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特開2025-25040光硬化性組成物、硬化物、物品および物品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025040
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】光硬化性組成物、硬化物、物品および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/14 20060101AFI20250214BHJP
   C09D 4/02 20060101ALI20250214BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20250214BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20250214BHJP
   C08G 18/73 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C08F290/14
C09D4/02
C09D7/63
C08G18/67
C08G18/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129477
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】392007566
【氏名又は名称】ナトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(74)【代理人】
【識別番号】100210985
【弁理士】
【氏名又は名称】執行 敬宏
(72)【発明者】
【氏名】友廣 真吾
(72)【発明者】
【氏名】榊原 太一
(72)【発明者】
【氏名】喜多 佑斗
【テーマコード(参考)】
4J034
4J038
4J127
【Fターム(参考)】
4J034FA04
4J034FB01
4J034FC01
4J034FD01
4J034FE02
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC03
4J034JA01
4J034JA32
4J034LA23
4J034QB12
4J034QB14
4J034QB17
4J034RA07
4J038FA121
4J038FA151
4J038FA281
4J038JC20
4J038KA04
4J038KA08
4J038NA27
4J038PA17
4J127AA03
4J127AA04
4J127AA06
4J127BB041
4J127BB052
4J127BB071
4J127BB112
4J127BB221
4J127BB222
4J127BC022
4J127BC051
4J127BC121
4J127BC122
4J127BD011
4J127BD171
4J127BD422
4J127BE212
4J127BE21Y
4J127BF622
4J127BF62Y
4J127BG101
4J127BG10Y
4J127BG171
4J127BG17Y
4J127BG272
4J127BG27Y
4J127CB164
4J127CB284
4J127CB341
4J127CB342
4J127CB372
4J127CB373
4J127CC092
4J127CC094
4J127CC112
4J127CC132
4J127CC184
4J127CC294
4J127FA08
4J127FA11
(57)【要約】
【課題】バイオマス原料を含み、かつ、硬化膜としたときに傷が付きにくい光硬化性組成物を提供すること。
【解決手段】エポキシ化植物油(メタ)アクリレート(A1)と、グリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体(A2)と、光重合開始剤(B)と、を含む、光硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化植物油(メタ)アクリレート(A1)と、
グリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体(A2)と、
光重合開始剤(B)と、
を含む、光硬化性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の光硬化性組成物であって、
前記誘導体は、グリセリンポリ(メタ)アクリレート中のヒドロキシ基と、ポリイソシアネート中のイソシアネート基とが反応して形成されたポリ(メタ)アクリレートを含む、光硬化性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
組成物中の前記(A1)の含有量をa、組成物中の前記(A2)の含有量をa、としたとき、a/aは質量比で0.3~3.0である、光硬化性組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(A2)は、生物由来のグリセリンを原料として合成されたグリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体を含む、光硬化性組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(A2)は、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、および、グリセリンジ(メタ)アクリレートと1,5-ペンタメチレンジイソシアネートがモル比2:1で反応した4官能のグリセリンポリ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、光硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(A1)は、エポキシ化大豆油(メタ)アクリレートを含む、光硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)は、以下の[吸光特性]を満たす光重合開始剤(B1)を含む、光硬化性組成物。
[吸光特性]
アセトニトリルに0.1質量%の濃度で光重合開始剤(B1)を溶解させた溶液を、光路長1cmのセルに入れて測定される、波長380nmの光の吸光度Abs380が0.3以上である。
【請求項8】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)は、アシルホスフィン系化合物を含む、光硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
前記(A1)にも前記(A2)にも該当しない重合性モノマー(A3)を含む、光硬化性組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
組成物中のすべての重合性成分中の、前記(A1)および前記(A2)の合計比率が、40質量%以上である、光硬化性組成物。
【請求項11】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
バイオマス度が10%以上である、光硬化性組成物。
【請求項12】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物であって、
さらに顔料を含む、光硬化性組成物。
【請求項13】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物の硬化物。
【請求項14】
請求項13に記載の硬化物を備える物品。
【請求項15】
請求項1または2に記載の光硬化性組成物を用いて基材上に膜を形成する膜形成工程と、
前記膜に光を照射する光照射工程と、
を含む、物品の製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の物品の製造方法であって、
前記光は紫外線である、物品の製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の物品の製造方法であって、
前記光照射工程においては、前記膜に、紫外線発光ダイオードから発せられる紫外線を照射する、物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性組成物、硬化物、物品および物品の製造方法に関する。より具体的には、特定の成分を含む光硬化性組成物、その硬化物、その硬化物を備える物品およびその物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光硬化性組成物については、塗料やインクなどの応用用途の広さから、様々な開発がこれまで行われてきている。
【0003】
