(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024969
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】高圧ガス貯留装置
(51)【国際特許分類】
F17C 13/00 20060101AFI20250214BHJP
F17C 1/12 20060101ALI20250214BHJP
H05K 7/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F17C13/00 302Z
F17C1/12
H05K7/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129382
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】308039414
【氏名又は名称】株式会社FTS
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 吉則
(72)【発明者】
【氏名】酒井 孝典
(72)【発明者】
【氏名】大前 和広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰倫
【テーマコード(参考)】
3E172
4E352
【Fターム(参考)】
3E172AA03
3E172AA06
3E172AB20
3E172BA04
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB17
3E172CA10
3E172DA90
3E172KA22
3E172KA23
3E172KA24
4E352AA02
4E352AA03
4E352BB02
4E352CC33
4E352CC56
4E352DD05
4E352DR02
4E352DR25
4E352DR40
4E352GG30
(57)【要約】
【課題】ハーネスの貫通部における気密性を保つ。
【解決手段】高圧ガス貯留装置Aは、高圧ガスを貯留するタンク10と、気密空間35を空けてタンク10を包囲する外殻体20と、外殻体20に形成され、外殻体20の内面側から外面側へ貫通した貫通孔38と、タンク10又は外殻体20に設けられた複数の電気機器40,43~48と、複数の電気機器40,43~48に個別に接続した複数本の電線51を束ねて構成され、貫通孔38に挿通された状態で配索されるハーネス50と、弾性を有し、貫通孔38とハーネス50との隙間における流体の流動を規制するシール部材60とを備えている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧ガスを貯留するタンクと、
気密空間を空けて前記タンクを包囲する外殻体と、
前記外殻体に形成され、前記外殻体の内面側から外面側へ貫通した貫通孔と、
前記タンク又は前記外殻体に設けられた複数の電気機器と、
前記複数の電気機器に個別に接続した複数本の電線を束ねて構成され、前記貫通孔に挿通された状態で配索されるハーネスと、
弾性を有し、前記貫通孔と前記ハーネスとの隙間における流体の流動を規制するシール部材とを備えている高圧ガス貯留装置。
【請求項2】
前記シール部材は、弾性を有する単一部品からなり、前記複数本の電線を個別に且つ気密状態で貫通させる複数のシール孔を有している請求項1に記載の高圧ガス貯留装置。
【請求項3】
前記シール部材に、前記気密空間に臨む受圧面と、前記受圧面に作用する押圧力によって前記外殻体の内面のうち前記貫通孔を包囲する領域に密着するシール面とが形成されている請求項2に記載の高圧ガス貯留装置。
【請求項4】
前記シール部材は、
互いに離隔して配置された前記複数本の電線に密着したモールド成形体と、
前記モールド成形体の外周面と前記貫通孔の内周面とに対して弾性的に密着したシールリングとを備えて構成されている請求項1に記載の高圧ガス貯留装置。
【請求項5】
前記シール部材が、前記高圧ガスの物性及び前記タンク内から前記気密空間への前記高圧ガスの漏洩モードに応じた位置に配置されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の高圧ガス貯留装置。
【請求項6】
前記高圧ガスがアンモニアであり、
