(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024814
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】過負荷保護装置
(51)【国際特許分類】
H02H 6/00 20060101AFI20250214BHJP
H02H 5/04 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H02H6/00 150
H02H5/04 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129097
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 玄宙
(57)【要約】
【課題】負荷保護の確度を高めた過負荷保護装置の提供を目的とする。
【解決手段】電源と負荷との間に接続されるサーマルリレーと、前記サーマルリレーに流れる電流を計測する電流計測部と、前記電流計測部が計測した電流値に基づき、前記サーマルリレーの内部に蓄積される蓄積熱量の推定値を演算する演算処理部と、を備える、漏電遮断器。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源と負荷との間に接続されるサーマルリレーと、
前記サーマルリレーに流れる電流を計測する電流計測部と、
前記電流計測部が計測した電流値に基づき、前記サーマルリレーの内部に蓄積される蓄積熱量の推定値を演算する演算処理部と、
を備える、過負荷保護装置。
【請求項2】
前記演算処理部は、
前記電流計測部が計測した前記電流値が、前記サーマルリレーの整定電流に対して第1相対値以上の場合、前記蓄積熱量の推定値に、第1熱量を加算して、新たな前記蓄積熱量の推定値を演算する一方、
前記電流計測部が計測した前記電流値が、前記サーマルリレーの整定電流に対して第1相対値未満の場合、前記蓄積熱量の推定値に、前記第1熱量より小さな第2熱量を加算して、新たな前記蓄積熱量の推定値を演算する、
請求項1に記載の過負荷保護装置。
【請求項3】
前記演算処理部は、前記電流計測部が計測した前記電流値が、前記サーマルリレーの整定電流に対して第1相対値未満であり、かつ、前記蓄積熱量の推定値に前記第2熱量を加算した値が、第1閾値以上である場合、新たな前記蓄積熱量の推定値を前記第1閾値であると演算する、
請求項2に記載の過負荷保護装置。
【請求項4】
前記演算処理部は、前記電流計測部が計測した前記電流値が、前記サーマルリレーの前記整定電流に対して、第1相対値より小さな第2相対値未満の場合、前記蓄積熱量の推定値に、第3熱量を減算して、新たな前記蓄積熱量の推定値を演算する、
請求項2又は請求項3に記載の過負荷保護装置。
【請求項5】
前記演算処理部は、前記過負荷保護装置が遮断動作を行う前であって、前記蓄積熱量の前記推定値が、第2閾値以上である場合、第1警報信号を出力する、
請求項1に記載の過負荷保護装置。
【請求項6】
前記演算処理部から出力された前記第1警報信号に応じて動作する報知部をさらに備える、
請求項5に記載の過負荷保護装置。
【請求項7】
前記演算処理部は、前記蓄積熱量の前記推定値が、前記第2閾値より大きい第3閾値以上である場合、第2警報信号を出力する、
請求項5又は請求項6に記載の過負荷保護装置。
【請求項8】
前記演算処理部が演算した、前記蓄積熱量の推定値の推移を記憶する記憶部をさらに備える、
請求項2又は請求項3に記載の過負荷保護装置。
【請求項9】
前記電流計測部に通信可能に接続されるエッジコントローラをさらに備え、
前記演算処理部及び前記記憶部のそれぞれは、前記エッジコントローラ内に配置される、
請求項8に記載の過負荷保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過負荷保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電源と負荷との間に接続されるサーマルリレーを備え、整定電流を超える電流が負荷に継続的に流れたことに応じて、負荷への電力供給を遮断する過負荷保護装置が知られている。特許文献1には、モータのコイルに流れる電流値から異常電流を検出した継電器(サーマルリレー)がモータを停止させ、モータの損傷を防止するモータ制御装置としての過負荷保護装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
整定電流を超える電流が負荷に継続的に流れていなくても、負荷が過負荷状態に至る場合がある。そのため、負荷保護の確度を高める過負荷保護装置が要望されている。
【0005】
