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2025-25077内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025077
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01T 13/20 20060101AFI20250214BHJP
   H01T 21/02 20060101ALI20250214BHJP
   H01T 13/39 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H01T13/20 B
H01T13/20 E
H01T21/02
H01T13/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129527
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀 恭輔
【テーマコード(参考)】
5G059
【Fターム(参考)】
5G059AA04
5G059DD11
5G059DD28
5G059EE01
5G059EE06
5G059EE15
5G059EE20
5G059EE21
5G059JJ06
5G059JJ07
(57)【要約】
【課題】接地側チップと電極母材との接合性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】スパークプラグにおいて、接地電極6は、電極母材61と、電極母材61に溶接された接地側チップ62と、を有する。電極母材61は、接地側チップ62が溶接される外層部611と、外層部611よりも熱伝導率が高い芯部612と、を有する。また、厚み方向から見て接地側チップ62と重なる、接地側チップ62と外層部611との溶接部63における、溶接部63の投影面積に対する、溶接部63に含まれる金属酸化物層64の投影面積の割合である酸化物層割合は、10%以下である。溶接部63の投影面積は、厚み方向から投影した溶接部63の投影面積であり、溶接部63に含まれる金属酸化物層64の投影面積は、厚み方向から投影した溶接部63に含まれる金属酸化物層64の投影面積である。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の絶縁碍子(3)と、
前記絶縁碍子の内周側に保持されると共に前記絶縁碍子から先端側に露出した中心電極(4)と、
前記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、を有し、
前記接地電極は、電極母材(61)と、前記電極母材に溶接された接地側チップ(62)と、を有し、
前記電極母材は、前記接地側チップが溶接される外層部(611)と、前記外層部の内部に配されると共に前記外層部よりも熱伝導率が高い芯部(612)と、を有し、
前記接地側チップは、前記接地側チップの厚み方向(Y)の一方側の端部が前記外層部に溶接されており、
前記厚み方向から見て前記接地側チップと重なる、前記接地側チップと前記外層部との溶接部(63)における、前記厚み方向から投影した前記溶接部の投影面積に対する、前記厚み方向から投影した前記溶接部に含まれる金属酸化物層(64)の投影面積の割合である酸化物層割合は、10%以下である、内燃機関用のスパークプラグ(1)。
【請求項2】
筒状の絶縁碍子(3)と、
前記絶縁碍子の内周側に保持されると共に前記絶縁碍子から先端側に露出した中心電極(4)と、
前記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、を有し、
前記接地電極は、電極母材(61)と、前記電極母材に溶接された接地側チップ(62)と、を有し、
前記電極母材は、前記接地側チップが溶接される外層部(611)と、前記外層部の内部に配されると共に前記外層部よりも熱伝導率が高い芯部(612)と、を有し、
前記接地側チップは、前記接地側チップの厚み方向(Y)の一方側の端部が前記外層部に溶接されており、
前記外層部の表面は、研磨痕が形成された研磨面(613)と、前記研磨痕が形成されていない非研磨面(616)と、を有し、
前記非研磨面の少なくとも一部は、表面金属酸化物層(640)によって形成されており、
前記厚み方向から見て前記接地側チップと重なる、前記接地側チップと前記外層部との溶接部(63)における、前記厚み方向から投影した前記溶接部の投影面積に対する、前記厚み方向から投影した前記溶接部に含まれる金属酸化物層(64)の投影面積の割合を酸化物層割合としたとき、
前記酸化物層割合は、前記非研磨面の全面積に対する、前記表面金属酸化物層によって形成された前記非研磨面の面積の割合よりも小さい、内燃機関用のスパークプラグ(1)。
【請求項3】
前記芯部は、銅を主成分とする、請求項1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項4】
前記外層部の表面は、研磨痕が形成された研磨面(613)を有し、前記厚み方向から見たとき、前記接地側チップは、前記研磨面に囲まれるように配置されている、請求項1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項5】
前記接地電極は、前記ハウジングの先端部に固定された固定端部(65)から先端側へ突出しており、
少なくとも、前記接地電極の、突出端部(66)と前記固定端部との中間位置から、前記突出端部までにわたって、前記研磨面が形成されている、請求項4に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項6】
前記外層部は、アルミニウムを含有しており、前記金属酸化物層は、酸化アルミニウム層である、請求項1又は2に記載の内燃機関用のスパークプラグ。
【請求項7】
筒状の絶縁碍子(3)と、前記絶縁碍子の内周側に保持されると共に前記絶縁碍子から先端側に露出した中心電極(4)と、前記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、を有し、前記接地電極は、電極母材(61)と、前記電極母材に溶接された接地側チップ(62)と、を有し、前記電極母材は、前記接地側チップが溶接される外層部(611)と、前記外層部の内部に配されると共に前記外層部よりも熱伝導率が高い芯部(612)と、を有し、前記接地側チップは、前記接地側チップの厚み方向(Y)の一方側の端部が前記外層部に溶接されている、内燃機関用のスパークプラグ(1)の製造方法であって、
