(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024926
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】回転電機の製造方法、回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/30 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
H02K3/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129312
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】辻永 成樹
【テーマコード(参考)】
5H604
【Fターム(参考)】
5H604CC01
5H604CC05
5H604DA23
5H604DB01
5H604PB01
5H604PB03
5H604PC01
(57)【要約】
【課題】コイルエンドを保護することができ、作業の簡略化を図ることができ、さらに、製造後のコイルの耐環境性も改善することができる回転電機の製造方法、回転電機を提供する。
【解決手段】実施形態による回転電機1の製造方法は、固定子3に設けられたコイルエンド5に、自己修復能力のある自己修復塗料の被膜19を形成する工程を含む。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定子に設けられたコイルエンドに、自己修復能力のある自己修復塗料の被膜を形成する工程を含む回転電機の製造方法。
【請求項2】
コイルが装着されたスロットの内部に自己修復塗料を充填する工程を含む請求項1記載の回転電機の製造方法。
【請求項3】
コイルが装着されたスロットの内部にワニスを充填する工程を含む請求項1記載の回転電機の製造方法。
【請求項4】
前記コイルエンドをワニスにより固化する工程を含む請求項1から3のいずれか一項記載の回転電機の製造方法。
【請求項5】
前記コイルエンドを自己修復塗料により固化する工程を含む請求項1から3のいずれか一項記載の回転電機の製造方法。
【請求項6】
コイルエンドに自己修復能力のある自己修復塗料の被膜が形成された固定子を備える回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、回転電機の製造法、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に開示されているように、回転電機は、固定子、回転子、ファン、ブラケットなどの複数の部品を互いに組み合わせることによって製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の製造工程では、保管時や運搬時にコイルエンドが傷つかないようにするために、組立工程の直前まで保護カバーなどの保護具が取り付けられていたことから、保護具を取り付けたり取り外したりする作業が必要となっていた。
【0005】
そこで、コイルエンドを保護することができ、作業の簡略化を図ることができ、さらに、製造後のコイルの耐環境性も改善することができる回転電機の製造方法、回転電機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態による回転電機の製造方法は、固定子に設けられたコイルエンドに、自己修復能力のある自己修復塗料の被膜を形成する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態における回転電機の構成を模式的に示す図
【
図4】第2実施形態におけるスロットの内部を模式的に示す図
【
図9】その他の実施形態における製造方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、複数の実施形態について説明するが、各実施形態において実質的に共通する部位には同一符号を付して説明する。
【0009】
(第1実施形態)
以下、実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1に一例として示す回転電機1は、両端が開口した中空状に形成されているケース2の内部に、固定子3および回転子4を収容している。固定子3は、ケース2の内面に固定されており、その図示左右方向における端部にコイルエンド5が形成されている。以下、以下、回転中心軸(J1)に沿った図示左右への向きを軸方向と称し、軸方向に対して垂直となる向きを径方向と称し、図示右方側を負荷側、図示左方側を反負荷側と称して説明する。
【0010】
