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特開2025-25009電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置
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  • 特開-電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置 図1
  • 特開-電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置 図2
  • 特開-電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025009
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/06 20060101AFI20250214BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
G03G5/06 372
G03G5/06 312
G03G5/06 313
G03G5/06 316A
G03G5/06 319
G03G5/05 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129439
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】木原 彰子
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 幸一
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068AA19
2H068AA20
2H068AA32
2H068AA34
2H068AA35
2H068AA37
2H068BA13
2H068BA16
2H068BA39
2H068BA63
2H068BA64
2H068EA05
2H068EA13
2H068FA12
(57)【要約】
【課題】電荷発生物質として公知の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を用いた感光体において、耐光性に優れ、ライフを通じて長期の繰り返し通電疲労においても感度が低下することなく、長期にわたり安定した画像特性を維持することが可能な電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【解決手段】基体上に、電荷発生層と電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層を少なくとも備え、前記電荷発生層が、電荷発生物質として、2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンを含有し、前記積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmに極大吸収を有し、かつ780nmの吸光度Abs780と波長750nmの吸光度Abs750とがAbs750<Abs780の関係を満たすことを特徴とする電子写真感光体により、上記の課題を解決する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体上に、電荷発生層と電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層を少なくとも備え、
前記電荷発生層が、電荷発生物質として、(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンから選択される少なくとも1種を含有し、
前記積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmに極大吸収を有し、かつ780nmの吸光度Abs780と波長750nmの吸光度Abs750とがAbs750<Abs780の関係を満たすことを特徴とする電子写真感光体。
【請求項2】
前記積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて波長650~680nmに極大吸収を有し、かつ870nmの吸光度を0としたときの、波長650~680nmの極大吸収の吸光度Absと波長810nmの吸光度Abs810とがAbs<Abs810の関係を満たす請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長770~780nmに極大吸収を有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmおよび波長650~680nmに極大吸収を有し、かつ870nmの吸光度を0としたときの、波長750~780nmの極大吸収の吸光度Abs1と波長650~680nmの極大吸収の吸光度Abs2との比率Abs2/Abs1が0.20~0.60である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記チタニルフタロシアニンが、0.15~0.4μmの平均粒子径D50(50%)を有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記電荷輸送層が、正孔輸送物質として、一般式(I):
【化1】
(式中、R1、R2、R5およびR6は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、m、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、R3およびR4は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基である)
で表されるスチルベン誘導体、および一般式(II):
【化2】
(式中、R7は、水素原子またはアルキル基であり、R8およびR9は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、r、sおよびtは、同一または異なって、0~3の整数である)
で表されるスチルベン誘導体から選択される少なくとも1種を含有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記電荷輸送層が、電子輸送物質として、一般式(III):
【化3】
(式中、RaおよびRbは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、エステル基、シクロアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、アリル基、アミド基、アミノ基 、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸基またはハロゲン化アルキル基であり、該置換基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはハロゲン化アルキル基である)
で表されるピラゾロン系化合物を含有する請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1または2に記載の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法であり、
電荷発生層用塗布液を塗布して前記電荷発生層を形成する工程を含み、
前記(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンから選択される少なくとも1種とバインダ樹脂とをソーダ石灰ガラス素材の分散メディアを用いて分散処理して、前記電荷発生層用塗布液を調製する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術を用いて画像を形成する電子写真方式の画像形成装置は、複写機、プリンタ、ファクシミリ装置などに多用されている。
電子写真プロセスに用いられる電子写真感光体(以下「感光体」ともいう)は、基体上に光導電性材料を含有する感光層が積層されて構成されている。
現在、有機系光導電性材料を主成分とする感光層を備えた感光体(「有機系感光体」ともいう)の研究開発が進み、現在では感光体の主流を占めている。
【0003】
有機系感光体としては、基体(「導電性支持体」ともいう)上に、電荷発生物質および電荷輸送物質(「電荷移動物質」ともいう)をバインダ樹脂(「結着樹脂」、「結着剤樹脂」ともいう)に分散させた単層型感光層を備える構成、および電荷発生物質をバインダ樹脂に分散させた電荷発生層と電荷輸送物質をバインダ樹脂に分散させた電荷輸送層とをこの順で積層した積層型感光層を備える構成が提案されている。これらの内、後者の機能分離型の感光体は、電子写真特性および耐久性に優れ、材料選択の自由度が高く、感光体特性を様々に設計し易く、広く活用されている。
【0004】
これらの中でも、特定の結晶型のY型チタニルフタロシアニンが高感度な電気特性を有することから、電荷発生物質として多用されている。しかしながら、Y型チタニルフタロシアニンは空気中の水分を介してキャリアの乖離が促進されることが知られており、外部環境の湿度が変動することにより感度特性が変化することが課題となっていた。
例えば、感光体が梅雨時期などの夜間に高湿状態で画像形成装置内に放置され、翌日晴天や冷房で室内が除湿された場合に、感光体が外部環境に対して解放された部分と、現像槽などの外部環境に対して密閉された部分との間で感度特性に差が生じ、画像不良が発生することがあり、高画質の要望が高まるにつれて問題が大きくなってきた。
【0005】
このような感度特性の湿度依存性を解決するにあたり、電荷発生物質として、2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体が提案されている(特開2011-186118号公報:特許文献1)。チタニルフタロシアニン付加体は、チタニルフタロシアニン結晶中の水の代わりに水酸基を有するブタンジオールを付加させたもので、水の代わりに機能するユニットとしてブタンジオールを結晶内に導入することで、水分の少ない環境でも感光体の高感度が維持されるものと推察される。
【0006】
また、チタニルフタロシアニン付加体は、チタニルフタロシアニン結晶内にブタンジオールを付加することで、Y型チタニルフタロシアニンと比較して分光吸収スペクトルが短波長にシフトするので、短波長光の影響を受け易い。
感光体は、通常の使用において、複写機などの画像形成装置内部の光源だけではなく、周辺部材などの交換パーツのメンテナンスや装置内の紙詰まりの際に外光に曝される。このような外光による感光体の光疲労は、装置内での電気疲労よりもダメージが大きく、画像劣化を引き起こす原因になる。
また、生産工程においては、感光体の光劣化を考慮して、短波長カットの蛍光灯の下での作業や入念なケアが必要になる。このことから、電荷発生物質としてのチタニルフタロシアニン付加体の使用では、生産性の低下が課題となる。
【0007】
