IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナガセケムテックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-三次元造形用組成物 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024860
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】三次元造形用組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/20 20060101AFI20250214BHJP
   C08F 220/58 20060101ALI20250214BHJP
   B33Y 40/20 20200101ALI20250214BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20250214BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20250214BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20250214BHJP
   B29C 64/129 20170101ALI20250214BHJP
【FI】
C08F220/20
C08F220/58
B33Y40/20
B33Y70/00
B33Y80/00
B29C64/314
B29C64/129
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129201
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】渡部 功治
(72)【発明者】
【氏名】渡海 達也
【テーマコード(参考)】
4F213
4J100
【Fターム(参考)】
4F213AA44
4F213AB04
4F213AB11
4F213AB17
4F213AR17
4F213WA25
4F213WA54
4F213WA58
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL12
4F213WL23
4F213WL25
4F213WW37
4J100AL66P
4J100AM21Q
4J100BA02Q
4J100BC07P
4J100BC37P
4J100CA03
4J100CA23
4J100DA09
4J100DA48
4J100DA49
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA18
(57)【要約】
【課題】低粘度でありながら、高い強度と耐熱性を有する三次元造形物を得ることができる三次元造形用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物1~40質量%、および、飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物60~99質量%を含むラジカル重合性化合物を含有し、さらに、前記ラジカル重合性化合物100質量部に対して、ラジカル光開始剤0.1~10質量部、および、無機充填材60~400質量部を含有する三次元造形用組成物に関する。
【選択図】なし


【特許請求の範囲】
【請求項1】
飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物1~40質量%、および、飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物60~99質量%を含むラジカル重合性化合物を含有し、
さらに、前記ラジカル重合性化合物100質量部に対して、ラジカル光開始剤0.1~10質量部、および、無機充填材60~400質量部を含有する三次元造形用組成物。
【請求項2】
前記単官能ラジカル重合性化合物および前記多官能ラジカル重合性化合物の少なくとも一方が窒素を含む複素環を有する、請求項1に記載の三次元造形用組成物。
【請求項3】
前記単官能ラジカル重合性化合物が(メタ)アクリロイルモルフォリンを含み、
前記多官能ラジカル重合性化合物がトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートを含み、
前記無機充填材が平均粒子径0.1~8μmのシリカを含む
請求項1または2に記載の三次元造形用組成物。
【請求項4】
前記無機充填材が表面に(メタ)アクリル基を有する請求項1または2に記載の三次元造形用組成物。
【請求項5】
30℃での粘度が100~3000mPa・sである請求項1または2に記載の三次元造形用組成物。
【請求項6】
405nm以下のトップ照射波長を用いるSLA装置に用いる請求項1または2に記載の三次元造形用組成物。
【請求項7】
455nm以下のトップ照射波長を用いるDLP装置に用いる請求項1または2に記載の三次元造形用組成物。
【請求項8】
樹脂型の作製に使用される請求項1または2に記載の三次元造形用組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の三次元造形用組成物を硬化して得られる三次元造形物であって、
ASTM D648に準拠して荷重0.45MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度が180℃以上で、曲げ強度が150MPa以上である三次元造形物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の三次元造形用組成物を硬化して得られる三次元造形物であって、
