(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025016
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】手順作成支援装置、手順作成支援方法及び手順作成支援プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
G05B23/02 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129448
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】灰塚 真浩
(72)【発明者】
【氏名】熊田 健司
(72)【発明者】
【氏名】小峰 佑介
(72)【発明者】
【氏名】武次 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】仲井 義人
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA01
3C223AA05
3C223AA07
3C223AA11
3C223BA03
3C223CC02
3C223DD03
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF23
3C223GG01
3C223HH02
3C223HH04
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】プラントの非定常運転における運転条件の決定を支援する。
【解決手段】手順作成支援装置は、プラントの過去の非定常運転において出力されたプロセスデータを取得することと、プロセスデータに基づく特徴量を説明変数として、所定の目的変数との関係を回帰分析により学習させた学習済みモデルを作成することと、学習済みモデルと、説明変数の想定値とを用いてシミュレーションを行うことと、学習済みモデルの回帰係数、シミュレーションの結果、及び説明変数に関して予め定められた制約となる条件を出力することと、ユーザから説明変数を修正する操作を受け付けた場合、学習済みモデルを修正し、又はユーザから想定値を修正する操作を受け付けた場合、修正後の想定値を用いてシミュレーションを行うことと、を実行する処理部を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントの過去の非定常運転において出力されたプロセスデータを取得することと、
前記プロセスデータに基づく特徴量を説明変数として、所定の目的変数との関係を回帰分析により学習させた学習済みモデルを作成することと、
前記学習済みモデルと、前記説明変数の想定値とを用いてシミュレーションを行うことと、
前記学習済みモデルの回帰係数、前記シミュレーションの結果、及び前記説明変数に関して予め定められた制約となる条件を出力することと、
ユーザから前記説明変数を修正する操作を受け付けた場合、前記学習済みモデルを修正し、又は前記ユーザから前記想定値を修正する操作を受け付けた場合、修正後の想定値を用いて前記シミュレーションを行うことと、
を実行する処理部を備える手順作成支援装置。
【請求項2】
前記処理部は、前記学習済みモデルの前記回帰係数又は当該回帰係数に基づく値を、前記学習済みモデルにおいて当該回帰係数に乗じられている前記説明変数の、前記目的変数の変化に対する影響の大きさの指標として出力する
請求項1に記載の手順作成支援装置。
【請求項3】
前記ユーザから前記回帰係数の符号の指定を受けた場合、前記学習済みモデルは、当該回帰係数の符号が前記ユーザの指定と異なる場合にコストを増大させる正則化項を用いて、当該正則化項を含むコスト関数を最小化するように回帰分析を行い、
前記制約となる条件は、前記目的変数を前記プラントの定常運転における値に変化させるために、1つの前記説明変数を増減させるべき方向に関する因果関係情報を含む
請求項2に記載の手順作成支援装置。
【請求項4】
前記因果関係情報は、異なる観点に基づいて前記説明変数を増減させるべき方向を表す複数の情報を含む
請求項3に記載の手順作成支援装置。
【請求項5】
前記制約となる条件は、前記過去の非定常運転において出力されたプロセスデータに基づく説明変数の範囲内であることを含む
請求項1に記載の手順作成支援装置。
【請求項6】
プラントの過去の非定常運転において出力されたプロセスデータを取得することと、