これらの課題に対して、波長380~480nmに最大吸収波長を有する紫外線吸収剤を感光層に添加する技術(特開平10-048856号公報:特許文献2)および波長300~370nmに最大吸収波長を有し、かつ730~800nmに吸収波長を有さない特定構造の電子輸送材料(電子輸送物質)を添加する技術(特開2010-164639号公報:特許文献3)が提案されている。
しかしながら、いずれも感光層に添加剤を添加する手法であり、影響の大小はあるものの、電荷輸送がトラップされるという課題がもたらされる。また、少量であっても低分子化合物の添加剤が感光層に添加されることにより、耐刷性が低下するという課題がもたらされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011-186118号公報
【特許文献2】特開平10-048856号公報
【特許文献3】特開2010-164639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本開示は、電荷発生物質として公知の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を用いた感光体において、耐光性に優れ、製品寿命(ライフ)を通じて長期の繰り返し通電疲労においても感度が低下することなく、長期にわたり安定した画像特性を維持することが可能な電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、電荷発生物質として2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を用いた感光体において、感光層中のチタニルフタロシアニンが特定の分光吸収スペクトルを有することにより、感光層に紫外性吸収剤を添加せずとも、もしくはその添加量を低減させても、感光体の耐光性が著しく向上し、長期にわたり安定した画像特性を維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
かくして、本開示によれば、基体上に、電荷発生層と電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層を少なくとも備え、
前記電荷輸送層が、電荷発生物質として、(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンから選択される少なくとも1種を含有し、
前記積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmに極大吸収を有し、かつ780nmの吸光度Abs780と波長750nmの吸光度Abs750とがAbs750<Abs780の関係を満たすことを特徴とする電子写真感光体が提供される。
【0012】
また、本開示によれば、上記の電子写真感光体と、前記電子写真感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された前記電子写真感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、前記静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、前記トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする画像形成装置が提供される。
【0013】
さらに、本開示によれば、上記の電子写真感光体の製造方法であり、
電荷発生層用塗布液を塗布して前記電荷発生層を形成する工程を含み、
前記(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンから選択される少なくとも1種とバインダ樹脂とをソーダ石灰ガラス素材の分散メディアを用いて分散処理して、前記電荷発生層用塗布液を調製する工程を含むことを特徴とする電子写真感光体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、電荷発生物質として公知の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を用いた感光体において、耐光性に優れ、ライフを通じて長期の繰り返し通電疲労においても感度が低下することなく、長期にわたり安定した画像特性を維持することが可能な電子写真感光体、その製造方法およびそれを備えた画像形成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本開示の感光体(実施例1)の感光層の分光吸収スペクトルを示す図である。
図2】本開示の感光体(積層型感光体)F01の要部の構成を示す概略断面図である。
図3】本開示の画像形成装置100の要部の構成を示す模式側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の感光体は、基体上に、電荷発生層と電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層を少なくとも備え、
前記電荷発生層が、電荷発生物質として、(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンから選択される少なくとも1種を含有し、
前記積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmに極大吸収を有し、かつ780nmの吸光度Abs780と波長750nmの吸光度Abs750とがAbs750<Abs780の関係を満たすことを特徴とする。これにより、感光体の耐光性が向上することが分かっている。
【0017】
以下に、本開示の感光体の特徴となる構成要件について説明し、その後で(1)感光体、(2)画像形成装置および(3)感光体の製造方法について説明する。
なお、以下に記述する実施形態および実施例は本発明の具体的な一例にすぎず、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0018】
感光体の耐光性を向上させるために、チタニルフタロシアニンには、次の2点の対策が必要になる。
(1)外光より生成した余剰キャリアの安定性を抑制し、速やかに再結合を促す結晶構造
(2)外光に対するキャリア生成を抑制できる結晶構造
分光吸収の極大吸収波長(λmax)が上記条件をみたす場合には、チタニルフタロシアニン間の相互作用が強くなっていることを示しているものと考えられる。
【0019】
感光層が外光に曝された場合、吸収した光エネルギーに相当する分、活性化され励起状態になり、この励起状態が安定化されるほど画像に与える影響が大きくなる。したがって、如何にこの励起状態から基底状態に速やかに失活できる構造を形成できるかが、感光層の耐光性に影響するものと考えられる。積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが上記の分光吸収スペクトルを有することにより、外光に曝され励起状態になった電荷がチタニルフタロシアニンのππ結合間を移動して、速やかに基底状態に失活し易く、結果として耐光性が良好な感光層が形成されるものと推察される。
【0020】
本開示の感光体は、積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmの極大吸収に加えて、波長650~680nmに極大吸収を有し、かつ870nmの吸光度を0としたときの、波長650~680nmの極大吸収の吸光度Absと波長810nmの吸光度Abs810とがAbs<Abs810の関係を満たすことが好ましい。これにより、より耐光性が向上することが分かっている。
波長650~680nmの極大吸収の存在は、チタニルフタロシアニン付加体間のππ結合が未発達であることを示し、この極大吸収が存在することにより、感光層が外光に曝された直後でも外光に対するキャリア発生が抑制され、総じて電荷発生層の光によるダメージが抑制されているものと推察される。
【0021】
本開示の感光体は、積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長770~780nmに極大吸収を有することが好ましい。これにより、外光から受けたダメージの回復性が向上することが分かっている。
極大吸収波長が770nm未満では、外光によるダメージの回復性が不十分になることがある。一方、極大吸収波長が780nmを超えると、チタニルフタロシアニン付加体内にブタンジオールが付加できなかったチタニルフタロシアニンの含有量が多くなり、感度の湿度変動幅が悪化することがある。
【0022】
本開示の感光体は、積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmおよび波長650~680nmに極大吸収を有し、かつ870nmの吸光度を0としたときの、波長750~780nmの極大吸収の吸光度Abs1と波長650~680nmの極大吸収の吸光度Abs2との比率Abs2/Abs1が0.20~0.60であることが好ましい。これにより、外光に曝された直後の耐光性がより向上すること、特に比率Abs2/Abs1が上記の規定する範囲内では、最も耐光性が向上することが分かっている。
比率Abs2/Abs1が0.2未満では、ππ結合の未発達な構造が不十分になり、外光に曝された直後のキャリア発生が多く、画像への影響が大きくなることがある。一方、比率Abs2/Abs1が0.6を超えると、ππ結合の未発達な構造が多過ぎて、ダメージの回復性が低下することがある。より好ましい比率Abs2/Abs1は0.3以上0.5未満である。
【0023】
チタニルフタロシアニンは、0.15~0.4μmの平均粒子径D50(50%)を有することが好ましい。
チタニルフタロシアニンの平均粒子径D50(50%)が0.15μm未満に微細化されると、それを含む塗布液の調製工程において、分散シェアがかかりすぎ、ダメージが加わって凝集し易くなり、長期にわたる塗布液の分散安定性に懸念が出ることがある。一方、チタニルフタロシアニンの平均粒子径D50(50%)が0.3μmを超えると、低湿環境での感度特性が悪化して、感度の湿度変動幅が大きくなることがある。
より好ましいチタニルフタロシアニンの平均粒子径D50(50%)は、0.23~0.30μnである。
【0024】
このような積層型感光層中のチタニルフタロシアニンの分光吸収スペクトル(吸光度)の制御は、電荷発生物質の合成や電荷発生層用塗布液の分散時のシェア条件(分散方法、分散時間、メディア径やメディア量、メディアの材質)を調整することにより行うことができる。
電荷発生物質の合成経路において、可能な限り不純物を低減することが重要になる。
例えば、チタニルフタロシアニン合成の脱酸工程の洗浄において、よりpH7.0に近くまで硫酸イオン濃度を低減させることが重要で、この工程で不純物を残存させると、後の工程でブタンジオールとの付加反応が進行し難くなり、本開示の規定の範囲内に分光吸収スペクトルを制御し難くなる。不純物の存在によって、チタニルフタロシアニン間の相互作用が弱い結晶構造になり、分散の際に分光吸収の制御が困難になる。
【0025】
