(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024828
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】光デバイス、及び光トランシーバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/42 20060101AFI20250214BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20250214BHJP
H01S 5/02251 20210101ALI20250214BHJP
H01S 5/183 20060101ALI20250214BHJP
H10F 77/00 20250101ALI20250214BHJP
【FI】
G02B6/42
G02B6/02 421
G02B6/02 431
H01S5/02251
H01S5/183
H01L31/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129141
(22)【出願日】2023-08-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「6Gネットワークに向けた長波長単一面発光レーザを基盤とした光トランシーバの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】309015134
【氏名又は名称】富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】岩間 大和
(72)【発明者】
【氏名】園田 裕彦
(72)【発明者】
【氏名】井出 聡
【テーマコード(参考)】
2H038
2H137
2H250
5F149
5F173
【Fターム(参考)】
2H038BA26
2H137AA01
2H137AB05
2H137AB06
2H137AC11
2H137BA03
2H137BA15
2H137BB03
2H137BB12
2H137BB17
2H137BB25
2H137BB33
2H137BC02
2H137BC07
2H137CA12A
2H137CA13A
2H137CA34
2H137CA62
2H137DA07
2H137DA39
2H137EA07
2H137HA01
2H250AC14
2H250AC25
2H250AH27
2H250AH37
5F149AA01
5F149BA30
5F149BB01
5F149JA03
5F149JA12
5F149JA14
5F149JA20
5F149LA01
5F149XB05
5F173AC03
5F173AC13
5F173AC35
5F173AC42
5F173AH04
5F173AH14
5F173MC30
5F173MF23
5F173MF39
(57)【要約】
【課題】簡単な構成で高次モードの除去と伝搬方向の変換を実現する光デバイスを提供する。
【解決手段】光デバイスは、基板に実装された光電変換素子と、前記光電変換素子に入出力される光を、前記基板に対して垂直または斜め上方の第1方向へ、または第1方向から案内するシングルモードファイバと、を有し、前記シングルモードファイバは所定の曲率半径で曲がる曲げ部を有し、前記曲げ部は、前記光の伝搬方向を、前記第1方向と、前記第1方向と異なる第2方向との間で変換し、かつ高次モードを放射する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に実装された光電変換素子と、
前記光電変換素子に入出力される光を、前記基板に対して垂直または斜め上方の第1方向へ、または第1方向から案内するシングルモードファイバと、
を有し、
前記シングルモードファイバは所定の曲率半径で曲がる曲げ部を有し、前記曲げ部は、前記光の伝搬方向を、前記第1方向と、前記第1方向と異なる第2方向との間で変換し、かつ高次モードを放射する、
光デバイス。
【請求項2】
前記第2方向は、前記基板と平行な方向である、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項3】
前記曲げ部の曲率半径は3mm以上、7mm以下である、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項4】
前記曲げ部における前記高次モードの曲げ損失と、基底モードの曲げ損失との差は15dB以上である、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項5】
前記光電変換素子は垂直共振器面発光レーザ、または前記基板と平行な受光面を有するフォトダイオードである、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項6】
