(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002512
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】触覚提示デバイス及び触覚提示システム
(51)【国際特許分類】
A61H 7/00 20060101AFI20241226BHJP
【FI】
A61H7/00 322E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102738
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000004569
【氏名又は名称】日本たばこ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉元 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】春田 鴻志
(72)【発明者】
【氏名】関根 崇泰
(72)【発明者】
【氏名】御神村 友樹
【テーマコード(参考)】
4C100
【Fターム(参考)】
4C100AD02
4C100BA01
4C100BB04
4C100BC12
4C100CA03
4C100CA15
4C100DA01
4C100DA04
4C100DA05
4C100DA08
4C100DA09
4C100DA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】人に撫でられているような心地よい触覚刺激を付与可能な触覚提示デバイスを提供する。
【解決手段】触覚の提示面S1を有する触覚提示部と、触覚提示部を駆動する駆動部とを備えるようにした。触覚提示部は、提示面S1に沿って配列され、提示面S1側の壁が提示面S1の法線方向に膨出変形可能な弾性膜で形成された複数の空気室9を有する構成とした。また、駆動部は、空気室9毎に設けられ、弾性膜が膨出・復元するように、空気室9内の空気圧を調整する複数の駆動ユニット13を有する構成とした。そして、駆動ユニット13を、空気室9と連通された加圧室と、加圧室の壁を形成し、加圧室側の面と反対側の面である押圧面が押圧された場合に加圧室の外側から内側に膨出するダイアフラム15と、押圧面に対向して配置され、押圧面を押圧するアクチュエータと、を有する構成とした。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
触覚の提示面を有する触覚提示部と、前記触覚提示部を駆動する駆動部とを備え、
前記触覚提示部は、前記提示面に沿って配列され、前記提示面側の壁が前記提示面の法線方向に膨出変形可能な弾性膜で形成された複数の空気室を有し、
前記駆動部は、前記空気室毎に設けられ、前記弾性膜が膨出・復元するように、前記空気室内の空気圧を調整する複数の空気圧調整部を有し、
前記空気圧調整部は、
前記空気室と連通された加圧室と、
前記加圧室の壁を形成し、前記加圧室側の面と反対側の面である押圧面が押圧された場合に前記加圧室の外側から内側に膨出するダイアフラムと、
前記押圧面に対向して配置され、前記押圧面を押圧するアクチュエータと、を有する
触覚提示デバイス。
【請求項2】
前記アクチュエータは、ボイスコイルモータである
請求項1に記載の触覚提示デバイス。
【請求項3】
前記弾性膜の材料は、シリコーンゴムである
請求項1に記載の触覚提示デバイス。
【請求項4】
前記提示面を構成する前記弾性膜の面は、平滑面である
請求項1に記載の触覚提示デバイス。
【請求項5】
前記提示面を構成する前記弾性膜の面は、凹凸パターンを有する凹凸面である
請求項1に記載の触覚提示デバイス。
【請求項6】
前記触覚提示部と前記駆動部とは、別体として分離されており、
前記空気室と前記加圧室とを連通させる接続チューブを備える
請求項1から5の何れか1項に記載の触覚提示デバイス。
【請求項7】
触覚の提示面を有する触覚提示部と、前記触覚提示部を駆動する駆動部とを備え、
前記触覚提示部は、前記提示面に沿って配列され、前記提示面側の壁が前記提示面の法線方向に膨出変形可能な弾性膜で形成された複数の空気室を有し、
