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特開2025-24899光造形構造体、光造形用材料、および光造形構造体の製造方法
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  • 特開-光造形構造体、光造形用材料、および光造形構造体の製造方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024899
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】光造形構造体、光造形用材料、および光造形構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/105 20060101AFI20250214BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20250214BHJP
   B22F 1/054 20220101ALI20250214BHJP
   B22F 7/04 20060101ALI20250214BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALN20250214BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALN20250214BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALN20250214BHJP
   B22F 10/10 20210101ALN20250214BHJP
【FI】
B22F3/105
B22F1/00 K
B22F1/054
B22F1/00 S
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F1/00 R
B22F7/04 A
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
B22F10/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129270
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100197583
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 健
(72)【発明者】
【氏名】住吉 真聡
(72)【発明者】
【氏名】フサイン,ムダスイル
(72)【発明者】
【氏名】國房 義之
(72)【発明者】
【氏名】溝尻 瑞枝
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA10
4K018AA24
4K018AA40
4K018BA01
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA10
4K018BA13
4K018BA20
4K018BB07
4K018CA33
4K018CA44
4K018DA23
4K018JA22
4K018KA22
(57)【要約】
【課題】より機械的強度に優れた光造形構造体を提供すること。
【解決手段】1種以上の金属元素を主成分として含む光造形構造体であって、
前記光造形構造体におけるポア面積率が20%以下の範囲にある、光造形構造体。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種以上の金属元素を主成分として含む光造形構造体であって、
前記光造形構造体におけるポア面積率が20%以下の範囲にある、光造形構造体。
【請求項2】
前記光造形構造体の表面および内部の少なくとも一方にポアが存在し、
前記光造形構造体における前記のポアの面積率が0.05%以上15%以下である、請求項1に記載の光造形構造体。
【請求項3】
前記金属元素が、Fe、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Ti及びBaから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の光造形構造体。
【請求項4】
前記光造形構造体が、2種以上の前記金属元素を含む複合酸化物であって、
前記2種以上の金属元素が、Fe、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Ti及びBaから成る群から選択される、請求項1に記載の光造形構造体。
【請求項5】
平均粒子径がナノメートルオーダーであるナノ粒子を更に含み、
前記ナノ粒子の熱伝導率が10W/m・K以上500W/m・K以下である、請求項1に記載の光造形構造体。
【請求項6】
前記ナノ粒子の含有量が、5.0×10-5体積%以上5.0×10-4体積%以下である、請求項5に記載の光造形構造体。
【請求項7】
前記ナノ粒子が金ナノ粒子である、請求項5に記載の光造形構造体。
【請求項8】
表面および内部の少なくとも一方に未焼結領域を含む、請求項1に記載の光造形構造体。
【請求項9】
1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と、ナノ粒子と、前記金属材料および前記ナノ粒子を含む媒体とを備え、
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体の主成分の熱伝導率より大きい、光造形用材料。
【請求項10】
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体および前記金属材料の熱伝導率より大きい、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項11】
前記媒体が、液体、ゲル体または固体である、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項12】
前記金属元素が、Fe、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Ti及びBaから成る群から選択される少なくとも1種である、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項13】
前記ナノ粒子が、前記金属材料に含まれる金属元素のうち、少なくとも1種の金属元素を含む、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項14】
前記媒体中に含まれる前記ナノ粒子の含有量が、7.0×10-6体積%以上7.0×10-4体積%以下である、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項15】
前記金属材料が特定の波長で励起される、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項16】
前記媒体の光吸収スペクトルにおいて、前記ナノ粒子に由来する光吸収の吸収強度は、前記媒体の光吸収スペクトルのピーク強度の3.0%以下である、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項17】
板状の基材をさらに備え、
前記媒体は、前記基材上に配置され、
前記基材の熱伝導率は、前記ナノ粒子の熱伝導率より小さい、請求項9に記載の光造形用材料。
