IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清丸紅飼料株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025024999
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】誘導換羽飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/75 20160101AFI20250214BHJP
   A23K 20/24 20160101ALI20250214BHJP
   A23K 20/28 20160101ALI20250214BHJP
【FI】
A23K50/75
A23K20/24
A23K20/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129423
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】399106505
【氏名又は名称】日清丸紅飼料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱野 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】井上 敬雄
(72)【発明者】
【氏名】松下 紗季
(72)【発明者】
【氏名】波多野 和広
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005DA02
2B150AA05
2B150AB09
2B150AE03
2B150AE04
2B150CA01
2B150DH04
2B150DH21
(57)【要約】
【課題】誘導換羽期間中の卵殻質の悪化を抑制しながら、換羽を誘発することのできる誘導換羽飼料の提供。
【解決手段】6~13質量%のカルシウム及び/又はゼオライトを含有する誘導換羽飼料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6~13質量%のカルシウム及び/又はゼオライトを含有する誘導換羽飼料。
【請求項2】
ゼオライトの含有量が1~30質量%である請求項1記載の誘導換羽飼料。
【請求項3】
そうこう類の含有量が20質量%以下である請求項1記載の誘導換羽飼料。
【請求項4】
クランブル又はマッシュの形態である請求項1記載の誘導換羽飼料。
【請求項5】
産卵鶏に、請求項1~4のいずれか1項記載の誘導換羽飼料を給餌して誘導換羽を行うことを特徴とする産卵鶏の飼育方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産卵鶏の誘導換羽に用いる飼料及び産卵鶏の飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産卵鶏は日齢の経過に伴って産卵性能が低下し、また卵殻質も低下してくるため、産卵後期の鶏卵は商品価値が低い。そこで、400~500日齢の産卵鶏を対象に、人為的に産卵を停止させ、換羽を誘導する誘導換羽(強制換羽)が行われている。鶏を換羽させることによって、産卵率や卵殻質の改善、鶏の生産寿命の延長等を図ることができる。そのため、誘導換羽は、産卵鶏の主要な管理技術の一つである。一方で、誘導換羽による斃死鶏の発生、糞便性状の悪化、ストレスによるサルモネラ感染の増加や、アニマルウェルフェアの観点からの問題点も多い。
【0003】
これらの問題点に対して、例えば、低たんぱく・低エネルギー飼料、低ナトリウム飼料等による絶食(断食)を伴わない誘導換羽法が提案されている。例えば、産卵鶏の換羽誘導に当たり、産卵鶏が受けるストレスを軽減させ、換羽誘導によって生じる様々な弊害を低減できる換羽誘導期の産卵鶏に給与する配合飼料として、糟糠類を主原料とし、嵩比重が0.40~0.56kg/Lでかつ粒度分布において1mm以上の部位が40%以上に調整してあると共に、カルシウム含量は3.5%以上に、代謝エネルギーは1900kcal/kg以上で2100kcal/kg未満、あるいは2100kcal/kg以上で2400kcal/kg以下に仕上げてある産卵鶏の換羽誘導用配合飼料(特許文献1)等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-304699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の誘導換羽飼料による誘導換羽期間中の鶏卵の卵殻質は依然として満足のいくものではないのが実状であった。
従って、本発明は、誘導換羽期間中の卵殻質の悪化を抑制しながら、換羽を誘発することのできる誘導換羽飼料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、当該課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、所定量のカルシウム及び/又はゼオライトを含有する飼料を給餌すれば、優れた換羽誘導性能を有しながら、誘導換羽期間中に産卵される鶏卵の卵殻質の悪化を抑制できること、また、誘導換羽期間中の糞性状を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、6~13質量%のカルシウム及び/又はゼオライトを含有する誘導換羽飼料により上記課題を解決したものである。
