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特開2025-24912排出係数算出方法及び排出係数算出プログラム
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  • 特開-排出係数算出方法及び排出係数算出プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024912
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】排出係数算出方法及び排出係数算出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20250214BHJP
   G06Q 10/04 20230101ALI20250214BHJP
【FI】
G06Q50/06
G06Q10/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129290
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健志
(72)【発明者】
【氏名】田中 拓也
(72)【発明者】
【氏名】張本 和芳
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L010AA04
5L049AA04
5L049CC06
5L050CC06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】動的にCO2排出量を評価する排出係数算出方法及び排出係数算出プログラムを提供する。
【解決手段】コンピュータが実行可能な排出係数算出方法であって、所定のエリアの標準気象データに基づいて当該エリアにおける時刻毎の供給電力量を推計し、推計した供給電力量に占める発電種別毎の発電量を示す電源構成を推定し、推定した電源構成に基づいて、時刻毎のCO2排出係数を算出する処理を実行する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータが、
所定のエリアの標準気象データに基づいて当該エリアにおける時刻ごとの供給電力量を推計し、
推計された供給電力量に占める発電種別ごとの発電量を示す電源構成を推定し、
推定された電源構成に基づいて、時刻ごとのCO2排出係数を算出する
処理を実行する排出係数算出方法。
【請求項2】
前記推計する処理は、
前記標準気象データに含まれる時刻ごとの気温のデータに基づいて供給電力量を推計する供給電力推計モデルを用いて、時刻ごとの供給電力量を推計する
請求項1に記載の排出係数算出方法。
【請求項3】
前記推定する処理は、
前記標準気象データに含まれる時刻ごとの日射量のデータに基づいて太陽光発電量を推計する太陽光発電推計モデルを用いて、時刻ごとの太陽光発電量を推計する
請求項1に記載の排出係数算出方法。
【請求項4】
前記推定する処理は、
前記太陽光発電量を推計した後、原子力発電量、地熱発電量、バイオマス発電量及び風力発電量を推計し、当該推計の後に火力発電量及び水力発電量を推計する
請求項3に記載の排出係数算出方法。
【請求項5】
コンピュータが、
所定のエリアの標準気象データに基づいて、当該エリアに建設される計画がある建物における時刻ごとの電力消費量を予測し、
前記標準気象データに基づいて前記エリアにおける時刻ごとの供給電力量を推計し、
推計された供給電力量に占める発電種別ごとの発電量を示す電源構成を推定し、
推定された電源構成に基づいて、時刻ごとのCO2排出係数を算出し、
予測された電力消費量と算出されたCO2排出係数とを用いて、前記建物のCO2排出量を算出する
処理を実行するCO2排出量評価方法。
【請求項6】
コンピュータに、
所定のエリアの標準気象データに基づいて当該エリアにおける時刻ごとの供給電力量を推計し、
推計された供給電力量に占める発電種別ごとの発電量を示す電源構成を推定し、
推定された電源構成に基づいて、時刻ごとのCO2排出係数を算出する
処理を実行させる排出係数算出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排出係数算出方法及び排出係数算出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、例えば建物の運用時に排出される二酸化炭素(CO2)量の評価などが行われることがある。CO2排出量は、例えば電力会社によって公表される年間平均値によるCO2排出係数を用いて算出することが可能であり、建物の運用時の電力消費量から建物のCO2排出量が算出される。
【0003】
CO2排出係数は、単位発電電力量当たりのCO2排出量を示す係数であるが、発電に係るCO2排出量は発電種別によって異なるため、実際のCO2排出係数は電源構成に応じて変動する。具体的には、例えば晴天日中にはCO2を排出しない太陽光発電の比率が大きくなるため、CO2排出係数が小さくなる一方、例えば雨天日中や夜間にはCO2を排出する火力発電の比率が大きくなるため、CO2排出係数が大きくなる。