本開示は、負荷保護の確度を高めた過負荷保護装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1態様では、電源と負荷との間に接続されるサーマルリレーと、前記サーマルリレーに流れる電流を計測する電流計測部と、前記電流計測部が計測した電流値に基づき、前記サーマルリレーの内部に蓄積される蓄積熱量の推定値を演算する演算処理部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、負荷保護の確度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る過負荷保護装置の全体構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る過負荷保護装置の電流計測部の構成例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る過負荷保護装置のエッジコントローラの構成例を示すブロック図である。
【
図4】実施形態に係る過負荷保護装置のエッジコントローラの演算処理部において演算される蓄積熱量の推定値の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態に係る過負荷保護装置について説明する。理解の容易のため、図面における各部の縮尺は、実際とは異なる場合がある。平行、直角、直交、水平、垂直、上下、左右などの方向には、実施形態の効果を損なわない程度のずれが許容される。角部の形状は、直角に限られない。例えば、角部の形状は、丸みを帯びてもよい。平行、直角、直交、水平、垂直には、略平行、略直角、略直交、略水平、略垂直が含まれてもよい。
【0010】
本明細書において、「接続」とは、物理的な接続に限られず、電気的な接続の意味を含んでよい。例えば、物体Aが物体Bに接続されるとは、物体Aが物体Bに導電的に接続される場合に限られず、物体Aが物体Cを介して物体Bに導電的に接続される場合を含んでよい。
【0011】
本実施形態に係る過負荷保護装置1は、整定電流を超える電流が、電源2から負荷3に継続的に流れるような場合に、負荷3への電力供給を遮断する。ここで、整定電流は、例えば、負荷3の定格電流を基準に定められてよい。また、整定電流は、それ以外の方法によって定められてよい。
【0012】
電源2として、商用の交流電力を送電する電力系統が挙げられる。また、電源2は、U相、V相、及びW相の3相の交流電力を送電するものであってよいし、単相の交流電力を送電するものであってもよい。さらに、電源2は、太陽電池や燃料電池等、直流電力を送電するものであってもよい。本実施形態の電源2は、3相の交流電力を送電する電力系統である。
【0013】
本実施形態の負荷3は、モータ等の電動機である。電動機の例として、加工品等の被搬送物を搬送するコンベア等の生産設備を駆動するための電動機が挙げられる。ただし、負荷3の種類は、これに限定されない。
【0014】
<過負荷保護装置1の全体構成>
図1を参照して、実施形態に係る過負荷保護装置1の全体構成の一例を詳細に説明する。
図1は、実施形態に係る過負荷保護装置1の全体構成の一例を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、過負荷保護装置1は、サーマルリレー10と、電流計測部20と、エッジコントローラ30と、報知部40と、を備える。本実施形態の過負荷保護装置1は、電源2から負荷3への電力供給を遮断する電磁接触器50をさらに備える。サーマルリレー10は、電磁接触器50に接続される。サーマルリレー10は、電磁接触器50とともに電磁開閉器60を構成する。
【0016】
<サーマルリレー>
サーマルリレー10の構成を説明する。サーマルリレー10は、予め定められた期間、負荷3の過負荷状態が継続していることを検出する電子式のサーマルリレーである。
【0017】
ここで、負荷3の過負荷状態とは、コンベアが、許容重量の最大値を超える重量の被搬送物を搬送している等の理由で、整定電流より大きな負荷電流が、負荷3に流れた状態をいう。過負荷状態の例として、閾値Th10以上の負荷電流が、負荷3に流れた状態が挙げられる。閾値Th10の例として、整定電流の110%、115%、120%等の値が挙げられる。ただし、閾値Th10は、適宜設定可能である。また、閾値Th10は、例えば、サーマルリレー10に設けられる動作電流調整部の操作によって調整されてもよい。
【0018】
図1に示すように、サーマルリレー10は、電源2と負荷3との間に接続される。また、サーマルリレー10は、電磁接触器50より負荷3側に配置される。サーマルリレー10は、給電線11a,11b,11cと、電源側端子12a,12b,12cと、負荷側端子13a,13b,13cと、変流器14a,14b,14cと、計測回路15と、制御回路16と、接点回路17と、を備える。