前記駆動部は、前記空気室毎に設けられ、前記弾性膜が膨出・復元するように、前記空気室内の空気圧を調整する複数の空気圧調整部を有し、
前記空気室は、該空気室の壁を形成し、前記空気室側の面と反対側の面である押圧面が押圧された場合に前記空気室の外側から内側に膨出するダイアフラムと、
前記押圧面に対向して配置され、前記押圧面を押圧するアクチュエータと、を有する
触覚提示デバイス。
【請求項8】
触覚の提示面を有する触覚提示部と、前記触覚提示部を駆動する駆動部とを備え、前記触覚提示部は、前記提示面に沿って配列され、前記提示面側の壁が前記提示面の法線方向に膨出変形可能な弾性膜で形成された複数の空気室を有し、前記駆動部は、前記空気室毎に設けられ、前記弾性膜が膨出・復元するように、前記空気室内の空気圧を調整する複数の空気圧調整部を有し、前記空気圧調整部は、前記空気室と連通された加圧室、前記加圧室の壁を形成し、前記加圧室側の面と反対側の面である押圧面が押圧された場合に前記加圧室の外側から内側に膨出するダイアフラム、及び前記押圧面に対向して配置され、前記押圧面を押圧するアクチュエータを有する触覚提示デバイスと、
接触圧力分布の時系列データを取得し、取得した前記接触圧力分布の時系列データに基づき、前記触覚提示部で前記接触圧力分布の時系列データが再生されるように、各前記空気圧調整部の前記アクチュエータそれぞれを制御する制御部と、を備える
触覚提示システム。
【請求項9】
前記接触圧力分布の時系列データを記憶する記憶部と、
前記制御部は、前記記憶部から前記接触圧力分布の時系列データを取得し、取得した前記接触圧力分布の時系列データに基づき、前記触覚提示部で前記接触圧力分布の時系列データが再生されるように、各前記空気圧調整部の前記アクチュエータそれぞれを制御する
触覚提示システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触覚提示デバイス及び触覚提示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、椅子の背面クッションに空気振動用スピーカを埋め込んだ椅子装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の椅子装置では、空気振動用スピーカに20Hz~60Hzの1/fゆらぎ振動を発生させることで、座っている人の背中に触覚刺激(振動刺激)を付与し、血行をよくして疲労回復を行うようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の椅子装置では、空気振動用スピーカによる振動刺激を用いるため、人に撫でられているような心地よい触覚刺激を付与することは困難であった。
本発明は、人に撫でられているような心地よい触覚刺激を付与可能な触覚提示デバイス及び触覚提示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の触覚提示デバイスの一態様は、(a)触覚の提示面を有する触覚提示部と、触覚提示部を駆動する駆動部とを備え、(b)触覚提示部は、提示面に沿って配列され、提示面側の壁が提示面の法線方向に膨出変形可能な弾性膜で形成された複数の空気室を有し、(c)駆動部は、空気室毎に設けられ、弾性膜が膨出・復元するように、空気室内の空気圧を調整する複数の空気圧調整部を有し、(d)空気圧調整部は、空気室と連通された加圧室と、(e)加圧室の壁を形成し、加圧室側の面と反対側の面である押圧面が押圧された場合に加圧室の外側から内側に膨出するダイアフラムと、(f)押圧面に対向して配置され、押圧面を押圧するアクチュエータと、を有することを要旨とする。
【0006】
本発明の触覚提示デバイスの他の態様は、(a)触覚の提示面を有する触覚提示部と、触覚提示部を駆動する駆動部とを備え、(b)触覚提示部は、提示面に沿って配列され、提示面側の壁が提示面の法線方向に膨出変形可能な弾性膜で形成された複数の空気室を有し、(c)駆動部は、空気室毎に設けられ、弾性膜が膨出・復元するように、空気室内の空気圧を調整する複数の空気圧調整部を有し、(d)空気室は、該空気室の壁を形成し、空気室側の面と反対側の面である押圧面が押圧された場合に空気室の外側から内側に膨出するダイアフラムと、(e)押圧面に対向して配置され、押圧面を押圧するアクチュエータと、を有することを要旨とする。
