(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024827
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】静菌剤の静菌性の向上方法
(51)【国際特許分類】
A23B 2/758 20250101AFI20250214BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20250214BHJP
A23D 9/013 20060101ALI20250214BHJP
A21D 13/80 20170101ALN20250214BHJP
A23L 9/10 20160101ALN20250214BHJP
【FI】
A23L3/3517
A23L29/00
A23D9/013
A21D13/80
A23L9/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129134
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小出 知次郎
(72)【発明者】
【氏名】服部 桂祐
(72)【発明者】
【氏名】末田 依里桂
【テーマコード(参考)】
4B021
4B025
4B026
4B032
4B035
【Fターム(参考)】
4B021LW01
4B021LW02
4B021LW03
4B021LW04
4B021LW05
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4B025LB18
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4B032DP08
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4B032DP46
4B035LC05
4B035LG08
4B035LG12
4B035LP21
(57)【要約】
【課題】実際の食品系において静菌剤の静菌性を向上させる方法を提供する。
【解決手段】静菌剤として(a)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるグリセリン脂肪酸エステル及び/又は(b)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるジグリセリン脂肪酸エステルを油脂に分散し、静菌用油脂組成物を調製することを特徴とする静菌剤の静菌性の向上方法。本発明によれば、食品に対する静菌剤の静菌性を向上させることができる。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静菌剤として(a)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるグリセリン脂肪酸エステル及び/又は(b)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるジグリセリン脂肪酸エステルを油脂に分散し、静菌用油脂組成物を調製することを特徴とする静菌剤の静菌性の向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静菌剤の静菌性の向上方法に関する。
【背景技術】
【0002】
商業的に流通している食品の多くは、製造後、消費者により消費されるまでの期間に鮮度を保つため、冷凍保存や加熱殺菌といった手法以外に、食品用静菌剤の添加が行われている。
【0003】
食品用静菌剤としては、静菌効果を有する食品用乳化剤を使用するものが広く用いられており、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有する事を特徴とする抗菌剤(特許文献1)、平均重合度が2~3のポリグリセリンと脂肪酸とのエステルであって、該エステル中のモノエステル含量が50質量%以上であるポリグリセリン脂肪酸エステル(a)、増粘安定剤(b)及び水(c)を含有し、前記(a)の含有量が向上剤100質量%中に10~40質量%であり、(b)の含有量が向上剤100質量%中に0.01~30質量%である食品の保存性向上剤(特許文献2)、少なくとも(A)炭素数8~22の脂肪酸又はその塩を15~45重量%、(B)炭素数8~18の脂肪酸とグリセリンからなるモノ、ジ又はトリ脂肪酸グリセリンエステルを20~50重量%、(C)スルホコハク酸エステルを10~30重量%、(D)エタノール、プロパノール又はイソプロパノールから選ばれる1種又は2種以上のアルコールを0~10重量%、(E)水を0~55重量%含む溶液の1重量部に対し、水性基剤を1~500重量部の比率で混合してなることを特徴とする食品保存剤(特許文献3)、(a)構成脂肪酸の炭素数が10~14であるデカグリセリン脂肪酸エステル、(b)構成脂肪酸の炭素数が6~14であるジグリセリン脂肪酸エステル、(c)グリセリン有機酸脂肪酸エステル、(d)エタノール及び(e)水を含有するゆで卵用日持ち向上剤(特許文献4)等が開示されている。
