(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024881
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】免震構造及びその構築方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129242
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉江 一馬
(72)【発明者】
【氏名】中村 匠
(72)【発明者】
【氏名】稲井 慎介
(72)【発明者】
【氏名】白井 遼
(72)【発明者】
【氏名】植 敦紀
(72)【発明者】
【氏名】恒成 恭宏
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AB11
2E139AC06
2E139AC26
2E139AD03
2E139CC02
2E139CC11
(57)【要約】
【課題】免震構造の高さを抑えつつ、免震装置を正確に水平に設置する。
【解決手段】免震構造構築方法は、アンカーボルト25及びアンカーボルト25の先端に螺合された長ナット27が埋め込まれた基礎躯体12を構築する基礎躯体構築工程と、基礎躯体構築工程で構築した基礎躯体12の上に免震装置13を載置し、長ナット27にボルト15を螺合させることにより、免震装置13を基礎躯体12に固定する免震装置設置工程とを有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンカーボルト及び前記アンカーボルトの先端に螺合された長ナットが埋め込まれた基礎躯体を構築する基礎躯体構築工程と、
前記基礎躯体構築工程で構築した前記基礎躯体の上に免震装置を載置し、前記長ナットにボルトを螺合させることにより、前記免震装置を前記基礎躯体に固定する免震装置設置工程と
を備える、免震構造構築方法。
【請求項2】
前記基礎躯体構築工程は、
所定の位置にアンカーフレームを設置するアンカーフレーム設置工程と、
前記アンカーフレームに前記アンカーボルトを固定するアンカーボルト固定工程と、
前記アンカーボルトの先端に前記長ナットを螺合させる長ナット螺合工程と、
前記基礎躯体のための鉄筋を配筋して、前記アンカーフレーム設置工程で設置された前記アンカーフレームを囲む鉄筋配筋工程と、
前記鉄筋配筋工程で配筋した前記鉄筋に、前記アンカーフレームを固定するアンカーフレーム固定工程と、
生コンクリートを打設して、前記アンカーボルト固定工程で固定されたアンカーボルトと、前記長ナット螺合工程で前記アンカーボルトに螺合された長ナットとが埋設された前記基礎躯体を構築する生コンクリート打設工程と
を有する、請求項1の免震構造構築方法。
【請求項3】
前記アンカーボルトの長さは、前記アンカーフレームの高さよりも長い、
請求項2の免震構造構築方法。
【請求項4】
前記免震装置設置工程は、
前記基礎躯体の上にベースモルタルを設置するベースモルタル設置工程と、
前記ベースモルタル設置工程で設置した前記ベースモルタルの上に前記免震装置を仮置きする免震装置仮置き工程と、
前記免震装置の平面精度及び水平度を確認しつつ、前記長ナットに前記ボルトを螺合させて、前記免震装置仮置き工程で仮置きした前記免震装置を固定するボルト螺合工程と、
前記免震装置と前記基礎躯体との間にグラウトを充填するグラウト充填工程と
を有する、請求項1乃至3いずれかの免震構造構築方法。
【請求項5】
基礎躯体と、
前記基礎躯体のなかに埋め込まれたアンカーボルトと、
前記基礎躯体のなかに埋め込まれ、前記アンカーボルトの先端に螺合した長ナットと、
前記基礎躯体の上に設置された免震装置と、
前記長ナットに螺合することにより、前記免震装置を前記基礎躯体に固定するボルトと
を備える、免震構造。
【請求項6】
前記基礎躯体のなかに埋め込まれ、前記アンカーボルトが固定されたアンカーフレーム
を更に備える、請求項5の免震構造。
【請求項7】
前記アンカーボルトの長さは、前記アンカーフレームの高さよりも長い、
請求項6の免震構造。
【請求項8】
前記基礎躯体のなかに埋め込まれ、前記アンカーフレームを囲むよう配筋され、前記アンカーフレームが固定された鉄筋
を更に備える、請求項6又は7の免震構造。
【請求項9】
前記免震装置と前記基礎躯体との間に充填されたグラウト
