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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025010
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】エレベーター装置およびその点検方法
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20250214BHJP
   B66B 13/28 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
B66B5/00 D
B66B13/28 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129442
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】三之宮 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】金山 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】村田 祐輔
【テーマコード(参考)】
3F304
3F307
【Fターム(参考)】
3F304AA07
3F304BA02
3F304BA22
3F304DA11
3F304DA21
3F307DA23
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、乗りかごの高さ位置を変更することなく、かご上から制御盤および調速機の点検作業を行うことができるようにすることにある。
【解決手段】
本発明のエレベーター装置は、乗りかご104と、昇降路HW内に配置された制御盤101および調速機111と、を備え、乗りかご104のかご上104cで制御盤101及び調速機111の点検作業を行うエレベーター装置100において、制御盤101の点検作業部位101fと調速機111の点検作業部位111dとは、乗りかご104の高さ方向位置を変更することなく点検作業を行うことのできる高さ位置に配置される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごと、昇降路内に配置された制御盤および調速機と、を備え、前記乗りかごのかご上で前記制御盤及び前記調速機の点検作業を行うエレベーター装置において、
前記制御盤の点検作業部位と前記調速機の点検作業部位とは、前記乗りかごの高さ方向位置を変更することなく前記点検作業を行うことのできる高さ位置に配置されることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記調速機は、乗り場側から見て、前記乗りかごの奥側の側面よりも、前記乗りかごのかごドアの近くに配置されることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記乗りかごは、前記かご上に設けられた手摺を備え、
前記調速機は、本体と、前記本体に対して上方に配置される上部転向プーリと、前記本体に対して下方に配置される下部転向プーリと、前記本体、前記上部転向プーリ及び前記下部転向プーリに巻き掛けられた調速機ロープと、を備え、
前記手摺は、水平方向に延設された横桟を有し、
前記本体は、前記横桟に対して上方に配置されることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記手摺は、前記横桟として、上桟と、前記上桟に対して下方に設けられた中桟と、を有し、
前記下部転向プーリは、前記上桟に対して下方で、且つ前記中桟に対して上方に配置されることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記手摺は、前記横桟として、上桟と、前記上桟に対して下方に設けられた中桟と、を有し、
前記下部転向プーリは、前記かご上に対して上方で、且つ前記中桟に対して下方に配置されることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項6】
請求項1において、
前記制御盤の点検作業部位及び前記調速機の点検作業部位は、前記点検作業を行う階の高さ位置に位置づけされた前記かご上を基準として、0~1650mmの高さ範囲に配置されることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項7】
請求項1において、
前記点検作業を行う階は、最上階に設定されることを特徴とするエレベーター装置。
【請求項8】
乗りかごと、昇降路内に配置された制御盤および調速機と、を備え、前記乗りかごのかご上で前記制御盤及び前記調速機の点検作業を行うエレベーター装置の点検方法において、