【請求項18】
請求項9~17のいずれかに記載の前記光造形用材料から製造される、光造形構造体。
【請求項19】
光造形用材料にレーザー光を照射する工程を含み、
前記光造形用材料が、1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と、ナノ粒子と、前記金属材料および前記ナノ粒子を含む媒体とを備え、
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体の主成分の熱伝導率より大きい、光造形構造体の製造方法。
【請求項20】
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体および前記金属材料の熱伝導率より大きい、請求項19に記載の光造形構造体の製造方法。
【請求項21】
前記レーザー光の出力が20mW以上50mW以下である、請求項19に記載の光造形構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光造形構造体、光造形用材料、および光造形構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、フェムト秒レーザーを用いて2光子励起現象を発生させ、ナノレベルの光造形構造体を形成する方法、およびその方法によって製造される光造形構造体が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-69665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、多くの技術分野において、装置の微細化が推進されており、それに伴って微細構造を有する部品の製造が重要視されている。本願発明者らは、そのような微細構造体の製造において、2光子励起現象を利用した光造形が有用であることを見出した。一方で、微細構造体が部品としての機能を果たすためには、微細構造体の強度が要求され得る。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の主たる目的は、より機械的強度に優れた光造形構造体、当該光造形構造体を製造可能な光造形用材料、および当該光造形構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態では、
1種以上の金属元素を主成分として含む光造形構造体であって、
前記光造形構造体におけるポア面積率が20%以下の範囲にある、光造形構造体が供される。
【0007】
また、本発明の一実施形態では、
1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と、ナノ粒子と、前記金属材料および前記ナノ粒子を含む媒体とを備え、
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体の主成分の熱伝導率より大きい、光造形用材料が供される。
【0008】
また、本発明の一実施形態では、
光造形用材料にレーザー光を照射する工程を含み、
前記光造形用材料が、1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と、ナノ粒子と、前記金属材料および前記ナノ粒子を含む媒体とを備え、
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体の主成分の熱伝導率より大きい、光造形構造体の製造方法が供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一実施形態によれば、より機械的強度に優れた光造形構造体が提供される。また、本発明の一実施形態に係る光造形用材料および光造形構造体の製造方法によれば、より機械的強度に優れた光造形構造体を製造可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A図1Aは、本発明の一実施形態に係る光造形構造体の製造方法を示す模式図である。
図1B図1Bは、本発明の一実施形態に係る光造形構造体の製造方法を示す模式図である。
図1C図1Cは、本発明の一実施形態に係る光造形構造体の製造方法を示す模式図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る、ナノ粒子を含まない光造形用材料の吸収スペクトルである。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る、ナノ粒子を含む光造形用材料の吸収スペクトルである。
図4図4は、本発明の一実施形態に係る光造形構造体のSEM写真である。
図5図5は、本発明の一実施形態に係る光造形構造体のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の光造形構造体、光造形用材料、および光造形構造体の製造方法を詳細に説明する。必要に応じて図面を参照して説明を行うものの、図示する内容は、本発明の理解のために模式的かつ例示的に示したに過ぎず、外観や寸法比などは実物と異なり得る。
【0012】
本明細書で用いる「平面視」または「平面視形状」とは、レーザーの照射方向(即ち、図1A~1Cにおける上下方向)に沿って対象物を上側または下側からみた場合の見取図に基づいている。
【0013】
本発明は、レーザー光を用いて三次元の構造体を作製する「光造形」と称される技術に関する。換言すれば、「光造形」とは、レーザー光の照射によって構造物を成形する造形手法である。光造形用材料に特定の波長のレーザー光を照射することで、例えば、任意の形状の薄膜などの二次元構造物、または二次元構造物を積層することによって成形される三次元構造物を容易に一体成形することができる。本発明における「光造形構造体」とは、かかる光造形によって形成される構造体を意味する。
【0014】
より具体的には、本発明は、2光子吸収現象を利用した光造形に関する。2光子吸収現象とは、分子が2つの光子を同時に吸収して、励起される現象である。このような2光子吸収の効率は、印加される光電場の二乗に比例する。そのため、二次元平面にレーザーが照射される場合、レーザースポット中心部の電界強度が所定の強度を上回る領域のみで2光子吸収が起こり、電界強度が比較的弱い周辺領域においては2光子吸収が起こらない。三次元空間においては、レーザー光をレンズで集光すると、集光されたレーザー光のレーザースポット中心部における、電界強度が所定の強度を上回る領域においてのみ2光子吸収が起こる。一方、レーザースポット中心部を除く電界強度の低い周辺領域においては2光子吸収が起こらない。すなわち、2光子吸収現象を利用した光造形においては、レーザー光の焦点の極狭い領域においてのみ金属材料を励起させることができるため、空間分解能の高い造形が可能となる。これにより、ナノオーダーまたはミクロンオーダーの微細な三次元構造体を形成することができる。
【0015】
以下では、まず基本的な2光子吸収による光造形構造体の製造方法(以下では、単に「光造形法」とも称する)および光造形構造体の製造に用いられる光造形用材料について説明する。ただし、ここで説明される光造形構造体の製造方法は、あくまでも発明の理解のための例示に過ぎず、発明を限定するものではない。
【0016】
[基本的な光造形構造体の製造方法]
