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  • 特開-伝動ベルト 図1
  • 特開-伝動ベルト 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025110
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】伝動ベルト
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/14 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
F16G1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129585
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】高原 将人
(57)【要約】
【課題】本発明は、取扱性を維持しつつ、耐水性および耐亀裂進展性が高く、かつスリップ防止性能にも優れる伝動ベルトの提供を目的とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る伝動ベルトは、エラストマー製のベルト本体を備える伝動ベルトであって、上記エラストマーの主成分が、熱可塑性ポリウレタンであり、6%モジュラスが、2.5MPa以上3MPa未満である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー製のベルト本体を備える伝動ベルトであって、
上記エラストマーの主成分が、熱可塑性ポリウレタンであり、
6%モジュラスが、2.5MPa以上3MPa未満である伝動ベルト。
【請求項2】
上記ベルト本体のJIS-A硬度が、80以上99以下である請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
上記ベルト本体の断面積が、3mm以上140mm以下である請求項1または請求項2に記載の伝動ベルト。
【請求項4】
上記熱可塑性ポリウレタンが、カプロラクトン系である請求項1または請求項2に記載の伝動ベルト。
【請求項5】
上記エラストマーが、2種以上の熱可塑性ポリウレタンを含み、
上記2種以上の熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも1種が、カプロラクトン系である請求項1または請求項2に記載の伝動ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
丸ベルト、Vベルトなどの種々の伝動ベルトが動力伝達用途に広く用いられている。このような伝動ベルトは無端状に構成され、一対のプーリ間に架け渡されて使用される。
【0003】
伝動ベルトでは、ベルトに亀裂が生じると正確な動力伝達が困難となることから、強度が高いことが要求され、高強度な伝達ベルトが提案されている(例えば特開平7-77628号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7-77628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報に記載の伝動ベルトでは、エラストマー製のベルト本体の中に分散された繊維状補強材を有し、高強度、高弾性を実現している。
【0006】
しかしながら、従来の伝動ベルトでは、ベルト本体に一度亀裂が生じると、その亀裂が進展し易く、比較的短時間で切断に至ってしまうことが分かっている。
【0007】
また、家電製品、物流、半導体製造、印刷機器等の分野で使用される伝動ベルトでは、例えば水に浸漬される場合があるが、このような環境下にあっては特に亀裂の進展が早く耐水性および耐亀裂進展性の高い伝動ベルトが求められている。
【0008】
これに対し、例えば伝動ベルトの硬度を高めると、この亀裂の進展は抑止できるが、硬度の高いベルトは、張力を加えても伸びが少ないため、一対のプーリ間に架け渡すことが困難となり、取扱性に欠ける。
【0009】
さらに、水に浸漬されて使用された場合、伝動ベルトのスリップが発生し易くなるおそれがある。ここで、「スリップ」は、駆動プーリ回転数に対し、従動プーリの回転数が不足する現象であり、スリップが発生すると設備の伝動能力が不足し、設備本来の要求機能を満たさなくなる。