分散のシェア条件により、チタニルフタロシアニンの分光吸収スペクトルを調整する場合、シェアは、メディア径(粒径)0.1~3.0mm、好ましくは、0.1~2.0mmの球形状メディアが好ましく、顔料にかかるシェアをできるだけ低減することが好ましく、比重の小さいガラスビーズが粉砕に好適であることが分かっている。
メディア径が3.0mmを超えると、顔料に掛かるシェアが大きくなり、衝突頻度が低下して、粉砕効率が低下する傾向にある。そのため、本開示の規定の範囲内に分光吸収スペクトルを調整できないこと、分散時間を延長することによりチタニルフタロシアニンに過剰なシェアが掛かり、特性悪化、粒子径が小さくならず、凝集体が生成する要因などの弊害になることがある。一方、メディア径が0.1mm未満では、顔料にかかるシェアが弱すぎることがあり、また長時間分散が必要な場合にはメディア起因のコンタミ量が多くなり、電荷発生に弊害が発生することがある。
【0026】
その他、メディアの材質によっても粉砕効率が変化する。最適条件はチタニルフタロシアニンに影響されるため、個々の材料によって最適の分散条件を選定すすればよい。
分光吸収スペクトルが本開示の規定の範囲内である限りは、合成工程からの調整、シェア条件からの調整など、特に限定されることはなく、本開示の効果を維持することができる。
【0027】
<(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニン(合せて「2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体」ともいう)の合成方法>
本開示の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体は、特許第5609167号公報に記載の方法に基づいて、チタニルフタロシアニンと(2R,3R)-2,3-ブタンジオールまたは(2S,3S)-2,3-ブタンジオールとを各種溶媒中で加熱し反応させことで合成することができる。
【0028】
原料であるチタニルフタロシアニンは、次式(A)で表される。
【化1】
【0029】
式(A)で示されるオキソチタニウムフタロシアニンは、例えば、特開平6-293769号公報、特開2003-183534号公報、特開平7-271073号公報およびMoser, Frank HおよびArthur L. ThomasによるPhthalocyanine Compounds、Reinhold Publishing Corp.、New York、1963に記載されている公知の合成方法により製造することができる。
公知の合成方法には、出発原料としてハロゲン化チタンを用いる場合と用いない場合があるが、上記の分光吸収スペクトルの特徴を有する2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体が合成できるのであれば、合成の出発原料やその方法に関わらず、本開示の優れた効果が得られることを本発明者らは確認している。
(2R,3R)-2,3-ブタンジオールまたは(2S,3S)-2,3-ブタンジオール中の塩素のようなハロゲンの含有が感光体の帯電性能に悪影響を与えることがあり、チタニルフタロシアニンは、塩素などのハロゲンを含まない原料由来のものが好ましい。
【0030】
以下に合成方法を例示する。但し、以下の合成ルートは一例であって、これに限定されるものではない
フタロニトリルとテトラブトキシチタンなどのチタンアルコキシドとを、尿素の存在下、温度を150℃に持続しつつ、少なくとも5時間以上撹拌下で反応させる。反応終了後の生成したチタニルフタロシアニンを濾別する。得られた生成物を、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ジクロロエタン、クロロホルムなどの塩素系炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などの溶剤により洗浄し、チタニルフタロシアニンを得る。これらの溶剤にチタニルフタロシアニンは溶解せず、チタニルフタロシアニンに付着した不純物が溶解するので、洗浄を繰り返すことにより、不純物の残留を極限まで低減させることができる。
【0031】
さらに、イソインドリンとテトラブトキシチタンなどのチタニウムテトラアルコキシドとを、N-メチルピロリドンなどの適当な溶剤中で加熱反応させることにより、オキソチタニウムフタロシアニンを得る。このチタニルフタロシアニンは、ベンゼン環の水素原子が塩素、フッ素、ニトロ基、シアノ基およびスルホン基などの置換基で置換されたフタロシアニン誘導体を含有していてもよい。
このようにして得られたチタニルフタロシアニンを、水の存在下にジクロロエタンなどの水に非混和性の有機溶剤で処理することにより、本開示において電荷発生物質として用いられる、2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の原料、結晶型のチタニルフタロシアニンを得ることができる。
【0032】
その処理方法(結晶変換方法)としては、例えば、チタニルフタロシアニンを水で膨潤させて有機溶剤で処理する方法、膨潤処理を行わずに、水を有機溶剤中に添加し、その中にチタニルフタロシアニン粉末を投入する方法などが挙げられる。
チタニルフタロシアニンを水で膨潤させる方法としては、例えば、チタニルフタロシアニンを10~30倍の濃硫酸に溶解させ、不溶物が出てきた場合は濾過などにより除去し、これを冷却した水中で析出させ。次いで、得られたチタニルフタロシアニンをイオン交換水などで濾過して酸を除去し、中性になるまで洗浄操作を繰り返して、ウエットケーキを得る。
チタニルフタロシアニンを水で膨潤させる際には、ホモミキサー、ペイントミキサー、ボールミルおよびサンドミルなどの公知の撹拌・分散装置を用い洗浄を行う。ウエットケーキ内の硫酸の残留がある場合、次工程でブタンジオールとの反応が進行し難いことより、入念な洗浄が必要になる。洗浄工程後に、ウエットケーキを濾過し、乾燥させることで不定形チタニルフタロシアニンを得ることができる。
【0033】
得られた不定形チタニルフタロシアニンに対し、モル当量で1~3.5倍量のブタンジオールを添加する。ブタンジオールが1倍量未満では、本開示の規定の範囲内の分光吸収スペクトルを得ることができず、チタニルフタロシアニン特有の感度の湿度依存性が不十分になることがある。一方、ブタンジオールが3.5倍量を超えると、ブタンジオールの量が過剰になり、未反応のブタンジオールの除去が困難になり、繰り返しの通電疲労における安定性が著しく低下することが分かっている。
ここで使用される有機溶剤は、所望の結晶型が得られるものであれば、特に限定されず、例えば、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アニソール、クロロナフタレン、キノリン、テトラヒドロフランが挙げられ、これらの中から選択される1種もしくは2種類以上の混合溶剤であってもよい。
【0034】
本開示で使用する2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加物の合成に際して、反応モル比、反応温度、反応時間、溶媒種の選択、結晶化方法などの各製造条件を適宜選択することにより、容易に最適化することができる。
【0035】
(1)電子写真感光体
本開示の感光体は、基体上に、電荷発生層と電荷輸送層とがこの順で積層された積層型感光層を少なくとも備える。
以下に図面を用いて、本開示の感光体を説明するが、本発明は、これらにより限定されるものではない。
図2は、本開示の感光体(積層型感光体)F01の要部の構成を示す概略断面図である。
積層型感光体F01は、基体F1上に、下引き層F21および電荷発生物質を含有する電荷発生層F22と電荷輸送物質を含有する電荷輸送層F23とがこの順で積層された積層型感光層を備えている。図中、Faは感光体表面を示す。
【0036】
<基体F1>
基体(「導電性基体」または「導電性支持体」ともいう)は、感光体の電極としての機能と支持部材としての機能とを有し、その構成材料は、当該技術分野で用いられる材料であれば特に限定されない。
具体的には、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、亜鉛、ステンレス鋼およびチタンなどの金属材料、ならびに表面に金属箔ラミネート、金属蒸着処理または導電性高分子、酸化スズ、酸化インジウムなどの導電性化合物の層を蒸着もしくは塗布した、ポリエチレンテレフタレート、ナイロンおよびポリスチレンなどの高分子材料、硬質紙ならびにガラスなどが挙げられる。これらの中でも、加工の容易性の点からアルミニウムが好ましく、JIS3003系、JIS5000系およびJIS6000系などのアルミニウム合金が特に好ましい。
基体の形状は、図3に示すような円筒状(ドラム状)に限定されず、シート状、円柱状、無端ベルト状などであってもよい。
また、基体の表面には、必要に応じて、画質に影響のない範囲内で、レーザ光による干渉縞防止のために、陽極酸化皮膜処理、薬品もしくは熱水などによる表面処理、着色処理、または表面を粗面化するなどの乱反射処理が施されていてもよい。
【0037】
<下引き層F21>
本開示の感光体は、基体と積層型感光層との間に下引き層(「中間層」ともいう)を備えることが好ましい。
下引き層は、一般に、基体の表面の凸凹を被覆し均一にして、積層型感光層の成膜性を高め、感光層の基体からの剥離を抑え、基体と感光層との接着性を向上させる。具体的には、基体からの感光層への電荷の注入が防止され、感光層の帯電性の低下を防ぎ、画像のかぶり(いわゆる黒ぽち)を防止することができる。
下引き層は、例えば、バインダ樹脂を適当な溶剤に溶解させて下引き層用塗布液を調製し、この塗布液を基体の表面に塗布し、乾燥により有機溶剤を除去することによって形成することができる。
【0038】
バインダ樹脂としては、アセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラニン樹脂、ウレタン樹脂などが挙げられる。バインダ樹脂は、下引き層上に感光体層を形成する際に用いられる溶剤に対して溶解や膨潤などが起こらないこと、基体との接着性に優れること、可撓性を有することなどの特性が要求されることから、上記のバインダ樹脂の中でも、ポリアミド樹脂が好ましく、特にアルコール可溶性ナイロン樹脂およびピペラジン系化合物を含有したポリアミド樹脂が好ましい。
アルコール可溶性ナイロン樹脂としては、例えば、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロンおよび12-ナイロンなどの単独重合または共重合ナイロン、N-アルコキシメチル変性ナイロンのように、ナイロンを化学的に変性させたタイプなどが挙げられる。
また、バインダ樹脂を架橋する硬化剤を用いて、硬化膜としてもよい。硬化剤としては、塗液の保存安定性や電気特性の観点からブロック化イソシアネートが好ましい。
【0039】
溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノールなどの低級アルコール類、アセトン、シクロヘキサノン、2-ブタノンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチルエーテルなどのエーテル類、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられる。これらの溶剤は、バインダ樹脂の溶解性、下引き層の表面平滑性などから適切な溶剤を選択し、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、例えば、非ハロゲン系有機溶剤を好適に用いることができる。
【0040】
下引き層用塗布液は、金属酸化物粒子を含んでいてもよい。金属酸化物粒子は、下引き層の体積抵抗値を容易に調節することができ、電荷発生層への電荷の注入をさらに抑制することができると共に、各種環境下において感光体の電気特性を維持することができる。
金属酸化物粒子に用いることができる材料としては、例えば、酸化チタン、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムおよび酸化スズなどが挙げられる。
下引き層形成用塗布液におけるバインダ樹脂と金属酸化物粒子との合計質量Aと溶剤の質量Bとの比率(A/B)としては、例えば、1/99~30/70程度が好ましく、2/98~40/60程度が特に好ましい。
また、バインダ樹脂の質量Cと金属酸化物粒子の質量Dとの比率(C/D)としては、例えば、1/99~90/10程度が好ましく、5/95~70/30程度が特に好ましい。
【0041】
下引き層用塗布液の塗布方法は、塗布液の物性および生産性などを考慮に入れて最適な方法を適宜選択すればよく、例えば、スプレー法、バーコート法、ロールコート法、ブレード法、リング法および浸漬塗布法などが挙げられる。
これらの中でも、浸漬塗布法は、塗布液を満たした塗工槽に基体を浸漬した後、一定速度または逐次変化する速度で引上げることによって基体の表面に層を形成する方法であり、比較的簡単で、生産性および原価の点で優れているので、感光体の製造に好適に用いることができる。浸漬塗布法に用いる装置には、塗布液の分散性を安定させるために、超音波発生装置に代表される塗布液分散装置が設けられていてもよい。
【0042】
自然乾燥により塗膜中の溶剤を除去してもよいが、加熱により強制的に塗膜中の溶剤を除去してもよい。
このような乾燥工程における温度は、使用した溶剤を除去し得る温度であれば特に限定されないが、50~140℃程度が適当であり、80~130℃程度が特に好ましい。
乾燥温度が50℃未満では、乾燥時間が長くなることがあり、また溶剤が充分に蒸発せず感光体層中に残ることがある。また、乾燥温度が約140℃を超えると、感光体の繰り返し使用時の電気的特性が悪化して、得られる画像が劣化することがある。
このような温度条件は、下引き層のみならず、後述する感光層などの層形成や他の処理においても共通する。
【0043】
下引き層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.01~20μm、より好ましくは0.05~10μmである。
下引き層の膜厚が0.01μm未満であると、導電性基体側からの電子の注入のブロッキング性および、光散乱による干渉縞対策に対する十分な効果が得られないことがある。一方、下引き層の膜厚が20μmを超えると、連続印字した際の感度変化が大きくなり、ひいては画像濃度の変化が大きくなることがある。
【0044】
<電荷発生層F22>
電荷発生層は、画像形成装置などの電子写真装置において、半導体レーザのような光ビームなどの光出射装置で照射された光を吸収することによって電荷を発生する機能を有し、電荷発生物質を主成分とし、必要に応じてバインダ樹脂や添加剤を含有する。
【0045】
電荷発生物質としては、上記の(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンから選択される少なくとも1種が用いられ、その効果が阻害されない範囲で、当該技術分野で公知の他の電荷発生物質を併用してもよい。しかし、本開示の感光体は、チタニルフタロシアニンの含有量に応じて特性が改善されるため、その含有量は多いほどよく、少なくとも80%以上含有することが好ましい。
【0046】
電荷発生物質としては、(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンの何れか一方を単独で、またはそれらの混合体で用いることができ、2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の合成および入手に有利であることから、混合体が好ましく、その混合割合は、実施例に記載のように1:1が好ましい。
【0047】
電荷発生層の形成方法としては、バインダ樹脂を溶剤中に混合して得られるバインダ樹脂溶液中に、電荷発生物質を従来公知の方法によって分散させ、電荷発生層用塗布液を下引き層上に塗布する方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
【0048】
バインダ樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野で用いられる結着性を有する樹脂および上記の下引き層で例示したバインダ樹脂を使用することができ、電荷発生物質との相溶性に優れるものが好ましい。
具体的には、ポリエステル、ポリスチレン、ポリウレタン、フェノール樹脂、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアリレート、フェノキシ樹脂、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール、これらの樹脂を構成する繰返し単位のうちの2つ以上を含む共重合体樹脂などが挙げられる。共重合体樹脂としては、例えば、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-無水マレイン酸共重合体樹脂およびアクリロニトリル-スチレン共重合体樹脂などの絶縁性樹脂などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0049】
本開示においては、上記のバインダ樹脂の中でも、2種類以上のアルデヒドとポリビニルアルコールとのアセタール化反応により得られた樹脂であり、その質量平均分子量が6万以上20万以下であることが好ましい。
質量平均分子量が6万未満であれば、本開示のチタニルフタロシアニンの分散性が悪くなることがあり、成膜性の不具合が発生し易く、長期保管における分散安定性に問題が生ずることがある。一方、質量平均分子量が20万を超えると、分散塗液の粘度が上がることより、チタニルフタロシアニンの結晶系が崩れることがある。
より好ましい質量平均分子量の範囲は、8万以上12万以下である。
質量平均分子量は、公知の方法により測定することができる。
【0050】
溶剤としては、例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類;テトラヒドロフラン(THF)、ジオキサンなどのエーテル類;1,2-ジメトキシエタンなどのエチレングリコールのアルキルエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、例えば、非ハロゲン系有機溶剤を好適に用いることができる。
【0051】
下引き層と同様に、電荷発生物質をバインダ樹脂溶液中に溶解または分散させるために、ペイントシェイカー、ボールミルおよびサンドミルなどの分散機を用いることができる。このとき、容器および分散機を構成する部材から摩耗などによって不純物が発生し、塗布液中に混入しないように、分散条件を適宜設定することが好ましい。
電荷発生層用塗布液を塗布して電荷発生層を形成することが好ましく、項目(3)電子写真感光体の製造方法において説明する。
【0052】
電荷発生物質の質量Eとバインダ樹脂の質量Fとの比率(E/F)としては、例えば、55/45~80/20程度が好ましい。
比率(E/F)が80/20を超える、すなわち電荷発生物質の質量Eが大きくなると、電荷発生物質が多すぎ、バインダ樹脂中での分散安定性が悪くなることがある。一方、比率(E/F)が55/45未満、すなわち電荷発生物質の質量Eが小さくなると、電荷発生効率が低下して感度が悪化することがある。
より好ましい比率は、60/40~70/30程度である。
【0053】
電荷発生層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは0.05~5μmであり、より好ましくは0.1~1μmである。
電荷発生層の膜厚が0.05μm未満では、光吸収の効率が低下し、感光体の感度が低下することがある。一方、電荷発生層の膜厚が5μmを超えると、電荷発生層内部での電荷移動が感光層表面の電荷を消去する過程の律速段階となり感光体の感度が低下することがある。
【0054】
<電荷輸送層F23>
電荷輸送層は、電荷発生物質で発生した電荷を受入れて感光体の表面(図2中のFa)まで輸送する機能を有し、電荷輸送物質およびバインダ樹脂、必要に応じて添加剤を含有する。
本開示の感光体の電荷輸送層は、後述するように電子輸送物質を含有してもよく、同じく電荷輸送を担う正孔輸送物質と区別して記載する。
【0055】
正孔輸送物質としては、特に限定されず、当該技術分野で用いられる化合物を使用することができる。
具体的には、カルバゾール誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、イミダゾロン誘導体、イミダゾリジン誘導体、ビスイミダゾリジン誘導体、スチリル化合物、ヒドラゾン化合物、多環芳香族化合物、インドール誘導体、ピラゾリン誘導体、オキサゾロン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、キナゾリン誘導体、ベンゾフラン誘導体、アクリジン誘導体、フェナジン誘導体、アミノスチルベン誘導体、トリアリールアミン誘導体、トリアリールメタン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、スチルベン誘導体、エナミン誘導体、ベンジジン誘導体、これらの化合物から誘導される基を主鎖または側鎖に有するポリマー(ポリ-N-ビニルカルバゾール、ポリ-1-ビニルピレン、エチルカルバゾール-ホルムアルデヒド樹脂、トリフェニルメタンポリマー、ポリ-9-ビニルアントラセンなど)、ポリシランなどが挙げられる。これらの正孔輸送物質は1種を単独でまたは2種以上を組み合せて使用することができる。
【0056】
これらの正孔輸送物質の中でも、電気特性、耐久性および化学安定性においてスチルベン誘導体が特に好ましい。
本開示の感光体は、正孔輸送物質として、一般式(I):
【化2】
(式中、R1、R2、R5およびR6は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、m、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、R3およびR4は、同一または異なって、水素原子またはアルキル基である)
で表されるスチルベン誘導体、および一般式(II):
【0057】
【化3】