【0004】
そこで、時刻ごとの電力需給の変動を考慮してCO2排出量を算出し、動的に環境価値の評価を行うことが考えられている。すなわち、例えば、電源種別ごとのCO2排出係数のデータ及び電源種別ごとの単位時間当たりの発電量のデータなどを用いて、電力需要者のCO2排出量を算出し、電力需要者の電力消費に関する評価指標を求めることが検討されている(例えば特許文献1)。
【0005】
しかしながら、上記のようなCO2排出量の評価は、電源種別ごとの発電量などの実績データに基づいて行われるため、例えば設計・計画段階にある建物についての評価のように、将来のCO2排出量についての評価は困難であるという問題がある。すなわち、実績データが得られない期間に関しては、時刻ごとの電力需給の変動が不明であり、発電における電源構成比も不明であることから、動的にCO2排出量を評価することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第7246659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、動的にCO2排出量を評価することができる排出係数算出方法及び排出係数算出プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係る排出係数算出方法によれば、コンピュータが、所定のエリアの標準気象データに基づいて当該エリアにおける時刻ごとの供給電力量を推計し、推計された供給電力量に占める発電種別ごとの発電量を示す電源構成を推定し、推定された電源構成に基づいて、時刻ごとのCO2排出係数を算出する処理を実行する。
【0009】
この方法によれば、発電種別ごとの発電量を考慮して時刻ごとのCO2排出係数を算出するため、電力消費に伴うCO2排出量を実態に即して時刻ごとに算出することが可能となり、動的にCO2排出量を評価することができる。
【0010】
また、本発明の他の一態様に係る排出係数算出方法によれば、前記推計する処理は、前記標準気象データに含まれる時刻ごとの気温のデータに基づいて供給電力量を推計する供給電力推計モデルを用いて、時刻ごとの供給電力量を推計する。
【0011】
この方法によれば、気温によって変動する電力消費を反映した供給電力量を正しく推計することができる。
【0012】
また、本発明の他の一態様に係る排出係数算出方法によれば、前記推定する処理は、前記標準気象データに含まれる時刻ごとの日射量のデータに基づいて太陽光発電量を推計する太陽光発電推計モデルを用いて、時刻ごとの太陽光発電量を推計する。
【0013】
この方法によれば、日射量に応じた太陽光発電量を正しく推計し、電源構成を適切に推定することができる。
【0014】
また、本発明の他の一態様に係る排出係数算出方法によれば、前記推定する処理は、前記太陽光発電量を推計した後、原子力発電量、地熱発電量、バイオマス発電量及び風力発電量を推計し、当該推計の後に火力発電量及び水力発電量を推計する。
【0015】
この方法によれば、比較的容易に調整可能な火力発電量及び水力発電量を最後に推計するので、すべての発電種別の発電量の合計が供給電力量に等しくなる妥当な電源構成を推定することができる。
【0016】
また、本発明の一態様に係るCO2排出量評価方法によれば、コンピュータが、所定のエリアの標準気象データに基づいて、当該エリアに建設される計画がある建物における時刻ごとの電力消費量を予測し、前記標準気象データに基づいて前記エリアにおける時刻ごとの供給電力量を推計し、推計された供給電力量に占める発電種別ごとの発電量を示す電源構成を推定し、推定された電源構成に基づいて、時刻ごとのCO2排出係数を算出し、予測された電力消費量と算出されたCO2排出係数とを用いて、前記建物のCO2排出量を算出する処理を実行する。
【0017】
この方法によれば、計画中の建物の電力消費量を予測し、発電種別ごとの発電量を考慮して時刻ごとのCO2排出係数を算出し、予測される電力消費量とCO2排出係数から時刻ごとのCO2排出量を算出するため、実態に即したCO2排出量を算出して動的にCO2排出量を評価することができる。
【0018】
また、本発明の一態様に係る排出係数算出プログラムは、コンピュータに、所定のエリアの標準気象データに基づいて当該エリアにおける時刻ごとの供給電力量を推計し、推計された供給電力量に占める発電種別ごとの発電量を示す電源構成を推定し、推定された電源構成に基づいて、時刻ごとのCO2排出係数を算出する処理を実行させる。
【0019】
このプログラムによれば、発電種別ごとの発電量を考慮して時刻ごとのCO2排出係数を算出するため、電力消費に伴うCO2排出量を実態に即して時刻ごとに算出することが可能となり、動的にCO2排出量を評価することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、動的にCO2排出量を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施の形態に係る排出係数算出装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、一実施の形態に係る排出係数算出方法を示すフロー図である。
