(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025001
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】水素供給システム
(51)【国際特許分類】
F17C 11/00 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
F17C11/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129425
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間宮 尚
(72)【発明者】
【氏名】前田 均
(72)【発明者】
【氏名】小川 博之
【テーマコード(参考)】
3E172
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172BA01
3E172BD03
3E172BD05
3E172FA01
(57)【要約】
【課題】水素利用装置の始動時に、水素利用装置に確実に水素を供給する。
【解決手段】水素供給システムOは、水素利用装置Cに供給するための水素を吸蔵する水素吸蔵合金11A,11Bと、水素吸蔵合金11A,11Bと水素利用装置Cとに接続される流路52と、流路52から供給された水素を貯留し、水素利用装置Cの始動時に水素利用装置Cに水素を供給する水素タンク70と、流路52と水素タンク70とに接続され、流路52から水素タンク70に水素を供給する流路72と、流路52と水素タンク70とに接続され、水素タンク70から流路52に水素を供給する流路73と、流路73に設けられ、水素タンク70から流路52への水素の流れを阻止する逆止弁75と、流路73に設けられ、水素利用装置Cの始動時に開弁して水素タンク70から流路52へ水素を供給する開閉弁76と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素利用装置に供給するための水素を吸蔵する水素吸蔵合金と、
前記水素吸蔵合金と前記水素利用装置とに接続され、前記水素吸蔵合金から脱着された水素を前記水素利用装置に供給する第1供給流路と、
前記第1供給流路から供給された水素を貯留し、前記水素利用装置の始動時に前記水素利用装置に水素を供給する貯留容器と、
前記第1供給流路と前記貯留容器とに接続され、前記第1供給流路から前記貯留容器に水素を供給する第1接続流路と、
前記第1供給流路と前記貯留容器とに接続され、前記貯留容器から前記第1供給流路に水素を供給する第2接続流路と、
前記第1接続流路に設けられ、前記貯留容器から前記第1供給流路への水素の流れを阻止する逆止弁と、
前記第2接続流路に設けられ、前記水素利用装置の始動時に開弁して前記貯留容器から前記第1供給流路へ水素を供給する供給弁と、を備えた水素供給システム。
【請求項2】
請求項1に記載された水素供給システムであって、
前記第1接続流路に設けられ、前記貯留容器に貯留する水素を圧縮する圧縮機をさらに備えた水素供給システム。
【請求項3】
請求項1に記載された水素供給システムであって、
前記水素利用装置の稼働に伴う排熱で前記水素吸蔵合金を加熱する熱交換装置をさらに備えた水素供給システム。
【請求項4】
請求項1に記載された水素供給システムであって、
前記水素吸蔵合金に水素を供給するための第2供給流路と、
前記第2供給流路と前記貯留容器とに接続され、前記第2供給流路から前記貯留容器に水素を供給する第3接続流路と、をさらに備えた水素供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素吸蔵合金が収容される水素吸蔵合金容器と、水素吸蔵合金との伝熱が行われる熱媒体が移動する熱媒体移動路と、熱媒体移動路で移動する熱媒体の温度調整を行う温度調整部とを備えた水素供給システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明では、ヒータによって水タンク内の水(熱媒体)を加熱して、その加熱された水によって水素吸蔵合金を加熱することで、水素吸蔵合金から水素を脱着している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明において、例えば、燃料電池(水素利用装置)を始動する時に、停電などによってヒータを作動させる電源が確保できない状態になっている場合には、水素吸蔵合金を加熱できない。この結果、燃料電池に水素を供給することができず、燃料電池を始動できないおそれがある。