ASTM D648に準拠して荷重1.8MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度が120℃以上で、曲げ強度が150MPa以上である三次元造形物。
【請求項11】
TG-DTA測定による300℃での重量減少率が0.5%以下である請求項9に記載の三次元造形物。
【請求項12】
請求項1または2に記載の三次元造形用組成物を用いて三次元造形物を作製する工程、および、
得られた三次元造形物をフッ素シランコーティング液で表面処理する工程
を含む三次元造形物の製造方法。
【請求項13】
前記三次元造形物が樹脂型である請求項12に記載の三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元造形用組成物、および、該組成物を光硬化させた三次元造形物に関する。
【背景技術】
【0002】
三次元光造形方法として、SLA方式(ステレオリソグラフィー)とDLP方式(デジタルライトプロセッシング)という方法があり、金型などの耐熱性が要求される用途が存在する。三次元造形物の耐熱性の向上のために多官能性モノマーを使用すると、強度が不足するという問題がある。また、耐熱性付与のために金属酸化物を充填すると、強度が不足するとともに、組成物の粘度が上昇し、造形不良になるという問題がある。
【0003】
特許文献1には、アクリロイルモルフォリンとトリシクロデカンジメタノールジアクリレートを併用する三次元造形物が開示されている。しかしながら、無機充填材の記載はない。このような組成物では、耐熱性と強度の両立を達成することは困難である。また、無機充填材を配合する場合には、組成物の粘度上昇にともなう作業性や、無機充填材の分散安定性も問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-70123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低粘度でありながら、高い強度と耐熱性を有する三次元造形物を得ることができる三次元造形用樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討したところ、特定のラジカル重合性化合物と特定量の無機充填材を含むことにより、低粘度でありながら、高い強度と耐熱性を有する三次元造形物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明(1)は、飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物1~40質量%、および、飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物60~99質量%を含むラジカル重合性化合物を含有し、
さらに、前記ラジカル重合性化合物100質量部に対して、ラジカル光開始剤0.1~10質量部、および、無機充填材60~400質量部を含有する三次元造形用組成物である。
【0008】
本発明(2)は、前記単官能ラジカル重合性化合物および前記多官能ラジカル重合性化合物の少なくとも一方が窒素を含む複素環を有する、本発明(1)に記載の三次元造形用組成物である。
【0009】
本発明(3)は、前記単官能ラジカル重合性化合物が(メタ)アクリロイルモルフォリンを含み、
前記多官能ラジカル重合性化合物がトリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートを含み、
前記無機充填材が平均粒子径0.1~8μmのシリカを含む
本発明(1)または(2)に記載の三次元造形用組成物である。
【0010】
本発明(4)は、前記無機充填材が表面に(メタ)アクリル基を有する本発明(1)~(3)のいずれかに記載の三次元造形用組成物である。
【0011】
本発明(5)は、30℃での粘度が100~3000mPa・sである本発明(1)~(4)のいずれかに記載の三次元造形用組成物である。
【0012】
本発明(6)は、405nm以下のトップ照射波長を用いるSLA装置に用いる本発明(1)~(5)のいずれかに記載の三次元造形用組成物である。
【0013】
本発明(7)は、455nm以下のトップ照射波長を用いるDLP装置に用いる本発明(1)~(5)のいずれかに記載の三次元造形用組成物である。
【0014】
本発明(8)は、樹脂型の作製に使用される本発明(1)~(7)のいずれかに記載の三次元造形用組成物である。
【0015】
また、本発明(9)は、本発明(1)~(8)のいずれかに記載の三次元造形用組成物を硬化して得られる三次元造形物であって、
ASTM D648に準拠して荷重0.45MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度が180℃以上で、曲げ強度が150MPa以上である三次元造形物である。
【0016】
本発明(10)は、本発明(1)~(8)のいずれかに記載の三次元造形用組成物を硬化して得られる三次元造形物であって、
ASTM D648に準拠して荷重1.8MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度が120℃以上で、曲げ強度が150MPa以上である三次元造形物である。
【0017】
本発明(11)は、TG-DTA測定による300℃での重量減少率が0.5%以下である本発明(9)または(10)に記載の三次元造形物である。