光造形構造体の製造方法は、金属材料と、当該金属材料を含有する媒体を備える光造形用材料に対し、レンズを介してレーザー光を照射する工程を含む。この工程によってレーザー光の焦点位置にて2光子吸収現象が引き起こされ、金属材料に含まれていた1種以上の金属元素を含む光造形構造体が形成される。「光造形用材料」とは、レーザー照射によって光造形構造体を製造するための材料であって、「感光性材料」、または「光造形構造体製造用材料」などと称すこともできる。本工程において、レーザー光の焦点位置を光造形用材料内で移動させることで、任意の箇所に光造形構造体を形成することができる。つまり、光造形用材料における任意の箇所にのみ光造形構造体が形成されるように、所定の走査速度で焦点位置を移動させながらレーザー光を照射することで、所望の形状の光造形構造体を成形することができる。
【0017】
レーザー光の光源としては、フェムト秒以下の超短パルス光のレーザーが好ましい。具体的な光源としては、例えばフェムト秒チタンサファイアレーザー、UVフェムト秒レーザー、グリーンフェムト秒レーザー等が挙げられる。
【0018】
光造形構造体を製造する工程において、レーザー光の波長は、用いられる金属材料の励起波長に応じて決定される。例えば、金属材料が2光子吸収を起こすように、レーザー光の波長を、金属材料の吸収波長の2倍にしてもよい。
【0019】
本方法においては、焦点位置にて生じる2光子吸収によって金属材料が励起された後、失活過程において放出される熱により、光造形用材料中に含まれる金属材料が反応し、金属化合物の微粒子が生成され得る。その後、さらにレーザー照射による2光子吸収現象に伴って加熱されることにより、微粒子同士が焼成され、一体化した造形物が形成され得る。すなわち、本方法では、レーザー照射によって、金属化合物微粒子の生成および焼成が一つの工程中で実施され得る。そのため、本方法においては、光造形構造体の焼成工程を必ずしも必要としない。一方で、本方法は、レーザー照射によって得られた光造形構造体を別途焼成する工程を含んでいてもよい。
【0020】
また、方法には、レーザー光を照射する工程の前に、金属材料と媒体とを混合することにより、光造形用材料を作製する工程を更に備えていてよい。必要に応じて、光造形用材料を塗工することにより、金属材料に含まれる金属元素を少なくとも含む塗工物を作製する工程を更に備えていてもよい。この場合、光造形用材料は、塗工される基材を更に備え、当該基材上に金属材料を含む媒体が配置される。その後、媒体側から光造形用材料にレーザー光を照射することにより、基材上に光造形構造体を作製することができる。
【0021】
塗工物を作製する工程では、基材上の媒体を蒸発させてもよく、または媒体を蒸発させなくてもよい。
【0022】
媒体が蒸発されず、基材上に残存している状態の光造形用材料にレーザー光を照射する場合には、レーザー光が与えるエネルギーが媒体の温度上昇にも使用される。したがって、媒体が蒸発した状態の光造形用材料(すなわち、基材および金属材料)にレーザー光を照射する場合には、媒体が残存する状態の光造形用材料に照射する場合に比べて、より低い出力のレーザー光を用いて光造形構造体を形成することができる。
【0023】
一方で、媒体を蒸発させた状態の光造形用材料にレーザー光を照射する場合には、レーザー光を照射した後、光造形構造体の周囲に金属材料を含む媒体が存在しなくなるため、そのままでは2層以上の構造体を続けて作製することができない。これに対し、媒体を蒸発させずに残存させることにより、レーザー光を照射した後においても、光造形構造体の周囲に光造形用材料が存在可能となる。そのため、例えば液体またはゲル体の媒体を用いる場合、周囲に残存する媒体が、一度形成された光造形構造体上に流れ込むことができるため、そのまま2層以上の光造形構造体を作製することができる。すなわち、2層以上の構造体を形成するために、構造体上に光造形用材料を新たに配置する工程を省略することができる。その結果、例えば数十μm以上の高さを有する三次元の光造形構造体を作製することができる。
【0024】
[基本的な光造形用材料]
光造形用材料は、1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と媒体とを備え、金属材料は、媒体中に分散されていてよい。例えば、金属材料に含まれる金属元素は、400℃以上の融点を有することが好ましい。融点が400℃以上であることにより、レーザー光の照射で生じる熱によって金属材料が揮発することを抑制できる。金属元素は、例えば鉄(Fe)、コバルト(Co)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)およびバリウム(Ba)から成る群から選択される少なくとも1種であることができる。例えば、このような金属元素の水酸化物、酢酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、キレートおよび/または錯体塩が金属材料として用いられていてよい。
【0025】
金属材料は、特定波長で励起される材料であってよい。より好ましくは、金属材料は、2光子吸収材料であってよい。2光子吸収材料とは、特定波長において分子を励起することが可能な材料であり、このとき励起に用いた光子の2倍のエネルギー準位に実励起状態が存在する材料を指す。金属材料が2光子吸収材料であることにより、照射されるレーザー光の焦点における極狭い領域においてのみ光造形構造体を形成することができ、より微細な光造形構造体を得ることができる。
【0026】
光造形用材料の媒体は、液体、ゲル体または固体であることができる。また、好ましくは、金属材料は媒体中に分散されている。換言すれば、媒体は、当該媒体中にて分散して存在する金属材料を含む液体、ゲル体または固体であってよい。金属材料が液体、ゲル体、または固体中に含有されることにより、金属材料を媒体中に好適に配置することが可能となるため、当該媒体にレーザー光を照射することで、容易に三次元の光造形構造体を形成することができる。
【0027】
媒体が液体である場合、水などの無機媒体であってよく、またはアルコール等の有機媒体であってもよい。また、媒体は1種の材料のみから成っていてもよく、2種以上の化合物を含む混合媒体であってもよい。
【0028】
例えば、金属材料を含む媒体がゲル体である場合、金属材料を含む媒体は、媒体中の金属材料同士が架橋しながら水分を保持している状態であることができる。また、金属材料を含む媒体が固体である場合、金属材料を含む媒体は、ゲル体から水分や溶媒が蒸発濃縮された乾燥ゲルであることができる。
【0029】
媒体には、分散剤がさらに含まれていてもよい。分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、およびポリアクリル酸等が挙げられる。分散剤は、1種のみでもよく、または2種以上が用いられてもよい。一実施形態において、分散剤は、ポリビニルピロリドンを含むことが好ましい。分散剤を媒体に混合することで、金属イオンが媒体中に好適に分散するため、より均一な構造を備える光造形構造体が作製されやすくなる。さらに、ポリビニルピロリドン(PVP)等の分散剤を媒体に混合することで、材料溶液の粘度を増加させてもよい。媒体の粘度を上昇させることにより、媒体を後述する基材上に塗布しやすくなるなど、光造形用材料の取り扱いがより容易になり得る。
【0030】
また、媒体は、分散剤以外のさらなる添加剤を含んでいてもよい。例えば、媒体には、ゲル化剤、増粘剤などのさらなる添加剤が含まれていてもよい。
【0031】
