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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025055
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】柱と杭との接合構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/00 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
E02D27/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129495
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】591205536
【氏名又は名称】JFEシビル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】亀田 哲二郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 航平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 唯
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳一
(72)【発明者】
【氏名】竹内 雅人
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046AA15
2D046AA16
2D046AA17
(57)【要約】
【課題】 柱と杭とを直接的に接合して基礎フーチングや基礎梁を省略する柱と杭との接合構造において、構造の合理性および経済性、ならびに接合作業の効率性を高める。
【解決手段】 柱と杭との接合構造であって、前記柱の下端には、ベースプレートと、該ベースプレートから下方に前記杭の上端よりも高い位置まで延出し前記柱よりも小さい外寸を有するアンカーパイプとが設けられ、前記杭の上端には、前記アンカーパイプを取り囲むように上方に延出する複数本のスタッドが設けられ、前記複数本のスタッドを外周側から取り囲むフープ筋が設けられ、前記杭が地盤上に突出する部分から前記ベースプレートの下面までの空間に、前記アンカーパイプ、前記複数本のスタッドおよび前記フープ筋の周囲を覆うようにコンクリートが充填されている、柱と杭との接合構造。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と杭との接合構造であって、
前記柱の下端には、ベースプレートと、該ベースプレートから下方に前記杭の上端よりも高い位置まで延出し前記柱よりも小さい外寸を有するアンカーパイプとが設けられ、
前記杭の上端には、前記アンカーパイプを取り囲むように上方に延出する複数本のスタッドが設けられ、
前記複数本のスタッドを外周側から取り囲むフープ筋が設けられ、
前記杭が地盤上に突出する部分から少なくとも前記ベースプレートの下面までの空間に、前記アンカーパイプ、前記複数本のスタッドおよび前記フープ筋の周囲を覆うようにコンクリートが充填されている、柱と杭との接合構造。
【請求項2】
前記フープ筋は、前記スタッドに接する位置に配設されている、請求項1に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項3】
前記フープ筋を外周側からさらに取り囲む補強フープ筋が設けられている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項4】
前記ベースプレートと、前記アンカーパイプとの間を補剛するスチフナが設けられている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項5】
前記ベースプレートの下面に、前記コンクリートと係合する係合部が設けられている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【請求項6】
前記杭が地盤上に突出する部分を取り囲むように、地盤上に設置または前記杭の上端に固定された、複数本の建方用アンカーボルトが設けられ、
前記ベースプレートには、建方用締結部が設けられ、
前記建方用アンカーボルトに前記建方用締結部が締結されることにより、前記柱の前記杭に対する位置決めがなされている、請求項1または2に記載の柱と杭との接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と杭との接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
