法や製品目標寸法等の情報に従って被圧延材のパススケジュールを設定し、各圧延スタンドの圧延荷重を算出し、対応するロールギャップ及びロール周速の設定値を計算するものである。なお、パススケジュールとは、タンデム圧延機の各圧延スタンドにおける出側板厚の目標値のことをいう。
【0030】
具体的には、タンデム圧延機における被圧延材のロールギャップSの設定計算では、まず、制御用計算機4が、被圧延材のパススケジュール(出側板厚hの目標値)から、計算対象の圧延スタンドにおける被圧延材の入側板厚H及び出側板厚hを取得し、2次元圧延理論を用いて例えば以下に示す数式(1)を用いて圧延荷重Pの予測値を求める。ここで、数式(1)において、Pは圧延荷重(kN)、kmは被圧延材の平均変形抵抗(MPa)、R’は扁平ロール半径(mm)、Hは被圧延材の入側板厚(mm)、hは被圧延材の出側板厚(mm)、bは被圧延材の板幅(mm)、QPは圧下力関数、μは摩擦係数、qbは入側張力(MPa)、qfは出側張力(MPa)を示す。なお、扁平ロール半径R’にはHitchcockのロール扁平式が適用され、2次元圧延理論による荷重計算との連立解から求められる。
【0031】
【0032】
次に、制御用計算機4は、このようにして算出された被圧延材に対する圧延荷重Pの予測値を用いて、例えば以下に示す数式(2)によりロールギャップSの設定値Sを求める。ここで、数式(2)において、Kは、タンデム圧延機の弾性特性曲線の傾きを表すミル定数(kN/mm)、δはタンデム圧延機毎に設定される定数である。
【0033】
【0034】
制御用計算機4は、以上の計算をタンデム圧延機の全圧延スタンドに対して実行することにより圧延スタンド毎にロールギャップの設定値Sを決定する。なお、任意の圧延スタンドに対するロールギャップの設定値はSと表記するが、圧延スタンド毎のロールギャップの設定値はS(i)のようにi番目の圧延スタンドにおけるロールギャップであることを表す。
【0035】
次に、各圧延スタンドのロール周速の設定計算の流れについて説明する。ロール周速の設定計算は、ロールギャップの設定計算と同じタイミングで実行される。なお、ロール周速とはタンデム圧延機のワークロールの周速を表す。具体的には、制御用計算機4は、被圧延材のパススケジュールに基づいて、2次元圧延理論により各圧延スタンドの先進率fsの予測値を以下に示す数式(3)を用いて算出する。先進率は、例えばBland&Fordの先進率式から求めることができる。
【0036】
【0037】
このとき、各圧延スタンドのロール周速VR
(i)(mm/s)は、定常状態において以下の数式(4)に示すマスフロー一定則を満たす。
【0038】
【0039】
ここで、数式(4)において、iは圧延スタンド番号、h(i)は第i圧延スタンドにおける被圧延材の出側板厚(mm)、fs
(i)は第i圧延スタンドの先進率(-)を示す。これは、任意の圧延スタンドのロール周速が決まれば、他の圧延スタンドのロール周速が数式(4)により決定されることを意味する。通常は、走間板厚変更を行う際の圧延速度は、最終圧延スタンドのロール周速で概ね100~400m/minの範囲で予め設定されており、他の圧延スタンドのロール周速もこれにより決定される。以上の設定計算は、タンデム圧延機で連続圧延が行われる被圧延材毎に実行される。
【0040】
次に、
図4を参照して、タンデム圧延機において走間板厚変更を行う場合の設定計算の流れについて説明する。
【0041】
図4は、先行材の圧延中における後行材に対する設定計算の流れを示すフローチャートである。先行材の圧延中には、既に先行材に対するロールギャップ及びロール周速の設定値は決定されている。このため、後行材に対するロールギャップ及びロール周速の設定値を算出し、走間板厚変更を行う際の指令値としてロールギャップの変更量及びロール周速の変更量(差分指令値)を求める。以下では先行材に対するロールギャップをS1、ロール周速をV
R1と表記する。また、先行材の対象とする圧延スタンドにおける入側板厚をH1、出側板厚をh1、圧延荷重をP1、先進率をf
s1、先行材の変形抵抗をk
m1と表記する。同様に、後行材に対するロールギャップをS2、ロール周速をV
R2、入側板厚をH2、出側板厚をh2、圧延荷重をP2、先進率をf
s2、後行材の変形抵抗をk
m2と表記する。つまり、
図4に示す後行材に対する設定計算を開始する時点で、先行材に対するロールギャップS1、ロール周速V
R1、入側板厚H1、出側板厚h1、変形抵抗k
m1、圧延荷重P1、及び先進率f
s1は制御用計算機4において特定されており、制御用計算機4内の記憶装置に保持されている。
【0042】
図4に示す後行材に対する設定計算では、制御用計算機4が、上位計算機から与えられる後行材の母材寸法や製品目標寸法等の情報に従って、後行材のパススケジュール(出側板厚h2の目標値)を設定する(ステップST1)。次に、制御用計算機4は、上記数式(1)を用いて各圧延スタンドの圧延荷重P2を求め、上記数式(3)を用いて各圧延スタンドの先進率f
s2を求める。そして、制御用計算機4は、数式(2)を用いて後行材に対するロールギャップS2の設定値を計算し、数式(4)を用いて後行材に対するロール周速V
