(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024987
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/02 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
H02H3/02 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129408
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520320446
【氏名又は名称】中部電力パワーグリッド株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000213297
【氏名又は名称】中部電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩丸 明史
(72)【発明者】
【氏名】小島 一浩
【テーマコード(参考)】
5G142
【Fターム(参考)】
5G142BB03
5G142BB07
5G142BC02
5G142CC08
5G142EE07
(57)【要約】
【課題】異なるサンプリング同期信号を提供する各IEDに接続されたMUにおいて、各IEDに対応するサンプリングデータを生成可能な技術を提供する。
【解決手段】制御装置は、サンプリング信号生成器と、アナログディジタル変換器と、メモリとを備える。サンプリング信号のサンプリング周期は、第1同期信号が示す同期タイミングに対して許容される第1許容誤差時間、および、第2同期信号が示す同期タイミングに対して許容される第2許容誤差時間よりも短い。制御装置は、メモリに記憶された各ディジタルデータの中から、第1同期信号が示す同期タイミングに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータを抽出する第1抽出部と、各ディジタルデータの中から、第2同期信号が示す同期タイミングに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータを抽出する第2抽出部とをさらに備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリング信号を生成するサンプリング信号生成器と、
前記サンプリング信号に基づいて電力系統の電気量をサンプリングして、アナログディジタル変換を実行するアナログディジタル変換器と、
前記アナログディジタル変換器から出力される前記電気量のディジタルデータを順次記憶するメモリとを備え、
前記サンプリング信号のサンプリング周期は、第1同期信号が示す同期タイミングに対して許容される第1許容誤差時間、および、第2同期信号が示す同期タイミングに対して許容される第2許容誤差時間よりも短く、
前記メモリに記憶された各ディジタルデータの中から、前記第1同期信号が示す同期タイミングに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータを抽出する第1抽出部と、
前記メモリに記憶された各ディジタルデータの中から、前記第2同期信号が示す同期タイミングに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータを抽出する第2抽出部とをさらに備える、制御装置。
【請求項2】
前記第1同期信号を第1親局から受信する第1通信部と、
前記第2同期信号を第2親局から受信する第2通信部とをさらに備え、
前記第1通信部は、前記第1抽出部により抽出された第1ディジタルデータを前記第1親局に送信し、
前記第2通信部は、前記第2抽出部により抽出された第2ディジタルデータを前記第2親局に送信する、請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記第1親局は、前記第1ディジタルデータを用いて前記電力系統を保護するための第1リレー演算を実行する運用系の装置であり、
前記第2親局は、前記第2ディジタルデータを用いて前記電力系統を保護するための第2リレー演算を実行する待機系の装置である、請求項2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記第1通信部は、前記第1親局と前記制御装置との間の経路、および前記第1親局を含む第1系統における状態を示す第1状態情報をさらに受信し、
前記第1状態情報に基づいて、前記第1系統に異常が発生しているか否かを判定する異常判定部をさらに備え、
前記第1系統に異常が発生している場合、前記第2通信部は、運用系の装置として前記第2ディジタルデータを用いて前記第2リレー演算を実行するように指示するための指示情報を前記第2親局に送信する、請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記異常判定部は、前記第1抽出部および前記第1通信部を含む、前記第1系統に関連する機能部に異常が発生しているか否かをさらに判定し、
前記第1系統に関連する機能部に異常が発生している場合、前記第2通信部は、前記指示情報を前記第2親局に送信する、請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記第1親局は、前記第1ディジタルデータを用いて前記電力系統に含まれる母線を保護するためのリレー演算を実行し、
前記第2親局は、前記第2ディジタルデータを用いて前記電力系統に含まれる送電線を保護するためのリレー演算を実行する、請求項2に記載の制御装置。
【請求項7】
第3同期信号を第3親局から受信する第3通信部をさらに備え、
前記メモリに記憶された各ディジタルデータの中から、前記第3同期信号が示す同期タイミングに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータを抽出する第3抽出部とをさらに備え、
前記サンプリング周期は、前記第3同期信号が示す同期タイミングに対して許容される第3許容誤差時間よりも短く、
前記第3通信部は、前記第3抽出部により抽出された第3ディジタルデータを前記第3親局に送信し、
前記第3親局は、前記第3ディジタルデータを記録するデータ記録装置である、請求項1~6のいずれか1項に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、保護リレー装置の形態として、プロセスバスに対応した保護制御システムが一般的になりつつある。この保護制御システムでは、従来の保護リレー装置の機能が2つに分割され、それぞれ個別のユニットで構成される。