杭と上部構造物とを接合する方法としては、鉄筋コンクリート製の基礎フーチングや基礎梁等を介して接合する方法が多く用いられるが、配筋が繁雑になったり地盤の掘削土量が増えたりするため、コストの低減や工期の短縮が阻害される。
【0003】
そこで、掘削土量を削減すべく、基礎フーチングや基礎梁を省略して杭と柱とを直接的に接合する工法が試みられている。
【0004】
例えば、特許文献1に開示される鉄骨柱と既成杭との接合構造では、既製杭の上端部に拡頭部を設け、鉄骨梁の柱脚を、拡頭部に充填されたコンクリートに定着させて、鉄骨梁と既成杭とを接合している。このような構造とすることにより、鉄骨柱の平面的な接合位置の自由度を高め、既製杭の打設時に生じる施工誤差を吸収し、施工性の向上を図っている。また、既製杭の上端部に設けた拡頭部において、鉄骨柱の柱脚の定着部分を鉄筋コンクリートで包み込むことで、鉄骨柱と既製杭とを強固に接合することを可能としている。
【0005】
また、特許文献2に開示される杭と柱との接合構造では、柱の下端部に、ベースプレートから下方に延出するとともに、柱よりも小さい外寸を有するシアキー(アンカーパイプ)を設けている。そして、中空断面を有する杭の上端部内に、柱の下端部のシアキーを挿入した状態で、杭の上端部から少なくとも前柱のベースプレートの下面までの空間に、シアキーの周囲を覆うようにコンクリートを充填することで、杭と柱とを接合している。このような構造とすることにより、掘削土量の削減、使用鉄骨量の削減等により構造の簡素化、コストダウンを図るとともに、接合形態を半剛接合に調整することで、上方の柱から接合部に伝達される曲げモーメントを低減して、合理性及び経済性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-255003号公報
【特許文献2】特開2022-162221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に開示される鉄骨柱と既成杭との接合構造では、既製杭の上端部に設けられた拡頭部に、鉄骨梁の柱脚を直接挿入するか、鉄骨梁の柱脚のベースプレートを締結するアンカーボルトを挿入して、拡頭部内のコンクリートに定着させている。
【0008】
このため、既製杭の上端部に設ける拡頭部の内径は、鉄骨柱の外寸またはアンカーボルトの間隔よりも大きくする必要がある。したがって、鉄骨柱の外寸が大きい場合や、既成杭の外径が小さい場合には、鉄骨柱の平面的な接合位置の自由度を高める効果が発揮されにくい。
【0009】
また、特許文献1に開示される鉄骨柱と既成杭との接合構造では、鉄骨柱と既製杭とを強固に接合、すなわち剛接合することが記載されているが、一般的には、鉄骨柱と既製杭との接合を半剛接合にする方が、設計上有利である。
【0010】
また、特許文献2に開示される杭と柱との接合構造では、柱の下端部から下方に延出するようにシアキーを設け、中空断面を有する杭の上端部内に挿入して、その周囲を覆うようにコンクリートを充填することで、杭と柱とを接合している。
【0011】
このため、特許文献2に記載の接合構造では、中空断面を有する杭の上端部内に、柱の下端部のシアキーを挿入できるように、杭の上端部内の土砂を掘削して除去する必要があり、接合作業に時間および費用を要する。また、すなわち、柱の下端部に設けるシアキーの外寸は、杭と柱との接合構造の強度や剛性に大きく影響するところ、シアキーの外寸を杭の上端部の内径よりも小さくする必要があるため、杭と柱との接合構造の性能が、杭の仕様により制限される。
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、柱と杭とを直接的に接合して基礎フーチングや基礎梁を省略する柱と杭との接合構造において、構造の合理性および経済性、ならびに接合作業の効率性を高めることを目的とする。具体的には、柱の平面的な接合位置の自由度を高め、掘削土量を削減して柱と杭との接合作業の効率性、経済性を高めることを目的とする。また、柱と杭との接合形態を半剛接合とすることで、上方の柱から接合部に伝達される曲げモーメントを低減して、構造物全体の合理性及び経済性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
[1] 柱と杭との接合構造であって、前記柱の下端には、ベースプレートと、該ベースプレートから下方に前記杭の上端よりも高い位置まで延出し前記柱よりも小さい外寸を有するアンカーパイプとが設けられ、前記杭の上端には、前記アンカーパイプを取り囲むように上方に延出する複数本のスタッドが設けられ、前記複数本のスタッドを外周側から取り囲むフープ筋が設けられ、前記杭が地盤上に突出する部分から少なくとも前記ベースプレートの下面までの空間に、前記アンカーパイプ、前記複数本のスタッドおよび前記フープ筋の周囲を覆うようにコンクリートが充填されている、柱と杭との接合構造。