【0018】
さらに、本発明(12)は、本発明(1)~(8)のいずれかに記載の三次元造形用組成物を用いて三次元造形物を作製する工程、および、
得られた三次元造形物をフッ素シランコーティング液で表面処理する工程
を含む三次元造形物の製造方法である。
【0019】
本発明(13)は、前記三次元造形物が樹脂型である本発明(12)に記載の三次元造形物の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の三次元造形用樹脂組成物は、低粘度でありながら、高い強度と耐熱性を有する三次元造形物を得ることができ、SLA方式やDLP方式の三次元光造形装置に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る三次元造形用樹脂組成物を用いて、光造形により三次元造形物を形成する工程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<<三次元造形用組成物>>
本発明の三次元造形用組成物は、飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物1~40質量%、および、飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物60~99質量%を含むラジカル重合性化合物を含有し、さらに、前記ラジカル重合性化合物100質量部に対して、ラジカル光開始剤0.1~10質量部、および、無機充填材60~400質量部を含有することを特徴とする。強度は破断伸度に大きく依存しているため、本発明は、架橋密度を低減することで破断伸度を長くして強度を向上させ、架橋密度の低減により低下した弾性率や耐熱性を無機充填材で補うというコンセプトに基づきなされた発明である。
【0023】
飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物について、飽和の環構造としては、モルホリル構造、イソボニル構造、シクロデカン構造、ジシクロデカン構造、トリシクロデカン構造、ジシクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、アダマンタン構造、イソシアヌル構造などが挙げられる。飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物としては、(メタ)アクリロイルモルフォリン、(メタ)アクリル酸イソボニル、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、アダマンチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0024】
飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物の含有量は、ラジカル重合性化合物中、1~40質量%であるが、10~30質量%が好ましい。1質量%未満では、強度が不足となる傾向があり、40質量%を超えると、耐熱性が不足する傾向がある。
【0025】
飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物について、多官能とは官能基が2個以上であればよく、上限は限定されないが、4個以下が好ましい。飽和の環構造としては、モルホリル構造、イソボニル構造、シクロデカン構造、ジシクロデカン構造、トリシクロデカン構造、ジシクロペンタン構造、シクロヘキサン構造、アダマンタン構造、イソシアヌル構造などが挙げられる。飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物としては、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物の含有量は、ラジカル重合性化合物中、60~90質量%であるが、60~80質量%が好ましい。60質量%未満では、耐熱性が不足する傾向があり、90質量%を超えると、強度が不足する傾向がある。
【0027】
前記単官能ラジカル重合性化合物および前記多官能ラジカル重合性化合物の少なくとも一方が窒素を含む複素環を有することが好ましい。窒素を含む複素環構造としては、モルホリル構造、イソシアヌル構造などが挙げられる。たとえば、単官能ラジカル重合性化合物としては(メタ)アクリロイルモルフォリンが挙げられ、多官能ラジカル重合性化合物としてはトリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0028】
ラジカル重合性化合物中、飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物および飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物以外のラジカル重合性化合物を含んでいてもよい。
【0029】
単官能のラジカル重合性化合物としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸セチル、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシブチル、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-t-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミドなどの(メタ)アクリル酸アミド、スチレン、イタコン酸メチル、イタコン酸エチル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、3-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリジノン、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0030】