前記制御盤の点検作業部位と前記調速機の点検作業部位とは、前記乗りかごの高さ方向位置を変更することなく前記点検作業を行うことのできる高さ位置に配置され、
前記点検作業は、前記制御盤の絶縁試験、前記調速機のトリッピング試験および非常止め試験を含み、
前記点検作業を行う間、前記乗りかごを高さ方向に移動することなく、前記点検作業を行う階に前記かご上を位置づけて、前記点検作業を行うことを特徴とするエレベーター装置の点検方法。
【請求項9】
請求項8において、
前記制御盤の主電源を遮断する第1ステップと、
前記制御盤のコンデンサの放電を待つ第2ステップと、
前記制御盤の絶縁試験を行う第3ステップと、
前記調速機のトリッピング試験のツールを前記調速機に取り付ける第4ステップと、
前記調速機のトリッピング試験を行う第5ステップと、
を含み、
前記第2ステップ及び前記第3ステップと前記第4ステップ及び前記第5ステップとは、両者の少なくとも一部が並行して行われることを特徴とするエレベーター装置の点検方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーター装置とその点検方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、保守点検時において、作業者が乗りかごの天井に乗り込み、手摺内から制御盤の点検を行う、機械室レスエレベーター装置における作業手順が記載されている(段落0052-0057)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-52648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エレベーター装置の主要機器としては、制御盤のほかに調速機があり、保守点検時には制御盤および調速機の点検作業が必要である。作業者が乗りかごの天井(以下、かご上という)に乗り込んで点検作業を行う場合、踏み台等を使用せず点検作業を行うことのできる高さ範囲には制限がある。制御盤と調速機とが高さ方向に離れて配置されると、作業者の足場となるかご上の高さ位置を制御盤および調速機の高さ位置に合わせて変更することが必要になる。また、点検作業時には乗りかごが移動しないように停止措置を行う必要があり、かご上の高さ位置を変更するたびに停止措置とその解除とを繰り返さなくてはならなくなり、点検作業の作業効率が著しく低下することになる。
【0005】
本発明の目的は、乗りかごの高さ位置を変更することなく、かご上から制御盤および調速機の点検作業を行うことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のエレベーター装置は、
乗りかごと、昇降路内に配置された制御盤および調速機と、を備え、前記乗りかごのかご上で前記制御盤及び前記調速機の点検作業を行うエレベーター装置において、
前記制御盤の点検作業部位と前記調速機の点検作業部位とは、前記乗りかごの高さ方向位置を変更することなく前記点検作業を行うことのできる高さ位置に配置される。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明のエレベーター装置の点検方法は、
乗りかごと、昇降路内に配置された制御盤および調速機と、を備え、前記乗りかごのかご上で前記制御盤及び前記調速機の点検作業を行うエレベーター装置の点検方法において、
前記制御盤の点検作業部位と前記調速機の点検作業部位とは、前記乗りかごの高さ方向位置を変更することなく前記点検作業を行うことのできる高さ位置に配置され、
前記点検作業は、前記制御盤の絶縁試験、前記調速機のトリッピング試験および非常止め試験を含み、
前記点検作業を行う間、前記乗りかごを高さ方向に移動することなく、前記点検作業を行う階に前記かご上を位置づけて、前記点検作業を行う。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、乗りかごの高さ位置を変更することなく、かご上から制御盤および調速機の点検作業を行うことができる。
【0009】
上記した、以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施例に係るエレベーター装置の構成を示す、鉛直方向に平行な断面図である。
図2】本発明の一実施例に係るエレベーター装置の構成を示す、水平方向に平行な断面図である。
図3】本発明の一実施例に係るエレベーター装置の主要機器とその点検作業時の作業環境を示す概略図である。
図4】本発明に係るエレベーター装置の点検方法のフローチャートである。
図5】本発明との比較例におけるエレベーター装置の点検方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施例を、図面を用いて説明する。