【0014】
ここで、コンクリートが充填される空間の下端となる地盤には、砕石が敷き込まれ、さらに捨てコンクリートが打設されることが一般的である。この場合、「杭が地盤上に突出する部分」とは、杭のうち砕石および捨てコンクリートの上に突出する部分を意味するものとする。
[2] 前記フープ筋は、前記スタッドに接する位置に配設されている、[1]に記載の柱と杭との接合構造。
[3] 前記フープ筋を外周側からさらに取り囲む補強フープ筋が設けられている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
[4] 前記ベースプレートと、前記アンカーパイプとの間を補剛するスチフナが設けられている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
[5] 前記ベースプレートの下面に、前記コンクリートと係合する係合部が設けられている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
[6] 前記杭が地盤上に突出する部分を取り囲むように、地盤上に設置または前記杭の上端に固定された、複数本の建方用アンカーボルトが設けられ、前記ベースプレートには、建方用締結部が設けられ、前記建方用アンカーボルトに前記建方用締結部が締結されることにより、前記柱の前記杭に対する位置決めがなされている、[1]または[2]に記載の柱と杭との接合構造。
【発明の効果】
【0015】
本発明の柱と杭との接合構造によれば、柱と杭とを直接的に接合して基礎フーチングや基礎梁が不要となることにより掘削土量及び使用鉄骨量を削減して、構造の簡素化及びコストダウンを図ることができる。
【0016】
さらに、柱の下端に設けられるアンカーパイプの外寸は柱よりも小さく、かつ、アンカーパイプの延出長さは杭の上端よりも高い位置までとされるため、杭の上端部内には挿入されない。よって、柱の平面的な接合位置の自由度が高められ、掘削土量が削減されて、柱と杭との接合作業の効率性、経済性が高められる。
【0017】
そして、柱よりも小さい外寸を有するアンカーパイプ、スタッドボルト、およびフープ筋の周囲を覆うようにコンクリートが充填されることにより、杭と柱とが接合されている。これにより、柱と杭との接合形態が半剛接合となるため、上方の柱から接合部に伝達される曲げモーメントが低減され、構造物全体の合理性及び経済性が高められる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の柱と杭との接合構造が適用される建築物の一例を示す斜視図である。
図2図2(a)および図2(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の一例を示す縦断面図および平面図である。
図3図3(a)および図3(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の他の一例を示す縦断面図および平面図である。
図4図4は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
図5図5は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
図6図6は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
図7図7は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
図8図8は、本発明の柱と杭との接合構造のさらに他の一例を示す縦断面図である。
図9図9(a)及び図9(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
図10図10(a)及び図10(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
図11図11(a)及び図11(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
図12図12(a)及び図12(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
図13図13(a)及び図13(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
図14図14(a)及び図14(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