特許文献1には、下記(A)成分及び(B)成分を含む硬化型組成物が記載されている。
(A)成分:グリセリントリ(メタ)アクリレートを主成分とする(メタ)アクリレート混合物であり、混合物中の高分子量体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値であって、特定式で定義される高分子量体の面積%として30%未満であるもの
(B)成分:2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー又は/及び有機多価イソシアネートと水酸基含有(メタ)アクリレートの反応物
【0004】
特許文献2には、下記(A)、(B)及び(C)成分を含む組成物であって、(A)、(B)及び(C)成分の合計100重量%中に、(A)成分を40~95重量%、(B)成分を5~60重量%、及び(C)成分を0~55重量%含む活性エネルギー線硬化型組成物が記載されている。
(A)成分:グリセリントリ(メタ)アクリレートを主成分とする(メタ)アクリレート混合物であって、(A)成分中の高分子量体が、式(1)に基づくゲルパーミエーションクロマトグラフィーによる面積%で30%未満である混合物
高分子量体の面積%=〔(R-I-L)/R〕×100 ・・・(1)
式(1)における記号及び用語は、以下を意味する。
・R:(A)成分中の検出ピークの総面積
・I:グリセリントリ(メタ)アクリレートを含む検出ピークの面積
・L:グリセリントリ(メタ)アクリレートを含む検出ピークよりも重量平均分子量が小さい検出ピークの総面積
(B)成分:フィラー
(C)成分:(A)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物
【0005】
特許文献3には、下記(A)成分を含有する硬化型組成物が記載されている。
(A)成分:下記混合物(a)と化合物(b)とのマイケル付加反応生成物である3個以上の(メタ)アクリロイル基、アルキレンオキサイド単位及び3級アミノ基を有する化合物を含む、混合物。
・混合物(a):4個以上の(メタ)アクリロイル基と、アルキレンオキサイド単位と、を有する化合物(a1)を含む(メタ)アクリレート混合物
・化合物(b):2級アミン
【0006】
特許文献4には、下記(A)、(B)及び(C)成分を含む組成物であって、(A)、(B)及び(C)成分の合計100重量%中に、(A)成分を50重量%~90重量% 、(B)成分を5重量%~35重量% 、及び( C)成分を0重量%~45重量%含む活性エネルギー線硬化型組成物が記載されている。
(A)成分: グリセリントリアクリレートを主成分とするアクリレート混合物であり、混合物中の高分子量体が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定により得られた値であって、下記式(1)で定義される高分子量体の面積%として30%未満であるアクリレート混合物
高分子量体の面積%=〔(R-I-L)/R〕×100 ・・・(1)
式( 1 ) における記号及び用語は、以下を意味する。
・R:(A)成分中の検出ピークの総面積
・I:グリセリントリアクリレートを含む検出ピークの面積
・L:グリセリントリアクリレートを含む検出ピークよりも重量平均分子量が小さい検出ピークの総面積
(B)成分:粘度が20mPa・s未満であり、ホモポリマーのガラス転移温度が50℃を超過し、かつ1個又は2個のエチレン性不飽和基を有する化合物(C)成分:エチレン性不飽和基を3個以上有する(A)成分以外の化合物
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2017/033732号
【特許文献2】国際公開第2018/092785号
【特許文献3】特開2018-165363号公報
【特許文献4】特開2019-196461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
環境保護の観点で、近年、バイオマス原料を用いた製品のニーズが高まってきている。光硬化性組成物についても、その原料の一部としてバイオマス原料を用いることが考えられる。例えば、光硬化性組成物中の重合性(メタ)アクリレートとして、バイオマス原料を用いることが考えられる。
【0009】
しかし、石油由来原料のラインアップの豊富さに比べると、バイオマス原料のラインアップは限られている。石油由来原料と同一の化学構造のバイオマス原料が市場で入手可能とは限らない。このため、石油由来原料のみを用いて製造された従来の光硬化性組成物と同程度の性能を、バイオマス原料を用いて実現することが難しい場合がある。
本発明者らの予備的検討によれば、バイオマス原料を用いた光硬化性組成物で形成した硬化膜は、例えば、外力によって傷が付きやすい傾向があった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、バイオマス原料を含み、かつ、硬化膜としたときに傷が付きにくい光硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0012】
1.
エポキシ化植物油(メタ)アクリレート(A1)と、
グリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体(A2)と、
光重合開始剤(B)と、
を含む、光硬化性組成物。
2.
1.に記載の光硬化性組成物であって、
前記誘導体は、グリセリンポリ(メタ)アクリレート中のヒドロキシ基と、ポリイソシアネート中のイソシアネート基とが反応して形成されたポリ(メタ)アクリレートを含む、光硬化性組成物。
3.
1.または2.に記載の光硬化性組成物であって、
組成物中の前記(A1)の含有量をa、組成物中の前記(A2)の含有量をa、としたとき、a/aは質量比で0.3~3.0である、光硬化性組成物。
4.
1.~3.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(A2)は、生物由来のグリセリンを原料として合成されたグリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体を含む、光硬化性組成物。
5.
1.~4.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(A2)は、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、および、グリセリンジ(メタ)アクリレートと1,5-ペンタメチレンジイソシアネートがモル比2:1で反応した4官能のグリセリンポリ(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む、光硬化性組成物。
6.
1.~5.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(A1)は、エポキシ化大豆油(メタ)アクリレートを含む、光硬化性組成物。
7.
1.~6.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)は、以下の[吸光特性]を満たす光重合開始剤(B1)を含む、光硬化性組成物。
[吸光特性]
アセトニトリルに0.1質量%の濃度で光重合開始剤(B1)を溶解させた溶液を、光路長1cmのセルに入れて測定される、波長380nmの光の吸光度Abs380が0.3以上である。
8.
1.~7.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(B)は、アシルホスフィン系化合物を含む、光硬化性組成物。
9.
1.~8.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
前記(A1)にも前記(A2)にも該当しない重合性モノマー(A3)を含む、光硬化性組成物。
10.
1.~9.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
組成物中のすべての重合性成分中の、前記(A1)および前記(A2)の合計比率が、40質量%以上である、光硬化性組成物。
11.
1.~10.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
バイオマス度が10%以上である、光硬化性組成物。
12.
1.~11.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物であって、
さらに顔料を含む、光硬化性組成物。
13.
1.~12.のいずれか一つに記載の光硬化性組成物の硬化物。
14.
13.に記載の硬化物を備える物品。
15.
1.~12.のいずれか1つに記載の光硬化性組成物を用いて基材上に膜を形成する膜形成工程と、
前記膜に光を照射する光照射工程と、
を含む、物品の製造方法。
16.