【0007】
本発明の触覚提示システムは、(a)触覚の提示面を有する触覚提示部と、触覚提示部を駆動する駆動部とを備え、(b)触覚提示部は、提示面に沿って配列され、提示面側の壁が提示面の法線方向に膨出変形可能な弾性膜で形成された複数の空気室を有し、(c)駆動部は、空気室毎に設けられ、弾性膜が膨出・復元するように、空気室内の空気圧を調整する複数の空気圧調整部を有し、(d)空気圧調整部は、空気室と連通された加圧室、(e)加圧室の壁を形成し、加圧室側の面と反対側の面である押圧面が押圧された場合に加圧室の外側から内側に膨出するダイアフラム、(f)及び押圧面に対向して配置され、押圧面を押圧するアクチュエータを有する触覚提示デバイスと、(g)接触圧力分布の時系列データを取得し、取得した接触圧力分布の時系列データに基づき、触覚提示部で接触圧力分布の時系列データが再生されるように、各空気圧調整部のアクチュエータそれぞれを制御する制御部と、を備えることを要旨とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態に係る触覚提示システムの全体構成を示す図である。
【
図3】提示ユニット及び駆動ユニットの断面構成を示す図である。
【
図4】提示ユニット及び駆動ユニットの断面構成を示す図である。
【
図6】実施例の触覚提示デバイスを分解して示す図である。
【
図7】空気室内の気圧と大気圧との差圧と、提示ユニットから出力される力の振幅との関係を示す図である。
【
図8】アクチュエータの入力電流と、提示ユニットから出力される力との関係を示す図である。
【
図9】実施例2の触覚提示デバイスの周波数特性を示す図である。
【
図10】第2の実施形態の触覚提示デバイスの構成を示す図である。
【
図11】提示ユニット及び駆動ユニットの断面構成を示す図である。
【
図12】提示ユニット及び駆動ユニットの断面構成を示す図である。
【
図13】変形例に係る提示ユニットの構成を示す図である。
【
図14】変形例に係る提示ユニットの性能評価結果を示す図である。
【
図15】変形例に係る提示ユニットの構成を示す図である。
【
図16】変形例に係る触覚提示部の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係る触覚提示デバイス及び触覚提示システムの一例を、
図1~
図15を参照しながら説明する。本発明の実施形態は以下の順序で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。また、本明細書に記載された効果は例示であって限定されるものではなく、また他の効果があってもよい。
1.第1の実施形態
1-1 触覚提示システムの全体の構成
1-2 実施例
2.第2の実施形態
2-1 要部の構成
2-2 変形例
【0010】
〈1.第1の実施形態〉
[1-1 触覚提示システムの全体の構成]
以下、第1の実施形態に係る触覚提示システムの構成を、図面を参照して説明する。
図1は、触覚提示システム1の一構成例を示す図である。
図1に示した触覚提示システム1は、心地よい触覚刺激を与えて人をリラックスさせるためのシステムであり、人と人との触覚コミュニケーションによる触覚刺激パターンを記録し、記録した触覚刺激パターンを再生することも可能である。より具体的には、人に撫でられているような心地よい触覚刺激を提示できるシステムである。
【0011】
図1に示すように、触覚提示システム1は、触覚提示デバイス2と、触覚入力デバイス3と、記憶装置4(広義には「記憶部」とも呼ぶ)と、制御デバイス5(広義には「制御部」とも呼ぶ)とを備えている。触覚提示デバイス2は、
図2、
図3、
図4に示すように、触覚の提示面S1を有する触覚提示部6と、触覚提示部6を駆動する駆動部7とを有している。触覚提示部6と駆動部7とは、別体として分離されて形成されている。
触覚提示部6は、
図2に示すように、使用者に触覚刺激を付与する装置である。