前記シングルモードファイバは、熱処理により応力を緩和した状態で前記所定の曲率半径に固定された固定曲げファイバである、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項7】
前記シングルモードファイバと前記光電変換素子はバットジョイント接続されている、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項8】
前記シングルモードファイバは1.3μm帯用の光ファイバであり、
前記光電変換素子は、前記シングルモードファイバのカットオフ波長である1.26μm以下の波長帯で動作する、
請求項1に記載の光デバイス。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の光デバイスと、
前記基板に実装され、前記光電変換素子との間で電気信号を入出力する電気回路と、
を有する光トランシーバ。
【請求項10】
前記電気回路は前記光電変換素子を駆動する駆動信号を生成し、前記光電変換素子は前記駆動信号で直接変調されて光信号を出力する、
請求項9に記載の光トランシーバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光デバイス、及び光トランシーバに関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの発展に伴い、大規模データセンターをはじめとして、トラフィック量が増大し続けている。第5世代移動通信システム(「5G」と略称)、さらには第6世代移動通信システム(「6G」と略称)の導入により、人口知能(AI)、機械学習、各種センサを接続するIoT(Internet of Things)、自動運転等を利用するデータ駆動型の社会が加速的に拡がっていくと予想される。今後、2030年までに、10km未満の距離でシングルモードファイバ(SMF)を用いた高速の一芯双方向光リンクを低コスト、低消費電力、かつ高密度に実装する技術の実現が求められている。
【0003】
1μm帯の波長をもつ光信号を、1.3μmで波長分散がゼロになるSMF(以下、「1.3μmSMF」と呼ぶ)で伝送する場合、伝送路で高次モードが発生し、モード間干渉により伝送品質が劣化する。基板上のプレーナ光波回路に形成された曲がり導波路で高次モード除去フィルタを構成し、このモードフィルタを光検出器とSMFの間に配置する構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。一般的なSMFを1060nmデータ伝送用の曲げファイバモードフィルタとして評価した研究が報告されている(たとえば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Boxuan Zhang, Xiaodong Gu, Susumu Kinoshita and Fumio Koyama, "Bending-Fiber Mode Filter Evaluation for 1060 nm Data Transmission in Conventional Single-Mode Fiber," エレクトロニクス講演論文集1, C-3/4-59, 2022年9月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
SMFを用いた光伝送では、高次モードの除去に加えて、基板と平行な受発光面をもつ光電変換素子との間で、光路を垂直方向から水平方向、あるいは水平方向から垂直方向に変換する構成が必要となる。本開示は、簡単な構成で高次モードの除去と伝搬方向の変換を実現する光デバイスを提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態において、光デバイスは、
基板に実装された光電変換素子と、
前記光電変換素子に入出力される光を、前記基板に対して垂直または斜め上方の第1方向へ、または第1方向から案内するシングルモードファイバと、
を有し、
前記シングルモードファイバは所定の曲率半径で曲がる曲げ部を有し、前記曲げ部は、前記光の伝搬方向を、前記第1方向と、前記第1方向とは異なる第2方向との間で変換し、かつ高次モードを放射する。
【発明の効果】
【0008】
簡単な構成で高次モードの除去と伝送方向の変換を実現する光デバイスが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】光デバイスで用いられる光電変換素子の一例を示す図である。
【
図5A】第4実施形態の光デバイスの模式図である。
【