を更に備える、請求項4乃至7いずれかの免震構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、免震構造及びその構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、免震基礎構造の構築方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の構築方法では、免震装置の下側ベースプレートをアンカー部材に固定したのちに、基礎コンクリートを打設する。基礎コンクリート構築後に免震装置設置のため下部基礎構造を構築する必要があり、免震層高さがその分高くなり、かつ前記下部基礎構造構築工程が必要となる。
この発明は、例えばこのような課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
免震構造構築方法は、アンカーボルト及び前記アンカーボルトの先端に螺合された長ナットが埋め込まれた基礎躯体を構築する基礎躯体構築工程と、前記基礎躯体構築工程で構築した前記基礎躯体の上に免震装置を載置し、前記長ナットにボルトを螺合させることにより、前記免震装置を前記基礎躯体に固定する免震装置設置工程とを有する。
免震構造は、基礎躯体と、前記基礎躯体のなかに埋め込まれたアンカーボルトと、前記基礎躯体のなかに埋め込まれ、前記アンカーボルトの先端に螺合した長ナットと、前記基礎躯体の上に設置された免震装置と、前記長ナットに螺合することにより、前記免震装置を前記基礎躯体に固定するボルトとを有する。
【発明の効果】
【0006】
基礎躯体を構築したのちに、免震装置を固定するので、免震装置設置のための下部基礎構造を構築することなく、免震装置を正確に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図6】アンカーフレーム設置工程の一例を示す平面図。
【
図7】アンカーフレーム設置工程の一例を示す側面視断面図。
【
図8】アンカーボルト固定工程の一例を示す平面図。
【
図9】アンカーボルト固定工程の一例を示す側面視断面図。
【
図13】ベースモルタル設置工程の一例を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1を参照して、免震構造10について説明する。
免震構造10は、ビルなどの建物の基礎部分に設けられ、地震などによる揺れが建物に伝わるのを防ぐ構造である。免震構造10は、例えば、基礎躯体12と、免震装置13とを有する。
【0009】
基礎躯体12は、例えば鉄筋コンクリート製であり、地面90のなかに設けられ、支持地盤に固定される。基礎躯体12は、例えば、杭21と、基礎本体22と、スラブ23とを有する。
杭21は、地面90を略鉛直方向(-Z方向)に延び、支持地盤に到達している。
基礎本体22は、例えば基礎梁や基礎柱などを有する。
スラブ23は、基礎本体22の上(+Z方向)に設けられている。
【0010】
免震装置13は、ボルト15などによって基礎躯体12の上(+Z方向)に固定され、建物本体(不図示)を支持する。免震装置13が基礎躯体12と建物本体との間に介在することにより、地震などによって基礎躯体12が振動した場合に、その振動が建物本体に伝わるのを防ぐ。
基礎躯体12と免震装置13との間には、グラウト16が設けられている。グラウト16は、例えば無収縮グラウトであり、免震装置13を水平に支持する。
【0011】
基礎躯体12のなかには、アンカーフレーム24、アンカーボルト25、定着板26、長ナット27、鉄筋28などが埋め込まれている。
【0012】
アンカーフレーム24は、アンカーボルト25を所定の位置に保持する。アンカーフレーム24は、例えば、
図6及び7に示すように、複数のL字鋼を組み合わせて形成された枠であり、基礎躯体12の基礎柱のために設けられたフーチング凹部92のなかに設置される。
【0013】
アンカーボルト25は、免震装置13からの応力を基礎本体22に伝達する。アンカーボルト25は、例えば、
図8及び9に示すように、略鉛直方向(±Z方向)に延び、同じく略鉛直方向に延びる中心軸を中心として周方向に略等間隔に配置されている。アンカーボルト25の下端(-Z側の端部)は、アンカーフレーム24に固定される。アンカーボルト25の長さ(±Z方向に沿った長さ)は、アンカーフレーム24の高さ(±Z方向に沿った長さ)よりも長い。
定着板26は、アンカーボルト25を基礎本体22に定着させる。定着板26は、例えば、
図8及び9に示すように、アンカーボルト25の下端付近に装着される。
長ナット27は、アンカーボルト25に免震装置13を接合する。長ナット27は、例えば、
図8及び9に示すように、アンカーボルト25の上端(+Z側の端部)に螺合されて固定される。
【0014】