図2では、一例として、触覚提示部6を、使用者が仕事の合間等に掌で触れることで、使用者の掌に触覚刺激を付与できるように、机等の平面上に並べて配置した場合を示している。触覚提示部6は、触覚の提示面S1に沿って配列された複数の提示ユニット8を有している。提示ユニット8の外形は、上底面が提示面S1と平行となっている扁平な六角柱状となっている。
図2では、提示面S1を上向きの平面とし、その平面に沿って3つの提示ユニット8(つまり、扁平な六角柱)を隙間なく配列(平面充填)した場合を例示している。
【0012】
また、提示ユニット8の内部には、提示ユニット8の外形と相似形状である六角柱状の空間を有する空気室9が形成されている。即ち、各提示ユニット8それぞれに空気室9が形成されている。これにより、触覚提示部6は、触覚の提示面S1に沿って複数の空気室9が配列された構成となっている。また、
図3、
図4に示すように、空気室9の側壁には、空気室9の内側から外側まで貫通する開口部10が形成されている。また、開口部10には、接続チューブ11を介して駆動部7の開口部17が接続されている。これにより、空気室9内の空気圧と加圧室14内の空気圧とは、互いに同一となっている。そのため、加圧室14内の空気圧を調整することで、空気室9内の空気圧を調整可能となっている。
【0013】
また、空気室9の提示面S1側の壁は、提示面S1の法線方向(
図3では上方向)に膨出変形可能な弾性膜12で形成されている。弾性膜12は、空気室9内の空気圧が大気圧と同じである場合に、平板状となる。また、弾性膜12は、
図4に示すように、空気室9内の空気圧が大気圧よりも上昇した場合に、空気室9の内側から外側に膨出する。弾性膜12の膨出度合いは、空気室9内の空気圧が大きいほど大きくなる。膨出した弾性膜12が提示面S1に触れている使用者の掌を押すことにより、使用者の掌に触覚刺激(圧縮刺激)を付与できる。また、このような圧縮刺激を付与できる空気室9(提示ユニット8)が隙間なく複数配列されているため、提示面S1上において圧縮刺激の移動を表現可能となっている。提示面S1を構成する弾性膜12の面(以下、「上面S1」とも呼ぶ。提示面S1と同じ面であるため、上面の符号もS1とした)は、凹凸の無い平滑面となっている。弾性膜12の材料としては、例えば、シリコーンゴムを採用できる。シリコーンゴムを用いることにより、人肌のような柔軟性・ぬくもりを有する触覚刺激を実現できる。
また、空気室9の側壁及び底部の壁は、上面S1側の壁(以下、「上面壁」とも呼ぶ)と一体に形成されている。即ち、提示ユニット8は、シリコーンゴムで形成されたバルーン状となっている。また、空気室9の側壁の厚さ及び底部の壁の厚さは、空気室9内の空気圧を大きくしても膨出変形しないように、上面壁の厚さよりも大きくなっている。
【0014】
駆動部7は、
図2に示すように、空気室9毎に設けられた複数の駆動ユニット13(広義には「空気圧調整部」とも呼ぶ)を有している。即ち、1つの空気室9(提示ユニット8)に対して1つの駆動ユニット13が設けられている。駆動ユニット13は、空気室9の弾性膜12が膨出・復元するように、空気室9内の空気圧を調整するユニットである。
図3、
図4に示すように、駆動ユニット13の内部には、軸方向が鉛直に向けられた、扁平な円筒状の加圧室14が形成されている。また、加圧室14の底部の壁は、加圧室14の外側から内側に膨出変形可能なダイアフラム15(隔膜)で形成されている。また、駆動ユニット13の内部には、ダイアフラム15の下面(加圧室14側の面と反対側の面。以下、「押圧面S2」とも呼ぶ)に対向してアクチュエータ16が配置されている。アクチュエータ16は、制御デバイス5によって制御され、ダイアフラム15の押圧面S2を押圧する。アクチュエータ16としては、例えば、推力性能向上や小型化の点から、ボイスコイルモータ(VCM:Voice Coil Motor)を採用できる。
【0015】
ダイアフラム15は、
図3に示すように、押圧面S2がアクチュエータ16で押圧されていない場合に、平板状となる。また、ダイアフラム15は、
図4に示すように、押圧面S2がアクチュエータ16で押圧された場合に、押圧された部分が加圧室14の外側から内側(