図3図3は、電源構成の推定結果の具体例を示す図である。
図4図4は、CO2排出係数の算出結果の具体例を示す図である。
図5図5は、建物評価方法の一例を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る一実施の形態について説明する。以下に説明する実施の形態は例示であり、この記載によって限定解釈されるものではない。
【0023】
図1は、一実施の形態に係る排出係数算出装置100の構成を示すブロック図である。この排出係数算出装置100は、あるエリア(地域)の標準気象データが入力されると、このエリアにおける発電に係る時間ごとの電源構成を推定し、時刻ごとのCO2排出係数を算出する。したがって、電源構成の実績データがなくても、時刻ごとにCO2排出量を算出して評価することが可能となる。
【0024】
図1に示す排出係数算出装置100は、データ記憶部110、条件入力部120、供給電力量推計部130、電源構成推定部140、排出係数算出部150及び結果出力部160を有する。
【0025】
データ記憶部110は、CO2排出係数の算出に用いられる種々のデータを記憶する。具体的には、データ記憶部110は、気象データ111、電力需給データ112及びCO2排出データ113を記憶する。
【0026】
気象データ111は、過去の全国の気象データである。気象データ111には、例えば過去の所定年数分の気温及び日射量が時刻ごとに記録されている。
【0027】
電力需給データ112は、例えば全国の電力会社から提供される電力需給データであり、過去に供給された電力についての発電種別ごとの内訳のデータを含む。電力需給データ112には、時刻ごとの供給電力量のうち例えば火力発電、原子力発電、水力発電、太陽光発電、バイオマス発電、地熱発電及び風力発電それぞれによる発電量が記録されている。
【0028】
CO2排出データ113は、発電種別ごとのCO2排出係数を示すデータである。CO2排出データ113は、主に火力発電による燃料消費に伴うCO2排出係数に関するデータを含む。具体的には、CO2排出データ113は、例えば石油、石炭及び天然ガスそれぞれを利用して単位発電量の火力発電が行われる際に排出されるCO2の量を示す燃料別のCO2排出係数などが記録されている。
【0029】
条件入力部120は、あるエリアにおけるCO2排出係数を算出する場合に、CO2排出係数の算出対象のエリア(以下「対象エリア」という)の標準気象データの入力を受け付ける。標準気象データは、実際の気象データから作成された、対象エリアの気象を代表する1年間の仮想的な気象データであり、対象エリアの時刻ごとの気温及び日射量のデータを含む。このような標準気象データは、例えば対象エリアに建設される建物の設計・計画段階において、当該建物で消費されるエネルギーシミュレーションを行う場合などにも用いられる。
【0030】
供給電力量推計部130は、データ記憶部110に記憶された気象データ111及び電力需給データ112に基づいて、対象エリアへ供給される電力を推計する供給電力推計モデルを決定する。すなわち、供給電力量推計部130は、例えば日時と過去の対象エリアの気温とを説明変数とし、過去に対象エリアへ供給された電力量を目的変数とした重回帰分析を行うことにより、日時及び気温から供給電力量を推計する供給電力推計モデルを決定する。そして、供給電力量推計部130は、条件入力部120へ入力される標準気象データに対して供給電力推計モデルを適用することにより、時刻ごとの対象エリアへの供給電力量を推計する。
【0031】
電源構成推定部140は、供給電力量推計部130によって推計された供給電力量の電源構成を推定する。すなわち、電源構成推定部140は、対象エリアへ供給される電力に占める時刻ごとの各発電種別の発電量を推定する。
【0032】
具体的には、電源構成推定部140は、データ記憶部110に記憶された気象データ111及び電力需給データ112に基づいて、対象エリアにおける太陽光発電による発電量を推計する太陽光発電推計モデルを決定する。すなわち、電源構成推定部140は、例えば過去の対象エリアの日射量を説明変数とし、過去に対象エリアへ供給された太陽光発電による電力量を目的変数とした単回帰分析を行うことにより、日射量から太陽光発電量を推計する太陽光発電推計モデルを決定する。そして、電源構成推定部140は、条件入力部120へ入力される標準気象データに対して太陽光発電推計モデルを適用することにより、時刻ごとの対象エリアにおける太陽光発電量を推計する。また、電源構成推定部140は、太陽光発電以外の発電種別について、電力需給データ112に基づいて時刻ごとの発電量を推定し、電源構成を推定する。
【0033】