【0019】
計測回路15、制御回路16、及び接点回路17のそれぞれは、例えば、サーマルリレー10内に配置された回路基板に実装される。計測回路15、制御回路16、及び接点回路17のそれぞれは、回路基板内に設けられた配線を介して、相互に接続される。また、サーマルリレー10は、例えば、計測回路15と制御回路16との間に設けられるA/D変換回路等の他の回路部材を備えていてもよい。
【0020】
給電線11a,11b,11cのそれぞれは、サーマルリレー10において、電源2から送電された電流を負荷3に流す電路に対応する。
【0021】
電源側端子12aは、電流計測部20を通じて電源2に延びる配線20aに接続される。負荷側端子13aは、負荷3に延びる配線3aに接続される。電源2から送電されるU相の相電流は、配線20a、給電線11a、配線3aを通じて、負荷3に流れる。
【0022】
電源側端子12bは、電流計測部20を通じて電源2に延びる配線20bに接続される。負荷側端子13bは、負荷3に延びる配線3bに接続される。電源2から送電されるV相の相電流は、配線20b、給電線11b、配線3bを通じて、負荷3に流れる。
【0023】
電源側端子12cは、電流計測部20を通じて電源2に延びる配線20cに接続される。負荷側端子13cは、負荷3に延びる配線3cに接続される。電源2から送電されるW相の相電流は、配線20c、給電線11c、配線3cを通じて、負荷3に流れる。
【0024】
以下、電源2から、配線20a、給電線11a、及び配線3aを通じて、負荷3に流れるU相の相電流を「U相の負荷電流」という。電源2から、配線20b、給電線11b、及び配線3bを通じて、負荷3に流れるV相の相電流を「V相の負荷電流」という。電源2から、配線20c、給電線11c、及び配線3cを通じて、負荷3に流れるW相の相電流を「W相の負荷電流」という。また、U相の負荷電流、V相の負荷電流、及びW相の負荷電流を総称して、「負荷電流」という。なお、配線20a、給電線11a、及び配線3aは、一連の電路であってもよい。配線20b、給電線11b、及び配線3bは、一連の電路であってもよい。配線20c、給電線11c、及び配線3cは、一連の電路であってもよい。
【0025】
変流器14aは、給電線11aに流れるU相の負荷電流を検出する。変流器14bは、給電線11bに流れるV相の負荷電流を検出する。変流器14cは、給電線11cに流れるW相の負荷電流を検出する。
【0026】
計測回路15は、変流器14a,14b,14cのそれぞれによって検出された検出信号に基づき、電源2から負荷3に流れるU相、V相、及びW相のそれぞれの負荷電流の電流値を計測する。計測回路15は、例えば、変流器14a,14b,14cのそれぞれによって検出された検出信号を積分する積分回路や、積分回路で積分された信号を増幅する増幅回路等を備える。ただし、計測回路15の構成は、これに限定されない。
【0027】
本実施形態の計測回路15は、U相、V相、及びW相のそれぞれの負荷電流の電流実効値を計測する。ただし、計測回路15が計測するU相、V相、及びW相のそれぞれの負荷電流の電流値は、各負荷電流に対応する交流電流の電流最大値や電流平均値であってもよい。
【0028】
制御回路16は、サーマルリレー10の動作を制御する。本実施形態の制御回路16は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサである。制御回路16は、サーマルリレー10に備わるROM(Read Only Memory)等の記憶媒体に記憶されたプログラムに従い、サーマルリレー10の動作を制御するための各種の処理を実行する。ただし、制御回路16は、プロセッサと同様の機能を実現可能な他の電子回路から構成されていてもよい。
【0029】
本実施形態の制御回路16は、計測回路15が計測した負荷電流の電流値を参照し、接点回路17を制御する。具体的には、制御回路16は、閾値Th20の期間継続して、負荷3が過負荷状態にあることを検出し、接点回路17の接点をONする制御信号を出力する。別途説明するように、接点回路17に制御信号が入力されると、接点回路17の接点がONされる。それに伴い、電磁接触器50は、電源2から負荷3への電力供給を遮断する。
【0030】
閾値Th20は、過負荷状態に至った後の負荷3に流れた負荷電流の電流値に対する反時限の特性曲線に応じて変化する。すなわち、閾値Th20は、過負荷状態に至った後の負荷3に流れた負荷電流の電流値が高まるに伴い、接点回路17のスイッチをONする時間が短くなるように設定される。