【0003】
具体的には、統合ユニット(マージングユニット:Merging Unit(MU))と称される電気量を取得するデータ収集制御装置と、IED(Intelligent Electronic Device)と称される保護制御装置とが設けられる。MUは、電力系統の電気量(すなわち、電流および電圧など)の検出信号を取り込み、取り込んだ信号をAD(Analog to Digital)変換する。MUは、AD変換によって得られたデータを、プロセスバスを介してIEDに送信する。IEDは、MUからの受信データに基づいてリレー演算を行なう。MUおよびIEDは、電気所単位でのサンプリング同期が取れるようにIEEE1588規格等の同期方式を採用している。
【0004】
特許文献1(特開2000-59980号公報)は、ディジタル保護制御装置を開示している。このディジタル保護制御装置は、電力系統の状態を表す電気信号を保護演算周期よりも短いサンプリング周期でサンプリングしてディジタル変換して記憶させておき、保護演算周期ごとに、保護制御演算の実行に先立って、当該保護演算周期に対応する期間にサンプリングされた複数のサンプリングデータを読み出し、同一の演算周期内にフィルタ処理演算に引き続いて保護制御演算を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
保守および運用の信頼性確保からIED(例えば、母線保護用のIED)は二重化される場合が多い。冗長化されているIEDは、系統毎にサンプリング同期タイミングが異なるため、プロセスバスを介して接続されるMUも二重化されている。
【0007】
例えば、a系統用のプロセスバスを介してa系統用のIEDと接続されたa系統用のMUは、a系統用のIEDから提供されるサンプリング同期信号に従ってサンプリングを実行する。b系統用のプロセスバスを介してb系統用のIEDと接続されたb系統用のMUは、b系統用のIEDから提供されるサンプリング同期信号に従ってサンプリングを実行する。したがって、a系統およびb系統でMUを共有化できないことから、ハードウェア構築コストの低減が困難であるという問題がある。
【0008】
特許文献1では、保護演算周期よりも短いサンプリング周期で電気信号をサンプリングしているが、上記課題を解決するための手段を何ら開示ないし示唆するものではない。
【0009】
本開示のある局面における目的は、異なるサンプリング同期信号を提供する各IEDに接続されたMUにおいて、各IEDに対応するサンプリングデータを生成可能な技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
ある実施の形態に従う制御装置は、サンプリング信号を生成するサンプリング信号生成器と、サンプリング信号に基づいて電力系統の電気量をサンプリングして、アナログディジタル変換を実行するアナログディジタル変換器と、アナログディジタル変換器から出力される電気量のディジタルデータを順次記憶するメモリとを備える。サンプリング信号のサンプリング周期は、第1同期信号が示す同期タイミングに対して許容される第1許容誤差時間、および、第2同期信号が示す同期タイミングに対して許容される第2許容誤差時間よりも短い。制御装置は、メモリに記憶された各ディジタルデータの中から、第1同期信号が示す同期タイミングに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータを抽出する第1抽出部と、メモリに記憶された各ディジタルデータの中から、第2同期信号が示す同期タイミングに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータを抽出する第2抽出部とをさらに備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によると、異なるサンプリング同期信号を提供する各IEDに接続されたMUにおいて、各IEDに対応するサンプリングデータを生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】比較例1に従う保護制御システムの全体構成を示す図である。
【
図2】比較例1に従うAD変換後のデータの生成方式を説明するための図である。
【
図3】実施の形態1に従う保護制御システムの全体構成を示す図である。
【
図4】実施の形態1に従うAD変換データの生成方式を説明するための図である。
【
図5】実施の形態1に従うMUおよびIEDのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】実施例4の構成を説明するための図である。
【
図11】比較例2に従う保護制御システムの全体構成を示す図である。
【
図12】比較例2に従う系切替方式を説明するための図である。
【
図13】実施の形態2に従う系切替方式を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0014】
<比較例1の全体構成>
本実施の形態に従う保護制御システムの理解を容易にするため、初めに、比較例1に従う保護制御システムの構成について説明する。
【0015】
図1は、比較例1に従う保護制御システム1100の全体構成を示す図である。
図1を参照して、保護制御システム1100は、IED10a,10bと、プロセスバス100a,100bと、複数のMU200aと、複数のMU200bとを含む。例えば、保護制御システム1100は、30個のMU200aと、30個のMU200bとを含む。
【0016】
30個のMU200aに対して、便宜上、#a1~#a30を付与してそれぞれを区別する。30個のMU200bに対して、便宜上、#b1~#b30を付与してそれぞれを区別する。MU200aはAD変換回路390aを含む。AD変換回路390aは、サンプリング信号生成器310aと、AD変換器320aとを含む。MU200bは、AD変換回路390bを含む。AD変換回路390bは、サンプリング信号生成器310bと、AD変換器320bとを含む。
【0017】
IED10aは、プロセスバス100aを介して、MU♯a1~♯a30と通信接続されている。IED10bは、プロセスバス100bを介して、MU♯b1~♯b30と通信接続されている。IED10aは、IEEE1588規格に従うa系統の同期パケットKaを送信するa系統の親局(以下、「同期親局」とも称する。)として機能する。同様に、IED10bは、IEEE1588規格に従うb系統の同期パケットKbを送信するb系統の同期親局として機能する。なお、同期パケットは、IEDではなく高精度時計装置から提供されてもよい。この場合、高精度時計装置が同期親局として機能する。