前記接地側チップを溶接する前の前記電極母材に対し、焼鈍を実施する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程の後、前記接地側チップが溶接される前記外層部の表面である外層溶接面(614)に対し、湿式研磨を行う研磨工程と、
前記研磨工程の後、前記外層溶接面に対し、前記接地側チップを溶接するチップ溶接工程と、を有する、スパークプラグの製造方法。
【請求項8】
前記焼鈍工程を行うことにより、前記外層部には表面金属酸化物層(640)が形成され、前記研磨工程を行う前において、前記表面金属酸化物層は、前記外層溶接面を含む前記外層部の表面を形成しており、
前記研磨工程においては、前記外層溶接面の全面積に対する、前記表面金属酸化物層によって形成された前記外層溶接面の面積の割合が10%以下となるまで、前記外層溶接面に対し湿式研磨を行う、請求項7に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項9】
前記研磨工程は、ブラシ(5)を用いて行う、請求項7又は8に記載のスパークプラグの製造方法。
【請求項10】
前記ブラシの毛材(50)は、セラミックからなる、請求項9に記載のスパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されているように、電極母材に、貴金属を含有するチップが溶接された接地電極、を備えた内燃機関用のスパークプラグが知られている。当該スパークプラグにおいては、電極母材におけるチップを溶接する箇所等の表面を研磨して、その表面の算術平均粗さを調整することにより、電極母材とチップとの接合強度を確保しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6166004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のスパークプラグは、研磨ベルトや研磨ブラシ等を用いた乾式研磨を行うことにより、電極母材等を研磨している。そのため、研磨前において、表面が金属酸化物層によって形成された電極母材の場合、電極母材の表面の研磨によって削られた金属酸化物層の一部が、電極母材の表面に残存しやすい。そのため、チップと電極母材との溶接部に含まれる金属酸化物層の量によっては、チップと電極母材との接合力を充分に確保できないおそれがある。そのため、チップと電極母材との接合性向上の観点から、更なる改善の余地があるといえる。
【0005】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、接地側チップと電極母材との接合性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、
前記絶縁碍子の内周側に保持されると共に前記絶縁碍子から先端側に露出した中心電極(4)と、
前記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、を有し、
前記接地電極は、電極母材(61)と、前記電極母材に溶接された接地側チップ(62)と、を有し、
前記電極母材は、前記接地側チップが溶接される外層部(611)と、前記外層部の内部に配されると共に前記外層部よりも熱伝導率が高い芯部(612)と、を有し、
前記接地側チップは、前記接地側チップの厚み方向(Y)の一方側の端部が前記外層部に溶接されており、
前記厚み方向から見て前記接地側チップと重なる、前記接地側チップと前記外層部との溶接部(63)における、前記厚み方向から投影した前記溶接部の投影面積に対する、前記厚み方向から投影した前記溶接部に含まれる金属酸化物層(64)の投影面積の割合である酸化物層割合は、10%以下である、内燃機関用のスパークプラグ(1)にある。
【0007】
本発明の第2の態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、
前記絶縁碍子の内周側に保持されると共に前記絶縁碍子から先端側に露出した中心電極(4)と、
前記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、
前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、を有し、
前記接地電極は、電極母材(61)と、前記電極母材に溶接された接地側チップ(62)と、を有し、
前記電極母材は、前記接地側チップが溶接される外層部(611)と、前記外層部の内部に配されると共に前記外層部よりも熱伝導率が高い芯部(612)と、を有し、
前記接地側チップは、前記接地側チップの厚み方向(Y)の一方側の端部が前記外層部に溶接されており、
前記外層部の表面は、研磨痕が形成された研磨面(613)と、前記研磨痕が形成されていない非研磨面(616)と、を有し、
前記非研磨面の少なくとも一部は、表面金属酸化物層(640)によって形成されており、
前記厚み方向から見て前記接地側チップと重なる、前記接地側チップと前記外層部との溶接部(63)における、前記厚み方向から投影した前記溶接部の投影面積に対する、前記厚み方向から投影した前記溶接部に含まれる金属酸化物層(64)の投影面積の割合を酸化物層割合としたとき、
前記酸化物層割合は、前記非研磨面の全面積に対する、前記表面金属酸化物層によって形成された前記非研磨面の面積の割合よりも小さい、内燃機関用のスパークプラグ(1)にある。
【0008】
本発明の第3の態様は、筒状の絶縁碍子(3)と、前記絶縁碍子の内周側に保持されると共に前記絶縁碍子から先端側に露出した中心電極(4)と、前記絶縁碍子を内周側に保持する筒状のハウジング(2)と、前記中心電極との間に放電ギャップ(G)を形成する接地電極(6)と、を有し、前記接地電極は、電極母材(61)と、前記電極母材に溶接された接地側チップ(62)と、を有し、前記電極母材は、前記接地側チップが溶接される外層部(611)と、前記外層部の内部に配されると共に前記外層部よりも熱伝導率が高い芯部(612)と、を有し、前記接地側チップは、前記接地側チップの厚み方向(Y)の一方側の端部が前記外層部に溶接されている、内燃機関用のスパークプラグ(1)の製造方法であって、