光造形用材料は、基材をさらに備え、当該基材上に媒体を配置していてよい。例えば、基材上に金属材料を含む媒体が塗布されていてよい。換言すれば、光造形用材料は、レーザーの入射側から見て媒体の下に位置する基材をさらに備えていてよい。基材の材料としては、特に制限されないものの、例えば、樹脂材料、セラミック材料、または金属であることができる。樹脂材料としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、フッ素樹脂およびポリフェニレンオキシド樹脂から成る群から選択される少なくとも一種の材料が挙げられる。また、セラミック材料としては、例えばアルミナ、チタニア、ジルコニア、窒化アルミニウム、窒化ケイ素およびチタン酸バリウムから成る群から選択される少なくとも一種の材料が挙げられる。金属としては、例えば鉄(Fe)、銅(Cu)およびアルミニウム(Al)から成る群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0032】
以上の方法により作製される光造形構造体は、金属イオンに由来する金属元素を含む。
【0033】
例えば、金属材料がFeイオンを含む場合、Feを含む光造形構造体を製造することができる。金属材料がCoイオン、Cuイオン、Mnイオン、Niイオン又はZnイオンを更に含む場合、Co、Cu、Mn、Ni又はZnと、Feとを含む光造形構造体を作製することができる。このようにして、任意の金属元素を含む光造形構造体を作製し、所望の特性(例えば、磁気特性など)を有する光造形構造体を作製することができる。
【0034】
また、金属材料がTiイオン及びBaイオンを含む場合、Ti及びBaを含む光造形構造体を作製することができる。例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)のような誘電特性を有する光造形構造体を作製することができる。
【0035】
本願発明者らは、上述のように製造される光造形構造体には、光造形構造体の表面および内部に多数のポアが形成されること、また、かかるポアが光造形構造体に多く含まれると、光造形構造体の密度が低下し、望ましい機械的強度を有する光造形構造体が得られない虞があることを見出した(図4参照)。本明細書における「ポア」とは、平面視における面積が0.05μm以上の微小な空洞(孔)である。つまり、上述の方法および材料を用いて製造される光造形構造体は、複数の微細な孔を含み得る。本願発明者らは、光造形構造体の製造工程中におけるポアの形成を減じ、より機械的強度に優れた光造形構造体を供するための解決策について鋭意検討した。その結果、光造形用材料にナノ粒子を含有させることにより、光造形構造体におけるポアの形成が抑制されることを新たに見出した。かかるポア形成の抑制により、本願発明者らは、より機械的強度に優れた光造形構造体を得ることを達成した。以下に、本発明の光造形用材料、当該光造形用材料を用いた光造形構造体の製造方法、およびそれによって得られる光造形構造体について詳述する。
【0036】
[本発明の光造形用材料]
本発明の光造形用材料は、媒体中に含有されるナノ粒子を更に備える。つまり、光造形用材料は、金属材料と、ナノ粒子と、当該金属材料および当該ナノ粒子とを含む媒体を備える。ここで、本発明における「ナノ粒子」とは、平均粒径が1nm以上100nm以下である粒子をいう。ナノ粒子は、媒体中にて分散されていてよい。媒体に含まれるナノ粒子の熱伝導率は、媒体を構成する材料のうち、主成分である材料の熱伝導率より大きい。すなわち、ナノ粒子は、媒体の主成分より大きい熱伝導率を有する。換言すれば、媒体中に主成分として含まれる材料の熱伝導率は、ナノ粒子の熱伝導率よりも小さい。「媒体の主成分」とは、媒体を構成する材料のうち、最も体積比率の大きい材料を指す。例えば、媒体が単一の材料から構成される場合、ナノ粒子の熱伝導率は、当該単一の材料より大きい熱伝導率を有する。あるいは、媒体が複数の材料を含む混合媒体である場合、ナノ粒子の熱伝導率は、媒体中にて最も体積比率の大きい材料の熱伝導率よりも大きい。
【0037】
このような大きい熱伝導率を有するナノ粒子を含む光造形用材料を用いることで、光造形構造体におけるポアの形成が抑制される。これにより、より機械的強度に優れた光造形構造体が供され得る。理論に拘束されることを望まないが、このように光造形構造体におけるポアを低減可能である理由の一つとしては、以下の事項が挙げられる。
【0038】
本願発明者らは、光造形構造体におけるポアの形成が、レーザー照射による材料の加熱に起因すると考察した。前述したように、光造形用材料にレーザーを照射すると、2光子吸収現象によって放出される熱に伴う金属材料の化学反応で金属化合物が生成される。その際、レーザー照射によって加熱された領域においては、金属化合物が生成されると同時に副生成ガスが発生し得る。つまり、レーザー照射によって生じる熱が拡散した領域において、気体が発生し得る。熱が拡散される領域が広いほど、発生した副生成ガスが内包された状態で光造形構造体が形成されやすくなり得る。結果として、気体が内包されていた箇所にポアが形成され得る。
【0039】
本願発明者らは、かかるポアの形成過程の考察に基づいて鋭意検討した結果、熱伝導率の大きいナノ粒子を光造形用材料中に存在させることにより、熱拡散領域Aの狭小化を実現した(図1A~1C参照)。より大きい熱伝導率を有するナノ粒子12が光造形用材料10中に含まれることにより、レーザー照射Lによって生じる熱は、ナノ粒子12に優先的に蓄積され得る(図1Aおよび1B参照)。そのため、ナノ粒子12を含まない場合と比較して、光造形用材料10中におけるレーザー照射によって生じる熱の拡散を好適に抑制することができる。これにより、光造形用材料において、より局所的に熱を加えることが可能となるため、光造形構造体中に気体が内包されることを好適に抑制可能となる。結果として、光造形構造体におけるポアの形成が抑制され得る。そのため、より高密度で機械的強度に優れた光造形構造体が供され得る。
【0040】
さらに、ナノ粒子の添加によって熱拡散領域を狭めることにより、レーザー照射によって生じる熱エネルギーがより狭い領域に集約されやすくなる。これにより、レーザー照射によって光造形構造体を形成させる反応をより狭い領域で起こすことが可能となる。そのため、より高い分解能で光造形構造体を造形することが可能となる。
【0041】
ある好ましい態様において、ナノ粒子の熱伝導率は、媒体および金属材料の熱伝導率より大きくてよい。換言すれば、光造形用材料において、媒体および金属材料の熱伝導率は、ナノ粒子の熱伝導率よりも小さくてよい。例えば、媒体および媒体中に含まれる材料のうち、ナノ粒子が最も大きい熱伝導率を有していてよい。あるいは、光造形用材料に含まれる構成要素のうち、媒体中に含まれるナノ粒子は、最も大きい熱伝導率を有していてよい。このような構成によれば、レーザー照射によって発生する熱をナノ粒子により効率的に蓄積させることが可能となるため、光造形用材料における熱拡散領域の狭小化の効果をより顕著に得ることができる。これにより、熱拡散に起因するポアの形成がより抑制され、より高密度で機械的強度に優れた光造形構造体を得ることが可能となる。
【0042】
ナノ粒子の熱伝導率は、媒体の主成分の熱伝導率の5倍以上、50倍以上、または500倍以上であることができ、好ましくは10倍以上、より好ましくは100倍以上である。ナノ粒子の熱伝導率が上述の範囲であると、よりポアの少ない光造形構造体を好適に得ることができる。一方で、光造形構造体の製造に際するレーザー照射の効率を重視すると、ナノ粒子の熱伝導率は、媒体の熱伝導率の5000倍以下であってよい。ナノ粒子の熱伝導率が上述の範囲であると、媒体中の金属材料に好適に熱が与えられ、金属化合物の微粒子の生成および続く焼成をより効率的に実施しつつ、より機械的強度に優れた光造形構造体を得ることができる。