【0018】
MU200aは、プロセスバス100aを介して、IED10aから同期パケットKaを受信する。MU200bは、プロセスバス100bを介して、IED10bから同期パケットKbを受信する。
【0019】
MU200aは、同期パケットKaに含まれる同期信号に従うサンプリングの同期タイミングTaを決定する。MU200aのサンプリング信号生成器310aは、同期タイミングTaに従うサンプリング信号Saを生成する。AD変換器320aは、サンプリング信号Saに基づいて電力系統の電気量をサンプリングして、AD変換を実行する。AD変換後のディジタルデータ(すなわち、サンプリングデータ)であるデータDaは、内部メモリに順次記憶される。MU200aは、データDaを含むSV(Sampled Value)パケットをa系統のIED10aに送信する。
【0020】
MU200bは、同期パケットKbに含まれる同期信号に従うサンプリングの同期タイミングTbを決定する。MU200bのサンプリング信号生成器310bは、同期タイミングTbに従うサンプリング信号Sbを生成する。AD変換器320bは、サンプリング信号Sbに基づいて電力系統の電気量をサンプリングして、AD変換を実行する。AD変換後のデータDbは、内部メモリに順次記憶される。MU200bは、データDbを含むSVパケットをb系統のIED10bに送信する。
【0021】
続いて、MU200aによるデータDaの生成方式、およびMU200bによるデータDbの生成方式について具体的に説明する。
【0022】
図2は、比較例1に従うAD変換後のデータの生成方式を説明するための図である。ここでは、a系統の同期信号の周波数(以下、「同期周波数」とも称する。)Faおよびb系統の同期周波数Fbは、IEC61869規格に記載されている一例の4800Hzであるとする。ΔTabは、a系統の同期タイミングTaと、b系統の同期タイミングTbとの同期誤差(すなわち、サンプリングタイミング誤差時間)を示している。ΔTa(例えば、10μ秒)は、同期タイミングTaからAD変換を実施する処理の誤差時間として許容されている時間(以下、「許容誤差時間」とも称する。)を示している。すなわち、同期タイミングTaに対して±ΔTaの期間は、AD変換誤差時間として許容される。同様に、ΔTbは、同期タイミングTbに対して許容される許容誤差時間を示している。
【0023】
図2に示すように、MU200aのAD変換回路390aは、同期タイミングTaに従って電気量をサンプリングして得られたデータDa#1~#5を順次内部メモリに記憶する。MU200bのAD変換回路390bは、同期タイミングTbに従って電気量をサンプリングして得られたデータDb#1~#5を順次内部メモリに記憶する。
【0024】
上記のように、a系統の同期タイミングTaとb系統の同期タイミングTbとの間には同期誤差ΔTabがあり、許容誤差時間ΔTa,ΔTbを満たすようにサンプリングが行なわれる必要がある。そのため、比較例1においては、MU200aにおけるa系統専用のAD変換回路390aは、同期タイミングTaに従う(具体的には、許容誤差時間ΔTaを満たす)データDaを生成する。MU200bにおけるb系統専用のAD変換回路390bは、同期タイミングTbに従う(具体的には、許容誤差時間ΔTbを満たす)データDbを生成する。
【0025】
しかし、比較例1においては、a系統およびb系統でMU(具体的には、AD変換回路)を共有化できないことから、ハードウェア構築コストの低減が困難となっている。
【0026】
実施の形態1.
<全体構成>
図3は、実施の形態1に従う保護制御システム1000の全体構成を示す図である。
図3を参照して、保護制御システム1000は、IED10a,10bと、プロセスバス100a,100bと、複数のMU20とを含む。例えば、保護制御システム1000には30個のMU20が含まれている。30個のMU20に対して、便宜上、#1~#30の番号を付与してそれぞれを区別する。30個のMU20は、それぞれMU♯1~♯30とも称される。各MU20は、サンプリング信号生成器31と、AD変換器32とを含む。
【0027】
IED10aは、プロセスバス100aを介して、MU♯1~♯30と通信接続されている。IED10bは、プロセスバス100bを介して、MU♯1~♯30と通信接続されている。IED10aは、同期パケットKaを送信するa系統の同期親局として機能し、IED10bは、同期パケットKbを送信するb系統の同期親局として機能する。
【0028】
各MU20は、プロセスバス100aを介して、IED10aから同期パケットKaを受信し、プロセスバス100bを介して、IED10bから同期パケットKbを受信する。MU20は、同期パケットKaに含まれる同期信号に従うサンプリングの同期タイミングTaを決定し、同期パケットKbに含まれる同期信号に従うサンプリングの同期タイミングTbを決定する。
【0029】
MU20のサンプリング信号生成器31は、同期タイミングTa,Tbに従うサンプリング信号を生成するのではなく、MU20内部のタイミングでのサンプリング信号Sxを生成する。サンプリング信号Sxのサンプリング周期Txは、同期タイミングTaに対して許容される許容誤差時間ΔTaよりも短く、かつ、同期タイミングTbに対して許容される許容誤差時間ΔTbよりも短く設定されている。そのため、IED10a,10bの同期周波数(例えば、4800Hz)と比較して、サンプリング信号Sxのサンプリング周波数Fx(すなわち、Fx=1/Tx)は、非常に高い周波数(例えば、230.4kHz)となる。
【0030】
MU20のAD変換器32は、サンプリング信号Sxに基づいて電力系統の電気量をサンプリングして、AD変換を実行する。AD変換後のディジタルデータであるデータDxは、内部メモリに順次記憶される。
【0031】
MU20は、内部メモリに記憶された各データDxの中から、同期タイミングTaに最も近いタイミングでサンプリングされたデータDxaを抽出する。また、MU20は、内部メモリに記憶された各データDxの中から、同期タイミングTbに最も近いタイミングでサンプリングされたデータDxbを抽出する。そして、MU20は、データDxaを含むSVパケットをa系統のIED10aに送信し、データDxbを含むSVパケットをb系統のIED10bに送信する。
【0032】
続いて、本実施の形態に従うMU20によるデータDxa,Dxbの生成方式について具体的に説明する。
【0033】