前記シール部材が、前記気密空間の全高範囲のうち、前記気密空間の下端から50%以上、且つ80%以下の範囲内に配置されている請求項5に記載の高圧ガス貯留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧ガス貯留装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、液化ガスを貯留する内槽を、外槽によって包囲した二重殻タンクが開示されている。内槽と外槽との間の空間は、真空空間となっている。この種の装置においては、内槽に、液化ガスの液面高さ、温度、圧力等を電気的に検知するためのセンサが設けられる。また、外槽には、真空空間内の温度や圧力等を電気的に検知するためのセンサが設けられている。これらの電気的な装置に接続されたハーネスは、外槽を貫通して外槽の外部へ導出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外槽におけるハーネスの貫通部では気密性が求められる。しかし、ハーネスは、円形断面の複数本の電線を束ねたものであるから、ハーネスの外周面は凹凸を有する形状である。そのため、ハーネスの貫通部における気密性を保つことが困難である。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ハーネスの貫通部における気密性を保つことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
高圧ガスを貯留するタンクと、
気密空間を空けて前記タンクを包囲する外殻体と、
前記外殻体に形成され、前記外殻体の内面側から外面側へ貫通した貫通孔と、
前記タンク又は前記外殻体に設けられた複数の電気機器と、
前記複数の電気機器に個別に接続した複数本の電線を束ねて構成され、前記貫通孔に挿通された状態で配索されるハーネスと、
弾性を有し、前記貫通孔と前記ハーネスとの隙間における流体の流動を規制するシール部材とを備えている。
【発明の効果】
【0007】
弾性を有するシール部材によって、貫通孔とハーネスとの隙間における流体の流動を規制したので、外殻体におけるハーネスの貫通部分を気密状に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】外殻体におけるハーネスの貫通部分のシール構造をあらわす拡大断面図
【
図3】シール部材に出ると挿通させた状態をあらわす底面図
【
図4】実施例2の外殻体におけるハーネスの貫通部分のシール構造をあらわす拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。下記の複数の形態例を、矛盾を生じない範囲で任意に組み合わせたものも、発明を実施するための形態に含まれる。
【0010】
前記シール部材は、弾性を有する単一部品からなり、前記複数本の電線を個別に且つ気密状態で貫通させる複数のシール孔を有していることが好ましい。この構成によれば、複数本の電線を1本ずつ気密状に貫通させるようにしたので、隣り合う電線間の隙間を塞ぐための構造が不要である。
【0011】
前記シール部材に、前記気密空間に臨む受圧面と、前記受圧面に作用する押圧力によって前記外殻体の内面のうち前記貫通孔を包囲する領域に密着するシール面とが形成されていることが好ましい。この構成によれば、シール部材と貫通孔との隙間における高圧ガスの漏出を、受圧面とシール面によって防止することができる。
【0012】
前記シール部材は、互いに離隔して配置された前記複数本の電線に密着したモールド成形体と、前記モールド成形体の外周面と前記貫通孔の内周面とに対して弾性的に密着したシールリングとを備えて構成されていることが好ましい。この構成によれば、離隔して配置された複数本の電線に、モールド成形体を密着させたので、隣り合う電線間の隙間を塞ぐための構造が不要である。
【0013】
前記シール部材が、前記高圧ガスの物性及び前記タンク内から前記気密空間への前記高圧ガスの漏洩モードに応じた位置に配置されていることが好ましい。タンク内の高圧ガスが、気体の状態で気密空間内へ漏洩するか、液体の状態で気密空間内へ漏洩するかに応じて、シール部材の位置を設定することにより、漏洩した高圧ガスがシール部材に接触することを回避できる。
【0014】
前記高圧ガスがアンモニアであり、前記シール部材が、前記気密空間の全高範囲のうち、前記気密空間の下端から50%以上、且つ80%以下の範囲内に配置されていることが好ましい。気体の状態で漏洩したアンモニアは気密空間内の上端部に滞留し、液体の状態で漏洩したアンモニアは気密空間の下部に貯留する。シール部材は気密空間の下端から50%以下、且つ80%以内の高さに配置することによって、シール部材に対するアンモニアの接触を防止することができる。