図7】光デバイスを用いた光トランシーバのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施形態では、基板に実装された光電変換素子に光学的に接続されるSMFを所定の曲率半径で曲げて用いることで、光伝搬方向を垂直方向と水平方向の間で変換する方向変換器として機能させるとともに、高次モードを除去する高次モードフィルタとして機能させる。SMFは、100Gbps、あるいはそれを超える伝送レートの一芯双方向光リンクの構築に用いられる。5Gでは、半径2kmのセル内に100個の5G用のアンテナ基地局が必要である。6Gでは、5Gよりもさらに高い周波数帯の使用とセル半径の縮小が予想される。6Gのセル半径を20mとすると、半径2kmのセル内に10000個の6G用のセルまたはアンテナ基地局が必要になる。6Gでは、100Gbpsよりもさらに高い1Tbps以上の伝送レートが想定される。
【0011】
従来の第3世代(3G)から第4世代(4G)にかけての基地局は、通信事業者のビル内やその近傍に設置され、これらの基地局とネットワークとが接続されている。5Gまたは6Gの基地局を設置する場合、3Gまたは4G(便宜上、LTEを含む)の基地局や通信事業者の局舎を起点にして光ファイバを張り出す、いわゆる光フロントホールが導入される。マルチモードファイバ(MMF)と比較して伝送距離が長く低コストのSMFを用いて、効率的な光フロントホールの構築が求められる。
【0012】
SMFでは、伝送波長がカットオフ波長よりも短くなると、基底モードに加えて高次モードも伝送される。カットオフ波長は、単一モードのみ伝搬できる最短の波長である。高次モードが含まれると、モード間干渉で信号波形が劣化するので、高次モードを除去する高次モードフィルタが必要である。高ビットレート伝送ほど波形劣化が顕著になるので、高次モードの除去は必須になる。
【0013】
プレーナ光波回路で構成された従来のモードフィルタを用いる場合、発光素子や受光素子と光ファイバを、レンズ等を用いて光学的に接続し、光ファイバをモードフィルタと融着して接続する。光ファイバとモードフィルタとの光結合損失が増え、また、部品点数が増大する。この問題を解消するために、実施形態では、光ファイバの曲げを利用して高次モードを除去する「モードフィルタリング光結合」により、簡易で低コストの構成を実現する。
【0014】
以下で、図面を参照して、実施形態の遅延制御の具体的な構成と手法を説明する。以下に示す形態は、本開示の技術思想を具現化するための一例であって、開示内容を限定するものではない。各図面に示される構成要素の大きさ、位置関係等は、発明の理解を容易にするために、誇張して描かれている場合がある。同一の構成要素または機能に同一の名称または符号を付けて、重複する説明を省略する場合がある。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の光デバイス10の模式図である。光デバイス10は、基板12に実装された光電変換素子15と、光電変換素子15に入出力される光を基板12の表面と垂直または斜め上方の第1方向から、または第1方向へと案内するSMF11と、を有する。光電変換素子15は、例えばボンディングワイヤ14によって、基板12に形成された配線と電気接続されているが、基板12上に隣接して設けられるドライバ、トランスインピーダンスアンプ(ТIA)などの電気チップにワイヤボンディングされてもよい。SMF11は所定の曲率半径で曲がる曲げ部110を有し、曲げ部110は、光の伝搬方向を、基板と垂直または斜め上方の第1方向と、第1方向と異なる第2方向との間で変換し、かつ高次モードを放射する。第2方向は、たとえば基板12と平行な方向である。
【0016】
図1の座標系で、基板12の表面と平行な面をXY面、基板12に対して垂直な方向をZ方向とする。曲げ部110は、光の伝搬方向を基板と垂直な第1方向(Z方向)と、XY面内の第2方向との間で変換するとともに、高次モードを放射し、基底モードを伝搬させる。第1方向は基板12の表面に対して厳密に90°である必要はなく、基板12と光電変換素子15の製造誤差、SMF11の曲げ状態等に応じて、90°±10°の方向を含む。第2方向も同様に、基板12の表面に対して厳密に平行である必要はなく、基板12の製造誤差、SMF11の曲げ状態、保持状態等に応じて、基板12の表面に対して180°±10°の方向を含む。
【0017】
SMF11の直径、すなわちクラッド112の外径は、典型的には125μmであり、コア111の直径は、7μm~10μmである。SMFはステップインデックス(SI)型の屈折率分布を有し、直径の小さい高屈折率のコア111を伝搬するパルスの広がりが少なく、MMFと比較して長距離の伝送が可能である。
【0018】
SMF11は、曲げ部110でほぼ90°方向変換されて、ファイバの端面115が基板12に実装された光電変換素子15の受発光面と対向する。ファイバの端面115と光電変換素子15の間に、レンズ13が配置されていてもよい。光電変換素子15が、垂直共振器面発光レーザ(VCSEL)の場合、光電変換素子15から出射された光は、レンズ13によって端面115の位置でコア111に集光される。光電変換素子15がフォトダイオード等の受光素子の場合、端面115でコア111から出射された光は、レンズ13によって、受光素子の受光面に集光される。