【0031】
接点回路17は、例えば、電磁石と、電磁石の給電に応じてONされる接点と、を備える。電磁石は、制御回路16から出力された制御信号に応じて、給電される。それに伴い、接点の可動部が、電磁石に引き付けられる。その結果、接点がONされる。
【0032】
接点回路17は、電磁接触器50に接続される。接点回路17の接点のONに応じて、接点と電磁接触器50とを含む回路が開く。それに伴い、電磁接触器50側の電磁石への給電が停止され、電磁接触器50側の接点がOFFされる。その結果、給電線11a,11b,11cのそれぞれを含む各回路が開放され、電源2から負荷3への電力供給が遮断される。この遮断動作は、過負荷保護装置1の遮断動作に対応する。
【0033】
<電流計測部20>
次に、
図2を参照して、電流計測部20の構成を説明する。
図2は、電流計測部20の構成例を示す模式図である。
【0034】
図2に示すように、電流計測部20は、配線20a,20b,20cのそれぞれに流れるU相、V相、及びW相の負荷電流の電流値を計測する。電流計測部20は、サーマルリレー10に着脱可能な構成を備える。本実施形態の電流計測部20は、使用時、サーマルリレー10と一体化されている。ただし、電流計測部20は、使用時、サーマルリレー10から構造的に分離されていてもよい。
【0035】
図1に示すように、電流計測部20は、電源2とサーマルリレー10との間に接続される。ただし、電流計測部20の位置は、電源2とサーマルリレー10との間に限定されない。例えば、電流計測部20は、サーマルリレー10と負荷3との間に接続されていてもよい。
【0036】
図2に示すように、電流計測部20は、変流器21a,21b,21cと、計測回路22と、通信回路23と、を備える。また、電流計測部20は、例えば、計測回路22から出力される信号をデジタル信号に変換するA/D変換回路等の他の回路部材をさらに備えていてもよい。なお、電流計測部20は、変流器21a,21b,21cに代えて、他の電流センサを備えていてもよい。他の電流センサの例として、シャント抵抗(チップ抵抗)やロゴスキーセンサが挙げられる。
【0037】
変流器21aは、配線20aに接続される。変流器21aは、配線20aに流れるU相の負荷電流を検出する。変流器21aは、U相の負荷電流の検出信号を計測回路22に出力する。変流器21bは、配線20bに接続される。変流器21bは、配線20bに流れるV相の負荷電流を計測する。変流器21bは、V相の負荷電流の検出信号を計測回路22に出力する。変流器21cは、配線20cに接続される。変流器21cは、配線20cに流れるW相の負荷電流を計測する。変流器21cは、W相の負荷電流の検出信号を計測回路22に出力する。
【0038】
計測回路22は、例えば、変流器21a,21b,21cのそれぞれから出力された検出信号を積分する積分回路と、積分回路で積分された検出信号を増幅する増幅回路とを備える。ただし、計測回路22の構成は、これに限定されない。
【0039】
具体的には、計測回路22は、変流器21aから出力された検出信号に基づき、配線20aに流れたU相の負荷電流の電流値を計測する。また、計測回路22は、変流器21bから出力された検出信号に基づき、配線20bに流れたV相の負荷電流の電流値を計測する。また、計測回路22は、変流器21cから出力された検出信号に基づき、配線20cに流れたW相の負荷電流の電流値を計測する。計測回路22は、負荷電流の電流値を含む信号を、通信回路23に出力する。
【0040】
通信回路23は、エッジコントローラ30と通信可能に接続される。通信回路23は、負荷電流の電流値を含む信号を、エッジコントローラ30に出力する。
【0041】
本実施形態の計測回路22が計測する電流値は、U相、V相、及びW相のそれぞれの負荷電流の電流実効値である。ただし、計測回路22は、交流電流に対応する各負荷電流の電流最大値、電流平均値を計測するものであってもよい。
【0042】
<エッジコントローラ30>
次に、
図3及び
図4を参照して、エッジコントローラ30の構成を説明する。
図3は、エッジコントローラ30の構成例を示すブロック図である。
図4は、エッジコントローラ30の演算処理部31において演算される蓄積熱量の推定値の推移を示すグラフである。
【0043】
図3に示すように、エッジコントローラ30は、電流計測部20に接続される。エッジコントローラ30は、電流計測部20から出力された負荷電流の電流値を示す信号を取得する。また、エッジコントローラ30は、報知部40に接続される。エッジコントローラ30は、過負荷保護装置1が遮断動作を行う前に発報される警報情報等の各種情報を報知部40に出力する。エッジコントローラ30は、クラウドサーバ等の情報処理装置に、通信ネットワークを介して接続されていてもよい。