【0012】
図1及び図2を参照して、エレベーター装置100の全体構成の概略について説明する。図1は、本発明の一実施例に係るエレベーター装置100の構成を示す、鉛直方向に平行な断面図である。図2は、本発明の一実施例に係るエレベーター装置100の構成を示す、水平方向に平行な断面図である。
【0013】
図1では、エレベーター装置100の構成を説明するために、昇降路HWの大きさや昇降路HW内に配置された各機器の向きなどを、実際とは異なる形態で描いている。また図1では、乗りかご104は最上階の乗り場112に停止した状態を図示しており、かご上(天井)104cに設けられた手摺104dは折りたたまれた状態(収納状態)にある。
【0014】
図1に示すように、エレベーター装置100は、昇降路HW内を昇降する乗りかご104および釣合いおもり105と、乗りかご104と釣合いおもり105とを連結する主ロープ107が巻きかけられる巻上機102と、昇降路HWに立設され、乗りかご104及び釣合いおもり105の昇降を案内するガイドレール109と、エレベーター装置100を制御する制御盤101と、乗りかご104の昇降速度を検知するための調速機111と、を備えている。
【0015】
乗りかご104及び釣合いおもり105は、建屋に設けられる昇降路HWの内部に設けられ、主ロープ107によりつるべ式に吊持されている。主ロープ107は一端が昇降路HWの天井部に支持され、乗りかご104の下面側に設けられたプーリ104bに掛け渡され、巻上機102のシーブに巻きかけられる。巻上機102のシーブに巻きかけられた主ロープ107の他端側は、釣合いおもり105のプーリを介して昇降路HWの天井部に支持される。
【0016】
乗りかご104は図示しないテールコードで制御盤101と電気的に接続され、テールコードを介して電力の供給を受けると共に、制御盤101との間で制御信号及び各種信号のやり取りを行う。乗りかご104及び釣合いおもり105の下方の、昇降路HWの底面には、緩衝器106が配置される。
【0017】
巻上機102はマシンビーム102aにより支持され、昇降路HWの頂部に配置されている。制御盤101は巻上機102の近傍に配置される。すなわち制御盤101も昇降路HWの頂部に配置されている。制御盤101の構成については、後で詳細に説明する。
【0018】
ガイドレール109は、図示しないレールブラケットにより、昇降路HWの内壁(昇降路壁)HW1に固定される。
【0019】
図2では、乗りかご104の上方から昇降路HWを見た様子を図示しており、乗りかご104のかご上104cが描かれている。図2に示すように、乗りかご104はエレベーターホール112に向く側面にかごドア104aが設けられ、エレベーターホール112側にはかごドア104aと対向する出入口ドア112aが設けられている。乗りかご104の、かごドア104aが設けられた側面を除く他の側面と昇降路壁HW1との間には、巻上機102、調速機111及び制御盤101等の機器(昇降路内機器)が配置される空間が設けられる。
【0020】
本実施例のエレベーター装置100は、トラクション方式のものであり、巻上機102で主ロープ107を摩擦駆動し、乗りかご104をかご用ガイドレール109Aに沿って上下に昇降させると共に、釣合いおもり105を釣合いおもり用ガイドレール109Bに沿って上下に昇降させる。
【0021】
ガイドレール109は昇降路壁HW1に沿って上下方向(高さ方向)に立設される。図1で説明したガイドレール109として、かご用ガイドレール109Aと釣合いおもり用ガイドレール109Bとが設けられる。かご用ガイドレール109Aは乗りかご104用のガイドレールであり、一対のガイドレールで構成される。釣合いおもり用ガイドレール109Bは釣合いおもり105用のガイドレールであり、一対のガイドレールで構成される。
【0022】
一対のかご用ガイドレール109Aは、エレベーターホール112側から見て、乗りかご104に対して左右両側の昇降路壁HW1に分かれて配置される。一対のかご用ガイドレール109Aのうちの一方は図示しない共用レールブラケットにより昇降路壁HW1に固定され、他方は図示しないかご用レールブラケットにより昇降路壁HW1に固定される。共用レールブラケットは、かご用ガイドレール109Aと釣合いおもり用ガイドレール109Bとの間で共用されるレールブラケットである。かご用レールブラケットは、かご用ガイドレール109Aに対して設けられた、かご用ガイドレール専用のレールブラケットである。
【0023】