鉄筋28は、例えば、
図10及び11に示すように、アンカーボルト25の周りを取り囲むように柱形に配筋されている。鉄筋28は、例えば、複数の柱筋81と、複数の帯筋82とを有する。
柱筋81は、略鉛直方向に延び、下側の端部が、内側へ向けてL字状に折れ曲がっている。柱筋81は、例えば、略鉛直方向に延びる中心軸を中心として環状に配列されている。例えば、四本の柱筋81が正方形の四隅に配置され、四本の柱筋81がその正方形の各辺の中央に配置される。
帯筋82は、柱筋81全体の周りに巻き付くように環状であり、略鉛直方向に略等間隔に配列されている。
このように鉄筋28を柱形に配筋して基礎本体22を補強することにより、免震装置13から伝達される応力を基礎本体に確実に伝達させることができる。
【0015】
アンカーボルト25の長さが、アンカーフレーム24の高さよりも長いので、アンカーボルトの下端は、基礎本体22の下半分まで延びている。このため、アンカーボルト25が、柱形に配筋された鉄筋28に強固に固定される。このため、免震装置13の下に基礎筋を配筋したりベースプレートを配設したりする必要がなく、作業工数を削減することができる。
【0016】
次に、
図2を参照して、免震構造構築処理S10について説明する。
免震構造構築処理S10では、免震構造10を構築する。免震構造構築処理S10は、例えば、基礎躯体構築工程S12と、免震装置設置工程S13とを有する。
基礎躯体構築工程S12では、基礎躯体12を構築する。
免震装置設置工程S13では、基礎躯体構築工程S12で構築した基礎躯体12の上に、免震装置13を設置する。
【0017】
図3を参照して、基礎躯体構築工程S12について詳しく説明する。
基礎躯体構築工程S12は、例えば、掘削工程S21と、アンカーフレーム設置工程S22と、アンカーボルト固定工程S23と、鉄筋配筋工程S24と、アンカーフレーム固定工程S25と、生コンクリート打設工程S26と、スラブ形成工程S27とを有する。
【0018】
最初に、掘削工程S21において、基礎躯体12を構築するため、地面90を掘削し、例えば、
図4及び5に示すように、基礎梁のための地中梁凹部91や、基礎柱のためのフーチング凹部92などを形成し、地中に杭21を形成する。
【0019】
次に、アンカーフレーム設置工程S22において、例えば、
図6及び7に示すように、掘削工程S21で形成したフーチング凹部92の底面の中央に、アンカーフレーム24を設置する。
【0020】
その後、アンカーボルト固定工程S23において、例えば、
図8及び9に示すように、アンカーフレーム設置工程S22で設置したアンカーフレーム24に、アンカーボルト25を固定する。
【0021】
そして、鉄筋配筋工程S24において、例えば、
図10及び11に示すように、アンカーボルト固定工程S23でアンカーフレーム24に固定したアンカーボルト25の周りを取り囲むように、鉄筋28を配筋する。
【0022】
次に、アンカーフレーム固定工程S25において、鉄筋配筋工程S24で配筋した鉄筋28に、例えば段取り筋などを介して、アンカーフレーム24を固定する。
【0023】
その後、生コンクリート打設工程S26において、生コンクリートを打設して固化することにより、基礎本体22を形成する。これにより、アンカーフレーム24、アンカーボルト25、定着板26、長ナット27及び鉄筋28が基礎本体22のなかに埋設され、長ナット27の先端のみが、例えば
図13に示すように、基礎躯体12の上面の上に露出する。
【0024】
最後に、スラブ形成工程S27において、生コンクリート打設工程S26で形成した基礎本体22の上に、スラブ23を形成する。
【0025】
次に、
図12を参照して、免震装置設置工程S13について詳しく説明する。
免震装置設置工程S13は、例えば、ベースモルタル設置工程S31と、免震装置仮置き工程S32と、ボルト螺合工程S33と、グラウト充填工程S34とを有する。
【0026】
最初に、ベースモルタル設置工程S31において、例えば、
図13に示すように、基礎躯体構築工程S12で構築した基礎躯体12の上面から露出した長ナット27で囲まれた中央に、ベースモルタル14を設置する。
【0027】
次に、免震装置仮置き工程S32において、例えば、
図14に示すように、ベースモルタル設置工程S31で設置したベースモルタル14の上に、免震装置13を仮置きする。
【0028】
そして、ボルト螺合工程S33において、例えば、