【0044】
図3に示すように、エッジコントローラ30は、演算処理部31と、記憶部32と、通信部33と、を備える。演算処理部31、記憶部32、及び通信部33のそれぞれは、バス35を介して、相互に接続される。なお、本実施形態の演算処理部31及び記憶部32のそれぞれは、エッジコントローラ30の構成部として、一体化されているが、構造的に、互いに分離されていてもよい。
【0045】
演算処理部31は、各種の演算処理を実行し、エッジコントローラ30を制御する。演算処理部31は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサである。ただし、演算処理部31は、プロセッサと同様の演算処理機能を有する他の電子回路であってもよい。
【0046】
ところで、コンベアによって搬送される被搬送物の重量が一時的に増えるような場合、負荷3の状態も一時的に過負荷状態に至る場合がある。しかしながら、閾値Th20の期間、負荷3の過負荷状態が継続していない等の理由で、過負荷保護装置1が遮断動作を行わない場合、電源2から負荷3への電力供給は遮断されない。その結果、負荷3は、過負荷状態のまま動作を続ける。演算処理部31は、過負荷保護装置1の遮断動作とは別に、負荷3を保護するための処理を実行する。
【0047】
具体的には、
図4に示すように、演算処理部31は、電流計測部20が計測した負荷電流の電流値に基づき、サーマルリレー10の内部に蓄積される蓄積熱量の推定値を演算する。演算処理部31は、配線20aに流れるU相の負荷電流に基づき、蓄積熱量の推定値Q11(以下、単に「蓄積熱量Q11」という)を演算する。また、演算処理部31は、配線20bに流れるV相の負荷電流に基づき、蓄積熱量の推定値Q12(以下、単に「蓄積熱量Q12」という)を演算する。また、演算処理部31は、配線20cに流れるW相の負荷電流に基づき、蓄積熱量の推定値Q13(以下、単に「蓄積熱量Q13」という)の推定値を演算する。
【0048】
演算処理部31は、蓄積熱量Q11,Q12,Q13のうちの最大の蓄積熱量を、サーマルリレー10の内部の蓄積熱量とみなすようにしてもよい。以下では、演算処理部31は、蓄積熱量Q11を、サーマルリレー10の内部の蓄積熱量とみなす場合に関して説明する。ただし、蓄積熱量Q12が最大である場合、演算処理部31は、蓄積熱量Q12を、サーマルリレー10の内部の蓄積熱量とみなす。また、演算処理部31は、蓄積熱量Q13が最大である場合、蓄積熱量Q13を、サーマルリレー10の内部の蓄積熱量とみなす。
【0049】
図4を参照して、蓄積熱量Q11の演算の一例を説明する。ここで、
図4に示されるグラフの横軸は、演算処理部31が演算を開始した時点からの経過時間を示す。また、
図4に示されるグラフの左側の縦軸は、電流計測部20が計測した負荷電流の電流値Iを示す。
図4に示されるグラフの右側の縦軸は、蓄積熱量Q11を示す。線L1は、負荷電流の電流値Iの推移を示す。線L2は、蓄積熱量Q11の推移を示す。
【0050】
演算処理部31は、電流計測部20が順次計測した複数の負荷電流の電流値I(以下、単に「負荷電流I」という)に対応する複数の熱量の推定値Q(以下、単に「熱量Q」という)を演算するとともに、複数の熱量Qの総和から蓄積熱量Q11の推定値を演算する。
【0051】
具体的には、演算処理部31は、最新の演算時点で参照した負荷電流Iの大きさが、以下の条件(1)~条件(3)のいずれに該当するかを判定し、該当する条件ごとに決められた算出方法を用いて、蓄積熱量Q11を演算する。なお、別途説明する条件(1)のように、負荷電流Iが相対的に小さい場合、サーマルリレー10の内部の温度が下がるものとみなす。すなわち、負荷電流Iから換算される熱量Qを負の値とみなす。これに対して、別途説明する条件(2)及び条件(3)のように、条件(1)に比べて、負荷電流Iが相対的に大きい場合、サーマルリレー10の内部の温度が上がるものとみなす。すなわち、負荷電流Iから換算される熱量Qを正の値とみなす。これらのことから、「複数の熱量Qの総和」とは、演算処理部31が、負の値の熱量Qのそれぞれを減算するとともに、正の値の熱量Qのそれぞれを加算することを意味する。
【0052】
[条件(1)]
負荷電流Iが、整定電流の80%未満である場合、演算処理部31は、式(1)により、蓄積熱量Q11を演算する。
図4に示す時点t0から時点t1での負荷電流Iが、条件(1)の負荷電流Iに対応する。なお、「整定電流の80%」は、「第2相対値」の一例である。時点t0は、演算処理部31が、蓄積熱量Q11の演算を開始した時点である。
【0053】
Q11(n)=Q11(n-1)-γ ・・・ (1)