15.に記載の物品の製造方法であって、
前記光は紫外線である、物品の製造方法。
17.
15.または16.に記載の物品の製造方法であって、
前記光照射工程においては、前記膜に、紫外線発光ダイオードから発せられる紫外線を照射する、物品の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バイオマス原料を含み、かつ、硬化膜としたときに傷がつきにくい光硬化性組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
【0016】
<光硬化性組成物>
本実施形態の光硬化性組成物は、
エポキシ化植物油(メタ)アクリレート(A1)と、
グリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体(A2)と、
光重合開始剤(B)と、
を含む。
【0017】
以下、エポキシ化植物油(メタ)アクリレート(A1)を、単に(A1)と表記することがある。また、グリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体(A2)を、単に(A2)と表記することがある。また、光重合開始剤(B)を、単に(B)と表記することがある。
【0018】
(A1)は、入手が比較的容易であり、バイオマス原料として使い勝手がよい。しかし、本発明者らの予備的検討によると、(A1)を含む光硬化性組成物を用いて形成した硬化膜は、外力によって傷が付きやすい傾向があった。この原因はいくつか考えられるが、(A1)の原料である植物油が種々の脂肪酸の混合物であることに起因して硬化膜の不均一性をもたらすことや、植物油中には性能劣化につながる化学構造が含まれていること、単位質量あたりの炭素-炭素二重結合の量が少ないこと、などが原因として推測される。
【0019】
このため、本発明者らは、光硬化性組成物を設計するにあたって、重合性の(メタ)アクリレートとして(A1)のみを用いるのではなく、(A1)とその他の(メタ)アクリレートとを併用することを検討した。これにより、(A1)のみを用いたときの性能不足を補うことを試みた。
試行錯誤の結果、(A1)と(A2)を併用することで、(A1)のみを用いたときの性能不足を補うことに、本発明者らは成功した。
ちなみに、(A2)としては、植物由来のグリセリンを原料として合成されたグリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体が公知である。このような(A2)を用いることで、組成物全体としてのバイオマス度をあまり下げることなく、硬化膜の性能を向上させることができる。
【0020】
ちなみに、(A1)と(A2)の両方を含む光硬化性組成物は、硬化膜としたときに傷がつきにくいが、その他の特性も良好な場合がある。その他の特性とは、例えば感度、耐汚染性、耐変色性などである。これら性能についても、(A1)の欠点を(A2)が補うことによるものと推測される。
本発明者らの知見として、(A1)の粘度は比較的高い。このため、重合性成分として(A1)のみを用いた光硬化性組成物は、塗装適性が悪い傾向にある。塗装適性が悪いと、形成される塗膜の各種特性も悪化する傾向がある。一方、(A2)の粘度は比較的低い。よって、(A1)と(A2)を併用することで、塗装適性を向上させることができ、ひいては形成される塗膜の各種特性も改善できると期待される。
【0021】
本実施形態の硬化性組成物に関する説明を続ける。
【0022】
(エポキシ化植物油(メタ)アクリレート(A1))
(A1)は、通常、不飽和植物油の二重結合を、過酢酸、過安息香酸などによってエポキシ化したエポキシ化植物油のエポキシ基に、(メタ)アクリル酸を開環付加重合させて製造した化合物である。
植物油とは、通常、グリセリンと脂肪酸とのトリグリセライドにおいて、少なくとも1つの脂肪酸が炭素-炭素不飽和結合を少なくとも1つ有する脂肪酸であるトリグリセライドのことである。このような植物油として代表的な化合物は、アサ実油、アマニ油、エノ油、オイチシカ油、オリーブ油、カカオ油、カポック油、カヤ油、カラシ油、キョウニン油、キリ油、ククイ油、クルミ油、ケシ油、ゴマ油、サフラワー油、ダイコン種油、大豆油、大風子油、ツバキ油、トウモロコシ油、ナタネ油、ニガー油、ヌカ油、パーム油、ヒマシ油、ヒマワリ油、ブドウ種子油、ヘントウ油、松種子油、綿実油、ヤシ油、落花生油、脱水ヒマシ油などが挙げられる。これらの中でも、入手容易性や各種性能の観点から、植物油としては大豆油が好ましい。つまり、(A1)は、好ましくはエポキシ化大豆油(メタ)アクリレートを含む。
(A1)としては、公知または市場で入手可能なものを特に制限なく用いることができる。(A1)に該当する化合物は、例えばMiwon Specialty Chemical Co., Ltd.社や、Eternal Materials Co., Ltd.などから購入することができる。
【0023】
本実施形態の光硬化性組成物は、1のみの(A1)を含んでもよいし、2以上の(A1)を含んでもよい。
本実施形態の光硬化性組成物の全不揮発成分中の(A1)の量は、好ましくは5~50質量%、より好ましくは10~40質量%、さらに好ましくは10~30質量%である。
【0024】
(グリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体(A2))
グリセリンポリ(メタ)アクリレートとして具体的には、グリセリンジ(メタ)アクリレートおよびグリセリントリ(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。参考のため、グリセリンジアクリレートおよびグリセリントリアクリレートの構造式を以下に示しておく。
【0025】
【化1】
【0026】
グリセリンポリ(メタ)アクリレートの誘導体としては、グリセリンポリ(メタ)アクリレート中のヒドロキシ基と、ポリイソシアネート中のイソシアネート基とが反応して形成されたポリ(メタ)アクリレートが好ましく挙げられる。より具体的には、グリセリンジ(メタ)アクリレートと1,5-ペンタメチレンジイソシアネートがモル比2:1で反応した4官能のグリセリンポリ(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0027】
(A2)は、生物由来のグリセリンを原料として合成されたグリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体を含むことが好ましい。生物由来のグリセリンとしては、植物由来のグリセリンや、獣脂などの動物由来のグリセリンが知られている。
