IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 鹿島建設株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-水素吸蔵システム 図1
  • 特開-水素吸蔵システム 図2
  • 特開-水素吸蔵システム 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025002
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】水素吸蔵システム
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20250214BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F17C11/00 C
C01B3/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129426
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】間宮 尚
(72)【発明者】
【氏名】前田 均
(72)【発明者】
【氏名】小川 博之
【テーマコード(参考)】
3E172
4G140
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA09
3E172AB01
3E172BD03
3E172BD05
3E172DA90
3E172EB02
3E172EB18
3E172FA01
3E172KA03
4G140AA16
(57)【要約】
【課題】水素利用装置の始動時に、水素利用装置に確実に水素を供給する。
【解決手段】水素吸蔵システム100は、水素利用装置Cに供給するための水素を吸蔵する水素吸蔵合金11A,11Bと、水と反応することで発熱する発熱剤を有する発熱部71と、始動時に発熱部71によって発生した熱で水素吸蔵合金11A,11Bを加熱する加熱部72A,72Bと、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素利用装置に供給するための水素を吸蔵する水素吸蔵合金と、
水と反応することで発熱する発熱剤を有する発熱部と、
始動時に前記発熱部によって発生した熱で前記水素吸蔵合金を加熱する加熱部と、を備えた水素吸蔵システム。
【請求項2】
請求項1に記載された水素吸蔵システムであって、
前記発熱剤は、再利用可能である水素吸蔵システム。
【請求項3】
請求項1に記載された水素吸蔵システムであって、
前記発熱剤は、前記水素吸蔵合金で発生した熱によって加熱されることで再生する水素吸蔵システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素吸蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、水素吸蔵合金が収容される水素吸蔵合金容器と、水素吸蔵合金との伝熱が行われる熱媒体が移動する熱媒体移動路と、熱媒体移動路で移動する熱媒体の温度調整を行う温度調整部とを備えた水素貯蔵システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-35479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された発明では、ヒータによって水タンク内の水(熱媒体)を加熱して、その加熱された水によって水素吸蔵合金を加熱することで、水素吸蔵合金から水素を脱着している。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明において、例えば、燃料電池(水素利用装置)を始動する時に、停電などによってヒータを作動させる電源が確保できない状態になっている場合には、水素吸蔵合金を加熱できない。この結果、燃料電池に水素を供給することができず、燃料電池を始動できないおそれがある。
【0006】