前記プロセスデータに基づく特徴量を説明変数として、所定の目的変数との関係を回帰分析により学習させた学習済みモデルを作成することと、
前記学習済みモデルと、前記説明変数の想定値とを用いてシミュレーションを行うことと、
前記学習済みモデルの回帰係数、前記シミュレーションの結果、及び前記説明変数に関して予め定められた制約となる条件を出力することと、
ユーザから前記説明変数を修正する操作を受け付けた場合、前記学習済みモデルを修正し、又は前記ユーザから前記想定値を修正する操作を受け付けた場合、修正後の想定値を用いて前記シミュレーションを行うことと、
を1以上のコンピュータが実行する手順作成支援方法。
【請求項7】
プラントの過去の非定常運転において出力されたプロセスデータを取得することと、
前記プロセスデータに基づく特徴量を説明変数として、所定の目的変数との関係を回帰分析により学習させた学習済みモデルを作成することと、
前記学習済みモデルと、前記説明変数の想定値とを用いてシミュレーションを行うこと
と、
前記学習済みモデルの回帰係数、前記シミュレーションの結果、及び前記説明変数に関して予め定められた制約となる条件を出力することと、
ユーザから前記説明変数を修正する操作を受け付けた場合、前記学習済みモデルを修正し、又は前記ユーザから前記想定値を修正する操作を受け付けた場合、修正後の想定値を用いて前記シミュレーションを行うことと、
をコンピュータに実行させるための手順作成支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、手順作成支援装置、手順作成支援方法及び手順作成支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラントの運転条件最適化システムが提案されている(特許文献1)。本システムにおける計測データ記録部は、運転状態データ取得部により取得された運転状態データと運転指標データ取得部により求められた運転指標データとを所定の項目に基づき関連させた一連の計測データとして計測DBに記録する。また、回帰モデル作成部は、運転状態データ側を表す運転状態変数を説明変数とし、運転指標データ側を表す運転指標変数を目的変数として所定の多変量解析を行って回帰モデルを作成する。また、運転指標変数最適化部は、回帰モデルに基づき運転指標変数を最適化する運転状態変数を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えばプラントの運転開始から定常運転までの立上げ時のような非定常運転においては、製品の品質やコストに対する運転条件の影響の因果関係が複雑であり望ましい運転条件を見出すことは容易ではなかった。そこで、本開示は、プラントの非定常運転における運転条件の決定を支援するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示に係る手順作成支援装置は、以下の態様により実現することができる。
(態様1)
プラントの過去の非定常運転において出力されたプロセスデータを取得することと、
プロセスデータに基づく特徴量を説明変数として、所定の目的変数との関係を回帰分析により学習させた学習済みモデルを作成することと、
学習済みモデルと、説明変数の想定値とを用いてシミュレーションを行うことと、
学習済みモデルの回帰係数、シミュレーションの結果、及び説明変数に関して予め定められた制約となる条件を出力することと、
ユーザから説明変数を修正する操作を受け付けた場合、学習済みモデルを修正し、又はユーザから想定値を修正する操作を受け付けた場合、修正後の想定値を用いてシミュレーションを行うことと、
を実行する処理部を備える手順作成支援装置。
(態様2)
処理部は、学習済みモデルの回帰係数又は当該回帰係数の絶対値を、学習済みモデルにおいて当該回帰係数に乗じられている説明変数の、目的変数の変化に対する影響の大きさの指標として出力する
態様1に記載の手順作成支援装置。
(態様3)
制約となる条件は、過去の非定常運転において出力されたプロセスデータに基づく説明変数の範囲内であることを含む
態様1又は2に記載の手順作成支援装置。
(態様4)
ユーザから回帰係数の符号の指定を受けた場合、学習済みモデルは、当該回帰係数の符号がユーザの指定と異なる場合にコストを増大させる正則化項を用いて、当該正則化項を含むコスト関数を最小化するように回帰分析を行い、
制約となる条件は、目的変数をプラントの定常運転における値に変化させるために、1つの説明変数を増減させるべき方向に関する因果関係情報を含む