前記接地側チップを溶接する前の前記電極母材に対し、焼鈍を実施する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程の後、前記接地側チップが溶接される前記外層部の表面である外層溶接面(614)に対し、湿式研磨を行う研磨工程と、
前記研磨工程の後、前記外層溶接面に対し、前記接地側チップを溶接するチップ溶接工程と、を有する、スパークプラグの製造方法にある。
【発明の効果】
【0009】
上記第1の態様のスパークプラグにおいて、酸化物層割合は、10%以下である。それゆえ、接地側チップを電極母材に強固に接合させることができる。その結果、接地側チップと電極母材との接合性を向上させることができる。
【0010】
上記第2の態様のスパークプラグにおいて、酸化物層割合は、非研磨面の全面積に対する、表面金属酸化物層によって形成された非研磨面の面積の割合よりも小さい。それゆえ、接地側チップを電極母材に強固に接合させることができる。その結果、接地側チップと電極母材との接合性を向上させることができる。
【0011】
上記スパークプラグの製造方法は、焼鈍工程の後、外層溶接面に対し湿式研磨を行う。それゆえ、接地側チップを電極母材に強固に接合させることができる。その結果、接地側チップと電極母材との接合性を向上させることができる。
【0012】
以上のごとく、上記態様によれば、接地側チップと電極母材との接合性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法を提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1における、スパークプラグの、プラグ軸方向に沿った断面図。
図2】実施形態1における、スパークプラグの先端部付近の、プラグ軸方向に沿った断面図。
図3】実施形態1における、接地電極を、接地側チップの厚み方向から見た図。
図4】実施形態1における、接地側チップの中心軸を含む、接地側チップ付近の断面図。
図5】実施形態1における、接地電極の延設方向に直交する断面図であって、図2のV-V線矢視断面図。
図6】実施形態1における、非研磨面を示す図であって、図2のVI矢視図。
図7】実施形態1における、第1部材の断面図。
図8】実施形態1における、クラッド部材を、第1部材に組み付けた状態を示す断面図。
図9】実施形態1における、クラッド部材を加圧治具によって加圧する様子を示す断面図。
図10】実施形態1における、電極母材の表面をブラシにて湿式研磨する様子を示す図。
図11】実施形態1における、研磨工程後であって、チップ溶接工程前の外層溶接面を示す図。
図12】実施形態1における、チップ側電極と母材側電極とを用いて、電極母材に接地側チップを抵抗溶接する様子を示す断面図。
図13】実施形態1における、屈曲する前の電極母材を接合したハウジングに、挿通治具を挿通させた状態を示す図。
図14】実施形態1における、電極母材を屈曲治具によって屈曲させた様子を示す図。
図15】実施形態1における、電極母材をハンドプレス機によって屈曲させた様子を示す図。
図16】比較形態における、電極母材の表面を乾式研磨したときの、電極母材の表面付近の断面図。
図17】実施形態1における、電極母材の表面を湿式研磨しているときの、電極母材の表面付近の断面図。
図18】実験例1における、乾式研磨を実施した試料と湿式研磨を実施した試料の、表面酸化物層割合を示すグラフ。
図19】実験例1における、乾式研磨を実施した試料と湿式研磨を実施した試料の、接地側チップ剥離率を示すグラフ。
図20】実験例1における、剥離部分の長さと接地側チップの直径を示す断面図。
図21】実験例1における、表面酸化物層割合と接地側チップ剥離率との関係を示すグラフ。
図22】接地側チップ剥離率と放電ギャップの距離との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
内燃機関用のスパークプラグ及びその製造方法に係る実施形態について、図1図17を参照して説明する。
本形態の内燃機関用のスパークプラグ1は、図1図2に示すごとく、筒状の絶縁碍子3と、中心電極4と、筒状のハウジング2と、接地電極6と、を有する。中心電極4は、絶縁碍子3の内周側に保持されると共に絶縁碍子3から先端側に露出している。ハウジング2は、絶縁碍子3を内周側に保持する。接地電極6は、中心電極4との間に放電ギャップGを形成する。
【0015】
接地電極6は、図2図4に示すごとく、電極母材61と、電極母材61に溶接された接地側チップ62と、を有する。電極母材61は、図2図5に示すごとく、接地側チップ62が溶接される外層部611と、芯部612と、を有する。芯部612は、外層部611の内部に配されると共に外層部611よりも熱伝導率が高い。また、接地側チップ62は、図2図4に示すごとく、接地側チップ62の厚み方向Yの一方側の端部が外層部611に溶接されている。
【0016】
図3に示すごとく、厚み方向Yから見て接地側チップ62と重なる、接地側チップ62と外層部611との溶接部63における、溶接部63の投影面積に対する、溶接部63に含まれる金属酸化物層64の投影面積の割合である酸化物層割合は、10%以下である。ここで、「溶接部63の投影面積」は、厚み方向Yから投影した溶接部63の投影面積であり、「溶接部63に含まれる金属酸化物層64の投影面積」は、厚み方向Yから投影した溶接部63に含まれる金属酸化物層64の投影面積である。また、酸化物層割合は、5%以下であることが好ましい。
【0017】
本形態のスパークプラグ1は、例えば、自動車等の内燃機関における着火手段として用いることができる。ハウジング2のネジ部21(図1参照)を、シリンダヘッド(図示略)のプラグホールの雌ネジ部に螺合して、スパークプラグ1が内燃機関(図示略)に取り付けられる。
【0018】
そして、スパークプラグ1の軸方向Zの一端が、内燃機関の燃焼室(図示略)に配置される。スパークプラグ1の軸方向Zにおいて、燃焼室に露出する側を先端側、その反対側を基端側というものとする。また、スパークプラグ1の軸方向Zを、適宜、プラグ軸方向Zともいう。また、プラグ径方向とは、スパークプラグ1の中心軸Cに直交する平面上において、スパークプラグ1の中心軸Cを中心とする円の半径方向を意味する。また、中心軸Cは、本形態において、中心電極4の中心軸でもある。また、本形態のスパークプラグ1は、図1図2に示すごとく、厚み方向Yが、プラグ軸方向Zに沿った方向となっている。
【0019】