R2の設定値を計算する(ステップST2)。これにより、後行材に対するロールギャップS2及びロール周速V
R2の設定値が特定される。ここで、先行材に対するロールギャップS1及びロール周速V
R1の設定計算は既に完了している。このため、制御用計算機4内の記憶装置から先行材のロールギャップS1及びロール周速V
R1の設定値を取得することにより、ロールギャップ及びロール周速の差分指令値が特定される(ステップST3)。ロールギャップの差分指令値となるロールギャップ変更量ΔSは以下に示す数式(5)により算出する。
【0043】
【0044】
同様に、ロール周速の差分指令値となるロール周速の変更量ΔVRは以下に示す数式(6)により算出する。
【0045】
【0046】
以上のようにして算出されたロールギャップとロール周速度の差分指令値は、接合点のトラッキング情報に基づいて、圧延制御コントローラ3に送られる。ここまでの計算は、走間板厚変更工程の開始前に実行される。なお、制御用計算機4内の記憶装置に保持されている先行材のロールギャップS1とロール周速VR1の設定値には、先行材の設定計算において算出された値を用いる場合がある。また、先行材の圧延中にロールギャップとロール周速の実績値を圧延制御コントローラ3が収集し(ロックオンと呼ばれる)、その値をロールギャップS1及びロール周速VR1として改めて記憶装置に保持させる場合もある。これにより、先行材の最新の圧延状態を反映した設定値を取得することができる。
【0047】
〔走間板厚変更の開始点及び終了点〕
次に、
図5(a)~(c)を参照して、走間板厚変更の開始点及び終了点について説明する。
【0048】
走間板厚変更の開始点は、先行材と後行材とが接合部(接合点)Wの近傍に設定され、ロールギャップ及びロール周速の変更開始点となる。ロールギャップ及びロール周速の変更には一定の時間を要し、各圧延スタンドにおけるロールギャップ及びロール周速の変更開始から変更終了までの時間を走間板厚変更時間と呼ぶ。走間板厚変更時間は、全ての圧延スタンドで同一になるように設定することが多い。走間板厚変更時間に対応して被圧延材の長手方向におけるロールギャップ及びロール周速の変更が完了する位置が走間板厚変更の終了点であり、走間板厚変更の開始点から終了点までの区間を走間板厚変更区間と呼ぶことがある。
【0049】
図5(a)は、開始点FSを先行材Aの尾端側、且つ、接合点Wよりも上流側に設定し、終了点FEが後行材Bの先端部の位置となる例を示す。この場合、ロールギャップ及びロール周速の変更開始後であって変更終了前に、接合点Wが圧延スタンドを通過する。このため、
図3に示す弾性特性曲線と塑性特性曲線の交点が点aから点dへ遷移する途中で、先行材Aの塑性特性曲線から後行材Bの塑性特性曲線への遷移が生じる。
図5(b)は、開始点FSと終了点FEが共に先行材Aの尾端側に設定された例を示す。この場合、ロールギャップ及びロール周速の変更終了後に接合点Wが圧延スタンドを通過する。このため、
図3に示す弾性特性曲線と塑性特性曲線の交点は、点aから点dへ遷移した後に点dから点cへ遷移する。
図5(c)は、開始点FSと終了点FEとが共に後行材Bの先端側に設定された例を示す。この場合、ロールギャップ及びロール周速の変更開始前に接合点Wが圧延スタンドを通過する。このため、
図3に示す弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点は、点aから点bへ遷移した後に点bから点cへ遷移する。
【0050】
以上のように、走間板厚変更では、開始点FS及び終了点FEと接合点Wとの位置関係によって、弾性特性曲線と塑性特性曲線の交点が遷移する挙動が変化し、これに対応したマスフローの変動によって圧延スタンドの入側及び出側の張力が複雑に変化する。
【0051】
走間板厚変更を実行するためのロールギャップ及びロール周速の変更に要する走間板厚変更時間は、例えば以下のようにして決定される。各圧延スタンドのロールギャップの変更速度は、圧下装置が油圧圧下又は電動圧下であるかによって異なるが、例えば油圧圧下で0.5~2mm/s、電動圧下で0.2~0.8mm/sのように設定される。このとき、各圧延スタンドのロールギャップ変更に要する時間は、ロールギャップ変更量ΔSの絶対値をロールギャップの変更速度で除した値(|ΔS|÷ロールギャップの変更速度)により算出できる。但し、走間板厚変更時間を全ての圧延スタンドで統一することにより張力変動を低減できるため、圧延スタンド毎に求められる走間板厚変更時間のうち最も長い走間板厚変更時間を採用する。実際のタンデム圧延機における走間板厚変更時間は概ね0.2~2.5秒程度となるのが通常である。なお、走間板厚変更時間は先行材及び後行材の圧延条件毎に決定してもよいが、固定値として制御用計算機4に予め設定しておいてもよい。
【0052】
走間板厚変更時間が決定されると、被圧延材の圧延機入側における搬送速度から走間板厚変更時間を被圧延材の長さに換算し、それを走間板厚変更区間として特定することができる。なお、接合部の長さ(搬送方向の長さ)は、タンデム圧延機の入側において概ね1~100mm程度である。例えば接合部の長さが10mmの場合に、タンデム圧延機入側の搬送速度が60m/minと仮定すると、接合部が第1圧延スタンド2Aを通過する時間は0.01秒と極めて短い。すなわち、走間板厚変更区間に比べて接合部の長さが短いことから、接合部の長さを実用上は無視して接合「点」と呼ぶ。