図4は、実施の形態1に従うAD変換データの生成方式を説明するための図である。
図4の例では、a系統の同期周波数Faおよびb系統の同期周波数Fbは、4800Hzである。ΔTab、ΔTaおよびΔTbの定義は、
図2で説明したものと同一である。Txは、サンプリング信号Sxのサンプリング周期を示している。
【0034】
図4に示すように、MU20のAD変換回路39は、サンプリング周期Txごとに電気量をサンプリングして得られたAD変換後のデータDx#0~#15を順次内部メモリに記憶する。上記のように、サンプリング周期Txは、許容誤差時間ΔTaよりも短く(すなわち、Tx<ΔTa)、かつ、許容誤差時間ΔTbよりも短く(すなわち、Tx<ΔTb)設定されている。したがって、各データDxの中には、同期タイミングTaの許容誤差時間ΔTaを満たすデータDxが存在し、かつ、同期タイミングTbの許容誤差時間ΔTbを満たすデータDxが存在する。
【0035】
具体的には、MU20は、AD変換回路39の内部メモリに記憶されたデータDx#0~#15の中から、同期タイミングTaに最も近いタイミングでサンプリングされたデータDx#3,#12の各々をデータDxaとして抽出する。MU20は、データDx#0~#15の中から、同期タイミングTbに最も近いタイミングでサンプリングされた各Dx#1,#9をデータDxbとして抽出する。
【0036】
MU20は、各データDxa(例えば、データDx#3,#12)を含むSVパケットをIED10aに送信し、各データDxb(例えば、データDx#1,#9)を含むSVパケットをIED10bに送信する。
【0037】
このように、実施の形態1に従うMU20は、各IED10a,10bから提供される同期タイミングに従ってサンプリングデータを生成するのではなく、独自の高速サンプリングによってサンプリングデータ(例えば、データDx)を生成する。そして、MU20は、各サンプリングデータの中から、各同期タイミングに合ったサンプリングデータを抽出して、抽出されたサンプリングデータを各IED10a,10bに送信する。
【0038】
これにより、実施の形態1に従うMU20では、比較例1のように、複数のIED10a,10bから提供される複数の同期信号ごとに専用のAD変換回路を設ける必要がなく、1つのAD変換回路において各同期タイミングに従うサンプリングデータを生成することができる。したがって、比較例1に対して、MU20(具体的には、AD変換回路)の数を減らすことができるため、ハードウェア構築コストの低減することができる。特に、MUにおけるAD変換回路のハードウェア部分のコストは、他のハードウェア部分と比較して大きいことから、大幅なコストの削減が可能となる。
【0039】
<MUおよびIEDのハードウェア構成>
図5は、実施の形態1に従うMU20およびIED10のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。IED10は、
図3に示すIED10aまたはIED10bに対応する。
【0040】
(MU)
図5を参照して、MU20は、入力変換用の補助変成器151と、AD変換回路39と、処理回路154と、通信回路155と、ディジタル出力回路156とを含む。
【0041】
MU20には、対応する電流変成器から出力された各相の電流信号および対応する電圧変成器から出力された各相の電圧信号を受信するために、複数のチャンネルが設けられている。各チャンネルには、対応する電流変成器からの各相の電流信号および対応する電圧変成器からの各相の電圧信号がそれぞれ入力される。
【0042】
補助変成器151は、電流変成器からの電流信号または電圧変成器からの電圧信号を受信し、受信した電圧信号または電流信号をAD変換回路39および処理回路154での信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。補助変成器151は絶縁型分圧抵抗器であってもよい。
【0043】
AD変換回路39は、補助変成器151から出力される電圧を取り込んでディジタルデータに変換する。具体的には、AD変換回路39は、主な構成として、アナログフィルタと、AD変換器と、サンプリング信号生成器と、リングメモリとを含む。これらの具体的な構成および機能については後述する。
【0044】
処理回路154は、本実施の形態の場合、FPGA(Field Programmable Gate Array)として構成される。なお、処理回路154は、CPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)とを備えたマイクロコンピュータとして構成されてもよい。この場合、CPUは、ROM等に格納されたプログラムに従って、MU20全体を制御することにより所望の機能を実現する。なお、処理回路154は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用の回路として構成されていてもよい。また、処理回路154は、FPGAまたはASICなどの電子回路とマイクロコンピュータとを組み合わせることによって構成されていてもよい。
【0045】
通信回路155は、プロセスバス100(例えば、
図1のプロセスバス100a,100b)を介してIED10の通信回路101との間で、データの送受信を行う。
【0046】
ディジタル出力回路156は、外部機器にディジタル信号を出力するためのインターフェイス回路である。例えば、ディジタル出力回路156は、処理回路154の指令に従って、対応する遮断器にトリップ信号を出力する。
【0047】
(IED)
図5を参照して、IED10は、通信回路101と、処理回路103とを含む。
【0048】
通信回路101は、MU20の通信回路155との間でプロセスバス100を介してデータの送受信を行なう。例えば、通信回路101は、MU20の通信回路155から送信されたSVパケットを受信する。
【0049】
処理回路103は、各MU20から受信したSVパケットに基づいて保護リレー演算を実行する。処理回路103は、保護リレー演算の結果、電力系統に事故が発生していると判定した場合には、事故が発生している電力系統に対応するMU20に対して、遮断器を開放するための指令信号を出力する。MU20の処理回路154は、ディジタル出力回路156に対してトリップ信号を出力するように指示する。
【0050】
処理回路103は、CPUとRAMとROMとを備えたマイクロコンピュータとして構成される。この場合、CPUは、ROM等に格納されたプログラムに従って、IED10全体を制御することにより上記の動作を実現する。なお、処理回路103は、FPGAとして構成されていてもよいし、ASIC等の専用の回路として構成されていてもよい。また、処理回路103は、FPGAまたはASICなどの電子回路とマイクロコンピュータとを組み合わせることによって構成されていてもよい。