(式中、R7は、水素原子またはアルキル基であり、R8およびR9は、同一または異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基またはハロゲン原子であり、r、sおよびtは、同一または異なって、0~3の整数である)
で表されるスチルベン誘導体から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。
【0058】
以下に、一般式(I)および(II)における置換基および指数について説明する。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどの炭素数1~6のアルキル基が挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、teRt-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシなどの炭素数が1~6のアルコキシ基が挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアリール基としては、例えばフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、フルオレニル、ビフェニリル、o-テルフェニルなどが挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のアラルキル基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、トリチルなどが挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9のハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素原子が挙げられる。
一般式(I)のR1、R2、R5およびR6ならびに一般式(II)のR8およびR9としては、メチルおよびエチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0059】
一般式(I)のR3およびR4ならびに一般式(II)のR7のアルキル基としては、上記のアルキル基が挙げられる。
一般式(I)のR3およびR4としては、水素原子およびメチルが好ましく、水素原子が特に好ましい。
一般式(II)のR7としては、水素原子およびメチルが好ましく、メチルが特に好ましい。
【0060】
一般式(I)のm、n、pおよびqは、同一または異なって、0~3の整数であり、この指数が2以上のとき、各置換基は互いに異なっていてもよい。好ましくは0~2であり、より好ましくは1または2である。
一般式(II)のr、sおよびtは、同一または異なって、0~3の整数であり、この指数が2以上のとき、各置換基は互いに異なっていてもよい。好ましくは0または1であり、より好ましくは1である。
【0061】
一般式(I)および(II)で表される骨格を有する材料は、繰り返し使用による感度変動および帯電変動が小さく有用な材料である。一方、その弊害として耐光性に弱い材料であり、通常では耐光性添加剤との併用が必要になる。しかしながら、本開示の電荷発生物質と併用することで耐光性添加剤を使用しなくても耐光性を担保することができ、本材料が本来有する高応答性の利点を損なうことなしに耐光性と両立することができる。また、使用環境によって、より耐光性が要求される際には、耐光性添加剤との併用も可能であるが、添加量を抑制することができ、長期にわたり安定した電子写真特性を発現することができる。
【0062】
一般式(I)で表されるスチルベン化合物は、例えば、特許第3272257号公報に 記載の方法により合成することができる。
一般式(I)および(II)で表されるスチルベン誘導体としては、それぞれ実施例に記載の下記構造式で表される化合物(a)および化合物(b)が挙げられ、好適に用いられる。
【化4】
【0063】
【化5】
【0064】
電荷輸送層の形成方法としては、バインダ樹脂を溶剤中に混合して得られるバインダ樹脂溶液中に、正孔輸送物質を従来公知の方法によって分散させ、電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に塗布する方法が好ましい。以下、この方法について説明する。
バインダ樹脂としては、特に限定されず、当該技術分野で用いられる結着性を有する樹脂を使用することができ、正孔輸送物質との相溶性に優れるものが好ましい。
具体的には、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルなどのビニル重合体樹脂およびそれらの共重合体樹脂、ならびにポリカーボネート、ポリエステル、ポリエステルカーボネート、ポリスルホン、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリアリレート、ポリアミド、ポリエーテル、ポリウレタン、ポリアクリルアミド、フェノール樹脂、ポリフェニレンオキサイドなどの樹脂、これらの樹脂を部分的に架橋した熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらのバインダ樹脂は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレートおよびポリフェニレンオキサイドは、体積抵抗値が1013Ω以上であって電気絶縁性に優れ、かつ、成膜性、電位特性などにも優れるので好ましく、ポリカーボネートが特に好ましい。
【0065】
溶剤としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびモノクロロベンゼンなどの芳香族炭化水素;ジクロロメタンおよびジクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素;テトラヒドロフラン、ジオキサンおよびジメトキシメチルエーテルなどのエーテル類;、並びに、N,N-ジメチルホルムアミドなどの非プロトン性極性溶剤などが挙げられる。また、必要に応じてアルコール類、アセトニトリルまたはメチルエチルケトンなどの溶剤をさらに加えて使用することもできる。これらの溶剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの溶剤の中でも、地球環境に対する配慮から、例えば、非ハロゲン系有機溶剤を好適に用いることができる。
【0066】
正孔輸送物質の質量Gとバインダ樹脂の質量Hとの比率(G/H)としては、例えば、10/30~10/12程度が好ましい。比率G/Hが10/30未満でありバインダ樹脂の比率が高くなると、浸漬塗布法によって電荷輸送層を形成する場合、塗布液の粘度が増大するので、塗布速度低下を招き生産性が著しく悪くなる。また塗布液の粘度の増大を抑えるために塗布液中の溶剤の量を多くすると、ブラッシング現象が発生し、形成された電荷輸送層に白濁が発生することがある。一方、比率G/Hが10/12を超えてバインダ樹脂の比率が低くなると、バインダ樹脂の比率が高いときに比べて耐刷性が低くなり、感光層の摩耗量が増加することがある。
【0067】
電荷輸送層は、本開示の効果を阻害しない範囲で、添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、耐光性を向上させるための紫外線吸収剤が挙げられ、具体的には、実施例で用いているようなペリミジン系化合物が挙げられる。
しかし、電荷輸送層への添加剤の添加は、電荷輸送のトラップが形成され、感光体の特性に悪影響を与えることがあり、その添加量は、正孔輸送物質に対して1~10質量部程度である。
また電荷輸送層は、本開示の効果を阻害しない範囲で、耐刷性を向上すべくシリカや酸化アルミのような無機微粒子を添加してもよく、表面潤滑性を向上すべくフッ素系樹脂微粒子を含んでいてもよい。
【0068】
また、本開示の感光体は、電荷輸送層が、電子輸送物質として、一般式(III):
【化6】
【0069】
(式中、RaおよびRbは、同一または異なって、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、水酸基、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、置換基を有してもよいアリール基、置換基を有してもよい複素環基、エステル基、シクロアルキル基、置換基を有してもよいアラルキル基、アリル基、アミド基、アミノ基 、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、カルボキシル基、カルボニル基、カルボン酸基またはハロゲン化アルキル基であり、該置換基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはハロゲン化アルキル基である)
で表されるピラゾロン系化合物を含有することが好ましい。
【0070】
一般式(I)における置換基RaおよびRbおよび有していてもよい置換基について説明する。
アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルなどの炭素数1~6のアルキル基、およびn-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシルなどの炭素数7~12のアルキル基が挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、イソプロポキシ、tert-ブトキシ、n-ペンチルオキシ、n-ヘキシルオキシなどの炭素数が1~6のアルコキシ基、およびn-ヘキシルオキシ、n-オクチルオキシ、n-ノニルオキシ、n-デシルオキキシ、n-ウンデシルオキキシ、n-ドデシルオキシなどの炭素数7~12のアルコキシ基が挙げられる。
アリール基としては、例えばフェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル、フルオレニル、ビフェニリル、o-テルフェニルなどが挙げられる。
【0071】
複素環基としては、例えばピリジル、インドリル、カルバゾール、チオフェンなどが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチルなどが挙げられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル、フェネチル、ベンズヒドリル、トリチルなどが挙げられる。
アシル基としては、例えばアセチル、プロパノイル、ベンジルなどが挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、ビニル、プロぺニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニルなどが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニルなどが挙げられる。
カルボン酸基としては、例えばホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、イソバレリルなどが挙げられる。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などが挙げられる。
