(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025142
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】焼結用炭材及び焼結鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 1/16 20060101AFI20250214BHJP
C22B 1/20 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C22B1/16 E
C22B1/20 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129642
(22)【出願日】2023-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(72)【発明者】
【氏名】矢部 英昭
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA36
4K001CA40
4K001GA10
(57)【要約】
【課題】 焼結鉱を製造するときに発生する微細ダストの排出量を低減する。
【解決手段】 焼結鉱の製造で用いられる焼結用炭材であって、所定炭材及び石灰系原料を有する。所定炭材は、炭素原子に対する水素原子の原子数比(H/C)が0.19以上であって、揮発分が15質量%以下である。石灰系原料は、所定炭材に付着する。焼結用炭材中のCaO濃度は5質量%以上である。CaO濃度は、5質量%以上20質量%以下とすることができる。焼結用炭材は、単独で用いたり、他の炭材と共に用いて焼結鉱を製造することができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結鉱の製造で用いられる焼結用炭材であって、
炭素原子に対する水素原子の原子数比(H/C)が0.19以上であって、揮発分が15質量%以下である所定炭材と、
前記所定炭材に付着する石灰系原料と、を有し、
前記焼結用炭材中のCaO濃度が5質量%以上であることを特徴とする焼結用炭材。
【請求項2】
前記CaO濃度が5質量%以上20質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の焼結用炭材。
【請求項3】
前記石灰系原料が生石灰であることを特徴とする請求項1に記載の焼結用炭材。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の焼結用炭材を単独で用いて焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1つに記載の焼結用炭材を他の炭材と共に用いて焼結鉱を製造することを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項6】
前記他の炭材は、前記石灰系原料が付着していなく、H/Cが0.19未満であることを特徴とする請求項5に記載の焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結鉱の製造に用いられる焼結用炭材と、この焼結用炭材を用いた焼結鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1では、焼結鉱の製造において、表面被覆炭材を焼結燃料として配合炭中に含めている。ここで、表面被覆炭材は、石灰系原料由来のCaを36質量%以上含有する被覆物を炭材に対して2質量%超かつ50質量%未満の割合で炭材表面に被覆したものである。この表面被覆炭材を用いることにより、焼結鉱製造時のNOxの発生を抑制するようにしている。
【0003】
特許文献2では、造粒した原料を表面被覆炭材を用いて焼成する焼結鉱の製造方法において、表面被覆炭材の被覆物の組成として、CaO/(CaO+FeO)を0.1以上0.6以下としている。この表面被覆炭材を用いることにより、低温領域でのNOxの発生を抑制するようにしている。
【0004】
特許文献3では、ロガ指数が10以下である石炭を乾留して製造されたチャーに石灰系原料を付着させることにより、CaO濃度が4~30質量%である焼結用炭材を製造している。この焼結用炭材を用いることにより、焼結鉱を製造するときに発生するNOxの排出量を低減するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/129388号
【特許文献2】特開2015-086419号公報
【特許文献3】特開2021-161529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
焼結鉱を製造するときには焼結機から微細ダストが排出されるが、本願発明者は、石灰系原料を付着させる炭材について、揮発分と炭素原子に対する水素原子の原子数比(H/C)に着目したところ、微細ダストの排出量を低減できることが分かり、本発明を完成するに至った。
【0007】