ただし、「Q11(n)<0」となる場合、演算処理部31は、「Q11(n)=0」と演算する。
【0054】
図4の場合、時点t0から時点t1の期間では、蓄積熱量Q11(n)は、「0」から増えない。
【0055】
ここで、「Q11(n)」は、「新たな蓄積熱量」の一例である。「Q11(n-1)」は、新たな蓄積熱量Q11(n)の一度前に演算された蓄積熱量である。また、「γ」は、演算処理部31が、最新の演算時点で参照した負荷電流Iに基づき演算した熱量Qに対応する。式(1)において、「γ」に(-1)が乗じられているため、条件(1)の場合、サーマルリレー10の内部の温度が下がるものとみなされる。「γ」は、式(2)により、算出される。
【0056】
γ=IC1 ・・・ (2)
ここで、C1は、実数である。C1は、負荷電流Iの大きさを考慮して決められた定数であってよい。なお、「γ」は、「第3熱量」の一例である。
【0057】
[条件(2)]
負荷電流Iが、整定電流の80%以上115%未満である場合、演算処理部31は、式(3)により、蓄積熱量Q11を演算する。
図4に示す時点t1から時点t2での負荷電流Iが、条件(2)の負荷電流Iに対応する。
【0058】
Q11(n)=Q11(n-1)+β ・・・ (3)
【0059】
このとき、演算処理部31は、Q11(n)と閾値Th1(第1閾値)とを比較する。演算処理部31は、比較の結果、Q11(n)が、閾値Th1(第1閾値)未満の場合、式(3)に基づき、蓄積熱量Q11(n)を演算する。これに対して、演算処理部31は、Q11(n)が、閾値Th1(第1閾値)以上の場合、式(3)とは異なり、Q11(n)を閾値Th1と同一の値として演算する。この場合、Q11(n)は、閾値Th1を超えない。閾値Th1は、適宜設定可能な値である。閾値Th1の例として、過負荷保護装置1の遮断動作の開始に対応する閾値Th3(閾値Th3については別途説明する)の50%~60%の範囲内の値が挙げられる。例えば、閾値Th1を、閾値Th3の55%とした場合、演算処理部31は、Q11(n)を、閾値Th3の55%の値として演算する。
【0060】
図4に示すように、時点t1から時点t2の期間では、演算処理部31が、式(3)に基づき、蓄積熱量Q11(n)を演算する場合、サーマルリレー10の内部の温度が上がるものとみなされる。すなわち、蓄積熱量Q11(n)は、一度前に演算された蓄積熱量Q11(n-1)から「β」だけ増える。「β」は、演算処理部31が、最新の演算時点で参照した負荷電流Iに基づき演算した熱量Qに対応する。なお、「β」は、「第2熱量」の一例である。
【0061】
βは、式(4)により、算出される。
【0062】
β=IC2 ・・・ (4)
ここで、C2は、実数である。C2は、負荷電流Iの大きさを考慮して決められた定数であってよい。
【0063】
[条件(3)]
負荷電流Iが、整定電流の115%以上である場合、演算処理部31は、式(5)により、蓄積熱量Q11を演算する。
図4に示す時点t2から時点t3での負荷電流Iが、条件(3)の負荷電流Iに対応する。
【0064】
Q11(n)=Q11(n-1)+α ・・・ (5)
【0065】
式(5)によって蓄積熱量Q11が演算される場合は、負荷3の状態が過負荷状態に至っている場合に対応する。なお、「整定電流の115%」は、「第1相対値」の一例である。
【0066】
図4に示すように、時点t2から時点t3の期間では、サーマルリレー10の内部の温度がさらに上がるものとみなされ、蓄積熱量Q11(n)は、一度前に演算された蓄積熱量Q11(n-1)から「α」だけ増える。「α」は、「β」より大きな値である。「α」は、演算処理部31が、最新の演算時点で参照した負荷電流Iに基づき演算した熱量Qに対応する。なお、「α」は、「第1熱量」の一例である。
【0067】
「α」は、式(6)により、算出される。
【0068】
α=IC3 ・・・ (6)
ここで、C3は、C2より大きな実数である。C3は、負荷電流Iの大きさを考慮して決められた定数であってよい。
【0069】
蓄積熱量Q11に関する上記の算出方法によれば、演算処理部31は、整定電流に対する負荷電流Iの相対値(整定電流に対応する負荷電流Iの百分率)に応じて、加算又は減算する熱量Qを変化させる。これにより、負荷3の状態を適切に反映した蓄積熱量Q11を演算することができる。その結果、負荷3の保護の確度を高めることができる。
【0070】
上記の例では、蓄積熱量Q11の算出方法を決定するための条件を3つとしている。ただし、蓄積熱量Q11の算出方法を決定するための条件は、3つに限定されない。また、条件(1)~条件(3)のそれぞれを定める、整定電流に対する負荷電流Iの第1相対値や第2相対値は、適宜変更可能である。また、条件(1)~条件(3)において、さらに別の条件を加えてもよい。演算処理部31は、蓄積熱量Q12,Q13のそれぞれを演算するにあたり、蓄積熱量Q11と同様の処理を実行する。