有していてもよい置換基としては、上記の炭素数1~6のアルキル基、炭素数が1~6のアルコキシ基および上記のハロゲン原子などが挙げられる。
【0072】
本開示の電子輸送物質は、溶解性、樹脂との相互作用の点で、一般式(I)における置換基RaおよびRbが同一または異なって、炭素数1~12のアルキル基または置換基を有してもよいアリール基であり、置換基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはハロゲン化アルキル基である化合物であることが好ましく、置換基Rbが置換基を有してもよいアリール基であり、置換基は、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、水酸基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはハロゲン化アルキル基である化合物であることが好ましく、置換基RaおよびRbが共に置換基を有してもよいアリール基である化合物が特に好ましい。例えば、下記の化合物1-1~1-4が挙げられ、移動度と吸収する光の波長の点で、CT製造例4で用いられている化合物1-1(式中、Phはフェニル基を表す)が特に好ましい。
【0073】
【化7】
【0074】
電荷輸送層の膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5~50μm、より好ましくは10~40μm程度である。
電荷輸送層の膜厚が5μm未満では、感光体表面の帯電保持能が低下することがある。一方、電荷輸送層の膜厚が50μmを超えると、感光体の解像度が低下することがある。
【0075】
(2)画像形成装置100
本開示の画像形成装置は、本開示の感光体と、感光体を帯電させる帯電手段と、帯電された感光体を露光して静電潜像を形成する露光手段と、静電潜像を現像してトナー像を形成する(可視像化する)現像手段と、トナー像を記録媒体上に転写する転写手段とを少なくとも備えることを特徴とする。
本開示の画像形成装置は、転写されたトナー像を記録媒体上に定着して画像を形成する定着手段と、感光体に残留するトナーを除去し回収するクリーニング手段、および感光体に残留する表面電荷を除電する除電手段から選択される手段を備えていてもよい。
以下、図面を用いて本開示の画像形成装置およびその動作について説明するが、本開示の画像形成装置はこれらにより限定されるものではない。
【0076】
図3は、本開示の画像形成装置100の要部の構成を示す模式側面図である。
図3の画像形成装置(レーザプリンタ)100は、本開示の感光体1(図2のF01に相当)と、露光手段(半導体レーザ)31と、帯電手段(帯電器)32と、現像手段(現像器)33と、転写手段(転写帯電器)34と、搬送ベルト(図示せず)と、定着手段(定着器)35と、クリーニング手段(クリーナ)36とを含んで構成される。符号51は記録媒体(記録紙または転写紙)を示す。
【0077】
感光体1は、画像形成装置100本体に回転自在に支持され、図示しない駆動手段によって回転軸線44回りに矢符41方向に回転駆動される。駆動手段は、例えば電動機と減速歯車とを含んで構成され、その駆動力を感光体1の芯体を構成する基体に伝えることによって、感光体1を所定の周速度で回転駆動させる。帯電手段32、露光手段31、現像手段33、転写手段34およびクリーニング手段36は、この順序で、感光体1の外周面に沿って、矢符41で示される感光体1の回転方向上流側から下流側に向って設けられる。
【0078】
帯電器32は、感光体1の外周面を均一に所定の電位に帯電させる帯電手段である。
帯電手段としては、例えば、帯電チャージャーによるコロナ帯電方式のような非接触帯電方式、および例えば、帯電ローラもしくは帯電ブラシによる接触帯電方式が挙げられる。
【0079】
露光手段31は、半導体レーザを光源として備え、光源から出力されるレーザビーム光を、帯電器32と現像器33との間の感光体1の表面に照射することによって、帯電された感光体1の外周面に対して画像情報に応じた露光を施す。光は、主走査方向である感光体1の回転軸線44の延びる方向に繰返し走査され、これらが結像して感光体1の表面に静電潜像が順次形成される。すなわち、帯電器32により均一に帯電された感光体1の帯電量がレーザビームの照射および非照射によって差異が生じて静電潜像が形成される。
【0080】
現像器33は、露光によって感光体1の表面に形成される静電潜像を、現像剤(トナー)によって現像する現像手段であり、感光体1を臨んで設けられ、感光体1の外周面にトナーを供給する現像ローラ33aと、現像ローラ33aを感光体1の回転軸線44と平行な回転軸線まわりに回転可能に支持すると共にその内部空間にトナーを含む現像剤を収容するケーシング33bとを備える。
【0081】
転写帯電器34は、現像によって感光体1の外周面に形成される可視像であるトナー像を、図示しない搬送手段によって矢符42方向から感光体1と転写帯電器34との間に供給される記録媒体である転写紙51上に転写させる転写手段である。転写帯電器34は、例えば、帯電手段を備え、転写紙51にトナーと逆極性の電荷を与えることによってトナー像を転写紙51上に転写させる接触式の転写手段である。
【0082】
クリーナ36は、転写帯電器34による転写動作後に感光体1の外周面に残留するトナーを除去し回収する清掃手段であり、感光体1の外周面に残留するトナーを剥離させるクリーニングブレード36aと、クリーニングブレード36aによって剥離されたトナーを収容する回収用ケーシング36bとを備える。また、このクリーナ36は、図示しない除電ランプと共に設けられる。
【0083】
また、画像形成装置100には、感光体1と転写帯電器34との間を通過した転写紙51が搬送される下流側に、転写された画像を定着させる定着手段である定着器35が設けられる。定着器35は、図示しない加熱手段を有する加熱ローラ35aと、加熱ローラ35aに対向して設けられ、加熱ローラ35aに押圧されて当接部を形成する加圧ローラ35bとを備える。
符号37は、転写紙と感光体を分離する分離手段、符号38は、画像形成装置の各手段を収容するハウジングを示す。
【0084】
この画像形成装置100による画像形成動作は、次のようにして行われる。
まず、感光体1が駆動手段によって矢符41方向に回転駆動されると、露光手段31による光の結像点よりも感光体1の回転方向上流側に設けられる帯電器32によって、感光体1の表面が正の所定電位に均一に帯電される。
【0085】
次いで、露光手段32から、感光体1の表面に対して画像情報に応じた光が照射される。感光体1は、この露光によって、光が照射された部分の表面電荷が除去され、光が照射された部分の表面電位と光が照射されなかった部分の表面電位とに差異が生じ、静電潜像が形成される。
露光手段33による光の結像点よりも感光体1の回転方向下流側に設けられる現像器33から、静電潜像の形成された感光体1の表面にトナーが供給されて静電潜像が現像され、トナー像が形成される。
【0086】
感光体1に対する露光と同期して、感光体1と転写帯電器34との間に、転写紙51が供給される。転写帯電器34によって、供給された転写紙51にトナーと逆極性の電荷が与えられ、感光体1の表面に形成されたトナー像が、転写紙51上に転写される。
トナー像の転写された転写紙51は、搬送手段によって定着器35に搬送され、定着器35の加熱ローラ35aと加圧ローラ35bとの当接部を通過する際に加熱および加圧され、トナー像が転写紙51に定着されて堅牢な画像となる。このようにして画像が形成された転写紙51は、搬送手段によって画像形成装置100の外部へ排紙される。
【0087】
一方、転写帯電器34によるトナー像の転写後も感光体1の表面上に残留するトナーは、クリーナ36によって感光体1の表面から剥離されて回収される。このようにしてトナーが除去された感光体1の表面の電荷は、除電ランプからの光によって除去され、感光体1の表面上の静電潜像が消失する。その後、感光体1はさらに回転駆動され、再度帯電から始まる一連の動作が繰返されて連続的に画像が形成される。
【0088】
上記の画像形成装置100は、モノクロの画像形成装置(プリンタ)であるが、例えば、カラー画像を形成できる中間転写方式のカラー画像形成装置であってもよい。具体的には、トナー像がそれぞれ形成される複数の電子写真感光体を所定方向(例えば水平方向Hまたは略水平方向H)に並設した構成、所謂タンデム式のフルカラー画像形成装置であってもよい。また、画像形成装置100は、他のカラー画像形成装置、複写機、複合機またはファクシミリ装置であってもよい。
【0089】
(3)電子写真感光体の製造方法
本開示の感光体の製造方法は、電荷発生層用塗布液を塗布して前記電荷発生層を形成する工程を含み、
(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンおよび(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンから選択される少なくとも1種とバインダ樹脂とをソーダ石灰ガラス素材の分散メディアを用いて分散処理して、電荷発生層用塗布液を調製する工程を含むことを特徴とする。
【0090】
本開示の感光体は、上記のように基体上に、任意に下引き層を形成し、さらに電荷発生層および電荷輸送層をこの順で形成することにより製造することができ、例えば、電荷発生層は、電荷発生層用塗布液を塗布することにより形成することができる。
電荷発生層用塗布液は、上記のように2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体とバインダ樹脂とを分散処理することにより調製することができる。
分散処理としては、上記のように公知の処理方法を適用し得るが、これらの中でも、ソーダ石灰ガラス素材の分散メディアを用いた処理が特に好ましい。
分散処理の条件は、実施例に記載のように、電荷発生層用塗布液の構成材料、溶剤などにより適宜設定すればよい。
【実施例0091】
以下に、製造例、比較製造例、実施例および比較例により本開示を具体的に説明するが、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[製造例1]
<チタニルフタロシアニンの調製>
電荷発生物質として使用する、下記構造式で表される(2R,3R)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンまたは(2S,3S)-2,3-ブタンジオールが付加されたチタニルフタロシアニンを、特許第5609167号公報に記載の方法に基づいて調製した。
【0093】
【化8】
【0094】
ジイミノイソインドリン29.2gおよびスルホラン200mlを混合し、さらにチタニウムテトライソプロポキシド17.0gを加え、窒素雰囲気下、140℃で2時間反応させた。得られた反応混合物を放冷した後、析出物を濾取し、クロロホルムおよび2%の塩酸水溶液、水、さらにメタノールで洗浄し、乾燥させて青紫色の結晶物25.5g(収率:89%)の粗チタニルフタロシアニンを得た。
【0095】