本発明は、水素利用装置の始動時に、外部から電力供給を受けずとも、水素利用装置に水素を供給することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水素吸蔵システムであって、水素利用装置に供給するための水素を吸蔵する水素吸蔵合金と、水と反応することで発熱する発熱剤を有する発熱部と、始動時に発熱部によって発生した熱で水素吸蔵合金を加熱する加熱部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素利用装置の始動時に、外部から電力供給を受けずとも、水素利用装置に水素を供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る水素吸蔵システムが適用される水素エネルギーシステムの概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る水素吸蔵合金の吸蔵量と水素貯蔵タンク内の圧力との関係を示す特性図である。
図3図3は、本発明の第2実施形態に係る水素吸蔵システムが適用される水素エネルギーシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
【0011】
<第1実施形態>
図1及び図2を参照して、第1実施形態に係る水素吸蔵システム100について説明する。
【0012】
水素吸蔵システム100は、建物やモビリティに設置または搭載される水素ガスを燃料とする発電機や駆動源に水素を供給するものであり、水素発生装置Pによって生成された水素ガスを吸蔵または放出する。まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る水素吸蔵システム100が適用される水素エネルギーシステムSについて簡単に説明する。
【0013】
図1に示すように、水素エネルギーシステムSは、水素吸蔵システム100と、水素吸蔵システム100に水素を供給する水素発生装置Pと、水素吸蔵システム100から放出された水素を利用する水素利用装置Cと、を備える。
【0014】
水素発生装置Pは、水を電気分解することで水素を発生させる。水素発生装置Pは、発生させた水素の温度を調整する温度調整装置(図示せず)と、発生させた水素の圧力を調整する圧力調整装置(図示せず)と、を備えている。
【0015】
水素利用装置Cは、水素吸蔵システム100から放出された水素が化学反応することでエネルギーを作り出すエネルギー発生源である。具体的には、エネルギー発生源は、燃料電池や水素エンジンである。燃料電池は、水素吸蔵システム100から放出された水素を酸素と反応させて電気エネルギーを作り出し、水素エンジンは、水素吸蔵システム100から放出された水素を燃焼させて回転エネルギーを作り出す。なお、燃料電池及び水素エンジンからは、熱及び水ないし水蒸気が排出される。
【0016】
水素吸蔵システム100は、水素吸蔵する水素吸蔵合金11A,11Bと、水素吸蔵合金11A,11Bがそれぞれ収容される水素貯蔵タンク10A,10Bと、水素吸蔵合金11A,11Bとの間で熱交換を行う水(流体)が循環する循環回路20A,20Bと、循環回路20A,20Bを流れる水を冷却する冷却機構30と、循環回路20A,20Bを流れる水を加熱する加熱機構40A,40Bと、を備える。
【0017】
水素貯蔵タンク10A,10Bは、水素発生装置Pにそれぞれ流路51A,51Bによって接続され、水素利用装置Cにそれぞれ流路52A,52Bによって接続される。つまり、水素貯蔵タンク10A,10Bは、水素発生装置Pと水素利用装置Cとを接続する流路において、並列に設けられている。
【0018】
流路51A,51Bには、流路51A,51Bを開放または遮断する開閉弁53A,53Bが設けられ、流路52A,52Bには、流路52A,52Bを開放または遮断する開閉弁54A,54Bが設けられる。開閉弁53A,53B及び開閉弁54A,54Bは、コントローラ60によって動作が制御される。
【0019】
続いて、水素貯蔵タンク10A,10B、循環回路20A,20B、及び加熱機構40A,40Bについて説明する。なお、水素貯蔵タンク10A,10B、循環回路20A,20B、及び加熱機構40A,40Bは同じ構成であるため、以下では、水素貯蔵タンク10A、循環回路20A、及び加熱機構40Aを中心に説明し、水素貯蔵タンク10B、循環回路20B、及び加熱機構40Bについては、水素貯蔵タンク10A、循環回路20A、及び加熱機構40Aと同一の構成には図中に同じ数字の符号を付して説明を省略する。水素貯蔵タンク10A、循環回路20A及び加熱機構40Aの構成には符号に「A」を付し、水素貯蔵タンク10B、循環回路20B、及び加熱機構40Bの構成には符号に「B」を付して区別する。
【0020】
水素貯蔵タンク10Aは、圧力容器によって構成され、水素貯蔵タンク10A内には、水素吸蔵合金11Aが収容される。水素吸蔵合金11Aとしては、AB5型、AB2型、A2B型、固溶体型(BCC合金)などを用いることができる。