図1に示すごとく、絶縁碍子3の内側における中心電極4の基端側には、第一ガラスシール層11、抵抗体12、第二ガラスシール層13、端子金具14が配されている。第一ガラスシール層11及び第二ガラスシール層13は、例えば、銅粉を含有するガラスからなるものとすることができる。抵抗体12は、例えば、ガラス材料と骨材とを含む基材に、カーボン材料等の導電性材料が分散した集合体からなるものとすることができる。端子金具14は、その基端側の端部が絶縁碍子3から露出している。スパークプラグ1は、端子金具14において点火コイル(図示略)に電気的に接続される。端子金具14は、例えば、鉄合金からなるものとすることができる。
【0020】
また、中心電極4の先端部には、中心側チップ41が接合されている。放電ギャップGは、図2に示すごとく、接地側チップ62の平坦な基端面と、中心側チップ41の平坦な先端面とが厚み方向Yに互いに対向することにより形成されている。本形態において、接地側チップ62及び中心側チップ41は、円柱形状を有する。接地側チップ62及び中心側チップ41は、例えば、白金やイリジウム等の貴金属、又はこれらを主成分とする合金にて構成することができる。
【0021】
本形態において、接地電極6は、ハウジング2の先端側面に、溶接によって固定されている。接地電極6は、ハウジング2の先端部に固定された固定端部65から先端側へ突出している。本形態において、接地電極6は、立設部67と屈曲部68と延設部69とを有する。立設部67は、固定端部65を有すると共にハウジング2の先端側面から先端側へ立設している。屈曲部68は、立設部67の先端からプラグ径方向の内側へ向かって屈曲している。延設部69は、屈曲部68からプラグ径方向の内側へ向かって延設されていると共に、接地側チップ62が接合されている。
【0022】
また、接地電極6における外層部611と芯部612とは、それぞれハウジング2の先端側面に直接固定されている。芯部612は、外層部611とハウジング2の先端側面とによって封止されている。
【0023】
芯部612は、立設部67の固定端部65から延設部69までにわたって設けられている。芯部612は、図3に示すごとく、Z方向から見たとき、接地側チップ62と重ならないように設けられている。また、芯部612は、銅を主成分とする。本形態において、芯部612における銅の含有量は99質量%以上である。
【0024】
また、接地電極6は、図2図5に示すごとく、芯部612の内部に配されると共に、ニッケルを主成分とする軸部615を有する。軸部615は、固定端部65から延設部69までにわたって形成されている。軸部615におけるニッケルの含有量は、85質量%以上である。本形態において、軸部615におけるニッケルの含有量は、99.9質量%以上である。
【0025】
接地電極6は、図5に示すごとく、接地電極6の厚み方向及び接地電極6の幅方向の双方において、外層部611と、芯部612と、軸部615とが重なった多層構造となっている。
【0026】
本形態において、外層部611は、ニッケルを主成分とするニッケル合金からなる。外層部611におけるニッケルの含有量は、85質量%以上である。また、本形態において、外層部611は、アルミニウム及びクロムを含有している。
【0027】
外層部611の表面は、図3に示す研磨痕が形成された研磨面613と、図6に示す研磨痕が形成されていない非研磨面616と、を有する。図6に示すごとく、非研磨面616の少なくとも一部は、表面金属酸化物層640によって形成されている。本形態において、酸化物層割合は、非研磨面616の全面積に対する、表面金属酸化物層640によって形成された非研磨面616の面積の割合よりも小さい。また、酸化物層割合は、外層部611表面の全面積に対する、表面金属酸化物層640によって形成された外層部611表面の面積の割合よりも小さい。本形態においては、非研磨面616の全体が、表面金属酸化物層640によって形成されている。また、研磨面613は、後述する研磨工程において、外層部611の表面を研磨することにより形成される。非研磨面616は、研磨工程において、研磨されていない外層部611の表面である。また、外層部611の表面とは、外層部611における露出した面を意味する。
【0028】
また、本形態においては、立設部67の表面の全体が、非研磨面616となっている。また、延設部69の表面は、接地側チップ62が接合された基端側面の全体が研磨面613となっており、基端側面以外が、非研磨面616となっている。
【0029】
図3に示すごとく、厚み方向Yから見たとき、接地側チップ62は、研磨面613に囲まれるように配置されている。また、少なくとも、接地電極6の、突出端部66と固定端部65との中間位置から、突出端部66までにわたって、研磨面613が形成されている。
【0030】
また、本形態において、接地側チップ62と外層部611との溶接部63は、複数の金属酸化物層64を有する。複数の金属酸化物層64は、厚み方向Yから見たとき、互いに離れた位置に形成されている。金属酸化物層64は、例えば、酸化アルミニウム、酸化クロム等からなる。本形態において、金属酸化物層64は、酸化アルミニウム層である。
【0031】
金属酸化物層64である酸化アルミニウム層は、主成分がAl(すなわち、酸化アルミニウム)からなる層である。金属酸化物層64の厚みは、例えば、数百nmである。本形態において、金属酸化物層64の厚みは、100nm以上である。また、表面金属酸化物層640は、金属酸化物層64と同等の組成及び厚みを有する。金属酸化物層64及び表面金属酸化物層640は、後述する焼鈍工程において、電極母材61を、例えば、950℃の高温環境にて数時間加熱することにより形成される。つまり、金属酸化物層64及び表面金属酸化物層640は、厚みが数nm程度の不動態膜とは異なる金属酸化物の層である。
【0032】
次に、電極母材61の製造方法について説明する。
本形態において、ハウジング2に接合する前の電極母材61は、略四角柱形状を呈している。電極母材61を製造するにあたっては、まず、ニッケルを主成分とする略円柱形状の部材に対し、プレス加工を行うことにより、図7に示すごとく、外層部611となる有底筒状の第1部材610を作製する。そして、図8に示すごとく、略円柱形状のクラッド部材60を、第1部材610の凹部619の内側に組み付ける。クラッド部材60は、芯部612となる、銅を主成分とする筒状の第2部材601と、軸部615となる、ニッケルを主成分とする第3部材602とを有する。第3部材602は、第2部材601の内側に配置されている。クラッド部材60において、第2部材601と第3部材602とは互いに圧着されている。