多官能のラジカル重合性化合物としては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0031】
飽和の環構造を有する単官能ラジカル重合性化合物および飽和の環構造を有する多官能ラジカル重合性化合物以外のラジカル重合性化合物の含有量は0~20質量%が好ましく、0~10質量%がより好ましい。
【0032】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合性化合物のホモポリマーのガラス転移温度が80℃以上、好ましくは100℃以上となる化合物が好ましい。80℃未満では、耐熱性に劣る傾向がある。ここで、ガラス転移温度は、実際にホモポリマーを重合してガラス転移温度を測定しても良く、原子団寄与法により計算で求めることもできる。
【0033】
<ラジカル光開始剤>
ラジカル光開始剤は、光の作用により活性化してラジカルを発生し、ラジカル重合性化合物の重合を開始させる。ラジカル光重合開始剤としては、例えば、アルキルフェノン系光重合開始剤、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤などが挙げられる。
【0034】
アルキルフェノン系光重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノンなどが挙げられる。
【0035】
アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-ホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。
【0036】
ラジカル光開始剤の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して0.1~10質量部であり、0.1~5質量部が好ましい。0.1質量部未満では、硬化不良となる傾向となり、10質量部を超えると、貯蔵安定性の不良や吸収による硬化不良となる傾向がある。
【0037】
<無機充填材>
無機充填材は、特に限定されないが、無機フィラー、架橋構造を有する有機フィラーなどが挙げられる。無機フィラーの材質の具体例としては、例えば、コロイダルシリカ、中空シリカ、フュームドシリカ等のシリカ及びチタニア、ジルコニア等の金属酸化物の他、熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂をシリカで被覆したコアシェル型のアクリル-シリカ複合体、メラミン樹脂をシリカで被覆したコアシェル型のメラミン-シリカ複合体、シリカを熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂で被覆したコアシェル型のアクリル-シリカ複合体、シリカをメラミン樹脂で被覆したコアシェル型のメラミン-シリカ複合体、熱可塑性又は熱硬化性のアクリル樹脂により小さなシリカを担持させたアクリル-シリカ複合体のような有機無機複合体等が挙げられる。有機フィラーの材質の具体例としては、特に限定されるものではないが、例えばフッ素樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂、ウレタンゴム等が挙げられる。
【0038】
無機充填材の平均粒子径は特に限定されないが、0.1~8μmが好ましく、0.3~5μmがより好ましく、0.5~1.5μmがより好ましい。0.1μm未満では、高粘度となる傾向があり、8μmを超えると、沈降安定性が悪くなる傾向がある。
【0039】
無機充填材が表面に(メタ)アクリル基を有することが好ましい。このような官能基は、無機充填材を(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤で処理することにより、無機充填材表面に導入することができる。
【0040】
無機充填材の含有量は、ラジカル重合性化合物100質量部に対して60~400質量部であり、100~300質量部が好ましい。60質量部未満では、耐熱性が不足する傾向があり、400質量部を超えると、高粘度となる傾向がある。
【0041】
<添加剤>
本発明の三次元造形用樹脂組成物は、重合禁止剤、連鎖移動剤、ワックス粒子、染料、紫外線増感剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料、界面活性剤、光吸収剤などの公知の添加剤を含むことができる。
【0042】
重合禁止剤としては、例えば、4-メトキシフェノール、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、tert-ブチル-ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、4-メチルキノリン、フェノチアジン、2,6-ジイソブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール、アンモニウム-N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N-ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアンモニウム等が挙げられる。重合禁止剤の配合量は、全樹脂組成物中0.001~1.0質量%が好ましく、0.01~0.3質量%がより好ましい。