図15図15(a)及び図15(b)は、本発明の柱と杭との接合構造の施工手順を示す平面図及び縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の柱と杭との接合構造の実施形態について、具体的に説明する。本発明の柱と杭との接合構造は、低層建築物の柱と杭とが接合される箇所等、柱に大きな引抜力が作用しない部位に適用される。
<柱と杭との接合構造>
[第一の実施形態]
図1に、本発明の第一の実施形態の柱と杭との接合構造が適用された建築物の斜視図を示す。また、図2(a)および図2(b)に、第一の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図および平面図を示す。
【0020】
図1に示すように、第一の実施形態の柱と杭との接合構造は、低層の鉄骨造建築物の鉄骨柱2と、中空断面を有するPHC杭(遠心成形プレストレスト高強度コンクリート杭)1とが接合される箇所に用いられる。図1に示すように、この鉄骨造建築物の鉄骨柱2の柱脚には基礎梁やフーチングが設けられず、鉄骨柱2の各々の柱脚にPHC杭1が直接接合されている。
【0021】
具体的には、図2(a)および図2(b)に示すように、地盤Gの根切り内においてプレボーリングし、根固め液(図示せず)および杭周固定液(図示せず)を注入した上で、PHC杭1が、その上部が地盤Gの根切り表面から突出する状態に沈設されて建て込まれている。地盤Gの根切り部分において、PHC杭1の周囲には、砕石61が敷きこまれ、さらに捨てコンクリート62が打設されている。本実施形態では、地盤G上に突出するPHC杭1は、捨てコンクリート62の上端から、例えば75mm突出する状態に建て込まれる。
【0022】
一方、鉄骨柱2の下端には、ベースプレート21と、ベースプレート21から下方にPHC杭1の上端よりも高い位置まで延出し、鉄骨柱2よりも小さい外寸を有するアンカーパイプ23とが設けられている。本実施形態の柱と杭との接合構造では、アンカーパイプ23は継目無鋼管から構成されており、大きな強度及び耐力が要求される箇所にも適用可能な構造とされているが、アンカーパイプ23は、他の鋼管や形鋼等から構成されていても良い。また、本実施形態の柱と杭との接合構造が、ブレースが取り付かない柱脚等に用いられる場合には、アンカーパイプ23を極太の鉄筋やその他の棒鋼により構成して、PHC杭1と鉄骨柱2との接合部の曲げ剛性を小さくしてもよい。このようにすると、PHC杭1の杭頭および鉄骨柱2の柱脚に発生する曲げモーメントが小さくなり、合理的な構造とすることができる。
【0023】
図2(a)および図2(b)に示すように、アンカーパイプ23の下端には、アンカーパイプ23の側方に突出する支圧板24が設けられている。また、ベースプレート21とアンカーパイプ23には、両者の間を補剛するスチフナ26が設けられており、ベースプレート21の耐力及び剛性が高められている。
【0024】
また、図2(a)および図2(b)に示すように、PHC杭1の上端部に設けられるリング状の端板11の上には、アンカーパイプ23を取り囲むように、杭本体から上方に延出するスタッドボルト13が複数本設けられている。具体的には、PHC杭1の端板11に、所定間隔でねじ穴を設けておき、このねじ孔の各々に、スタッドボルト13の下端部が螺入されることで、端板11から上方に延出するスタッドボルト13が設けられている。
【0025】
あるいは、上述の構造に代えて、PHC杭1の上端部に設けられるリング状の端板11と同様の平面形状を有する重ねプレートの上面に、異形鉄筋やボルト等からなるスタッドを予め溶接等により接合したものを用意する。そして、PHC杭1の上端の端板11に、ボルト締結等により上記重ねプレートを固定することにより、端板11から上方に延出するスタッドを設けるようにしても良い
さらに、図2(a)および図2(b)に示すように、PHC杭1の上端から上方に延出する複数本のスタッドボルト13の外周側には、これら複数本のスタッドボルト13を外周側から取り囲むように、フープ筋14が三段設けられている。各フープ筋14は、スタッドボルト13に接するように、スタッドボルト13の外側に巻設され、結束線や点溶接等によりスタッドボルト13に留め付けられている。フープ筋14に、例えば785N/mm級(降伏強度が785N/mm以上と規定される鉄筋)等の高強度の溶接閉鎖型フープ筋を用いると、後述するコンクリート4のせん断強度及びせん断耐力を効果的に高めることができるので好ましい。
【0026】