一対の釣合いおもり用ガイドレール109Bは、昇降路HW内の釣合いおもり105が配置された空間に配置される。すなわち一対の釣合いおもり用ガイドレール109Bは、エレベーターホール112側から見て、乗りかご104に対して左右のいずれか一方の側の同じ空間に配置される。一対の釣合いおもり用ガイドレール109Bのうちの一方は共用レールブラケットにより昇降路壁HW1に固定され、他方は図示しない釣合いおもり用レールブラケットにより昇降路壁HW1に固定される。なお本実施例では、共用レールブラケットは正面から見て乗りかご104の左側の側面(左側面)と対向する昇降路壁HW1に固定され、釣合いおもり用レールブラケットは乗りかご104の背面と対向する昇降路壁HW1に固定されている。
【0024】
以下、かご用ガイドレール109A及び釣合いおもり用ガイドレール109Bにおいて、「かご用」及び「釣合いおもり用」を区別する必要のない場合、「かご用」及び「釣合いおもり用」を省略して単にガイドレール109と呼んで説明する。
【0025】
巻上機102は、エレベーターホール112側から見て、乗りかご104に対して左側に構成される空間に配置される。本実施例では、巻上機102と同じ側の空間に、調速機111が配置されている。巻上機102は、図1で説明したマシンビーム102aにより、昇降路壁101aに固定されるが、マシンビーム102aがかご用ガイドレール109Aと釣合いおもり用ガイドレール109Bとの間に架設されることにより、巻上機102はかご用ガイドレール109A及び釣合いおもり用ガイドレール109Bを介して昇降路壁HW1に固定される。
【0026】
制御盤101は、エレベーターホール112側から見て、乗りかご104に対して右側に構成される空間に配置される。制御盤101は、図示しない制御盤ブラケットにより、昇降路壁HW1に固定される。この場合、制御盤ブラケットはかご用ガイドレール109Aに固定されており、制御盤101はかご用ガイドレール109Aを介して昇降路壁101aに固定される。
【0027】
図3を参照して、制御盤101をはじめとするエレベーター装置100の主要機器とその点検作業について説明する。図3は、本発明の一実施例に係るエレベーター装置100の主要機器とその点検作業時の作業環境を示す概略図である。
【0028】
本実施例のエレベーター装置100は、機械室レスエレベーター装置と呼ばれるものであり、巻上機102、制御盤101及び調速機111等の主要機器は昇降路HWの頂部に配置される。主要機器の点検時には、作業者OPが乗りかご104のかご上104cに乗り込んで点検作業を行う。点検作業時には、作業者OPがかご上104cに乗り込むために、かご上104cを最上階の乗り場112の高さ位置FLtに位置づける。図3では、かご上104cを最上階の乗り場112の高さ位置FLtに位置づけ、作業者OPがかご上104cに乗り込んだ状態を示している。かご上104cに乗り込んだ作業者OPは、かご上104cからの落下を防ぐために、収納していた手摺104dを展開する。展開された手摺104dは、水平方向に延設され、上下方向に併設された横桟(上桟104d1、中桟104d2)を有する。
【0029】
ここで制御盤101について説明する。制御盤101は、主回路盤部101a、受電盤部101b、信号盤部101c、回生抵抗盤部101d、及びバッテリ盤部101eを有する。
【0030】
主回路盤部101aは、巻上機102のモータやブレーキを制御するための主回路素子や制御基板等を実装している制御盤部である。主回路盤部101aは、乗りかご104の速度や位置を含むエレベーター装置100の運行制御を行うための制御電源101gを実装している。
【0031】
受電盤部101bは、巻上機102の動力電源を受電するための端子台や、電源を通電/遮断するための遮断器および電磁接触器や、電源線に重畳するノイズを除去するためのフィルタ回路等を実装している制御盤部である。
【0032】
信号盤部101cは、乗りかご104の速度や位置を含む、エレベーター装置100の運行制御を行うための制御基板等を実装している制御盤部である。
【0033】
回生抵抗盤部101dは、エレベーター装置100が回生運転した際に発生する回生電流を熱エネルギーとして消費するための抵抗器を実装している制御盤部である。
【0034】
バッテリ盤部101eは、停電発生時に乗りかご104を最寄階に運転したり、エレベーター装置100の故障時などに、乗りかご104と釣合いおもりの重量アンバランスで乗りかご104を動かし、乗客を救出する「ブレーキ開放」を行ったりするためのバッテリ電源を実装している制御盤部である。
【0035】
制御盤101では、主回路盤部101aと受電盤部101bとが横並びに併設される。主回路盤部101a及び受電盤部101bに対して上側には回生抵抗盤部101dが配置され、主回路盤部101a及び受電盤部101bに対して下側には信号盤部13が配置される。バッテリ盤部101eは、信号盤部101cの下側に配置される。すなわち制御盤101は、回生抵抗盤部101d、主回路盤部101a、受電盤部101b、信号盤部101c、及びバッテリ盤部101eを有し、主回路盤部101aと受電盤部101bとは水平方向に並列に配置され、回生抵抗盤部14と、主回路盤部11及び受電盤部12と、信号盤部13と、バッテリ盤部15とは、上側から下側に向かって、回生抵抗盤部14、主回路盤部11及び受電盤部12、信号盤部13、バッテリ盤部15の順序で配置される。