【0043】
また、ナノ粒子の熱伝導率は、金属材料と媒体との混合物の熱伝導率より大きくてよい。すなわち、ナノ粒子の熱伝導率は、金属材料を含む媒体の熱伝導率より大きくてよい。これは、光造形用材料のうち、ナノ粒子以外の成分を含む媒体の熱伝導率が、添加されるナノ粒子の熱伝導率よりも小さいことを意味する。ナノ粒子の熱伝導率は、金属材料を含む媒体の熱伝導率の5倍以上、50倍以上、または500倍以上であることができ、好ましくは10倍以上、より好ましくは100倍以上である。ナノ粒子の熱伝導率が上述の範囲であると、よりポアの少ない光造形構造体を好適に得ることができる。一方で、光造形構造体の製造に際するレーザー照射の効率を重視すると、ナノ粒子の熱伝導率は、金属材料の熱伝導率の5000倍以下であってよい。ナノ粒子の熱伝導率が上述の範囲であると、金属材料に対して好適に熱が与えられ、金属化合物の生成をより効率的に実施しつつ、より機械的強度に優れた光造形構造体を得ることができる。
【0044】
また、ナノ粒子の熱伝導率は、レーザーの入射側から見て媒体の下に位置する基材よりも大きくてよい。換言すれば、基材の熱伝導率は、ナノ粒子の熱伝導率より小さくてよい。ナノ粒子の熱伝導率が基材の熱伝導率よりも大きいことで、レーザー照射によって生じた熱が基材に吸収され、金属材料に与えられる熱エネルギーが相対的に小さくなり得る。金属材料に与えられる熱エネルギーが不十分であると光造形構造体が形成されにくくなるため、必然的にレーザー出力を上げることになる。高出力のレーザーが光造形用材料に加えられると、より急激に光造形構造体の形成が進みやすくなり、結果として光造形構造体においてポアが形成されやすくなり得る。ナノ粒子の熱伝導率を基材の熱伝導率より大きくすることで、基材への熱の吸収をより好適に防ぎ、かつ光造形用材料における熱拡散を好適に抑制することができる。そのため、レーザーの出力を抑えつつ、よりポアの少ない、機械的強度に優れた光造形構造体を得ることができる。
【0045】
ナノ粒子の熱伝導率は、基材の熱伝導率の2倍以上、5倍以上、または10倍以上であることができる。ナノ粒子の熱伝導率が上述の範囲であると、よりポアの少ない光造形構造体を好適に得ることができる。一方で、光造形構造体の製造に際するレーザー照射の効率を重視すると、ナノ粒子の熱伝導率は、基材の熱伝導率の50倍以下、45倍以下、または40倍以下であってよい。ナノ粒子の熱伝導率が上述の範囲であると、金属材料に対して好適に熱が与えられ、金属化合物の生成をより効率的に実施しつつ、よりポアが少なく機械的強度に優れた光造形構造体を得ることができる。
【0046】
具体的には、ナノ粒子の熱伝導率は、例えば10W/m・K以上、20W/m・K以上、または50W/m・K以上であることができる。ナノ粒子の熱伝導率が上述の範囲であることにより、光造形用材料における熱の拡散を好適に抑制することができる。また、熱伝導率の上限値については特に限定されないものの、例えば500W/m・K以下、450W/m・K以下、または400W/m・K以下であることができる。
【0047】
また、基材は、当該基材上に塗布される媒体の熱伝導率より小さい熱伝導率を有していてもよく、あるいは、基材の熱伝導率は、媒体の熱伝導率より大きくてもよい。ある好ましい態様において、基材の熱伝導率は、媒体の熱伝導率より小さい。これにより、レーザーの照射によって生じた熱が基材に拡散されることなく、媒体に対してより効率的に熱エネルギーが与えられ得る。
【0048】
熱伝導率は、既知の値、あるいは公知の方法によって測定した値を利用することができる。例えば、熱伝導率の測定は、定常法または非定常法などの公知の方法によって測定することができ、測定対象の材料の性質などによって適切な方法が選択されてよい。例えば、熱流計法などの定常法、レーザーフラッシュ法、周期加熱法、熱線法などの非定常法によって熱伝導率を測定することができる。
【0049】
ナノ粒子は、結晶質であってもよく、あるいは、非晶質であってもよい。このナノ粒子の材料は特に限定されるものではなく、製造される光造形構造体に応じて最適な材料を選択することができる。例えば、ナノ粒子は、金ナノ粒子などの金属材料であってよく、または樹脂材料、ガラス材料、もしくはセラミック材料などであってもよい。
【0050】
ある好ましい態様において、ナノ粒子は、金属材料に含まれる金属元素を含む。すなわち、ナノ粒子は、金属材料に含まれる金属元素のうち、少なくとも一種の金属元素を含んでいてよい。換言すれば、金属材料とナノ粒子とにおいて、同じ金属元素が含まれていてよい。より好ましくは、ナノ粒子は、金属材料の組成に含まれる元素によって構成されていてよい。光造形用材料にナノ粒子が含まれる場合、当該材料を用いて製造される光造形構造体には、ナノ粒子が含有され得る。ナノ粒子が金属材料と共通の金属元素を有することで、金属材料に含有する元素以外の金属元素が光造形構造体に混入することを抑制することができる。これにより、光造形構造体中への不純物の混入をより好適に抑制しつつ、機械強度に優れた光造形構造体を得ることができる。
【0051】
例えば、ナノ粒子は、400℃以上の融点を有することが好ましい。融点が400℃以上であることにより、レーザー光の照射に伴って生じる熱による揮発を抑制することができる。
【0052】
媒体中に含まれるナノ粒子の含有量は、金属材料およびナノ粒子を含む媒体の全体積に対して、5.0×10-6体積%以上、7.0×10-6体積%以上、または1.0×10-5体積%以上であることができる。ナノ粒子の含有量が上述の範囲であると、熱拡散領域を好適に狭小化させ、機械的強度に優れた光造形構造体を得ることができる。また、媒体中に含まれるナノ粒子の含有量は、金属材料およびナノ粒子を含む媒体の全体積に対して、1.0×10-3体積%以下、7.0×10-4質量%以下、または5.0×10-4質量%以下であることができる。ナノ粒子の含有量が上述の範囲であると、より均一な組成を有し、かつ機械的強度に優れた光造形構造体を得ることができる。
【0053】
ナノ粒子は、当該ナノ粒子の添加によって、光造形用材料の光吸収スペクトルに影響を与えない範囲で用いられることが好ましい。すなわち、特定波長において分子を励起することが可能な金属材料を含む光造形用材料において、ナノ粒子の添加によって金属材料の光吸収特性が変化しないことが好ましい。
【0054】
図2は、金属材料として酢酸バリウムおよびオルトチタン酸テトライソプロピル(TTIP)を用いた溶液の吸収スペクトルである。また、図3は、図2の測定に用いた媒体に、15ppmの金ナノ粒子をさらに添加した光造形用材料について得られた吸収スペクトルである。図2に示されるように、上記の金属材料を含む光造形用材料では、265nm付近にピークを有し、ピーク波長の2倍にあたる520nm付近にはピークを有さない。したがって、約520nmの波長のレーザーを当該溶液に照射することで、2光子吸収現象を起こし、光造形構造体を得ることが可能であることがわかる。
【0055】
