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特開2025-25052セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、飲食品組成物、ビフィズス菌増殖促進剤、オリゴ糖の製造方法、ビフィズス菌増殖促進方法、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キット及びセヤル種アラビアガム資化菌の検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025052
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、飲食品組成物、ビフィズス菌増殖促進剤、オリゴ糖の製造方法、ビフィズス菌増殖促進方法、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キット及びセヤル種アラビアガム資化菌の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/56 20060101AFI20250214BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20250214BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20250214BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20250214BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20250214BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20250214BHJP
   C12P 19/14 20060101ALI20250214BHJP
   C12Q 1/689 20180101ALI20250214BHJP
   C12Q 1/6862 20180101ALI20250214BHJP
【FI】
C12N15/56
C12N9/24 ZNA
A23L33/135
A23L33/17
A23L33/105
C12N1/20 A
C12P19/14 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/6862 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129492
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(71)【出願人】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】藤田 清貴
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 優紀
(72)【発明者】
【氏名】石渡 明弘
【テーマコード(参考)】
4B018
4B063
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B018MD33
4B018MD87
4B018MD90
4B018ME11
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ44
4B063QR08
4B063QR42
4B063QR62
4B063QR66
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4B064AF04
4B064CA21
4B064CB01
4B064DA10
4B065AA21X
4B065BB18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】セヤル種アラビアガムの修飾糖の資化に有用なセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素を提供する。
【解決手段】セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列を有し、エンドグリコシダーゼ活性を有する。(a)特定のアミノ酸配列(b)該特定のアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列(c)前記と異なる特定のアミノ酸配列(d)該アミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列を有し、エンドグリコシダーゼ活性を有する、
セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のDNAでコードされるセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素。
(a)配列番号3に示される塩基配列を含むDNA
(b)配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列又は前記相補的な塩基配列から調製されるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、エンドグリコシダーゼ活性を有するセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードするDNA
【請求項3】
請求項1又は2に記載のセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを含む、
飲食品組成物。
【請求項4】
セヤル種アラビアガム分解促進用である、
請求項3に記載の飲食品組成物。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つと、
セヤル種アラビアガムを含む原料と、
を含む、飲食品組成物。
【請求項6】
ビフィズス菌増殖促進用である、
請求項5に記載の飲食品組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つによるセヤル種アラビアガムの分解産物を含む、
飲食品組成物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを含む、
ビフィズス菌増殖促進剤。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを、セヤル種アラビアガムを含む原料に作用させるステップを含む、
オリゴ糖の製造方法。
【請求項10】
前記オリゴ糖がβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara、β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara又はβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Araである、
請求項9に記載のオリゴ糖の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを非ヒト動物に投与するステップを含む、
ビフィズス菌増殖促進方法。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードするDNAに含まれる連続する少なくとも10塩基を、PCR産物の塩基配列中に含むように設計されたプライマー対を備える、
セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キット。
【請求項13】
請求項12に記載のセヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットを用いてPCRを行うステップを含む、
セヤル種アラビアガム資化菌の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、飲食品組成物、ビフィズス菌増殖促進剤、オリゴ糖の製造方法、ビフィズス菌増殖促進方法、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キット及びセヤル種アラビアガム資化菌の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アラビアガムは、アフリカ、ナイル地方原産のマメ科アカシア属アラビアゴムノキの樹皮の傷口からの分泌物を乾燥させたものである。アラビアガムは、ペプチド鎖にII型アラビノガラクタン(以下“AG”ともいう)及びβ-アラビノオリゴ糖の糖鎖が付加した糖タンパク質(アラビノガラクタン・プロテイン(以下“AGP”ともいう))で構成される。