【0071】
演算処理部31は、蓄積熱量Q11(Q12,Q13)を参照し、過負荷保護装置1が遮断動作を行う前に、プレアラーム情報を報知部40に出力することが好ましい。演算処理部31は、過負荷保護装置1が遮断動作を行う前に、報知部40にプレアラーム情報を出力することで、電源2から負荷3への電力供給の遮断タイミングが近づいていることを、外部に知らせることができる。これにより、負荷3の状態が過負荷状態から脱するための処置が早期に行われ、過負荷保護装置1の遮断動作とは別に、負荷3を保護することができる。その結果、負荷3の保護の確度を高めることができる。また、負荷3の停止に伴い、コンベア等の生産設備を停止させる事態を防ぐ。これにより、生産設備の停止に起因する経済的な損失を防止できる。
【0072】
演算処理部31は、プレアラーム情報を報知部40に出力するか否かを判定する際、蓄積熱量Q11と閾値Th2(第2閾値)とを比較し、比較の結果、蓄積熱量Q11が閾値Th2以上となったタイミングで、プレアラーム情報を出力するようにしてもよい。
図4の場合、演算処理部31は、時点t4で、プレアラーム情報を出力する。なお、プレアラーム情報は、「第1警報信号」の一例である。
【0073】
演算処理部31は、蓄積熱量Q11を参照し、過負荷保護装置1が遮断動作を行うタイミングにあわせて、本アラーム情報を報知部40に出力することが好ましい。これにより、電源2から負荷3への電力供給が遮断されたことを、外部に知らせることができる。
【0074】
演算処理部31は、本アラーム情報を報知部40に出力するか否かを判定する際、蓄積熱量Q11と閾値Th3(第3閾値)とを比較し、比較の結果、蓄積熱量Q11が閾値Th3以上となったタイミングで、本アラーム情報を出力するようにしてもよい。
図4の場合、演算処理部31は、時点t3で、本アラーム情報を出力する。なお、閾値Th3は、閾値Th1を設定する際の基準値であってもよい。
【0075】
閾値Th3は、閾値Th2より大きな値の閾値である。閾値Th3に対する閾値Th2の相対値は、適宜設定可能である。一例として、閾値Th3の値の70%~90%、より好ましくは、75%~85%の値を、閾値Th2とすることが挙げられる。なお、本アラーム情報は、「第2警報信号」の一例である。
【0076】
記憶部32は、演算処理部31で実行されるプログラム等を記憶する不揮発性の記憶媒体である。また、記憶部32は、演算処理部31が演算した蓄積熱量Q11,Q12,Q13の時系列的な推移を記憶することが好ましい。記憶部32の例として、フラッシュメモリ等のEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)が挙げられる。
【0077】
記憶部32が、蓄積熱量Q11,Q12,Q13の時系列的な推移を記憶することで、負荷3の稼働状況や、負荷3によって駆動される生産設備の稼働状況等を適切に監視することができる。すなわち、蓄積熱量Q11,Q12,Q13ごとの熱量の推移を、可視化することができる。その結果、負荷3によって駆動する生産設備の運用を最適化することができる。
【0078】
通信部33は、電流計測部20及び報知部40等の他の構成部との通信を行うための通信インターフェースである。具体的には、通信部33は、電流計測部20が計測した負荷電流の電流値の情報を取得する。また、通信部33は、負荷電流の電流値の情報を演算処理部31に出力する。通信部33は、演算処理部31から出力されたプレアラームや本アラームの情報を報知部40に出力する。
【0079】
以上、エッジコントローラ30の構成を説明した。なお、演算処理部31、記憶部32、通信部33のそれぞれは、エッジコントローラ30とは異なる他の情報処理装置に備わるものであってもよい。他の情報処理装置の例として、パーソナルコンピュータや、生産設備の操作者や運用者が携帯する携帯端末が挙げられる。
【0080】
<報知部40>
次に、報知部40の構成を説明する。報知部40は、エッジコントローラ30に接続され、エッジコントローラ30から出力される各種の情報に基づき報知動作を行う部材である。報知部40の例として、警報音を発するブザーや警報ランプを点灯する灯具が挙げられる。本実施形態の報知部40は、演算処理部31から出力されたプレアラーム情報や本アラーム情報に基づき、報知動作を行う。なお、報知部40は、サーマルリレー10と一体化されていてもよい。
【0081】
<作用効果>