【0006】
本発明は、水素利用装置の始動時に、外部から電力供給を受けずとも、水素利用装置に水素を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水素利用装置に供給するための水素を吸蔵する水素吸蔵合金と、水素吸蔵合金と水素利用装置とに接続され、水素吸蔵合金から脱着された水素を水素利用装置に供給する第1供給流路と、第1供給流路から供給された水素を貯留し、水素利用装置の始動時に水素利用装置に水素を供給する貯留容器と、第1供給流路と貯留容器とに接続され、第1供給流路から貯留容器に水素を供給する第1接続流路と、第1供給流路と貯留容器とに接続され、貯留容器から第1供給流路に水素を供給する第2接続流路と、第1接続流路に設けられ、貯留容器から第1供給流路への水素の流れを阻止する逆止弁と、第2接続流路に設けられ、水素利用装置の始動時に開弁して貯留容器から第1供給流路へ水素を供給する供給弁と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素利用装置の始動時に、外部から電力供給を受けずとも、水素利用装置に水素を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る水素供給システムが適用される水素エネルギーシステムSの概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る水素吸蔵合金の吸蔵量と水素貯蔵タンク内の圧力との関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
水素供給システムOは、建物やモビリティに設置または搭載される水素ガスを燃料とする発電機や駆動源に水素を供給するものであり、水素発生装置Pによって生成された水素ガスを吸蔵または放出する。まず、
図1を参照して、本発明の実施形態に係る水素供給システムOが適用される水素エネルギーシステムSについて簡単に説明する。
【0012】
図1に示すように、水素エネルギーシステムSは、水素供給システムOと、水素供給システムOに水素を供給する水素発生装置Pと、水素供給システムOから放出された水素を利用する水素利用装置Cと、を備える。
【0013】
水素発生装置Pは、水を電気分解することで水素を発生させる。水素発生装置Pは、発生させた水素の温度を調整する温度調整装置(図示せず)と、発生させた水素の圧力を調整する圧力調整装置(図示せず)と、を備えている。
【0014】
水素利用装置Cは、水素供給システムOから放出された水素が化学反応することでエネルギーを作り出すエネルギー発生源である。具体的には、エネルギー発生源は、燃料電池や水素エンジンである。燃料電池は、水素供給システムOから放出された水素を酸素と反応させて電気エネルギーを作り出し、水素エンジンは、水素供給システムOから放出された水素を燃焼させて回転エネルギーを作り出す。なお、燃料電池及び水素エンジンからは、熱及び水ないし水蒸気が排出される。
【0015】
水素供給システムOは、水素吸蔵する水素吸蔵合金11A,11Bと、水素吸蔵合金11A,11Bがそれぞれ収容される水素貯蔵タンク10A,10Bと、水素吸蔵合金11A,11Bとの間で熱交換を行う水(流体)が循環する循環回路20A,20Bと、循環回路20A,20Bを流れる水を冷却する冷却機構30と、循環回路20A,20Bを流れる水を加熱する加熱機構40A,40Bと、を備える。
【0016】
水素貯蔵タンク10A,10Bは、水素発生装置Pにそれぞれ流路51A,51Bによって接続され、水素利用装置Cにそれぞれ流路52A,52Bによって接続される。つまり、水素貯蔵タンク10A,10Bは、水素発生装置Pと水素利用装置Cとを接続する流路において、並列に設けられている。
【0017】
流路51A,51Bには、流路51A,51Bを開放または遮断する開閉弁53A,53Bが設けられ、流路52A,52Bには、流路52A,52Bを開放または遮断する開閉弁54A,54Bが設けられる。開閉弁53A,53B及び開閉弁54A,54Bは、コントローラ60によって動作が制御される。なお、以下では、水素発生装置Pと水素貯蔵タンク10A,10Bとを接続する流路全体、すなわち、流路51A,51Bを流路51(第2供給流路)といい、水素貯蔵タンク10A,10Bと水素利用装置Cとを接続する流路全体、すなわち、流路52A,52Bを流路52(第1供給流路)という。
【0018】
水素供給システムOは、水素発生装置Pから供給された水素及び水素吸蔵合金11A,11Bから脱着された水素を貯留する水素タンク70(貯留容器)をさらに備える。