態様1から3の何れか一つに記載の手順作成支援装置。
(態様5)
因果関係情報は、異なる観点に基づいて説明変数を増減させるべき方向を表す複数の情報を含む
態様4に記載の手順作成支援装置。
【0006】
なお、課題を解決するための手段の内容は、コンピュータ等の装置若しくは複数の装置を含むシステム、コンピュータが実行する方法、又はコンピュータに実行させるプログラムとして提供することができる。なお、プログラムを保持する記録媒体を提供するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、プラントの非定常運転における運転条件の決定を支援するための技術を提供するこができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】
図2は、情報処理装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、プラントが備える機器によって行われるプロセスの一例を示す模式的な図である。
【
図4】
図4は、バッチ工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。
【
図5】
図5は、連続工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。
【
図6】
図6は、情報処理装置が実行するシナリオ作成支援処理の一例を示す処理フロー図である。
【
図7】
図7は、模式的なシナリオの一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ予測装置の実施形態について説明する。
【0010】
<実施形態>
図1は、本実施形態に係るシステムの一例を表す図である。システム100は、情報処理装置1と、制御ステーション2と、プラント3とを含む。システム100は、例えば分散型制御システム(DCS:Distributed Control System)であり、複数の制御ステーション2を含む。すなわち、プラント3の制御系は複数の区画に分割され、各制御区画が制御ステーション2によって分散制御される。制御ステーション2は、DCSにおける既存の設備であり、プラント3が備えるセンサ等から出力される状態信号を受信したり、プラント3に対して制御信号を出力する。そして、制御信号に基づいて、プラント3が備えるバルブ等のアクチュエータやその他の機器が制御される。また、システム100は、複数のプラント3を含む。プラント3は、例えば化学プラントであり、製品を生産する生産プラント等である。
【0011】
情報処理装置1は、制御ステーション2を介してプラント3の状態信号(プロセスデータ)を取得する。プロセスデータは、原料や中間体、生産物、廃液、排水等である処理対象の温度、圧力、流量等や、プラント3が備える機器の運転条件を定める設定値等を含む。そして、情報処理装置1は、取得したプロセスデータの少なくとも一部に基づいて、生産物の品質等を予測するためのモデルを作成し、望ましい運転条件の決定を支援する。例えば、品質の評価基準となるプロセスデータを目的変数とし、所定の運転時において制御対象の候補となる特徴量を説明変数として回帰モデルを作成する。そして、作成された回帰モデルに基づいて、プラント3の運転において行うべき操作や、好ましい操作値、目標値等を決定するための情報を出力する。
【0012】
<装置構成>
図2は、情報処理装置1の構成の一例を示すブロック図である。情報処理装置1はコンピュータであり、通信インターフェース(I/F)11と、記憶装置12と、入出力装置13と、処理部(プロセッサ)14とを備えている。通信I/F11は、例えばネットワークカードや通信モジュールであってもよく、所定のプロトコルに基づき、他のコンピュータと通信を行う。記憶装置12は、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)等の主記憶装置、及びHDD(Hard-Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等の補助記憶装置(二次記憶装置)であってもよい。主記憶装置は、プロセッサ14が読み出すプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報を一時的に記憶したり、プロセッサ14の作業領域を確保したりする。補助記憶装置は、プロセッサ14が実行するプログラムや他のコンピュータとの間で送受信する情報等を記憶する。入出力装置13は、例えば、キーボード、マウス等の入力装置、モニタ等の出力装置、タッチパネルのような入出力装置等のユーザインターフェースである。プロセッサ14は、CPU(Central Processing Unit)等の演算処理装置であり、プログラムを実