図4では下側から上側)に膨出する。ダイアフラム15が加圧室14の内側に膨出することにより、加圧室14の容積が膨出分だけ減少し、加圧室14内の空気圧が高くなる。
また、
図3、
図4に示すように、加圧室14の側壁には、加圧室14の内側から外側まで貫通する開口部17が形成されている。開口部17は、接続チューブ11を介して空気室9の開口部10と連通されている。これにより、空気室9内の空気圧と加圧室14内の空気圧とは、互いに同一となっている。そのため、駆動ユニット13のアクチュエータ16を制御することで、提示ユニット8の弾性膜12を膨出変形可能となっている。
【0016】
触覚入力デバイス3は、
図5に示すように、触覚提示デバイス2に提示させる触覚刺激(圧力刺激パターン)を入力するためのデバイスである。
図5では、一例として、触覚入力デバイス3を、入力者に入力面S3を撫でさせ入力面S3の接触圧力分布を順次計測するデバイスとした場合を例示している。後述するように、接触圧力分布は、触覚提示部6で再生されるため、触覚提示部6の提示面S1によって使用者に付与される接触圧力の分布である、とも言える。計測した接触圧力分布は、制御デバイス5に順次出力される。
記憶装置4は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等のメモリによって構成される補助記憶装置である。記憶装置4は、制御デバイス5が実行する処理に必要な各種データ(例えば、接触圧力分布の時系列データ)を記憶する。なお、記憶装置4が記憶する接触圧力分布の時系列データとしては、例えば、触覚入力デバイス3で計測して得られた時系列データ、コンピュータで作られた時系列データを採用できる。
ここで、触覚刺激が、人に撫でられているような心地よい触覚刺激であるためには、以下の要件を満たす必要がある。
(a)心地よいと感じる強さの力0.22N~0.5Nであること。
(b)人間の日常的な様々な身体動作について、その98%が振動周波数10Hz以下の動きであるため、10Hz以下であること。
そのため、記憶装置4には、上記の要件(a)(b)を満たす接触圧力分布の時系列データのみを記憶させるのが好ましい。
【0017】
制御デバイス5は、
図1に示すように、例えば、プロセッサ18と、記憶部19等の周辺部品とを有するコンピュータを含んでいる。プロセッサ18としては、例えば、CPU、MPUを採用できる。また、記憶部19としては、例えば、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶部として使用されるROM、RAM等のメモリが挙げられる。そして、制御デバイス5は、触覚入力デバイス3から出力される接触圧力分布を順次取得し、取得した接触圧力分布の時系列データを記憶装置4に記憶させる。また、制御デバイス5は、記憶装置4に記憶されている接触圧力分布の時系列データに基づき、触覚提示部6で接触圧力分布の時系列データが再生されるように、各駆動ユニット13のアクチュエータ16それぞれを制御する。これにより、上記の要件(a)(b)を満たす接触圧力分布の時系列データが再生され、人に撫でられているような心地よい触覚刺激を提示可能となっている。なお、記憶装置4に上記の要件(a)(b)を満たさない接触圧力分布の時系列データも記憶されている場合には、触覚提示部6で再生される接触圧力分布の時系列データが上記の要件(a)(b)を満たすように、制御デバイス5で接触圧力分布の時系列データを修正してもよい。
【0018】
ここで、触覚提示システム1を、人に撫でられているような心地よい触覚刺激を提示可能なシステムとするためには、触覚提示デバイス2が以下の要件を満たす必要がある。
(c)心地よいと感じる強さの力である0.22N~0.5Nの力を出力できること。
(d)人間の日常的な様々な身体動作について、その98%が振動周波数10Hz以下の動きであるため、10Hz以下で力を出力できること。
これに対し、第1の実施形態に係る触覚提示システム1によれば、後述する実施例の性能評価で示すように、(c)0.5Nを超える力を出力できることができ、また、(d)カットオフ周波数を10Hzより大きくすることができる。それゆえ、上記の要件を満たす力を出力でき、人に撫でられているような心地よい触覚刺激を提示することができる。