【0019】
水素タンク70は、高圧の水素を貯留する高圧容器である。水素タンク70は、流路71(第3接続流路)を通じて流路51における開閉弁53A,53Bの上流側に接続される。また、水素タンク70は、流路72(第1接続流路)及び流路73(第2接続流路)を通じて流路52における開閉弁54A,54Bの下流側に接続される。流路72は、流路52における流路73との接続点より上流側に接続される。
【0020】
流路71には、流路71を開放または遮断する開閉弁74が設けられる。開閉弁74は、コントローラ60によって動作が制御される。
【0021】
流路72には、圧縮機80と、逆止弁75と、が設けられる。圧縮機80は、流路52を流れる水素を圧縮して水素タンク70に供給する。圧縮機80は、コントローラ60によって動作が制御される。
【0022】
逆止弁75は、流路72における圧縮機80の下流側に設けられ、水素タンク70から圧縮機80及び流路52への水素の逆流を防止する。
【0023】
流路73には、流路73を開放または遮断する開閉弁76(供給弁)が設けられる。開閉弁76は、コントローラ60によって動作が制御される。
【0024】
流路52における流路72との接続点より下流側であって、流路73との接続点より上流側には、逆止弁77が設けられる。また、流路52における流路73との接続点より下流側には、減圧弁56が設けられる。減圧弁56は、コントローラ60によって設定圧が制御される。減圧弁56は、流路52を通じて供給される水素を減圧(例えば、0.15MPa(G)程度)し、水素利用装置Cに供給する。
【0025】
続いて、水素貯蔵タンク10A,10B、循環回路20A,20B、及び加熱機構40A,40Bについて説明する。なお、水素貯蔵タンク10A,10B、循環回路20A,20B、及び加熱機構40A,40Bは同じ構成であるため、以下では、水素貯蔵タンク10A、循環回路20A、及び加熱機構40Aを中心に説明し、水素貯蔵タンク10B、循環回路20B、及び加熱機構40Bについては、水素貯蔵タンク10A、循環回路20A、及び加熱機構40Aと同一の構成には図中に同じ数字の符号を付して説明を省略する。水素貯蔵タンク10A、循環回路20A及び加熱機構40Aの構成には符号に「A」を付し、水素貯蔵タンク10B、循環回路20B、及び加熱機構40Bの構成には符号に「B」を付して区別する。
【0026】
水素貯蔵タンク10Aは、圧力容器によって構成され、水素貯蔵タンク10A内には、水素吸蔵合金11Aが収容される。水素吸蔵合金11Aとしては、AB5型、AB2型、A2B型、固溶体型(BCC合金)などを用いることができる。
【0027】
流路51Aにおける開閉弁53Aより下流側には、圧力センサ55Aが設けられる。圧力センサ55Aは、水素吸蔵合金11Aの周囲の圧力(水素貯蔵タンク10Aの水素の圧力)を検出する。なお、圧力センサ55Aは、流路52Aにおける開閉弁54Aより上流側に設けられていてもよい。
【0028】
水素エネルギーシステムSでは、開閉弁53Aを開弁することで、水素発生装置Pによって発生した水素が、流路51A(流路51)を通じて水素貯蔵タンク10Aに供給される。また、開閉弁53Aを閉弁することで、水素発生装置Pによって発生した水素の水素貯蔵タンク10Aへの供給が遮断される。
【0029】
また、水素エネルギーシステムSでは、開閉弁54Aを開弁することで、水素貯蔵タンク10A内の水素は、流路52A(流路52)及び減圧弁56を通じて水素利用装置Cに供給される。また、開閉弁54Aを閉弁することで、水素貯蔵タンク10A内の水素の水素利用装置Cへの供給が遮断される。
【0030】
次に、循環回路20Aについて説明する。
【0031】
循環回路20Aは、水を循環させて、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行い、水素吸蔵合金11Aの温度調整を行う。
【0032】
図1に示すように、循環回路20Aは、循環回路20A内の水を循環させるためのポンプ21Aと、加熱機構40Aとの間で熱交換を行う第1熱交換部22Aと、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行う第2熱交換部23Aと、循環回路20A内を流れる水を冷却する冷却機構30と、冷却機構30をバイパスするバイパス流路24Aと、冷却機構30及びバイパス流路24Aへ流れる流量の分配を制御する制御弁25Aと、第2熱交換部23Aの入口側の水温を検出する第1温度センサ26Aと、第2熱交換部23Aの出口側の水温を検出する第2温度センサ27Aと、をさらに有する。