そして、図2(a)および図2(b)に示すように、PHC杭1が地盤G上に突出する部分からベースプレート21の下面までの空間に、アンカーパイプ23、スタッドボルト13、およびフープ筋14の周囲を覆うようにコンクリート4が充填される。本実施形態では、コンクリート4が充填される空間の下端となる地盤Gには、砕石61が敷き込まれ、さらに捨てコンクリート62が打設されているが、「PHC杭1が地盤G上に突出する部分」とは、PHC杭1のうち砕石61および捨てコンクリート62の上に突出する部分を意味するものとする。捨てコンクリート62の上に突出するPHC杭1の突出高さは、例えば75~150mmの範囲内に設定することが好ましい。これにより、PHC杭1と鉄骨柱2とが接合される。
【0027】
本実施形態の柱と杭との接合構造では、PHC杭1が地盤G上に突出する部分を取り囲むように、地盤Gの根切り部分の捨てコンクリート62の上に、複数本の建方用アンカーボルト31が設けられている。また、PHC杭1のベースプレート21の側縁には、鋼板からなる建方用締結部32が溶接されている。建方用締結部32は、例えば、厚さ40mmの鋼板を二枚重ねて組み合わることにより構成され、建方用アンカーボルト31に対応する位置にボルト孔(図示せず)が設けられている。このボルト孔から建方用締結部32の上に突出する建方用アンカーボルト31にナット33を螺合させることで、建方用締結部32が建方用アンカーボルト31に締結されている。これにより、鉄骨柱2のPHC杭1に対する位置決めがなされている。
【0028】
鉄骨柱2の柱脚の周囲には、必要に応じて床スラブ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0029】
なお、本実施形態において、スチフナ26は必ずしも必須でないが、柱と杭との接合形態を半剛接合に調整すべく、必要に応じて本実施形態のようにスチフナ26を設けてベースプレート21の耐力及び剛性を高めると好ましい。
[第二の実施形態]
図3(a)および図3(b)に、本発明の第二の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図および平面図を示す。第二の実施形態の柱と杭との接合構造において、第一の実施形態の柱と杭との接合構造と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
【0030】
図3(a)および図3(b)に示すように、第二の実施形態の柱と杭との接合構造では、第一の実施形態の柱と杭との接合構造における各段のフープ筋14を外周側からさらに取り囲むように、補強フープ筋15が三段設けられている。補強フープ筋15は、捨てコンクリート62の上に設けられたサイコロ(図示せず)等により固定される。補強フープ筋15に、フープ筋14と同様に、例えば785N/mm級(降伏強度が785N/mm以上と規定される鉄筋)等の高強度の溶接閉鎖型フープ筋を用いると、コンクリート4のせん断強度及びせん断耐力を効果的に高めることができるので好ましい。
【0031】
そして、図3(a)および図3(b)に示すように、PHC杭1が地盤G上に設けられた砕石61および捨てコンクリート62の上に突出する部分からベースプレート21の下面までの空間に、アンカーパイプ23、スタッドボルト13、フープ筋14、および補強フープ筋15の周囲を覆うようにコンクリート4が充填される。これにより、PHC杭1と鉄骨柱2とが接合されている。他の点については、第二の実施形態の柱と杭との接合構造は、第一の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0032】
第二の実施形態のように、フープ筋14を外周側からさらに取り囲むように、さらに補強フープ筋15を設けることにより、より大きなせん断力に耐えうる接合構造となる。また、柱と杭との接合構造のせん断耐力を維持しつつ、水平方向に扁平な形状にして高さを抑えることができるので、経済的な構造となる。
[第三の実施形態]
図4に、本発明の第三の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。第三の実施形態の柱と杭との接合構造において、第二の実施形態の柱と杭との接合構造と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
【0033】
図4に示すように、第三の実施形態の柱と杭との接合構造では、第二の実施形態の柱と杭との接合構造におけるスチフナ26が省略されている。他の点については、第三の実施形態の柱と杭との接合構造は、第二の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0034】
第三の実施形態のように、ベースプレート21とアンカーパイプ23の間を補剛するスチフナ26を省略することにより、PHC杭1と鉄骨柱2との接合部の曲げ剛性を小さく調整して、上方の鉄骨柱2から接合部に伝達される曲げモーメントを小さくすることができる。併せて、ベースプレート21を降伏させて、曲げ変形させることにより、十分な塑性変形能力を確保することができる。