行することにより本実施形態に係る各処理を行う。
図13の例では、プロセッサ14内に機能ブロックを示している。すなわち、プロセッサ14は、所定のプログラムを実行することにより、プロセスデータ取得部141、シナリオ作成支援部142、制御支援部143として機能する。
【0013】
プロセスデータ取得部141は、例えば通信I/F11及び制御ステーション2を介して、プラント3が備えるセンサからプロセスデータを取得し、記憶装置12に記憶させる。シナリオ作成支援部142は、プラントの過去の運転実績に基づいて所定の目的変数を予測するための予測モデルを作成する。予測モデルにより、プラント3の運転開始時の運転条件を表すシナリオの作成を支援することができる。制御支援部143は、オペレータに対して情報を出力したり、オペレータの操作に基づいてプラント3が備える機器を制御したりする。このとき、シナリオ作成支援部142は、プラント3から取得したプロセスデータ及び予測モデルを用いて上述した目的変数を予測してもよい。また、制御支援部143は、プラント3の運転を予め定められたシナリオに沿って自動制御したり、特に非定常運転においてユーザの手動操作に応じた制御をしたりする。
【0014】
以上のような構成要素が、バス15を介して接続されている。
【0015】
また、プラント3の各々は、複数のプロセスデータを出力する。
図3は、プラント3が備える機器によって行われるプロセスの一例を示す模式的な図である。本実施形態では、プロセスは、バッチ工程31と連続工程32とを含み得る。バッチ工程31においては、所定の処理単位ごとに処理対象が逐次処理され、例えば各機器への原料の受入れ、保持、排出といった処理が順に行われる。連続工程32においては、バッファタンク等に貯留された処理対象が連続的に処理され、例えば、原料の受入れ、保持、排出といった処理が並行して行われる。また、プロセスは、並列に同一の処理を行う複数の系列33を含み得る。
【0016】
各処理を行う機器は、例えば反応器、蒸留装置、熱交換器、圧縮機、ポンプ、タンク等を含み、これらが配管を介して接続されている。また、機器や配管の所定の位置には、センサやバルブ等が設けられる。センサは、温度計、流量計、圧力計、レベル計、濃度計等を含み得る。また、センサは、各機器の運転状態を監視し、状態信号を出力する。また、プラント3が備えるセンサは、センサの各々を特定するための識別情報である「タグ」が付されているものとする。そして、情報処理装置1及び制御ステーション2は、各機器への入出力信号を、タグに基づいて管理する。
【0017】
図4は、バッチ工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。
図4の左側の列は、
図3に示したバッチ工程31のプロセスの一部を示す。具体的には、プラント3は、シュレッダー301と、サイクロン302と、前処理303と、予冷機304と、反応機305とを含む。また、これらのプロセスは、前処理工程、予冷工程、反応工程に分類されている。
図4の右側の列は、各プロセスにおいて取得されるプロセスデータの一例を示す。前処理工程においては、タグが001及び002であるセンサから時系列のデータが取得される。予冷工程においては、タグが003及び004であるセンサから時系列のデータが取得される。反応工程においては、タグが005、006及び007であるセンサから時系列のデータが取得される。また、バッチ工程においては、製造番号(「製番」とも呼ぶ)と対応付けられた処理対象を、断続的に処理する。すなわち、製造番号は、バッチ工程においてまとめて処理される処理対象を識別するための識別情報である。
図4に示すように、時間の経過と共に、後続の製造番号と対応付けられた処理対象に関する時系列のデータが得られる。
【0018】
図5は、連続工程におけるプロセスデータの一例を説明するための図である。
図5の左側の列は、
図3に示した連続工程32のプロセスの一部を示す。具体的には、プラント3は、タンク311と、ポンプ312とを含む。
図5の右側の列は、各プロセスにおいて取得されるプロセスデータの一例を示す。連続工程32においては、タグと対応付けられ、製造番号とは対応付けられていない時系列のデータが、センサから継続して取得される。