【0051】
<MUの機能構成>
図6は、MUの機能構成の一例を示す図である。
図6を参照して、MU20は、機能構成として、通信部50a,50bと、データ生成部52a,52bと、SVパケット生成部54a,54bとを含む。典型的には、通信部50a,50bは、
図5の通信回路155により実現される。データ生成部52a,52bおよびSVパケット生成部54a,54bは、
図5の処理回路154により実現される。MU20は、ハードウェア構成としてのAD変換回路39をさらに含む。
【0052】
データ生成部52aは、同期制御部22aと、誤差範囲内確認部24aと、抽出部25aとを含む。データ生成部52bは、同期制御部22bと、誤差範囲内確認部24bと、抽出部25bとを含む。SVパケット生成部54aは、タイミング管理部26aと、SV作成部27aとを含む。SVパケット生成部54bは、タイミング管理部26bと、SV作成部27bとを含む。
【0053】
まず、外部から取り込んだ電気量(アナログデータ)が、AD変換回路39によりAD変換されるまでの流れについて説明する。
【0054】
AD変換回路39は、サンプリング信号生成器31と、AD変換器32と、リングメモリ33と、アナログフィルタ34とを含む。
【0055】
上述したように、サンプリング信号生成器31は、MU20内部のタイミングで、高い周波数(例えば、230kHz)のサンプリング信号Sxを生成する。
【0056】
アナログフィルタ34は、例えば、電流信号または電圧信号の高周波のノイズ成分を除去するローパスフィルタである。
図6には、4つのアナログフィルタ34が、それぞれ4つのチャンネルの電流信号(例えば、a相電流Ia、b相電流Ib、c相電流Ic、零相電流I0)の入力を受ける例が示されている。なお、AD変換回路39は、アナログフィルタ34を設けない構成であってもよい。
【0057】
AD変換器32は、サンプリング信号Sxに基づいて、対応するアナログフィルタ34から出力されたアナログデータ(ここでは、電流信号)をサンプリングして、サンプリングされたアナログデータをディジタルデータに変換する。AD変換器32は、サンプルホールド回路およびマルチプレクサを含んでいてもよい。この場合、マルチプレクサはサンプルホールド回路に保持された電気量信号を順次選択し、AD変換器はマルチプレクサによって選択された信号をAD変換する。
【0058】
リングメモリ33は、AD変換器32から出力される電気量のディジタルデータ(すなわち、AD変換後のデータ)を順次記憶する。
【0059】
続いて、MU20が同期パケットKaをIED10aから受信して、SVパケットPaをIED10aに送信するまでの流れを説明する。
【0060】
通信部50aは、IED10aから同期パケットKaを受信する。通信部50aは、同期パケットKaに含まれる同期信号をデータ生成部52aに出力する。
【0061】
データ生成部52aの同期制御部22aは、通信部50aからの同期信号に基づいて同期タイミングTaを決定する。誤差範囲内確認部24aは、同期タイミングTaがサンプリングの同期周波数Fa(例えば、4800Hz)の誤差範囲内に存在することを確認する。
【0062】
抽出部25aは、リングメモリ33に記憶された各ディジタルデータに対して、ダウンサンプリングおよび不要な高調波ノイズ除去等のディジタルフィルタ処理を実行する。さらに、抽出部25aは、各ディジタルデータの中から、同期タイミングTaに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータ(すなわち、データDxa)を抽出して、SVパケット生成部54aに出力する。ここで抽出されるデータDxaは、例えば、
図4で説明したデータDx#3,#12に対応する。
【0063】
SVパケット生成部54aのタイミング管理部26aは、アナログデータをAD変換してから、AD変換後のディジタルデータを含むSVパケットPaを送信するまでの時間を管理する。SV作成部27aは、抽出されたデータDxaをIEC61850で規定されたSVフォーマットに変換して、変換後のデータDxaを含むSVパケットPaを作成する。
【0064】
通信部50aは、タイミング管理部26aによって設定されたタイミングに従って、SVパケットPaをIED10aに送信する。当該タイミングの設定に応じて、ある局面では、1つのデータDxaを含むSVパケットPaが送信され、他の局面では、複数のデータDxaを含むSVパケットPaが送信される。
【0065】
MU20が同期パケットKbをIED10bから受信して、SVパケットPbをIED10bに送信するまでの流れは、基本的に上記の流れと同様である。
【0066】
具体的には、通信部50bは、IED10bから同期パケットKbを受信する。誤差範囲内確認部24bは、同期制御部22bにより決定された同期タイミングTbが同期周波数Fb(例えば、4800Hz)の誤差範囲内に存在することを確認する。
【0067】
抽出部25bは、リングメモリ33に記憶された各ディジタルデータの中から、同期タイミングTbに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータ(すなわち、データDxb)を抽出して、SVパケット生成部54bに出力する。ここで抽出されるデータDxbは、例えば、
図4で説明したデータDx#1,#9に対応する。
【0068】
SV作成部27bは、抽出されたデータDxbを含むSVパケットPaを作成する。通信部50bは、タイミング管理部26bによって設定されたタイミングに従って、SVパケットPbをIED10bに送信する。
【0069】
<実施例>
(実施例1)
図7は、実施例1を説明するための図である。
図7に示す保護制御システム1000Aでは、IED10a,10bが母線保護用の保護リレー演算を実行する。保守および運用の信頼性確保からIEDが二重化されている。例えば、IED10aは運用系の母線保護リレー装置であり、IED10bは待機系の母線保護リレー装置である。
【0070】
冗長化されているIEDは系列毎にサンプリングの同期タイミングが異なる。すなわち、運用系のIED10aの同期タイミングと、待機系のIED10bの同期タイミングとは異なる。
【0071】