【0043】
連鎖移動剤を配合することにより、反応性モノマーの重合度(反応性モノマーからなるポリマーの分子量)を制御することができる。連鎖移動剤としては、例えば、ポリオール、水、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)等のチオール基含有化合物等が挙げられる。連鎖移動剤の配合量は、全樹脂組成物中0.00001~10質量%が好ましく、0.0001~1質量%がより好ましい。ポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0044】
光吸収剤を配合することにより、硬化性の制御をより容易にすることができる。光吸収剤としては、2,5-ビス(5-tert -ブチル-2-ベンゾオキサゾリルチオフェン)などが挙げられる。光吸収剤の配合量は、全樹脂組成物中0.001~0.5質量%が好ましく、0.005~0.1質量%がより好ましい。
【0045】
本発明の三次元造形用樹脂組成物は、室温で液状であることが好ましい。室温で液状であることで、3Dプリンタなどを用いて容易に光造形することができる。本発明の三次元造形用樹脂組成物の30℃における粘度は100~3000mPa・sが好ましく、200~1000mPa・sがより好ましい。なお、樹脂組成物の粘度は、コーンプレート型のE型粘度計を用いて、20rpmの回転速度で測定することができる。
【0046】
本発明の三次元造形用樹脂組成物は、様々な造形方法により、二次元や三次元などの造形物(またはパターン)を形成することができ、特に、光造形に適している。三次元造形用樹脂組成物は、室温で液状であるため、例えば、バット方式の光造形に用いてもよく、インクジェット式の光造形に用いてもよい。特に405nm以下のトップ照射波長を用いるステレオリソグラフィー(SLA)装置に好適に適用することができる。
【0047】
<<三次元造形物>>
本発明の三次元造形物は、前記三次元造形用組成物を硬化して得られる三次元造形物であって、ASTM D648に準拠して荷重0.45MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度が180℃以上で、曲げ強度が150MPa以上であるか、または、ASTM D648に準拠して荷重1.8MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度が120℃以上で、曲げ強度が150MPa以上であることを特徴とする。
【0048】
ASTM D648に準拠して荷重0.45MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度は180℃以上であるが、250℃以上が好ましい。また、ASTM D648に準拠して荷重1.8MPaでエッジワイズ法により測定した荷重たわみ温度は120℃以上であるが、150℃以上が好ましい。
【0049】
曲げ強度は150MPa以上であるが、170MPa以上が好ましい。150MPa未満では、強度が不十分である。なお、曲げ強度はASTM D790に準拠して測定する。
【0050】
本発明の三次元造形物のショアD硬度は特に限定されないが、D80以上が好ましく、D85以上がより好ましい。D80未満では、強度が不十分となる傾向がある。ここで、ショアD硬度は、タイプDデュロメータを用い、JIS K7215:1986に準拠して測定する。
【0051】
本発明の三次元造形物のTG-DTA測定による300℃での重量減少率は特に限定されないが、0.5%以下が好ましく、0.3%以下がより好ましい。0.5%を超えると、熱分解しやすい傾向となる傾向がある。
【0052】
本発明の三次元造形物は、SLA装置、特に405nm以下のトップ照射波長を用いるSLAや、455nm以下のトップ照射波長を用いるDLPに最適に適用できる。
【0053】
本発明の三次元造形物は、様々な用途に使用可能であるが、歯科アライナー成形型、樹脂型、プラスチック射出成型物代替用途などに使用することができる。
【0054】
本発明の三次元造形用組成物を用いて、以下に示す方法により、本発明の三次元造形物を作製することができる。
(1)本発明の三次元造形用組成物からなる第1液膜を形成し、第1液膜を硬化させて第1パターンを形成する工程、および、
(2)第1パターンに接するように、本発明の三次元造形用樹脂組成物からなる第2液膜を形成し、第2液膜を硬化させて第2パターンを積層し、三次元造形物を形成する工程
を含む。
【0055】
以下に、図1を参照しながら、バット方式の光造形の手順について説明する。図1は、樹脂槽(バット)を備える光造形装置(パターニング装置)を用いて三次元造形物を形成する場合の一例である。図示例では、吊り下げ方式の造形について示したが、三次元造形用樹脂組成物を用いて三次元造形することができる方法であれば特に制限されない。また、光照射(露光)の方式についても特に制限されず、点露光でも、面露光でもよい。
【0056】
光造形装置1は、パターン形成面2aを備えるプラットフォーム2と、三次元造形用樹脂組成物5を収容した樹脂槽3と、面露光方式の光源としてのプロジェクタ4とを備える。
【0057】
(1)第1液膜を形成し、硬化させて第1パターンを形成する工程