図15に示すように、免震装置仮置き工程S32で仮置きした免震装置13の下側ベースプレートに設けられた挿通穴にボルト15を挿通し、挿通したボルト15の先端を長ナット27に螺合させることにより、免震装置13を固定する。このとき、免震装置13の平面背戸及び水平度を確認して、下側ベースプレートが正確に水平になるように調整する。
【0029】
最後に、グラウト充填工程S34において、例えば、
図16に示すように、基礎躯体12の上面と、水平に調整された免震装置13の下側ベースプレートとの間に、グラウト16を充填する。
【0030】
基礎躯体12と免震装置13との間に免震下基礎を設ける必要がないので、免震構造10全体の高さを抑えることができ、地面90を掘削する深さを浅くすることができる。また、免震下基礎を設ける作業が必要ないので、作業量を削減することができる。
免震装置13から基礎躯体12に伝達される応力は、アンカーボルト25を介して基礎本体22に直接伝達される。このため、応力伝達経路が明快になる。
また、免震装置13と基礎躯体12との間の距離が短くなることにより、基礎梁に生じる付加曲げモーメントが小さくなり、基礎躯体12の負荷を小さくすることができる。
【0031】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするための一例である。本発明は、これに限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって定義される範囲から逸脱することなく様々に修正し、変更し、追加し、又は除去したものを含む。これは、以上の説明から当業者に容易に理解することができる。
【0032】
近年、建物の耐震安全性確保のために免震構造が採用される場合が多い。そのため、免震装置接合部の工夫による合理化は、コスト等に与える影響が大きい。
免震層の計画において、コスト及び環境負荷低減の観点から、免震層高さを小さくし掘削土量を削減することが望ましい。しかし、免震装置を接合するためのアンカーボルト・長ナット・ベースプレートを設置し易くし、ベースプレート下のコンクリート充填性を確保するために、免震装置の下(基礎躯体の上)にある程度の高さの免震下基礎と呼ばれる躯体を構築する方法が一般的である。
そこで、免震装置下部の接合部を、鉄骨造の柱と同様に基礎柱を設けることで免震下基礎を省略し、免震層高さを低くして掘削土量を低減する。
免震下基礎を省略し基礎柱配筋を設け、アンカーボルトにより免震装置と基礎躯体を直接接合することにより、応力伝達メカニズムが明快になる。免震装置と基礎躯体との距離が短くなり、免震装置作用せん断力により基礎梁に生じる付加曲げモーメントが小さくなる。
免震下基礎を省略したことで当該部分の躯体がなくなるとともに、下基礎構築分の工程省略につながる。免震層高さを低減し掘削土量を低減できる。
アンカーボルト、長ナットを基礎躯体に埋込み、アンカーフレームで固定し基礎コンクリートを打設する。これにより、免震下基礎(かご配筋)を省略できる。また、免震下基礎分の工程をなくし、免震層高さ掘削土量を削減できる。
免震装置からの応力は、アンカーボルト→基礎躯体、という経路で伝達する。そのために、基礎柱形の配筋を追加する。これにより、応力伝達経路を明快にできる。
免震装置と基礎躯体との距離が短くなり、基礎梁に生じる付加曲げモーメントが小さくなる。これにより、基礎躯体の負荷を減らせる。
位置保持用アンカーフレームにより、免震装置接合用の長ナットとアンカーボルトを設置する。
基礎躯体の鉄筋工事、型枠工事を進め、基礎柱形の配筋でアンカーフレームを囲い、段取り筋を介してアンカーフレームを固定し打設時に位置が固定されるようにする。
基礎躯体のコンクリートを打設後、モルタル(まんじゅう)を設置し免震装置を仮置きする。
免震装置の平面精度及び水平度を確認しながら免震装置をボルト固定する。
免震装置下に無収縮グラウトを充填し、免震装置設置が完了する。
【符号の説明】
【0033】
10 免震構造、12 基礎躯体、13 免震装置、14 ベースモルタル、15 ボルト、16 グラウト、21 杭、22 基礎本体、23 スラブ、24 アンカーフレーム、25 アンカーボルト、26 定着板、27 長ナット、28 鉄筋、81 柱筋、82 帯筋、90 地面、91 地中梁凹部、92 フーチング凹部、S10 免震構造構築処理、S12 基礎躯体構築工程、S13 免震装置設置工程、S21 掘削工程、S22 アンカーフレーム設置工程、S23 アンカーボルト固定工程、S24 鉄筋配筋工程、S25 アンカーフレーム固定工程、S26 生コンクリート打設工程、S27 スラブ形成工程、S31 ベースモルタル設置工程、S32 免震装置仮置き工程、S33 ボルト螺合工程、S34 グラウト充填工程。