一例として、東亜合成社のアロニックス(登録商標)M-920およびM-930は、植物由来のグリセリンを原料としたグリセリンポリ(メタ)アクリレートである。M-920はグリセリンジ/トリアクリレートの混合物、M-930はグリセリントリアクリレートである。
別の例として、植物由来のグリセリンを原料として合成されたグリセリンジアクリレートと、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートがモル比2:1で反応した4官能のグリセリンポリアクリレートを、(A2)として用いることができる。
【0028】
諸性能の向上の点では、(A2)は3官能以上のグリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体を含むことが好ましく、3~4官能のグリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体を含むことがより好ましい。
本実施形態の光硬化性組成物は、1のみの(A2)を含んでもよいし、2以上の(A2)を含んでもよい。
本実施形態の光硬化性組成物の全不揮発成分中の(A2)の量は、好ましくは10~80質量%、より好ましくは15~70質量%である。
【0029】
((A1)に対する(A2)の比率)
性能の最適化やバイオマス度の調整の観点で、(A1)と(A2)の比率は適切に調整されることが好ましい。
光硬化性組成物中の(A1)の含有量をa、光硬化性組成物中の(A2)の含有量をa、としたとき、a/aは質量比で、好ましくは0.3~3.0、より好ましくは0.4~2.5である。
【0030】
(重合性モノマー(A3))
本実施形態の光硬化性組成物は、(A1)にも(A2)にも該当しない重合性モノマー(A3)を含んでもよい。適切な重合性モノマー(A3)を用いることにより、一層の性能向上を期待することができる。
重合性モノマー(A3)は、バイオマス由来であってもよいし、石油由来であってもよい。後掲の実施例で用いている重合性モノマー(A3)は、すべて、石油由来である。
【0031】
重合性モノマー(A3)としては、好ましくは3官能以上、より好ましくは3~6官能、さらに好ましくは4~6官能の多官能(メタ)アクリレートを挙げることができる。多官能(メタ)アクリレートを用いることで、感度を高めたり、硬化膜の硬度を高めたり、その他各種性能を向上できたりする場合がある。
多官能(メタ)アクリレートとして具体的には、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
重合性モノマー(A3)として、EO(エチレンオキサイド)変性のものやカプロラクトン変性のものを用いることで、最終的な硬化膜が適度に柔軟となり、硬化膜特性が一層向上する場合がある。
【0032】
重合性モノマー(A3)としては、単官能(メタ)アクリレートを用いてもよい。単官能(メタ)アクリレートを用いることで、硬化膜を適度に柔軟にしてひび割れを抑えたりできる場合がある。
単官能(メタ)アクリレートとして具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルフォリン、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート等が例示される。
【0033】
重合性モノマー(A3)としては、(メタ)アクリルアミド系モノマーを用いることもできる。このようなモノマーを用いることで、例えば、硬化膜の基材への密着性向上を期待することができる。
(メタ)アクリルアミド系モノマーとして具体的には、(メタ)アクリロイルモルフォリン、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジ-n-プロピル(メタ)アクリルアミド、ジブチル(メタ)アクリルアミド、ダイアセトン(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0034】
重合性モノマー(A3)を用いる場合、1のみの重合性モノマー(A3)を用いてもよいし、2以上の重合性モノマー(A3)を用いてもよい。
【0035】
重合性モノマー(A3)を用いる場合、その量は特に限定されない、ただし、バイオマス度を十分に高くしたり、硬化膜としたときに傷をいっそう付きにくくしたりする観点から、(A1)および(A2)の量はある程度多いことが好ましく、重合性モノマー(A3)の量は多すぎないことが好ましい。
具体的には、硬化性組成物中のすべての重合性成分(通常は上記(A1)、(A2)および(A3)が該当)中の、(A1)および(A2)の合計比率は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは40~100質量%、さらに好ましくは45~100質量%である。換言すると、重合性モノマー(A3)の量は、硬化性組成物中のすべての重合性成分中の、好ましくは0~60質量%、より好ましくは0~55質量%である。
【0036】
(光重合開始剤(B))
光重合開始剤(B)は、光により活性化学種を産生し、(A1)や(A2)、場合によっては重合性モノマー(A3)中の(メタ)アクリレート構造中の炭素-炭素二重結合の重合反応を開始させることができるものである限り、特に限定されない。
【0037】
光重合開始剤(B)は、典型的には光ラジカル重合開始剤を含む。
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、α-ヒドロキシケトン系光重合開始剤、α-アミノケトン系光重合開始剤、ビスアシルホスフィン系光重合開始剤、モノアシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、ビスアシルホスフィンオキシド系光重合開始剤、モノ-およびビス-アシルホスフィン系光重合開始剤、ベンジルジメチル-ケタール系光重合開始剤等が挙げられる。
【0038】
光重合開始剤(B)は、好ましくは、以下の[吸光特性]を満たす光重合開始剤(B1)を含む。
[吸光特性]
アセトニトリルに0.1質量%の濃度で光重合開始剤(B1)を溶解させた溶液を、光路長1cmのセルに入れて測定される、波長380nmの光の吸光度Abs380が0.3以上である。
【0039】
Abs380の上限は特に限定されないが、入手可能な光重合開始剤の種類などを勘案すると、Abs380の上限は例えば3.0以下、好ましくは2.5以下である。
【0040】
光硬化性組成物が光重合開始剤(B1)を含むことにより、露光光源として紫外線発光ダイオード(UV-LED)を用いたときにも、十分な感度を得やすい。