【0019】
光通信で一般的に用いられているSMFは、ITU-Tの規格でG652の1.3μm帯ゼロ分散SMFであるが、このSMFの曲げ半径の限界値は30mm程度である。このSMFで曲げ半径を30mm以下にして90°方向変換すると、曲げ損失の増大と、物理的な破損が懸念される。曲げ部110を有するSMF11として、ITU-TでG657として勧告されている低曲げ損失SMFを用いるのが望ましいようにも考えられるが、実施形態では、低曲げ損失SMFではなく、基底モードと高次モードの曲げ損失差が一定程度以上のSMFを用いる。
【0020】
曲げ部110で、基底モードの光を低損失で伝搬させ、高次モードを効果的に除去するには、基底モードと、高次モードの曲げ損失の差が十分に大きいことが望ましい。基底モードと高次モードの曲げ損失の差は、たとえば15dB以上、好ましくは18dB以上、さらに好ましくは20dB以上である。発明者らが鋭意検討した結果、低曲げ損失ファイバを用いると、高次モードの曲げ損失も小さくなって、曲げ部110で効果的に高次モードを除去することが難しくなる。そこで、高次モードに対する曲げ損失が大きく、かつ、基底モードに対する曲げ損失が無視できる程度に小さいSMFを用いる。
【0021】
非特許文献1において、G652のSMFを用いた計算で、曲げ半径を6mmよりも大きくすることで基底モードであるLP01モードの曲げ損失を無視し得る程度に低減している。ただし、曲げ半径を7mmよりも大きくすると、高次モードであるLP11モードの損失も小さくなり、L01モードとの間で15dB以上、好ましくは18dB以上、さらに好ましくは20dB以上の曲げ損失差を確保することができない。実際の仕様では、G652のSMFの曲げ半径の限界値は30mmとされているので、曲げ半径を7mmにするとファイバが破断するおそれがある。
【0022】
発明者らは、多様なSMFを用いて計算した結果、SMFを一定範囲の曲げ半径で曲げて使用することで、LP11モードとLP01モードとの曲げ損失差を15dB以上、好ましくは18dB以上、さらに好ましくは20dB以上にできることを見出した。特に、基底モードに対する曲げ耐性を有するSMFを用いた場合、曲げ半径を3mm以上、7mm以下に設定することで、基底モード(LP01モード)と高次モード(LP11)の曲げ損失差を20dB以上にできる。基底モードに対する曲げ耐性を有するSMFであっても、曲げ半径が3mmよりも小さくなると、基底モードの曲げ損失が増大して高次モードとの損失差が15dBよりも小さくなり、また、ファイバが物理的に破損する可能性が高くなる。
【0023】
このようなSMFを、曲げ半径3mm以上、7mm以上に湾曲させて用いることで、光の伝搬方向を2つの異なる方向、たとえば、基板に対して垂直方向と水平方向の間で変換するとともに、曲げ部110で高次モードを放射できる。1.3μm帯のSMFのカットオフ波長は1.26μmである。通信波長が1.26μmよりも短いTバンドの光伝送では、1.3μmSMFで高次モードが発生する。
図1の構成で、高次モードの曲げ損失が基底モードの曲げ損失よりも15dB以上大きいSMF11を用いる。このSMF11を3mm以上、7mm以下の曲げ半径で曲げて用いることで、伝搬方向を転換するとともに、高次モードを除去して、基底モードを低損失で伝送することができる。
【0024】
図2は、光デバイス10で用いられる光電変換素子15の一例としての発光素子150の模式図である。発光素子150は、たとえば、光を基板12と垂直な方向に出射するVCSELである。発光素子150は、1.3μm帯で用いる場合、GaAlAs系の材料、あるいはInGaAs系の材料で形成され得る。VCSELは、基板151と垂直な方向に、n型の多層膜反射ミラー152、活性層153、及びp型の多層膜反射ミラー154が積層され、基板151と垂直な方向に共振器(キャビティ)が形成される。活性層153とp型の多層膜反射ミラー154の間に電流狭窄層159を挿入して、光出射面157の下方に位置する領域での利得分布を高めてもよい。この場合、活性層153に定在波の腹が位置し、電流狭窄層159に定在波の節が位置するように、スペーサ層158で活性層153と電流狭窄層159の間隔が調整される。
【0025】
p型の多層膜反射ミラー154の表面に、p側のアノード電極155が設けられ、基板151の裏面にn側のカソード電極156が設けられる。アノード電極155の開口内に露出する面が光出射面157となる。光出射面157のサイズは、出射光のモードフィールド径がSMF11のコア径と整合する7~10μmとなるように設計されてもよい。
【0026】