【0021】
流路51Aにおける開閉弁53Aより下流側には、圧力センサ55Aが設けられる。圧力センサ55Aは、水素吸蔵合金11Aの周囲の圧力(水素貯蔵タンク10Aの水素の圧力)を検出する。なお、圧力センサ55Aは、流路52Aにおける開閉弁54Aより上流側に設けられていてもよい。
【0022】
水素エネルギーシステムSでは、開閉弁53Aを開弁することで、水素発生装置Pによって発生した水素が、流路51Aを通じて水素貯蔵タンク10Aに供給される。また、開閉弁53Aを閉弁することで、水素発生装置Pによって発生した水素の水素貯蔵タンク10Aへの供給が遮断される。
【0023】
また、水素エネルギーシステムSでは、開閉弁54Aを開弁することで、水素貯蔵タンク10A内の水素は、流路52A及び減圧弁56を通じて水素利用装置Cに供給される。また、開閉弁54Aを閉弁することで、水素貯蔵タンク10A内の水素の水素利用装置Cへの供給が遮断される。
【0024】
次に、循環回路20Aについて説明する。
【0025】
循環回路20Aは、水を循環させて、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行い、水素吸蔵合金11Aの温度調整を行う。
【0026】
図1に示すように、循環回路20Aは、循環回路20A内の水を循環させるためのポンプ21Aと、加熱機構40Aとの間で熱交換を行う第1熱交換部22Aと、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行う第2熱交換部23Aと、循環回路20A内を流れる水を冷却する冷却機構30と、冷却機構30をバイパスするバイパス流路24Aと、冷却機構30及びバイパス流路24Aへ流れる流量の分配を制御する制御弁25Aと、第2熱交換部23Aの入口側の水温を検出する第1温度センサ26Aと、第2熱交換部23Aの出口側の水温を検出する第2温度センサ27Aと、をさらに有する。
【0027】
ポンプ21Aは、図示しないモータによって駆動される。ポンプ21Aの種類は特に限定はないが、ポンプ21Aは、遠心ポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどによって構成される。
【0028】
第1熱交換部22Aは、加熱機構40Aとの間で熱交換を行い、加熱機構40Aからの熱を受け取ることで、循環回路20A内を循環する水を加熱する。
【0029】
第2熱交換部23Aは、水素吸蔵合金11Aとの間で熱交換を行うことで、水素吸蔵合金11Aの温度を調整する。
【0030】
制御弁25Aは、第2熱交換部23Aを通過した水を冷却機構30とバイパス流路24Aに分配する。具体的には、制御弁25Aは、三方弁によって構成される。制御弁25Aは、コントローラ60によって制御され、冷却機構30とバイパス流路24Aに分配される水の流量を制御する。本実施形態では、制御弁25Aを三方弁によって構成した場合を例に示しているが、制御弁25Aを2つの二方弁によって構成してもよい。
【0031】
冷却機構30は、チラーや冷却塔、ラジエータなどによって構成される。冷却機構30は、少なくとも循環回路20A内を循環する水の熱を大気へ放出する放熱器としての機能を有していればどのようなものであってもよい。
【0032】
本実施形態では、1つの冷却機構30によって、循環回路20A及び循環回路20B内を循環する水を冷却している、言い換えると、本実施形態では、冷却機構30が、循環回路20A及び循環回路20Bに対して共通化されているが、冷却機構30は、循環回路20A及び循環回路20Bに個別に設けられていてもよい。
【0033】
加熱機構40Aは、熱媒体としての水が循環する循環回路41Aと、循環回路41A内の水を循環させるためのポンプ42と、循環回路41Aに設けられ第1熱交換部22Aとの間で熱交換を行う第3熱交換部43Aと、循環回路41Aに設けられ水素利用装置Cとの間で熱交換を行う第4熱交換部44と、循環回路41Aにおけるポンプ42と第3熱交換部43Aの間に設けられ、ポンプ42から第3熱交換部43Aへの水の流れを許容または遮断する開閉弁45Aと、を有する。
【0034】
循環回路41Aは、内部の水が循環することによって水素利用装置Cで発生した排熱を循環回路20Aに伝達する。
【0035】
ポンプ42は、図示しないモータによって駆動される。ポンプ42の種類は特に限定はないが、ポンプ42は、遠心ポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどによって構成される。