【0019】
また、第1の実施形態では、弾性膜12の材料としてシリコーンゴムを用いた。それゆえ、提示面S1を人肌のような柔軟性・ぬくもりを有した触感とすることができる。そのため、触覚刺激による人に撫でられているような心地よさを、さらに向上できる。
また、第1の実施形態では、複数の提示ユニット8を隙間なく配列(平面充填)して提示面S1を形成する構成とした。即ち、複数チャネルを密に配置して連動可能な構成とした。それゆえ、撫でる側の人の手が移動する様子を提示面S1で表現でき、人が撫でる感覚をより適切に付与することができる。また、提示ユニット8の数や配列の仕方によって、様々な大きさや形(例えば、平面状、曲面状)の提示面S1を形成することができる。
また、第1の実施形態では、提示ユニット8を、空気室9の周囲の壁(上面壁、側壁、底部の壁)がシリコーンゴムで一体に形成されたバルーン状とする構成とした。それゆえ、提示ユニット8を軽量化でき、触覚提示部6を人体に装着することもできる。後述する実施例2の提示ユニット8では、提示ユニット8の総重量は149.9gとなった。
また第1の実施形態では、アクチュエータ16としてボイスコイルモータを用いる構成としたため、駆動音を低減でき、触覚刺激を受けながら仕事や家事を行うこともできる。
【0020】
[1-2 実施例]
第1の実施形態の触覚提示デバイス2の実施例について説明する。
(実施例1)
図6は、実施例の触覚提示デバイス2を分解して示す図である。提示ユニット8は、シリコーンゴム(Ecoflex00-30)を型に流し込み固めて形成した。空気室9の上面壁の厚さは2.5mm、側壁の厚さは4mm、底部の厚さは6mmとした。提示ユニット8の総厚は19mmとした。提示ユニット8の総重量は225.9gとなった。また、駆動部7の上側の筐体20、下側の筐体21は3Dプリンタを用いて形成した。筐体20、21の材料としては、レジン(Clear Resin V3)を用いた。上側の筐体20の下面には、空気室9を構成する凹部(不図示)を形成した。ダイアフラム15は、下側の筐体21の縁部と上側の筐体20の縁部との間に挟んで固定した。ダイアフラム15としては、シリコーンシート(EC-BH)を用いた。また、下側の筐体21の上面には、アクチュエータ16を収容する凹部22を形成した。アクチュエータ16としては、±5mmのストロークを有するボイスコイルモータ(AVM30-15)を用いた。また、ダイアフラム15とアクチュエータ16との間には、中央にアクチュエータ16の上端部が嵌まる凹部を有し周囲にフランジ部を有するハット状部材23を配置した。フランジ部の下面と下側の筐体21との間には、ダイアフラム15が平板状となるように、ハット状部材23を支持する複数のばね24を配置した。
【0021】
(実施例2)
実施例2では、アクチュエータ16として、実施例1のボイスコイルモータ(AVM30-15)よりも小型・軽量・低定格出力のボイスコイルモータ(AVM24-10)を用いた。それ以外は、実施例1と同様の構成とした。提示ユニット8の総重量は149.9gとなった。
以下の表1に、実施例1、2の触覚提示デバイス2の特徴についてまとめる。
【表1】
【0022】
(性能評価)
また、実施例1、2の触覚提示デバイス2に性能評価1、2を行った。
性能評価1では、実施例1、2の触覚提示デバイス2を用いて、0.3A、1HZの正弦波をアクチュエータ16に入力し、空気室9内の空気圧と大気圧との差圧を0kPaから1.0kPaまで変化させ、提示ユニット8から出力される力の振幅を計測した。
図7は、空気室9内の気圧と大気圧との差圧と、提示ユニット8から出力される力の振幅との関係を示す図である。
図7によれば、実施例1の触覚提示デバイス2は0.8kPaで1.7N程度の力を出力でき、実施例2の触覚提示デバイス2は0.4kPaで1.3N程度の力を出力できることが確認できた。そのため、実施例1、2の触覚提示デバイス2によれば、0.22N~0.5Nを超える力を出力できることが確認できた。
【0023】
性能評価2では、実施例2の触覚提示デバイス2を用いて、アクチュエータ16の入力電流を変化させ、提示ユニット8から出力される力を計測した。