【0033】
次いで、図9に示すごとく、第1部材610に組み付けられたクラッド部材60を、加圧治具84によって加圧し、クラッド部材60と第1部材610とを互いに圧着させる。その後、クラッド部材60と第1部材610とからなる部材に対し焼鈍を行う。次いで、焼鈍を行った部材を、型を用いた冷間鍛造によって、略四角柱形状に成形し、電極母材61を製造する。
【0034】
次に、本形態のスパークプラグ1の製造方法について説明する。
本形態のスパークプラグ1の製造方法は、焼鈍工程と、研磨工程と、チップ溶接工程と、を有する。焼鈍工程は、接地側チップ62を溶接する前の電極母材61に対し、焼鈍を実施する工程である。研磨工程は、焼鈍工程の後、外層溶接面614に対し、湿式研磨を行う工程である。外層溶接面614は、接地側チップ62が溶接される外層部611の表面である。チップ溶接工程は、研磨工程の後、外層溶接面614に対し、接地側チップ62を溶接する工程である。
【0035】
また、焼鈍工程を行うことにより、外層部611には表面金属酸化物層640が形成される。研磨工程を行う前において、表面金属酸化物層640は、外層溶接面614を含む外層部611の表面を形成している。
【0036】
本形態のスパークプラグ1の製造方法の各工程について、詳細に説明する。
焼鈍工程においては、上述した型を用いた冷間鍛造によって、略四角柱形状に成形した電極母材61に対し、焼鈍を行う。焼鈍工程での焼鈍は、例えば、950℃の温度環境にて行うことができる。そして、焼鈍を行った電極母材61に対し、必要に応じて、不要な部分を取り除くことにより、ハウジング2に接合する前の電極母材61を作製することができる。また、焼鈍工程を行った後の電極母材61においては、外層部611の表面全体を形成するように、表面金属酸化物層640である酸化アルミニウム層が形成される。
【0037】
次に、図10に示すごとく、焼鈍工程後、略四角柱形状の電極母材61をハウジング2の先端側面に溶接する。電極母材61を接合するにあたっては、電極母材61の長手方向をハウジング2の長手方向に沿う方向としつつ、電極母材61の基端面とハウジング2の先端側面とを電極母材61の長手方向に互いに当接させ、溶接を行う。なお、電極母材61を溶接するハウジング2は、中心電極4を保持した絶縁碍子3を組み付ける前のハウジング2である。
【0038】
次に、ハウジング2に溶接した電極母材61に対し、研磨工程を実施する。研磨工程における湿式研磨は、公知の研磨方法を採用することができる。本形態において、研磨工程は、ブラシ5を用いて行う。また、ブラシ5の毛材50は、セラミックからなる。本形態において、ブラシ5の毛材50は、酸化アルミニウムを主成分とするセラミックファイバーからなると共に、可撓性を有する。
【0039】
具体的には、電極母材61の表面にブラシ5の毛材50の端部を当接させた状態にて、ブラシ5を、図10の破線矢印Rに示すごとく、回転軸周りに回転させながら機械研磨を行う。これにより、電極母材61に形成された表面金属酸化物層640を、電極母材61から除去する。また、電極母材61の表面を研磨するにあたっては、研磨箇所に、ノズル51からの水溶性のクーラント52を供給しつつ、湿式研磨を行う。この研磨工程を実施することにより、図11に示すように、外層溶接面614を含む電極母材61の表面が研磨面613となる。また、クーラント52は、例えば、公知のものを採用することができる。なお、図11において、外層溶接面614は、二点鎖線にて示した円の内側の面である。
【0040】
また、研磨工程においては、外層溶接面614の全面積に対する、表面金属酸化物層640によって形成された外層溶接面614の面積の割合(以下、表面酸化物層割合という。)が10%以下となるまで、外層溶接面614に対し湿式研磨を行う。
【0041】
次に、チップ溶接工程においては、研磨工程によって湿式研磨された外層溶接面614に対し、接地側チップ62を抵抗溶接によって接合する。具体的には、図12に示すごとく、接地側チップ62と接触する電極であるチップ側電極15と、電極母材61と接触する電極である母材側電極16との間で通電することにより接地側チップ62を溶接する。つまり、接地側チップ62と電極母材61とを、チップ側電極15と母材側電極16とによって厚み方向Yに挟持しながら、チップ側電極15と母材側電極16との間に通電を行い、溶接を行う。そして、この通電によって、接地側チップ62と電極母材61との間にジュール熱が生じ、外層部611の一部及び接地側チップ62の一部が溶融して互いに接合される。また、溶接時において、接地側チップ62が電極母材61の内側へ向かって移動することにより、図4に示すように、外層部611と接地側チップ62との溶融部631の一部が接地側チップ62の周囲に移動する。これにより、接地側チップ62の厚み方向Yにおける一方側の端部が、電極母材61の内側に配置される。また、接地側チップ62の周囲に移動した溶融部631は、主に、抵抗溶接によって溶融した外層部611からなる。
【0042】
また、チップ溶接工程を行う前において外層溶接面614の表面の一部を形成する表面金属酸化物層640が、チップ溶接工程後の溶接部63に含まれる金属酸化物層64となる。
【0043】
次に、チップ溶接工程後、略四角柱形状の電極母材61を屈曲することにより、放電ギャップGを形成する。具体的には、まず、図13に示すごとく、電極母材61を接合したハウジング2に対し、挿通治具81を挿通する。このとき、挿通治具81の先端がハウジング2の先端よりも先端側に位置するように、挿通治具81を配置する。また、挿通治具81の、ハウジング2の先端から先端側への突出量は、接地電極6のプラグ軸方向Zの高さに応じて調整する。また、図13に示すように、電極母材61を屈曲させて延設部69を形成する前の状態において、厚み方向Yは、プラグ軸方向Zに沿った方向とはなっておらず、プラグ軸方向Zに交差する方向となっている。
【0044】
その後、ハウジング2に接合された電極母材61を、図14に示すごとく、屈曲治具82を用いて、プラグ径方向の内側へ屈曲させる。具体的には、屈曲治具82は、電極母材61の一部を挿通させるための凹部821を有する。そして、この凹部821に電極母材61を挿通させた状態にて、電極母材61がプラグ軸方向Zにおける挿通治具81の先端部の位置において屈曲するように、電極母材61をプラグ径方向の内側へ屈曲させる。