[第四の実施形態]
図5に、本発明の第四の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。第四の実施形態の柱と杭との接合構造において、第三の実施形態の柱と杭との接合構造と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
【0035】
図5に示すように、第四の実施形態の柱と杭との接合構造では、第三の実施形態の柱と杭との接合構造におけるアンカーパイプ23の下端に設けられ側方に突出する支圧板24に加えて、アンカーパイプ23の中間部にも、アンカーパイプ23の側方に突出する支圧板25が設けられている。
【0036】
他の点については、第四の実施形態の柱と杭との接合構造は、第三の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0037】
第四の実施形態のように、アンカーパイプ23の側方に突出する支圧板24、25を、複数箇所に設けることにより、さらに大きな軸方向力に耐えうる接合構造となる。
[第五の実施形態]
図6に、本発明の第五の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。第五の実施形態の柱と杭との接合構造において、第三の実施形態の柱と杭との接合構造と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
【0038】
図6に示すように、第五の実施形態の柱と杭との接合構造では、第三の実施形態の柱と杭との接合構造における鉄骨柱2のベースプレート21の下面に、コンクリート4と係合する係合部22が設けられている。係合部22には、例えばサイズ25mm×32mm×450mm程度のフラットバーを用いることができる。
【0039】
他の点については、第五の実施形態の柱と杭との接合構造は、第三の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0040】
第五の実施形態のように、鉄骨柱2のベースプレート21の下面に、コンクリート4と係合する係合部22を設けることにより、より大きなせん断力に耐えうる接合構造となる。これは、鉄骨柱2からPHC杭1にせん断力が作用するときに、PHC杭1の上端部の内面の水平方向横側部分との間にコンクリートストラットが形成されるためである。
[第六の実施形態]
図7に、本発明の第六の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。第六の実施形態の柱と杭との接合構造において、第五の実施形態の柱と杭との接合構造と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
【0041】
図7に示すように、第六の実施形態の柱と杭との接合構造では、第五の実施形態の柱と杭との接合構造において、PHC杭1の上端部の外周に、補強バンド16が巻かれている。補強バンド16は、鋼板、鋼線、又は炭素繊維等からなるワイヤを、PHC杭1の上端部の外周に巻き付けることで構成される。
【0042】
他の点については、第六の実施形態の柱と杭との接合構造は、第五の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0043】
第六の実施形態のように、PHC杭1の上端部の外周に、補強バンド16が巻かれ、PHC杭1の円周方向応力に対して抵抗することにより、PHC杭1の上端部の内面に水平方向に作用する荷重への耐力が高められ、さらに大きなせん断力及び柱脚部の曲げモーメントに耐えうる接合構造となる。
[第七の実施形態]
図8に、本発明の第七の実施形態の柱と杭との接合構造の縦断面図を示す。第七の実施形態の柱と杭との接合構造において、第二の実施形態の柱と杭との接合構造と同じ構成には同じ参照番号を付し、その説明を省略する。
【0044】
図8に示すように、第七の実施形態の柱と杭との接合構造では、第二の実施形態の柱と杭との接合構造における建方用アンカーボルト31が、捨てコンクリート62の上ではなく、PHC杭1の上端部に設けられた重ねプレート12の外周側への延長部にナット34で締結されて設けられている。そして、PHC杭1のベースプレート21の側縁に溶接された建方用締結部32が、建方用アンカーボルト31にナット33で締結されることにより、鉄骨柱2のPHC杭1に対する位置決めがなされている。
【0045】
他の点については、第七の実施形態の柱と杭との接合構造は、第二の実施形態の柱と杭との接合構造と同様に構成されている。
【0046】