GaAlAs系の材料を用いる場合、基板151をn型のGaAs基板、多層膜反射ミラー152と154を、屈折率の異なるGaAsとAlAsを交互に積層した分布ブラッグ反射器(DBR)で形成してもよい。活性層153は、GaAs井戸層とAlGaAs障壁層を有する多重量子井戸(MQW)、GaAsSb井戸層とGaAs障壁層を有するMQW、GaInNAs井戸層とGaAs障壁層を有するMQW等で形成される。電流狭窄層159はAlAsの酸化物で形成されてもよい。GaAs系の材料に替えて、InP系の材料で1.3μmVCSELを構成してもよい。
【0027】
VCSELは基板12と垂直方向に光を出射するので、後述するように、光デバイス10を光トランシーバに適用する場合、直接変調方式が採用される。発光素子150のアノード電極155とカソード電極156から活性層153に注入される電流をオン・オフ制御することで、出力光が直接変調される。発光素子150は、アノード電極155とカソード電極156の間に所定のバイアス電流が印加されて状態で、変調電流がオン、オフ制御されてもよい。
【0028】
発光素子150から出射された光は、レンズ13によってSMF11の端面115でコア111に集光される。発光素子150の出力パワーを高めるために注入電流を増やすと、発光素子150はマルチモード発振する可能性が高くなる。発光素子150がシングルモード発振しても、SMF11のカットオフ波長よりも短い波長でSMF11に入射する光に高次モードが含まれ得るが、曲げ部110で高次モードが放射され、基底モードの変調光が基板12と平行な方向へ伝搬される。これにより、モード間干渉を抑制して、信号光の波形を良好に維持できる。
【0029】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態の光デバイス10Aの模式図である。第2実施形態では、レンズ13を省略し、SMF11と光電変換素子15をバットジョイントで光結合する。光デバイス10Aは、基板12に実装された光電変換素子15と、光電変換素子15に入出力される光を基板12の表面と垂直または斜め上方の第1方向から、または第1方向への案内するSMF11と、を有する。光電変換素子15は、例えばボンディングワイヤ14によって、基板12に形成された配線と電気接続されているが、基板12上に隣接して設けられるドライバ、トランスインピーダンスアンプ(ТIA)などの電気チップにワイヤボンディングされてもよい。SMF11は所定の曲率半径で曲がる曲げ部110を有する。曲げ部110は、光の伝搬方向を、基板と垂直または斜め上方の第1方向と、第1方向と異なる第2方向(たとえば、基板と平行な方向)との間で変換し、かつ高次モードを放射する。
【0030】
SMF11の端面115と光電変換素子15の入出射光面との間は、バットジョイント120で光結合されている。光電変換素子15がVCSELの場合、その光出射面157とSMF11の端面115は、バットジョイント120で直接光結合される。SMF11のコア111の中心軸(光軸)と、VCSELの光出射面157の中心とのアライメントずれがない場合、SMF11の端面115と、VCSELの光出射面157の間のZ方向の間隔が100μm程度離れていても、結合損失は数dB以下である。SMF11の光軸と光出射面157の光軸との間に、±1μm程度のアライメントズレがあっても、SMF11の端面115と、VCSELの光出射面157の間の間隔が60μm以下であれば、2dB以下の結合損失で光結合される。
【0031】
第2実施形態の光デバイス10Aは、部品点数を減らして、SMF11自体に曲げ部110を持たせる簡単な構成で、光の伝搬方向を基板12に対して垂直方向と水平方向の間で変換し、かつ高次モードを除去できる。
【0032】
図3の構成で、SMF11の反対側の端面を、PDが実装された光デバイス10Aの受光面にバットジョイントで光結合したモデルを用いて、損失を計算する。比較として、VCSELと通常の1.3μmSMFとを、レンズを介して光結合し、SMFをプレーナ光波回路のモードフィルタに融着し、モードフィルタの出射側で別のSMFに接続して、レンズでPDの受光面に光結合するモデルの損失を計算する。
【0033】
比較例では、VCSEL→レンズ→SMF→モードフィルタ→SMF→伝送路→SMF→モードフィルタ→SMF→レンズ→PDという構成になる。用いる部品は、2つのレンズと、4本のSMFと、2つのモードフィルタである。
【0034】
VCSELとSMFの間の結合損失が1.0dB、モードフィルタと2本のSMFとの接続部での結合損失は1.4dB(モードフィルタ自体の損失が0.3dB、モードフィルタの両側でのSMFの結合損失が1.0dB、スプライス損失が0.1dB)である。比較例の構成で、送信側でのトータルの損失は、2.4dBである。
【0035】
比較例の受信側では、SMFとPDの受光面との間の結合損失が0.5dB、モードフィルタと2本のSMFとの接続部での結合損失は1.4dB(モードフィルタ自体の損失が0.3dB、モードフィルタの両側でのSMFの結合損失が1.0dB、スプライス損失が0.1dB)である。比較例の構成で、受信でのトータルの損失は、1.9dBである。