【0033】
ポンプ21Aは、図示しないモータによって駆動される。ポンプ21Aの種類は特に限定はないが、ポンプ21Aは、遠心ポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどによって構成される。
【0034】
第1熱交換部22Aは、加熱機構40Aとの間で熱交換を行い、加熱機構40Aからの熱を受け取ることで、循環回路20A内を循環する水を加熱する。
【0035】
第2熱交換部23Aは、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行うことで、水素吸蔵合金11Aの温度を調整する。
【0036】
制御弁25Aは、第2熱交換部23Aを通過した水を冷却機構30とバイパス流路24Aに分配する。具体的には、制御弁25Aは、三方弁によって構成される。制御弁25Aは、コントローラ60によって制御され、冷却機構30とバイパス流路24Aに分配される水の流量を制御する。本実施形態では、制御弁25Aを三方弁によって構成した場合を例に示しているが、制御弁25Aを2つの二方弁によって構成してもよい。
【0037】
冷却機構30は、チラーや冷却塔、ラジエータなどによって構成される。冷却機構30は、少なくとも循環回路20A内を循環する水の熱を大気へ放出する放熱器としての機能を有していればどのようなものであってもよい。
【0038】
本実施形態では、1つの冷却機構30によって、循環回路20A及び循環回路20B内を循環する水を冷却している、言い換えると、本実施形態では、冷却機構30が、循環回路20A及び循環回路20Bに対して共通化されているが、冷却機構30は、循環回路20A及び循環回路20Bに個別に設けられていてもよい。
【0039】
加熱機構40Aは、熱媒体としての水が循環する循環回路41Aと、循環回路41A内の水を循環させるためのポンプ42と、循環回路41Aに設けられ第1熱交換部22Aとの間で熱交換を行う第3熱交換部43Aと、循環回路41Aに設けられ水素利用装置Cとの間で熱交換を行う第4熱交換部44と、循環回路41Aにおけるポンプ42と第3熱交換部43Aの間に設けられ、ポンプ42から第3熱交換部43Aへの水の流れを許容または遮断する開閉弁45Aと、を有する。
【0040】
循環回路41Aは、内部の水が循環することによって水素利用装置Cで発生した排熱を循環回路20Aに伝達する。
【0041】
ポンプ42は、図示しないモータによって駆動される。ポンプ42の種類は特に限定はないが、ポンプ42は、遠心ポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどによって構成される。
【0042】
第3熱交換部43Aは、第1熱交換部22Aとの間で熱交換を行い、循環回路41A内を循環する水の熱によって循環回路20A内を循環する水を加熱する。
【0043】
第4熱交換部44は、水素利用装置Cとの間で熱交換を行い、水素利用装置Cを駆動した際に発生する排熱によって循環回路41A内を循環する水を加熱する。
【0044】
このように、加熱機構40Aは、水素利用装置Cを駆動した際に発生する排熱を利用して、循環回路41A内を循環する水を加熱する。
【0045】
なお、本実施形態では、1つのポンプ42によって、循環回路41A及び循環回路41B内の水を循環させるとともに、1つの第4熱交換部44によって循環回路41A及び循環回路41B内を循環する水を加熱している、言い換えると、本実施形態では、ポンプ42及び第4熱交換部44は、循環回路41A及び循環回路41Bに対して共通化されているが、ポンプ42及び第4熱交換部44は、循環回路41A及び循環回路41Bにそれぞれ個別に設けられていてもよい。
【0046】
次に、水素吸蔵合金11Aにおける水素の吸着及び脱着について、
図2を参照しながら説明する。
図2は、水素吸蔵合金11A,11B(水素貯蔵タンク10A,10B)の圧力と、温度と、水素の吸蔵量との関係を示すグラフである。なお、
図2における実線は、吸着時の特性を示し、点線は、脱着時の特性を示している。
【0047】
まず、水素吸蔵合金11Aへの水素の吸着について説明する。水素発生装置Pによって発生した水素は、開閉弁53Aを開弁することによって、流路51Aを通じて水素貯蔵タンク10A内に導かれる。本実施形態では、水素発生装置Pから供給される水素の圧力は、0.8MPa程度である。水素貯蔵タンク10A内に導かれた水素は、水素吸蔵合金11Aによって吸着される。水素吸蔵合金11Aが水素を吸着する際には、発熱反応により水素吸蔵合金11Aの温度が上昇する。