排出係数算出部150は、供給電力量推計部130によって推計された供給電力量と電源構成推定部140によって推定された電源構成とに基づいて、時刻ごとのCO2排出係数を算出する。具体的には、排出係数算出部150は、CO2排出データ113を参照して対象エリアにおける時刻ごとのCO2排出量を算出し、すべての発電種別のCO2総排出量を対象エリアへの供給電力量によって除算することにより、時刻ごとのCO2排出係数を算出する。換言すれば、排出係数算出部150は、以下の式(1)によって時刻tにおけるCO2排出係数Ctを算出する。
【数1】
【0034】
ただし、上式(1)において、Mtは時刻tにおけるCO2総排出量を示し、Ei,tは時刻tにおける発電種別iによる発電量を示す。CO2総排出量Mtの算出に際しては、電源構成における各発電種別の発電量に当該発電種別のCO2排出係数を乗算して発電種別ごとのCO2排出量を算出し、発電種別ごとのCO2排出量を合計すればよい。
【0035】
結果出力部160は、排出係数算出部150によって算出される時刻ごとのCO2排出係数を出力する。時刻ごとのCO2排出係数は、対象エリアにおける例えば時刻ごとの予測消費電力量に乗算して実態に即した時刻ごとのCO2排出量を算出することにより、CO2排出量を動的に評価する場合などに用いることができる。
【0036】
次いで、上記のように構成された排出係数算出装置100による排出係数算出方法について、図2に示すフロー図を参照しながら説明する。
【0037】
時刻ごとのCO2排出係数の算出に先立って、供給電力量推計部130及び電源構成推定部140によって用いられる供給電力推計モデル及び太陽光発電推計モデルが決定される。具体的には、供給電力量推計部130によって気象データ111及び電力需給データ112が参照され、対象エリアへ供給される電力を推計する供給電力推計モデルが決定される(ステップS101)。供給電力推計モデルは、日時及び気温から供給電力量を推計するモデルであり、例えば以下の式(2)に示すモデルを用いることができる。
【数2】
【0038】
ただし、式(2)において、yは供給電力量、β0は切片、βnは偏回帰係数、xnは説明変数である日時及び気温などを示す。供給電力量yは、時刻ごと及び発電種別ごとの供給電力量が記録された電力需給データ112から得られる。また、説明変数xnには、例えば1月から12月までの月を表す変数と、平日、土曜日及び休日の曜日種別を表す変数と、0時から23時までの時刻を表す変数と、気温を表す変数となどが含まれ、時刻ごとの気温が記録された気象データ111から得られる。
【0039】
一方、電源構成推定部140によって気象データ111及び電力需給データ112が参照され、対象エリアにおける太陽光発電による発電量を推計する太陽光発電推計モデルが決定される(ステップS102)。太陽光発電推計モデルは、日射量から太陽光発電量を推計するモデルであり、例えば以下の式(3)に示すモデルを用いることができる。
y=βx ・・・(3)
【0040】
ただし、式(3)において、yは太陽光発電量、βは回帰係数、xは説明変数である日射量を示す。太陽光発電量yは、時刻ごと及び発電種別ごとの供給電力量が記録された電力需給データ112から得られる。また、日射量xは、時刻ごとの日射量が記録された気象データ111から得られる。
【0041】
なお、ここでは供給電力推計モデル及び太陽光発電推計モデルを回帰分析により決定されるものとして説明したが、供給電力推計モデル及び太陽光発電推計モデルは、機械学習を用いて決定されてもよい。
【0042】
供給電力推計モデル及び太陽光発電推計モデルが決定されると、供給電力量推計部130及び電源構成推定部140によって、それぞれのモデルの精度が確認される(ステップS103)。すなわち、例えば各モデルの決定係数が算出され、それぞれのモデルに関する決定係数が所定の基準を満たすか否かが判断される。この判断の結果、モデルの精度が所定の基準を満たさない場合には、例えば説明変数を変更することなどにより、異なるモデルが決定されるようにしてもよい。
【0043】
時刻ごとのCO2排出係数が算出される際には、対象エリアの標準気象データが条件入力部120へ入力される(ステップS104)。標準気象データには、対象エリアを代表する時刻ごとの気温及び日射量のデータが含まれる。
【0044】
そして、供給電力量推計部130によって、標準気象データに供給電力推計モデルが適用されることにより、対象エリアにおける時刻ごとの供給電力量が推計される(ステップS105)。すなわち、標準気象データに含まれる時刻ごとの気温のデータが例えば上式(2)の供給電力推計モデルに入力されることにより、対象エリアにおける時刻ごとの供給電力量が推計される。
【0045】
また、電源構成推定部140によって、標準気象データに太陽光発電モデルが適用されることにより、対象エリアにおける時刻ごとの太陽光発電量が推計される(ステップS106)。すなわち、標準気象データに含まれる時刻ごとの日射量のデータが例えば上式(3)の太陽光発電推計モデルに入力されることにより、対象エリアにおける時刻ごとの太陽光発電量が推計される。