【0053】
〔走間板厚変更の可否判定方法〕
本発明の一実施形態である走間板厚変更の可否判定方法は、タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定変更を開始する前に、先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を取得する設定値取得ステップと、先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま接合部が圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する張力変動量計算ステップと、張力変動量計算ステップで計算した張力変動量に基づいて走間板厚変更の可否を判定する判定ステップと、を含む。
【0054】
設定値取得ステップは、走間板厚変更を行う圧延スタンドに走間板厚変更の開始点が到達する前に先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を取得する。ロールギャップとロール周速の設定値としては、制御用計算機4内の記憶装置に保持されている先行材のロールギャップS1及びロール周速VR1の設定値を用いることができる。また、圧延制御コントローラ3が、先行材の圧延中にロールギャップ及びロール周速の実績値を収集し、それらの値をロールギャップS1及びロール周速VR1として改めて記憶装置に保持した値を取得するようにしてもよい。
【0055】
張力変動量計算ステップは、先行材に対するロールギャップS1とロール周速VR1の設定値を維持したまま接合点Wが圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する。上記の通り、走間板厚変更では、接合点Wが圧延スタンドを通過する際に、ロールギャップ及びロール周速を設定計算で設定した差分量の指令に従って変更する。しかしながら、張力変動量計算ステップでは、先行材に対するロールギャップS1とロール周速VR1の設定値を維持したまま接合点Wが圧延スタンドを通過するという仮想的な状態について張力変動量を計算する。このようにして計算された張力変動量を、以下では張力変動指標と呼ぶ。張力変動指標は、実際の走間板厚変更を正確に模擬して算出されるものではないが、先行材と後行材とで圧延スタンドの入側における板厚や変形抵抗に差がある場合に、実際の走間板厚変更において発生する張力変動と高い相関関係を有する指標となる。このため、張力変動指標に基づいて走間板厚変更の可否判断を的確に行うことができる。張力変動指標の計算方法については後述する。
【0056】
判定ステップは、張力変動量計算ステップで計算した張力変動指標に基づいて走間板厚変更の可否を判定する。張力変動指標は、走間板厚変更においてロールギャップ及びロール周速を設定された差分量に従って変更する場合の張力変動量と高い相関関係を有する。このため、接合点が圧延スタンドを通過する前に、張力変動量が過大になるか否かを判定でき、張力変動に起因する操業トラブルを未然に防止できる。判定ステップにおける走間板厚変更の可否判定は、例えば予め張力変動指標の閾値を設定しておき、張力変動量計算ステップで計算した張力変動指標が閾値以下である場合に走間板厚変更が可能と判定し、閾値を超える場合に走間板厚変更が不可と判定するとよい。
【0057】
〔張力変動指標〕
張力変動量計算ステップで計算する張力変動指標は、物理現象を微分方程式等によりモデル化した物理モデルを用いて、連続圧延理論に用いられる基礎式を適用することにより計算することができる。この場合、圧延スタンドを接合点が通過する挙動と共に、ロールギャップ及びロール周速が設定された差分量に従って変化すると、微小時間毎に微分方程式を解く数値シミュレーションが必要になる。しかしながら、ロールギャップ及びびロール周速が一定の条件である場合には、張力変動量を容易に求めることができる。
【0058】
図6は、タンデム圧延機を構成する圧延スタンドのうち、隣接する3基の圧延スタンドを模式的に表している。
図6は、接合点Wが、N-1スタンドとNスタンドの間に到達した後、Nスタンドを通過する際の状態を示している。つまり、NスタンドとN+1スタンドでは先行材に対して設定されるロールギャップS1及びロール周速V
R1で圧延が行われ、N-1スタンドでは後行材に対して設定されるロールギャップS2及びロール周速V
R2で圧延が行われている状態となっている。
【0059】
本実施形態では、張力変動指標として、例えば先行材に対するロールギャップS1とロール周速VR1の設定値を維持したまま接合点WがNスタンドを通過する際に、Nスタンドの入側又は出側で発生する張力変動量を計算する。この場合、接合点WがNスタンドを通過する際に発生する張力変動量は、Nスタンドの出側よりも入側の方が大きくなるため、張力変動指標はNスタンドの入側(N-1スタンドとNスタンドの間)で発生する張力変動量としてよい。