【0003】
アラビアガムは、セネガル種とセヤル種に分かれている。セネガル種アラビアガムは、Acasia senegalから採取される。セネガル種アラビアガムは、蛋白含量が高めで増粘剤及び乳化剤として使用されている。セヤル種アラビアガムはAcasia seyalから採取される。セヤル種アラビアガムはそのフィルム形成能を利用して、菓子、医薬品等のコーティング剤、カプセル化の基材、光沢剤として利用されている。
【0004】
非特許文献1において、セヤル種アラビアガムとセネガル種アラビアガムとが比較されている。非特許文献1によれば、セヤル種アラビアガムの方がセネガル種アラビアガムよりもL-アラビノース含量が多く、蛋白含量が少なかった。また、セヤル種アラビアガムの修飾糖には、β-L-アラビノフラノース(以下“Araf”ともいう)とβ-L-アラビノピラノース(以下“Arap”ともいう)で構成された糖鎖構造の存在が示された。セネガル種アラビアガムの詳細な糖鎖構造は解析されており、非特許文献2には、α-D-ガラクトピラノース(以下“Galp”ともいう)-(1→3)-Araf及びα-L-ラムノピラノース(以下“Rhap”ともいう)-(1→4)-β-D-グルクロン酸(以下“GlcpA”ともいう)-(1→6)-β-D-Galp-(1→6)-D-ガラクトース(以下“Gal”ともいう)でのAGP側鎖の修飾が報告されている。
【0005】
一方、セヤル種アラビアガムに関しては、核磁気共鳴(NMR)解析から得られたアラビノース(以下“Ara”ともいう)オリゴマーがAGP側鎖に付加されている推定構造が提示されているに過ぎず(非特許文献3参照)、詳細な糖鎖構造は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-17292号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Lizeth Lopez-Torrez,外4名,「Acacia senegal vs.Acacia seyal gums-Part 1:Composition and structure of hyperbranched plant exudates」,Food Hydrocolloids,2015年,51:41-53
【非特許文献2】C.A.Tischer,外2名,「The free reducing oligosaccharides of gum arabic:aids for structural assignments in the polysaccharide」,Carbohydrate Polymers,2002年,47(2),151-158
【非特許文献3】Shao-Ping Nie,外5名,「The core carbohydrate structure of Acacia seyal var. seyal(Gum arabic)」,Food Hydrocolloids,2013年,32(2),221-227
【非特許文献4】Yuki Sasaki,外7名,「Novel 3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase for the assimilation of gum arabic arabinogalactan protein in Bifidobacterium longum subsp.longum」,Applied and Environmental Microbiology,2021年,87,e02690-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1及び非特許文献4には、セネガル種アラビアガムのβ1,6-ガラクタン側鎖に修飾された二糖(α-D-Galp-(1→3)-Araf)を遊離する3-O-α-D-galactosyl-α-L-arabinofuranosidase(GAfase)が開示されている。セヤル種アラビアガムについても修飾糖分解酵素があれば、詳細な糖鎖構造の解明が進むことが期待される。さらに、このような修飾糖分解酵素によって、ヒトに有用な細菌を増やす難消化性の食品素材であるプレバイオティクスとしてセヤル種アラビアガムを活用できる。
【0009】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、セヤル種アラビアガムの修飾糖の資化に有用なセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素を提供することを目的とする。腸内のビフィズス菌の増殖を促進させることができる食品組成物、ビフィズス菌増殖促進剤及びビフィズス菌増殖促進方法を提供することを目的とする。高い選択性で効率的に目的のオリゴ糖を製造することができるオリゴ糖の製造方法を提供することを目的とする。また、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キット及びセヤル種アラビアガム資化菌の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、
以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列を有し、エンドグリコシダーゼ活性を有する。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【0011】
本発明の第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、
以下の(a)又は(b)のDNAでコードされる。
(a)配列番号3に示される塩基配列を含むDNA
(b)配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列又は前記相補的な塩基配列から調製されるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、エンドグリコシダーゼ活性を有するセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードするDNA
【0012】
本発明の第3の観点に係る飲食品組成物は、
上記本発明の第1又は第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを含む。
【0013】
上記本発明の第3の観点に係る飲食品組成物は、
セヤル種アラビアガム分解促進用である。
【0014】
本発明の第4の観点に係る飲食品組成物は、
上記本発明の第1又は第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つと、
セヤル種アラビアガムを含む原料と、
を含む。
【0015】
上記本発明の第4の観点に係る飲食品組成物は、
ビフィズス菌増殖促進用である。
【0016】
本発明の第5の観点に係る飲食品組成物は、
上記本発明の第1又は第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つによるセヤル種アラビアガムの分解産物を含む。
【0017】
本発明の第6の観点に係るビフィズス菌増殖促進剤は、
上記本発明の第1又は第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを含む。
【0018】
本発明の第7の観点に係るオリゴ糖の製造方法は、
上記本発明の第1又は第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを、セヤル種アラビアガムを含む原料に作用させるステップを含む。
【0019】
前記オリゴ糖がβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara、β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara又はβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Araである、
こととしてもよい。
【0020】
本発明の第8の観点に係るビフィズス菌増殖促進方法は、
上記本発明の第1又は第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、前記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、前記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び前記ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物の少なくとも1つを非ヒト動物に投与するステップを含む。