上記各実施形態の柱と杭との接合構造においては、各構成要素の形状、寸法および強度を適宜変更することにより、柱と杭との接合構造の耐力及び剛性を所望の大きさに調整できる。例えば、ベースプレート21の板厚、係合部22のサイズ、アンカーパイプ23の外寸、肉厚、支圧板24、25の板厚、突出幅、数及び配置、スチフナ26の板厚、数及び配置、PHC杭1の上端部への挿入深さ等が調整対象となる。これにより、柱と杭との接合構造の圧縮耐力、引張耐力、曲げ耐力、せん断耐力、圧縮剛性、引張剛性、曲げ剛性、せん断剛性を調整できる。
【0047】
このような調整を行うことで、例えば柱と杭との接合構造の接合形態を半剛接合とし、て、接合部に生じる曲げ力を低減でき、接合構造全体の経済設計が可能となる。
【0048】
また、上述の通り、本発明の柱と杭との接合構造は、低層建築物の柱と杭とが接合される箇所等、柱に大きな引抜力が作用しない部位に適用されるが、例えば鉄骨柱2の間にブレースが設けられる場合には、PHC杭1と鉄骨柱2との間に軸方向引張力が作用する。そこで、この軸方向引張力に耐えるように、上述の調整を行うことが好ましい。
<柱と杭との接合構造の施工方法>
上記各実施形態の柱と杭との接合構造の施工方法について、図9図15を参照して説明する。以下では、第三の実施形態の柱と杭との接合構造を施工する場合について、説明する。
【0049】
まず、図9(a)の平面図及び図9(b)の縦断面図に示すように、地盤Gを根切りし、根切り内においてプレボーリングし、根固め液(図示せず)および杭周固定液(図示せず)を注入した上で、PHC杭1を沈設して、PHC杭1を建て込む。杭周固定液は、PHC杭1の建て込み時に、ボーリング孔の孔壁を保護するとともに、孔壁とPHC杭1との隙間を埋めて周辺地盤との密着性を図るものである。ボーリング孔中にPHC杭1を沈設する際には、杭周固定液がPHC杭1の中空部にも流入する。PHC杭1の上端には、リング状の端板11が予め設けられている。このとき、PHC杭1の上端部(例えば、PHC杭1の上端から300mm程度の部分)が、根切り部の地盤Gの表面から突出するようにする。
【0050】
なお、地盤GにPHC杭1を建て込む際には、必ずしも杭周固定液を用いなくても良い。
【0051】
次に、図10(a)の平面図及び図10(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1の上端に設けられるリング状の端板11の各ねじ穴にスタッドボルト13を螺入する。これにより、アンカーパイプ23を取り囲むように、杭本体から上方に延出するスタッドボルト13が複数本設けられる。
【0052】
次に、図11(a)の平面図及び図11(b)の縦断面図に示すように、地盤Gの根切り部分に、PHC杭1の周囲を取り囲むように、砕石61を敷き詰め、捨てコンクリート62を打設する。このとき、地盤Gに設置されたPHC杭1が地盤G上に突出する部分を取り囲むように、地盤G上に複数本の建方用アンカーボルト31を設置し、地盤Gの根切り部分の捨てコンクリート62に固定させておく。
【0053】
図11(a)及び図11(b)に示すように、建築物の設計や、施工現場の状況等に応じて、PHC杭1の杭芯に対して複数本の建方用アンカーボルト31の配置の基準軸が、所定寸法(例えば80mm)だけ水平方向に偏心するようにしても良い。このとき、捨てコンクリート62上の柱芯位置に墨出しを行い、この墨出しに複数本の建方用アンカーボルト31の配置の基準軸を合わせて、捨てコンクリート62に固定する。建方用アンカーボルト31は、鉄骨柱2のPHC杭1に対する位置決めをするために、鉄骨柱2の柱脚部の一節を仮支持するために設けられる。
【0054】
次に、図12(a)の平面図及び図12(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1の上端から上方に延出する複数本のスタッドボルト13の外周側に、これら複数本のスタッドボルト13を外周側から取り囲むように、フープ筋14を設置する。このとき、各フープ筋14をスタッドボルト13に接するように配置して、結束線や点溶接等によりスタッドボルト13に留め付ける。また、フープ筋14を外周側からさらに取り囲むように、サイコロ(図示せず)等を用いて、捨てコンクリート62の上に補強フープ筋15を設置する。
【0055】
次に、図13(a)の平面図及び図13(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1のベースプレート21の側縁に、鋼板からなる建方用締結部32を溶接する。この状態で、PHC杭1の上端部に設けられた複数本のスタッドボルト13およびフープ筋14の内側に、鉄骨柱2のアンカーパイプ23が挿入されるようにして、鉄骨柱2を建て込む。このとき、建方用締結部32に設けられた各ボルト孔に、建方用アンカーボルト31を挿通されるようにする。そして、鉄骨柱2のレベルを調整し、建方用アンカーボルト31にナット33を螺合させることで、建方用締結部32を建方用アンカーボルト31に締結して仮固定する。