【0036】
回生抵抗盤部101dは熱が発生し易い制御盤部であり、主回路盤部101a、受電盤部101b、信号盤部101c、回生抵抗盤部101d、及びバッテリ盤部101eの中で最上部に配置することにより、他の制御盤部への熱影響を軽減することができる。
【0037】
特に本実施例の制御盤101では、回生抵抗盤部101dは主回路盤部101aの上に配置され、信号盤部101cは主回路盤部101aの下に配置される。すなわち、回生抵抗盤部101d、主回路盤部101a、信号盤部101cおよびバッテリ盤部101eは、制御盤101の上から下に向かってこの順序で並ぶように一列(直列)に配置される。言い換えると、回生抵抗盤部101d、主回路盤部101a、信号盤部101c及びバッテリ盤部101eは、制御盤101の縦方向に一列(直列)に配置される。受電盤部101bは、直列に配置された回生抵抗盤部101d、主回路盤部101a、信号盤部101c及びバッテリ盤部101eの列から水平方向(横方向)に突き出すように配置される。このために受電盤部101bの下方には空間が形成される。
【0038】
受電盤部101bの下方に空間が形成されることで、この空間を利用して受電盤部101bの下方から電気配線を受電盤部101bに接続することで、電気配線の取り回しを容易に行うことができる。例えば受電盤部101bは、巻上機102の動力電源の引き込み線(図示せず)が、受電盤部101bの下方に形成される空間から接続されることで、引き込み線の取り回しが容易になる。
【0039】
従来、受電部101bの機能を主回路盤部101aと信号盤部101cとに分散配置する場合があった。これに対して本実施例では、受電部の機能を受電部101bに集約する。また、エレベーター装置100の運行制御を行うための制御電源101gは主回路盤部101aに配置する。この場合、制御電源101gは主回路盤部101aの上端部よりも下端部に近づけて配置すればよいが、後述する点検可能な高さ(例えば1650mm)よりも下方に配置されていればよい。
【0040】
制御盤101、巻上機102及び調速機111等の主要機器は、昇降路HWの頂部に集約されて配置されることから、各機器の配置場所の取り合いが厳しく、また各機器の取付高さも制限される。その中で、保全性向上のために、制御盤101における定期点検等の点検時における点検作業部位101fを、FLtに位置付けられたかご上104cを基準(0mm)として、作業者OPが踏み台等を使用せず点検可能な高さ(例えば1650mm)までの範囲(例えば0~1650mm)に配置する。これにより、乗りかご104のかご上101cをFLtに位置づけた状態で、作業者OPがかご上101cから制御盤101に対する必要な点検作業を行うことができる。
【0041】
さらに本実施例では、調速機111の点検作業部位111dを、FLtに位置付けられたかご上104cを基準(0mm)として、作業者OPが踏み台等を使用せず点検可能な高さ(例えば1650mm)までの範囲(例えば0~1650mm)に配置する。本実施例のエレベーター装置100は乗りかご104の昇降速度を検知するための調速機111を備える。調速機111は主回路盤部101aおよび受電盤部101bの上端部よりも下方に配置されている。これにより、調速機111および制御盤101に対して、並行して点検作業を行うことが可能となる。
【0042】
点検作業部位101f,111dは、点検を行う部位に限らず、点検に伴う作業を行う部位を含むものとする。
【0043】
本実施例では、制御盤101、巻上機102および調速機111等の主要機器が昇降路HWの頂部に配置される形態について説明したが、制御盤101、巻上機102および調速機111等の主要機器が昇降路HWの頂部以外の場所に配置される形態についても、前述した実施例の構成及び作用効果を利用することができる。例えば、制御盤101が昇降路HWの2階(この場合、2階は最上階ではない)の高さに配置されている場合、FLtは2階の乗り場フロアの高さ位置に設定され、かご上104cを2階の乗り場フロアの高さに位置づけして点検作業を行うことができる。ただし、巻上機102が昇降路HWの頂部に配置される場合、制御盤101および調速機111等の主要機器も、巻上機102に近づけて、昇降路HWの頂部に配置することが好ましい。そのほうが点検作業の効率が向上する。
【0044】
このようにFLtは、制御盤101および調速機111の点検作業を行う階の乗り場112、またはその高さ位置を表す。
【0045】
なお本実施例では、作業者OPの身長HOPを1700mmとし、点検可能高さH1を1650mmに設定している。