【0021】
本発明の第9の観点に係るセヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットは、
上記本発明の第1又は第2の観点に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードするDNAに含まれる連続する少なくとも10塩基を、PCR産物の塩基配列中に含むように設計されたプライマー対を備える。
【0022】
本発明の第10の観点に係るセヤル種アラビアガム資化菌の検出方法は、
上記本発明の第9の観点に係るセヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットを用いてPCRを行うステップを含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、セヤル種アラビアガムの修飾糖の資化に有用なセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素が提供される。本発明に係る食品組成物、ビフィズス菌増殖促進剤及びビフィズス菌増殖促進方法によれば、腸内のビフィズス菌の増殖を促進させることができる。本発明に係るオリゴ糖の製造方法によれば、高い選択性で効率的に目的のオリゴ糖を製造することができる。また、本発明によれば、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キット及びセヤル種アラビアガム資化菌の検出方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】試験例1においてパルスアンペロメトリック付き高性能陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC-PAD)で得られたクロマトグラムを示す図である。
図2】試験例2においてHPAEC-PADで得られたクロマトグラムを示す図である。
図3】試験例3における2種のビフィズス菌の共培養資化性試験の結果を示す図である。
図4】試験例3における薄層クロマトグラフィー(TLC)のプレート及びセヤル種アラビアガム修飾糖分解の態様を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0026】
実施の形態1:セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、以下の(a)~(d)のいずれかのアミノ酸配列を有し、エンドグリコシダーゼ活性を有する。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【0027】
当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、セヤル種のアラビアガム修飾糖に選択的に作用し、β-アラビノオリゴ糖三糖、四糖及び五糖を遊離するエンドグリコシダーゼ活性を有する。配列番号1に示されるアミノ酸配列を有するセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、ビフィドバクテリウム・カテヌラータム(Bifidobacterium catenulatum) JCM1194株(以下“JCM1194”とする)のBBCT_0495遺伝子(NCBI-ProteinID:BAR01463)において同定された。配列番号1に示されるアミノ酸配列と、上記非特許文献4に開示されたビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum) JCM7052株から発見されたGAfaseとの間のアミノ酸配列の同一性は28%足らずである。
【0028】
ここで、ある2つのアミノ酸配列一致度が最大となるようにアラインメントしたときに、両方のアミノ酸配列において同一のアミノ酸が存在する部位の個数の、全長のアミノ酸の個数に対する割合を配列同一性という。
【0029】
アミノ酸配列に関する“90%以上の配列同一性”とは、少なくとも90%の配列同一性を意味する。当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素のアミノ酸配列は、上記エンドグリコシダーゼ活性を有する限り、配列番号1又は2に示されるアミノ酸配列に対して、90%以上、好ましくは92%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは97%以上、さらにより好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有してもよい。
【0030】
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素が配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する場合、当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、上記エンドグリコシダーゼ活性を有する限り、翻訳の効率を向上させるためのアミノ酸配列の他、当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の精製に利用するアミノ酸配列、シャペロン等の発現効率を向上させるアミノ酸配列等を有してもよい。セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の精製に利用するアミノ酸配列としては、例えば、ヒスチジンタグ配列(His-Tag)、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質等が挙げられる。翻訳の効率を向上させるためのアミノ酸配列、精製に利用するアミノ酸配列及び発現効率を向上させるアミノ酸配列は、N末端及びC末端の少なくとも一方に付加される。N末端又はC末端に付加されるアミノ酸は、例えば数個であって、好ましくは1~9個である。
【0031】
配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列におけるC末端の細胞壁アンカーリング領域が除かれ、C末端にHis-Tagが付加され、可溶化させるためにN末端の一部領域がSKIK配列に置換されている。配列番号2に示されるアミノ酸配列を有するセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素も、上記のエンドグリコシダーゼ活性を有する。
【0032】
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素が配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する場合であっても、上述のように、当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、上記エンドグリコシダーゼ活性を有する限り、翻訳の効率を向上させるためのアミノ酸配列、シャペロン等の発現効率を向上させるアミノ酸配列等を有してもよい。
【0033】
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、以下の(a)又は(b)のDNAでコードされてもよい。
(a)配列番号3に示される塩基配列を含むDNA
(b)配列番号3に示される塩基配列に相補的な塩基配列又は前記相補的な塩基配列から調製されるプローブとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、エンドグリコシダーゼ活性を有するセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードするDNA
なお、配列番号3に示される塩基配列を含むDNAは、配列番号2に示されるアミノ酸配列をコードする。
【0034】