図8は、アクチュエータ16の入力電流と、提示ユニット8から出力される力との関係を示す図である。
図8によれば、電流と力との相関関数は0.98となり高い線形性が確認できた。そのため、実施例2の触覚提示デバイス2によれば、アクチュエータ16の入力電流の大きさを調整することで、提示ユニット8から出力される力を調整できることが確認できた。
また、
図9(a)、
図9(b)は、実施例2の触覚提示デバイス2の周波数特性を示す図である。
図9(a)、
図9(b)によれば、カットオフ周波数は60Hz程度となることが確認できた。そのため、実施例2の触覚提示デバイス2によれば、カットオフ周波数(通過域と減衰域との境)が10Hzより大きくなることが確認できた。
【0024】
〈2.第2の実施形態〉
[2-1 要部の構成]
次に、本開示の第2の実施形態に係る触覚提示システム1について説明する。第2の実施形態の触覚提示システム1の全体構成は、
図1と同様であるから図示を省略する。
図10は、第1の実施形態の
図2に対応し、第2の実施形態の触覚提示デバイス2の構成を示す図である。
図11、
図12は、第1の実施形態の
図3、
図4に対応し、第2の実施形態の提示ユニット8及び駆動ユニット13の断面構成を示す図である。
図10、
図11、
図12では、
図2、
図3、
図4に対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0025】
第2の実施形態に係る触覚提示システム1は、
図10、
図11、
図12に示すように、触覚提示デバイス2の構成が、第1の実施形態に係る触覚提示システム1と異なっている。第2の実施形態では提示ユニット8の下面側に駆動ユニット13が一体化されている。
提示ユニット8は、空気室9の底部の壁がダイアフラム15で形成されている。第2の実施形態では、ダイアフラム15は、空気室9の外側から内側に膨出変形可能な弾性膜となっている。また、空気室9の開口部10が省略され空気室9が密閉空間となっている。
また、駆動ユニット13は、加圧室14が省略され、アクチュエータ16が、加圧室14のダイアフラム15の代わりに提示ユニット8の下面のダイアフラム15を押圧する。
ダイアフラム15は、
図11に示すように、空気室9側の面と反対側の面(押圧面S2)がアクチュエータ16で押圧されていない場合に、平板状となる。また、ダイアフラム15は、
図12に示すように、押圧面S2がアクチュエータ16で押圧された場合に、空気室9の外側から内側に膨出する。ダイアフラム15が空気室9の内側に膨出することにより、空気室9の容積が膨出分だけ減少し、空気室9内の空気圧が高くなる。空気室9内の空気圧が大気圧よりも上昇した場合に、弾性膜12が空気室9の内側から外側に膨出する。弾性膜12の膨出度合いは、空気室9内の空気圧が大きいほど大きくなる。
【0026】
[2-2 変形例]
(1)なお、第1及び第2の実施形態では、弾性膜12の上面S1を平滑面とする例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、
図13に示すように、弾性膜12の上面S1を、凹凸パターンを有する凹凸面としてもよい。
図13では、凹凸パターンが、7つの円柱状の凸部25を有する場合を例示している。ここで、弾性膜12の上面S1を平滑面とした触覚提示デバイス2(以下、「flat」とも呼ぶ)と、凹凸面とした触覚提示デバイス2(以下、「knobby」とも呼ぶ)とを用いて、性能評価を行った。この性能評価では、提示面S1と掌との接触力は100gfと500gfの2種類とした。
図14(a)は、アクチュエータ16の入力電流と、知覚強度との関係を示す図である。
図14(a)によれば、flatの感度(横軸に対する縦軸の変化の割合)>knobbyの感度、となった。それゆえ、flat(弾性膜12の上面S1を平滑面とした触覚提示デバイス2)によれば、少ない電流量で知覚強度を強めることができる。
図14(b)は、提示ユニット8から出力される力(以下、「提示力」とも呼ぶ)と、知覚強度との関係を示す図である。
図14(b)によれば、knobbyの感度>flatの感度、となった。それゆえ、knobby(弾性膜12の上面S1を凹凸面とした触覚提示デバイス2)によれば、少ない提示力の大きさで知覚強度を強めることができる。