図5の例においては、タグが102及び103である各センサから時系列のデータが取得される。連続工程においては、機器が連続的に処理対象を受け入れ、継続的に処理を行う。バッチ工程と連続工程と続けて行う場合、バッチ工程における処理対象と連続工程における処理対象とを紐づけるようにしてもよい。例えば、センサのサンプリング間隔とバッチ工程と連続工程との間に処理対象が滞留する時間とに基づいて、バッチ工程における製造番号と連続工程におけるプロセスデータとを対応付ける。
【0019】
図6は、情報処理装置1が実行する非定常運転におけるシナリオ作成支援処理の一例を示す処理フロー図である。非定常運転の一例として、本実施形態ではプラント3の運転開始から安定的に製品の製造を行う定常運転までの立上げ処理を説明する。また、立上げ処理においては、プラント3において製造する製品中の未反応原料の濃度が所定の基準を満たすようになるよう制御し、製品中の未反応原料の濃度が所定の基準を満たした後は定常運転に移行するものとする。
【0020】
図7は、模式的なシナリオの一例を説明するための図である。シナリオは、例えばユーザが作成する手順書であり、少なくとも一部の工程について、シナリオに沿ってプラント3を制御するためのプログラムを作成してもよいし、オペレータが操作時に参照するためにシナリオを用いてもよい。
図7のシナリオは、処理対象の測定値(濃度)に応じた目標値を設定すること、所定の目標値まで操作値を所定の速度で変更すること、測定値に応じて目標値又は操作値を変更すること、所定期間待機すること等の工程を含む。また、シナリオの骨子は反応プロセスの原理原則に基づいて作成することができる。ただし、特に非定常運転においては、そもそもどの測定値に応じて制御すべきか判断したり、
図7におい
て下線を付したフィードバック制御の目標値や、操作値の単位時間当たりの変更量等の好ましい値を見出すことは容易ではない。
図6に示すシナリオ作成支援処理では、シナリオ作成のために有益な情報を提示する。具体的には、ユーザは、上述した回帰モデルを用いて、例えば製品中の未反応原料の濃度である目的変数を所定の条件を満たす値に近づけるための説明変数の好ましい値を決定したり、説明変数の係数の大きさに基づいて、目的変数の変動に対する影響の大きい説明変数を特定したりすることができる。
【0021】
図8は、運転条件の一例を示す図である。このような運転条件は、反応プロセスの原理原則やオペレータの知見、過去の運転実績に基づいて予めユーザが作成することができる。
図8の表は、「No.」、「特徴量」、「最適値」、「想定値」、「条件」の各属性を含む。「No.」のフィールドには、特徴量の識別番号が登録されている。「特徴量」のフィールドには、製品中の未反応原料の濃度である目的変数の変化に影響し得る特徴量の定義が登録されている。特徴量は、回帰モデルにおいて説明変数として用いられ得る値である。なお、特徴量は、所定の期間におけるプロセスデータ又はプロセスデータに応じた値のように経時的に変化するものであってもよい。また、「最適値」のフィールドには、例えば化学反応に関する原理原則に基づき最適値が登録される。なお、他の特徴量との間でトレードオフとなる条件を含む特徴量については、反応の安定性等の観点から、過去の運転実績における値、比率等の範囲でシミュレーションに用いる値が設定されていてもよい。「想定値」のフィールドには、シミュレーションに用いる値である想定値が登録されている。すなわち、個々の特徴量が最適値であっても、複数の特徴量の組合せとしては新規な運転条件である場合、過去の運転実績の範囲内の想定値を設定したり、段階的に最適値に近づけていくことが望ましい場合がある。そこで、想定値を用いて、回帰モデルを用いたシミュレーションを行うものとする。「条件」のフィールドには、制御を行う際の制約となる条件が登録されている。なお、条件は、複数の特徴量についてトレードオフとなる条件を含んでいてもよい。トレードオフとは、例えば、製品中の未反応原料の濃度である目的変数をプラント3の定常運転における値に近づけるために、1つの説明変数を増減させるべき方向が他の説明変数との関係で一意に定まらない関係をいうものとする。ユーザは、条件を踏まえて想定値を設定するものとする。例えば原料1の仕込流量が最小且つ原料3の仕込流量が最大であることが理論上の最適値であった場合に、
図8(No.1及びNo.3)に示すように、条件として原料1の仕込流量と原料3の仕込流量との比に運転実績に基づく制限を設け、制限に沿った想定値を設定させるようにしてもよい。また、