“ストリンジェントな条件”とは、特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件である。ストリンジェントな条件として、相同性が高いDNA同士、例えば80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、より好ましくは97%、特に好ましくは99%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件が例示される。ストリンジェントな条件として、例えば、42℃でのハイブリダイゼーション、及び1×SSC(Saline Sodium Citrate Buffer)、0.1%のSDS(Sodium Dodecyl Sulfate)を含む緩衝液による42℃での洗浄処理を挙げることができ、あるいは、65℃でのハイブリダイゼーション、及び0.1×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による65℃での洗浄処理を挙げることができる。なお、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を与える要素としては、上記温度条件以外に種々の要素があり、当業者であれば、種々の要素を適宜組み合わせて、上記例示したハイブリダイゼーションのストリンジェンシーと同等のストリンジェンシーを実現することが可能である。
【0035】
ハイブリダイゼーションに用いるプローブは、配列番号3に示される塩基配列の相補配列の一部であってもよい。例えば、プローブとして、300塩基対程度の長さのDNA断片を用いる場合には、ハイブリダイゼーションの洗浄の条件は、2×SSC、0.1%のSDSを含む緩衝液による50℃での洗浄処理が挙げられる。
【0036】
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素がエンドグリコシダーゼ活性を発揮する条件は、特に限定されない。当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素を使用する条件として、例えば温度は35~55℃が好ましく、45~50℃がより好ましい。また、pHは4.0~7.0が好ましく、5.0~6.0がより好ましい。
【0037】
エンドグリコシダーゼ活性は、例えば以下の方法により確認することができる。GalとL-Arafとの間のα1,3構造を有する糖鎖に当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素を反応させて、HPAEC-PAD(High Performance Anion Exchange Chromatography-Pulsed Amperometric Detection)等のクロマトグラフィー法により生成した三糖、四糖又は五糖を検出し、その量から酵素活性を算出すればよい。
【0038】
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、JCM1194等から公知の方法により精製して製造することができる。また、遺伝子工学的手法を用いて適当な宿主細菌に組換えタンパク質を産生させることにより製造してもよい。このとき、セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子のシグナルペプチドのコード領域を含む全遺伝子配列を宿主に導入して発現させ、宿主内でのプロセッシングを経てセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の成熟タンパク質を取得してもよいし、セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子のシグナルペプチドのコード領域を除いた遺伝子配列を宿主に発現させてもよい。
【0039】
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、セヤル種アラビアガム修飾糖鎖内に存在する糖鎖を認識し、糖鎖の還元末端に位置するL-ArafとGalとの間のα1,3構造を切断することで、オリゴ糖(β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara、β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara及びβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara)を遊離させる。このようなβ-アラビノオリゴ糖三糖、四糖及び五糖を遊離するセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素はこれまで見出されておらず、当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は新規な酵素である。なお、本明細書での糖の結合の表記において、例えば“1→2”は、糖における1位の炭素と別の糖における2位の炭素とが結合していることを示す。
【0040】
実施の形態2:飲食品組成物
本実施の形態に係る飲食品組成物は、上記実施の形態1に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素、当該セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする遺伝子を有するビフィドバクテリウム属細菌、当該ビフィドバクテリウム属細菌の培養物及び当該ビフィドバクテリウム属細菌の菌体処理物(以下“セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等”と総称する)の少なくとも1つを含む。当該ビフィドバクテリウム属細菌としては、例えばJCM1194が挙げられる。ビフィドバクテリウム属細菌として、培養後に得られた培養物をそのまま用いてもよく、希釈又は濃縮して用いてもよく、培養物から回収した菌体を用いてもよい。また、ビフィドバクテリウム属細菌は、生菌であっても死菌であってもよいし、生菌と死菌との両方を含んでもよい。菌体処理物としては、例えば、菌体をアクリルアミドやカラギーナン等で固定化した固定化菌体、ビフィドバクテリウム属細菌の菌体の細胞壁及び細胞膜が超音波処理又はホモジナイザー処理等の常法により一部又は完全に破砕された細胞破砕物、その遠心分離上清(水溶性画分)、その上清を硫安処理等で部分精製した画分、当該上清を濃縮した濃縮液等が挙げられる。
【0041】
当該飲食品組成物は、セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等の少なくとも1つを公知の飲食品に添加することによって製造してもよいし、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等の少なくとも1つを飲食品の原料中に混合して新たな飲食品組成物として製造してもよい。
【0042】
本実施の形態に係る飲食品組成物は、液状、ペースト状、固体、粉末等の形態を問わず、錠菓、流動食、飼料等の他、例えば、小麦粉製品、即席食品、農産加工品、水産加工品、畜産加工品、乳・乳製品、油脂類、基礎調味料、複合調味料、食品類、冷凍食品、菓子類、飲料等が挙げられる。
【0043】
本実施の形態に係る飲食品組成物の摂取量は、適宜選択することができる。飲食品組成物の摂取量は、例えば、体重1kgあたりの1日の上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の摂取量は、1μg/kg/日、10μg/kg/日又は100μg/kg/日である。例えば、体重1kgあたりの1日の上記ビフィドバクテリウム属細菌の摂取量又は投与量は、1×10~1×1012CFU/kg/日、1×10~1×1011CFU/kg/日又は1×10~1×1010CFU/kg/日である。ビフィドバクテリウム属細菌の培養物又は上記細菌の菌体処理物を用いる場合、その摂取量又は投与量は、当該ビフィドバクテリウム属細菌の摂取量又は投与量に換算された場合に上記摂取量又は投与量とすればよい。
【0044】
本実施の形態に係る飲食品組成物における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の含有量は、前記摂取量に基づいて適宜選択することができる。当該飲食品組成物における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の含有量は、例えば、1μg/g、10μg/g又は100μg/gである。本実施の形態に係る飲食品組成物における上記ビフィドバクテリウム属細菌の含有量は、上記摂取量に基づいて適宜選択することができるが、例えば、1×10~1×1012CFU/g、1×10~1×1011CFU/g又は1×10~1×1010CFU/gである。当該飲食品組成物における上記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物又は細菌の菌体処理物の含有量は、上記ビフィドバクテリウム属細菌の含有量に換算された場合に上記含有量となるようにすればよい。