回転子4は、固定子3の内周側に所定のギャップを介して配置されており、その中心に軸部材6が取り付けられている。また、回転子4は、軸方向における両端に、例えばアルミダイキャストによって軸方向に突出するように形成されたフィン7を有している。軸部材6は、その両端がそれぞれベアリング8によって回転可能に支持されており、それにより、回転子4が固定子3に対して相対回転可能となっている。
【0011】
これらのベアリング8は、ケース2の両端側の開口を塞ぐ負荷側ブラケット9Aおよび反負荷側ブラケット9Bに固定されている。そのため、各ブラケット9には、内側つまりは回転子4側に突出する形状で、ベアリング8を固定するための固定部10が設けられている。本実施形態の場合、負荷側ブラケット9Aには、コイルエンド5を収容するための収容空間部11が形成されている。そのため、固定部10の図示左方側の端部、および、コイルエンド5に対して径方向外側に位置しているケース2との接続部位は、組み立て後にはコイルエンド5の端部よりも図示左方側に位置することになる。また、本実施形態の場合、反負荷側ブラケット9の外側に冷却ファン12およびファンカバー13が設けられている。
【0012】
さて、固定子3は、
図2に示すように、磁性鋼板を積層した固定子鉄心14と、固定子鉄心14の内周側に複数設けられているスロット15に挿入されたコイル16とにより構成されている。コイル16は、例えば細い導体にエナメルなどの絶縁被覆を設けた素線17(
図5参照)を巻回することにより形成されており、固定子鉄心14の両端にはみ出した部位を成形することにより、コイルエンド5が形成されている。また、スロット15内には固定子鉄心14とコイル16とを絶縁するための絶縁紙18(
図5参照)が設けられており、コイルエンド5には各相のコイル16を絶縁するための図示しない相関絶縁紙が設けられている。なお、コイル16は、いわゆる平角線や導体バーにより形成することもできる。
【0013】
そして、コイルエンド5には、自己修復能力のある自己修復塗料の被膜19が形成されている。この被膜19は、本実施形態では少なくともコイルエンド5の表面を覆う態様で形成されている。この自己修復塗料とは、被膜19の表面に生じた傷が時間の経過とともに塗料自身によって修復されていき、概ね被膜19が形成された当初の状態まで回復する機能を有する塗料である。
【0014】
本実施形態では、自己修復塗料として、例えばウレタン樹脂を主成分とした絶縁性を有するものであって、塗布後に紫外線照射により硬化する種類のものを採用している。また、自己修復塗料を塗布する手法としては、ハケあるいはスプレーにより塗布したり、貯留した自己修復塗料にコイルエンド5を浸漬したりするなど、自己修復塗料の種類に応じて適宜選択することができる。なお、自己修復塗料は、上記した種類のものに限定されず、必要な耐熱性や強度を有するものであれば、例えば二液混合あるいは乾燥によって硬化するものなどを適宜採用すればよい。
【0015】
次に、上記した構成の作用および効果について説明する。
前述のように、従来の製造工程では、保管時や運搬時にコイルエンド5が傷つかないようにするために、組立工程の直前まで保護カバーなどの図示しない保護具が取り付けられていたことから、保護具を取り付けたり取り外したりする作業が必要となっていた。そのため、本実施形態では、以下のようにして、回転電機1を製造している。
【0016】
図3は、回転電機1の製造工程のうち固定子3の製造に関する一部の工程を示しており、まず、固定子鉄心14のスロット15にコイル16を装着した後(S1)、コイルエンド5を成形する(S2)。続いて、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成する(S3)。このステップS3では、自己修復塗料を硬化させるところまで作業が行われる。なお、実際に製造する場合には、コイルエンド5の表面に限らず、コイルエンド5の内部にも部分的に被膜19が形成されると考えられる。
【0017】
そして、自己修復塗料の硬化が完了すると、固定子3は後工程に回される。この後工程では、例えばケース2に固定子3を取り付ける工程、固定子3の内周側に回転子4を軸部材6とともに配置する工程、ケース2にブラケット9を取り付ける工程などの複数の組立工程が含まれている。
【0018】
つまり、後工程では、ケース2への取り付け時にコイルエンド5がケース2に接触したり、回転子4を配置する際に回転子4や軸部材6がコールエンドに接触したり、ブラケット9の固定部10や接続部位がコイルエンド5に接触したりすることなどにより、コイルエンド5に傷がつく可能性がる。また、後工程に回すために固定子3を搬送したり、後工程の前に固定子3を一次的に保管したりする際にも、不注意や作業台等への接触によってコイルエンド5に傷がつく可能性がある。
【0019】