工程(1)では、(a)に示すように、まず、樹脂槽3に収容された三次元造形用樹脂組成物5に、プラットフォーム2のパターン形成面2aを、プロジェクタ4(樹脂槽3の底面)に向けた状態で浸漬させる。このときに、パターン形成面2aとプロジェクタ4(または樹脂槽3の底面)との間に液膜7a(液膜a)が形成されるように、パターン形成面2a(またはプラットフォーム2)の高さを調整する。次いで、(b)に示すように、プロジェクタ4から液膜7aに向けて、光Lを照射(面露光)することで、液膜7aを光硬化させて第1パターン8a(パターンa)を形成する。
【0058】
光造形装置1では、樹脂槽3が、三次元造形用樹脂組成物5の供給ユニットとしての役割を有する。液膜に光源から光が照射されるように、樹脂槽3の少なくとも、液膜とプロジェクタ4との間に存在する部分(図1では底面)は露光波長に対して透明であることが望ましい。プラットフォーム2の形状、材質、およびサイズなどは特に制限されない。
【0059】
液膜aを形成した後、光源から液膜aに向かって光照射することにより、液膜aを光硬化させる。光照射は、公知の方法で行うことができる。露光方式は、特に制限されず、点露光でも面露光でもよい。光源としては、光硬化に使用される公知の光源が使用できる。点露光方式の場合には、例えば、プロッター式、ガルバノレーザ(またはガルバノスキャナ)方式、SLA(ステレオリソグラフィー)方式などが挙げられる。露光波長は、三次元造形用樹脂組成物の構成成分(特に、光重合開始剤の種類)に応じて適宜選択できる。
【0060】
(2)第1パターンに接するように、第2液膜を形成し、第2液膜を硬化させて第2パターンを積層し、三次元造形物を作製する工程
工程(2)では、工程(1)で得られたパターンaと、光源との間に、三次元造形用樹脂組成物5を供給して、液膜(液膜b)を形成する。つまり、パターン形成面に形成されたパターンa上に液膜bを形成する。三次元造形用樹脂組成物5の供給は、工程(1)と同様である。
【0061】
例えば、図1の(c)に示すように、第1パターン8a(二次元パターンa)を形成した後、第1パターン形成面2aをプラットフォーム2ごと上昇させてもよい。そして、第1パターン8aと樹脂槽3の底面との間に三次元造形用樹脂組成物5を供給することにより、液膜7b(液膜b)を形成することができる。
【0062】
形成した液膜bに対して、光源から露光して、液膜bを光硬化させ、第1パターンaに別のパターン(液膜bの光硬化により得られるパターンb)を積層する。このようにパターンが厚み方向に積層されることで、三次元造形パターンを形成することができる。
【0063】
例えば、図1の(d)に示すように、第1パターン8a(パターンa)と樹脂槽3の底面との間に形成された液膜7b(液膜b)に、プロジェクタ4から露光して、液膜7bを光硬化させる。この光硬化により、液膜7bが第2パターン8b(パターンb)に変換される。このようにして、第1パターン8aに第2パターン8bを積層することができる。光源や露光波長などは、工程(1)についての記載を参照できる。
【0064】
工程(2)は複数回繰り返すことができる。繰り返すことにより、複数のパターンbが厚み方向に積層されることになり、さらに立体的な造形パターンが得られる。繰り返し回数は、所望する三次元造形物(三次元造形パターン)の形状やサイズなどに応じて適宜決定できる。
【0065】
例えば、図1の(e)に示すように、パターン形成面2a上に第1パターン8a(パターンa)および第2パターン8b(パターンb)が積層された状態のプラットフォーム2を上昇させる。このとき、第2パターン8bと樹脂槽3の底面との間に液膜7b(液膜b)が形成される。そして、図1の(f)に示すように、プロジェクタ4から液膜7bに対して露光し、液膜7bを光硬化させる。これにより、第1パターン8b上に別のパターン8b(パターンb)が形成される。そして、(e)と(f)とを交互に繰り返すことで、複数のパターン8b(二次元パターンb)を積層させることができる。
【0066】
工程(2)は、さらに、第1パターンおよび第2パターンを、溶剤で洗浄する工程を含むことが好ましい。得られた三次元造形パターンには、未硬化の三次元造形用樹脂組成物が付着しているため、該組成物を取り除くために行われる。具体的な溶剤としては、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノールなどが挙げられる。
【0067】
得られた三次元造形パターンには、必要に応じて、後硬化を施してもよい。後硬化は、パターンに光照射することで行うことができる。光照射の条件は、三次元造形用樹脂組成物の種類や得られたパターンの硬化の程度などに応じて適宜調節できる。後硬化は、パターンの一部に対して行ってもよく、全体に対して行ってもよい。
【0068】
また、本発明の三次元造形物の製造方法は、
本発明の三次元造形用組成物を用いて三次元造形物を作製する工程、および、
得られた三次元造形物をフッ素シランコーティング液で表面処理する工程
を含むことを特徴とする。
【0069】
本発明の三次元造形用組成物を用いて三次元造形物を作製する工程は前述した通りである。三次元造形物をフッ素シランコーティング液で表面処理する工程により、三次元造形物に離型性という機能を付与することができる。フッ素系コーティング液としては、フッ素シリコーン系の材料が挙げられる。表面処理する方法は特に限定されず、加熱処理などが挙げられる。フッ素系コーティング液で表面処理することにより離型性が向上するため、樹脂型に好適に適用することができる。
【実施例0070】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。以下、「部」又は「%」は特記ない限り、それぞれ「質量部」又は「質量%」を意味する。