一方で、ナノ粒子添加後である図3の吸収スペクトルにおいても、図2の吸収スペクトルと比較してナノ粒子由来のピークはほとんど見られない。図3の吸収スペクトルにおいても図2の吸収スペクトルと同様に265nm付近にピークが見られ、ピーク波長の2倍にあたる520nm付近にはピークは観測されない。すなわち、ナノ粒子の添加前後において光造形用材料の光吸収特性はほとんど変化しない。これは、媒体中に含まれる金属材料の含有量に対して、金ナノ粒子の含有量が十分に少なく、金属材料の吸光度に対して金ナノ粒子の吸光度がほとんど無視できるレベルであるためである。このような吸収スペクトルを有する光造形用材料を用いることで、光造形用材料に照射されたレーザー光は、ナノ粒子の添加による影響を実質的に受けることなく、好適に金属材料を励起させることができる。
【0056】
また、照射されるレーザーの波長に吸収を持たないナノ粒子を用いることで、焦点位置におけるレーザー光強度の低下を抑制することができる。すなわち、焦点位置および焦点位置の手前に存在するナノ粒子によってレーザー光が吸収されることを抑制することができる。ここで、「照射されるレーザーの波長に吸収を持たない」とは、金属材料を含む媒体のピーク強度に対して、ナノ粒子の吸収強度が無視できるレベルである場合も含む。例えば、ナノ粒子の吸収強度が、金属材料を含む媒体のピーク強度の3.0%以下、2.5%以下、または2%以下であることができる。
【0057】
[本発明の光造形構造体の製造方法]
本発明の光造形構造体の製造方法においては、上述の光造形用材料を用いて光造形構造体が製造される。より具体的には、本方法では、媒体の主成分より熱伝導率の大きいナノ粒子を媒体中に含む光造形用材料が用いられる。このような光造形用材料にレーザー光を照射することで、光造形構造体が製造される。図1A~1Cは、本発明の一実施形態に係る光造形構造体の製造方法の一部を示す模式図である。光造形用材料10に熱伝導率の大きいナノ粒子12が存在することにより、レーザー照射Lによる2光子励起現象に伴って生じる熱の拡散が抑制され得る。つまり、2光子励起現象に起因して放出される熱エネルギーの拡散領域Aをより狭くすることができる。これにより、光造形構造体20が形成される範囲をより狭小化させることができるため、副生成物として発生した気体が光造形構造体20に内包されることを抑制できる。結果として、光造形構造体20におけるポアの形成が抑制されるため、より機械的強度に優れた光造形構造体を製造することができる。
【0058】
さらに、ナノ粒子の添加によって熱拡散領域を狭めることにより、レーザー照射によって生じる熱エネルギーがより狭い領域に集約されやすくなる。これにより、より小さい出力のレーザー光を用いた場合であっても、極小領域にて熱エネルギーが効率よく集約されるため、光造形構造体を形成することが可能となる。すなわち、熱伝導率の大きいナノ粒子を光造形用材料に添加することにより、光造形構造体を形成するためのレーザー光の出力をより小さくすることができる。
【0059】
例えば、レーザー光を照射して光造形構造体を形成する工程において、照射されるレーザーの出力は、100mW以下、80mW以下、50mW以下、または40mW以下であることができる。レーザー出力が上述の範囲であっても、ナノ粒子の存在により熱エネルギーが集約されるため、光造形構造体を好適に形成することができる。すなわち、よりエネルギー効率の良い光造形構造体の製造が実現され得る。また、比較的小さい出力のレーザーを用いることができるため、レーザーの焦点位置(すなわち、レーザースポットの中心部)において放出される熱エネルギーが相対的に小さくなり、より好適に熱拡散を抑制することができる。これにより、光造形構造体におけるポア形成が抑制されるため、機械的強度に優れた光造形構造体を得ることができる。
【0060】
レーザー出力の下限値については、光造形構造体が形成可能である限り特に限定されない。換言すれば、レーザー照射によって金属化合物の微粒子が形成可能であるほどのエネルギーを付与可能である限り、レーザー出力の下限値は特に限定されない。例えば、レーザー出力は、15mW以上、20mW以上、または25mW以上であることができる。
【0061】
また、本発明の光造形構造体の製造方法においては、より速い速度でレーザーの焦点位置を移動させながら、好適に光造形用材料を製造することができる。焦点位置の移動速度は、レーザーの走査速度と称すこともでき、1箇所におけるレーザー照射時間の長さに関連する。走査速度が速いほど、1箇所におけるレーザー照射時間が短くなる。一方で、走査速度が遅いほど、1箇所におけるレーザー照射時間が長くなる。レーザーの走査速度が遅すぎると、1箇所にレーザー光が長時間照射され、光造形用材料に対して過剰なエネルギーが与えられ得る。そのため、エネルギー効率および処理効率を重視すると、レーザーの走査速度は速いことが好ましい。しかしながら、従来の製造方法では、走査速度が速すぎると、1箇所におけるレーザーの照射時間が短くなるため、光造形用材料に対して十分なエネルギーが与えられず、光造形構造体が形成されない虞がある。
【0062】
本発明の光造形構造体の製造方法においては、ナノ粒子の存在によって熱エネルギーが集約されるため、レーザーの照射時間が比較的短い場合であっても、光造形構造体を形成させるのに十分なエネルギー量を好適に確保することができる。そのため、レーザーの走査速度が速い場合であっても、好適に光造形構造体を形成可能となり得る。これにより、より速い処理速度で、効率的に光造形構造体を製造することが可能となる。
【0063】
例えば、レーザーの走査速度は、0.01mm/s以上5.0mm/s以下、0.05mm/s以上3.0mm/s以下、または0.1mm/s以上2.0mm/s以下であることができる。これは、レーザー光の焦点位置が0.01mm/s以上5.0mm/s以下、0.05mm/s以上3.0mm/s以下、または0.1mm/s以上2.0mm/s以下の速度で移動することを意味する。レーザーの走査速度が上述の範囲であることにより、ポアの形成を抑制しつつ、より優れた処理効率で光造形構造体を製造することができる。
【0064】
[本発明の光造形構造体]
図4および図5は、本発明の一実施形態に係る光造形構造体について、5000倍の倍率で撮影したSEM写真である。上述したように、本発明の光造形構造体20は、ポア21がより少ない、またはポア21のない構造を有する。具体的には、上述した本発明の光造形用材料によって得られる光造形構造体、また本発明の光造形構造体の製造方法によって得られる光造形構造体は、従来と比較してよりポアの少ない、またはポアのない構造を有する。これにより、光造形構造体の密度がより高くなるため、機械的強度の点でより優れた光造形構造体が供され得る。また、光造形構造体がチタン酸バリウムなどの誘電特性を有する材料で構成されている場合、よりポアの少ない構造とすることで、光造形構造体は、より好適な誘電特性を有することができる。
【0065】
本発明の光造形構造体は、当該構造体に形成されるポアの数がより少ないため、より低いポア面積率を有する。「ポア面積率」とは、所定の視野内において、光造形構造体の単位面積当たりのポアの面積比率であり、単に「ポア率」と称すこともできる。つまり、ポア面積率とは、所定の視野内における光造形構造体の平面積において、当該視野内に存在するポアの総面積が占める割合を百分率で示すものである。本発明の光造形構造体のポア面積率は、20%以下、15%以下、10%以下、または8%以下であることができる。本発明の光造形構造体のポア面積率の下限値は、例えば0%(すなわち、実質的にポアを有さない)、0.01%以上、または0.05%以上であってもよい。ポア面積率が上述の範囲であることによって、より緻密で機械的強度に優れた光造形構造体が得られ得る。
【0066】