【0060】
Nスタンド入側の張力q(MPa)を求める物理モデルは、一般的に以下の数式(7)により表すことができる。但し、数式(7)において、Lは圧延スタンド間の距離(m)、Eは被圧延材のヤング率(MPa)、vin,N(m/s)はNスタンド入側の被圧延材の材料速度、vout,N-1(m/s)はN-1スタンド出側における被圧延材の材料速度、tは時間(s)を表す。
【0061】
【0062】
つまり、Nスタンド入側の張力qは、上流側の圧延スタンドから搬出される被圧延材の速度と下流側の圧延スタンドに流入する被圧延材の速度との差を時間積分して、これを圧延スタンド間の弾性ひずみに変換することにより計算できる。この場合、N-1スタンドでは後行材に対して設定されるロールギャップS2及びロール周速VR2で圧延が行われていると、N-1スタンド出側における被圧延材の材料速度vout,N-1は概ね一定と考えられるので、Nスタンド入側の張力qの変化dqは以下に示す数式(8)のように表すことができる。
【0063】
【0064】
ここで、数式(8)におけるNスタンド入側における被圧延材の材料速度の変化量dvin,Nは、Nスタンドにおける圧延状態の変化に応じて変化する。つまり、接合点WがNスタンドを通過する際に被圧延材の板厚や変形抵抗が変化すると共に、Nスタンドのロールギャップやロール周速を変更することに伴って随時変化する。そのため、圧延スタンド間の張力変動量を正確に求めようとすると、接合点が圧延スタンドを通過する挙動と共に、ロールギャップ及びロール周速の設定変更に対応して、微小時間毎に微分方程式を解く数値シミュレーションが必要になる。
【0065】
これに対して、本実施形態で用いる張力変動指標は、先行材に対するロールギャップS1及びロール周速VR1の設定値を維持したまま接合点WがNスタンドを通過する際のNスタンドの入側で発生する張力qの変動量を計算する。このため、ロールギャップ及びロール周速の設定変更に伴うNスタンド入側における被圧延材の材料速度の変化量dvin,Nを随時計算する必要がない。また、接合点WがNスタンドを通過する時間は、前記の通り0.01秒程度と極めて短いため、数式(8)における時間ステップdtを1ステップ(時間ステップΔt)の計算に置き換えて、Nスタンド入側の張力qの変化量Δqを以下に示す数式(9)のように表すことができる。ここで、数式(9)において、Δvin,Nは、ロールギャップS1とロール周速VR1の設定値として先行材を圧延する場合のNスタンド入側の被圧延材の材料速度v1と、ロールギャップとロール周速の設定値S1、VR1として後行材を圧延する場合のNスタンド入側の被圧延材の材料速度v2の差を意味する。このようにして計算される張力qの変化量Δqが本実施形態における張力変動指標となる。
【0066】
【0067】
ロールギャップS1とロール周速V
R1の設定値のまま先行材を圧延する場合のNスタンドにおける出側板厚h1は、設定計算においてNスタンドの弾性特性曲線と先行材の塑性特性曲線との交点aから求められている(
図3)。また、設定計算においてはこれに対応する先進率f
1も算出されている。従って、ロールギャップS1とロール周速V
R1の設定値として先行材を圧延する場合のNスタンド入口の被圧延材の材料速度v
1は、以下に示す数式(10)により求めることができる。
【0068】
【0069】
一方、ロールギャップS1とロール周速V
R1の設定値を維持したまま後行材を圧延する場合のNスタンドにおける出側板厚hcは、Nスタンドの入側板厚H2、変形抵抗k
m2を用いて、数式(1)から算出される圧延荷重と、Nスタンドの弾性特性曲線を表す数式(2)との連立解として計算できる。すなわち、
図3に交点bから求めることができる。そして、これに対応する先進率f
cも数式(3)を適用して算出できる。従って、ロールギャップS1とロール周速V
R1の設定値を維持したまま後行材を圧延する場合のNスタンド入口の被圧延材の材料速度v
2は、以下に示す数式(11)により求めることができる。
【0070】
【0071】
以上から、Nスタンド入側における被圧延材の材料速度v1と材料速度v2を用いて、数式(9)のΔvin,Nを求めることができる。なお、数式(9)中のΔtは、接合点WがNスタンドを通過する時間を代表する値であり、接合点Wの長さと圧延スタンドを通過する被圧延材の材料速度を用いて算出できる。但し、数式(9)のΔtは、実用的には0.005~0.050秒の範囲で任意に設定してもよい。数式(9)に用いる時間ステップΔtが、接合点WがNスタンドを通過する実際の時間と異なっていても、張力変動量の大小を反映した指標として用いることができる。例えば、先行材と後行材の接合点Wの長さが一定の範囲で操業が行われ、走間板厚変更を実行する圧延速度が概ね一定で操業が行われる場合には、Δtを任意に設定した値としても圧延スタンドを接合点Wが通過する際の張力変動の大小を評価する指標にできる。一方、Δtは、接合点Wの長さが一定であると仮定して、Nスタンドにおける材料速度v1やロール周速VR1に反比例する関数として設定し、これを数式(9)に適用してもよい。
【0072】