【0015】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を
図1~
図3を参照して説明する。尚、以下の説明において、前後の方向については、
図1におけるF方向を前方と定義する。上下の方向については、
図1におけるH方向を上方と定義する。
【0016】
本実施例1の高圧ガス貯留装置Aは、車両(図示省略)に搭載して使用される。具体的には、高圧ガス貯留装置Aは、車内(例えば、荷物室)又は車外(ボディの床下)に配置される。高圧ガス貯留装置Aは、タンク10と、タンク10を包囲する外殻体20とを備えて構成されている。タンク10は、高圧ガス(高圧の液化ガスと気化ガス)を貯留するための気密性を有する貯留槽である。液化ガスは、常温・大気圧下において気相であるガスを、加圧と冷却によって液相へ相転移したものである。高圧の気化ガスは、液化ガスの蒸発によって生成された気体である。
【0017】
高圧ガス貯留装置Aに貯留する液化ガスと気化ガスは、車両のエンジン用のガス燃料として使用されるものであり、具体的にはアンモニアである。アンモニアは有害性の物質であるため、本実施例1では、万一、タンク10内の高圧ガス(アンモニアガス)がタンク10外へ漏出した場合の対策として、外殻体20を設けている。外殻体20は、タンク10の全体を間隔を空けて包囲するように配置されている。タンク10の外面と外殻体20の内面との間の空間は、タンク10から漏出した高圧ガスを一時的に貯留しておくための気密空間35として機能する。タンク10の外面の全領域と外殻体20の内面の全領域は、気密空間35に臨んでいる。
【0018】
図1に示すように、タンク10は、1つの筒部11と一対のドーム部12とを有し、全体としてカプセル状をなす。筒部11は、軸線を水平方向(前後方向)に向けた円筒形の部位である。一対のドーム部12は、略半球状をなす部位であり、筒部11の両端の開口を閉塞するように配置されている。筒部11と一対のドーム部12は、互いに別体部品として製造された金属製の部材からなり、溶接によって気密状に接合されて一体化されている。筒部11の下端部には、筒部11の内外を上下方向に連通させる第1取付孔13が形成されている。第1取付孔13の開口縁部には、筒形固定部材14が溶接によって気密状に固着されている。
【0019】
外殻体20は、互いに独立した異なる部品であるロアケース21とアッパケース22とを備えて構成されている。ロアケース21とアッパケース22は、上下方向に合体することが可能であり、上下方向へ分離することが可能である。ロアケース21とアッパケース22を合体した状態の外殻体20は、カプセル状をなし、筒状包囲部23と前後一対のドーム状覆い部24とを有している。筒状包囲部23は、軸線を前後方向(水平方向)に向けた円筒形をなす部位である。ドーム状覆い部24は、略半球状(お椀形)をなす部位であり、筒状包囲部23の前後両端の開口を閉塞するように配置されている。
【0020】
ロアケース21は、金属製であり、剛性と強度の高い部材である。ロアケース21の上面の開口縁部には、下側フランジ部25が一体に且つ全周に亘って形成されている。下側フランジ部25の下面には、ナット26が溶接によって固着されている。ロアケース21の上面の開口縁部には、全周に亘ってリング状のパッキン27が取り付けられている。ロアケース21の下端部には、気密空間35とロアケース21の外部とを上下方向に連通させる第2取付孔28が形成されている。第2取付孔28は、第1取付孔13と同心状に配置されている。ロアケース21の外面における下端部には、第2取付孔28を包囲するように配置されたスペーサ29が、溶接によって気密状に固着されている。スペーサ29の下面には、ボルト締めによって閉塞部材30が取り付けられている。閉塞部材30には、ロアケース21を上下方向に連通させる筒形嵌合部31が形成されている。
【0021】
アッパケース22は、ロアケース21よりも比重が小さく、ロアケース21よりも剛性と強度が低い部材である。