【0046】
そして、電源構成推定部140によって、太陽光発電以外の発電種別についても時刻ごとの発電量が推定され、時刻ごとの電源構成が推定される(ステップS107)。具体的には、例えば原子力発電、バイオマス発電、地熱発電及び風力発電については、電力需給データ112に記録された過去の発電量が参考値として用いられるとともに、火力発電及び水力発電については、すべての発電種別の発電量の合計が供給電力量に等しくなるように発電量が推定される。このとき、火力発電と水力発電の発電量の比率は、電力需給データ112に記録された過去の発電量の比率と等しくなるように調整されてもよい。
【0047】
このような電源構成の推定により、例えば図3に示すように、供給電力量に占める発電種別ごとの発電量を示す電源構成の時刻ごとの変動情報が得られる。この電源構成においては、例えば晴天日中に太陽光発電が占める比率が大きくなるなど、供給電力量の内訳が実態に即して示されている。
【0048】
そして、排出係数算出部150によって、電源構成が用いられることにより時刻ごとのCO2排出係数が算出される(ステップS108)。具体的には、上式(1)に示したように、時刻ごとにCO2排出量が供給電力量によって除算されることにより、時刻ごとのCO2排出係数が算出される。例えばCO2を排出する発電種別が火力発電のみである場合、電源構成から時刻ごとの火力発電量が取得され、火力発電量と、火力発電によるCO2排出係数とが乗算されることにより、上式(1)の分子のCO2排出量が求められる。また、上式(1)の分母の供給電力量としては、供給電力量推計部130によって推計された対象エリアにおける時刻ごとの供給電力量を用いることができる。
【0049】
CO2排出係数の算出の結果、例えば図4に示すように、対象エリアの時刻ごとに変動するCO2排出係数が得られる。このCO2排出係数は、対象エリアにおける発電の電源構成に応じたものであり、動的にCO2排出量を評価するために利用することができる。そこで、動的なCO2排出量の評価のために、結果出力部160によって時刻ごとのCO2排出係数が出力される(ステップS109)。
【0050】
次に、時刻ごとのCO2排出係数を用いたCO2排出量の評価方法の具体例について、図5に示すフロー図を参照しながら説明する。ここでは、対象エリアに建設される計画がある建物についてのCO2排出量の評価について説明する。
【0051】
計画中の建物について、建物の運用条件及び仕様などに基づくエネルギーシミュレーションが行われ(ステップS201)、建物で消費されることが予測される時刻ごとの電力消費量が算出される(ステップS202)。この電力消費量の算出には標準気象データに含まれる気温のデータが用いられ、例えば空調の使用による電力消費量が予測される。
【0052】
一方、上述した排出係数算出方法によって、標準気象データから対象エリアの供給電力量が推計され(ステップS203)、供給電力量の電源構成が推定され(ステップS204)、電源構成が用いられることにより、時刻ごとのCO2排出係数が算出される(ステップS205)。
【0053】
このように、建物の電力消費量の算出と、CO2排出係数の算出とには、同一の標準気象データが利用される。このため、時刻ごとの電力消費量及びCO2排出係数が時系列で互いに対応し、整合の取れたCO2排出量の評価を行うことができる。
【0054】
時刻ごとの電力消費量及びCO2排出係数が算出されると、各時刻の電力消費量に各時刻のCO2排出係数が乗算されることにより、時刻ごとのCO2排出量が算出される。そして、時刻ごとのCO2排出量に基づき、建物のCO2排出量が評価される(ステップS206)。このように、排出係数算出方法によってCO2排出係数を算出することにより、計画中の建物について動的にCO2排出量を評価することができる。
【0055】
以上のように、本実施の形態によれば、供給電力推計モデル及び太陽光発電推計モデルを標準気象データに適用して、対象エリアにおける時刻ごとの供給電力量及び電源構成を推定し、時刻ごとのCO2排出係数を算出する。このため、対象エリアにおける電力消費に伴うCO2排出量を実態に即して時刻ごとに算出することが可能となり、動的にCO2排出量を評価することができる。
【0056】
なお、上記一実施の形態において説明した排出係数算出方法を、コンピュータが実行可能なプログラムとして記述することも可能である。この場合、このプログラムをコンピュータが読み取り可能かつ非一時的(non-transitory)な記録媒体に格納し、コンピュータに導入することも可能である。このような記録媒体としては、例えばCD-ROM、DVDディスク、USBメモリなどの可搬型記録媒体、及び例えばフラッシュメモリなどの半導体メモリが挙げられる。
【符号の説明】
【0057】
100 排出係数算出装置
110 データ記憶部
120 条件入力部
130 供給電力量推計部
140 電源構成推定部
150 排出係数算出部
160 結果出力部
図1
図2
図3
図4
図5