【0027】
(2)また、第1及び第2の実施形態では、空気室9(提示ユニット8)の上面壁全体を弾性膜12とする例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、
図15に示すように、上面壁の中央部にのみ弾性膜12を形成する構成としてもよい。この場合、上面壁の中央部(弾性膜12)以外の部分は、空気室9内の空気圧を大きくしても膨出変形しないように、弾性膜12よりも剛性が高い材料で形成する。
図15では、一例として、第1の実施形態の提示ユニット8に適用した場合を例示している。
【0028】
(3)また、第1及び第2の実施形態では、触覚提示部6によって、使用者の掌に触覚刺激を付与する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、
図16に示すように、触覚提示部6を、背中を覆う洋服状の構成とし、使用者の背中に触覚刺激を付与する構成としてもよい。また、例えば、足で踏んだり座ったりするシート状の構成とし、使用者の足裏やお尻に触覚刺激を付与する構成としてもよい。また、例えば、腕や脚に巻き付けるシート状の構成とし、腕や脚に触覚刺激を付与する構成としてもよい。また、例えば、マウスパッド状の構成とし、マウスを操作している使用者の手に触覚刺激を付与する構成としてもよい。また、例えば、椅子等の家具に埋め込む構成としてもよい。
【0029】
(4)また、第1及び第2の実施形態では、触覚提示システム1を、人をリラックスさせるためのシステムとする例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、マッサージを記録・再生するシステムとしてもよい。また、例えば、デザイナーが触覚刺激を設計し、旧来の体験を拡張する接触刺激を付与するシステムとしてもよい。また、例えば、人に撫でられているような触覚刺激によって、スケジュール等をリマインドするシステムとしてもよい。また、例えば、遠隔地で接触圧力分布の時系列データを生成し、生成した時系列データをリアルタイム通信で受信し、受信した時系列データを再生する高臨場感コミュニケーションのシステムとしてもよい。また、例えば触覚提示部6をマウスパッド状の構成とした場合、映像コンテンツやマウス操作に応じて動作する構成としてもよい。
【0030】
(5)また、第1及び第2の実施形態では、人に撫でられているような心地よい触覚刺激、上記の要件(a)(b)を満たす触覚刺激を付与する例を示したが、他の構成としてもよい。例えば、(e)押す力0.2N程度、(f)押圧中心の動く速さ1~10cm/秒程度のやさしい、ゆっくりとした触覚刺激を付与する構成としてもよい。上記の要件(e)(f)を満たすことにより、心地よさを伝えるC線維を効率的に刺激でき、また、唾液中へのサイトカインの分泌が促進される可能性がある。ここで、サイトカインの分泌の促進は免疫系の活動が活性化することを意味する。また、上記の要件(e)(f)を満たすことにより、幸福感、心地よさ、撫で続けてもらいたい感覚をそれぞれ上昇させることも期待できる。
上記の要件(e)(f)を満たす触覚刺激を提示する場合、背中、首筋、頭部、腕、脚、足の甲、手の甲等、C線維の存在する有毛(ゆうもう)部を含む身体各所に提示ユニット8が配置されることが望ましい。なお、掌や足の裏は無毛(むもう)部であり、C線維は存在しないが、心地よい触覚刺激は受容できる。そのため、提示ユニット8の配置場所候補は、有毛部のみに限られるものではなく、無毛部に配置するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0031】
1…触覚提示システム、2…触覚提示デバイス、3…触覚入力デバイス、4…記憶装置、5…制御デバイス、6…触覚提示部、7…駆動部、8…提示ユニット、9…空気室、10…開口部、11…接続チューブ、12…弾性膜、13…駆動ユニット、14…加圧室、15…ダイアフラム、16…アクチュエータ、17…開口部、18…プロセッサ、19…記憶部、20…上側の筐体、21…下側の筐体、22…凹部、23…ハット状部材、24…ばね、25…凸部