【0036】
第3熱交換部43Aは、第1熱交換部22Aとの間で熱交換を行い、循環回路41A内を循環する水の熱によって循環回路20A内を循環する水を加熱する。
【0037】
第4熱交換部44は、水素利用装置Cとの間で熱交換を行い、水素利用装置Cを駆動した際に発生する排熱によって循環回路41A内を循環する水を加熱する。
【0038】
このように、加熱機構40Aは、水素利用装置Cを駆動した際に発生する排熱を利用して、循環回路41A内を循環する水を加熱する。
【0039】
なお、本実施形態では、1つのポンプ42によって、循環回路41A及び循環回路41B内の水を循環させるとともに、1つの第4熱交換部44によって循環回路41A及び循環回路41B内を循環する水を加熱している、言い換えると、本実施形態では、ポンプ42及び第4熱交換部44は、循環回路41A及び循環回路41Bに対して共通化されているが、ポンプ42及び第4熱交換部44は、循環回路41A及び循環回路41Bにそれぞれ個別に設けられていてもよい。
【0040】
次に、水素吸蔵合金11Aにおける水素の吸着及び脱着について、図2を参照しながら説明する。図2は、水素吸蔵合金11A,11B(水素貯蔵タンク10A,10B)の圧力と、温度と、水素の吸蔵量との関係を示すグラフである。なお、図2における実線は、吸着時の特性を示し、点線は、脱着時の特性を示している。
【0041】
まず、水素吸蔵合金11Aへの水素の吸着について説明する。水素発生装置Pによって発生した水素は、開閉弁53Aを開弁することによって、流路51Aを通じて水素貯蔵タンク10A内に導かれる。本実施形態では、水素発生装置Pから供給される水素の圧力は、0.8MPa程度である。水素貯蔵タンク10A内に導かれた水素は、水素吸蔵合金11Aによって吸着される。水素吸蔵合金11Aが水素を吸着する際には、発熱反応により水素吸蔵合金11Aの温度が上昇する。
【0042】
図2に示すように、水素吸蔵合金11Aは、同じ圧力では、温度が高くなるほど吸蔵量が減少する。そのため、本実施形態では、吸着時には、ポンプ21Aを駆動して、循環回路20A内の水を循環させる。なお、本実施形態では、ポンプ21Aは、吐出流量が一定となるように駆動される。
【0043】
ポンプ21Aから吐出された水は、第2熱交換部23Aにおいて、水素吸蔵合金11Aを冷却する。水素吸蔵合金11Aと熱交換することによって温度が上昇した水(第2熱交換部23Aを通過した水)は、制御弁25Aを通って冷却機構30に導かれる。冷却機構30では、通過する水の熱が除熱され、水の温度が低下する。冷却機構30によって冷却された水は、ポンプ21Aに導かれ、再びポンプ21Aから吐出される。このように循環回路20A内の水を循環させることで、水素吸蔵合金11Aによって発生した熱を外部へ放出することができる。なお、吸着時には、加熱機構40Aのポンプ42を停止する、あるいは、開閉弁45Aを閉弁することで、第1熱交換部22Aにおいて熱交換が行われない。これにより、循環回路20A内の水が加熱されることはない。
【0044】
本実施形態では、水素吸蔵合金11Aによって水素を吸着させる際には、水素の圧力が0.8MPa程度で一定になるように制御する。具体的には、コントローラ60は、圧力センサ55Aによって検出した水素の圧力が低下してきた場合には、制御弁25Aを制御して、第2熱交換部23Aを通過した水の一部をバイパス流路24Aに導く。これにより、バイパス流路24Aに導かれた水は、冷却機構30を通過することなく、つまり、冷却されることなく、再びポンプ21Aから吐出される。
【0045】
水素吸蔵合金11Aの冷却が強すぎる、つまり、第2熱交換部23Aを通過する水の温度が低すぎると、水素の温度が低下してしまい、その結果、水素の圧力が低下してしまう。そこで、第2熱交換部23Aを通過した水の一部をバイパス流路24Aに導いて冷却機構30をバイパスさせることで、第2熱交換部23Aに導かれる水の温度を上昇させる。このように、水素の圧力が低下した場合には、水素吸蔵合金11Aの冷却を抑制することで、水素を一定の圧力に維持することができる。なお、この制御は、予め実験などによって水素の圧力と制御弁25Aの開度(冷却機構30とバイパス流路24Aへの流量の分配量)との関係を求めておき、これらの関係をコントローラ60に記憶させ、この記憶された関係に基づいて制御が行われる。また、圧力センサ55Aによって検出された圧力に基づいて、フィードバック制御を行うようにしてもよい。あるいは、循環回路20Aに設けられた第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aを用いて制御を行ってもよく、圧力センサ55Aと、第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aと、を併用して制御を行ってもよい。