【0045】
なお、CFUは、colony forming unitsの略であり、コロニー形成単位である。該細菌が死菌の場合、CFUは個細胞(cells)と置き換えることができる。
【0046】
上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素はエンドグリコシダーゼ活性によりセヤル種アラビアガムのAGPからオリゴ糖を切り出し遊離することができる。当該オリゴ糖及び分解を受けた修飾糖の残余の糖鎖は、別の加水分解酵素(エキソグリコシダーゼ等)による分解を受けやすくなる。このため、本実施の形態に係る飲食品組成物の用途は、アラビアガム分解促進用、特には、セヤル種アラビアガム分解促進用であってもよい。
【0047】
本実施の形態における別の側面では、セヤル種アラビアガム分解促進用飲食品組成物の製造における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等の使用が提供される。また、本実施の形態における別の側面では、セヤル種アラビアガム分解促進における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等の使用が提供される。また、本実施の形態における他の側面では、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等を動物に投与することを含む、セヤル種アラビアガム分解促進方法が提供される。ここでの動物とは、ヒトであっても、非ヒト動物であってもよい。
【0048】
また、本実施の形態における別の側面では、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等によるセヤル種アラビアガムの分解産物を含む、飲食品組成物が提供される。分解産物は、少なくとも上述のβ-アラビノオリゴ糖三糖、四糖及び五糖を含む。当該飲食品組成物の用途は、ビフィズス菌増殖促進用であってもよい。さらに本実施の形態における別の側面では、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等と、セヤル種アラビアガムを含む原料と、を含む飲食品組成物が提供される。原料はセヤル種アラビアガムを含む限り特に限定されない。特に、セヤル種アラビアガムは、プレバイオティクス食物繊維として知られており、飲食用途での安全性も認められている点で好ましい。
【0049】
上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素は、セヤル種アラビアガムの分解を介して、腸内のビフィズス菌の増殖を促進させることができる。このため、セヤル種アラビアガムを含む原料を、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素とともに含有する飲食品組成物の用途は、ビフィズス菌増殖促進用であってもよい。
【0050】
本実施の形態における別の側面では、ビフィズス菌増殖促進用飲食品組成物の製造における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等と、セヤル種アラビアガムを含む原料との使用が提供される。また、本実施の形態における別の側面では、ビフィズス菌増殖促進における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等と、セヤル種アラビアガムを含む原料との使用が提供される。また、また、本実施の形態における他の側面では、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等と、セヤル種アラビアガムを含む原料とを動物に投与するステップを含む、ビフィズス菌増殖促進方法が提供される。ここでの動物とは、ヒトであっても、非ヒト動物であってもよい。
【0051】
本実施の形態に係る飲食品組成物は、アラビアガムの分解、ビフィズス菌の増殖又はオリゴ糖が有効に作用する疾患の予防、疾患のリスク低減、疾患の症状緩和、疾患の治療等の用途(保健用途を含む)が表示された飲食品として提供又は販売されてもよい。“表示”行為には、需要者に対して上記の用途を知らせるためのすべての行為が含まれる。上記の用途を想起又は類推させ得るような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物、媒体等の如何に拘わらず、すべて“表示”行為に該当する。
【0052】
“表示”は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0053】
“表示”には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示が挙げられる。この中でも特に、消費者庁によって認可される表示、例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例として挙げられる。
【0054】
実施の形態3:ビフィズス菌増殖促進剤
本実施の形態に係るビフィズス菌増殖促進剤は、上記実施の形態1に係るセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等を有効成分として含む。
【0055】
ビフィズス菌に代表されるヒトにとって有用な細菌を増やす難消化性の食品素材が、プレバイオティクスとして注目されている。現在、9種類のオリゴ糖がビフィズス菌を増やす効果がある特定保健用食品として認められている。また、ラクト-N-ビオース(β-D-Gal-1,3-D-GlcNAc(LNB))が、乳幼児のビフィズス菌を選択的に増やす増殖因子であることが明らかにされている。セヤル種アラビアガムから上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素によって切り出され遊離する上述のオリゴ糖は、既知のプレバイオティクスオリゴ糖とは異なる構造を有する三糖、四糖及び五糖である。上述のオリゴ糖は、ビフィズス菌、好ましくはセヤル種アラビアガム修飾糖分解酵を保有するビフィズス菌の菌体内で該菌が保有するエキソグリコシダーゼ(β-L-アラビノピラノシダーゼ、β-L-アラビノフラノシダーゼ)により単糖に分解され資化され得る。したがって、これらのオリゴ糖は、ビフィズス菌を選択的に増殖させ得る高選択性プレバイオティクスオリゴ糖として利用できる。また、これらのオリゴ糖が切り出された残余の糖鎖は、別の加水分解酵素(エキソグリコシダーゼ等)による分解を受けやすくなるため、ビフィズス菌に資化され得る。したがって、当該ビフィズス菌増殖促進剤は、そのエンドグリコシダーゼ活性によって、ビフィズス菌の生育及び増殖を促進させる。
【0056】
当該ビフィズス菌増殖促進剤は、経口投与及び非経口投与のいずれでもよく、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等とすることができる。また、非経口投与の場合、座剤、軟膏剤等とすることができる。
【0057】
また、製剤化において、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等の他に、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤等の成分を用いることができる。製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
【0058】
ビフィズス菌増殖促進剤の摂取量又は投与量は、剤形に合わせて適宜選択することができる。例えば、体重1kgあたりの1日の上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の摂取量又は投与量は、1μg/kg/日、10μg/kg/日又は100μg/kg/日である。例えば、体重1kgあたりの1日の上記ビフィドバクテリウム属細菌の摂取量又は投与量は、1×10~1×1012CFU/kg/日、1×10~1×1011CFU/kg/日又は1×10~1×1010CFU/kg/日である。ビフィドバクテリウム属細菌の培養物又は上記細菌の菌体処理物を用いる場合、その摂取量又は投与量は、当該ビフィドバクテリウム属細菌の摂取量又は投与量に換算された場合に上記摂取量又は投与量とすればよい。
【0059】