【0046】
かご上104cには、点検作業時に手摺104dが展開される。本実施例の手摺104dは、2つの横桟104d1,104d2を有する。上桟104d1の上端の高さH2は1100mmである。中桟104d2の下端の高さH3は500mm以下(本実施例では500mm)に設定される。2つの横桟104d1,104d2の上下方向の幅寸法W1が50mmの場合、上桟104d1の下端と中桟104d2の上端との間の間隔G1は、550~1050mmとなる。また、上桟104d1の上端H2から点検可能高さH1までの間(1100~1650mm)は、手摺104dの非干渉範囲となる。また、FLtから中桟104d2の下端の高さH3までの間と、上桟104d1の下端と中桟104d2の上端との間とに、横桟104d1,104d2の非干渉範囲ができる。なお、H1~H3,G1,W1の具体的数値は、本実施例で設定される一例に過ぎない。
【0047】
調速機111は、乗りかご104の昇降速度を検知する装置であり、本体(調速機シーブ)111aと、本体111aに対して上方に配置される上部転向プーリ111bと、本体111aに対して下方に配置される下部転向プーリ111cと、本体111a、上部転向プーリ111b及び下部転向プーリ111cに巻きかけられた調速機ロープ111eと、を有する。
【0048】
定期点検で行う点検作業の中で、点検作業に時間のかかる3つの作業がある。一つは制御盤101の絶縁試験であり、二つ目は調速機111のトリッピング試験であり、三つめは非常止め試験である。調速機111のトリッピング試験は、調速機111が正常に作動するか否かを検査する試験であり、本体(調速機シーブ)111aを自由に回転可能な状態にする必要がある。このために、調速機ロープ111eを本体111aから外して、本体111aにかかる調速機ロープ111eの荷重を解除(以下、「引上げ状態」という)する必要がある。その際に、下部転向プーリ111cを持ち上げる必要がある。
【0049】
下部転向プーリ111cにアクセスするためには、調速機111の点検作業部位111dと手摺104dとが干渉しないように、本体111a、上部転向プーリ111bおよび下部転向プーリ111cを配置することが好ましい。このために、本体111aは、横桟104d1,104d2に対して上方に配置されることが好ましい。また下部転向プーリ11cは、上桟104d1に対して下方で、且つ中桟104d2に対して上方に配置されることが好ましい。あるいは、下部転向プーリ111cは、かご上104cに対して上方で、且つ中104d2桟に対して下方に配置されることが好ましい。
【0050】
また、調速機111のトリッピング試験や、非常止め試験では、調速機111の本体111aに、試験に必要な器具を取り付ける必要がある。例えば、本体111aを回転駆動する駆動装置や回転数を検出するエンコーダ等である。この取付作業の邪魔にならないように、本体111aは手摺104dに対して上方に配置することが好ましい。
【0051】
さらに非常止め試験では、安全上、作業者OPはかご上104cから乗り場112に降りて試験を行う必要がある。このため、かご上104cと乗り場112との移動時間を低減するため、調速機111は乗り場112に近い側に配置することが好ましい。また、調速機111を乗り場112に近い側に配置することで、作業者OPの動線がシンプルになり、作業効率を向上するっことができる。
【0052】
この場合、調速機111は、乗りかご104の、乗り場112側から見て奥側の側面(かごドア104a側とは反対側の側面)104eよりも、かごドア104aの近くに配置されることが好ましい。できれば、調速機111の本体111a、上部転向プーリ111b、下部転向プーリ111c、及び調速機ロープ111eは、かごドア104aから奥側に1m以内の範囲に配置することが好ましい。
【0053】
図4を参照して、本発明に係るエレベーター装置100の点検方法について説明する。図4は、本発明に係るエレベーター装置100の点検方法のフローチャートである。
【0054】
なお図4では、制御盤101および調速機111は、同じFLtに位置づけされたかご上104cから点検作業を行うことができる高さ位置に配置され、巻上機102は同じFLtに位置づけされたかご上104cからは点検作業を行うことができない高さ位置に配置されている場合の点検方法を示す。
【0055】