そのため、本実施形態では、上記したようにコイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成している。これにより、コイルエンド5に万が一傷がついてしまったとしても、自己修復性によって被膜19の傷が概ね形成時と同等程度の状態まで修復される。そのため、保管時や搬送時、組立工程中に発生する接触による傷からコイルエンド5を保護することが可能となり、また、被膜19が復元されることから繰り返し保護することも可能となり、被膜19の形成後に複数の工程を経て製造される回転電機1において好適なものとなっている。さらに、被膜19が復元されることから、保管や搬送のための保護具が不要となり、保護具の取付けや取外し作業も不要となるため工程を簡略化することが可能となるとともに、被膜19による保護が働くことにより、絶縁性および耐環境性を向上させることが可能となる。
【0020】
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
回転電機1の製造方法は、固定子3に設けられたコイルエンド5に、自己修復能力のある自己修復塗料の被膜19を形成する工程を含んでいる。これにより、保管時や搬送時、組立工程中に発生する接触による傷からコイルエンド5を保護することができるとともに、作業の簡略化を図ることができ、さらに、製造後のコイル16の耐環境性や絶縁性を改善することができる。
【0021】
また、回転電機1は、コイルエンド5に自己修復能力のある自己修復塗料の被膜19が形成された固定子3を備えている。このような回転電機1によっても、上記した製造方法と同様の効果をえることができる。
【0022】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について説明する。第2実施形態では、スロット15に装着されている部位を保護する手法について説明する。なお、回転電機1の構成や一部の製造工程は第1実施形態と共通するため、
図1から
図3も参照しながら説明する。
【0023】
図4に示すように、スロット15の内部にはコイル16が配置されている。本実施形態の場合、コイル16は複数の素線17によって構成されており、各素線17の間やスロット15の開口側などに複数の空間(S)が存在している。そして、このような空間(S)が存在すると、コイル16や素線17がスロット15内で移動する可能性がある。なお、平角線や導体バーでコイル16を形成する場合も同様である。
【0024】
そのため、例えば
図5に示すように、コイル16を装着し(S1)、コイルエンド5を形成し(S2)、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成した後(S3)、スロット15の内部に自己修復塗料を充填する工程(S10)をさらに実施することができる。この場合、ステップS3で被膜19を形成し、その後にステップS10を実施することもできるが、ステップS3とステップS10とを纏めて、自己修復塗料の被膜19形成とスロット15への充填とを同時に実施することもできる。
【0025】
このように、スロット15の内部に自己修復塗料を充填する工程を含む製造方法によっても、また、スロット15の内部に自己修復塗料が充填された固定子3を備える回転電機1によっても、コイル16や素線17がスロット15の内部で移動してしまうことを防止することができる。また、素線17間やスロット15の開口側に自己修復塗料の被膜19が形成されることから、素線17やコイル16が傷つくことを防止することができるとともに、製造後の耐環境性も改善することができる。
【0026】
あるいは、
図6に示すように、コイル16を装着し(S1)、コイルエンド5を形成し(S2)、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成した後(S3)、スロット15の内部にワニスを充填する工程(S11)をさらに実施することができる。なお、ステップS11では、充填後にワニスを乾燥により硬化する作業まで実施される。
【0027】
このように、スロット15の内部にワニスを充填する工程を含む製造方法によっても、また、スロット15の内部にワニスが充填された固定子3を備える回転電機1によっても、コイル16や素線17がスロット15の内部で移動してしまうことを防止することができる。また、素線17間やスロット15の開口側にワニスが充填されることから、素線17やコイル16が傷つくことを防止することができる。
【0028】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について説明する。第2実施形態では、コイルエンド5を保護する手法について説明する。なお、回転電機1の構成や一部の製造工程は第1実施形態と共通するため、
図1から
図3も参照しながら説明する。
【0029】
コイルエンド5は、回転電機1を小型化するためには小さく形成することが求められるとともに、絶縁性を確保するためには、その形状が崩れたり振動によって位置が変化したりしないことが求められる。そのため、例えば