得られた熱水洗浄処理した粗チタニルフタロシアニンのうち5質量部を硫酸100質量部中、3~5℃で撹拌し、徐々に溶解させ、濾過した。反応温度が5℃を超えると、フタロシアニンが分解する可能性があることから、温度管理を5℃以下に徹底した。
得られた硫酸溶液を氷水3500質量部に撹拌しながら少量ずつ滴下した。その間、氷水の温度を常に5℃以下に管理した。析出した結晶を濾過し、次いで洗浄液にて懸濁洗浄を繰り返し、目的とするチタニルフタロシアニンのウエットケーキ250gを得た。洗浄液のpH測定の結果6.8から脱酸洗浄ができていることを確認した。
得られたウエットケーキを冷凍庫にて凍結しウエットケーキAを作成した。
また、凍結の際、平らなバットにウエットペーストを均等の厚さになるよう広げ、全体に凍結むらが起こらないよう配慮してウエットペーストBを作成した。
凍結したウエットペーストをそれぞれ解凍した後、濾過しさらに水で洗浄後、濾過を繰り返し、乾燥して不定形チタニルフタロシアニン23.9g(収率:82%)を得た。
【0096】
[製造例2]
<(2R,3R)-2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体(CGM-1およびCGM-2)の調製>
製造例1で得られた、ウエットケーキAおよびウエットケーキB由来の不定形チタニルフタロシアニンのそれぞれ10.0gおよび(2R,3R)-2,3-ブタンジオール2.50gをオルトジクロロベンゼン(ODB)200ml中に混合し、80~90℃で6.0時間加熱撹拌した。一夜放置後、得られた反応液に水100mlを加え、60~70℃で6.0時間加熱撹拌して加水分解を行った。その後、反応液を放冷し、メタノールを加えて生じた結晶を濾過し、濾過後の結晶をメタノールで洗浄して、(2R,3R)-2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体(それぞれCGM-1およびCGM-2)12.2gを得た。
得られた付加体のX線回折スペクトルにおいて、8.3°、24.7°、25.1°および26.5°に回折ピークを有することを確認した。
【0097】
[製造例3]
<(2S,3S)-2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体(CGM-3およびCGM-4)の調製>
ウエットケーキAおよびウエットケーキB由来の不定形チタニルフタロシアニンに、(2R,3R)-2,3-ブタンジオールの代わりに、(2S,3S)-2,3-ブタンジオールを用いること以外は、製造例2と同様にして、(2S,3S)-2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体(それぞれCGM-3およびCGM-4)12.5gを得た。
【0098】
[CG製造例1]
電荷発生物質として、製造例2および3で得られたチタニルフタロシアニン付加体(CGM-2/CGM-4=1/1)3質量部およびブチラール樹脂(積水化学株式会社製、製品名:エスレックBX-1)2質量部を、メチルエチルケトン95質量部に加え、粒径0.1mmのソーダ石灰ガラス素材のビーズ(以下「ガラスビーズ」ともいう)を用い、ペイントシェイカーにて5分間分散処理して電荷発生層用塗布液28gを調製した。
【0099】
レーザ回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社(現:マイクロトラック・ベル株式会社)製、型式:マイクロトラックMT-3000II)を用いて、調製した電荷発生層用塗布液中の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の平均粒子径D50(50%)を測定した。
実施例1の感光体の電荷発生層中の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の平均粒子径D50(50%)は0.26μmであった。
以下のCG製造例およびCG比較製造例の電荷発生層用塗布液についても、同様にして2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の平均粒子径D50(50%)を測定した。
【0100】
[CG製造例2]
電荷発生層用塗布液の調製時に、分散メディアとして、粒径0.4mmのガラスビーズを用いて分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0101】
[CG製造例3]
電荷発生層用塗布液の調製時に、電荷発生物質として、製造例2および3で得られたチタニルフタロシアニン付加体(CGM-1/CGM-4=1/1)を用いること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0102】
[CG製造例4]
電荷発生層用塗布液の調製時に、分散メディアとして、粒径1.0mmのガラスビーズを用いて30分間分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0103】
[CG製造例5]
電荷発生層用塗布液の調製時に、電荷発生物質として、製造例2および3で得られたチタニルフタロシアニン付加体(CGM-2/CGM-3=1/1)を用いること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0104】
[CG製造例6]
電荷発生層用塗布液の調製時に、分散メディアとして、粒径0.2mmのジルコニアビーズを用いて分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0105】
[CG製造例7]
電荷発生層用塗布液の調製時に、分散メディアとして、粒径0.2mmのガラスビーズを用いて分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0106】
[CG製造例8]
電荷発生層用塗布液の調製時に、分散メディアとして、粒径0.4mmのジルコニアビーズを用いて、ボールミルで1日間(1440分間)分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0107】
[CG比較製造例1]
電荷発生層用塗布液の調製時に、分散メディアとして、粒径1.0mmのガラスビーズを用いて120分間分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0108】
[CG比較製造例2]
電荷発生層用塗布液の調製時に、結着樹脂として、ブチラール樹脂(積水化学株式会社製、製品名:エスレックBL-1)を用いること、分散メディアとして、粒径1.0mmのガラスビーズを用いて120分間分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0109】
[CG比較製造例3]
電荷発生層用塗布液の調製時に、電荷発生物質として、製造例2および3で得られたチタニルフタロシアニン付加体(CGM-2/CGM-4=1/1)4.5質量部およびブチラール樹脂(積水化学株式会社製、製品名:エスレックBL-1)0.5質量部を用いること、分散メディアとして、粒径1.0mmのガラスビーズを用いて120分間分散処理すること以外はCG製造例1と同様にして電荷発生層用塗布液を調製した。
【0110】
[CT製造例1]
正孔輸送物質として、下記構造式で表されるスチルベン誘導体(化合物(a))10質量部およびバインダ樹脂として、Z型ポリカーボネート(帝人化成株式会社製、商品名:TS2020)20質量部に、テトラヒドロフラン104質量部を加え、撹拌・混合して、電荷輸送層形成用塗布液30gを調製した。
下記構造式で表されるスチルベン誘導体は、特許第3272257号公報に記載の方法に基づいて予め調製しておいた。
【0111】
【化9】
【0112】
[CT製造例2]
電荷輸送層用塗布液の調製時に、正孔輸送物質として、下記構造式で表されるスチルベン誘導体(化合物(b)、高砂ケミカル株式会社製、製品名:T925)を用いること以外はCT製造例1と同様にして電荷輸送用塗布液を調製した。
【化10】
【0113】
[CT製造例3]
電荷輸送層用塗布液の調製時に、正孔輸送物質として、下記構造式で表されるトリフェニルアミン系化合物(化合物(C)、TPD、東京化成工業株式会社製、製品名:D2448)を用いること以外はCT製造例1と同様にして電荷輸送用塗布液を調製した。
【化11】
【0114】
[CT製造例4]
電荷輸送層用塗布液の調製時に、電子輸送物質として、下記構造式(式中、Phはフェニル基を表す)で表されるピラゾロン系化合物(化合物(1-1))1質量部をさらに配合すること以外はCT製造例1と同様にして電荷輸送用塗布液を調製した。
下記構造式で表されるピラゾロン系化合物は、特許第4041741号公報に記載の方法に基づいて予め調製しておいた。
【化12】
【0115】
[CT製造例5]
電荷輸送層用塗布液の調製時に、添加剤として、特開平10-048856号公報(特許文献2)の実施例1において470~490nm(トルエン)に極大吸収波長を有する化合物として用いられているペリミジン系化合物(C.I.Solvent Red179、AmericanDyestuff社製、商品名:Amesolve Red A)0.5重量部をさらに配合すること以外はCT製造例1と同様にして電荷輸送用塗布液を調製した。
【0116】
[CT製造例6]
電荷輸送層用塗布液の調製時に、正孔輸送物質として、スチルベン誘導体(化合物(a))10質量部をトリフェニルアミン系化合物(化合物(C))8質量部に変更し、テトラヒドロフラン104質量部を98質量部に変更すること以外CT製造例1と同様にして電荷輸送用塗布液を調製した。
【0117】
[実施例1]
(下引き層の形成)
酸化チタン(石原産業株式会社製、製品名:タイベークTTO-D-1)3質量部および共重合ポリアミド(ナイロン)(東レ株式会社製、製品名:アミラン(登録商標)、グレード:CM8000)2質量部を、メチルアルコール25質量部に加え、ペイントシェイカーにて8時間分散処理して下引き層用塗布液3リットルを調製した。
得られた下引き層用塗布液を塗布槽に満たし、導電性支持体F1として直径30mm、長さ255mmのアルミニウム製のドラム状支持体を浸漬した後に引き上げ、得られた塗膜を自然乾燥させて、導電性支持体F1上に膜厚1μmの下引き層F21を形成した。
【0118】
(電荷発生層の形成)
CG製造例1で得られた電荷発生層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で、下引き層F21上に塗布し、得られた塗膜を自然乾燥させて、膜厚0.3μmの電荷発生層F22を形成した。
【0119】
(電荷輸送層の形成)
CT製造例1で得られた電荷輸送層用塗布液を、下引き層形成の場合と同様の浸漬法で、電荷発生層F22上に塗布し、得られた塗膜を120℃で1時間乾燥させて、膜厚30μmの電荷輸送層F23を形成し、図2に示す感光体を得た。
【0120】
紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、UV-VIS SPECTROPHOTOMETER、型式:UV-2450)を用いて、得られた感光体の感光層を剥離し、その感光層中の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の分光吸収スペクトルを波長領域400~900nmで測定した。