【0004】
他方、食品用乳化剤のうちグリセリン脂肪酸エステルは、培地試験においては高い静菌効果を有するものの、実際の食品系においては澱粉やタンパク質が多く含まれるため、静菌効果が低下することが知られている(非特許文献1)。
【0005】
このため、実際の食品系において静菌剤の静菌性を向上させることができれば、現状よりも更に有効に該静菌剤を活用できるようになると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-316206号公報
【特許文献2】特開2006-280386号公報
【特許文献3】特開2011-217668号公報
【特許文献4】特開2014-042518号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】加糖 信行、芝崎 勲、醗酵工学会誌(1975年)、第53巻、11号、793-801ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、実際の食品系において静菌剤の静菌性を向上させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、特定の構成脂肪酸からなる食品用乳化剤であるグリセリン脂肪酸エステル及び/又はジグリセリン脂肪酸エステルを食用油脂に分散させて食品に添加することで、食品系におけるこれら食品用乳化剤の静菌効果が向上することを発見し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、静菌剤として(a)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるグリセリン脂肪酸エステル及び/又は(b)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるジグリセリン脂肪酸エステルを油脂に分散し、静菌用油脂組成物を調製することを特徴とする静菌剤の静菌性の向上方法、からなっている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、食品に対する静菌剤の静菌性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で静菌剤として用いられる(a)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるグリセリン脂肪酸エステル〔以下、成分(a)という〕は、グリセリンと炭素数が12~14の脂肪酸とのエステルであって、エステル化反応、エステル交換反応等自体公知の方法で製造できる。該エステルの構成脂肪酸の炭素数が12未満であると、食品の風味に与える影響が大きいため好ましくない。該エステルの構成脂肪酸の炭素数が14を超えると、本発明の効果が十分に得られないため好ましくない。また、該エステルは、好ましくはモノエステルである。
【0013】
成分(a)を構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする炭素数が12~14の脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数が12~14の飽和脂肪酸又は炭素数が12~14の不飽和脂肪酸(例えば、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸等)が挙げられる。これらの中でも、ラウリン酸、ミリスチン酸が好ましい。これら脂肪酸は、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類を任意に組み合わせて用いても良い。また、これら脂肪酸は、本発明の目的及び効果が達成される範囲で、炭素数が12~14の脂肪酸以外の脂肪酸を含むものであっても良い。この場合、成分(a)の構成脂肪酸100質量%中の炭素数が12~14の脂肪酸の含有量は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0014】