【0010】
本発明はこのような不都合に鑑みてなされたものであり、取扱性を維持しつつ、耐水性および耐亀裂進展性が高く、かつスリップ防止性能にも優れる伝動ベルトの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る伝動ベルトは、エラストマー製のベルト本体を備える伝動ベルトであって、上記エラストマーの主成分が、熱可塑性ポリウレタンであり、6%モジュラスが、2.5MPa以上3MPa未満である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の伝動ベルトは、取扱性を維持しつつ、耐水性および耐亀裂進展性が高く、かつスリップ防止性能にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る伝動ベルトの使用状態を示す模式図である。
図2図2は、エラストマーの溶融粘度を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。
【0015】
(1)本発明の一態様に係る伝動ベルトは、エラストマー製のベルト本体を備える伝動ベルトであって、上記エラストマーの主成分が、熱可塑性ポリウレタンであり、6%モジュラスが、2.5MPa以上3MPa未満である。
【0016】
当該伝動ベルトは、ベルト本体を構成するエラストマーの主成分が、熱可塑性ポリウレタンであり、耐水性および耐亀裂進展性を高められる。また、上記主成分を熱可塑性ポリウレタンとすることで、ベルト本体の硬度が高くなり難いため、当該伝動ベルトは、取扱性に優れる。一方、ベルト本体のエラストマーの主成分を熱可塑性ポリウレタンとするとスリップ防止性能が低下し易いところ、本発明者は、6%モジュラスを上記範囲内とすることで、耐水性および耐亀裂進展性とスリップ防止性能とを両立できることをつきとめた。すなわち、当該ベルトは、スリップ防止性能にも優れる。
【0017】
(2)上記(1)の伝動ベルトにおいて、上記ベルト本体のJIS-A硬度としては、80以上99以下が好ましい。このように上記ベルト本体のJIS-A硬度を上記範囲内とすることで、伝動力を維持しつつ取扱性が低下することを抑止できる。
【0018】
(3)上記(1)または(2)の伝動ベルトにおいて、上記ベルト本体の断面積としては、3mm以上140mm以下が好ましい。上記ベルト本体の断面積を上記範囲内とすることで、耐水性および耐亀裂進展性を高められる。
【0019】
(4)上記(1)から(3)のいずれかの伝動ベルトにおいて、上記熱可塑性ポリウレタンが、カプロラクトン系であるとよい。このように上記熱可塑性ポリウレタンをカプロラクトン系とすることで、ベルト本体の硬度を高めることなく、耐水性および耐亀裂進展性をさらに高められる。
【0020】
(5)上記(1)から(3)のいずれかの伝動ベルトにおいて、上記エラストマーが、2種以上の熱可塑性ポリウレタンを含み、上記2種以上の熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも1種が、カプロラクトン系である。このように上記エラストマーを2種以上の熱可塑性ポリウレタンとし、上記2種以上の熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも1種をカプロラクトン系とすることで、容易に6%モジュラスの値を所望の範囲に制御することができる。
【0021】
ここで、「主成分」とは、最も含有量の多い成分を意味し、好ましくは含有量が50質量%以上、より好ましくは90質量%以上の成分をいう。
【0022】
伝動ベルトの「6%モジュラス」は、以下の手順で測定される。まず、伝動ベルトを溶融接合し、無端状(円環状)とする。次に、この伝動ベルトを一対のプーリ間に架け渡したうえで引張試験機を使用して伸長させる。上記伝動ベルトを6%伸長させたときの軸荷重[N]を測定し、上記軸荷重を2で割った値をさらにベルトの断面積[mm]で割って、6%モジュラス[MPa]とする。
【0023】
「JIS-A硬度」とは、JIS-K-7312:1996(A法)に準じて固定されたベルト表面にA型硬度計の押針を当てて測定した硬度をいう。