ポア面積率は、以下のようにして測定できる。光造形構造体の任意の表面または断面において、走査型電子顕微鏡(SEM)写真を撮影する。画像解析ソフトを用いて、得られたSEM写真を解析して、ポア面積率を求めることができる。例えば、SEM写真を二値化処理して解析し、ポアと認識された部分の総面積を算出し、当該SEM写真における光造形構造体の平面積に占めるポアの総面積の割合を求めることで、ポア面積率を算出できる。画像解析ソフトとしては、公知の市販の解析ソフトが用いられてよい。例えば、旭化成エンジニアリング(株)製のA像くん(登録商標)、Winroof、またはImageJなどを画像解析ソフトとして用いてよい。
【0067】
光造形構造体の断面からポア面積率を求める場合には、光造形構造体を終息イオンビーム加工(FIB加工)することで断面を切り出し、得られた断面についてSEM写真を撮影し、画像解析によってポア面積率を算出してよい。例えば、FIB加工には、エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)のFIB加工装置SMI3050Rなどの公知の装置が用いられてよい。
【0068】
本発明の光造形構造体には、光造形用材料に添加されているナノ粒子が含まれていてよい。換言すれば、本発明の光造形構造体は、微量のナノ粒子を含んでいてよい。光造形構造体に含まれるナノ粒子の含有量は、光造形構造体の全体積に対して、2.0×10-5体積%以上、5.0×10-5体積%以上、または7.0×10-5体積%以上であることができる。また、光造形構造体中に含まれるナノ粒子の含有量は、光造形構造体の全体積に対して、2.0×10-3体積%以下、1.0×10-3体積%以下、または0.5×10-3体積%以下であることができる。ナノ粒子の含有量が上述の範囲であると、より均一な組成を有し、かつ機械的強度に優れた光造形構造体が供され得る。
【0069】
また、本発明の光造形構造体は、必ずしも全体が完全に焼結されていなくてよい。図5は、本発明の一実施形態に係る光造形構造体のSEM写真である。図示されるように、光造形構造体20は、当該光造形構造体20の表面および内部の少なくとも一方に未焼結領域25を含んでいてよい。すなわち、光造形構造体20は、一部が未焼結であり、焼結されていない金属化合物の微粒子を含んでいてよい。このような未焼結領域25は、レーザー照射により、光造形構造体20を形成可能であり、かつ未焼結領域25を残存可能であるエネルギー量が付与されることによって形成され得る。すなわち、未焼結領域25は、光造形構造体20を形成可能であり、かつ完全な焼結を達成しない程度の熱エネルギーを付与できるようにレーザー照射を行うことで形成可能である。本発明においては、光造形用材料がナノ粒子を含むことで、光造形構造体の形成のためのレーザーの出力を低減可能となり、またはレーザーの走査速度を高速化可能となったことにより、より低いエネルギー量で光造形構造体を形成可能であるため、未焼結領域を有する光造形構造体を得ることができる。
【0070】
光造形構造体における未焼結領域は、焼結された領域に比べて硬度が低くなり得る。そのため、光造形構造体中に存在する未焼結領域は、光造形構造体に加えられる応力を緩和する応力緩和領域として機能することができる。結果として、光造形構造体の機械的強度を全体としてより向上させることができる。
【実施例0071】
本発明に従って、実証試験を行った。
【0072】
<実施例1>
下記(1)~(5)に示す手順により、基材上にライン状の光造形構造体を作製した。
【0073】
(1)金属材料としては、酢酸バリウムおよびTTIPを用いた。媒体としては、酢酸、2-プロパノール、および超純水を約6:1:14の体積比で含む混合媒体を用いた。また、ナノ粒子としては、平均粒径が10nmである金ナノ粒子を用いた。
(2)媒体に金属材料およびナノ粒子を混合した。媒体中のナノ粒子の含有量は、金属材料およびナノ粒子を含む媒体の全体積に対して、7.0×10-5体積%であった。混合後の溶液において、金ナノ粒子(金)の熱伝導率は295W/m・Kであり、金属材料を含む混合媒体の熱伝導率よりも有意に高かった。また、混合媒体に主成分として含まれる超純水の熱伝導率は0.602W/m・Kである。すなわち、媒体に含まれるナノ粒子の熱伝導率は、媒体の主成分の熱伝導率の約500倍であった。
(3)金属材料およびナノ粒子を含む媒体を板状の基板(SUS)に塗布した後、乾燥させることにより、乾燥塗膜を作製した。
(4)基板上の乾燥塗膜に、グリーンフェムト秒レーザー光源を用いてフェムト秒レーザーを照射した。レーザーの波長は515nmであり、レーザー出力は93mWであった。レーザー照射によって2光子吸収現象を発生させ、続く熱反応によってチタン酸バリウムの光造形構造体を生成した。さらに、0.5mm/sの走査速度でレーザーの焦点位置を一方向に移動させることで、ライン状の光造形構造体を得た。
(5)基板を純水で洗浄することにより、未反応の乾燥塗膜を除去した。
【0074】
<実施例2>
レーザーの出力を75mWに変更したこと以外、実施例1と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0075】
<実施例3>
レーザーの走査速度を1.0mm/sに変更したこと以外、実施例1と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0076】
<実施例4>
レーザーの走査速度を0.1mm/sに変更したこと以外、実施例1と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0077】
<実施例5>
レーザーの出力を35mWに変更したこと以外、実施例1と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0078】
<実施例6>
レーザーの出力を75mWとし、走査速度を1.5mm/sに変更したこと以外、実施例1と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0079】
<比較例1>
媒体にナノ粒子を混合せず、実施例1と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0080】
<比較例2>
媒体にナノ粒子を混合せず、実施例2と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0081】
<比較例3>
媒体にナノ粒子を混合せず、実施例3と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0082】
<比較例4>
媒体にナノ粒子を混合せず、実施例5と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0083】
<比較例5>
媒体にナノ粒子を混合せず、実施例6と同様の方法によって光造形構造体を製造した。
【0084】
(光造形構造物の評価)
実施例1~5、および比較例1~5の光造形構造体の各々について、光造形構造体の表面を走査電子顕微鏡(FE-SEM)により観察した。
(ポア面積率の測定)
各光造形構造体のポア面積率は、以下の手順で算出した。
(1)FE-SEM(日本電子製、JSM-7500FA)によって5000倍のSEM写真を撮影した。
(2)得られたSEM写真について、ライン状の光造形構造体の平面積を計測した。
(3)旭化成エンジニアリング(株)製のA像くん(登録商標)を用いた二値化処理により、光造形構造体の表面に露出しているポアを抽出し、各ポアの平面積の合計値を求めた。