本実施形態によれば、電流計測部20によって、サーマルリレー10とは別に計測された負荷電流の電流値に基づき、演算処理部31が蓄積熱量Q11,Q12,Q13のそれぞれを演算する。これにより、過負荷保護装置1が遮断動作を行う前の負荷3の過負荷状態を適切に検出することができる。その結果、負荷3の保護の確度を高めることができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、演算処理部31は、サーマルリレー10の整定電流に対する負荷電流の相対値に応じて、蓄積熱量Q11(Q12,Q13)に加算する熱量Qを変化させる。具体的には、演算処理部31は、整定電流に対する負荷電流の相対値が第1相対値以上となり、負荷3の状態が過負荷状態に至った場合、相対的に大きな第1熱量を蓄積熱量Q11(Q12,Q13)に加算し、新たな蓄積熱量Q11(Q12,Q13)を演算する。これにより、負荷3の過負荷状態を素早く検出できる。これに対して、演算処理部31は、整定電流に対する負荷電流の相対値が第1相対値未満であり、負荷3の状態が過負荷状態に近づいた場合、第1熱量より小さな第2熱量を蓄積熱量Q11(Q12,Q13)に加算し、新たな蓄積熱量Q11(Q12,Q13)を演算する。これにより、負荷3の状態が過負荷状態に至る前の誤検出を抑制するとともに、負荷3が過負荷状態に至った段階で素早く過負荷状態を検出することができる。さらに、演算処理部31は、整定電流に対する負荷電流の相対値が第1相対値未満であり、かつ、新たな蓄積熱量Q11(Q12,Q13)が、第1閾値(閾値Th1)以上である場合、新たな前記蓄積熱量Q11(Q12,Q13)を第1閾値と同一の値であると演算する。これにより、負荷3の状態が過負荷状態に至る前の誤検出を、より高い確度で抑制することができる。
【0083】
また、本実施形態によれば、演算処理部31は、整定電流に対する負荷電流の相対値が、第1相対値より小さな第2相対値未満の場合、第3熱量を減算する。これにより、負荷3の状態が過負荷状態に至る前の誤検出を抑制することができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、演算処理部31は、過負荷保護装置1が遮断動作を行う前に、第1警報信号(プレアラーム情報)を出力する。また、報知部40は、演算処理部31から出力された第1警報信号に応じて動作する。これにより、電源2から負荷3への電力供給の遮断タイミングが近づいていることを、外部に知らせることができる。その結果、コンベア上の被搬送物の重量を低減するなど、負荷3の状態が過負荷状態から脱するための処置を早期に行うことができる。すなわち、過負荷保護装置1の遮断動作とは別に、負荷3を過負荷状態から保護することができる。したがって、負荷3の保護の確度を高めることができる。また、負荷3の停止に伴い生産設備を停止させる事態を防ぐ。これにより、生産設備の停止に起因する経済的な損失を防止できる。
【0085】
また、本実施形態によれば、演算処理部31は、蓄積熱量Q11(Q12,Q13)が、第2閾値(閾値Th2)より大きい第3閾値(閾値Th3)以上である場合、第2警報信号を出力する。これにより、電源2から負荷3への電力供給の遮断タイミングが近づいていることを、都度、外部に報知することができる。また、演算処理部31の第2警報信号の出力タイミングが、電源2から負荷3への電力供給の遮断タイミングと同期する場合、電源2から負荷3への電力供給が遮断されることを、外部に知らせることができる。
【0086】
また、本実施形態によれば、記憶部32が、蓄積熱量Q11,Q12,Q13の時系列的な推移を記憶することで、蓄積熱量Q11,Q12,Q13ごとの推移を、可視化することができる。その結果、負荷3によって駆動する生産設備の運用を最適化することができる。
【0087】
また、本実施形態によれば、電流計測部20に通信可能に接続されるエッジコントローラ30が、演算処理部31及び記憶部32のそれぞれを備える。そのため、サーマルリレー10の制御回路16とは別に、エッジコントローラ30によって、蓄積熱量Q11,Q12,Q13が演算される。その結果、サーマルリレー10の制御回路16で蓄積熱量Q11,Q12,Q13を演算する場合に比べて、制御回路16にかかる計算処理の負担を軽減することができる。言い換えれば、エッジコントローラ30によって、蓄積熱量Q11,Q12,Q13の演算スピードを高められる結果、負荷3の過負荷状態を素早く検出することができる。
【0088】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0089】
1 過負荷保護装置
2 電源
3 負荷
10 サーマルリレー
20 電流計測部
30 エッジコントローラ
31 演算処理部
32 記憶部
40 報知部
50 電磁接触器
60 電磁開閉器