【0046】
水素吸蔵合金11Aによる吸着は、開閉弁53Aを閉じることによって終了する。
【0047】
次に、水素吸蔵合金11Aからの水素の脱着について説明する。水素貯蔵タンク10A内の水素は、開閉弁54Aを開弁することによって、流路52Aを通じて水素利用装置Cに導かれる。
【0048】
コントローラ60は、水素利用装置Cが始動すると、水素利用装置Cに水素を供給するために水素吸蔵合金11Aからの水素を脱着させる。具体的には、まず、コントローラ60は、開閉弁54Aを開弁する。これにより、水素貯蔵タンク10Aから水素利用装置Cに水素が供給される。本実施形態では、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力は、0.8MPa程度で一定になるように制御される。
【0049】
水素吸蔵合金11Aは、水素を脱着する際には、吸熱反応により水素吸蔵合金11Aの温度が低下する。水素吸蔵合金11Aの温度が低下すると、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力が低下し脱着しなくなる。そこで、本実施形態では、加熱機構40Aを駆動して、循環回路20A内を循環する水を加熱機構40Aによって加熱することで、水素吸蔵合金11Aを加熱する。
【0050】
具体的には、コントローラ60は、ポンプ42を駆動するとともに開閉弁45Aを開弁する。また、コントローラ60は、ポンプ21Aを駆動するとともに、循環回路20A内を循環する水の全量がバイパス流路24Aを通過するように制御弁25Aを制御する。これにより、循環回路41A内の水が循環するとともに、循環回路20A内の水が冷却機構30をバイパスしながら循環する。
【0051】
循環回路41A内を循環する水は、第4熱交換部44において水素利用装置Cとの間で熱交換を行うことで、水素利用装置Cの排熱によって加熱される。そして、第4熱交換部44において加熱された水が、第3熱交換部43Aに到達すると、第3熱交換部43Aと第1熱交換部22Aとの間で熱交換が行われ、循環回路20A内を循環する水が加熱される。このように、本実施形態では、水素利用装置Cの排熱を用いて、水素吸蔵合金11Aを加熱する。
【0052】
なお、循環回路20A内を循環する水の温度が高くなりすぎると、水素吸蔵合金11Aから脱着された水素の圧力が上昇してしまう。この場合には、コントローラ60は、開閉弁45Aを制御して、第3熱交換部43Aを通過する水の流量を減少させる。これにより、第1熱交換部22Aにおいて第3熱交換部43Aから受け取る熱量を少なくすることができるので、循環回路20A内を循環する水の温度上昇を抑制できる。なお、この制御は、圧力センサ55Aによって検出された圧力に基づいて、フィードバック制御を行うことで実行される。
【0053】
循環回路20A内を循環する水の温度が高くなりすぎた場合に、開閉弁45Aを制御することに加えて、制御弁25Aを制御して、循環回路20A内を循環する水の一部が冷却機構30を通過するようにしてもよい。冷却機構30を通過した水は、冷却機構30によって冷却され、バイパス流路24Aを通過した水と合流する。これにより、循環回路20A内を循環する水の温度を低下させることができる。また、制御弁25Aのみを制御するようにしてもよい。さらに、循環回路20Aに設けられた第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aを用いて制御を行ってもよく、圧力センサ55Aと、第1温度センサ26A及び第2温度センサ27Aと、を併用して制御を行ってもよい。
【0054】
水素エネルギーシステムSでは、水素吸蔵システム100が、2つの水素貯蔵タンク10A,10Bを備えている。このため、水素貯蔵タンク10A,10Bの一方の水素吸蔵合金11A,11Bが脱着しているときに、一方の水素吸蔵合金11A,11Bにおいて水素を吸着させることができる。これにより、水素利用装置Cに安定的に水素を供給することができる。なお、水素貯蔵タンクは、3つ以上であってもよいし、水素エネルギーシステムSにおける要求が満たされるのであれば、1つであってもよい。
【0055】