以上のように、本実施形態における張力変動指標は、タンデム圧延機のNスタンドにおいて、ロールギャップS1とロール周速VR1により先行材を圧延する場合の入側材料速度v1と、ロールギャップS1とロール周速VR1を維持したまま後行材を圧延すると想定した場合の入側材料速度v2とにより求めることができる。これにより、数式(7)、(8)を用いて数値シミュレーションを行う方法のように微小時間毎に積分計算を行う張力変動量の予測方法に比べて、極めて簡易に張力変動を代表する指標を求めることができる。
【0073】
本実施形態の張力変動量計算ステップでは、以上のように、設定値取得ステップで取得する先行材に対する圧延スタンドのロールギャップS1とロール周速VR1の設定値、及びNスタンドを通過する後行材に対して設定される入側板厚H2及び変形抵抗km2を用いて、先行材に対するロールギャップS1とロール周速VR1の設定値を維持したまま接合点WがNスタンドを通過する場合の張力変動量を計算するのが好ましい。
【0074】
また、本実施形態の走間板厚変更は、タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンド(Nスタンド)において、ロールギャップ及びロール周速の変更開始点(走間板厚変更の開始点FS)が先行材に設定され、ロールギャップ及びロール周速の変更終了点(走間板厚変更の終了点FE)が後行材に設定される場合に適用されるのが好ましい。すなわち、
図5(a)に示すように走間板厚変更区間において接合点WがNスタンドを通過する場合に適用されるとよい。
図5(a)に示す走間板厚変更の実施形態では、
図3に示すように弾性特性曲線と塑性特性曲線の交点が点aから点dへ遷移する途中で、先行材の塑性特性曲線から後行材の塑性特性曲線への遷移が生じ、実際の張力変動の挙動が複雑になるが、そのような場合であっても簡易な方法で張力変動の大きさを推定できる。
【0075】
さらに、上記の実施形態による走間板厚変更の可否判定方法は、先行材の変形抵抗k
m1と後行材の変形抵抗k
m2との差が80MPa以上となる場合に適用するのが好ましい。先行材と後行材との変形抵抗の差が大きいほど、
図3に示す塑性特性曲線が先行材と後行材とで乖離するため、実際の張力変動が大きくなる。そのため、張力変動を微小時間毎に計算する数値シミュレーションによる方法では時間ステップを細かく設定する必要があり、計算時間が長くなる。また、実操業では先行材の変形抵抗と後行材の変形抵抗との差が大きな条件で走間板厚変更を行うことは少ないため、十分な数の実績データを取得することが難しく、機械学習を用いた張力変動の予測では高い精度を得られない。これに対して、本実施形態による張力変動指標は、簡易な方法で比較的高い張力変動の推定精度を確保できる。
【0076】
ここで、走間板厚変更において接合点が圧延スタンドを通過する際の張力変動の原因について説明する。走間板厚変更時に発生する張力変動の原因は大別して2つに分類できる。第1の原因は、接合点のトラッキング誤差やロールギャップやロール周速の応答遅れ等によるものである。接合点のトラッキング誤差やロールギャップやロール周速の応答遅れが生じると、理論的に想定される被圧延材の速度と実際の速度とのズレが発生する。これにより、被圧延材のマスフローが変動し、張力変動の原因となる。そのため、走間板厚変更においてロールギャップやロール周速の変更量(差分指令値)が大きいほど、張力変動が増加する。第2の原因は、接合点の前後で、先行材と後行材の圧延スタンドにおける入側板厚や変形抵抗に差があることに起因する張力変動である。接合点がNスタンドに到達した瞬間で、Nスタンドの圧延状態が急激に変化する。例えば、軟質な先行材から硬質な後行材に移行すると、Nスタンドにおける圧延荷重が急激に増加し、圧延機の弾性変形により実際のロールギャップが開くことで、Nスタンドの出側板厚が厚くなる。すると、Nスタンドの入側速度vin,Nが増加して、N―1スタンドとNスタンドとの間の張力が急激に増加する。つまり、ロールギャップやロール周速の設定変更を行わなくても、接合点の通過によって張力変動が生じる。
【0077】
本実施形態の張力変動指標は、上記第2の原因に着目したものである。すなわち、上記第1の原因を考慮すると、微小時間毎に積分式を計算する数値シミュレーションが必要になるのに対して、上記第2の原因については非常に簡易な手法により張力変動を算出できる。これにより、本実施形態の張力変動指標は、後行材に対する仮想の設定計算を1回追加するだけで計算することができる。一方、本実施形態の張力変動指標は、第1の原因を考慮していない。しかしながら、第1の原因は、接合点のトラッキング誤差やロールギャップやロール周速の応答遅れ等に起因するものであり、タンデム圧延機の制御機器の性能が向上するにしたがって第2の原因に比べて相対的に小さくなる。特に、先行材と後行材との変形抵抗の差が大きい場合には、第2の原因の影響に比べて第1の原因の影響がより小さくなる。このため、このような条件の下では、走間板厚変更における張力変動を第2の原因に基づいて推定しても張力変動の大小を適切に判定できる。
【0078】
〔走間板厚変更方法〕