ビフィズス菌増殖促進剤中の上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の含有量は、例えば、1μg/g、10μg/g又は100μg/gである。本実施の形態に係る飲食品組成物における上記ビフィドバクテリウム属細菌の含有量は、上記摂取量に基づいて適宜選択することができるが、例えば、1×10~1×1012CFU/g、1×10~1×1011CFU/g又は1×10~1×1010CFU/gである。当該飲食品組成物における上記ビフィドバクテリウム属細菌の培養物又は細菌の菌体処理物の含有量は、上記ビフィドバクテリウム属細菌の含有量に換算された場合に上記含有量となるのが好ましい。
【0060】
上記製剤担体としては、剤形に応じて、各種有機又は無機の担体を用いることができる。固形製剤の場合の担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0061】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアガム;デキストラン;プルラン;
軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0062】
結合剤として、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等が挙げられる。
【0063】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン、セルロース誘導体等が挙げられる。
【0064】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0065】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0066】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。なお、経口投与用の液剤の場合に使用する担体としては、水等の溶剤、矯味矯臭剤等が挙げられる。
【0067】
本実施の形態における別の側面では、ビフィズス菌増殖促進剤の製造における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等の使用が提供される。また、別の側面では、ビフィズス菌増殖促進における上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等の使用が提供される。
【0068】
本実施の形態における別の側面では、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等を動物に投与するステップを含む、ビフィズス菌増殖促進方法であるともいえる。ここでの動物とは、ヒトであっても、非ヒト動物であってもよい。
【0069】
実施の形態4:オリゴ糖の製造方法
本実施の形態に係るオリゴ糖の製造方法は、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等を、セヤル種アラビアガムを含む原料に作用させるステップを含む。上述のように、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素はエンドグリコシダーゼ活性によりセヤル種アラビアガムの糖鎖からオリゴ糖を切り出し遊離することができるため、オリゴ糖を製造することができる。当該製造方法により製造されるオリゴ糖は、特に限定されないが、通常はアラビノースの還元末端を有するオリゴ糖であり、例えばβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara、β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara又はβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Araである。
【0070】
上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素等を、セヤル種アラビアガムを含む原料に作用させる条件は、特に限定されないが、通常は上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素がそのエンドグリコシダーゼ活性を発揮できる条件である。
【0071】
原料に作用させる上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素の量は、例えば、原料1gに対する量として、1μg/g、10μg/g又は100μg/gとすることができる。原料に作用させるビフィドバクテリウム属細菌の量は、原料の種類及び反応条件によって適宜定めることができるが、例えば、原料1gに対する量として、1×10~1×1012CFU/g、1×10~1×1011CFU/g又は1×10~1×1010CFU/gである。原料に作用させるビフィドバクテリウム属細菌の培養物又は細菌の菌体処理物の量は、上記ビフィドバクテリウム属細菌の量に換算された場合に上記量となるのが好ましい。
【0072】
原料は上述のとおりであって、目的とするオリゴ糖の種類によって適宜選択すればよい。例えば、セヤル種アラビアガムを原料としたときは、β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara、β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Ara及びβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-L-Araを選択的に製造することができる。
【0073】
製造されたオリゴ糖は、ビフィズス菌、特にビフィドバクテリウム・カテヌラータム、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータム(Bifidobacterium pseudcatenulatum)及びビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)を選択的に増殖させ得る高選択性プレバイオティクスオリゴ糖として利用できる。
【0074】
オリゴ糖は、化学的手法(弱酸分解処理)で調製できることは知られていた。しかし、化学的手法では、単糖にまで分解しないように時間、温度等の反応条件を厳密に制御する必要があるうえ、不純物が多く含まれるという不都合があった。本実施の形態に係るオリゴ糖の製造方法は、酵素学的手法であるため、高い選択性で効率的に目的のオリゴ糖を製造することができ、非常に有用である。
【0075】
実施の形態5:セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キット
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットは、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードするDNAに含まれる連続する少なくとも10塩基、例えば、10~20塩基又は10~30塩基を、PCR産物の塩基配列中に含むように設計されたプライマー対を備える。当該DNAは、例えば、JCM1194のBBCT_0495遺伝子(GH39)の塩基配列(配列番号4)である。
【0076】
プライマー対は、通常のPCR条件で増幅可能であること、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードする塩基配列の他の領域ではPCR産物が生じない塩基配列であること、PCR産物が定量的PCRにも適用可能なように80~550塩基対の長さになるようにすること、かつ、Tm値が55~65℃の範囲内になること、を満たすようにオリゴヌクレオチドを配列番号4に基づいて設計すればよい。
【0077】
本実施の形態に係るセヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットに含まれるPCRプライマー対は、被験試料中の核酸を鋳型としてPCRを行うことにより、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素をコードするDNAの一部を選択的に増幅し得る。また、PCRにより増幅されるDNAは、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素に固有の配列であり、他の遺伝子配列と区別される。上述のように、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素はセヤル種アラビアガムの修飾糖を分解することができるため、上記セヤル種アラビアガム修飾糖分解酵素を保有する細菌はセヤル種アラビアガム資化性を有するといえる。したがって、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットは、セヤル種アラビアガム資化菌の検出に使用することができる。