【0036】
一方、第2実施形態の光デバイス10Aは、VCSEL→SMF(バットジョイント)→伝送路→SMF(バットジョイント)→PD、という構成である。部品は、曲げ部110を有する2つのSMF11だけである。
【0037】
光デバイス10Aの送信側で、VCSELとSMFのバットジョイント120での結合損失は1.0dB、曲げ部110での基底モードに対する曲げ損失は0.5dBであり、トータルの損失は1.5dBである。比較構成の送信側の損失2.4dBと比べて、0.9dBも損失が改善されている。
【0038】
光デバイス10Aの受信側で、SMFとPDのバットジョイントでの結合損失は0.5dB、曲げ部110での基底モードに対する曲げ損失は0.5dBであり、トータルの損失は1.0dBである。比較構成の受信側の損失1.9dBと比べて、0.9dBも損失が改善されている。送信側と受信側を合わせると、1.8dBの損失改善効果と、6つの部品削減が達成されている。
【0039】
第2実施形態の光デバイス10Aにより、より簡単な構成で、光伝送の方向変換と高次モードの除去が実現される。なお、第1実施形態の光デバイス10では、レンズ13を用いる分だけ第2実施形態より部品点数が多いが、比較例の構成よりも部品4つが削減され、第2実施形態と同程度の損失改善効果が得られる。
【0040】
(第3実施形態)
図4は、第3実施形態の光デバイス10Bの模式図である。第3実施形態では、熱処理により応力を緩和して所定の曲げ半径に固定した固定曲げファイバを利用する。固定曲げファイバは、シリコンフォトニクス回路で光の出射方向を変換するために使用されており、曲げ半径の限界値は2.5mm程度である。既存の固定曲げファイバは、3mmの曲げ半径で、高次モードと基底モードの損失差は0.1dB程度であり、基底モードと高次モードを分離することができない。第3実施形態では、固定曲げファイバを利用するが、高次モードの曲げ損失と基底モードの曲げ損失の差が15dB以上になるように、損失特性を調整する。調整方法として、既存の低損失の固定曲げファイバがもつトレンチ型のインデックスプロファイルを、第3実施形態ではステップ型のインデックスプロファイルへ変更し、曲げ損失が所望の特性となるようにモードフィールド径を調整する。
【0041】
光デバイス10Bは、基板12に実装された光電変換素子15と、光電変換素子15に入出力される光を基板12の表面と垂直または斜め上方の第1方向から、または第1方向へと案内するSMF11Bと、を有する。SMF11Bは、インデックスプロファイルが調整され、かつ、熱処理により応力を緩和して所定の曲率半径に固定された固定曲げファイバである。光電変換素子15は、例えばボンディングワイヤ14によって、基板12に形成された配線と電気接続されているが、基板12上に隣接して設けられるドライバ、トランスインピーダンスアンプ(ТIA)などの電気チップにワイヤボンディングされてもよい。SMF11Bは、所定の曲率半径に固定された曲げ部110Bを有する。曲げ部110Bは、光の伝搬方向を、基板と垂直または斜め上方の第1方向と、第1方向と異なる第2方向(たとえば基板と平行な方向)との間で変換し、かつ高次モードを放射する。
【0042】
応力が緩和され、インデックスプロファイルが調整された固定曲げファイバを用いることで、SMF11Bの物理的な破損や故障の可能性を低減して、光結合の信頼性を維持することができる。光デバイス10Bは、光デバイス10、及び10Aと同様に、光伝搬方向をほぼ90°変換し、かつ、曲げ部110Bで高次モードを放射し、基底モードを低損失で伝搬させる。
【0043】
(第4実施形態)
図5Aは、第4実施形態の光デバイス10Cの模式図である。第4実施形態では、SMF11をファイバガイドブロック18で保持する。ファイバガイドブロック18は、上面182と、光電変換素子15に隣接する前面184と、上面182と前面184を接続する湾曲したコーナー部183と、を有する。ファイバガイドブロック18には、上面182からコーナー部183を通って、前面184の少なくとも一部まで延びる溝181が形成されている。溝181内にSMF11をはめ込むことで、SMF11に所定の曲率半径で曲がる曲げ部110が形成され、かつ、SMF11を光電変換素子15に対して精度良く位置合わせできる。
【0044】
ファイバガイドブロック18のコーナー部183は、SMF11が、所定の曲率半径の曲げ部110を持つように湾曲している。SMF11の曲げ部110の曲率半径は、高次モードの曲げ損失と基底モードの曲げ損失の差が15dB以上、好ましくは18dB以上、さらに好ましくは20dB以上となる値に設定されている。これにより、光電変換素子15に入出力される光の基底モードを低損失で透過させるとともに、高次モードをSMF11から放射する。
【0045】