図8(No.6)において反応器1の反応開始時の液面の高さの条件に示すように、運転実績に対して余裕を残した上限を設け、これを満たす想定値を設定させるようにしてもよい。
【0022】
図9は、記憶装置12に記憶される特徴量の一例を示す図である。
図8に示した特徴量に対して、例えば
図9に示すテーブルのレコードが用意される。
図9のテーブルは、「特徴量」、「符号制約」、「反応影響因子との関係」(「温度」、「濃度」、「滞留時間」)、「トレードオフ」の各属性を含む。「特徴量」のフィールドには、
図8の特徴量と対応する情報が登録されている。「符号制約」のフィールドには、回帰式において設定すべき各特徴量(説明変数)の係数の符号を示す情報が登録される。なお、回帰式における説明変数の係数は、学習データが十分に存在する場合には、目的変数と説明変数との関係に応じた適切な符号のものが推定できる(収束する)と解される。ただし、学習データが少ない場合は、適切な符号の係数を求めることができない可能性がある。符号制約を課した回帰分析を行うことで、学習データが少ない場合においても、適切な回帰式を作成することができる。すなわち、「符号制約」のフィールドに登録された情報に基づいて、情報処理装置1は回帰分析を行うものとする。なお、符号制約を課した回帰分析は、例えば国際公開第2021/157669号等に開示された公知の手法を利用して行うことができる。すなわち、符号制約の指定を受けた場合、回帰モデルは、回帰係数の符号が符号制約において指定された符号と異なる場合にコストを増大させる正則化項を用いて、当該正則化
項を含むコスト関数を最小化するように回帰分析を行う。
【0023】
「反応影響因子との関係」のフィールドには、当該特徴量を増加させたときに目的変数が増加又は減少の何れに変化するかを表す符号が格納されている。「+」は増加を、「-」は減少を表している。逆に、当該特徴量を減少させた場合には、「-」は目的変数が増加することを、「+」は目的変数が減少することを表す。「反応影響因子との関係」に登録される符号は、化学反応に関する原理原則に基づき、温度、濃度及び滞留時間の観点に分解してユーザが設定する。これらの3つの観点について、同じ符号が登録されていれば、当該レコードが表す特徴量の増減の変化に対し、目的変数の増減の方向(すなわち、「符号制約」のフィールドに登録される符号)は確定すると判断できる。符号制約を課した回帰分析における回帰式は、例えば次の式(1)で表される。
【数1】
なお、w
kは回帰係数、w
0は定数項である。また、w
kは、予め定められた制約符号に従って決定される。回帰係数及び定数項の決定には、次の式(2)で表されるコスト関数を用いることができる。コスト関数E(w)を最小化するような係数w
kを選択することで、回帰式が決定される。
【数2】
αRは正則化項(罰則項)であり、その係数αは制約の強さを表すパラメータである。「反応影響因子との関係」に「+」が登録されているの場合、R
+(w)の値をとり、「-」が登録されている場合、R
-(w)の値をとる。このように、本実施形態に係る正則化項αRは、正又は負の片側でL1型正則化による符号制約を課す。すなわち、正則化項は、係数w
kが、制約符号に応じた正及び負のいずれか一方の区間において、係数の絶対値の和に応じてコストを増大させる。
【0024】
「トレードオフ」のフィールドには、非定常処理全体において他の処理との関係で好ましい変更の方向が一義的に定まらない(トレードオフがある)という問題の有無を表す情報が格納されている。トレードオフが「あり」の特徴量については、ユーザが符号制約の情報を修正して回帰モデルを作成し直してもよい。
図9のテーブルに保持される情報は、例えば
図8に示した原理原則やオペレータの知見に基づいて予め定めておくことができる。記憶装置12には、
図9に示すような特徴量の定義が予め記憶されているものとする。
【0025】
図6の処理において、まず、情報処理装置1のプロセスデータ取得部141は、プラン
ト3が過去の運転において出力したプロセスデータを読み出す(
図6:S1)。読み出されるプロセスデータは、上述した非定常運転中のプロセスデータである。特に、異常や不具合なく進行した事例のプロセスデータを用いることが好ましい。また、情報処理装置1のシナリオ作成支援部142は、読み出されたプロセスデータを用いて機械学習を行う(