【0045】
その後、図15に示すごとく、屈曲した電極母材61の一部を、ハンドプレス機83によって、挿通治具81側に押圧する。これにより、図2に示すごとく、立設部67と屈曲部68と延設部69とを有する接地電極6を形成することができる。
【0046】
また、接地電極6を形成した後、挿通治具81を取り外し、中心電極4を内周側に保持した絶縁碍子3を、ハウジング2に組み付ける。その後、必要に応じて、ハウジング2に固定された接地電極6をわずかに変形させ、放電ギャップGが適切な距離となるように微調整を行う。これにより、図1図2に示すごとく、本形態のスパークプラグ1を製造することができる。
【0047】
次に、本形態の作用効果を説明する。
上記スパークプラグ1において、酸化物層割合は、10%以下である。それゆえ、接地側チップ62を電極母材61に強固に接合させることができる。その結果、接地側チップ62と電極母材61との接合性を向上させることができる。
【0048】
本形態において、外層部611と芯部612とを備えた電極母材61は、上述のごとく、冷間鍛造を行うことにより成形するため、製造過程において、加工硬化する。仮に、電極母材が加工硬化した状態のまま、放電ギャップを形成するために電極母材を屈曲した場合、電極母材に割れ等が発生するおそれがある。そのため、上述のごとく、冷間鍛造後の電極母材61に対し焼鈍工程を行う。また、焼鈍工程を行うことにより、電極母材61に表面金属酸化物層640が形成される。ここで、外層部611は、酸化されやすいアルミニウムを含有する。そのため、例えば、真空炉を使用して電極母材の焼鈍を行ったとしても、炉壁などに吸着されていたわずかな酸素分子が真空加熱中に遊離し、外層部の表面のアルミニウムと結合して表面金属酸化物層を形成する場合がある。また、数百nmの厚みを有する表面金属酸化物層640は、数nm程度の厚みを有する不動態膜と比較し、安定しており、抵抗溶接時の温度と圧力によって金属と酸素とに分解しにくい。それゆえ、表面金属酸化物層640は、チップ溶接工程の後であっても、溶接部63に、金属酸化物層64として残存しやすい。そして、金属酸化物層64は、溶接部63の溶接界面等において、接地側チップ62及び溶融部631と充分に接合していない状態にて、存在する場合がある。そのため、仮に、金属酸化物層の量が多い場合を想定すると、接地側チップと電極母材との接合性が弱い領域が形成されることにより、溶接性を低下させるおそれがある。そのため、金属酸化物層の量が多いと、スパークプラグを内燃機関に搭載した際、接地側チップと外層部との線膨張係数の差と、内燃機関の運転に伴う温度変化を起因とする熱応力によって、金属酸化物層を起点として亀裂や剥離が発生するおそれがある。そこで、本形態のスパークプラグ1は、酸化物層割合を10%以下としている。それゆえ、溶接部63に含まれる金属酸化物層64の量を少なくすることができるため、接地側チップ62を電極母材61に強固に接合させることができる。その結果、接地側チップ62と電極母材61との接合性を向上させることができる。
【0049】
また、一般に、熱伝導性が高い芯部を備えた電極母材の場合、外層部に接地側チップを溶接する際、外層部と接地側チップとの溶接部の熱引き性が均一にならず、溶接部の位置によって、熱引き性に違いが生じることがある。具体的には、溶接部において、芯部までの距離が比較的近い部分は、他の部分と比較し、熱引き性が高くなりやすく、芯部までの距離が比較的遠い部分は、他の部分と比較し、熱引き性が低くなりやすい。そして、溶接部において、芯部までの距離が比較的近い部分は、芯部までの距離が比較的遠い部分と比較し、接合性が低くなりやすい。そのため、芯部を備えた電極母材の場合、芯部を備えない電極母材と比較し、溶接部の接合性が、金属酸化物層の影響を受けやすく、溶接部に含まれる金属酸化物層の量が多い場合、溶接部の接合性にバラツキが生じるおそれがある。そこで、本形態のスパークプラグ1は、酸化物層割合を10%以下としている。それゆえ、芯部612を備えることにより、溶接部63の位置によって熱引き性の違いがあったとしても、溶接部63の接合性のバラツキを抑制することができ、接合性を向上させることができる。
【0050】
上記スパークプラグ1において、酸化物層割合は、非研磨面616の全面積に対する、表面金属酸化物層640によって形成された非研磨面616の面積の割合よりも小さい。それゆえ、接地側チップ62を電極母材61に強固に接合させることができる。
【0051】
芯部612は、銅を主成分とする。それゆえ、接地電極6の熱を外部に一層放熱しやすい。つまり、銅を主成分とする芯部612は、高い熱伝導率を有するため、比較的温度が高くなりやすい突出端部66等の熱を、ハウジング2を介して、外部に放熱しやすい。それゆえ、接地電極6の過熱を一層抑制することができる。その結果、プレイグニッションの発生を一層抑制することができる。
【0052】
厚み方向Yから見たとき、接地側チップ62は、研磨面613に囲まれるように配置されている。つまり、表面金属酸化物層640を研磨によって除去した研磨面613に、接地側チップ62の厚み方向Yの一方側の端面全体を当接させながら、チップ溶接工程を行うことができる。それゆえ、酸化物層割合を一層小さくしやすい。その結果、接地側チップ62を電極母材61に一層強固に接合させることができる。
【0053】
少なくとも、接地電極6の、突出端部66と固定端部65との中間位置から、突出端部66までにわたって、研磨面613が形成されている。そのため、仮に、屈曲させる前の電極母材61の長さや、ハウジング2に対する中心電極4の先端面の位置等にバラツキがあったとしても、接地側チップ62を研磨面613のみに溶接することができる。それゆえ、酸化物層割合を一層小さくしつつ、電極母材61に対する接地側チップ62の溶接位置を調節しやすい。その結果、接地側チップ62を電極母材61に一層強固に接合させつつ、組付け性を向上させることができる。
【0054】
外層部611は、アルミニウムを含有している。そのため、スパークプラグ1を内燃機関に搭載した際、燃焼室での燃焼によって電極母材61が加熱されることにより、外層部611に酸化アルミニウム層である表面金属酸化物層640が形成されやすい。それゆえ、電極母材61の酸化を抑制しやすく、接地電極6の耐久性を向上させやすい。その結果、接地電極6の長寿命化を図ることができる。
【0055】