UV-LEDは従来の光源と比較して光源寿命が長く、省エネルギー性である。よって、近年、紫外線露光における光源として用いられる機会が増えつつある。しかし、UV-LEDの発光スペクトルはシャープであるため、ブロードな発光スペクトルの従来光源と比較して、紫外線エネルギーの総量が小さい場合がある。
上記のような吸光特性を有する光重合開始剤(B1)は、UV-LEDから発せられる光を効率的に吸収し、効率的に活性化学種を産生すると考えられる。このため、露光光源としてUV-LEDを用いた場合でも、十分な感度を得やすいと考えられる。
【0041】
念のため述べておくと、光照射により硬化する限り、本実施形態の光硬化性組成物は、光重合開始剤(B1)に該当する光重合開始剤(B)を含まず、光重合開始剤(B1)に該当しない光重合開始剤(B)を含んでもよい。本実施形態の光硬化性組成物は、UV-LEDではない光源(ハロゲンランプや水銀灯)により露光して硬化させてもよい。
【0042】
上記[吸光特性]を満たす光重合開始剤(B1)としては、以下を例示することができる。
Omnirad TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、Abs380=1.6)、
Omnirad TPO-L(フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル、Abs380=0.7)、
Omnirad 369(2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1-ブタノン、Abs380が2.0より大きい)、
Omnirad 819(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、Abs380=1.9)、
Omnirad EMK(4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、Abs380=0.8)、
Omnirad 379(2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、Abs380=1.2)、
(以上いずれもIGM Resins社製)
Irgacure OXE01(1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、Abs380が2.0より大きい)、
Irgacure OXE02(エタノン,1-[8-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、Abs380=0.6)、
Irgacure 784(ジ-Η5-シクロペンタジエニルビス[2,6-ジフルオロー3-(ピロールー1-イル)フェニルチタン(4)]、Abs380=1.9)
(以上いずれもBASF社製)
【0043】
光重合開始剤(B)は、ベンゾイル基を有する化合物を含有することが好ましい。
ベンゾイル基のベンゼン環上の水素は任意の基で置換されていてもよい。
ベンゾイル基を有する化合物を含有する光重合開始剤(B)としては、以下の剤が例示される。
Omnirad TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、Abs380=1.6)、
Omnirad TPO-L(フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル、Abs380=0.7)、
Omnirad 369(2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1-ブタノン、Abs380が2.0より大きい)、
Omnirad 819(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、Abs380=1.9)、
Omnirad EMK(4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、Abs380=0.8)、
Omnirad 379(2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、Abs380=1.2)、
(以上いずれもIGM Resins社製)
Irgacure OXE01(1-[4-(フェニルチオ)フェニル]オクタン-1,2-ジオン-2-(O-ベンゾイルオキシム)、Abs380は2.0より大きい)、
Irgacure OXE02(エタノン,1-[8-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、Abs380=0.6)、
(以上いずれもBASF社製)
【0044】
光重合開始剤(B)は、アシルホスフィン系化合物又はα‐アルキルアミノフェノン系化合物を含有することがより好ましく、アシルホスフィン系化合物を含有することがさらに好ましい。
【0045】
アシルホスフィン系化合物を含有する光重合開始剤(B)としては、以下の剤が例示される。
Omnirad TPO(2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、Abs380=1.6)、
Omnirad 819(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、Abs380=1.9)
等のアシルホスフィンオキサイド系化合物を含有するもの、
Omnirad TPO-L(フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル、Abs380=0.7)
等のアシルホスフィンエステル系化合物を含有するもの
(以上いずれもIGM Resins社製)
【0046】
α-アルキルアミノフェノン系化合物を含有する光重合開始剤(B)としては、以下の剤が例示される。
Omnirad 369(2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-2-ベンジル-1-ブタノン、Abs380は2.0より大きい)、
Omnirad 379(2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イル-フェニル)-ブタン-1-オン、Abs380=1.2)、
(以上いずれもIGM Resins社製)
【0047】
念のため述べておくと、光硬化性組成物が感光性であり、上述の課題を解決するものである限り、光重合開始剤(B)は、光重合開始剤(B1)のみに限定されない。
【0048】