ファイバガイドブロック18の高さを調整するために、基板12に支持層17を形成してもよい。支持層17は、接着剤、樹脂、絶縁体等で形成される。支持層17の厚さを、光電変換素子15の高さに合わせることで、ファイバガイドブロック18に保持されたSMF11と光電変換素子15をバットジョイント120で光結合できる。
【0046】
図5Bは、SMF11を保持する溝181の模式図である。
図5Bに例示される溝181はV溝であるが、断面が半円形、またはU字型の溝であってもよい。溝181にSMF11を嵌め込むことで、SMF11が安定的に保持され、かつ、設計された曲率半径の曲げ部110が形成される。これにより、光の伝搬方向を基板12と垂直な第1方向と、基板12と平行な第2方向の間で変換するとともに、高次モードを放射して、基底モードを低損失で透過させる。
【0047】
(第5実施形態)
図6は、第5実施形態の光デバイス10Dの模式図である。第5実施形態では、基板12上に実装された光電変換素子アレイ15
ARRに対して、複数のSMF11を担持するファイバアレイ11
ARRを光結合する。ファイバアレイ11
ARRは、複数のSMF11を保持するファイバホルダ192を有する。ファイバホルダ192には、複数のSMF11を所定の間隔で個別に保持する複数の溝が形成されており、SMF11はファイバホルダ192の溝内に保持されている。
【0048】
ファイバホルダ192は、各SMF11の端面が、光電変換素子アレイ15ARRの対応する光電変換素子と対向するように、基板12に固定される。各SMF11と対応する光電変換素子の間の光結合は、バットジョイントで実現されてもよい。あるいは、ファイバアレイ11ARRと光電変換素子アレイ15ARRの間に集光用のマイクロレンズアレイが配置されてもよい。
【0049】
ファイバホルダ192に保持されている部分のSMF11は、基板12とほぼ垂直に延び、曲げ部110によりほぼ90°方向変換されて、基板12と平行な方向に延びる。各SFM11は、あらかじめインデックスプロファイルが調整され、かつ、熱処理で応力が緩和された状態で所定の曲率半径に固定された固定曲げファイバであってもよい。この場合、曲げ部110での各SMF11の損傷を抑制し、高次モードを放射して、基底モードを低損失で伝搬させることができる。
【0050】
基板12と平行に延びる部分のSMF11を安定して保持するために、基板12上にファイバガイドブロック19が配置されてもよい。ファイバガイドブロック19の高さ調整用に、基板12上に、支持層17が形成されてもよい。光電変換素子アレイ15ARRの各光電変換素子は、基板12に実装された電気回路チップ20と電気的に接続されている。光電変換素子アレイ15ARRと電気回路チップ20は、ボンディングワイヤで接続されていてもよいし、基板12に形成された配線により接続されていてもよい。
【0051】
(光トランシーバへの適用例)
図7は、実施形態の光デバイスを用いた光トランシーバ100のブロック図である。光トランシーバ100は、基板12上に実装された送信側光デバイス10Tと受信側光デバイス10Rを含む。送信側光デバイス10Tは、発光素子15
VCと、この発光素子15
VCに光結合されるSMF11を含む。SMF11は、発光素子15
VCとの光結像側に曲げ部110を有する。曲げ部110は、光の伝搬方向を基板12に対して垂直方向と水平方向の間で変換する垂直水平変換器117として機能するとともに、高次モードを除去するモードフィルタ118として機能する。モードフィルタ118において、高次モードに対する曲げ損失と、基底モードに対する曲げ損失の差は、15dB以上、好ましくは18dB以上、さらに好ましくは20dB以上である。
【0052】
受信側光デバイス10Rは、受光素子15PDと、この受光素子15PDに光結合されるSMF11を含む。SMF11は、受光素子15PDとの光結像側に曲げ部110を有する。曲げ部110は、光の伝搬方向を基板12に対して垂直方向と水平方向の間で変換する垂直水平変換器117として機能するとともに、高次モードを除去するモードフィルタ118として機能する。モードフィルタ118において、高次モードに対する曲げ損失と、基底モードに対する曲げ損失の差は、15dB以上、好ましくは18dB以上、さらに好ましくは20dB以上である。
【0053】
光トランシーバ100は、送信側光デバイス10Tに接続される送信用IC20Tと、受信側光デバイス10Rに接続される受信用IC20Rを有する。送信用IC20Tは、電気回路チップ20の一例であり、たとえば、発光素子15VCを駆動するドライバ回路を有する。ドライバ回路を含む送信用IC20Tは、デジタル信号プロセッサ(DSP)等の大規模集積回路(LSI)から入力されるデータ信号に基づいて、発光素子15VCを直接変調する変調駆動信号を生成し、出力する。
【0054】
受信用IC20Rは、電気回路チップ20の一例であり、受光素子15PDから出力される光電流を電圧信号に変換し増幅するTIAを有する。TIAから出力される電圧信号は、DSPやその他のLSIに供給される。