また、金属酸化物層64は、上述のように、比較的安定した酸化アルミニウム層であるものの、本形態においては、酸化物層割合を制限している。それゆえ、接地側チップ62を電極母材61に強固に接合させることができる。
【0056】
上記スパークプラグ1の製造方法は、焼鈍工程の後、外層溶接面614に対し湿式研磨を行う。そのため、表面金属酸化物層640を充分に除去した研磨面613を効率的に形成することができる。それゆえ、接地側チップ62を電極母材61に強固に接合させることができる。その結果、接地側チップ62と電極母材61との接合性を向上させることができる。
【0057】
研磨工程においては、電極母材61の表面部分を塑性流動させながら研磨することにより、所望の表面形状とする。しかしながら、研磨の方式によっては、研磨によって形成された外層部の表面の溝に、削り取られた表面金属酸化物層が食い込み、研磨面に表面金属酸化物層が残留する場合がある。そして、削り取られた表面金属酸化物層が研磨面に残存した状態にて、チップ溶接工程を行った場合、接地側チップと外層部との溶接部に、削り取られた表面金属酸化物層が金属酸化物層として介在した状態となる。
【0058】
仮に、湿式研磨ではなく、乾式研磨によって外層溶接面614の研磨を行った場合、図16に示すごとく、外層部611の表面の溝の内側に、削られた表面金属酸化物層640が食い込むことにより、外層部611の表面に表面金属酸化物層640が残留しやすい。研磨によって削られた表面金属酸化物層640が電極母材61の表面に残留すると、接地側チップと外層部611との溶接界面に存在する、金属酸化物層の量が多くなりやすく、接合性を低下させやすい。そこで、本形態においては、外層溶接面614に対し湿式研磨を行う。それゆえ、液状のクーラント52を用いて湿式研磨を行うことにより、図17に示すごとく、削り取られた表面金属酸化物層640がクーラント52と共に外部に排出されるため、研磨面613に表面金属酸化物層640が残留しにくい。それゆえ、溶接部63に含まれる金属酸化物層64の量を抑えることができる。その結果、接地側チップ62と外層部611との接合性を向上させることができる。
【0059】
研磨工程においては、表面酸化物層割合が10%以下となるまで、外層溶接面614に対し湿式研磨を行う。それゆえ、接地側チップ62を電極母材61に一層強固に接合させることができる。
【0060】
研磨工程は、ブラシ5を用いて行う。それゆえ、外層溶接面614を形成する表面金属酸化物層640を効率的に除去することができる。つまり、ブラシ5の毛材50は、可撓性を有するため、仮に、電極母材61の表面にうねりや凹凸があったとしても、その表面のうねりや凹凸に沿って研磨することができる。それゆえ、電極母材61の表面を一様に研磨することができ、表面金属酸化物層640の削り残しの発生を抑えやすい。その結果、表面金属酸化物層640を効率的に除去することができる。
【0061】
仮に、ブラシではなく、砥石や研磨ベルトを用いて研磨を行う場合、電極母材の表面にうねりや凹凸があると、研磨されない領域が発生しやすく、電極母材の表面を形成する表面金属酸化物層を充分に除去できないおそれがある。また、砥石や研磨ベルトを用いて研磨を行う場合であっても、削る深さを大きくすれば、一様に表面金属酸化物層を除去することができるものの、研磨によって段差部が形成される。そのため、内燃機関の運転による温度変化等を起因として、その段差部が起点となり、電極母材に亀裂が発生するおそれがある。一方、本形態においては、上述のごとく、ブラシ5を用いて研磨を行う。それゆえ、電極母材61に段差部を形成することなく、外層部611の表面を一様に研磨することができる。
【0062】
ブラシ5の毛材50は、セラミックからなる。それゆえ、表面金属酸化物層640を効率的に研磨除去することができると共に、毛材50の消耗を抑制することができる。つまり、研削対象の表面金属酸化物層640は、酸化アルミニウムを主成分とするため、比較的硬度が高い。そのため、表面金属酸化物層640を効率的に除去するためには、毛材50の硬度を表面金属酸化物層640の硬度以上とすることが好ましい。そこで、本形態においては、毛材50をセラミックとしている。それゆえ、表面金属酸化物層640を効率的に研磨することができ、かつ、ブラシ5の消耗を抑制することができるため、製造性を向上させることができる。
【0063】
本形態のスパークプラグ1の製造方法においては、焼鈍工程を有する。そのため、電極母材61を屈曲させて放電ギャップGを形成する際、電極母材61に割れ等が発生することを抑制することができる。
【0064】
本形態において、外層部611は、ニッケルを主成分とし、芯部612は、銅を主成分とする。そのため、電極母材61全体に対する芯部612の割合が大き過ぎると、外層部611と芯部612との線膨張係数の差を起因とする熱応力によって、外層部611と芯部612との間に隙間が発生し、接地電極6の熱引き性が低下するおそれがある。そこで、本形態においては、電極母材61が、軸部615を有する。それゆえ、芯部612を電極母材61の表面に近づけつつ、電極母材61全体に対する芯部612の割合を所望の割合に調整することができる。その結果、接地電極6の放熱性を一層向上させつつ、接地電極6の高い放熱性を長期間維持しやすい。
【0065】
以上のごとく、本形態によれば、接地側チップ62と電極母材61との接合性を向上させることができる内燃機関用のスパークプラグ1及びその製造方法を提供することができる。
【0066】
(実験例1)
本例では、基本構造を実施形態1のスパークプラグと同様としつつ、外層部の研磨方法を湿式研磨又は乾式研磨とした複数のスパークプラグの試料を用いて、表面酸化物層割合と接地側チップ剥離率との関係を調べた。本例では、湿式研磨を行った実施例の試料及び乾式研磨を行った比較例の試料をそれぞれ5つ作製し、解析を行った。また、湿式研磨及び乾式研磨の双方において、セラミックファイバーからなる毛材を備えたブラシを用いた。また、それぞれの試料の電極母材において、幅W1(図5参照)及び厚みT1(図5参照)は、それぞれ、2.6mm、1.3mmとした。また、それぞれの試料において、外層部の材質は、アルミニウムを2.5質量%含有するニッケル基合金とした。また、それぞれの試料において、接地側チップは、直径を1.3mm、厚みを0.2mmとし、材質においては、白金を90質量%、ニッケルを10質量%含有する合金とした。
【0067】