【0048】
図2に示すように、水素吸蔵合金11Aは、同じ圧力では、温度が高くなるほど吸蔵量が減少する。そのため、本実施形態では、吸着時には、ポンプ21Aを駆動して、循環回路20A内の水を循環させる。なお、本実施形態では、ポンプ21Aは、吐出流量が一定となるように駆動される。
【0049】
ポンプ21Aから吐出された水は、第2熱交換部23Aにおいて、水素吸蔵合金11Aを冷却する。水素吸蔵合金11Aと熱交換することによって温度が上昇した水(第2熱交換部23Aを通過した水)は、制御弁25Aを通って冷却機構30に導かれる。冷却機構30では、通過する水の熱が除熱され、水の温度が低下する。冷却機構30によって冷却された水は、ポンプ21Aに導かれ、再びポンプ21Aから吐出される。このように循環回路20A内の水を循環させることで、水素吸蔵合金11Aによって発生した熱を外部へ放出することができる。なお、吸着時には、加熱機構40Aのポンプ42を停止する、あるいは、開閉弁45Aを閉弁することで、第1熱交換部22Aにおいて熱交換が行われない。これにより、循環回路20A内の水が加熱されることはない。
【0050】
本実施形態では、水素吸蔵合金11Aによって水素を吸着させる際には、水素の圧力が0.8MPa程度で一定になるように制御する。具体的には、コントローラ60は、圧力センサ55Aによって検出した水素の圧力が低下してきた場合には、制御弁25Aを制御して、第2熱交換部23Aを通過した水の一部をバイパス流路24Aに導く。これにより、バイパス流路24Aに導かれた水は、冷却機構30を通過することなく、つまり、冷却されることなく、再びポンプ21Aから吐出される。
【0051】
水素吸蔵合金11Aの冷却が強すぎる、つまり、第2熱交換部23Aを通過する水の温度が低すぎると、水素の温度が低下してしまい、その結果、水素の圧力が低下してしまう。そこで、第2熱交換部23Aを通過した水の一部をバイパス流路24Aに導いて冷却機構30をバイパスさせることで、第2熱交換部23Aに導かれる水の温度を上昇させる。このように、水素の圧力が低下した場合には、水素吸蔵合金11Aの冷却を抑制することで、水素を一定の圧力に維持することができる。なお、この制御は、予め実験などによって水素の圧力と制御弁25Aの開度(冷却機構30とバイパス流路24Aへの流量の分配量)との関係を求めておき、これらの関係をコントローラ60に記憶させ、この記憶された関係に基づいて制御が行われる。また、圧力センサ55Aによって検出された圧力に基づいて、フィードバック制御を行うようにしてもよい。あるいは、循環回路20Aに設けられた第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aを用いて制御を行ってもよく、圧力センサ55Aと、第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aと、を併用して制御を行ってもよい。
【0052】
水素吸蔵合金11Aによる吸着は、開閉弁53Aを閉じることによって終了する。
【0053】
次に、水素吸蔵合金11Aからの水素の脱着について説明する。水素貯蔵タンク10A内の水素は、開閉弁54Aを開弁することによって、流路52Aを通じて水素利用装置Cに導かれる。
【0054】
コントローラ60は、水素利用装置Cが始動すると、水素利用装置Cに水素を供給するために水素吸蔵合金11Aからの水素を脱着させる。具体的には、まず、コントローラ60は、開閉弁54Aを開弁する。これにより、水素貯蔵タンク10Aから水素利用装置Cに水素が供給される。本実施形態では、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力は、0.8MPa程度で一定になるように制御される。
【0055】
水素吸蔵合金11Aは、水素を脱着する際には、吸熱反応により水素吸蔵合金11Aの温度が低下する。水素吸蔵合金11Aの温度が低下すると、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力が低下し脱着しなくなる。そこで、本実施形態では、加熱機構40Aを駆動して、循環回路20A内を循環する水を加熱機構40Aによって加熱することで、水素吸蔵合金11Aを加熱する。
【0056】
具体的には、コントローラ60は、ポンプ42を駆動するとともに開閉弁45Aを開弁する。また、コントローラ60は、ポンプ21Aを駆動するとともに、循環回路20A内を循環する水の全量がバイパス流路24Aを通過するように制御弁25Aを制御する。これにより、循環回路41A内の水が循環するとともに、循環回路20A内の水が冷却機構30をバイパスしながら循環する。