ステップS101で、最上階乗り場112へ移動する。ステップS102で、乗りかご104をFLtまで移動する。ステップS103で、手摺104dを組み立てる。ステップS104で、作業者OPはかご上104cに乗り込む。ステップS105で、制御盤101の主電源(制御電源)101gを遮断する(第1ステップ)。続いてステップS106,S107とステップS108,S109とを並行して実行する。この場合、ステップS106,S107とステップS108,S109とを並行して実行するとは、ステップS106およびS107の少なくとも一部の作業と、ステップS108およびS109の少なくとも一部の作業とが、同じ時刻に並行して行われることを意味する。もちろんこれは、ステップS106およびS107の全体の作業と、ステップS108およびS109の全体の作業とが、同じ時刻に並行して行われる場合も含む。
【0056】
ステップS106では、コンデンサの放電(約10分)を待つ(第2ステップ)。ステップS107では、絶縁試験(絶縁測定)を行う(第3ステップ)。絶縁試験中は制御盤101の主電源(制御電源)101gを遮断し、コンデンサの放電が完了するまで待つ必要がある。ステップS110で主電源101gを再投入するまで、乗りかご104は動かせない。
【0057】
一方、ステップS108では、調速機トリッピング試験のツール(駆動装置やエンコーダ等)の取付けを行う(第4ステップ)。ステップS109では、調速機トリッピング試験(調速機トリッピング測定)を実行し(第5ステップ)、復帰作業(ツールの取外し等)を行う。
【0058】
ステップS106,S107とステップS108,S109とを並行して実行することで、作業効率が向上する。特に、コンデンサの放電の待ち時間(約10分)に調速機トリッピング試験のツールの取付けを行うことができるため、無駄時間をなくし、作業時間を短縮することができる。
【0059】
ステップS110では、制御盤101の主電源101gを投入する。ステップS111では、乗りかご104の停止SWを投入し、乗りかご104が昇降できないようにする。ステップ112では、調速機111を引上げ状態に固定する。ステップ113で、作業者OPはかご上104cから乗り場112に降りる。ステップS114では、非常止め試験を実行する。非常止め装置114に異常のないことが確認された場合、非常止め装置114を復帰し、ステップS114-1で、作業者OPはかご上104cに乗り込む。ステップS115では、調速機111の引上げ状態を解除する。ステップS116では、乗りかご104の停止SWを復帰させる。
【0060】
ステップS117では、乗りかご104を巻上機102の点検位置へ移動させる。ステップS118では、乗りかご104の停止SWを投入する。ステップS119で、巻上機102及び制動装置の点検を行う。ステップS120で、最下階+1階へ移動しながら塔内点検(各種ロープ・各階乗り場ドア等)を行う。ステップS121で、作業者OPは手摺104dを収納し、かご上104cから降りる。ステップS122で、作業者OPは最下階へ移動しピットに入室する。ステップS123では、非常止め装置114の正常復帰を確認する。ステップS124では、ピット内機器およびかご下機器の点検を行い、ステップS125で、作業者OPはピットから退出する。
【0061】
本実施例では、制御盤101の絶縁試験、調速機111のトリッピング試験および非常止め試験を含む点検作業を行う間、乗りかご104を昇降方向(上下方向または高さ方向)に移動することなく、かご上104cを所定の階(高さ位置)FLtに位置づけて、点検作業を行う。
【0062】
図5を参照して、本発明との比較例におけるエレベーター装置の点検方法について説明する。図5は、本発明との比較例におけるエレベーター装置の点検方法のフローチャートである。
【0063】
なお図5では、制御盤101、調速機111および巻上機102のそれぞれが、同じFLtに位置づけされたかご上104cからでは点検作業を行うことができない高さ位置に配置されている場合の点検方法を示す。
【0064】
本比較例では、ステップS107の絶縁試験(絶縁測定)の後、調速機トリッピング試験S108のために、かご上104cを調速機111の高さ位置に対して調整する必要がある。すなわちステップS201で、調速機111の位置まで乗りかご104を移動することが必要になる。このために、調速機トリッピング試験S108を行った後に、停止SWを復帰して(S202)、乗りかご104をFLtまで移動する作業(S203)が必要になる。また、非常止め試験S114の後は、再びかご上104cを調速機111の高さ位置に対して調整するために、調速機111の位置まで乗りかご104を移動する作業(S204)が必要になる。そしてステップS204の後、ステップS205で、停止SWを投入する。
【0065】
このように本比較例では、上述した実施例に対して、ステップS106,S107とステップS108,S109とを並行して実行することができないばかりでなく、乗りかご104の移動(S201,S203,S204)と、この乗りかご104の移動(S201,S203,S204)に伴う停止SWの復帰および投入(S202,S205)が余計に必要になる。
【0066】
上述したエレベーター装置100の実施例は、下記特徴を有する。