また、研磨条件として、湿式研磨及び乾式研磨の双方において、屈曲させる前の略四角柱形状の電極母材の表面に対し、電極母材の長手方向における突出端部の突出端面から7mm離れた位置から、突出端部までにわたって研磨した。また、接地側チップを電極母材に抵抗溶接する際の条件は、チップ側電極の材質をタングステン、母材側電極の材質を銅とタングステンとの合金とし、単相交流電源にて行った。
【0068】
まず、試料の表面酸化物層割合を求めるため、外層部の研磨後であって、接地側チップを溶接する前の各試料に対し、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)によって外層溶接面を測定した。また外層溶接面の測定範囲は、1.3mm四方とした。その結果、図18に示すごとく、乾式研磨を行った試料よりも、湿式研磨を行った試料の方が、表面酸化物層割合の値が低くなり、さらに研磨バラツキが小さいことも確認した。具体的には、乾式研磨を実施した試料のすべてにおいて、表面酸化物層割合が10%を超えていたが、湿式研磨を実施した試料のすべてにおいて、表面酸化物層割合が10%よりも大幅に低い結果となった。乾式研磨の試料の結果については、研磨によって形成された外層部の表面の溝に、削り取られた表面金属酸化物層が食い込み、研磨面に表面金属酸化物層が残留したことが原因と考えられる。一方、湿式研磨の試料の結果については、削り取られた表面金属酸化物層がクーラントと共に外部に排出されたため、研磨面における表面金属酸化物層の残留が抑制されたことが原因と考えられる。
【0069】
次に、外層溶接面の研磨を行った試料に、接地側チップを溶接した後、車両の10万km走行に相当する冷熱ストレスを与える加速耐久試験を実施した。具体的には、加速耐久試験は、接地電極を950℃で6分間加熱した後、接地電極を150℃で6分間加熱する処理を1サイクルとして、この加熱処理を200サイクル行った。そして、加速耐久試験を行った後、それぞれの試料における接地側チップの剥離率を調べた。接地側チップの剥離率は、図20に示すごとく、加速耐久試験後の試料を、接地側チップ62の中心軸を含む断面にて切断したときの、接地側チップ62の直径Tに対する、溶接部63の剥離部分630の長さの割合を示す。具体的には、図20の場合、剥離部分630が2個所あるため、これら2つの剥離部分630の合計の長さ(長さH1+長さH2)を用いて、接地側チップ62の剥離率を、下記式(1)のように求める。また、剥離部分630の長さH1、H2は、剥離部分630における接地側チップ62の径方向の長さである。
接地側チップ剥離率(%)=(長さH1+長さH2)/直径T×100 ・・・(1)
【0070】
図19に示すように、乾式研磨を行った比較例の試料と比較し、湿式研磨を行った実施例の試料の方が、接地側チップの剥離率が低い結果となり、接合強度が高いことを確認した。具体的には、乾式研磨を行った試料の全てにおいて、接地側チップの剥離率が40%以上になったのに対し、湿式研磨を行った試料の全てにおいて、接地側チップの剥離率が20%よりも低い結果となった。ここで、接地側チップを溶接する前の表面酸化物層割合が、接地側チップを溶接した後の酸化物層割合になると考えられる。そのため、乾式研磨を行った試料では、酸化物層割合が比較的高いため、溶接部において、金属酸化物層を起点として亀裂や剥離が発生し、接地側チップ剥離率が高くなったと考えられる。一方、湿式研磨を行った試料では、酸化物層割合が比較的低いため、溶接部における亀裂や剥離の発生を抑制し、接地側チップ剥離率を低くすることができたと考えられる。
【0071】
また、図21のグラフは、表面酸化物層割合と接地側チップ剥離率との関係を示すグラフである。図21のグラフに示すように、表面酸化物層割合が低くなるほど、接地側チップ剥離率が低くなることが分かる。また、後で説明するように、図21のグラフに示す近似直線から、接地側チップ剥離率が38%以下となる表面酸化物層割合は、10%以下であることが分かる。
【0072】
図22のグラフは、実験例1とは別に、基本構造を実施形態1のスパークプラグと同様とする複数の試料を用いて、上記加速耐久試験と同様の試験を実施したときの、接地側チップ剥離率と放電ギャップの距離との関係を示すグラフである。図22のグラフには、複数の試料の試験結果における近似直線を実線にて示している。図22のグラフに示すように、接地側チップ剥離率が高いほど、放電ギャップ距離が短くなることが分かる。これは、接地側チップ剥離率が高いほど、電極母材から接地側チップが傾いて浮き上がりやすく、接地側チップと中心電極との間の放電ギャップ距離が短くなるためである。そして、図22のグラフに示す近似直線を見ると、接地側チップ剥離率が38%を超えるとき、放電ギャップ距離が0mmとなる。つまり、接地側チップ剥離率が38%を超えるとき、接地側チップが中心電極に短絡する。そのため、本例では、接地側チップ剥離率38%を、スパークプラグの放電における着火性限界とし、接地側チップ剥離率38%以下を、スパークプラグの着火性を確保することができる基準とした。つまり、図21図22のグラフから、表面酸化物層割合が10%以下のとき、接地側チップと電極母材との接合性が充分に確保できることにより、スパークプラグの着火性を確保することができると考えられる。また、表面酸化物層割合が10%以下の電極母材に対し、接地側チップを溶接することにより、酸化物層割合は、10%以下になると考えられる。そのため、酸化物層割合が10%以下の実施形態1のスパークプラグは、接地側チップと電極母材との接合性を向上させることができる。
【0073】
上記実施形態1において、溶接部63は、金属酸化物層64を有する。ただし、溶接部は、金属酸化物層を有しないものとすることもできる。
【0074】
上記実施形態1において、厚み方向Yは、プラグ軸方向Zに沿った方向となっている。ただし、放電ギャップの形成の仕方によっては、例えば、厚み方向を、プラグ軸方向に交差する方向とすることもできる。
【0075】
本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1…スパークプラグ、2…ハウジング、3…絶縁碍子、4…中心電極、6…接地電極、61…電極母材、62…接地側チップ、63…溶接部、64…金属酸化物層、611…外層部、612…芯部、G…放電ギャップ、Y…厚み方向
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