本実施形態の光硬化性組成物は、1のみの光重合開始剤(B)を含んでもよいし、2以上の光重合開始剤(B)を含んでもよい。
本実施形態の光硬化性組成物の全不揮発成分中の光重合開始剤(B)の量は、好ましくは1~20質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0049】
(顔料)
本実施形態の光硬化性組成物は、顔料を含んでもよい。光硬化性組成物が顔料を含むことにより、例えば、硬化膜を所望の色味として意匠性を高めることなどができる。また。顔料の種類によっては、意匠性以外に、硬化膜の何らかの特性の向上を期待することができる。
【0050】
使用可能な顔料は特に限定されない。例えば、公知の無機顔料や有機顔料などの着色顔料を用いることができる。具体的には、二酸化チタン(チタン白)、亜鉛華、鉛白、塩基性硫酸鉛、硫酸鉛、リトポン、硫化亜鉛、アンチモン白などの白色顔料;カーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック、黒鉛、鉄黒(黒色酸化鉄)、アニリンブラックなどの黒色顔料;ナフトールエローS、ハンザエロー、ピグメントエローL、ベンジジンエロー、パーマネントエロー、黄鉄(黄色酸化鉄)などの黄色顔料;クロムオレンジ、クロムバーミリオン、パーマネントオレンジなどの橙色顔料;酸化鉄、アンバーなどの褐色顔料;ベンガラ(赤色酸化鉄)、鉛丹、パーマネントレッド、キナクリドン系赤顔料、ジケトピロロピロール系赤顔料などの赤色顔料;コバルト紫、ファストバイオレット、メチルバイオレットレーキなどの紫色顔料、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、インジゴなどの青色顔料;クロムグリーン、ピグメントグリーンB、フタロシアニングリーンなどの緑色顔料などが挙げられる。
【0051】
顔料としては、体質顔料を用いてもよい。使用可能な体質顔料は特に限定されない。例えば、バリタ粉、硫酸バリウム、炭酸バリウム、炭酸カルシム、石膏、クレイ、シリカ、ホワイトカーボン、珪藻土、タルク、炭酸マグネシウム、含水珪酸マグネシウム、アルミナホワイト、グロスホワイト、マイカ粉等を挙げることができる。
【0052】
顔料としては、退色しにくさの点では無機顔料や体質顔料が好ましく用いられる。もちろん、有機顔料であっても退色が問題とならなければ好ましく使用可能である。
【0053】
顔料は、粉体塗料の分野で知られている防錆顔料を含んでもよい。防錆顔料の例としては、酸化亜鉛、亜リン酸塩化合物、リン酸塩化合物、モリブテン酸塩系化合物、ビスマス化合物、金属イオン交換シリカなどが挙げられる。
【0054】
顔料を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、複数種を併用してもよい。
顔料を用いる場合、その量は特に限定されない。使用量は、所望する色味や他の性能との兼ね合いにより適宜調整すればよい。一例として、顔料の量は、組成物中の顔料以外の不揮発成分を100質量部としたとき、典型的には1~150質量部、好ましくは2~100質量部である。
【0055】
(その他添加成分)
本実施形態の光硬化性組成物は、上記以外の任意の成分を含んでもよい。
任意の成分としては、顔料以外の着色剤(染料など)、消泡剤、レベリング剤、界面活性剤、重合禁止剤、ワックス類、酸化防止剤、非反応性ポリマー、微粒子無機フィラー、シランカップリング剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、スリップ剤、抗菌剤などを挙げることができる。
【0056】
(溶剤)
本実施形態の光硬化性組成物は、溶剤を含んでいてもよいし、溶剤を含まなくてもよい。上記(A1)、(A2)および(A3)の一部または全部が、常温で液状であれば、溶剤を用いなくても基材上に塗布可能であるため、溶剤を用いなくてよいこともある。ただし、上記(A1)、(A2)および(A3)の一部または全部が、常温で液状であったとしても、粘度や塗布性の調整のために溶剤を用いてもよい。
【0057】
溶剤は、水または有機溶剤を含み、好ましくは有機溶剤を含む。有機溶剤の例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、tert-ブタノール(2-メチル-2-プロパノール)、tert-アミルアルコール、ダイアセトンアルコール等のアルコール系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル等のエステル系溶剤等を挙げることができる。
【0058】
本実施形態の膜形成用樹脂組成物が溶剤を含む場合、溶剤を1種のみ含んでもよいし、2種以上の溶剤を含んでもよい。
本実施形態の膜形成用樹脂組成物が溶剤を含む場合、その量は特に限定されない。例えば、組成物の固形分(不揮発成分)濃度が、5~99質量%、好ましくは10~70質量%となるような量で用いることが好ましい。
【0059】
(バイオマス度)
生物由来原料を用いた結果として、本実施形態の光硬化性組成物のバイオマス度は、10%以上であることが好ましく、15%以上であることがより好ましく、20%以上であることがさらに好ましい。
バイオマス度が大きいということは、それだけ環境に配慮しているということを意味する。また、バイオマス度が10%以上であると、一般社団法人日本有機資源協会(JORA)が認証するバイオマスマークを使用することができ、顧客・ユーザへのアピールにつながる。
バイオマス度が大きければ大きいほど、環境性能のアピールという点では好ましいが、諸性能とのバランスの点では、バイオマス度の上限は、例えば60%である。
JORAでのバイオマスマーク認証手続きにおいては、対象製品中の炭素14の量を測定することを通じて、バイオマス度を算出することとなっている。生物由来の有機物は、大気中の炭素14の濃度と同程度の濃度の炭素14を含むが、石油由来の有機物は炭素14を実質的に含まないためである。対象製品中の炭素14の量を測定できない場合には、各使用原料のバイオマス度と使用割合(乾燥重量割合)からバイオマス度を求めることができる。後掲の実施例においては後者のようにしてバイオマス度を求めている。
【0060】
<硬化物、物品および物品の製造方法>
上述の光硬化性組成物を硬化させることで、硬化物や、硬化物を備える物品を製造することができる。
硬化物は、例えば、住宅のフローリングや家具といった木製の物品、書籍などの紙製の物品、家電機器や電子機器の外装材などのプラスチック製の物品、車両のボディなどの金属製の物品、などの各種物品の表面に設けられる。これら物品の表面に光硬化性組成物を塗布して未硬化膜を形成し、これに光を照射して硬化させることにより、物品の表面に硬化物を設けることができる。