成分(a)としては、例えばグリセリンモノラウリン酸エステル(商品名:ポエムM-300;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0015】
本発明で静菌剤として用いられる(b)構成脂肪酸が炭素数12~14の脂肪酸であるジグリセリン脂肪酸エステル〔以下、成分(b)という〕は、ジグリセリンと炭素数が12~14の脂肪酸とのエステルであって、エステル化反応、エステル交換反応等自体公知の方法で製造できる。該エステルの構成脂肪酸の炭素数が12未満であると、食品の風味に与える影響が大きいため好ましくない。該エステルの構成脂肪酸の炭素数が14を超えると、本発明の効果が十分に得られないため好ましくない。また、該エステルは、好ましくはモノエステルである。
【0016】
成分(b)を構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする炭素数が12~14の脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数が12~14の飽和脂肪酸又は炭素数が12~14の不飽和脂肪酸(例えば、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸等)が挙げられる。これらの中でも、ラウリン酸、ミリスチン酸が好ましい。これら脂肪酸は、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類を任意に組み合わせて用いても良い。また、これら脂肪酸は、本発明の目的及び効果が達成される範囲で、炭素数が12~14の脂肪酸以外の脂肪酸を含むものであっても良い。この場合、成分(b)の構成脂肪酸100質量%中の炭素数が12~14の脂肪酸の含有量は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0017】
成分(b)としては、例えばポエムDM-100(商品名;ジグリセリンモノミリスチン酸エステル;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0018】
本発明の静菌剤の静菌性の向上方法は、成分(a)及び/又は成分(b)を油脂に分散することにより静菌用油脂組成物を調製し、実施することができる。従って、該静菌用油脂組成物は、油脂中に成分(a)及び/又は成分(b)が分散した形態を有する。該静菌用油脂組成物の性状に特に制限はなく、液状のものであってもよく、粉末状のものであってもよい。以下、液状の静菌用油脂組成物と粉末状の静菌用油脂組成物について、それぞれ好ましい調製方法の概略を示す。
【0019】
[液状の静菌用油脂組成物の調製方法]
液状の静菌用油脂組成物は、例えば、常温で液状の食用油脂並びに成分(a)及び/又は成分(b)を加熱及び混合し、常温で液状の食用油脂中に成分(a)及び/又は成分(b)が分散した形態の組成物を調製し、これを室温まで冷却することにより得られる。加熱温度は、例えば60~90℃が好ましい。
【0020】
常温で液状の食用油脂としては、常温(15~25℃)で液状のものであれば特に制限はない。このような油脂としては、例えばサフラワー油、大豆油、綿実油、コメ油、菜種油、コーン油、オリーブ油等が挙げられる。これら常温で液状の食用油脂は、いずれか1種類のみを用いても良いし、2種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0021】
液状の静菌用油脂組成物100質量%中の常温で液状の食用油脂並びに成分(a)及び/又は成分(b)の含有量に特に制限はないが、例えば常温で液状の食用油脂の含有量が20~95質量%、好ましくは30~90質量%、より好ましくは40~85質量%であり、成分(a)及び/又は成分(b)の含有量が5~80質量%、好ましくは10~70質量%、より好ましくは15~60質量%である。
【0022】
[粉末状の静菌用油脂組成物の調製方法]
先ず、常温(15~25℃)で固体状の食用油脂並びに成分(a)及び/又は成分(b)を溶融混合し、常温で固体状の食用油脂中に成分(a)及び/又は成分(b)が分散した形態の溶融物を得る。ここで、溶融混合とは、各種成分を加熱して液状又はスラリー状とし、混合することをいう。加熱温度は、例えば70~100℃が好ましい。
【0023】
次に、得られた溶融物を自体公知の方法で冷却固化及び粉末化する。より具体的には、例えば、噴霧冷却法により溶融物の冷却固化及び粉末化を同時に行う方法、溶融物を一旦冷却固化して固体状にした後、該固体を圧縮破砕機、剪断粗砕機、衝撃破砕機等を使用して物理的に粉砕することにより粉末化する方法等が挙げられる。冷却温度は、各成分が固体状になる温度であれば特に制限はないが、通常-196~30℃である。粉末化の目安としては、粉末を構成する粒子の粒子径が本発明の目的及び効果を損なわない範囲であれば特に制限はないが、例えば、平均粒子径(メジアン径)が500μm以下であることが好ましい。