本実施形態の走間板厚変更方法は、上記の走間板厚変更の可否判定方法を適用した被圧延材の連続圧延方法であって、判定ステップによりタンデム圧延機の全ての圧延スタンドにおいて走間板厚変更が可能と判定された場合に走間板厚変更を実行し、判定ステップによりタンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいて走間板厚変更が不可と判定された場合には、後行材に対する圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を変更する。
【0079】
図1を参照して、本実施形態の走間板厚変更方法について説明する。本実施形態の走間板厚変更方法は、タンデム圧延機2の全ての圧延スタンド2A~2Eにおいて、先行材を圧延している状態で走間板厚変更の可否判定を実行する。例えば、先行材と後行材との接合点がタンデム圧延機2の上流側に備えられる不図示の接合点検出装置に到達した段階で、制御用計算機4が後行材の設定計算を実行し、後行材に対するロールギャップS2とロール周速V
R2の設定値を算出する。なお、接合点検出装置が接合点を検出すると、圧延制御コントローラ3が、検出した信号に基づいてタンデム圧延機2において接合点のトラッキングを開始する。一方、制御用計算機4は、後行材の設定計算を実行すると共に、上記の走間板厚変更の可否判定方法を実行するための計算を行う。具体的には、制御用計算機4は、
図7に示す設定値取得ステップST11、張力変動量計算ステップST12、及び判定ステップST13を全ての圧延スタンド2A~2Eに対して実行する。そして、制御用計算機4は、全ての圧延スタンド2A~2Eにおいて走間板厚変更が可能と判定された場合には、設定計算により特定された差分指令量ΔS、ΔV
Rに従って、走間板厚変更を実行する。一方、判定ステップによりタンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいて走間板厚変更が不可と判定された場合には、制御用計算機4は、接合点がタンデム圧延機の第1圧延スタンド2Aに到達する前に、後行材に対する圧延条件を予め設定された条件(ロールギャップS2、ロール周速V
R2)から変更し、変更された条件に従って接合点を通過させる。
【0080】
判定ステップによりタンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいて走間板厚変更が不可と判定された場合に変更する条件とは、接合点が圧延スタンドを通過する際の張力変動が小さくなる条件である。具体的には、タンデム圧延機の全ての圧延スタンドのロールギャップを開放して接合点の圧延を行うことなく接合点を通過させるギャップ開通板を実行してよい。また、後行材に対するパススケジュールを予め設定されたものから変更して、接合点を通過させるようにしてもよい。
【0081】
〔走間板厚変更の可否判定装置及び可否判定プログラム〕
次に、上記走間板厚変更の可否判定を行う走間板厚変更の可否判定装置及び可否判定プログラムについて説明する。
【0082】
本実施形態の走間板厚変更の可否判定装置は、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータにより構成され、制御用計算機4と通信可能に接続されている。走行板厚変更の可否判定装置は、制御用計算機4から処理に必要な情報を取得し、走間板厚変更の可否判定結果を制御用計算機4に出力する。走行板厚変更の可否判定装置は、設定値取得手段と、張力変動量計算手段と、判定手段と、を備えている。設定値取得手段は、タンデム圧延機の少なくとも一つの圧延スタンドにおいてロールギャップ及びロール周速の設定値の変更を開始する前に、先行材に対する圧延スタンドのロールギャップとロール周速の設定値を制御用計算機4から取得する。張力変動量計算手段は、先行材に対するロールギャップとロール周速の設定値を維持したまま接合部が圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を計算する。判定手段は、張力変動量計算手段によって計算された張力変動量に基づいて走間板厚変更の可否を判定し、制御用計算機4に可否判定結果を出力する。
【0083】
上記走間板厚変更の可否判定方法は、コンピュータがプログラムを実行することによっても実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラムのコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリーカード、ROM等を用いることができる。
【0084】
本実施形態の走間板厚変更の可否判定プログラムは、上記走間板厚変更の可否判定方法のステップをコンピュータで実行するように構成してよい。この場合、ワークステーションやパソコン等の汎用コンピュータで走間板厚変更の可否判定プログラムを実行することにより、汎用コンピュータが走間板厚変更の可否判定装置として機能する。また、走間板厚変更の可否判定プログラムを制御用計算機4に搭載することにより、制御用計算機4が上記走間板厚変更の可否判定方法の処理を実行できる。
【0085】
〔他の走間板厚変更の実施形態〕