【0024】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の一実施形態に係る伝動ベルトについて、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
図1に示す伝動ベルト1は、無端状に構成され、駆動プーリX1と従動プーリX2との間に架け渡されて使用される。駆動プーリX1が、駆動装置(不図示)により駆動されて回転すると、その回転により当該伝動ベルト1が送られ、従動プーリX2を回転させる。これにより駆動プーリX1の回転を従動プーリX2の回転として伝達することができる。なお、図1では、駆動プーリX1と従動プーリX2とは略同径であるが、異なる径として回転数を変えることもできる。
【0026】
当該伝動ベルト1は、エラストマー製のベルト本体10を備える。当該伝動ベルト1は、ベルト本体10単層で構成されている。当該伝動ベルト1の全長(周長)は、用途に合わせて適宜設定されるが、例えば300mm以上1000mm以下とすることができる。
【0027】
<ベルト本体>
ベルト本体10の断面は、円形状(丸ベルト)や台形状(Vベルト)、長方形状(平ベルト)等とすることができるが、ベルト本体10の断面が円形状であるとよい。当該伝動ベルト1では、上記断面が円形状であるベルト本体10において、特に耐水性および耐亀裂進展性を高められる。
【0028】
ベルト本体10の断面積の下限としては、3mmが好ましく、7mmがより好ましい。一方、ベルト本体10の断面積の上限としては、140mmが好ましく、130mmがより好ましく、100mmがさらに好ましい。当該伝動ベルト1では、上記断面積が上記範囲内であるベルト本体10において、特に耐水性および耐亀裂進展性を高められる。
【0029】
ベルト本体10には、張力が加えられる。上記張力は、例えばベルト本体10の自然長に対して3%以上10%以下の伸長率となる大きさとすることができる。特に伸長率が3%以上7%以下の範囲で使用されることが多い。上記張力が上記下限未満であると、当該伝動ベルト1が駆動プーリX1の動力を従動プーリX2に十分に伝えられないおそれがある。逆に、上記張力が上記上限を超えると、当該伝動ベルト1を駆動プーリX1および従動プーリX2間に架け渡すことが困難となり、取扱性が低下するおそれがある。
【0030】
(エラストマー)
ベルト本体10を構成するエラストマーの主成分は、熱可塑性ポリウレタンである。上記熱可塑性ポリウレタンとしては、例えばカプロラクトン系ポリウレタン、ポリカーボネート系ポリウレタン、エーテル系ポリウレタン等を用いることができる。
【0031】
上記熱可塑性ポリウレタンとしては、カプロラクトン系が好ましい。このように上記熱可塑性ポリウレタンをカプロラクトン系とすることで、ベルト本体10の硬度を高めることなく、耐水性および耐亀裂進展性をさらに高められる。上記熱可塑性のカプロラクトン系ポリウレタンとしては、例えばポリオール種としてカプロラクトンエステル、イソシアネート種としてジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、架橋剤種として1,4-ブタンジオール(1,4BD)を用いたものを用いることができる。
【0032】
また、上記エラストマーが、2種以上の熱可塑性ポリウレタンを含むとよい。上記2種以上の熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも1種が、カプロラクトン系であることが好ましく、全種がカプロラクトン系であることがより好ましい。このように上記エラストマーを2種以上の熱可塑性ポリウレタンとし、上記2種以上の熱可塑性ポリウレタンのうちの少なくとも1種をカプロラクトン系とすることで、後述する6%モジュラスの値を容易に所望の範囲に制御することができる。
【0033】
なお、上記エラストマーの副成分として、他の種類のエラストマーを含むこともできるが、上記エラストマーが熱可塑性ポリウレタンのみであることが好ましい。
【0034】