ところで、例えば、水素利用装置Cが長時間停止していた場合には、水素利用装置Cの排熱が生じないため、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱できなくなるおそれがある。そこで、ヒータなどの発熱装置を設けて、水素利用装置Cの始動時に発熱装置によって生じた熱を用いて水素吸蔵合金11A,11Bを加熱し、水素吸蔵合金11A,11Bから水素を脱着させることが考えられる。
【0056】
しかしながら、ヒータなどの発熱装置を設けても、停電などによってヒータを作動させる電源が確保できない状態になってしまった場合には、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱できず、水素吸蔵合金11A,11Bから水素を脱着できないおそれがある。この結果、水素利用装置Cに水素を供給することができず、水素利用装置Cを始動できないおそれがある。
【0057】
そこで、本実施形態の水素吸蔵システム100では、電力を用いずに水素吸蔵合金11A,11Bを加熱できる加熱装置70を設けている。以下に、加熱装置70について具体的に説明する。
【0058】
図1に示すように、加熱装置70は、水と反応することで発熱する発熱剤を有する発熱部71と、発熱部71によって発生した熱を用いて水素吸蔵合金11A,11Bを加熱する加熱部72A,72Bと、発熱部71に供給する水を貯留する水タンク73と、発熱部71と水タンク73との間の水の流れを許容または遮断する開閉弁74と、発熱部71において発生した熱を加熱部72A,72Bに伝達する熱伝達回路75と、を備える。
【0059】
発熱部71は、水ないし水蒸気と反応することで発熱する発熱剤(図示せず)と、発熱剤が収容された容器と、を有する。発熱剤としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、酸化カルシウムといった固体、臭化リチウム(LiBr)や塩化カルシウム(CaCl)の水溶液が採用される。
【0060】
加熱部72A,72Bは、それぞれ水素吸蔵合金11A,11Bに接する、あるいは近傍に位置するようにして水素貯蔵タンク10A,10B内に設けられる。
【0061】
熱伝達回路75は、熱媒体としての水が循環する循環回路75Aと、循環回路75A内の水を循環させるためのポンプ75Bと、発熱部71との間で熱交換を行う第5熱交換部75Cと、を有する。
【0062】
循環回路75Aは、内部の水が循環することによって発熱部71で発生した熱を加熱部72A,72Bに伝達する。
【0063】
ポンプ75Bは、図示しないモータによって駆動される。ポンプ75Bの種類は特に限定はないが、ポンプ75Bは、遠心ポンプ、ギヤポンプ、ベーンポンプなどによって構成される。
【0064】
第5熱交換部75Cは、発熱部71との間で熱交換を行い、発熱部71で発生した熱によって循環回路75A内を循環する水を加熱する。
【0065】
次に、加熱装置70の使用方法について説明する。
【0066】
加熱装置70は、例えば、作業員のスイッチ操作などにより始動する。作業員がスイッチ操作を行うと、コントローラ60はまず、開閉弁74を開弁する。これにより、水タンク73に貯留されている水が、発熱部71に供給される。この結果、発熱部71の容器内に収容された発熱剤が、水タンク73から供給された水と反応し、発熱する。なお、開閉弁74は、コントローラ60からの指示によって開閉される電動のバルブである。
【0067】
コントローラ60は、開閉弁74が開弁してから所定時間Tが経過すると、ポンプ75Bを駆動する。なお、所定時間Tは、発熱部71における発熱温度が所定温度以上になっていると推定できる時間に設定される。また、これに限らず、発熱部71の温度を計測して、計測した温度に基づいてポンプ75Bを駆動するようにしてもよい。さらに、ポンプ75Bを駆動する電力量を十分に確保できるのであれば、開閉弁74の開弁と同時に駆動するようにしてもよい。
【0068】
ポンプ75Bが駆動すると、循環回路75A内の水が循環する。循環回路75A内を循環する水は、第5熱交換部75Cにおいて発熱部71との間で熱交換を行うことで、発熱部71によって発生した熱によって加熱される。そして、第5熱交換部75Cにおいて加熱された水が、加熱部72A,72Bに到達すると水素吸蔵合金が11A,11Bが加熱される。このように、本実施形態では、発熱部71で発生した熱を用いて、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱する。
【0069】