【0057】
循環回路41A内を循環する水は、第4熱交換部44において水素利用装置Cとの間で熱交換を行うことで、水素利用装置Cの排熱によって加熱される。そして、第4熱交換部44において加熱された水が、第3熱交換部43Aに到達すると、第3熱交換部43Aと第1熱交換部22Aとの間で熱交換が行われ、循環回路20A内を循環する水が加熱される。このように、本実施形態では、水素利用装置Cの排熱を用いて、水素吸蔵合金11Aを加熱する。なお、本実施形態における循環回路20A,20Bと加熱機構40A,40Bが、特許請求の範囲における「熱交換装置」に相当する。
【0058】
なお、循環回路20A内を循環する水の温度が高くなりすぎると、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力が上昇してしまう。この場合には、コントローラ60は、開閉弁45Aを制御して、第3熱交換部43Aを通過する水の流量を減少させる。これにより、第1熱交換部22Aにおいて第3熱交換部43Aから受け取る熱量を少なくすることができるので、循環回路20A内を循環する水の温度上昇を抑制できる。なお、この制御は、圧力センサ55Aによって検出された圧力に基づいて、フィードバック制御を行うことで実行される。
【0059】
循環回路20A内を循環する水の温度が高くなりすぎた場合に、開閉弁45Aを制御することに加えて、制御弁25Aを制御して、循環回路20A内を循環する水の一部が冷却機構30を通過するようにしてもよい。冷却機構30を通過した水は、冷却機構30によって冷却され、バイパス流路24Aを通過した水と合流する。これにより、循環回路20A内を循環する水の温度を低下させることができる。また、制御弁25Aのみを制御するようにしてもよい。さらに、循環回路20Aに設けられた第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aを用いて制御を行ってもよく、圧力センサ55Aと、第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aと、を併用して制御を行ってもよい。
【0060】
水素エネルギーシステムSでは、水素供給システムOが、2つの水素貯蔵タンク10A,10Bを備えている。このため、水素貯蔵タンク10A,10Bの一方の水素吸蔵合金11A,11Bが脱着しているときに、一方の水素吸蔵合金11A,11Bにおいて水素を吸着させることができる。これにより、水素利用装置Cに安定的に水素を供給することができる。なお、水素貯蔵タンクは、3つ以上であってもよいし、水素エネルギーシステムSにおける要求が満たされるのであれば、1つであってもよい。
【0061】
ところで、例えば、水素利用装置Cが長時間停止していた場合には、水素利用装置Cの排熱が生じないため、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱できなくなるおそれがある。そこで、ヒータなどの発熱装置を設けて、水素利用装置Cの始動時に発熱装置によって生じた熱を用いて水素吸蔵合金11A,11Bを加熱し、水素吸蔵合金11A,11Bから水素を脱着させることが考えられる。
【0062】
しかしながら、ヒータなどの発熱装置を設けても、停電などによってヒータを作動させる電源が確保できない状態になってしまった場合には、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱できず、水素吸蔵合金11A,11Bから水素を脱着できないおそれがある。この結果、水素利用装置Cに水素を供給することができず、水素利用装置Cを始動できないおそれがある。
【0063】
そこで、本実施形態の水素供給システムOでは、電力を用いずに水素利用装置Cに水素を供給できるように水素タンク70を設けている。以下に、水素タンク70の具体的な作用について説明する。
【0064】
水素利用装置Cを始動させる場合には、開閉弁76を開弁する。これにより、水素タンク70に貯留されている水素が、流路73及び流路52を通って水素利用装置Cに供給される。なお、開閉弁76は、コントローラ60からの指示によって開閉される電動のバルブである。開閉弁76は、使用する電力量が小さいため、停電時であってもバッテリなどの非常用電源からの電力供給を受けて作動することができるが、ヒータは、使用する電力量が大きいため、バッテリなどでは作動することができない。
【0065】