図2に示すように、アッパケース22は、金属製のベース部材32と、ベース部材32の外面全体に密着した補強層33とを備えて構成されている。補強層33は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)からなる複数枚の細長い補強シートを、ベース部材32の外面に積層するように貼り付けることによって構成されたものである。CFRPからなる補強層33の比強度(引っ張り強さを密度で除した値)は、金属製のベース部材32よりも大きい。ベース部材32は、ロアケース21よりも薄肉であるが、補強層33によって補強されている。アッパケース22における上面の開口縁部には、上側フランジ部34が形成されている。上側フランジ部34は、ベース部材32に一体に且つ全周に亘って形成された部位である。
【0022】
タンク10と外殻体20の組付け手順を説明する。外殻体20のロアケース21とアッパケース22が分離されている状態で、ロアケース21内にタンク10を収容する。このとき、タンク10の脚部(図示省略)をロアケース21に載置することによって、タンク10がロアケース21と非接触の状態で支持される。次に、アッパケース22の上側フランジ部34をロアケース21の下側フランジ部25の上に重ねて接合させるようにして、ロアケース21とアッパケース22とを合体させる。アッパケース22は、タンク10を非接触の状態で覆う。
【0023】
次に、締結ボルト36を、上側フランジ部34と下側フランジ部25に貫通させ、ナット26にねじ込んで締め付ける。締結ボルト36とナット26との締付けによってロアケース21とアッパケース22とが一体化され、外殻体20の組付けが完了する。外殻体20を組み付けた状態では、パッキン27がロアケース21とアッパケース22との間で上下方向に挟み付けられて弾性変形する。パッキン27の弾性変形によってロアケース21とアッパケース22との接合面が気密状にシールされ、タンク10と外殻体20との間に気密空間35が構成される。気密空間35内に、タンク10の全体が収容される。
【0024】
外殻体20を組み付けた後は、燃料ポンプ40の取付けを行う。燃料ポンプ40は、タンク10内の高圧ガスをエンジン(図示省略)へ供給するための装置である。燃料ポンプ40は、全体として軸線を上下方向に向けた円柱形をなす。燃料ポンプ40の外周面にはフランジ状取付部41が形成されている。燃料ポンプ40の下端面には、タンク10内の高圧ガスをエンジンへ供給するための供給管(図示省略)が接続される接続部42が配置されている。
【0025】
燃料ポンプ40は、フランジ状取付部41を筒形固定部材14の下面に重ねた状態で、筒形固定部材14を貫通するように配置されている。燃料ポンプ40の上端側部分は、タンク10内に収容されている。燃料ポンプ40は、フランジ状取付部41と筒形固定部材14をボルト締めすることによって、タンク10に固定されている。筒形固定部材14の下面とフランジ状取付部41の上面との間には、燃料ポンプ40と筒形固定部材14との隙間を気密状にシールするパッキン(図示省略)が設けられている。
【0026】
燃料ポンプ40の下端部は、閉塞部材30の筒形嵌合部31に嵌合されている。接続部42は、外殻体20の外面に配置されている。スペーサ29の下面と閉塞部材30の上面との間には、気密状にシールするためのパッキン(図示省略)が設けられている。筒形嵌合部31の内周面と燃料ポンプ40の外周面との間には、閉塞部材30と燃料ポンプ40との隙間を気密状にシールするためのパッキン(図示省略)が設けられている。
【0027】
高圧ガス貯留装置Aは、複数の電気機器40,43~48と、1本のハーネス50と、1つのシール部材60と、1つのコネクタ53とを備えている。電気機器として、燃料ポンプ40、濃度センサ43、第1圧力センサ44、第2圧力センサ45、第1温度センサ46、第2温度センサ47、レベルセンサ48が設けられている。
【0028】
濃度センサ43は、気密空間35内における気化ガスの存在の有無、及び気密空間35内における気化ガスの濃度を検出する。濃度センサ43は、外殻体20(アッパケース22)の上端部に配置されている。第1圧力センサ44は、気密空間35内の圧力を検出する。第2圧力センサ45は、タンク10内の圧力を検出する。第1温度センサ46は、気密空間35内の温度を検出する。第2温度センサ47は、タンク10内の温度を検出する。レベルセンサ48は、タンク10内における液化ガスの液面高さを検出する。
【0029】
ハーネス50は、複数本の電線51によって構成されている。各電線51は、気密空間35内において、上記複数の電気機器40,43~48に接続されており、電気機器への電力供給や、電気機器との間の電気信号の送受を行う。ハーネス50は、外殻体20を気密を保った状態で貫通することによって、気密空間35から外殻体20の外部へ導出されている。ハーネス50を気密に貫通させる手段として、外殻体20のアッパケース22のうちドーム状覆い部24を構成する曲面状の部位に、貫通孔38が形成されている。貫通孔38には、シール部材60が取り付けられている。貫通孔38は、外殻体20を貫通し、気密空間35を外殻体20の外部へ連通させる円形の開口部である。