以下の実施例および比較例の感光体についても、同様にして波長領域400~900nmの分光吸収スペクトルを測定した。
【0121】
図1は、実施例1の感光層について得られた分光吸収スペクトルを示す図である。
図1によれば、実施例1の感光体の積層型感光層中のチタニルフタロシアニンは、波長750~780nmに極大吸収を有し、かつ780nmの吸光度Abs780と波長750nmの吸光度Abs750とがAbs750<Abs780の関係を満たし、波長650~680nmに極大吸収を有し、かつ波長650~680nmの極大吸収の吸光度Absと波長810nmの吸光度Abs810とがAbs<Abs810の関係を満たし、波長870nmの吸光度を0としたときの、波長750~780nmの極大吸収の吸光度Abs1と波長650~680nmの極大吸収の吸光度Abs2との比率Abs2/Abs1が0.20~0.60の範囲内にあることが分かる。
【0122】
[実施例2~12および14]
表1に記載のCG製造例で得られた電荷発生層用塗布液およびCT製造例で得られた電荷輸送層用塗布液を用いて、それぞれ電荷発生層および電荷輸送層を形成すること以外は実施例1と同様にして、実施例2~12の感光体を得た。
【0123】
[実施例13および15]
下引き層を形成しないこと、および表1に記載のCG製造例で得られた電荷発生層用塗布液およびCT製造例で得られた電荷輸送層用塗布液を用いて、それぞれ電荷発生層および電荷輸送層を形成すること以外は実施例1と同様にして、実施例13および15の感光体を得た。
【0124】
[比較例1~4]
表1に記載のCG比較製造例で得られた電荷発生層用塗布液およびCT製造例で得られた電荷輸送層用塗布液を用いて、それぞれ電荷発生層および電荷輸送層を形成すること以外は実施例1と同様にして、比較例1~4の感光体を得た。
【0125】
[評価]
下記の項目で実施例1~15および比較例1~4で作製した感光体を評価した。
下記の評価1および2には、試験用に改造したデジタル複写機(シャープ株式会社製、型式:MX-2600)のユニットに各感光体を装着して評価した。
【0126】
[評価1:耐光性]
評価対象の感光体(ドラム)を遮光紙に包み、遮光紙に10mm×30mmの窓を開け、窓から照度400Luxの蛍光灯の光を0.5時間照射して、トナーを光曝露した。その後、試験用複写機を用いてハーフトーンの印字を行った。予め光曝露前に行ったハーフトーンの印字結果と併せて、光曝露前後の画像を目視で比較評価し、下記の基準で感光体の耐光性を判定した。
VG:画像に与える影響を確認できない
G :曝露直後は若干曝露痕を確認できるが、5分程度で回復して、画像特性への影響がない
NB:曝露直後は軽微な暴露痕を確認でき、5分後も若干曝露痕が確認できるが、画像特性への影響は軽微で、実使用上問題なし
B :曝露部による画像特性への影響が明確で、実使用不可
【0127】
[評価2:感度特性]
評価対象の感光体(ドラム)を試験用複写機内に設置し、低湿(NL)環境下(温度25℃/相対湿度10%)および高湿(NH)環境下(温度25℃/相対湿度85%)において、それぞれ感度電位VLNL(-V)およびVLNH(-V)を計測し、これら差分ΔVLNL-HH(-V)を感度の湿度変動の指標とした。得られた結果を、下記の基準で判定した。具体的には、各判定基準の「VLNL」および「ΔVLNL-HH」の2つの要件を満たす場合をその判定とし、ある判定基準の1つの要件を満たし、他の1つの要件を満たさない場合には、それが満たされる下位の判定基準の判定とした。
VG:VLNL<200かつ0≦ΔVLNL-HH<10
感度を要求される高速の複合機もしくはプリンタにおいても問題なく使用可
G :200≦VLNL<220かつ10≦ΔVLNL-HH<25
中低速の複合機もしくはプリンタにおいては問題なく使用可
NB:220≦VLNL<240かつ25≦ΔVLNL-HH<35
低速で安価な複合機もしくはプリンタにおいて、やや濃度は薄いものの問題なく使用可
B :240≦VLNLかつ35≦ΔVLNL-HH
感度が悪いため、濃度が薄く、実使用上問題あり
【0128】
[評価3:接着性]
評価対象の感光体(ドラム)の表面に、カッターナイフで10mm四方に1mmのピッチで碁盤状の傷を付けた。次いで、傷上に接着テープ(ニチバン株式会社製、製品名:ニチバンセロテープ(登録商標))を貼付し、この接着テープを瞬間的に剥離させて、下記の基準で感光体の接着性を判定した。
VG:欠損部の面積が全正方形面積の5%以内
感度を要求される高速の複合機もしくはプリンタにおいても問題なく使用可
G :切り傷における剥がれの幅が4点よりも広く、欠損部の面積が全正方形面積の5%を超え35%未満
中低速の複合機もしくはプリンタにおいては問題なく使用可
NB:切り傷における剥がれの幅が4点よりも広く、欠損部の面積が全正方形面積の35%以上65%未満
低速で安価な複合機もしくはプリンタにおいて、やや濃度は薄いものの問題なく使用可
B :剥がれによる欠損部の面積が全正方形面積の65%以上
感度が悪いため、濃度が薄く、実使用上問題あり
【0129】
[総合評価]
評価1~3の判定結果に基づいて、下記の基準で総合評価した。
VG:すべて判定VG
G :判定NBおよびBがない
NB:判定Bがない
B :判定Bがある
【0130】
感光体の構成層、それらの形成用塗布液の調製ならびに主要構成材料およびそれらの物性を表1に、積層型感光層中の2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の分光吸収スペクトルの測定値およびそれらに基づく計算値を表2に、評価結果を表3に示す。
表1中の略称は下記を意味する。
SLG:ソーダ石灰ガラス
Zr:ジルコニア
PS:ペイントシェイカー
BM:ボールミル
また、電荷発生層および電荷輸送層のバインダ樹脂の材料をそれらの製品名で表し、正孔輸送物質および電子輸送物質をそれらの構造式の化合物名で表す。RはC.I.Solvent Red179を意味する。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
表1~3から次のことがわかる。
(1)評価1の結果によれば、電荷発生物質として本開示の分光吸収スペクトルの要件を満たす2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体を含有する感光体(実施例1~15)は、従来の感光体(比較例1~4)と比較して、感光体の耐光性が向上する傾向があること
(2)積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて波長650~680nmに極大吸収を有し、かつ870nmの吸光度を0としたときの、波長650~680nmの極大吸収の吸光度Absと波長810nmの吸光度Abs810とがAbs<Abs810の関係を満たす感光体(実施例1および3~5)は、その要件を満たさない感光体(実施例2および6~8)と比較して、感光体の耐光性がより向上すること
【0135】
(3)積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長770~780nmに極大吸収を有する感光体(実施例1および6)は、その要件を満たさない感光体(実施例3~5)と比較して感光体の感度特性が良好であること
(4)積層型感光層中のチタニルフタロシアニンが、分光吸収スペクトルにおいて、波長750~780nmおよび波長650~680nmに極大吸収を有し、波長870nmの吸光度を0としたときの、波長750~780nmの極大吸収の吸光度Abs1と波長650~680nmの極大吸収の吸光度Abs2との比率Abs2/Abs1が0.20~0.60である感光体(実施例1および3~5)は、その要件を満たさない感光体(実施例2)と比較して感光体の耐光性が良好であること
【0136】
(5)2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体の平均粒子径D50(50%)が0.15~0.40μmである要件を満たす感光体(実施例1~4および6)は、その要件を満たさないD(50%)が大きすぎる感光体(実施例5)と比較して、感光体の感度の感度特性がよく、湿度変動幅小さいこと、D50(50%)が小さすぎる場合には、分散時に過剰なシェアが掛かり電荷発生層を形成した場合、格子欠陥が発生し易く、耐光性への効果が落ちる傾向にあること
(6)電荷発生層用塗布液を塗布して前記電荷発生層を形成する工程を含み、2,3-ブタンジオールのチタニルフタロシアニン付加体とバインダ樹脂とをソーダ石灰ガラス素材の分散メディアを用いて分散処理して調製した電荷発生層用塗布液を塗布して形成した電荷発生層を有する感光体は(実施例1)は、その要件を満たさない感光体(実施例6)と比較して感光体の耐光性が良好であること
【0137】
(7)正孔輸送物質として、本開示の要件を満たすスチルベン化合物を用いた感光体(実施例1および7)は、その要件を満たさない感光体(実施例10)と比較して、耐光性および感度特性が良好であること
(8)電子輸送物質として、本開示の要件を満たすピラゾロン系化合物を用いた感光体(実施例11)は、その要件を満たさない感光体(実施例6)と比較して、耐光性が良好であり、弊害として感度特性が悪化する傾向にあること、および本開示の要件を満たさない耐光性添加剤を用いた感光体(実施例12)と比較して、耐光性に優位性があること
【0138】
(9)基体と積層型感光層との間に下引き層を有する感光体(実施例1および14)は、その要件を満たさない感光体(実施例13および15)と比較して感光層の接着性が悪いこと、感光層中の正孔輸送物質を減らすと電荷輸送層の収縮が大きくなり、感光層の接着がより弱くなる傾向にあること(実施例15)、および電荷発生層中のバインダ樹脂の含有量を減らすと基体との接着性、電荷輸送層との接着性が悪化傾向になり、接着性が極めて悪くなる傾向にあること(比較例4)
【0139】
本発明は、以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、他の様々な形態で実施することができる。そのため、かかる実施の形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【符号の説明】
【0140】
F01 積層型電子写真感光体(積層型感光体、感光体)
F1 基体(導電性支持体)
F21 下引き層(中間層)
F22 電荷発生層
F23 電荷輸送層
Fa 感光体表面
【0141】
1 感光体
31 露光手段(半導体レーザ)
32 帯電手段(帯電器)
33 現像手段(現像器)
33a 現像ローラ
33b ケーシング
34 転写手段(転写帯電器)
35 定着手段(定着器)
35a 加熱ローラ
35b 加圧ローラ
36 クリーニング手段(クリーナ)
36a クリーニングブレード
36b 回収用ケーシング
37 分離手段
38 ハウジング
41、42 矢符
44 回転軸線
51 記録媒体(記録紙または転写紙)
100 画像形成装置(レーザプリンタ)
図1
図2
図3