IED10aは、プロセスバス100aを介して、同期パケットKaを各MU20に送信する。IED10bは、プロセスバス100bを介して、同期パケットKbを各MU20に送信する。MU20は、AD変換回路39を用いて、同期タイミングTaに従うデータDxaを生成し、同期タイミングTbに従うデータDxbを生成する。
【0072】
MU20は、データDxaを運用系のIED10aに送信し、データDxbを待機系のIED10bに送信する。IED10aは、データDxaを用いて母線を保護するための保護リレー演算を実行する。IED10bは、データDxbを用いて母線を保護するための保護リレー演算を実行する。
【0073】
このように、MU20は、運用系のIED10aの保護リレー演算で用いられるサンプリングデータ(例えば、データDxa)と、待機系のIED10bの保護リレー演算で用いられるサンプリングデータ(例えば、データDxb)とを生成できる。したがって、実施例1によると、運用系用のMUおよび待機系用のMUを別々に設ける構成と比較して、MUの台数を半減させることができ、コスト低減が可能となる。
【0074】
(実施例2)
図8は、実施例2を説明するための図である。
図8に示す保護制御システム1000Bでは、IED10aは母線保護用の保護リレー演算を実行し、IED10bは送電線保護用の保護リレー演算を実行する。
【0075】
母線保護用のIED10aの同期タイミングと、送電線保護用のIED10aの同期タイミングとは異なる。なぜなら、これらを同一とすると、一部の装置不良によって、電力系統管内の各装置の系切替が発生し、保護システムの運用が困難となるためである。
【0076】
IED10aは、プロセスバス100aを介して、同期パケットKaを各MU20に送信する。IED10bは、プロセスバス100bを介して、同期パケットKbを各MU20に送信する。MU20は、AD変換回路39を用いて、同期タイミングTaに従うデータDxaを生成し、同期タイミングTbに従うデータDxbを生成する。
【0077】
MU20は、データDxaを母線保護用のIED10aに送信し、データDxbを送電線保護用のIED10bに送信する。IED10aは、データDxaを用いて母線を保護するための保護リレー演算を実行する。IED10bは、データDxbを用いて送電線を保護するための保護リレー演算を実行する。
【0078】
このように、MU20は、母線保護用のIED10aの保護リレー演算で用いられるサンプリングデータ(例えば、データDxa)と、送電線保護用のIED10bの保護リレー演算で用いられるサンプリングデータ(例えば、データDxb)とを生成できる。したがって、実施例2によると、母線保護用のIEDに対応するMUと、送電線保護用のIEDに対応するMUを個別に設置する構成と比較して、MUの台数を半減させることができ、コスト低減が可能となる。
【0079】
(実施例3)
実施例3では、母線保護用の保護リレー演算を実行する装置およびオシロ装置が同期親局である構成について説明する。オシロ装置は、電気量データを記録するデータ記録装置である。
【0080】
オシロ装置の同期タイミングと母線保護用(あるいは、送電線保護用)の保護リレー演算装置の同期タイミングは異なる。母線保護用の保護リレー演算装置の同期周波数(すなわち、サンプリング周波数)は、例えば、4800Hz(あるいは、4000Hz、5760Hz)である。一方、オシロ装置の同期周波数は、上記保護リレー演算装置の同期周波数よりも高周波数であり、例えば、14400Hzである。
【0081】
図9は、実施例3を説明するための図である。
図9を参照して、Fa,Fcは、それぞれIED10aの同期周波数、オシロ装置10cの同期周波数である。なお、オシロ装置10cは、同期パケットKcをMU20に送信する同期親局として機能する。ΔTacは、同期タイミングTaと、同期タイミングTcとの同期誤差を示している。ΔTcは、同期タイミングTcからAD変換を実施する処理の誤差時間として許容されている許容誤差時間を示している。ΔTa、ΔTxの定義は、
図2または
図4で説明したものと同一である。
【0082】
図9に示すように、MU20のAD変換回路39は、サンプリング周期Txごとに電気量をサンプリングして得られたAD変換後のデータDx#0~#34を順次内部メモリに記憶する。サンプリング周期Txは、許容誤差時間ΔTaよりも短く(すなわち、Tx<ΔTa)、かつ、許容誤差時間ΔTcよりも短く(すなわち、Tx<ΔTc)設定されている。したがって、各データDxの中には、同期タイミングTaの許容誤差時間ΔTaを満たすデータDxが存在し、かつ、同期タイミングTcの許容誤差時間ΔTcを満たすデータDxが存在する。
【0083】
具体的には、MU20は、AD変換回路39の内部メモリに記憶されたデータDx#0~#34の中から、同期タイミングTaに最も近いタイミングでサンプリングされたデータDx#3,#33の各々をデータDxaとして抽出する。MU20は、データDx#0~#15の中から、同期タイミングTbに最も近いタイミングでサンプリングされた各Dx#1,#3,#5,#7,#9,・・・,#28,#30,#32をデータDxcとして抽出する。
【0084】
MU20は、各データDxa(例えば、データDx#3,#33)を含むSVパケットPaをIED10aに送信し、各データDxc(例えば、データDx#1,#3,#5等)を含むSVパケットPcをオシロ装置10cに送信する。
【0085】
MU20が同期パケットKcをIED10bから受信して、SVパケットPcをオシロ装置10cに送信するまでの流れは、基本的に
図6で説明した流れと同様である。
【0086】
具体的には、MU20は、
図6の通信部50b、データ生成部52b、およびSVパケット生成部54bを、それぞれ通信部50c、データ生成部52c、およびSVパケット生成部54cに置き換えた構成を有する。あるいは、MU20は、
図6に示す機能構成に対して、通信部50c、データ生成部52c、およびSVパケット生成部54cをさらに有していてもよい。なお、通信部50c、データ生成部52c、およびSVパケット生成部54cの各構成は図示されていない。
【0087】
通信部50cは、オシロ装置10cから同期パケットKcを受信する。誤差範囲内確認部24cは、同期制御部22cにより決定された同期タイミングTcが同期周波数Fc(例えば、14400Hz)の誤差範囲内に存在することを確認する。
【0088】
抽出部25cは、リングメモリ33に記憶された各ディジタルデータの中から、同期タイミングTcに最も近いタイミングでサンプリングされたディジタルデータ(すなわち、データDxc)を抽出して、SVパケット生成部54cに出力する。
【0089】