図7に示すように、コイル16を装着し(S1)、コイルエンド5を形成し(S2)、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成し(S3)、さらに、コイルエンド5を自己修復塗料で固化する工程(S20)を実施することができる。
【0030】
このステップS20は、コイルエンド5に自己修復塗料を言わば含侵させて硬化させる工程である。つまり、被膜19とは少なくともコイルエンド5の表面に形成されるものであるのに対し、固化とは素線17間に
図4のような隙間が存在するコイルエンド5の内部まで自己修復塗料を充填して硬化させる状態を意味する。なお、コイルエンド5を自己修復塗料で固化することによって実質的にはコイルエンド5に自己修復塗料の被膜19が形成されることから、ステップS3とステップS20とは同時に実施することができるし、ステップS3を実行した後にステップ20を個別で実施することもできる。
【0031】
このように、コイルエンド5を自己修復塗料で固化する工程を含む製造方法によっても、また、コイルエンド5を自己修復塗料で固化した固定子3を備える回転電機1によっても、コイルエンド5の形状が崩れたり位置が変化したりすることを防止できる。勿論、実質的に自己修復塗料で保護されることから、傷つくことを防止することができるとともに、製造後の耐環境性を改善することもできる。
【0032】
あるいは、
図8に示すように、コイル16を装着し(S1)、コイルエンド5を形成し(S2)、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成した後(S3)、コイルエンド5をワニスで固化する工程(S21)を実施することができる。このステップS21では、従来と同様にコイルエンド5にワニスを含侵させる工程を実施すればよい。このように、コイルエンド5をワニスで固化する工程を含む製造方法によっても、また、コイルエンド5をワニスで固化した固定子3を備える回転電機1によっても、コイルエンド5の形状が崩れたり位置が変化したりすることを防止できる。
【0033】
(その他の実施形態)
各実施形態で説明したコイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成する工程、スロット15に自己修復塗料あるいはワニスを充填する工程、および、コイルエンド5を自己修復塗料あるいはワニスで固化する工程は、相反しない限り、いずれか1つあるいは複数を適宜組み合わせたり、その順序を入れ替えたりすることができる。
【0034】
例えば
図9に示すように、コイル16を装着し(S1)、コイルエンド5を形成し(S2)、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成し(S3)、スロット15に自己修復塗料を充填し(S10)、コイルエンド5を自己修復塗料により固化することができる(S20)。なお、ステップS3、ステップS10、ステップS20を同時に実施することができるし、子熱に実施することもできる。
【0035】
このような製造方法によっても、また、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19が形成され、スロット15の内部に自己修復塗料が充填され、コイルエンド5が自己修復塗料で固化された固定子3を備える回転電機1によっても、組み立て時にコイルエンド5が傷ついたりすることを防止できるとともに、作業を簡略化することができ、さらには、製造後のコイル16の耐環境性や絶縁性を改善することができる。
【0036】
あるいは、
図10に示すように、コイル16を装着し(S1)、コイルエンド5を形成し(S2)、コイルエンド5をワニスで固化した後に(S21)、コイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成することができる(S3)。このような製造方法によっても、また、コイルエンド5がワニスで固化され、そのコイルエンド5に自己修復塗料の被膜19が形成された固定子3を備える回転電機1によっても、組み立て時にコイルエンド5が傷ついたりすることを防止できるとともに、作業を簡略化することができ、さらには、製造後のコイル16の耐環境性や絶縁性を改善することができる。
【0037】
また、実施形態ではコイルエンド5に自己修復塗料の被膜19を形成する例を説明したが、固定子鉄心14の表面やフィン7のような回転電機1の内部に設けられる部品や構造物に自己修復塗料の被膜19を形成することができる。
以上、本発明の複数の実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
図面中、1は回転電機、3は固定子、5はコイルエンド、15はスロット、16はコイル、19は被膜を示す。