【0030】
貫通孔38は、気密空間35の全高範囲のうち最上端部と最下端部を除いた領域に配置されている。具体的には、貫通孔38の高さ(位置)は、気密空間35の下端から50%以上且つ、気密空間35の下端から80%以下の範囲である。詳細には、貫通孔38の高さ(位置)は、気密空間35の下端から60%以上且つ、気密空間35の下端から70%以下の範囲である。
【0031】
シール部材60は、ゴム等の弾性を有する材料からなる。シール部材60は、本体部61と、抜止部63と、セルフシール部66とを有する単一部品である。本体部61は、貫通孔38の内径と同じ外径を有する円柱形をなす。本体部61は、貫通孔38に同心状に嵌合されている。本体部61の先端部は、外殻体20の外面から外殻体20の外部へ斜め上向きに突出している。本体部61の基端部は、気密空間35内へ斜め下向きに突出している。本体部61には、電線51の本数と同じ数のシール孔62が形成されている。シール孔62の両端のうち外殻体20の外面側の端部は、本体部61(シール部材60)の先端面に開口し、外殻体20の外部空間に臨んでいる。シール孔62の両端のうち外殻体20の内面側の端部は、本体部61(シール部材60)の基端面に開口し、気密空間35内に臨んでいる。
【0032】
各シール孔62には、電線51が個別に挿通されている。シール孔62の内周部が電線51の外周面に対して弾性的に密着することによって、シール孔62と電線51との隙間が気密状に保持されている。シール孔62に挿通された複数本の電線51(ハーネス50)の端部は、外殻体20の外部においてコネクタ53に接続されている。コネクタ53には、電源や制御装置等の図示しない機能機器に接続されたケーブル(図示省略)の端末部が接続されるようになっている。
【0033】
抜止部63は、本体部61の先端部外周から全周に亘ってフランジ状に張り出すように形成されている。抜止部63の外周面は、本体部61の軸線に対して傾斜したテーパ状のガイド面64として機能する。抜止部63の外径寸法は、抜止部63の基端から先端に向かって次第に小さくなっている。抜止部63の基端面は、本体部61の軸線と交差する係止面65として機能する。係止面65は、外殻体20の外面に沿った曲面からなり、外殻体20の外面に対して面当たり状態で係止している。
【0034】
セルフシール部66は、本体部61の基端部から全周に亘ってフランジ状に張り出すように形成されている。セルフシール部66は、外殻体20の内周面のうち貫通孔38の開口縁を包囲する領域を全周に亘って覆うように配置されている。セルフシール部66は、気密空間35に臨む受圧面67と、外殻体20の内周面と対向するシール面68とを有する。シール面68は、外殻体20の内面に沿った曲面からなる。シール面68には、リング状のリップ部69が形成されている。
【0035】
シール部材60を外殻体20に取り付ける際には、電気機器40,43~48から導出されている電線51をシール孔62に挿通する。つまり、ハーネス50をシール部材60に挿通させておく。そして、電線51の端末部にコネクタ53を接続しておく。次に、シール部材60を外殻体20の内側(気密空間35側)から貫通孔38に嵌め込んでいく。このとき、ガイド面64が貫通孔38の開口縁に摺接することによって、抜止部63が縮径するように弾性変形する。抜止部63の全体が貫通孔38を貫通して外殻体20の外部に出ると、抜止部63が拡径するように復元し、係止面65が外殻体20の外面に当接する。同時に、セルフシール部66のリップ部69が外殻体20の内面に当接する。抜止部63の係止面65が外殻体20の外面に当接し、リップ部69が外殻体20の内面に当接することによって、シール部材60が外殻体20に対して移動を規制された状態に取り付けられる。
【0036】
次に、本実施例1の高圧ガス貯留装置Aの作用を説明する。高圧ガスを貯留するタンク10は、その全体が気密性を有する外殻体20によって包囲され、タンク10と外殻体20との間には、タンク10から漏れた高圧ガスを一時的に貯留するための気密空間35が確保されている。万一、タンク10内の高圧ガスがタンク10外へ漏れたとしても、漏れた高圧ガスは、気密空間35内に留まる。したがって、タンク10から漏れた高圧ガスが、車両のキャビン内に侵入したり、車両の周辺に拡散したりする虞はない。