【0024】
常温で固体状の食用油脂は、食用可能な動植物由来の油脂であって、常温で固体又は半固体であるものであれば特に制限はない。このような油脂としては、例えば、乳脂肪、やし油、パーム油、牛脂、豚脂(ラード)及びカカオ脂等の固体脂、これら固体脂又は常温で液状の液体油(サフラワー油、大豆油、綿実油、コメ油、菜種油、オリーブ油等)に水素添加(硬化)処理を施して得られる硬化油、あるいはこれらにさらに分別、エステル交換等の処理を施した加工油脂が挙げられる。これらの中でも、硬化油、とりわけヨウ素価を2以下、望ましくは0.5以下とした極度硬化油が好ましく、パーム極度硬化油が特に好ましい。これら常温で固体状の食用油脂は、一種類のみを単独で用いてもよく、二種類以上を任意に組み合わせて用いても良い。
【0025】
粉末状の静菌用油脂組成物100質量%中の常温で固体状の食用油脂並びに成分(a)及び/又は成分(b)の含有量に特に制限はないが、例えば常温で固体状の食用油脂の含有量が20~95質量%、好ましくは30~90質量%、より好ましくは40~85質量%であり、成分(a)及び/又は成分(b)の含有量が5~80質量%、好ましくは10~70質量%、より好ましくは15~60質量%である。
【0026】
本発明に係る静菌用油脂組成物は、常温で液状の食用油脂、常温で固体状の食用油脂、成分(a)及び成分(b)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の任意の成分を含有していてもよい。そのような成分としては、例えば、成分(a)及び成分(b)以外の乳化剤、酸化防止剤(抽出トコフェロール、L-アスコルビン酸パルミチン酸エステル、成分(a)及び成分(b)以外の静菌性を有する成分(アジピン酸、クエン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、酒石酸、乳酸、酢酸、フマル酸、蓚酸、リンゴ酸、コハク酸等の有機酸;前記有機酸のナトリウム塩、カリウム塩等の有機酸塩;ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸、リン酸等の無機酸;ピロリン酸四カリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ピロリン酸四ナトリウム、ポリリン酸カリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等の無機酸塩;グリシン;リゾチーム;ε-ポリリジン;チアミンラウリル硫酸塩;しらこ蛋白抽出物;ペクチン分解物等)、賦形剤(ブドウ糖、果糖等の単糖類;ショ糖、乳糖、麦芽糖等のオリゴ糖類;デキストリン、粉末水飴等の澱粉分解物;マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース等のマルトオリゴ糖類;ソルビトール、マンニトール、マルチトール、粉末還元水飴等の糖アルコール類;コーンスターチ等の澱粉類等)、粉質改良剤(第三リン酸カルシウム、微粒二酸化珪素等)等が挙げられる。
【0027】
本発明に係る静菌用油脂組成物は、保存性向上の対象となる食品に添加して用いられる。該静菌用油脂組成物の食品への添加量としては、食品の種類、食品の初菌数、目的とする保存期間等によっても異なるが、食品100質量部に対して、成分(a)及び/又は成分(b)が好ましくは0.001~0.5質量部、より好ましくは0.005~0.1質量部となるように添加することができる。
【0028】
本発明に係る静菌用油脂組成物の使用方法に特に限定はなく、例えば、食品の製造時に、当該食品の種類や製法に応じて適宜添加することができる。
【0029】
本発明に係る静菌用油脂組成物を添加する食品に特に制限はなく、例えばドーナツ、スポンジケーキ、蒸しケーキ、蒸しパン、あんパン、クリームパン、ホットケーキ、シュークリーム等の菓子類、アイスクリーム、プリン、ババロア、ヨーグルト、フルーツゼリー、コーヒーゼリー、杏仁豆腐等のデザート類、卵サラダ、マカロニサラダ、ポテトサラダ等のサラダ類、ソーセージ、ハム、焼き豚、豚カツ、トリ唐揚げ、ミートボール、しゅうまい、ぎょうざ等の畜肉加工品、調味みそ、ごまだれ、ドレッシング等の調味料類、蒲鉾、竹輪、はんぺん等の水産練り製品、柴漬け、梅干、たくあん、浅漬け、キムチ等の漬け物類、カスタードクリーム、小豆あん、フラワーペースト等の餡類、イチゴジャム、マーマレード等のジャム類、塩辛、みりん干し、一夜干し等の水産加工品、卵焼き、オムレツ、スクランブルエッグ等の卵製品、うどん、そば、焼きそば等の麺類、卵サンド、ハムサンド等のサンドイッチ類、赤飯むすび、鮭おむすび、梅入りおむすび等のおむすび類、イカ佃煮、のり佃煮等の佃煮類、おでん、昆布煮、野菜の煮物等の煮物類、エビフライ、カキフライ、コロッケ等のフライ揚げ物食品類、豆腐、厚揚げ、薄揚げ等の豆腐加工食品類等が挙げられる。