なお、開閉弁74やポンプ75Bを駆動する電力量は、ヒータなどの発熱装置によって水素吸蔵合金11A,11Bを加熱するための電力量に比べて小さいので、停電時であってもバッテリなどの非常用電源からの電力供給を受けて作動することができる。
【0070】
このように、水素吸蔵システム100は、加熱装置70を備えることにより、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱できない状況、具体的には、停電などにより外部から電力供給を受けられない状況であっても、水素利用装置Cを始動することができる。水素利用装置Cが始動すれば、発電することが可能になるとともに、水素利用装置Cの排熱を利用することが可能になる。これにより、通常の制御を実行することができる。
【0071】
以上のように構成された第1実施形態に係る水素吸蔵システム100によれば、以下の作用効果を奏する。
【0072】
本実施形態の水素吸蔵システム100は、水と反応することで発熱する発熱剤を有する発熱部71と、発熱部71によって発生した熱を用いて水素吸蔵合金11A,11Bを加熱する加熱部72A,72Bと、を有する加熱装置70を備えている。したがって、本実施形態の水素吸蔵システム100によれば、外部から電力供給を受けずとも、加熱装置70を用いて水素吸蔵合金11A,11Bを加熱することで、水素吸蔵合金11A,11Bから水素を脱着させて、水素利用装置Cに水素を供給するができる。これにより、水素利用装置Cを確実に始動させることができる。
【0073】
また、水素吸蔵システム100では、水素利用装置Cの稼働に伴う排熱で水素吸蔵合金11A,11Bを加熱しているので、エネルギー効率を向上させることができる。
【0074】
なお、発熱剤として、シリカゲル、ゼオライト、臭化リチウム(LiBr)や塩化カルシウム(CaCl)の水溶液を採用した場合には、例えば、加熱装置70を使用して水素利用装置Cが始動した後、水素吸蔵合金11A,11Bにおいて発生した熱やヒータを用いて発熱部71を加熱することで、発熱剤を乾燥させることができる。なお、図示はしないが、この場合には、発熱部71と水タンク73との間に、発熱部71から水タンク73へ水蒸気を戻すための戻し通路が設けられる。このように発熱剤を再利用することにより、加熱装置70を繰り返し使用することができる。
【0075】
<第2実施形態>
次に、図3を参照して、第2実施形態に係る水素吸蔵システム200について説明する。以下では、第1実施形態に係る水素吸蔵システム100と異なる点のみを説明し、同一の構成については同じ付番を付して説明を省略する。
【0076】
第2実施形態に係る水素吸蔵システム200は、第1実施形態に係る水素吸蔵システム100の加熱装置70に換えて、加熱装置170を備えている。
【0077】
図3に示すように、加熱装置170は、水と反応することで発熱する発熱剤を有する発熱部171A,171Bと、発熱部171A,171Bに供給する水を貯留する水タンク73と、発熱部171A,171Bと水タンク73とを接続する接続流路175と、接続流路175に設けられ、発熱部171A,171Bと水タンク73との間の水の流れを許容または遮断する開閉弁74と、を備える。
【0078】
発熱部171A,171Bは、水と反応することで発熱する発熱剤(図示せず)と、発熱剤が収容された容器と、を有する。発熱剤としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、酸化カルシウムといった固体、臭化リチウム(LiBr)や塩化カルシウム(CaCl)の水溶液が採用される。
【0079】
発熱部171A,171Bは、それぞれ水素吸蔵合金11A,11Bに接する、あるいは近傍に位置するようにして水素貯蔵タンク10A,10B内に設けられる。
【0080】
次に、加熱装置170の使用方法について説明する。
【0081】
加熱装置170は、例えば、作業員のスイッチ操作などにより始動する。作業員がスイッチ操作を行うと、コントローラ60は、開閉弁74を開弁する。これにより、水タンク73に貯留されている水が、接続流路175を通じて発熱部171A、171Bに供給される。この結果、発熱部171A,171Bの容器内に収容された発熱剤が、水タンク73から供給された水と反応し、発熱する。
【0082】
発熱部171A、171Bによって熱が発生すると、その熱によって水素吸蔵合金11A,11Bが加熱される。このように、本実施形態においても、発熱部171A,171Bで発生した熱を用いて、水素吸蔵合金11A,11Bを加熱することができる。なお、本実施形態では、発熱部171A,171Bは、特許請求の範囲における「発熱部」と「加熱部」を兼ねている。