【0037】
タンク10内の気化ガス(アンモニア)が気密空間35へ漏れた場合は、濃度センサ43による気化ガスの検出が行われるとともに、気化ガスの漏れに起因する気密空間35内の圧力上昇が第1圧力センサ44によって検出される。気体の状態で漏れたアンモニアの比重は、気密空間35内に当初から存在する空気よりも小さいので、漏れたアンモニアガスは、気密空間35内の上端部に滞留する。濃度センサ43は気密空間35の上端部に配置されているので、アンモニアガスの漏れ量が少量であっても、確実に漏れを検出することができる。濃度センサ43又は第1圧力センサ44による検出が行われると、車両のインストルメントパネルに警告ランプが表示される、あるいは車両のキャビン内に警報音が発せられる等によって異常の発生が報知される。
【0038】
気密空間35内の圧力が上昇すると、セルフシール部66の受圧面67に作用する圧力によって、リップ部69が外殻体20の内面に対して気密状に密着する。この気密状に密着する環状領域は、外殻体20の内面における貫通孔38の開口縁を全周に亘って包囲する領域である。したがって、気密空間35内の圧力が上昇しても、気密空間35内の気化ガスが貫通孔38を通過して外殻体20の外部へ漏出する虞はない。
【0039】
ここで、貫通孔38と、貫通孔38に取り付けられているシール部材60は、気密空間35の全高範囲のうち、気密空間35の下端から60%以上且つ70%以下の高さに配置されている。気体状態のアンモニアは気密空間35の上端部に溜まっていくので、漏洩量が大量でなければ、アンモニアガスがシール部材60に接触する虞はない。また、液体状態のアンモニアは、気密空間35の下端部に溜まっていくので、漏洩量が大量でなければ、アンモニア液がシール部材60に接触する虞はない。
【0040】
本実施例1の高圧ガス貯留装置Aは、高圧ガスを貯留するタンク10と、タンク10を気密空間35を空けて包囲する外殻体20とを備えている。外殻体20には、外殻体20の内面側から外面側へ貫通した貫通孔38が形成されている。タンク10と外殻体20には、電気機器としての燃料ポンプ40が設けられている。外殻体20には、電気機器としての濃度センサ43と第1圧力センサ44と第1温度センサ46が設けられている。タンク10には、電気機器としての第2圧力センサ45と第2温度センサ47とレベルセンサ48が設けられている。これら複数の電気機器40,43~48に個別に接続した複数本の電線51は、束ねられることによってハーネス50を構成する。ハーネス50は、貫通孔38に挿通された状態で配索される。外殻体20には、弾性を有するシール部材60が設けられている。シール部材60は、貫通孔38とハーネス50との隙間における流体の流動を規制する気密機能を有する。弾性を有するシール部材60によって、貫通孔38とハーネス50との隙間における流体の流動を規制したので、外殻体20におけるハーネス50の貫通部分を気密状に保持することができる。
【0041】
シール部材60は、弾性を有する単一部品からなり、複数本の電線51を個別に且つ気密状態で貫通させる複数のシール孔62を有している。複数本の電線51を1本ずつ気密状に貫通させるようにしたので、隣り合う電線51間の隙間を塞ぐための構造が不要である。
【0042】
シール部材60には、気密空間35に臨む受圧面67と、受圧面67に作用する押圧力によって外殻体20の内面のうち貫通孔38を包囲する領域に密着するシール面68(リップ部69)とが形成されている。シール部材60と貫通孔38との隙間における高圧ガスの漏出を、受圧面67とシール面68のリップ部69とによって防止することができる。
【0043】
シール部材60は、高圧ガスの物性及びタンク10内から気密空間35への高圧ガスの漏洩モードに応じた位置に配置されている。即ち、タンク10内の高圧ガスが、気体の状態で気密空間35内へ漏洩するか、液体の状態で気密空間35内へ漏洩するかに応じて、シール部材60の位置が設定されている。本実施例1では、高圧ガスがアンモニアである。タンク10内のアンモニアは、気体の状態と液体の状態の両方の形態で気密空間35内へ漏洩し得る。気体の状態で漏洩したアンモニアは、比重が空気よりも小さいので、気密空間35内の上端部に滞留する。液体の状態で漏洩したアンモニアは、空気よりも比重が大きいので、気密空間35の下部に貯留する。この点に着目し、シール部材60を、気密空間35の全高範囲(気密空間35の下端から上端までの高さ範囲)のうち、気密空間35の下端から50%以上、且つ気密空間35の下端から80%以下の範囲内に配置した。詳細には、気密空間35の下端から60%以上、且つ気密空間35の下端から70%以下の範囲内に配置した。このような配置によれば、気密空間35内に漏洩したアンモニアがシール部材60に接触することを、効果的に回避することができる。