図6:S2)。機械学習は、例えば線形回帰、Ridgge回帰若しくはLasso回帰のような正則化項を用いる手法、又はこれらに類する手法を用いるようにしてもよい。また、上述した符号制約に基づいて回帰モデルを作成してもよい。回帰モデルの目的変数は、例えばプラント3において製造する製品中の未反応原料の濃度である。また、回帰モデルの説明変数は、
図8及び
図9に示した特徴量の少なくとも一部であり、例えば、予めユーザが設定しておく。説明変数は、プロセスデータそのものであってもよいし、例えば流量の積分値のようにプロセスデータに応じて求められる何らかの値であってもよい。説明変数は、例えば
図7に示したような、想定される非定常運転の手順における目標値若しくは操作値、又は処理の開始条件(トリガー)となる測定値、待機時間等の候補であってもよい。また、説明変数は、
図8に示した流量や液面の高さ等のような操作値や測定値の積分値であってもよい。積分値を説明変数とした回帰モデルに基づいて、ユーザは、例えば非定常運転の手順において流量や液面の高さを変化させる速度を決定することができる。
【0026】
また、シナリオ作成支援部142は、学習済みモデルの評価を行う(
図6:S3)。シナリオ作成支援部142は、例えばS1において取得したプロセスデータの一部を検証用のデータとして利用し、決定係数等の評価指標を求める。算出された評価指標は、入出力装置13を介して出力される。
【0027】
また、シナリオ作成支援部142は、学習済みモデルに基づいて、非定常運転におけるプラント3の各機器の運転条件を表すシナリオを作成するための情報を出力する(
図6:S4)。学習済みモデルは、例えば、回帰係数(偏回帰係数)や切片が回帰分析により決定された回帰式である。学習済みモデル及び説明変数の最適値又は想定値を用いてシミュレーションを行い、例えば目的変数である製品中の未反応原料の濃度を速やかに所望の閾値以下にするための説明変数の好ましい値を求め、出力することができる。S4においては、シナリオ作成支援部142は、特にトレードオフとなる条件を含む特徴量(説明変数)に関して、学習済みモデルを用いた予測を行い、結果をユーザに提示してもよい。シミュレーションは、例えば
図8の「想定値」に基づいて実行される。ユーザは、
図8に示した「条件」や「最適値」に従って、想定値を設定し、シミュレーションを実行することができる。例えば、製品中の未反応原料の濃度である目的変数をプラント3の定常運転における値に変化させるために、説明変数をどのような想定値にすべきか、想定値を変更してシミュレーションを繰り返すことにより予測することができる。ここで得られた好ましい想定値の値に基づいて、ユーザはシナリオに設定する操作値、目標値等を決めることができる。また、回帰モデルの係数の絶対値の大きさは、目的変数の変化に対する影響の大きさを表しているといえる。よって、S4において回帰係数又はその絶対値のような回帰係数に基づく値を出力すれば、回帰係数の比較に基づいてユーザは運転の手順において変化させるべき説明変数を取捨選択することができる。ユーザは、説明変数の想定値を変更して回帰モデルを作成し直してもよい。また、回帰係数の符号は、説明変数を増減させる制御と、目的変数が変動する方向(増加又は減少)との対応関係を表している。S4において回帰係数又はその符号を出力すれば、この対応関係をユーザが知ることができる。また、ユーザはシミュレーションの結果を踏まえ、特に
図9においてトレードオフが「あり」の特徴量について、符号制約の情報を修正して回帰モデルを作成し直してもよい。
【0028】
なお、一般的に、多重共線性がある場合は、必ずしも係数の大きさが目的変数に対する影響度の大きさを示しているとはいえない。一方、本実施形態に係る回帰式においては、相関係数が0.9以上である説明変数の組合せを含む場合と、当該組合せの一方を削除した場合とで、予測精度は同等であった。すなわち、回帰係数の符号が上述した「符号制約
」において指定された符号と異なる場合にコストを増大させる正則化項を用いることでより適切な係数に収束させることができ、多重共線性の問題を解決できていると解される。
【0029】
また、シナリオ作成支援部142は、モデルを修正するか判断する(
図6:S5)。本ステップでは、シナリオ作成支援部142は、例えばユーザの操作に応じて説明変数や符号制約を変更するか否かを、入出力装置13を介して受け付け、その入力に基づいてモデルを修正するか判断する。モデルを修正すると判断された場合(S5:YES)、シナリオ作成支援部142は、回帰モデルに使用する説明変数の選択や符号制約の修正を受け付け(
図6:S6)、S1に戻って処理を繰り返す。
【0030】
<効果>