上述の光硬化性組成物による硬化物を設ける前の物品の表面には、下層膜、プライマー層、着色層などの、上述の光硬化性組成物を硬化させて形成される硬化層以外の層が設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。
【0061】
また、任意の面に光硬化性組成物を塗布して未硬化膜を形成し、この未硬化膜に光を照射して硬化させて硬化膜とし、そしてその硬化膜を剥離することで、フィルムもしくはシート状の硬化物を得ることもできる。
【0062】
すでに述べたとおり、上述の光硬化性組成物の硬化物(硬化膜)には傷がつきにくい。このことは、上述の光硬化性組成物の硬化物(硬化膜)を表面に備える物品には傷がつきにくく、美しい外観を長期間維持しやすいことを意味する。
【0063】
硬化物を備える物品は、
上述の光硬化性組成物を用いて基材上に膜を形成する膜形成工程と、
形成された膜に光を照射する光照射工程と、
を含む方法により製造することができる。
【0064】
膜形成工程において、光硬化性組成物の塗布量は、例えば2~220g/m、好ましくは4~110g/mである。
【0065】
光硬化性組成物の塗布は、任意の方法/装置により行うことができる。好ましくは、膜形成工程は、ロールコート、フローコート(カーテンコートとも呼ばれる)またはスプレーにより行われる。これら方法は、工業的に、基材上に均一な膜を形成しやすい。よって膜形成工程に好ましく適用される。
光硬化性組成物が溶剤を含む場合には、加熱により溶剤を揮発させることが好ましい。
【0066】
光照射工程で、形成された膜に照射される光は、通常は紫外線である。紫外線を発する光源としては、水銀ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、紫外線発光ダイオード(UV-LED)などが挙げられる。
光重合開始剤(B)の説明箇所でも言及したように、光硬化性組成物が光重合開始剤(B1)を含む場合、露光光源としてUV-LEDを用いたときにも、十分な感度を得やすい。つまり、光照射工程においては、膜に、UV-LEDから発せられる紫外線を照射することが好ましい。
UV-LEDから照射される紫外線の波長域は、例えば350~420nm、好ましくは360~410nmである。
【0067】
光照射工程における光の照射量は、例えば50~800mJ/cm、好ましくは100~600mJ/cmである。もちろん、照射量は、光硬化性組成物の感度、膜厚等により適宜調整すればよい。
【0068】
光照射工程における光の強度は、例えば10~5000W/cm、好ましくは50~2000W/cmである。もちろん、光の強度は、用いられる樹脂組成物の感度、膜厚等により適宜調整すればよい。
【0069】
光照射工程においては、1の膜に対して複数回の光照射が行われてもよい。この場合、複数回の光照射のうち少なくとも一回がUV-LEDによるものであることが好ましい。
【0070】
硬化物の製造方法は、膜形成工程と光照射工程のほか、加熱によって硬化反応を促進させる加熱工程をさらに含んでいてもよい。
【0071】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0072】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0073】
<原材料の準備>
以下の原材料を準備した。
【0074】
(エポキシ化植物油(メタ)アクリレート(A1))
Miramer PE310:Miwon Specialty Chemical Co., Ltd.製のエポキシ化大豆油アクリレート
Etercure6261:Eternal Materials Co., Ltd.製のエポキシ化大豆油アクリレート
【0075】
(グリセリンポリ(メタ)アクリレートまたはその誘導体(A2))
アロニックスM930:グリセリントリアクリレート、東亜合成社製
アロニックスM920:グリセリンジ/トリアクリレート、東亜合成社製
(a2):以下のようにして合成した、グリセリンジアクリレートと1,5-ペンタメチレンジイソシアネートがモル比2:1で反応した4官能のグリセリンポリアクリレート
[(a2)の合成]
撹拌機、温度計および還流冷却器を備えたフラスコに、アロニックスM920を77質量部と触媒を仕込んだ。フラスコ内の成分を撹拌機で攪拌しながら、スタビオPDI(バイオマス度70%の1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、三井化学株式会社製)23質量部を1時間かけて滴下した。そして70℃で6時間反応させた。その後、赤外吸収分析で残存イソシアネート基のピークが消滅したことを確認したうえで、反応を終えた。以上のようにして(a2)を得た。
【0076】
念のため述べておくと、上記3種の(A2)の原料のグリセリンは、いずれも、植物由来である。
【0077】
(重合性モノマー(A3))
PETIA:ペンタエリスリトール(トリ/テトラ)アクリレート、ダイセル・オルネクス社製
DPHA:ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ダイセル・オルネクス社製
TMPTA(EO)15:エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリアクリレート、MIWON社製
ACMO:アクリロイルモルフォリン、KJケミカルズ社製
【0078】
(光重合開始剤(B))
Omnirad TPO:アシルホスフィン系光重合開始剤、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、IGM Resins社製、Abs380=1.6
Omnirad TPO-L:アシルホスフィン系光重合開始剤、フェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィン酸エチル、IGM Resins社製、Abs380=0.7
Omnirad 819:フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、Abs380=1.9
【0079】
(顔料)
サイリシア(登録商標)550:富士シリシア化学株式会社製のシリカ粒子
クレイ:竹原化学工業社製
(これら2種の顔料は、体質顔料として用いている。)
【0080】
(分散剤)
DISPERBYK-2008:BYK社製、無溶剤型湿潤分散剤
【0081】
<組成物の調製>
上記各成分を、後掲の表に記載の量比で均一に混合することで、光硬化性組成物を調製した。