上記エラストマーに対して昇温法による溶融粘度測定を行うと、例えば図2のような温度―溶融粘度曲線が得られる。図2には、3種類のエラストマーの温度―溶融粘度曲線を例示している。なお、エラストマーの昇温法による溶融粘度測定は、市販の高下式フローテスタ(例えば島津製作所製の「CFT-500D」)を用い、所定の温度(例えば120℃)で180秒間の予熱後、昇温速度5℃/minで昇温しつつ、ダイ(直径1mm、深さ1mm)から荷重10kgでエラストマーを押し出して行う。このときに単位時間に押し出される量から換算される粘度を、その温度における粘度とする。なお、粘度η[Pa・s]は、押し出されるエラストマーのせん断応力τ[Pa]およびせん断速度γ(s-1)からη=τ/γで換算することができる。
【0035】
図2に示すように、温度の上昇とともに粘度は低下していく。上記エラストマーの昇温法による溶融粘度測定において粘度100,000Pa・Sとなる第1溶融温度の下限としては、150℃が好ましく、170℃がより好ましく、180℃がさらに好ましく、190℃が特に好ましい。また、上記エラストマーの昇温法による溶融粘度測定において粘度1,000Pa・Sとなる第2溶融温度の上限としては、240℃が好ましく、230℃がより好ましく、220℃がさらに好ましい。上記第1溶融温度が上記下限未満であると、ベルト本体10の耐熱性が低下するおそれがある。逆に、上記第2溶融温度が上記上限を超えると、無端状とするためのベルト本体10の接合を高温で行う必要が生じ、作業性が低下するおそれがある。
【0036】
上記第1溶融温度と上記第2溶融温度との温度差の上限としては、30℃が好ましく、25℃がより好ましく、20℃がさらに好ましい。このように上記第1溶融温度と上記第2溶融温度との温度差を上記上限以下とすることで、ポリウレタンの分子量分布のばらつきが抑えられ、耐水性および耐亀裂進展性をさらに高められる。一方、上記温度差の下限としては、特に限定されないが、上記温度差は通常10℃以上となる。
【0037】
上記エラストマーの主成分の数平均分子量の下限としては、30,000が好ましく、50,000がより好ましく、60,000がさらに好ましく、65,000が特に好ましい。一方、上記数平均分子量の上限としては、80,000が好ましく、75,000がより好ましく、70,000がさらに好ましい。上記数平均分子量が上記下限未満であると、第1溶融温度が低下し易い。この場合、ベルト本体10の強度が低下し易く、早期切断のおそれがある。逆に、上記数平均分子量が上記上限を超えると、第2溶融温度が上昇し易い。この場合、当該伝動ベルト1を駆動プーリX1および従動プーリX2間に架け渡すことが困難となり、取扱性が低下するおそれがある。
【0038】
また、上記エラストマーの主成分の重量平均分子量の下限としては、70,000が好ましく、160,000がより好ましく、170,000がさらに好ましい。一方、上記重量平均分子量の上限としては、240,000が好ましく、200,000がより好ましく、190,000がさらに好ましい。上記重量平均分子量が上記下限未満であると、上記第1溶融温度と上記第2溶融温度との温度差が大きくなり易く、ベルト本体10の強度が低下し易く、早期切断のおそれがある。逆に、上記重量平均分子量が上記上限を超えると、当該伝動ベルト1の硬度が高くなり過ぎ、取扱性が低下するおそれがある。
【0039】
このように上記エラストマーの主成分の数平均分子量および重量平均分子量を上記範囲内とすることで、第1溶融温度が150℃以上であり、第2溶融温度が240℃以下である範囲で上記第1溶融温度と上記第2溶融温度との温度差を30℃未満とし易い。
【0040】
ベルト本体10のJIS-A硬度の下限としては、80が好ましく、85がより好ましい。一方、上記JIS-A硬度の上限としては、99が好ましく、96がより好ましい。上記JIS-A硬度が上記下限未満であると、ベルト本体10に十分に張力を与えることが難しくなり、当該伝動ベルト1の伝動力が低下するおそれがある。逆に、上記JIS-A硬度が上記上限を超えると、張力を加えても伸びが少ないため、当該伝動ベルト1を駆動プーリX1および従動プーリX2間に架け渡すことが困難となり、取扱性が低下するおそれがある。
【0041】
ベルト本体10のJIS-A硬度は、例えば上記エラストマーの主成分の選択により制御することができる。2種類以上のエラストマーを用いる場合は、それぞれのエラストマー単位で所望の範囲のJIS-A硬度となるエラストマーを用いて制御してもよい。
【0042】