【0055】
光トランシーバ100では、送信側と受信側のそれぞれで伝送路の方向を垂直と水平の間で変換し、かつ基底モードを低損失で伝搬させて高次モードを除去する。これによりモード間干渉を抑制して、光信号の波形を維持することができる。光トランシーバ100の全体を基板12ごとケーシング内に収容してもよい。曲げ部110において、SMF11の方向を、3mmから7mmという小さな曲げ半径で約90°方向変換しているので、ケーシングを含めて光トランシーバ100を小型化できる。
【0056】
以上、特定の構成例に基づいて光デバイス10の高次モード除去構成を述べてきたが、本開示は上述した構成例に限定されない。各実施形態の構成をそれぞれ組み合わせてもよい。すべての実施形態において、熱処理により応力を緩和したSMFを用いてもよいし、複数のSMF11を配置したファイバアレイを用いてもよい。光電変換素子15がSMF11のカットオフ波長以下の波長で動作する場合や、伝送路で高次モードが発生した場合でも、曲げ部110で高次モードを除去して、光信号の品質を維持することができる。
【0057】
以上の開示に対して、以下の付記を提示する。
(付記1)
基板に実装された光電変換素子と、
前記光電変換素子に入出力される光を、前記基板に対して垂直または斜め上方の第1方向へ、または第1方向から案内するシングルモードファイバと、
を有し、
前記シングルモードファイバは所定の曲率半径で曲がる曲げ部を有し、前記曲げ部は、前記光の伝搬方向を、前記第1方向と、前記第1方向と異なる第2方向との間で変換し、かつ高次モードを放射する、
光デバイス。
(付記2)
前記第2方向は、前記基板と平行な方向である、
付記1に記載の光デバイス。
(付記3)
前記曲げ部の曲率半径は3mm以上、7mm以下である、
付記1または2に記載の光デバイス。
(付記4)
前記曲げ部における前記高次モードの曲げ損失と、基底モードの曲げ損失との差は15dB以上である、
付記1から3のいずれかに記載の光デバイス。
(付記5)
前記光電変換素子は垂直共振器面発光レーザ、または前記基板と平行な受光面を有するフォトダイオードである、
付記1から4のいずれかに記載の光デバイス。
(付記6)
前記シングルモードファイバは、熱処理により応力を緩和した状態で前記所定の曲率半径に固定された固定曲げファイバである、
付記1から5のいずれかに記載の光デバイス。
(付記7)
前記シングルモードファイバと前記光電変換素子はバットジョイント接続されている、
付記1から6のいずれかに記載の光デバイス。
(付記8)
前記光電変換素子と前記シングルモードファイバの端面との間に配置されるレンズ、
を有し、
前記レンズは、前記光電変換素子から出射される前記光を前記シングルモードファイバのコアに集光し、または前記シングルモードファイバの前記コアから出射される光を前記光電変換素子の受光面に集光する、
付記1から6のいずれかに記載の光デバイス。
(付記9)
前記シングルモードファイバは1.3μm帯用の光ファイバであり、
前記光電変換素子は、前記シングルモードファイバのカットオフ波長である1.26μm以下の波長帯で動作する、
付記1から8のいずれかに記載の光デバイス。
(付記10)
前記基板の上に搭載さされて前記シングルモードファイバを案内するファイバガイドブロック、
を有し、前記ファイバガイドブロックは前記シングルモードファイバの前記曲げ部を保持する湾曲したコーナー部を有する、付記1から9のいずれかに記載の光デバイス。
(付記11)
複数の前記シングルモードファイバを保持するファイバホルダと、
複数の前記光電変換素子の配列を有する光電変換素子アレイと、
を有し、複数の前記シングルモードファイバの各々は前記曲げ部を有する、
付記1から10のいずれかに記載の光デバイス。
(付記12)
請求項1から11のいずれかに記載の光デバイスと、
前記基板に実装され、前記光電変換素子との間で電気信号を入出力する電気回路と、
を有する光トランシーバ。
(付記13)
前記電気回路は前記光電変換素子を駆動する駆動信号を生成し、前記光電変換素子は前記駆動信号で直接変調されて光信号を出力する、
付記12に記載の光トランシーバ。
【符号の説明】
【0058】
10、10A、10B、10C、10D 光デバイス
10T 送信側光デバイス
10R 受信側光デバイス
11 シングルモードファイバ(SMF)
11ARR ファイバアレイ
11D 固定曲げファイバ
12 基板
13 レンズ
15 光電変換素子
15VC 発光素子
15PD 受光素子
15ARR 光電変換素子アレイ
17 支持層
18、19 ファイバガイドブロック
20 電気回路チップ
20T 送信用IC
20R 受信用IC
100 光トランシーバ
110 曲げ部
111 コア
112 クラッド
115 端面
117 垂直水平変換器
118 モードフィルタ
120 バットジョイント
157光出射面
181 溝
192 ファイバホルダ