【0082】
<試験塗板の作製および評価>
まず、長さ60cm×幅30cm×全厚1.2cmで、表層に厚さ0.25mmのオーク材の突板が表面に貼られた合板を準備した。
この合板に、着色塗料(ナトコ社製、フローラNo.300:ウレタンディスパージョン型着色塗料)を、塗布量が33g/mになるようにロールコーターを用いて塗装した。その後、100℃の熱風で60秒間乾燥を行い、着色された合板を得た。
【0083】
着色された合板に、下記の各成分を混合することにより得られる下塗用組成物を、塗布量が44g/mになるように塗装した。これに紫外線(照射線量100mJ/cm、最大照射強度80mW/cm)を照射して、塗装した下塗用組成物を硬化させ、下塗り層を設けた。
(下塗り用組成物の成分)
・ウレタンアクリレート(製品名:EBECRYL210、ダイセル・オルネクス社製)40質量部
・アクリロイルモルフォリン(KJケミカルズ社製)30質量部
・ラジカル重合開始剤(製品名:OMNIRAD1173、IGM Resins社製)6質量部
・タルク 24質量部
【0084】
その後、下塗り層が設けられた合板に、耐水ペーパー320番で研磨をかけることにより、基板(光硬化性組成物を塗布する対象となる基板)を得た。
【0085】
上記の基材に、調製した光硬化性組成物を、ロールコーターを用いて、塗布量が16g/m、膜厚が15μmとなるように塗布した。
次いで、光硬化性組成物を塗布した面にUV-LEDから発せられる光が当たるようにして、UV-LED照射装置(UELCLP385-20028T、385nm、照射口40cm、アイグラフィックス社製)をパスさせた。パスさせるスピードは、紫外線光量計UV Power Puck(登録商標)II(EIT社製)で測定した時のUV-V領域(395~445nm)における積算光量が200mJ/cm、強度が2000mW/cmになるように調製した。組成物の感度を考慮し、パスは1回または複数回行った(以下の感度評価を参照)。
【0086】
[感度評価]
上記のようなUV-LED照射装置を用いた1回または複数回の光照射を行った。下記の基準により、硬化したと判断されるまでパス回数を重ねた。そして、硬化膜を得た。
硬化したか否かの判断については、UV-LEDを照射した面にスチールウール#000を載せ、1kg/cmの荷重で10往復させても、目視できる傷が付かなかったとき、硬化したと判断した。
5:パス回数1回
4:パス回数2回
3:パス回数3回
2:パス回数4回
1:パス回数5回以上
【0087】
[硬化膜の傷付きにくさ(耐コインスクラッチ性)の評価]
上記のように、1回または複数回の光照射により十分に硬化した硬化膜に対して、45°の角度で10円玉をあてがい、2kg荷重で一度だけスクラッチした。そして、下記の基準により、目視で傷の度合いを5段階で評価した。
5:傷は見受けられなかった。
4:極めて僅かな傷が見受けられたが、白化は見受けられなかった。
3:僅かな傷が見受けられたが、ほとんど白化は見受けられなかった。
2:僅かな傷が見受けられ、やや白化していた。
1:著しく傷または白化が目立った。
【0088】
[耐汚染性の評価]
JAS合板汚染A試験に準拠して上記の塗板の耐汚染性を評価した。具体的には以下のようにした。
(1)上記のように、1回または複数回の光照射により十分に硬化した硬化膜の表面に青インキで幅10mmの線を引き、4時間放置した。
(2)次に、青インキで線を引いた部分を、メタノールを含ませた布でふき取った。
(3)(2)の終了後、青インキをふき取った部分と、未試験部(青インキで線を引かず、ふき取りもしなかった部分)との色差(ΔE)を、JIS Z 8781-4:2013に準じて測定した。そして、以下の基準に基づいて5段階で評価した。
5:ΔEが0.5未満
4:ΔEが0.5以上1未満
3:ΔEが1以上1.5未満
2:ΔEが1.5以上2未満
1:ΔEが2以上
【0089】
[耐変色性の評価]
上記のように、1回または複数回の光照射により十分に硬化した硬化膜の表面と、光硬化膜を設ける前の、下塗り層が設けられた合板の表面について、色差(ΔE)を、JIS Z 8781-4:2013に準じて測定し、以下の基準に基づいて、樹脂組成物の変色を5段階で評価した。ΔEが小さいほどUV-LED照射による変色が抑えられている(耐変色性に優れる)と言える。
5:ΔEが3未満
4:ΔEが3以上3.5未満
3:ΔEが3.5以上4未満
2:ΔEが4以上5未満
1:ΔEが5以上
【0090】
[バイオマス度の評価]
後掲の表における生物由来原料の使用比率、および、生物由来原料それ自体のバイオマス度(原料メーカ提供)に基づき、バイオマス度を計算した。そして、以下の5段階で評価した。ちなみに、前述のように、バイオマス度が10%以上であると、一般社団法人日本有機資源協会が認証するバイオマスマークを使用することができ、顧客・ユーザへのアピールにつながる。
5:バイオマス度40%以上
4:バイオマス度30%以上40%未満
3:バイオマス度20%以上30%未満
2:バイオマス度10%以上20%未満
1:バイオマス度10%未満
【0091】
組成物の配合や評価結果などをまとめて下表に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1および表2に示されているとおり、実施例の組成物を用いて形成された硬化膜の傷付きにくさ(耐コインスクラッチ性)の評価は、すべて2以上であり、かつ、実施例の組成物のバイオマス度の評価はすべて2以上(バイオマス度10%以上)であった。つまり、実施例の組成物は、バイオマスマークを使用することができる程度にバイオマス原料を比較的多く含み、かつ、硬化膜としたときに傷が付きにくい光硬化性組成物であった。
また、実施例における感度評価の結果は良好であった。つまり、実施例の組成物は、UV-LEDを用いた光照射で十分な感度が得られることが確認された。
さらに、実施例においては、感度、耐汚染性、耐変色性の評価も良好だった。
【0095】
実施例の組成物に対し、比較例1の組成物については、硬化膜の傷付きにくさ(耐コインスクラッチ性)は良好であったものの、比較例1の組成物は(A1)を含まないためにバイオマス度の評価が最低の1であった。
また、(A2)を含まない比較例2および3の組成物のバイオマス度は実施例と同水準であったが、これら組成物の硬化膜の傷付きにくさ(耐コインスクラッチ性)の評価結果は最低の1であった。
【0096】
以上、実施例と比較例の対比より、(A1)と(A2)を併用することで、光硬化性組成物のバイオマス度を大きく設計しやすく、かつ、硬化膜としたときに傷がつきにくい光硬化性組成物を調製可能なことが理解される。