ベルト本体10には、当該伝動ベルト1の効果を損ねない範囲において、ウレタンを主成分とする伝動ベルトに通常添加される滑剤などを含有させることができる。上記滑剤としては、例えば脂肪酸アマイドが挙げられる。上記滑剤を添加することで、当該伝動ベルト1に急激な負荷がかかった時に、当該伝動ベルト1が滑ることで、当該伝動ベルト1の切断を防止することができる。
【0043】
当該伝動ベルト1の6%モジュラスは、2.5MPa以上であり、2.6MPa以上がより好ましい。一方、当該伝動ベルト1の6%モジュラスは、3MPa未満であり、2.9MPa未満がより好ましい。上記6%モジュラスが上記下限未満であると、耐水性および耐亀裂進展性を確保し難くなるおそれがある。逆に、上記6%モジュラスが上記上限を超えると、スリップ防止性能が不十分となるおそれがある。なお、上記モジュラスは例えば10%で測定して判断することも可能であるが、上述したように伝動ベルトは、伸長率が3%以上7%以下の範囲で使用されることが多いため、この使用範囲の上限近傍である6%を用いている。このように6%モジュラスを指標として用いることで、スリップ防止性能を精度よく制御し易い。
【0044】
負荷トルク0.6N・m時における当該伝動ベルト1のスリップ率の上限としては、7%が好ましく、6.5%がより好ましい。上記スリップ率が上記上限を超えると、当該伝動ベルト1の走行時にスリップが発生し過ぎ、回転数不足等、設備の機能を十分に満足しないおそれがある。一方、上記スリップ率の下限は特に限定されず、低いほどよい。
【0045】
負荷トルク1.0N・m時における当該伝動ベルト1のスリップ率の上限としては、12.5%が好ましく、11%がより好ましい。上記スリップ率が上記上限を超えると、当該伝動ベルト1の走行時にスリップが発生し過ぎ、回転数不足等、設備の機能を十分に満足しないおそれがある。一方、上記スリップ率の下限は特に限定されず、低いほどよい。
【0046】
上述の「スリップ率」は、以下の手順で測定される。まず、ベルトの両端を溶融接合し、無端状の伝動ベルトとする。次に、この伝動ベルトを伸長率が6%となるように伸長させた状態で一対のプーリ間に架け渡す。駆動プーリの回転数を1600rpmに固定し、従動プーリの負荷トルクを0.6N・mまたは1.0N・mとし、従動プーリの回転数[rpm]をそれぞれ計測する。各負荷トルクにおけるスリップ率は、従動プーリの回転数をa[rpm]として、以下の式1で算出する。
スリップ率=(1600-a)/1600×100[%] ・・・1
【0047】
<製造方法>
当該伝動ベルト1のベルト本体10は、例えば、原材料となるウレタンのペレットを押出し機に投入し、スクリューを使用した押出成形により作製することができる。
【0048】
具体的には、まず、原材料となるウレタンのペレットを準備する。エラストマーが、2種以上の熱可塑性ポリウレタンを含む場合は、この2種以上のウレタンのペレットについて、計量機を用いて所定量を計量して混合し、撹拌機を用いて攪拌を行って原材料とする。この原材料を、所定の温度に設定した押出し機に投入し、スクリューを使用して溶融混錬させて所望の断面形状に応じたダイ(口金)から押出した後、冷却固化させることにより、成形されたベルト本体10を得ることができる。
【0049】
<利点>
当該伝動ベルト1は、ベルト本体10を構成するエラストマーの主成分が、熱可塑性ポリウレタンであり、耐水性および耐亀裂進展性を高められる。また、上記主成分を熱可塑性ポリウレタンとすることで、ベルト本体10の硬度が高くなり難いため、当該伝動ベルト1は、取扱性に優れる。一方、ベルト本体10のエラストマーの主成分を熱可塑性ポリウレタンとするとスリップ防止性能が低下し易いところ、6%モジュラスを上記範囲内とすることで、耐水性および耐亀裂進展性とスリップ防止性能とを両立できる。すなわち、当該ベルト1は、スリップ防止性能にも優れる。
【0050】
[その他の実施形態]
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、上記態様の他、種々の変更、改良を施した態様で実施することができる。
【0051】
上記実施形態では、伝動ベルトがベルト本体単層で構成されている場合を説明したが、ベルト本体は多層構造であってもよい。この場合、少なくとも主たる層を構成するベルト本体層が、上記実施形態で説明したエラストマー製とされる。ここで、「主たる層」とは、断面積が最大である層、好ましくは断面積の50%以上を占める層を意味し、断面が円形状の丸ベルトでは、通常は内部層となる。