このように、水素供給システムOでは、水素タンク70が設けられているので、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱できない状況、具体的には、外部から電力供給を受けられない状況であっても、水素利用装置Cを始動することができる。水素利用装置Cが始動すれば、発電することが可能になるとともに、水素利用装置Cの排熱を利用することが可能になる。これにより、通常の制御を実行することができる。
【0066】
なお、
図1に示すように、水素供給システムOでは、流路52に逆止弁77が設けられているので、水素タンク70から水素利用装置Cに水素を供給するために開閉弁76を開弁したときに、水素タンク70から排出された水素が、水素貯蔵タンク10A,10Bや流路72に流れ込むことはない。
【0067】
次に、水素タンク70への水素の充填方法について説明する。
【0068】
水素タンク70には、水素発生装置Pによって発生した水素、あるいは、水素吸蔵合金11A,11Bから脱着された水素が充填される。
【0069】
水素発生装置Pによって発生した水素を水素タンク70に充填するか否かの判断は、コントローラ60が行う。コントローラ60は、水素タンク70内の圧力と流路71における開閉弁74より上流側の圧力とに基づいて、水素発生装置Pによって発生した水素を水素タンク70へ充填する必要があるか否かの判断を行い、充填する必要があると判断した場合には、開閉弁74を開弁する。これにより、水素発生装置Pによって発生した水素が、流路71及び開閉弁74を通じて水素タンク70内に導かれ、水素タンク70に貯留される。
【0070】
なお、
図1に示す実施形態では、流路71に開閉弁74を設けているが、開閉弁74に換えて、水素発生装置Pから水素タンク70への流れのみを許容する逆止弁を設けてもよい。この場合には、流路71における逆止弁より上流側の圧力が、水素タンク70内の圧力より大きい場合に、水素が水素タンク70に自動的に充填される。
【0071】
水素吸蔵合金11A,11Bから脱着された水素を水素タンク70に充填する場合には、圧縮機80を駆動する。水素吸蔵合金11A,11Bから脱着された水素を水素タンク70に充填するか否かの判断は、コントローラ60が行う。コントローラ60は、水素吸蔵合金11A,11Bから水素が脱着されているときに、水素タンク70内の圧力と流路52内の圧力とに基づいて、水素吸蔵合金11A,11Bから脱着された水素を水素タンク70へ充填するか否かの判断を行い、充填すると判断した場合には、圧縮機80を駆動する。
【0072】
圧縮機80を使用することにより、流路52内の圧力が水素タンク70内の圧力より低い場合でも、水素タンク70内により多くの水素を充填することができる。なお、例えば、流路52内の水素をそのまま水素タンク70に充填することで、水素利用装置Cの始動時に必要な水素量を確保できるのであれば、圧縮機80を設けなくてもよい。
【0073】
具体的に説明すると、
図2から明らかなように、水素吸蔵合金11A,11Bの水素吸蔵量が同じでも、水素吸蔵合金11A,11Bの温度が異なると水素の圧力が異なる。また、同じ温度でも水素吸蔵量が大きく変化する領域があることが分かる。
【0074】
本実施形態の水素吸蔵合金11A,11Bは、温度が60℃近傍の時、水素の吸着及び脱着時の水素の圧力は0.8MPa(A)以上である。一方、本実施形態の水素利用装置Cに供給する水素の圧力は0.15MPa(G)程度である。このため、水素吸蔵合金11A,11Bの温度が60℃近傍で作動させる場合には、水素吸蔵合金11A,11Bから水素タンク70への水素の充填時に圧縮機80によって昇圧しなくてもよい。つまり、このような高圧の水素が脱着される場合には、圧縮機80を設けなくてもよい。
【0075】
これに対し、水素吸蔵合金11A,11Bが20℃近傍で作動させる場合には、水素の吸着及び脱着時の水素の圧力は0.2MPa程度になる。このため、水素利用装置Cの始動時に十分な水素を供給することを考えると、水素タンク70に貯蔵する水素を圧縮機80で圧縮する(昇圧する)ことが望ましい。
【0076】
なお、圧縮機80を設けない場合には、流路52における逆止弁77より上流側の圧力、すなわち、水素貯蔵タンク10A,10Bから流路52に供給された水素の圧力が、水素タンク70内の圧力より大きい場合に、流路52から逆止弁77を通じて水素が水素タンク70内に自動的に供給される。
【0077】
以上のように構成された水素供給システムOによれば、次の作用効果を奏する。
【0078】
本実施形態の水素供給システムOによれば、外部から電力供給を受けずとも、水素利用装置Cに確実に水素を供給するができる。これにより、水素利用装置Cを確実に始動させることができる。