また、本発明は、産卵鶏に、前記記載の誘導換羽飼料を給餌して誘導換羽を行うことを特徴とする産卵鶏の飼育方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の誘導換羽飼料によれば、優れた換羽誘導性能を有しながら、誘導換羽期間中に産卵される鶏卵の卵殻質の悪化を抑制することができる。また、誘導換羽期間中の糞性状を改善することができる。従ってまた、本発明の飼育方法によれば、効率の良い産卵鶏の飼育が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の誘導換羽飼料は、一態様において、カルシウムの含有量が6~13質量%である。誘導換羽飼料中のカルシウムの含有量は、誘導換羽期間中の卵殻質を改善する観点、糞水分を減少させ、糞性状を良好にする観点から、6質量%以上であって、好ましくは7質量%以上であり、また、過剰摂取を抑える観点や他の飼料原料との配合バランスを考慮して、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。誘導換羽飼料中のカルシウムの含有量は、好ましくは6~12質量%、より好ましくは6~10質量%、特に好ましくは7~10質量%である。ここで、本発明におけるカルシウムの含有量には、配合されたカルシウム以外にも他の原料由来のものが含まれる。
本明細書において、カルシウムの含有量は原子吸光法、又はシュウ酸アンモニウム法によって求めることができる。
カルシウム源としては、特に限定されず、塩化カルシウム、ヨウ化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、リン酸カルシウム等の無機塩、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、乳酸カルシウム等の有機塩が挙げられる。これらは、無水物、水和物のいずれでもよい。なかでも、溶解性や粒形の観点より、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムが好ましい。
【0010】
本発明の誘導換羽飼料は、一態様において、ゼオライトを含有する。ゼオライトは、結晶性含水アルミノケイ酸塩で、SiO4四面体あるいはAlO4四面体が三次元網目状に結合した鉱物である。ゼオライトの細孔の直径は、通常0.2~1.0nmである。多くの天然ゼオライト及び合成ゼオライトが知られ、本発明においてはいずれも用いることができる。なかでも、誘導換羽期間中の糞水分を減少させ、糞性状を良好にする観点から、モデルナイトが好ましい。
ゼオライトの形状は、粉体状、粒状、ペレット状等が挙げられる。
【0011】
誘導換羽飼料中のゼオライトの含有量は、誘導換羽期間中の卵殻質を改善する観点、糞水分を減少させ、糞性状を良好にする観点、生殖器を萎縮する観点から、好ましくは1~30質量%、より好ましくは1~25質量%、特に好ましくは4~20質量%である。
【0012】
本発明の誘導換羽飼料は、6~13質量%のカルシウムとゼオライトを含有する誘導換羽飼料であることが好ましい。所定量のカルシウム及びゼオライトを含有する飼料を給餌することにより、誘導換羽期間中に産卵される鶏卵の卵殻質の悪化を抑制でき、また、誘導換羽期間中の糞性状を改善できることに加えて、誘導換羽における体重減少のばらつきを小さくすることができる。斯かる態様の発明において、各成分の含有量等は全て上記したのと同様である。
本発明において、カルシウムの含有量に対するゼオライトの含有量の質量比[ゼオライト/カルシウム]は、誘導換羽における体重減少のばらつきを小さくする観点、糞性状を良好にする観点から、0.4以上4以下が好ましく、0.5以上3.5以下がより好ましい。
【0013】
本発明の誘導換羽飼料は、糞水分を少なくする観点から、そうこう類の含有量が少ないことが好ましい。具体的には、誘導換羽飼料中のそうこう類の含有量は、好ましくは20質量%以下である。
そうこう類としては、例えば、米糠、脱脂米糠、ふすま、大麦ぬか、コーングルテンフィード、ビールかす、しょう油かす、大豆皮、焼酎かす等が挙げられる。
【0014】
本発明の誘導換羽飼料における代謝エネルギー(ME)は、適宜選択可能であるが、生殖器萎縮の観点から、好ましくは1000kcal/kg以上1850kcal/kg以下である。
代謝エネルギー(ME)は、飼料中の総エネルギーから排泄物の総エネルギーを差し引くことにより求めることができる。
【0015】