【0078】
セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットを適用し得る被験試料としては、特に限定されないが、例えば、乳酸菌の混合培養物;ヨーグルト、チーズ等の乳酸菌を含む飲食品;マウス、ラット等の実験動物;ヒトの糞便、腸液等が例示される。これらの試料から核酸を抽出する方法は、例えば、Lysozyme等の酵素、ビーズ等で物理的に細胞を破壊して抽出する方法、あるいは市販の核酸抽出キットを使用する方法等が挙げられる。
【0079】
セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットは、上記プライマー対の他に、例えば、PCR用試薬(耐熱性DNAポリメラーゼ、dNTP)、緩衝液、説明書等を備えてもよい。また、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットは、セヤル種アラビアガム資化菌の検出に必要な試薬、他の株・種・属の細菌の検出に必要な試薬等を備えてもよい。
【0080】
セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットによって、セヤル種アラビアガムの摂取で腸内ビフィズス菌が増殖するか否かを簡便に検査できる。これにより、セヤル種アラビアガムの摂取で腸内ビフィズス菌が増殖するセヤル種アラビアガムレスポンダーに対して適切なサプリメントとしてセヤル種アラビアガムを提供することもできる。
【0081】
本実施の形態における別の側面では、セヤル種アラビアガム資化菌の検出用キットを用いてPCRを行うステップを含む、セヤル種アラビアガム資化菌の検出方法が提供される。
【0082】
なお、ここで“検出”とは、セヤル種アラビアガム資化菌の存在の有無を調べる定性的な検出の意味の他に、セヤル種アラビアガム資化菌の存在量を定量的に調べるような定量的な検出(測定)の意味も含む。
【0083】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0084】
[実施例1:組換え酵素の作製]
JCM1194のゲノム情報を用いて全合成したBBCT_0495遺伝子を含むプラスミド(pET23d_SKIK_BBCT_0495Cdel93)をE.coli BL21(DE3)pLysSを用いて形質転換した。当該プラスミドの塩基配列を配列番号5に示す。なお、当該プラスミドにおいて、BBCT_0495遺伝子は、C末端の細胞壁アンカーリング領域が除かれ、C末端にHis-Tagが付加され、N末端の一部領域が可溶化させるためにSKIK配列に置換されている組換え酵素をコードするように改変されている。当該組換え酵素のアミノ酸配列を配列番号2に示す。
【0085】
氷上で融解しておいたコンピテントセル50μlにプラスミド2.5μlを加え、氷上で20分静置した。42℃で45秒間インキュベートし、氷上で2分静置した。滅菌した15mlチューブに0.9mlのSOC培地を入れ、コンピテントセルを全量加えた。37℃で1時間、振盪培養し、LBアガープレート(アンピシリン+クロラムフェニコール)に50μlずつ塗布した。LBアガープレートを37℃で一晩インキュベートし、得られたコロニーを、アンピシリン及びクロラムフェニコールを含むLB培地3mlで培養し、グリセロールストックを作成した。
【0086】
グリセロールストックを、アンピシリン及びクロラムフェニコールを含むLB培地3mlに植菌し、OD600が0.5になるまで37℃で振蕩培養した。IPTGを30μl加え、15℃で一晩培養した。
【0087】
得られた菌体3mlにBug Buster Extraction Reagent(Millipore社製)600μlを加え懸濁し、常温で10分間静置した。10倍希釈したターボヌクレアーゼ10μlを加え、常温で5分間静置した。4℃で10分間、遠心分離(12000rpm)し、上清(以下“BBCT_0495 BugBuster処理”とする)を回収した。
【0088】
上清に含まれる粗酵素をC末端に付与したHis-Tagを介して精製した。Metal Affinity Resinを1ml入れたカラムに、平衡化バッファー(50mMリン酸ナトリウム、300mM塩化ナトリウム(pH7.0))を3ml流した。粗酵素600μlに1.2mlの平衡化バッファーを加え、カラムに流した。さらに、カラムに5mlの平衡化バッファーを流した。溶出バッファー(0mMリン酸ナトリウム、300mM塩化ナトリウム、100mMイミダゾール(pH7.0))に平衡化バッファーを適当量配合し、各イミダゾール濃度(0mM、5mM、10mM、25mM、50mM)の溶出液を調製した。カラムを別の試験管に移し、0mMイミダゾールの溶出液を5ml流した。以降、5mM、10mM、25mM、50mMの順に溶出液5mlを流し、溶出画分を回収した。なお、溶出液を流すたびにカラムを別の試験管に移した。
【0089】
VIVASPIN TURBO(30kDaカットオフ、ザルトリウス・ジャパン社製)を用いて、25mM溶出画分及び50mM溶出画分の脱塩と濃縮を行った。
【0090】
(結果)
得られたサンプルについて、SDS-PAGEでタンパク質を確認したところ、予想分子量105kDa付近にバンドを検出した。
【0091】
[試験例1:組換え酵素の機能解析]
(セヤル種アラビアガムの精製と遊離オリゴ糖の回収)
セヤル種アラビアガム(ファイバーガムTAN、Acasia seyal 100%、Nexira社製)148.4gをElix水520mlに溶解した。エタノール1800ml及び6M HCl 400μlを加え、2時間低温で静置し、ガラスフィルターで吸引濾過した。フィルター上に残った沈殿画分をElix水520mlに溶解し、エタノール1800ml及び6M HCl 400μlを加え、ガラスフィルターで吸引濾過した。フィルター上に残った沈殿画分に対して、80%エタノールを200ml程度添加し、フィルター上でかき混ぜた。ガラスフィルターで吸引濾過し、再度80%エタノールで同様に洗浄した。続いて、フィルター上に残った沈殿画分にアセトンを100ml程度加え、フィルター上で混ぜた後、吸引濾過した。フィルター上の沈殿画分を回収し、ガラス皿にのせ、デシケーター内で乾燥させた。乾燥後、500ml程度のElix水に溶解させ、凍結乾燥させた。凍結乾燥させた精製セヤル種アラビアガムを、下記のセヤル種アラビアガムとして使用した。
【0092】
(セヤル種アラビアガムに対する組換え酵素の反応性)
セヤル種アラビアガムを基質として試験例1で調製した組換え酵素による酵素反応を行い、生成物をHPAEC-PADで解析した。反応組成は、基質200μl(終濃度1%)、1M酢酸バッファー(pH6.0)20μl(終濃度50mM)、組換え酵素20μl(終濃度7.01nM)及び水160μlで合計400μlとした。対照のサンプルには、組換え酵素の代わりに水を加えた。37℃で16時間インキュベート後、沸騰浴3分で反応を停止させた。
【0093】
HPAEC-PADの条件は下記のとおりである。
検出器:パルスドアンペロメトリー検出器
カラム:CarboPack PA-1
Flow:1.00mL/分
温度:30℃
取り込み時間:60分
試料導入量:25μl
溶離液:A:100mM NaOH、B:500mM CHCOONaを含む100mM NaOH
メソッド:
0~5分:A100%
5~30分:A100%→0%、B0%→100%
30~35分:B100%
35~45分:A100%
【0094】
(結果)
HPAEC-PADで得られたクロマトグラムを図1に示す。3つの遊離オリゴ糖に対応するピークが確認できた。以下、当該組換え酵素のエンドグリコシダーゼ活性を有する酵素を“endo-AAfase”ともいう。
【0095】
[試験例2:遊離オリゴ糖の精製と構造決定]
(酵素反応)
遊離オリゴ糖の構造をNMRで解析するため、メタノール環境下でセヤル種アラビアガムに組換え酵素を反応させて、遊離オリゴ糖の還元末端にメチル基を付加させた。反応液の組成を表1に示す。
【0096】
【表1】
【0097】
反応液を37℃で5日間インキュベート後、エタノールを少しずつ反応液に加え(加えたエタノールは合計1875ml、終濃度80%)、1時間撹拌した。冷蔵庫に反応液を静置し、8000rpmで10分間、遠心分離した。上清を回収し、エバポレーターで濃縮後、Elix水1000mlに溶解した。
【0098】
(活性炭カラム精製)