【0056】
次に、図14(a)の平面図及び図14(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1が地盤G上に突出する部分の外周を取り囲むように、例えば円形捨て型枠(捨て型枠)5を設置する。さらに、図15(a)の平面図及び図15(b)の縦断面図に示すように、PHC杭1が地盤G上に突出する部分から鉄骨柱2のベースプレート21の下面までの空間に、アンカーパイプ23の周囲を覆うようにコンクリート4を充填して硬化させる。このとき、PHC杭1の内部には、杭周固定液が充填されているため、アンカーパイプ23の下方のPHC杭1の内側には、コンクリート4の下面を形成するための型枠を設ける必要がない。また、上述のとおり、地盤GにPHC杭1を建て込む際には、必ずしも杭周固定液を用いなくても良い。この場合も、PHC杭1の内部には、コンクリート4の下面を形成するための型枠を設ける必要は必ずしもなく、アンカーパイプ23の周囲がコンクリート4により完全に覆われるようにすればよい。PHC杭1の内部空間が掘削土等で埋まることなく空洞となっている場合には、必要に応じて、アンカーパイプ23の下方の高さに、コンクリート4の下面を形成するための捨て型枠を設け、コンクリート4の量を節約するようにすることもできる。これにより、柱と杭との接合構造の施工が完了する。その後、必要に応じて、図15(b)に示すように、鉄骨柱2の柱脚の周囲に床スラブ7を設けてもよい。
【0057】
円形捨て型枠5に代えて、再利用可能な型枠を用いても良いが、捨て型枠を用いることにより、作業の安全性や効率を高めることができる。また、型枠の形状は、必ずしも円形に限られず、PHC杭1が地盤上に突出する部分の外周を取り囲むように設置可能な形状であれば、適宜形状を変更しても良い。
【0058】
上記各実施形態の柱と杭との接合構造によれば、鉄骨柱2とPHC杭1とを直接的に接合して基礎フーチングや基礎梁が不要となることにより掘削土量及び使用鉄骨量を削減して、構造の簡素化及びコストダウンを図ることができる。
【0059】
さらに、鉄骨柱2の下端に設けられるアンカーパイプ23の外寸は鉄骨柱2よりも小さく、かつ、アンカーパイプ23の延出長さはPHC杭1の上端よりも高い位置までとされるためPHC杭1の上端部内には挿入されない。よって、鉄骨柱2の平面的な接合位置の自由度が高められ、掘削土量が削減されて、鉄骨柱2とPHC杭1との接合作業の効率性、経済性が高められる。
【0060】
そして、鉄骨柱2よりも小さい外寸を有するアンカーパイプ23、スタッドボルト13、およびフープ筋14の周囲を覆うようにコンクリート4が充填されることにより、PHC杭1と鉄骨柱2とが接合されている。これにより、鉄骨柱2とPHC杭1との接合形態が半剛接合となるため、上方の鉄骨柱2から接合部に伝達される曲げモーメントが低減され、構造物全体の合理性及び経済性が高められる。
【0061】
なお、上記各実施形態では、PHC杭1と鉄骨柱2との接合構造について説明したが、本発明の柱と杭との接合構造はこれに限られない。例えば、PRC杭(遠心成形プレストレスト鉄筋高強度コンクリート杭)、SC杭(遠心成形外殻鋼管付きコンクリート杭)、鋼管杭等の、中空断面を有する種々の既製杭と、下端部にベースプレートを備える種々の柱との接合構造にも適用可能である。また、本発明の柱と杭との接合構造は、場所打ちコンクリート杭等の中実断面を有する杭と、種々の柱との接合構造にも適用可能である。
【0062】
また、上記各実施形態では、フープ筋14及び補強フープ筋15が三段設けられている例について説明したが、コンクリート4のせん断強度及びせん断耐力を効果的に高める作用が発揮される限り、フープ筋14及び補強フープ筋15の段数はこれに限られるものでない。
【0063】
また、上記各実施形態では、建築物の基礎梁が省略されている例について説明したが、鉄骨柱2の柱脚の間を連結する鉄骨からなる基礎梁が設けられる場合も、本発明を同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 PHC杭(杭)
11 端板
12 重ねプレート
13 スタッドボルト
14 フープ筋
15 補強フープ筋
16 補強バンド
2 鉄骨柱(柱)
21 ベースプレート
22 係合部
23 アンカーパイプ
24、25 支圧板
26 スチフナ
31 建方用アンカーボルト
32 建方用締結部
33、34 ナット
4 コンクリート
5 円形捨て型枠(捨て型枠)
61 砕石
62 捨てコンクリート
7 床スラブ
G 地盤
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15