(1)乗りかご104と、昇降路HW内に配置された制御盤101および調速機111と、を備え、乗りかご104のかご上104cで制御盤101及び調速機111の点検作業を行うエレベーター装置100において、
制御盤101の点検作業部位101fと調速機111の点検作業部位111dとは、乗りかご104の高さ方向位置を変更することなく点検作業を行うことのできる高さ位置に配置される。
【0067】
(2)調速機111は、乗り場112側から見て、乗りかご104の奥側の側面104eよりも、乗りかご104のかごドア104aの近くに配置される。
【0068】
(3)乗りかご104は、かご上104cに設けられた手摺104dを備え、
調速機111は、本体111aと、本体111aに対して上方に配置される上部転向プーリ111bと、本体111aに対して下方に配置される下部転向プーリ111cと、本体111a、上部転向プーリ111b及び下部転向プーリ111cに巻き掛けられた調速機ロープ111eと、を備え、
手摺104dは、水平方向に延設された横桟104d1,104d2を有し、
本体111aは、横桟104d1,104d2に対して上方に配置される。
【0069】
(4)手摺104dは、横桟104d1,104d2として、上桟104d1と、上桟104d1に対して下方に設けられた中桟104d2と、を有し、
下部転向プーリ111cは、上桟104d1に対して下方で、且つ中桟104d2に対して上方に配置される。
【0070】
(5)手摺104dは、横桟104d1,104d2として、上桟104d1と、上桟104d1に対して下方に設けられた中桟104d2と、を有し、
下部転向プーリ111cは、かご上104cに対して上方で、且つ中桟104d2に対して下方に配置される。
【0071】
(6)制御盤101の点検作業部位101f及び調速機111の点検作業部位111dは、点検作業を行う階の高さ位置FLtに位置づけされたかご上104cを基準として、0~1650mmの高さ範囲に配置される。
【0072】
(7)点検作業を行う階は、最上階に設定される。
【0073】
上述したエレベーター装置100の点検方法の実施例は、下記特徴を有する。
(8)乗りかごと104、昇降路HW内に配置された制御盤101および調速機111と、を備え、乗りかご104のかご上104cで制御盤101及び調速機111の点検作業を行うエレベーター装置100の点検方法において、
制御盤101の点検作業部位101fと調速機111の点検作業部位111dとは、乗りかご104の高さ方向位置を変更することなく点検作業を行うことのできる高さ位置に配置され、
点検作業は、制御盤101の絶縁試験(絶縁測定)S107、調速機111のトリッピング試験S109および非常止め試験S114を含み、
点検作業を行う間、乗りかご104を高さ方向(昇降方向)に移動することなく、点検作業を行う階FLtにかご上104cを位置づけて、点検作業を行う。
【0074】
(9)制御盤101の主電源101gを遮断する第1ステップS105と、
制御盤101のコンデンサの放電を待つ第2ステップS106と、
制御盤101の絶縁試験を行う第3ステップS107と、
調速機111のトリッピング試験のツールを調速機111に取り付ける第4ステップS108と、
調速機111のトリッピング試験を行う第5ステップS109と、
を含み、
第2ステップS106及び第3ステップS107と第4ステップS108及び第5ステップS109とは、両者の少なくとも一部が並行して行われる。
【0075】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば上記した実施例は本発明を分かりやすく詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
100…エレベーター装置、101…制御盤、101f…制御盤101の点検作業部位、101g…制御盤101の主電源、104…乗りかご、104a…かごドア、104c…かご上、104d1…上桟(横桟)、104d2…中桟(横桟)、104e…乗りかご104の奥側の側面、111…調速機、111a…調速機111の本体、111b…調速機111の上部転向プーリ、111c…調速機111の下部転向プーリ、111d…調速機111の点検作業部位、111e…調速機ロープ、112…乗り場、FLt…点検作業を行う階の高さ位置、HW…昇降路、OP…作業者、S105…制御盤101の主電源101gを遮断する第1ステップ、S106…制御盤101のコンデンサの放電を待つ第2ステップ、S107…制御盤101の絶縁試験(絶縁測定)を行う第3ステップ、S108…調速機トリッピング試験のツールを調速機111に取り付ける第4ステップ、S109…調速機111のトリッピング試験を行う第5ステップ、S114…非常止め試験。
図1
図2
図3
図4
図5