SV作成部27cは、抽出されたデータDxcを含むSVパケットPcを作成する。通信部50cは、タイミング管理部26cによって設定されたタイミングに従って、SVパケットPcをオシロ装置10cに送信する。
【0090】
このように、MU20は、IED10aの保護リレー演算で用いられるデータと、オシロ装置10cにおいて記録されるデータとを生成できる。すなわち、各同期親局の同期周波数が大きく異なる場合であっても、各同期親局に対応するデータを生成できる。したがって、実施例3によると、母線保護用のIEDに対応するMUと、データ記録用のオシロ装置に対応するMUを個別に設置する構成と比較して、MUの台数を半減させることができ、コスト低減が可能となる。
【0091】
(実施例4)
図10は、実施例4の構成を説明するための図である。
図10を参照して、保護制御システム1000Dは、IED10a,10bと、オシロ装置10cと、電力系統安定化装置10dと、プロセスバス100a~100dと、各MU20とを含む。
【0092】
IED10aは母線保護リレー装置であり、IED10bは送電線保護リレー装置である。電力系統安定化装置10dは、電気所および一般需要家に設置された各再生可能エネルギーの監視制御端末と広域ネットワークを介して接続されている。電力系統安定化装置は、WAMPAC(Wide Area Monitoring Protection and Control Solutions)とも称される。
【0093】
IED10aは、プロセスバス100aを介して、MU♯1~♯30と通信接続されている。IED10bは、プロセスバス100bを介して、MU♯1~♯30と通信接続されている。オシロ装置10cは、プロセスバス100cを介して、MU♯1~♯30と通信接続されている。電力系統安定化装置10dは、プロセスバス100dを介して、MU♯1~♯30と通信接続されている。電力系統安定化装置10dは、同期パケットKdを送信する同期親局として機能する。
【0094】
MU20は、プロセスバス100a~100dを介して、IED10aからの同期パケットKa、IED10bからの同期パケットKb、オシロ装置10cからの同期パケットKc、電力系統安定化装置10dからの同期パケットKdを受信する。
【0095】
MU20は、同期パケットKa~Kdに基づいて、サンプリングの同期タイミングTa~Tdを決定する。なお、サンプリング周期Txは、同期パケットKdに従う同期タイミングTdに対して許容される許容誤差時間ΔTdよりも短いものとする。MU20は、内部メモリに記憶された各データDxの中から、同期タイミングTa~Tdに従うデータDxa~Dxdを抽出する。MU20は、データDxa,Dxb,Dxc,Dxdを、それぞれIED10a,IED10b,オシロ装置10c,電力系統安定化装置10dに送信する。
【0096】
このように、4つの同期親局が分離されているシステム構成であっても、MU20におけるAD変換回路39は共用化できる。そのため、MU20に、各同期親局に対応する通信部、データ生成部、SVパケット生成部を設けることにより、各同期親局に対応するデータ(例えば、データDxa~Dxd)を生成できる。
【0097】
したがって、WAMPAC等のシステムが将来的に構築される場合であっても、MUのハードウェア構成における改造は不要であり、既存の装置にも影響はない。そのため、電気所の保護制御システム構築後に新たにWAMPACを構築する場合であっても、MUを増設せずに流用できる。したがって、WAMPAC構築コストを低減できる。
【0098】
実施の形態2.
上述した実施例1において、保守および運用の信頼性確保からIEDが二重化されている構成について説明した。本実施の形態に従うと、運用系のIEDに異常が発生した場合に、電力系統の保護の運用を待機系のIEDへ切り替える際の切り替え時間を低減することができる。実施の形態2では、このような運用系から待機系への系切替方式について説明する。
【0099】
実施の形態2に従う系切替方式の理解を容易にするため、初めに、比較例2に従う系切替方式について説明する。
【0100】
図11は、比較例2に従う保護制御システム1200の全体構成を示す図である。
図11を参照して、保護制御システム1200は、IED10a,IED10bと、プロセスバス100a,100bと、各MU205とを含む。IED10aは運用系の母線保護リレー装置であり、IED10bは待機系の母線保護リレー装置であるとする。
【0101】
IED10aは、プロセスバス100aを介して、同期パケットKaをMU♯c1~♯c30に送信する。IED10bは、プロセスバス100bを介して、同期パケットKbをMU♯c1~♯c30に送信する。
【0102】
各MU205は、プロセスバス100aを介して、IED10aからの同期パケットKaを受信し、プロセスバス100bを介して、IED10bからの同期パケットKbを受信する。
【0103】
ここで、MU205のAD変換回路395は、切替型のサンプリング信号生成器315と、AD変換器325とを含む。運用系のIED10aが正常に運用されている場合、MU205は、同期パケットKaに含まれる同期信号に従うサンプリングの同期タイミングTaを決定する。続いて、MU205のサンプリング信号生成器315は、同期タイミングTaに従うサンプリング信号Saを生成する。AD変換器325は、サンプリング信号Saに基づくAD変換を実行する。AD変換後のデータDaは、内部メモリに順次記憶される。MU205は、データDaを含むSVパケットをIED10aに送信する。
【0104】
一方、運用系のIED10aに異常が発生して、待機系のIED10bを運用系の装置として動作させる場合、MU205は、同期パケットKbに含まれる同期信号に従うサンプリングの同期タイミングTbを決定する。続いて、サンプリング信号生成器315は、同期タイミングTbに従うサンプリング信号Sbを生成する。AD変換器325は、サンプリング信号Sbに基づくAD変換を実行する。AD変換後のデータDbは、内部メモリに順次記憶される。MU205は、データDbを含むSVパケットをIED10bに送信する。
【0105】
上記のように、比較例2に従うMU205は、同時に生成できるAD変換データ(例えば、データDaまたはデータDb)は1種類のみである。すなわち、MU205は、同期タイミングTa,Tbにそれぞれ対応するサンプリング信号Sa,Sbに基づくデータDa,Dbを同時に生成することはできない。
【0106】
図12は、比較例2に従う系切替方式を説明するための図である。
図12を参照して、初期時点においては、MU205は、AD変換回路395を用いて、同期タイミングTaに従うサンプリング信号Saに基づいて電気量のAD変換を実行し、データDaを生成している。