上記の走間板厚変更の可否判定方法及び走間板厚変更方法は、接合点を介して接合された被圧延材に対して2段階の走間板厚変更を行う2段走間板厚変更に対しても適用できる。2段走間板厚変更は、先行材と後行材との接合点を有する被圧延材を圧延するタンデム圧延機において、先行材の圧延から中間ステップを経て後行材の圧延に移行する走間板厚変更をいう。
図8を用いて2段走間板厚変更について説明する。
【0086】
図8に示すように、2段走間板厚変更では、まず、先行材については目標の出側板厚h1が得られるようにロールギャップSが第1ロールギャップS1に設定され、後行材については目標の出側板厚h2が得られるように第2ロールギャップS2が設定される。2段走間板厚変更では、さらに、中間ステップにおける中間ロールギャップScが設定される。中間ステップとは、先行材から後行材の圧延に移行する過程において、第1ロールギャップS1及び第2ロールギャップS2とは異なるロールギャップで圧延を行う工程(ロールギャップ保持工程)をいう。また、先行材の圧延から中間ステップに移行する過程を第1走間板厚変更工程と呼び、中間ステップから後行材の圧延に移行する過程を第2走間板厚変更工程と呼ぶこととする。2段走間板厚変更を実行する場合には、接合点が圧延スタンドに到達する前に制御用計算機4において中間ステップにおける出側板厚hcに対応した中間ロールギャップScと中間ロール周速Vcが設定計算により算出される。
【0087】
図8に示す例では、先行材の圧延中に第1走間板厚変更工程を実行すると、ロールギャップの変更(S1→Sc)により、弾性特性曲線と塑性特性曲線との交点が交点aから交点bに遷移する。これにより、圧延スタンド出側の板厚がh1→hc1に変化する。また、この状態で接合点が圧延スタンドを通過すると、接合点の前後で塑性特性曲線が変化するため、弾性特性曲線と塑性特性曲線の交点が交点bから交点cに遷移する。これにより、圧延スタンド出側の板厚がhc1→hc2に変化する。その後、第2走間板厚変更工程を実行すると、ロールギャップ変更(Sc→S2)により、弾性特性曲線と塑性特性曲線の交点が交点cから交点dに遷移する。これにより、圧延スタンド出側の板厚がhc2→h2に変化し、走間板厚変更が完了する。
【0088】
2段走間板厚変更では、圧延スタンド出側の過渡的な板厚変化は、h1→hc1→hc2→h2であり、中間ステップを設定しない1段走間板厚変更における過渡的な板厚変化h1→hc’→h2に比べて、移行過程における板厚変化が小さく、マスフロー変動が抑制される。このため、張力変動が緩和される。本実施形態では、このような2段走間板厚変更を前提として走間板厚変更の可否判定を行う。以下、
図9(a)、(b)を参照して、2段走間板厚変更の開始点及び終了点について説明する。
【0089】
図9(a)は、第1走間板厚変更工程の開始点FS1が先行材Aに設定され、第1走間板厚変更工程の終了点FE1が後行材Bに設定された例である。第2走間板厚変更工程の開始点FS2及び終了点FE2はいずれも後行材Bに設定される。この場合、接合点Wを介してロールギャップ及びロール周速の設定変更を行う第1走間板厚変更工程における張力変動が大きくなることから、本実施形態の走間板厚変更の可否判定を第1走間板厚変更工程に適用するのが好ましい。第1走間板厚変更工程に対して走間板厚変更の可否判定を行う場合には、上記の1段階の走間板厚変更の可否判定に用いる後行材Bのパラメータ(S2、V
R2、h2)を中間ステップのパラメータ(Sc、V
Rc、hc2)に置き換えて張力変動指標を算出すればよい。なお、この場合は中間ステップにおける被圧延材の変形抵抗は後行材Bの変形抵抗k
m2を用いる。具体的には、第1走間板厚変更工程を開始する前に、設定値取得ステップにおいて先行材Aに対するロールギャップS1とロール周速V
R1の設定値を取得する。次に、張力変動量計算ステップにおいて、先行材Aに対するロールギャップS1とロール周速V
R1の設定値を維持したまま接合点Wが圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を中間ステップのパラメータSc、V
Rc、hc2を用いて計算する。このようにして計算した張力変動量に基づいて走間板厚変更の可否を判定する判定ステップを実行する。
【0090】
一方、
図9(b)に示すように、第1走間板厚変更工程の開始点FS1、第1走間板厚変更の終了点FE1、及び第2走間板厚変更工程の開始点FS2が先行材Aに設定され、第2走間板厚変更工程の終了点FE2が後行材Bに設定される2段走間板厚変更に対しても本実施形態の走間板厚変更の可否判定を適用できる。この場合、接合点Wを介してロールギャップ及びロール周速の設定変更を行う第2走間板厚変更工程における張力変動が大きくなることから、本実施形態の走間板厚変更の可否判定を第2走間板厚変更工程に適用するのが好ましい。第2走間板厚変更工程に対して走間板厚変更の可否判定を行う場合には、上記の1段階の走間板厚変更の可否判定に用いる先行材のパラメータ(S1、V
R1、h1)を中間ステップのパラメータ(Sc、V
Rc、hc2)に置き換えて張力変動指標を算出すればよい。なお、この場合は中間ステップにおける被圧延材の変形抵抗は先行材Aの変形抵抗k