【0030】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0031】
[培地に対する静菌性試験]
(1)実施例品1の調製方法
ジグリセリンモノミリスチン酸エステル(商品名:ポエムDM-100;理研ビタミン社製)100gと菜種油(ボーソー油脂社製)100gを300ml容ビーカーに量り取り、80℃まで加熱しながらスパチュラで撹拌して混合し、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルが菜種油中に分散した液状の油脂組成物(実施例品1)を調製した。
【0032】
(2)比較例品1の調製方法
ジグリセリンモノミリスチン酸エステル(商品名:ポエムDM-100;理研ビタミン社製)50gとイオン交換水150gを300ml容ビーカーに量り取り、80℃まで加熱しながらTKホモミキサー(型式:MARKII;プライミクス社製)を用いて5,000rpmで撹拌しながら混合し、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルが水中に分散した水分散液(比較例品1)を調製した。
【0033】
(3)培地の調製及び静菌性の評価
先ず、小麦澱粉を配合することにより食品系を模した培地を調製した。より具体的には、普通寒天培地(日水製薬社製)3.5g、小麦澱粉(松谷化学工業社製)4g及び実施例品1又は比較例品1をイオン交換水100mlに分散させ、121℃、15分間オートクレーブにより処理した。これを50℃まで冷却し、滅菌済みシャーレに加えて普通平板培地を作製した。尚、該平板培地中のジグリセリンモノミリスチン酸エステルの濃度は、10ppm、50ppm、100ppm、200ppm、400ppm、800ppm、1600ppm、3200ppmとなるようにした。次いで、凍結保存品の「Bacillus cereus NBRC 103938」(以下、B. cereusという)又は「Bacillus sphaericus NBRC 15095」(以下、B. shpaericusという)を各平板培地に一白金耳塗抹して、30℃にて48時間培養した。ジグリセリンモノミリスチン酸エステルについて、菌の発育が抑制された最小濃度〔最小発育阻止濃度=MIC(ppm)〕を測定した結果を表1に示す。
【0034】
【0035】
表1から明らかなように、実施例品1を用いた場合は、比較例品1を用いた場合に比べ、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルのMICは、B. cereusとB. shpaericusのいずれにおいても低かった。このことから、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルを油脂に分散し、油脂組成物を調製することにより、食品系を模した培地においてジグリセリンモノミリスチン酸エステルの静菌性が向上することが分かった。
【0036】
[蒸しケーキに対する静菌性試験1]
(1)実施例品2及び比較例品2の調製方法
実施例品2は、実施例品1と、比較例品2は、比較例品1と同様の方法で調製した。尚、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルの含有量は、実施例品2が50質量%であり、比較例品2が25質量%である。
【0037】
(2)蒸しケーキの製造方法
薄力粉(商品名:バイオレット;日清製粉社製)100g、上白糖180g、殺菌液卵(商品名:エクセルエッグHV;キューピータマゴ社製)130g、製菓用油脂(商品名:パティグラース-TD;理研ビタミン社製)80g、乳化剤含有油脂組成物(商品名:エマテックN-100V;理研ビタミン社製)10g、3倍濃縮乳(商品名:ミルレックス200M;カネカ製)10g、重曹1g、ベーキングパウダー(商品名:BP(C#1);オリエンタル酵母工業社製)4g、醤油1g、水10g、実施例品2を1g又は比較例品2を2g、ミキサーボウルに投入し、5コート縦型ミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社製 ワイヤーホイッパー装着)を用いて、低速:1分30秒 → 高速:1分10秒 → 低速:10秒混合し、オールインミックス法によるケーキ生地を得た。ケーキ生地を90gに分割し、シリコンをコーティングした直径7cmのグラシン紙に置いてスチーマーボックス(型式:K-1DX;アサミ社製)に入れ、98℃で16分間蒸し上げ、蒸しケーキ1及び2を得た。これら蒸しケーキは、いずれもジグリセリンモノミリスチン酸エステルの添加量が約0.1質量%となるようにした。