本実施形態によれば、シナリオ作成支援部142は、目的変数の変化に対する特徴量(説明変数)の影響の大きさに基づく回帰モデルのユーザによる作成を支援することができる。また、複数の説明変数の変化が、互いにトレードオフの関係になって非定常処理全体の結果に影響する場合に、過去の運転実績に係るプロセスデータを用いて回帰分析を行うことにより説明変数をどのように変化(すなわち増加又は減少)させれば回帰モデルの予測精度を向上させられるか、優先順位を付けることができる。例えば、製品中の未反応原料を減らすために、例えば反応器への溶剤の初期張り込み量を増加させて特徴量の1つである反応器の初期液面を高くすると、原理的には、反応器内の原料濃度が下がって反応しにくくなる一方、反応時間は長くなり十分に反応させやすくなる。本実施形態の学習モデルを用いることで、総合的にどちらの因果関係が優先的か判断して提示できるようになる。また、作成される回帰モデルに基づいてユーザは非定常運転における好ましい運転のシナリオを作成することができる。なお、制御支援部143は、シナリオに沿った運転を行うためのプログラムに基づいてプラント3を制御する。非定常運転においては、制御支援部143は、入出力装置13を介してユーザの手動操作を受け付けるようにしてもよい。
【0031】
<変形例>
各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は、一例であって、本開示の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、クレームの範囲によってのみ限定される。また、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【0032】
また、情報処理装置1の機能の少なくとも一部は、複数の装置に分散して実現するようにしてもよいし、同一の機能を複数の装置が並列に提供するようにしてもよい。例えば、シナリオ作成支援部142として機能する装置と、制御支援部143として機能する装置とは異なってもよい。情報処理装置1の機能の少なくとも一部は、いわゆるクラウド上に設けるようにしてもよい。
【0033】
実施形態においては、プラントの立上げ時の処理について説明したが、非定常運転はプラントの停止時の処理や、単位時間当たりの製造量を変更する処理であってもよい。この場合も同様に、予め定められたシナリオに沿って処理を行うことができる。
【0034】
図8に示した通り、実施形態における特徴量は、原料を所定の反応器に移液する流量である仕込流量の定積分値、2つの反応器間の移液開始時間、反応開始時の反応器の液面の高さ、所定の反応器の液面の高さの定積分値、所定の反応器の絶対温度の積分値等を用いることができる。ただし、特徴量は、
図8に示した例には限定されない。例えば、第1の原料と第2の原料との仕込開始時間の差、反応器の冷却水の流量の定積分値、反応器の冷却水の絶対温度の積分値等、プロセスデータに基づく様々な値を用いることができる。また、目的変数も、
図8の未反応原料の濃度(すなわち、反応の開始から所定時間後の未反
応原料の濃度)に限られない。例えば、未反応原料の濃度が所定の基準に達するまでの時間や、その他製品中の不純物濃度、製品物性値、原料使用量、エネルギー使用量、系外排出量、その他の値であってもよい。
【0035】
また、本開示は、上述した処理を実行する方法やコンピュータプログラム、当該プログラムを記録した、コンピュータ読み取り可能な記録媒体を含む。当該プログラムが記録された記録媒体は、プログラムをコンピュータに実行させることにより、上述の処理が可能となる。
【0036】
ここで、コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータから読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータから取り外し可能なものとしては、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、光ディスク、磁気テープ、メモリカード等がある。また、コンピュータに固定された記録媒体としては、HDDやSSD(Solid State Drive)、ROM等がある。
【符号の説明】
【0037】
100 :システム
1 :情報処理装置
2 :制御ステーション
3 :プラント
11 :通信I/F
12 :記憶装置
13 :入出力装置
14 :処理部(プロセッサ)
141 :プロセスデータ取得部
142 :シナリオ作成支援部
143 :制御支援部