【0083】
以上のように構成された第2実施形態に係る水素吸蔵システム200によれば、第1実施形態に係る水素吸蔵システム100による効果に加え、以下の作用効果を奏する。
【0084】
水素吸蔵システム200では、加熱装置170がポンプ75Bを備えていないので、加熱装置170を駆動する際の電力消費量を小さくできる。これにより、バッテリを小型化できる。また、ポンプを用いないことにより、コストを削減できる。
【0085】
また、開閉弁74を手動式とすれば、電源が無くとも水素吸蔵合金11A,11Bを加熱することができる。さらに、開閉弁54A、54Bを手動可能な構成とすれば、電源がなくとも、水素利用装置Cに水素を供給することができる。
【0086】
なお、上述のように、水素吸蔵システム100を備えることにより、外部から電力供給を受けずに、水素利用装置Cを始動させて発電することができる。このため、水素エネルギーシステムSを、非常用発電設備、より具体的には、例えば、電力系統の停電を回避するための非常用発電設備として利用することができる。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0088】
上記実施形態では、加熱装置70,170が、水素吸蔵合金11A,11Bの両方を加熱する構成を例に説明したが、これに限らず、水素吸蔵合金11A,11Bの一方のみを加熱するようにしてもよい。
【0089】
上記実施形態では、加熱機構40A,40Bとして、水素利用装置Cからの排熱を用いて循環回路41A,41Bを流れる水を加熱する構成を例に説明したが、これに限らず、加熱機構40A,40Bは、循環回路20A,20B内を循環する水を直接加熱するヒータであってもよい。また、循環回路20A,20B内を循環する水を加温冷却できるチラーなどを備えている場合には、加熱機構40A,40Bを設けなくてもよい。なお、省エネルギーの観点からは、上記実施形態のように水素利用装置Cで発生した排熱を利用した加熱機構40A,40Bを採用することが望ましい。
【0090】
上記実施形態では、循環回路20A,20Bを流れる流体として水を例に説明したが、これに限らない。冷却機構30としてラジエータ、チラーなどを用いる場合には、循環回路20A,20Bを外部と遮断することができるので、水以外の流体を用いることができる。
【0091】
さらに、上記実施形態では、吸着時に吐出流量が一定になるようにしてポンプ21Aを駆動する場合を例に説明したが、これに限らず、水素の圧力や温度の変化に応じて、ポンプ21Aの吐出流量を変化させるようにしてもよい。
【0092】
上記実施形態では、圧力が一定になるように制御を行っている場合を例に説明したが、圧力が所定の範囲内になるように制御を行ってもよい。また、冷却温度を低くできる場合には、吸着時の圧力を0.8MPaよりも低く設定してもよい。
【0093】
水素利用装置Cの入口に減圧弁などの圧力調整装置を設けてもよい。また、図1などに示す実施例では、便宜上、第1熱交換部22Aと第3熱交換部43Aとによって構成される熱交換器を並流式、第1熱交換部22Bと第3熱交換部43Bとによって構成される熱交換器を向流式として記載しているが、これらは、並流式及び向流式のいずれも採用可能である。
【0094】
なお、上記実施形態では、水素発生装置Pとして、水を電気分解することで水素を発生させる電解装置を例に説明したが、水素発生装置Pは、電解装置のような固定式のものに限らず、例えば、水素トレーラーのような移動式のものであってもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、加熱装置70が、作業員のスイッチ操作などにより始動する場合を例に説明したが、コントローラ60によって自動で始動するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0096】
100,200・・・水素吸蔵システム
S・・・水素エネルギーシステム
P・・・水素発生装置
C・・・水素利用装置
10A,10B・・・水素貯蔵タンク
11A,11B・・・水素吸蔵合金
20A,20B・・・循環回路
30・・・冷却機構
40A,40B・・・加熱機構
70,170・・・加熱装置
71,171・・・発熱部
72A,72B・・・加熱部
73・・・水タンク
74・・・開閉弁
75・・・熱伝達回路
171A,171B・・・発熱部(加熱部)
図1
図2
図3