尚、実施例品2及び比較例品2のいずれも配合しない以外は同様の操作を行い、静菌剤無添加の蒸しケーキ3を製造した。
【0038】
(3)静菌性の評価
得られた蒸しケーキに凍結保存品のB. shpaericusの菌液を10cfu/gとなるように接種した。該菌液はB. shpaericus株の培養液を、滅菌した生理食塩水と混合し、103cfu/mlの菌濃度としたものであった。そして、菌液を接種した蒸しケーキを30℃で120時間保管した後の菌数を測定した。菌数の測定方法は、公定法(食品衛生検査指針)に準じて行った。結果を表2に示す。
【0039】
【0040】
表2から明らかなように、実施例品2を用いた場合は、比較例品2を用いた場合に比べ、B. shpaericusの菌数が減少していた。このことから、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルを油脂に分散し、油脂組成物を調製することにより、蒸しケーキにおいてジグリセリンモノミリスチン酸エステルの静菌性が向上することが分かった。
【0041】
[蒸しケーキに対する静菌性試験2]
(1)実施例品3の調製方法
グリセリンモノラウリン酸エステル(商品名:ポエムM-300;理研ビタミン社製)66gとパーム極度硬化油(横関油脂工業社製)134gを300ml容ビーカーに量り取り、90℃まで加熱しながらガラス棒で撹拌した。得られた溶融物を4℃の冷却槽で冷却固化した後、ミキサー(商品名:TM8100;TESCOM社製)にて粉砕し、得られた粉砕物を30mesh(目開き500μm)のステンレス製篩に通し、平均粒子径が200μmの粉末(実施例品3)を得た。尚、この実施例品3の粉末を構成する個々の粒子は、パーム極度硬化油中にグリセリンモノラウリン酸エステルが分散した形態を有している。
【0042】
(2)比較例品3について
グリセリンモノラウリン酸エステルを含有する市販の粉末状の乳化剤製剤(商品名:ポエムM-300P(NA);グリセリンモノラウリン酸エステルの含有量50質量%;理研ビタミン社製)を比較例品3とした。尚、この比較例品3は、いわゆるスプレードライ法により製造されたものであり、粉末を構成する個々の粒子は、油脂中にグリセリンモノラウリン酸エステルが分散した形態を有していない。
【0043】
(3)静菌用組成物の原材料
1)グリシン(有機合成薬品工業社製)
2)酢酸ナトリウム(エア・ウォーター・パフォーマンス・ケミカル社製)
3)フマル酸(扶桑化学工業社製)
4)リゾチーム(商品名:卵白リゾチーム;CANADIAN INOVATECH社製)
5)コーンスターチ(松谷化学工業社製)
6)実施例品3
7)比較例品3
【0044】
(3)静菌用組成物の配合
上記原材料を用いて調製した静菌用組成物A及びBの配合組成を表3に示す。
【0045】
【0046】
(4)静菌用組成物の調製方法
表3に記載の10倍量の原材料をポリ袋に入れ、袋の口を縛り手で3分間撹拌して均一に混合し、静菌用組成物A及びBを得た。
【0047】
(5)蒸しケーキの製造方法
薄力粉(商品名:バイオレット;日清製粉社製)100g、上白糖180g、殺菌液卵(商品名:エクセルエッグHV;キューピータマゴ社製)130g、製菓用油脂(商品名:パティグラース-TD;理研ビタミン社製)80g、乳化剤含有油脂組成物(商品名:エマテックN-100V;理研ビタミン社製)10g、3倍濃縮乳(商品名:ミルレックス200M;カネカ製)10g、重曹1g、ベーキングパウダー(商品名:BP(C#1);オリエンタル酵母工業社製)4g、醤油1g、水10g、静菌用組成物Aを5.3g又は静菌用組成物Bを5.1g、ミキサーボウルに投入し、5コート縦型ミキサー(型式:万能混合攪拌機5DMr;品川工業所社製 ワイヤーホイッパー装着)を用いて、低速:1分30秒 → 高速:1分10秒 → 低速:10秒混合し、オールインミックス法によるケーキ生地を得た。ケーキ生地を90gに分割し、シリコンをコーティングした直径7cmのグラシン紙に置いてスチーマーボックス(型式:K-1DX;アサミ社製)に入れ、98℃で16分間蒸し上げ、蒸しケーキ4及び5を得た。これら蒸しケーキは、いずれもグリセリンモノラウリン酸エステルの添加量が0.04質量%となるようにした。