【0052】
また、ベルト本体の内部には空洞があってもよい。ベルト本体の内部に空洞を設けることで、強度を維持しつつ軽量化を図ることができる。
【0053】
本発明の伝動ベルトは、ベルト本体以外の構成を備えていてもよい。例えば当該伝動ベルトは、ベルト本体内部に1または複数の芯体を備えていてもよい。上記芯体としては、例えばスチールコード、ガラス繊維コード、ポリエステル繊維コード、芳香族ポリアミド繊維コードなどを挙げることができる。
【0054】
あるいは、当該伝動ベルトは、ベルト本体の外面を覆うカバー層を備えることもできる。上記カバー層としては、例えばポリエステル樹脂層などを挙げることができる。
【実施例0055】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、当該発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
[No.1]
表1に示す2種類の熱可塑性のカプロラクトン系ポリウレタン樹脂のペレットを、計量機を用いて10:3の質量比率となるように計量し、撹拌機を用いて攪拌したものを原材料とした。この原材料を、スクリューを備えた押出し成形機に投入し、溶融混錬して押出成形することにより、熱可塑性ポリウレタンを主成分とするエラストマー製のベルト本体(丸断面:直径5mm)を作製した。このときの押出し成形機の入口温度は180℃、出口温度は220℃に設定した。作製したベルト本体の数平均分子量および重量平均分子量は表1のとおりである。また、このベルト本体を所定の長さに切断したものの両端を、常法により溶融接合し、無端状として、ベルト本体のみで構成したNo.1の伝動ベルト(丸ベルト)を準備した。
【0057】
No.1のベルト本体の製造に用いた2種類のポリウレタンそれぞれのJIS-A硬度およびNo.1の伝動ベルトのJIS-A硬度を、JIS-K-7312:1996(A法)に準じてベルト表面にA型硬度計の押針を当てて測定した。結果を表1に示す。なお、ポリウレタンのJIS-A硬度は、それぞれのポリウレタンを単独で原材料に用いたこと以外はNo.1の伝動ベルトのベルト本体と同様にして成形したベルト本体について測定した値である。
【0058】
ポリウレタンおよびNo.1の伝動ベルトの6%モジュラスを、以下の手順で測定した。周長が約880mmの無端状となるように準備した伝動ベルトを引張試験機(株式会社島津製作所製の「オートグラフ(商品名)」)を使用して伸長させた。具体的には、上記引張試験機のクロスヘッドに治具を介して一対のプーリを固定し、この一対のプーリ間に伝動ベルトを架け渡した。その後、一方のプーリ軸を移動させて伝動ベルトを伸長することで、伸長率および軸荷重を測定した。上記伝動ベルトを6%伸長させたときの軸荷重[N]を2で割った値をさらにベルトの断面積[mm]で割って、6%モジュラス[MPa]とした。結果を表1に示す。
【0059】
なお、上述の「伸長率」とは、伝動ベルトの自然長L0(張力を与えていないときの長さ)と、伸長させたときの長さLtから、以下の式2で算出した値を言う。ここで、自然長L0は、上記引張試験機を使用した測定において、軸荷重が実質0の状態から軸荷重が加わる瞬間(直前)における駆動プーリX1と従動プーリX2との間隔、駆動プーリX1および従動プーリX2の径から算出することができる。例えば図1に示すベルト本体10の自然長L0は、上述の瞬間における駆動プーリX1と従動プーリX2との軸間距離の2倍に駆動プーリX1の半周長および従動プーリX2の半周長を加えた長さとなる。伸長させたときの長さLtについても、そのときのプーリの軸間距離に応じて同様に算出することができる。
伸長率=(Lt-L0)/L0×100[%] ・・・2
【0060】
上記ベルト本体の製造に使用したエラストマー(ポリウレタン樹脂のペレット)について、昇温法による溶融粘度測定を行った。エラストマーの昇温法による溶融粘度測定は、市販の高下式フローテスタ(島津製作所製の「CFT-500D」)を用い、120℃で180秒間の予熱後、昇温速度5℃/minで昇温しつつ、ダイ(直径1mm、深さ1mm)から荷重10kgでエラストマーを押し出して行った。このときに単位時間に押し出される量から換算される粘度を、その温度における粘度とした。結果を表1に示す。
【0061】
[No.2]