活性炭カラムとして、Autoprep(商標) FiberS6(6mlシリンジ)及びAutoprep(商標) FiberS@Liq(連結型)を使用した。サンプル1Lのうち400mlを、カラムを5個連結したカラムAに流し、600mlを、カラムを10個連結したカラムBに流した。カラムAでは、メタノール50ml及び水50mlで平衡化した後、サンプルを流した。続いて水600mlで洗浄し、10%メタノール200ml、25%メタノール200ml、50%メタノール200ml、100%メタノール550mlの順に流した。カラムBでは、メタノール300ml及び水300mlで平衡化した後、サンプルを流した。続いて水600mlで洗浄し、10%メタノール200ml、30%メタノール200ml、60%メタノール200ml、100%メタノール12000mlの順に流した。
【0099】
カラムAにおける50%メタノール画分及び100%メタノール画分、カラムBにおける60%メタノール画分及び100%メタノール画分を濃縮後、それぞれPBrカラム(10mm l.D.×250mm、ナカライテスク社製)で水とアセトニトリルのグラジエント溶出によって精製した。精製した各フラクションを濃縮し、凍結乾燥させた。凍結乾燥したサンプルを滅菌水100μlに溶かし、HPAEC-PAD及び高分解能ESI-TOF MSで測定した。
【0100】
H、13C、heteronuclear multiple bond correlation(HMQC)等のNMR解析を行い、糖転移物の構造を同定した。凍結乾燥したサンプルを重水(DO)に溶解した。H及び13C NMRスペクトル、並びに2Dスペクトル(H-H COSY、TOCSY、HMQC、HMBC)は、JEOL ECX 400スペクトロメーター(400 MHz)を用いて、DO中で室温にて測定した。ESI-TOFのマススペクトルは、JEOL AccuTOF JMS-T700LCKで、CFCONaを内部標準として記録した。A3-Me及びA5-Meは一部プロトンピークが近く、帰属が困難であったため、アセチル化を行い、同様に解析した。A5-Meの構造解析では、Double Quantum Filtered-COrrelation SpectroscopY(DQF-COSY)も併せて行った。
【0101】
(結果)
HPAEC-PADで得られたクロマトグラムを図2に示す。各遊離オリゴ糖についてほぼ単一のピークが得られた。ESI-TOF MSによって、糖構造を推定したところ、A3-Me(Calcd for C1628Na13[M+Na] 451.1428 found 451.1447)、A4-Me(Calcd for C2136Na1O17[M+Na] 583.1850 found 583.1827)及びA5-Me(Calcd for C2644Na21[M+Na] 715.2273 found 715.2294)において予想構造から算出される計算値と実測値とが一致した。
【0102】
A3-Meの結果では、Heteronuclear Multiple Bond Correlation(HMBC)スペクトルに、β-ArafH1/β-ArafH4、β-ArapH1/β-ArapH5、α-ArafH1/α-ArafH4のクロスピークが見られることから、フラン環構造、ピラン環構造を特定でき、それぞれ、β-Araf、β-Arap、α-Arafとなることが分かった。さらに、α-ArafH1/OMe、β-ArapH1/α-ArafC3、β-ArafH1/β-ArapC2のクロスピークがみられることから、結合位置が明らかになり、式(1)に示すβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-α-L-Araf-OMeの構造が明らかになった。なお、アセチル化したA3-Meの解析によって、β-ArapC2とC3のシグナルの重なりが解消され、それぞれのピークを帰属させることができた。A4-MeとA5-Meも同様に解析し、それぞれ、式(2)に示すβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-α-L-Araf-OMeと、式(3)に示すβ-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Araf-(1→2)-β-L-Arap-(1→3)-α-L-Araf-OMeの構造が明らかになった。
【0103】
【化1】
【0104】
【化2】
【0105】
【化3】
【0106】
[試験例3:セヤル種アラビアガムを用いた2種のビフィズス菌の共培養資化性試験]
Bifidobacterium longum JCM1217(以下“JCM1217”とする)及びJCM1194を使用した。まず、次のように前培養を行った。MRS培地(MRS:水=2.75g:50ml)に終濃度が0.04%になるようにL-システイン塩酸塩一水和物を加えた。培地を試験管に10mlずつ分注し、オートクレーブ(121℃、20分)を行った。培地に植菌し、ジャーに試験管とアネロパックを入れ嫌気条件にし、37℃で18時間、静置培養した。
【0107】
セヤル種アラビアガム(終濃度1%)を唯一の炭素源として含むMRS培地で本培養を行った。本培養に使用した培地の組成を下記に示す。
【0108】
【表2】
【0109】
試験管に2×MRSを5ml、糖源としての2%セヤル種アラビアガムを5mlずつ分注し、オートクレーブ(121℃、20分)した。前培養した菌体を100μlずつ本培養の培地に植菌した。ジャーに植菌した試験管、アネロパックを入れ嫌気状態にし、37℃で静置培養した。培養開始から6、9.5、12、24、32時間後の吸光度(600nm)を測定した。培養開始から32時間後の培地を1mlずつ採取し、15000rpmで10分間、遠心分離してから得た上清を1μlずつTLCにスポットし、展開した。
【0110】
TLCでは、プレート(TLC aluminium sheet、silicagel60)にサンプルとスタンダードをスポットし風乾した。展開層に展開溶媒(n-プロパノール:エタノール:水=7:1:2)を適量注ぎ、シートを浸して展開させた。展開溶媒が上部まで上がったら、シートを取り出し、ドラフト内で風乾した。発色剤を噴霧、再度風乾し、130℃で1分程度加熱処理した。発色剤は、1%FeClを含む10%硫酸と6%オルシノールとを10:1で混合したオルシノール硫酸である。
【0111】
(結果)
図3は、培地の吸光度の経時変化を示す。BBCT_0495遺伝子を有するJCM1194が良好に増殖した一方、BBCT_0495遺伝子を有していないJCM1217は僅かしか増殖しないことが確認された。さらに、共培養した場合が最も高い吸光度を示した。
【0112】
図4は、TLCの展開後のプレートを示す。培養後の残存糖にS4(α-L-Rhap-(1→4)-β-D-GlcpA-(1→6)-β-D-Galp-(1→6)-D-Gal)の蓄積が確認された。これは、endo-AAfaseの作用により、セヤル種アラビアガムの修飾β-アラビノオリゴ糖が除去され、JCM1217が有するAGP分解酵素群が作用したことを示す。
【0113】
[試験例4:BBCT_0495遺伝子保有株の調査]
クエリー配列を配列番号1に示すBBCT_0495のアミノ酸配列として、米国生物工学情報センターのBLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)のtblastnを用いて、コンプリートゲノム又はコンティグ上での相同配列を、検索対象データベースを塩基配列として検索した。NCBIデータベースに登録されている株のうち、tblastnの検索結果にてIdentity及びcoverageがともに90%以上で検出されたものを遺伝子保有株として算出した。
【0114】
(結果)
ビフィドバクテリウム・カテヌラータムは58株中5株(8.6%)、ビフィドバクテリウム・シュードカテヌラータムは284株中19株(6.7%)、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスは199株中17株(8.5%)がBBCT_0495遺伝子を保有していた。なお、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスにおいては、Identityが77%で、coverageが73%と中程度に類似の配列を有する株が検出され、それらを含めると199株中37株(18.6%)であった。
【0115】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明は、プレバイオティクス含有食品の製造に有用である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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