尚、静菌用組成物A及びBのいずれも配合しない以外は同様の操作を行い、静菌剤無添加の蒸しケーキ6を製造した。
【0048】
(6)静菌性の評価
得られた蒸しケーキに凍結保存品の「Aspergillus penicillioides NBRC 100539」(以下、A. penicillioidesという)の菌液を10cfu/gとなるように接種した。該菌液はA. penicillioides株の培養液を、滅菌した生理食塩水と混合し、103cfu/mlの菌濃度としたものであった。そして、菌液を接種した蒸しケーキを30℃で192時間保管した後の発育状態を観察し、以下の基準に従って記号化した。結果を表4に示す。
【0049】
<記号化基準>
+: 植菌部の3分の1未満に発育が見られる
++:植菌部の3分の1以上、3分の2未満に発育が見られる
【0050】
【0051】
表3から明らかなように、実施例品3を含有する静菌用組成物Aを用いた場合は、比較例品3を含有する静菌用組成物Bを用いた場合に比べ、A. penicillioidesの発育が抑制されていた。このことから、グリセリンモノラウリン酸エステルを油脂に分散し、油脂組成物を調製することにより、蒸しケーキにおいてグリセリンモノラウリン酸エステルの静菌性が向上することが分かった。
【0052】
[プリンに対する静菌性試験]
(1)実施例品4の調製方法
グリセリンモノラウリン酸エステル(商品名:ポエムM-300;理研ビタミン社製)40gとパーム極度硬化油(横関油脂工業社製)160gを300ml容ビーカーに量り取り、80℃まで加熱しながらガラス棒で撹拌した。得られた溶融物を4℃の冷却槽で冷却固化した後、ミキサー(商品名:TM8100;TESCOM社製)にて粉砕し、得られた粉砕物を30mesh(目開き500μm)のステンレス製篩に通し、平均粒子径が200μmの粉末(実施例品4)を得た。尚、この実施例品4の粉末を構成する個々の粒子は、パーム極度硬化油中にグリセリンモノラウリン酸エステルが分散した形態を有している。
【0053】
(2)実施例品5の調製方法
グリセリンモノラウリン酸エステル(商品名:ポエムM-300;理研ビタミン社製)40gに替えてジグリセリンモノミリスチン酸エステル(商品名:ポエムDM-100;理研ビタミン社製)40gを用いたこと以外は、実施例品4の調製方法と同様に実施し、平均粒子径が200μmの粉末(実施例品5)を得た。尚、この実施例品5の粉末を構成する個々の粒子は、パーム極度硬化油中にジグリセリンモノミリスチン酸エステルが分散した形態を有している。
【0054】
(3)比較例品4及び5について
グリセリンモノラウリン酸エステル(商品名:ポエムM-300;理研ビタミン社製)及びジグリセリンモノミリスチン酸エステル(商品名:ポエムDM-100;理研ビタミン社製)そのものを、それぞれ比較例品4及び5とした。
【0055】
(4)プリンの製造方法
牛乳300g、卵90g、卵黄12g、グラニュー糖60g、バニラエッセンス0.6g、実施例品4若しくは5を2.3g又は比較例品4若しくは5を0.46g、スリーワンモーター(型式:BL600;HEIDON社製)で加熱しながら撹拌及び混合し、70℃達温後3分間保持した。その後、篩で濾してから50gずつに分割し、コンビオーブン(型式:FSCCXS 6 2/3E;フジマック社製)にて焼成(85℃、50分)し、プリン1~4を得た。これらプリンは、いずれもグリセリンモノラウリン酸エステル又はジグリセリンモノミリスチン酸エステルの添加量が0.1%となるようにした。
尚、実施例品4及び5並びに比較例品4及び5のいずれも配合しない以外は同様の操作を行い、静菌剤無添加のプリン5を製造した。
【0056】
(5)静菌性の評価
得られたプリンを放冷後、凍結保存品のB. shpaericusの菌液を10cfu/gとなるように接種した。該菌液はB. shpaericus株の培養液を、滅菌した生理食塩水と混合し、103cfu/mlの菌濃度としたものであった。そして、菌液を接種したプリンを15℃で96時間保管した後の菌数を測定した。菌数の測定方法は、公定法(食品衛生検査指針)に準じて行った。結果を表5に示す。
【0057】
【0058】
表5から明らかなように、実施例品4及び5を用いた場合は、比較例品4及び5を用いた場合に比べ、B. shpaericusの増殖が抑制されていた。このことから、グリセリンモノラウリン酸エステル及びジグリセリンモノミリスチン酸エステルは、これらを油脂に分散し、油脂組成物を調製することにより、プリンにおいて静菌性が向上することが分かった。