(4)得られた値を用いて、以下の式(I)によってポア面積率を算出した。
ポア面積率(%)=(ポア平面積の合計値/光造形構造体の平面積)×100 (I)
【0085】
表1に、実施例1~6および比較例1~5の評価結果を示す。なお、表中の「析出なし」とは、レーザー照射によって光造形構造体が析出されなかったことを意味する。
【0086】
【表1】
【0087】
上記結果によれば、光造形用材料に熱伝導率の大きいナノ粒子が存在することで、ポア面積率が12.8%以下である光造形構造体を得ることができた。一方で、ナノ粒子を含まない材料から形成される従来の光造形構造体では、27.7%以上の高いポア面積率を有することが認められた。すなわち、光造形用材料が熱伝導率の大きいナノ粒子を含むことにより、ナノ粒子を含まないこと以外は同条件で製造される従来の光造形構造体と比較して、ポア面積率を約68%~約81%低減させることが可能となった。以上のことから、本発明によれば、ナノ粒子の含有によって、よりポアの少ない光造形構造体が供され得る。したがって、本発明によれば、より緻密な構造を備え、機械的強度に優れた光造形構造体が供されることがわかった。
【0088】
また、比較例4および5の結果によれば、35mWという低いレーザー出力でレーザー照射を行った場合、光造形構造体は形成されなかった。一方で、ナノ粒子を含む実施例5の結果によれば、35mWの低いレーザー出力においても光造形構造体の析出が可能であり、かつ、得られる光造形構造体は0.1%という非常に低いポア面積率を示した。これは、ナノ粒子の存在によって熱エネルギーが好適に集約されるため、低い出力のレーザーであっても好適に光造形構造体を形成可能であることを示すものである。以上のことから、本発明によれば、より低い出力のレーザーを用いて機械的強度に優れた光造形構造体を製造可能であることがわかった。
【0089】
また、1.5mm/sの速い走査速度でレーザー照射を行った場合においても、光造形構造体は形成されなかった。一方で、実施例5の結果によれば、1.5mm/sの走査速度においても、6.2%という低いポア面積率を有する光造形構造体が得られた。これは、ナノ粒子の存在によって熱エネルギーが好適に集約されるため、1箇所におけるレーザーの照射時間が短く、付与される光エネルギー量が小さい場合であっても、好適に光造形構造体を形成可能であることを示すものである。以上のことから、本発明によれば、より速いレーザー走査速度にて、機械的強度に優れた光造形構造体を製造可能であることがわかった。
【0090】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、あくまでも典型例を例示したに過ぎない。従って、本発明はこれに限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の態様が考えられることを当業者は容易に理解されよう。
【0091】
なお、上述のような本発明の一実施形態は、次の好適な態様を包含している。
<1>1種以上の金属元素を主成分として含む光造形構造体であって、
前記光造形構造体におけるポア面積率が20%以下の範囲にある、光造形構造体。
<2>前記光造形構造体の表面および内部の少なくとも一方にポアが存在し、
前記光造形構造体における前記のポアの面積率が0.05%以上15%以下である、<1>の光造形構造体。
<3>前記金属元素が、Fe、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Ti及びBaから成る群から選択される少なくとも1種である、<1>または<2>の光造形構造体。
<4>前記光造形構造体が、2種以上の前記金属元素を含む複合酸化物であって、
前記2種以上の金属元素が、Fe、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Ti及びBaから成る群から選択される、<1>~<3>のいずれかの光造形構造体。
<5>平均粒子径がナノメートルオーダーであるナノ粒子を更に含み、
前記ナノ粒子の熱伝導率が10W/m・K以上500W/m・K以下である、<1>~<4>のいずれかの光造形構造体。
<6>前記ナノ粒子の含有量が、1.0×10-3重量%以上1.0×10-2重量%以下である、<5>の光造形構造体。
<7>前記ナノ粒子が金ナノ粒子である、<5>または<6>の光造形構造体。
<8>表面および内部の少なくとも一方に未焼結領域を含む、<1>~<7>のいずれかの光造形構造体。
<9>1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と、ナノ粒子と、前記金属材料および前記ナノ粒子を含む媒体とを備え、
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体の主成分の熱伝導率より大きい、光造形用材料。
<10>
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体および前記金属材料の熱伝導率より大きい、<9>の光造形用材料。
<11>前記媒体が、液体、ゲル体または固体である、<9>または<10>の光造形用材料。
<12>前記金属元素が、Fe、Co、Cu、Mn、Ni、Zn、Ti及びBaから成る群から選択される少なくとも1種である、<9>~<11>のいずれかの光造形用材料。
<13>前記ナノ粒子が、前記金属材料に含まれる金属元素のうち、少なくとも1種の金属元素を含む、<9>~<12>のいずれかの光造形用材料。
<14>前記媒体中に含まれる前記ナノ粒子の含有量が、7.0×10-6体積%以上7.0×10-4体積%以下である、<9>~<13>のいずれかの光造形用材料。
<15>前記金属材料が特定の波長で励起される、<9>~<14>のいずれかに記載の光造形用材料。
<16>前記媒体の光吸収スペクトルにおいて、前記ナノ粒子に由来する光吸収の吸収強度は、前記媒体の光吸収スペクトルのピーク強度の3.0%以下である、<9>~<15>のいずれかの光造形用材料。
<17>板状の基材をさらに備え、
前記媒体は、前記基材上に配置され、
前記基材の熱伝導率は、前記ナノ粒子の熱伝導率より小さい、<9>~<16>のいずれかの光造形用材料。
<18><9>~<17>のいずれかの前記光造形用材料から製造される、光造形構造体。
<19>光造形用材料にレーザー光を照射する工程を含み、
前記光造形用材料が、1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と、ナノ粒子と、前記金属材料および前記ナノ粒子を含む媒体とを備え、
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体の主成分の熱伝導率より大きい、光造形構造体の製造方法。
<20>光造形用材料にレーザー光を照射する工程を含み、
前記光造形用材料が、1種以上の金属元素の金属イオンを含む金属材料と、ナノ粒子とを含む媒体を備え、
前記ナノ粒子の熱伝導率は、前記媒体および前記金属材料の熱伝導率より大きい、<19>の光造形構造体の製造方法。
<21>前記レーザー光の出力が20mW以上50mW以下である、<19>または<20>の光造形構造体の製造方法。
【符号の説明】
【0092】
10:光造形用基材
11:媒体
12:ナノ粒子
15:基材
20:光造形構造体
21:ポア
25:未焼結領域
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5