m1を用いる。具体的には、第2走間板厚変更工程を開始する前に、設定値取得ステップにおいて中間ステップに対するロールギャップScとロール周速V
Rcの設定値を取得する。次に、張力変動量計算ステップにおいて、中間ステップに対するロールギャップScとロール周速V
Rcの設定値を維持したまま接合点Wが圧延スタンドを通過する場合の張力変動量を後行材BのパラメータS2、V
R2、h2を用いて計算する。このようにして計算した張力変動量に基づいて走間板厚変更の可否を判定する判定ステップを実行する。以上により、2段走間板厚変更における張力変動の大小を適切に判定できる。
【実施例0091】
本発明の実施例について説明する。本実施例では、
図1に示した5つの圧延スタンドを有するタンデム圧延機であるタンデム圧延機2を用いた1段階の走間板厚変更に対して走間板厚変更の可否判定を行った。タンデム圧延機2の仕様は以下の通りである。なお、圧延荷重検出器24、圧下位置検出器25、張力計26、及び板厚計27は、
図1に示す位置に配置した。
【0092】
・最高ライン速度:2000mpm(m/min)
・ワークロール径:500~600mmφ
・バックアップロール径:1300~1400mmφ
・スタンド間距離:4600mm
【0093】
まず、本発明の張力変動指標と走間板厚変更による張力変動の実績値とを比較した。張力変動指標は、接合点Wがタンデム圧延機2の第2圧延スタンド2Bを通過する際に、第1圧延スタンド2Aと第2圧延スタンド2Bとの間で発生する張力変動を評価対象とした。張力変動を評価した被圧延材は、母板厚2.4~7.0mmとして、最終圧延スタンド出側の板厚が0.5~3.6mmである。被圧延材の板幅は760~1900mmであり、低炭素鋼の鋼種から冷延鋼板製品の引張強度が1180MPa級の高強度鋼板まで含む。なお、先行材と後行材の変形抵抗差は-200~+200MPaの範囲であった。張力変動指標の計算にあたっては、数式(9)に用いる時間ステップΔtを接合点Wの長さに基づいて0.023sとした。また、設定値取得ステップが取得する先行材に対する第2圧延スタンド2Bのロールギャップとロール周速は、制御用計算機4が保持する設定値を用いた。一方、走間板厚変更による張力変動の実績値としては、
図10に示す被圧延材の単位断面積当たりの張力(ユニット張力)の変動の中で、第2圧延スタンド2Bの走間板厚変更工程で測定される張力変動量(張力変動の振幅)を取得した。なお、ユニット張力は、第2圧延スタンド2Bの入側における板厚と板幅を用いて全張力から算出した。
【0094】
図11は、上記の方法により計算した張力変動指標を、走間板厚変更により発生した張力変動量の実績値と比較した結果を示す。
図11に示すように、張力変動量計算ステップにより計算した張力変動指標と張力変動量の実績値との間には高い相関関係がある。この場合、張力変動指標と張力変動の実績値の相関係数は0.67、RMSE(2乗平均平方根誤差)は1.7MPaであった。なお、
図11に示すデータの中から先行材と後行材との変形抵抗差が絶対値で80MPa以上となる先行材と後行材の組合せのみを抽出して、改めて相関係数を算出すると0.92となった。また、先行材と後行材との変形抵抗差が絶対値で80MPa以上となる先行材と後行材の組合せでは、張力変動が大きくなるものの、RMSEは2.1MPaに抑えられた。以上から、上記の方法により計算した張力変動指標は、特に先行材と後行材との間に変形抵抗の差が大きい場合に、高い相関関係が得られることが確認された。
【0095】
次に、上記タンデム圧延機2を用いて走間板厚変更の可否判定を行った結果について説明する。本実施例では、被圧延材の寸法を、母板厚2.4~3.6mm、最終圧延スタンド出側の板厚0.9~2.0mm、板幅700~1400mmとした。ここで、先行材と後行材とが、引張強度590MPa級と1180MPa級の高強度鋼板の組合せとなる場合に、走間板厚変更の可否判定を行った。これらの先行材と後行材の組合せでは、従来は張力変動が過大となって被圧延材の破断が発生するリスクが高いため、全ての圧延スタンドのロールギャップを開放して接合部の圧延を行うことなく通過させるギャップ開通板を実行していた。
【0096】
実施例では、全ての圧延スタンドで走間板厚変更の可否判定を実行し、判定ステップにより全ての圧延スタンドにおいて走間板厚変更が可能と判定された場合に走間板厚変更を実行し、少なくとも一つの圧延スタンドにおいて走間板厚変更が不可と判定された場合にはギャップ開通板を行った。なお、本実施例の判定ステップでは、張力変動量計算ステップで計算した張力変動指標が、先行材に対して設定されるスタンド間張力の設定値に対して30%以下である場合に走間板厚変更が可能と判定し、30%を超える場合に走間板厚変更が不可と判定した。その結果、先行材と後行材の上記の組合せに対して、従来はギャップ開通板が1月当たり20回されていたが、実施例によりギャップ開通板が15回まで低減された。これにより、タンデム圧延機の稼働率が向上した。
【0097】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明が限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。