【0044】
<実施例2>
次に、本発明を具体化した実施例2を
図4を参照して説明する。本実施例2の高圧ガス貯留装置Bは、外殻体70の貫通孔72とシール部材73を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0045】
本実施例2の外殻体70には、外殻体70の外面から斜め上方へ突出する筒状部71が形成されている。筒状部71の中空内は、貫通孔72して機能する。本実施例2のシール部材73は、モールド成形体74とシールリング78と雌ネジ部材79とを備えて構成されている。
【0046】
モールド成形体74は、合成樹脂製であり、モールド成形によって複数本の電線と一体化されている。複数本の電線は、互いに非接触の状態でモールド成形体74内に埋設されている。モールド成形体74の外周面の下端部(気密空間側の端部)には、フランジ状の抜止部75が形成されている。モールド成形体74の外周面の先端部には、雄ネジ部76が形成されている。モールド成形体74の外周面には、シール溝77が形成されている。シール溝77にはシールリング78が取り付けられている。
【0047】
シール部材73を外殻体70に取り付ける際には、モールド成形体74を気密空間側から貫通孔72に嵌め込み、抜止部75を外殻体70の内面に当接させる。次に、外殻体70の外部において、雌ネジ部材79を、雄ネジ部76にねじ込んで締め付け、筒状部71の突出端に押し付ける。筒状部71が、抜止部75と雌ネジ部材79との間で筒状部71の軸線方向に挟み付けられることによって、モールド成形体74が外殻体70に固定される。貫通孔72(筒状部71)の内周面には、シールリング78が弾性的に密着することによって、貫通孔72内おける流体の流動が規制される。
【0048】
シール部材73は、モールド成形体74とシールリング78とを備えて構成されている。モールド成形体74は、互いに離隔して配置された複数本の電線に密着している。シールリング78は、モールド成形体74の外周面と貫通孔72の内周面とに対して弾性的に密着している。離隔して配置された複数本の電線に、モールド成形体74を密着させたので、隣り合う電線間の隙間を塞ぐための構造が不要である。
【0049】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
・本発明は、タンクに貯留される液化ガスが、エンジン用のガス燃料として使用される液化石油ガス(LPG)や、燃料電池用のガス燃料として使用される液体水素や、ガス燃料となる気体(例えば、水素)の貯蔵手段であるエネルギーキャリアである場合にも適用できる。
・実施例1,2では、タンクに液化ガスと気化ガスを貯留したが、タンクには、高圧の気化ガスのみを貯留してもよい。この高圧の気化ガスは、液化ガスの蒸発によって生成された気体ではなく、加圧する過程で大気圧下と同じく気相を保った気体である。気相を保った高圧の気化ガスの具体例としては、圧縮天然ガス(CNG)等がある。
・実施例1,2では、外殻体の全体がタンクの外面との間に気密空間を空けているが、外殻体がタンクの外面に対して部分的に密着し、気密空間が外殻体の内面の一部のみ及びタンクの外面の一部のみに臨む形態としてもよい。
・実施例1,2では、外殻体がタンクの全体を包囲するが、外殻体はタンクの一部のみを包囲する形態でもよい。
・実施例1,2において、貫通孔とシール部材は、気密空間の全高範囲のうち、気密空間の下端から60%未満の高さや、気密空間の下端から70%を超える高さに設定してもよい。
【符号の説明】
【0050】
A,B…高圧ガス貯留装置
10…タンク
20…外殻体
35…気密空間
38…貫通孔
40…燃料タンク(電気機器)
43…濃度センサ(電気機器)
44…第1圧力センサ(電気機器)
45…第2圧力センサ(電気機器)
46…第1温度センサ(電気機器)
47…第2温度センサ(電気機器)
48…レベルセンサ(電気機器)
50…ハーネス
51…電線
60…シール部材
62…シール孔
67…受圧面
68…シール面
70…外殻体
72…貫通孔
73…シール部材
74…モールド成形体
78…シールリング