【0079】
また、水素供給システムOでは、水素タンク70内の水素を消費してしまっても、流路51あるいは流路52を流れる水素を水素タンク70に充填することができる。これにより、水素を充填する作業や水素タンク70を交換する作業が不要となる。また、水素タンク70内に水素を充填するために、特別な装置を必要としないので、コストの上昇を抑制できる。
【0080】
さらに、水素供給システムOでは、圧縮機80を用いて水素を圧縮して水素タンク70に充填するようにしている。これにより、より多くの水素を水素タンク70に貯留させることができるので、水素利用装置Cの始動時により多くの水素を供給できる。よって、水素利用装置Cをより確実に始動させることができる。
【0081】
また、水素供給システムOでは、水素利用装置Cの稼働に伴う排熱で水素吸蔵合金11A,11Bを加熱しているので、エネルギー効率を向上させることができる。
【0082】
なお、上述のように、水素供給システムOを備えることにより、外部から電力供給を受けずに、水素利用装置Cを始動させて発電することができる。このため、水素エネルギーシステムSを、非常用発電設備、より具体的には、例えば、電力系統の停電を回避するための非常用発電設備として利用することができる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0084】
上記実施形態では、開閉弁76の動作をコントローラ60で制御するようにしているが、開閉弁76を手動で操作するようにしてもよい。また、開閉弁76に換えて、減圧弁(供給弁)を設けるようにしてよい。
【0085】
上記実施形態では流路51の水素を水素タンク70に充填できるように構成しているが、不要であれば、流路71及び開閉弁74は設けなくてもよい。
【0086】
上記実施形態では、加熱機構40A,40Bとして、水素利用装置Cからの排熱を用いて循環回路41A,41Bを流れる水を加熱する構成を例に説明したが、これに限らず、加熱機構40A,40Bは、循環回路20A,20B内を循環する水を直接加熱するヒータであってもよい。また、循環回路20A,20B内を循環する水を加温冷却できるチラーなどを備えている場合には、加熱機構40A,40Bを設けなくてもよい。なお、省エネルギーの観点からは、上記実施形態のように水素利用装置Cで発生した排熱を利用した加熱機構40A,40Bを採用することが望ましい。
【0087】
上記実施形態では、循環回路20A,20Bを流れる流体として水を例に説明したが、これに限らない。冷却機構30としてラジエータ、チラーなどを用いる場合には、循環回路20A,20Bを外部と遮断することができるので、水以外の流体を用いることができる。
【0088】
さらに、上記実施形態では、吸着時に吐出流量が一定になるようにしてポンプ21Aを駆動する場合を例に説明したが、これに限らず、水素の圧力や温度の変化に応じて、ポンプ21Aの吐出流量を変化させるようにしてもよい。
【0089】
上記実施形態では、圧力が一定になるように制御を行っている場合を例に説明したが、圧力が所定の範囲内になるように制御を行ってもよい。また、冷却温度を低くできる場合には、吸着時の圧力を0.8MPaよりも低く設定してもよい。
【0090】
図1などに示す実施例では、便宜上、第1熱交換部22Aと第3熱交換部43Aとによって構成される熱交換器を並流式、第1熱交換部22Bと第3熱交換部43Bとによって構成される熱交換器を向流式として記載しているが、これらは、並流式及び向流式のいずれも採用可能である。
【0091】
なお、上記実施形態では、水素発生装置Pとして、水を電気分解することで水素を発生させる電解装置を例に説明したが、水素発生装置Pは、電解装置のような固定式のものに限らず、例えば、水素トレーラーのような移動式のものであってもよい。
【符号の説明】
【0092】
S・・・水素エネルギーシステム
P・・・水素発生装置
O・・・水素供給システム
C・・・水素利用装置
10A,10B・・・水素貯蔵タンク
11A,11B・・・水素吸蔵合金
20A,20B・・・循環回路(熱交換装置)
30・・・冷却機構
40A,40B・・・加熱機構(熱交換装置)
51,51A,51B・・・流路(第2供給流路)
52,52A,52B・・・流路(第1供給流路)
60・・・コントローラ
70・・・水素タンク(貯留容器)
71・・・流路(第3接続流路)
72・・・流路(第1接続流路)
73・・・流路(第2接続流路)
75・・・逆止弁
76・・・開閉弁(供給弁)
80・・・圧縮機