図12の例では、データDa#1が生成されている。このとき、MU205は、AD変換回路395を用いて、同期タイミングTbに従うサンプリング信号Sbに基づく電気量のAD変換を実行していない。
【0107】
次に、IED10aおよびプロセスバス100aを含むa系統に異常が発生したとする。a系統の異常発生時から、待機系のIED10bが運用系の装置として動作すると判断するまでには一定の時間(以下、「系切替確認時間Tkk」とも称する。)を要する。系切替確認時間Tkkは、例えば、10秒程度である。
【0108】
MU205は、IED10aからの同期パケットKaに含まれている状態情報に基づいて、IED10aおよびプロセスバス100aを含むa系統の異常の発生を検出する。MU205は、当該異常の発生を、プロセスバス100bを介してIED10bに通知する。IED10bは、当該異常の発生を認識して、自身が運用系の装置として動作すると判断する。IED10bは、自身が運用系の装置として動作する旨の動作通知をMU205に送信する。例えば、系切替確認時間Tkkは、MU205が、a系統の異常発生を検出してから当該動作通知を受信するまでの時間である。
【0109】
その後、MU205は、参照する同期タイミングを、同期タイミングTaから同期タイミングTbに切り替えて、同期タイミングTbに従うサンプリング信号Sbに基づくAD変換を実行し、データDbを順次生成する。MU205は、データDbをIED10bに送信する。ただし、IED10bにおいて保護リレー演算を開始するためには、一定量のデータDbが必要となる。この一定量のデータDbが蓄積されるまでの時間を時間Tsprと定義する。
【0110】
したがって、IED10bは、a系統の異常が発生してから、系切替確認時間Tkkおよび時間Tsprの合計時間Tlockの経過後に、運用系の保護リレー装置として母線保護を開始する。そのため、a系統の異常発生から合計時間Tlock経過するまでの時間は、母線の無保護期間となる。
【0111】
次に、実施の形態2に従う系切替方式について説明する。
図13は、実施の形態2に従う系切替方式を説明するための図である。なお、実施の形態2に従う保護制御システムは、
図7に示すような保護制御システム1000Aが想定される。
【0112】
図13を参照して、MU20は、AD変換回路39を用いて、サンプリング信号Sxに基づいて電気量のAD変換を実行し、データDxを生成する。
図13の例では、IED10aおよびプロセスバス100aを含むa系統の異常発生前において、データDxaとしてDx#1が生成されており、データDxbとしてDx#-21~#-4が生成されている。
【0113】
次に、a系統に異常が発生したとする。MU20による異常発生の判定方式について説明する。具体的には、MU20の通信部50aにより受信される同期パケットKaには、IED10aとMU20との間の経路(すなわち、プロセスバス100a)、および前IED10aを含むa系統における状態を示す状態情報が含まれている。MU20の異常判定部(図示しない)は、当該状態情報に基づいて、a系統に異常が発生しているか否かを判定する。詳細には、異常判定部は、状態情報に異常を示すフラグが含まれている場合に、a系統に異常が発生していると判定し、状態情報に正常を示すフラグが含まれている場合に、a系統には異常が発生していないと判定する。
【0114】
ここで、実施の形態2に従うMU20は、a系統の異常の有無に関わらず、b系統のデータDxbを生成し続けている。そのため、a系統の異常の発生前においても、タイミング管理部26bによって管理されるタイミングで、IED10bにデータDxbを含むSVパケットPbが送信されている。
【0115】
異常判定部によってa系統に異常が発生していると判定された場合、MU20の通信部50bは、運用系の装置としてデータDxbを用いて保護リレー演算を実行するように指示するための指示情報をIED10bに送信する。具体的には、通信部50bは、データDxbと当該指示情報とを含むSVパケットPbをIED10bに送信する。
【0116】
IED10bは、SVパケットPbに含まれるデータDxbおよび指示情報を受信する。ここで、上記のように、a系統の異常の発生前においても、IED10bにはデータDxbが送信されている。そのため、IED10bは、指示情報を受信した時点から保護リレー演算を開始することができる。
【0117】
したがって、実施の形態2においては、比較例2における系切替確認時間Tkkおよび時間Tscpが生じないため、IED10bは、a系統の異常発生時から即時に保護リレー演算を開始することができる。
【0118】
なお、異常判定部は、
図6に示すa系統に関連する機能部に異常が発生しているか否かを判定してもよい。当該機能部は、通信部50a、データ生成部52a、およびSVパケット生成部54aを含む。異常判定部は、公知の自己診断機能を有するものとする。a系統に関連する機能部に異常が発生している場合、通信部50bは、上記指示情報をIED10bに送信する。この場合も、IED10bは、a系統の異常発生時から即時に保護リレー演算を開始することができる。これにより、母線の無保護期間をほぼゼロにすることができる。
【0119】
また、例えば、IED10bがa系統のプロセスバス100aと接続されている構成である場合には、IED10bはプロセスバス100aの異常を判定する機能を有していてもよい。
【0120】
その他の実施の形態.
上述の実施の形態として例示した構成は、本実施の形態の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。
【0121】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0122】
10c オシロ装置、10d 電力系統安定化装置、22a~22c 同期制御部、24a~24c 誤差範囲内確認部、25a~25c 抽出部、26a~26c タイミング管理部、27a~27c SV作成部、31,310a,310b,315 サンプリング信号生成器、32,320a,320b,325 AD変換器、33 リングメモリ、34 アナログフィルタ、39,390a,390b,395 AD変換回路、50a,50b 通信部、52a,52b データ生成部、54a,54b パケット生成部、100,100a~100d プロセスバス、101,155 通信回路、103,154 処理回路、151 補助変成器、156 ディジタル出力回路、1000,1000A,1000B,1000D,1100,1200 保護制御システム。