ベルト本体の製造に使用する原材料のポリウレタン樹脂として、熱可塑性のアジペート系ポリウレタン1種類のみを使用したこと以外はNo.1と同様にして、ベルト本体を製造し、No.2の伝動ベルトを準備した。
【0062】
No.2の伝動ベルトについて、No.1と同様に、JIS-A硬度、6%モジュラスおよび昇温法による溶融粘度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0063】
[No.3]
ベルト本体の製造に使用する原材料のポリウレタン樹脂として、No.1で使用した2種類の熱可塑性のカプロラクトン系ポリウレタンのうちの1種類のみを使用したこと以外はNo.1と同様にして、ベルト本体を製造し、No.3の伝動ベルトを準備した。
【0064】
No.3の伝動ベルトについて、No.1と同様に、JIS-A硬度、6%モジュラスおよび昇温法による溶融粘度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0065】
[No.4]
ベルト本体の製造に使用する原材料のポリウレタン樹脂として、No.1で使用した2種類の熱可塑性のカプロラクトン系ポリウレタンのうちの他の1種類のみを使用したこと以外はNo.1と同様にして、ベルト本体を製造し、No.4の伝動ベルトを準備した。
【0066】
No.4の伝動ベルトについて、No.1と同様に、JIS-A硬度、6%モジュラスおよび昇温法による溶融粘度の測定を行った。結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
[評価]
(スリップ防止性能)
周長が約580mmの無端状となるように準備したNo.1~No.4の伝動ベルトを、図1に示す駆動プーリX1および従動プーリX2間に架け渡した。なお、駆動プーリX1の直径および従動プーリX2の直径はそれぞれ44mm、駆動プーリX1の回転数は1600rpmであり、伝動ベルトの伸長率は6%とした。従動プーリX2の負荷トルクを0.6N・mまたは1.0N・mとし、従動プーリX2の回転数[rpm]を計測した。
【0069】
スリップ率は、従動プーリX2の回転数をa[rpm]として、以下の式3で算出した。結果を表1に示す。
スリップ率=(1600-a)/1600×100[%] ・・・3
【0070】
スリップ率は、以下の判定基準で判定した。
A:負荷トルク0.6N・m時におけるスリップ率が6.5%未満かつ1.0N・m時におけるスリップ率が11%未満である。
B:負荷トルク0.6N・m時におけるスリップ率が6.5%以上7%未満かつ1.0N・m時におけるスリップ率が11%以上12.5%未満である。
C:上記A、B以外(A、Bよりスリップ率が高い)である。
【0071】
(耐水性および耐亀裂進展性)
周長が約880mmの無端状となるように準備したNo.1~No.4の伝動ベルトに深さ1.5mmの切り込みを均等に4箇所入れ、98℃の熱水に6.5日間浸漬後、図1に示す駆動プーリX1および従動プーリX2間に架け渡した。なお、駆動プーリX1の直径は24mm、従動プーリX2の直径は37mm、駆動プーリX1および従動プーリX2間の距離(軸間距離)は410mm、駆動プーリX1の回転数は2750rpmであり、伝動ベルトの伸長率は15%とした。
【0072】
上述の構成で、伝動ベルトを走行させた。No.1、No.3については、500時間の走行を経ても伝動ベルトが切断されることはなかったが、No.2およびNo.4については、24時間未満の走行で伝動ベルトの切断が発生した。この結果から、No.1、No.3については、耐水性および耐亀裂進展性が高い(評価A)、No.2およびNo.4については耐水性および耐亀裂進展性が低い(評価C)と判定した(表1参照)。
【0073】
表1の結果から、エラストマーの主成分が、熱可塑性ポリウレタンであり、6%モジュラスが、2.5MPa以上3MPa未満であるNo.1の伝動ベルトは、耐水性および耐亀裂進展性が高く、かつスリップ防止性能にも優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明の伝動ベルトは、取扱性を維持しつつ、耐水性および耐亀裂進展性が高く、かつスリップ防止性能にも優れる。
【符号の説明】
【0075】
1 伝動ベルト
10 ベルト本体
X1 駆動プーリ
X2 従動プーリ
図1
図2