【0071】
以下に、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
【0072】
<<単官能ラジカル重合性化合物>>
アクリロイルモルフォリン(ACMO、KJケミカルズ株式会社製)
【0073】
<<多官能ラジカル重合性化合物>>
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート(IRR 214-K、ダイセルオルネクス株式会社製)
トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリアクリレート65質量%(第1化合物)とトリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートジアクリレート35質量%(第2化合物)の混和物(M-313、東亜合成株式会社製)
【0074】
<<ラジカル開始剤>>
2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル‐ホスフィンオキサイド(Omnirad TPO-H、IGM resin社製)
【0075】
<<光吸収剤>>
2,5-ビス(5-tert -ブチル-2-ベンゾオキサゾリルチオフェン)(Nikkafluor OB、株式会社日本化学工業所製)
【0076】
<<重合禁止剤>>
メチルハイドロキノン(MeHQ、東京化成株式会社製)
【0077】
<<無機充填材>>
シリカ(SC2500-SMJ、株式会社アドマテックス製)、平均粒子径:500nm、メタクリルシランで処理
【0078】
実施例1~5および比較例1~2
表1に示す配合量(質量比)で、各成分を混合した。攪拌しながら80℃のオーブンで加熱して、固形成分を溶解させることにより均一な液状の樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0079】
<粘度>
コーンプレート型のE型粘度計(TVE-20H、東機産業株式会社)を用いて、30℃にて20rpmの回転速度で光硬化性樹脂組成物の粘度を測定した。
【0080】
<ショアD硬度>
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozen Shuffle XL)を用いて、1層当たりの照射時間5秒およびz軸(高さ方向)のピッチ50μmの条件で、短冊状のサンプル(縦35mm×横20mm×厚み(高さ)6mm)を作製した。タイプDデュロメータを用い、JIS K7215:1986に準拠して、ショアD硬度を測定した。
【0081】
<荷重たわみ温度>
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozen Shuffle XL)を用いて、ピッチ50μmの条件で試験片を作製した。この試験片を用いて、ASTM D648に準拠して荷重1.8MPaでエッジワイズ法により荷重たわみ温度(℃)、および、ASTM D648に準拠して荷重0.45MPaでエッジワイズ法により荷重たわみ温度(℃)を測定した。
【0082】
<曲げ強度>
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozen Shuffle XL)を用いて、ピッチ50μmの条件で試験片を作製した。この試験片を用いて、ASTM D638に準拠して曲げ強度(MPa)を測定した。
【0083】
<300℃での重量減少率>
実施例および比較例で作製した樹脂組成物約1gをガラス板に挟み、UV照射装置(株式会社アイテックシステム製)を用い、7mW/cmで60秒ごとに照射して、厚みが約1mmの片面に硬化物を形成したガラス板を作製した。得られたサンプルについて、DTG-60(株式会社島津製作所製)を用いて、5℃/minの昇温速度で、50~900℃まで昇温した。初期重量と300℃時の重量について重量減少率を求めた。
【0084】
【表1】
【0085】
表1に示すように、比較例1では耐熱性は高く粘度は低いが強度や重量減少率が低く、また比較例1に対してシリカをいれた比較例2について重量減少率は改善されたが、粘度が高くまた強度の改善も確認されていない。一方で、実施例1~5については飽和の環構造である単管能アクリレートを含むことでシリカを充填したことによる粘度や強度の改善に至り、耐熱性にも優れていた。
【0086】
実施例6~9
LCD方式の3Dプリンタ(Phrozen社製、Phrozen Shuffle XL)を用いて、ピッチ50μmの条件で試験片を作製した。この試験片を用いて、以下の3種類のフッ素シランコーティング液で試験片の表面を表面処理した。水の接触角を測定したところ、表面処理を行わなかった場合、76.4°であったが、以下のコーティング剤で表面処理したところ、それぞれ102.1°、105.4°、97.2°であった。表面処理することでいずれも撥水性を発現したが、FG-5084F130で処理した場合が最も撥水性が高かった。
フッ素系樹脂(NL-1、株式会社フロロテクノロジー製)
フッ素系樹脂(FG-5084F130、株式会社フロロテクノロジー製)
フッ素系樹脂(FG-5084F135、株式会社フロロテクノロジー製)
【符号の説明】
【0087】
1:光造形装置
2:プラットフォーム
2a:パターン形成面
3:樹脂槽
4:プロジェクタ
5:三次元造形用組成物
6:離型剤層
7a:液膜a
7b:液膜b
8a:第1パターンa
8b:第2パターンb
L:光
図1