本発明の誘導換羽飼料は、上記成分の他、飼料原料として、例えば、とうもろこし、マイロ、小麦、大麦、えん麦、ライ麦、玄米、そば、あわ、きび、ひえ等の殻類;大豆油かす、なかね油かす、あまに油かす、綿実油かす、落花生油かす、大豆ホエー、小麦グルテン、サフラワー油かす、やし油かす、パーム核油かす、ごま油かす、ひまわり油かす、からし油かす、ひまし油かす等の植物性油かす類;魚粉、乾燥ホエー、脱脂粉乳、全脂粉乳、濃縮ホエーたん白、フィッシュソリュブル、肉粉、肉骨粉、血粉、骨粉、フェザーミール等の動物性飼料;アルファルファミール、にせあかしや粉末、ぎんねむ葉ミール等の植物茎葉類;コーングルテンミール、コーンスティープリカー等のとうもろこし加工工業副産物;とうもろこし胚乳油、エステル油、大豆油、パーム核油等の植物油;豚脂、牛脂等の動物油脂等の油脂類;澱粉、澱粉加工品;ビタミンA、ビタミンB群、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK等のビタミン類;鉄、銅、マンガン、亜鉛、ヨウ素、コバルト、マグネシウム、硫黄等のミネラル類;メチオニン、リジン、グリシン、グルタミン酸、トリプトファン、アルギニン等のアミノ酸類を適宜含有することができる。これら飼料原料の含有量は、本発明の目的を損なわない範囲内で適宜設定することができる。
【0016】
本発明の誘導換羽飼料は、公知の方法により製造が可能であり、適宜の方法を採り得る。各成分の混合順序は特に限定されない。
誘導換羽飼料の形態としては、マッシュ、ペレット、クランブル、フレーク等が挙げられる。好ましくはマッシュ、クランブルであり、より好ましくはクランブルである。
【0017】
本発明の誘導換羽飼料は、誘導換羽中の産卵鶏に給与される。通常、60週令以降の産卵鶏に定量給与される。本発明の誘導換羽飼料によれば、通常飼料給餌開始から約2週間程度で目標体重減少率に達する。また、体重減少のばらつきが小さい。誘導換羽終了時の体重減少率は、誘導換羽開始体重より好ましくは20%である。
誘導換羽用飼料を給餌する方法は、特に限定されないが、不断給餌又は制限給餌が挙げられ、好ましくは不断給餌である。制限給餌の場合は、定量給餌法、隔日給餌法(スキップフィード)、暫減・暫増法(ステップダウン・ステップアップ)等の方法がある。
【0018】
誘導換羽飼料の1日の給与量は、適宜調整することができるが、好ましくは30~70g/日である。
【実施例0019】
以下、本発明について実施例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらによって何等限定されるものではない。
【0020】
実施例1及び比較例1
(1)誘導換羽飼料の調製
表1に記載の配合組成で飼料原料を混合し、クランブル状の配合飼料を得た。
【0021】
【表1】
【0022】
(2)試験方法
供試鶏(鶏種:ジュリア71~74週令)をそれぞれ1区24羽として2区設け、一日の点灯時間を10時間として、ウインドレス鶏舎において1週間の予備飼育後、表1に示す飼料を用いて14日間不断給餌で飼育して誘導換羽を行った。
【0023】
(3)結果
表2に飼育試験における卵殻検査の結果、表3に糞性状を示す。
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
実施例2~6及び比較例2
(1)誘導換羽飼料の調製
表4に記載の配合組成で飼料原料を混合し、実施例2~4及び比較例1はクランブル状の配合飼料を、実施例5~6はマッシュ状の配合飼料をそれぞれ得た。
【0027】
【表4】
【0028】
(2)試験方法
供試鶏(鶏種:ジュリア67~77週令、ボリスブラウン84~94週令)をそれぞれ1区32羽として6区設け、一日の点灯時間を10時間として、ウインドレス鶏舎において1週間の予備飼育後、表4に示す飼料を用いて14日間不断給餌で飼育して誘導換羽を行った。
【0029】
(3)結果
表5に飼育試験における卵殻検査の結果、表6に糞性状、表7に体重を示す。
【0030】
【表5】
【0031】
【表6】
【0032】
【表7】
【0033】
実施例7~12及び比較例3
(1)誘導換羽飼料の調製
表8に記載の配合組成で飼料原料を混合し、マッシュ状の配合飼料を得た。
【0034】
【表8】
【0035】
(2)試験方法
供試鶏(鶏種:ジュリア82~85週令)をそれぞれ1区16羽として7区設け、一日の点灯時間を16時間として、ウインドレス鶏舎において1週間の予備飼育後、表8に示す飼料を用いて14日間不断給餌で飼育して誘導換羽を行った。
【0036】
(3)結果
表9に飼育試験における卵殻検査の結果、表10に糞性状、表11に卵巣及び卵管重量を示す。
【0037】
【表9】
【0038】
【表10】
【0039】
【表11】
【0040】
以上に示す通り、本発明の誘導換羽飼料を給与することで、誘導換羽期間中に生産された卵殻質の低下が少なく、良好な品質を保持できることを確認できた(表2、5、9)。実施例1~12では比較例1~3と比べて糞水分が少なく、糞性状の改善が確認された(表3、6、10)。
高濃度のカルシウムとゼオライトを配合した実施例2~6では体重減少のばらつきも小さく(表7)、また、ゼオライトを配合した実施例10~12では、卵巣及び卵管の重量が減り、特に生殖器萎縮効果が見られた。ゼオライトについては、30質量%のゼオライトを配合した誘導換羽飼料でも同様に優れた生殖器萎縮効果等が確認された。さらに、実施例においては、腎臓悪化は見られなかった。