特許文献1~3では、炭材に石灰系原料を付着させた焼結用炭材において、炭材の揮発分及びH/Cが微細ダストの排出量に影響を与えることについては、何ら認識していない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願第1の発明は、焼結鉱の製造で用いられる焼結用炭材であって、所定炭材及び石灰系原料を有する。所定炭材は、炭素原子に対する水素原子の原子数比(H/C)が0.19以上であって、揮発分が15質量%以下である。石灰系原料は、所定炭材に付着している。焼結用炭材中のCaO濃度は5質量%以上である。
【0009】
焼結用炭材中のCaO濃度は、5質量%以上20質量%以下とすることができる。石灰系原料としては、生石灰を用いることができる。
【0010】
本願第2の発明である焼結鉱の製造方法は、本願第1の発明である焼結用炭材を単独で用いて焼結鉱を製造したり、本願第1の発明である焼結用炭材を他の炭材と共に用いて焼結鉱を製造したりする。他の炭材としては、石灰系原料が付着していなく、H/Cが0.19未満である炭材を用いることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明である焼結用炭材を用いることにより、焼結鉱を製造するときに発生する微細ダストの排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】焼結試験装置におけるエアロゾル測定部の概略図である。
【
図3】石灰系原料が付着する炭材のH/Cと、焼結鉱の製造時に排出される微細ダストの濃度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態では、後述する焼結用炭材を用いて焼結鉱を製造することにより、焼結鉱の製造時(焼結工程)における微細ダストの排出量(言い換えれば、後述する微細ダスト濃度)を低減することができる。以下、具体的に説明する。
【0014】
(焼結用炭材)
焼結用炭材は、所定炭材と、所定炭材に付着する石灰系原料とで構成される。所定炭材は、炭素原子に対する水素原子の原子数比(H/C)が0.19以上であって、揮発分が15質量%以下である。焼結用炭材中のCaO濃度は5質量%以上である。
【0015】
焼結用炭材としては、焼結用炭材の表面が石灰系原料によって被覆された被覆型の焼結用炭材や、所定炭材及び石灰系原料が混合された混合型の焼結用炭材が挙げられる。被覆型及び混合型のいずれにおいても、石灰系原料は所定炭材に付着していることになる。
【0016】
被覆型の焼結用炭材では、この焼結用炭材を形成する粒子の内部が所定炭材によって構成されているとともに、焼結用炭材を形成する粒子の表層部が石灰系原料によって構成されている。ここで、石灰系原料は、焼結用炭材の表面全体を被覆している必要はなく、焼結用炭材の表面の一部だけを被覆しているものであってもよい。混合型の焼結用炭材では、この焼結用炭材を形成する粒子の全体において、所定炭材及び石灰系原料が混在している。
【0017】
被覆型の焼結用炭材は、所定炭材を石灰系原料と共に造粒することによって、この炭材粒子の表面に石灰系原料を付着させることにより製造することができる。混合型の焼結用炭材は、被覆型の焼結用炭材で用いられる所定炭材よりも粒径の小さな所定炭材及び石灰系原料を混合して造粒することにより製造することができる。焼結用炭材の製造においては、ドラムミキサやパンペレタイザなどの造粒機を用いることができる。ここで、1種類の造粒機を用いることもできるし、複数種類の造粒機を併用することもできる。また、所定炭材に石灰系原料を付着させやすくするために、焼結用炭材の製造時に水分を添加することが好ましい。
【0018】
焼結用炭材を製造するときにおいて、所定炭材及び石灰系原料の配合比率は適宜決めることができる。焼結用炭材中のCaO濃度が5質量%以上となるように所定炭材と石灰系原料の配合比率を決めれば良いが、焼結用炭材の造粒時に造粒機へ付着してロスとなる石灰系原料が発生することを見越して石灰系原料の配合比率を目標値よりも多めとしても構わない。被覆型及び混合型に応じて、所定炭材及び石灰系原料の配合比率を変更することができる。
【0019】
(所定炭材)
所定炭材は、上述したように、H/Cが0.19以上であって、揮発分が15質量%以下である炭材である。無煙炭やチャーについては、揮発分が15質量%以下となりやすい。所定炭材の原料となる石炭としては、1種類の石炭を用いたり、2種類以上の石炭を混合した混炭を用いたり、同一種類であるが石炭性状(工業分析値や元素分析値)が互いに異なる複数の石炭を混合した混炭を用いたりすることができる。
【0020】
H/Cは、下記式(1)に基づいて算出される。
【数1】
【0021】
上記式(1)において、H/Cは炭素原子に対する水素原子の原子数比[-]であり、H_eaは水素の元素分析値[質量%]であり、C_eaは炭素の元素分析値[質量%]である。ここで、元素分析値H_ea,C_eaは、JIS M8819の規定に準じて測定することができる。一方、揮発分は、JIS M8812の規定に準じて測定することができる。
【0022】
所定炭材の粒径は、適宜決めることができ、例えば、通常の焼結鉱の製造で用いられる炭材の粒径(10mm以下)とすることができる。
【0023】
(石灰系原料)
石灰系原料としては、石灰石(CaCO3)、石灰石を焼成した生石灰(CaO)、生石灰を水和した消石灰(Ca(OH)2)が挙げられる。これらの石灰系原料は、一種類だけを用いてもよいし、複数種類を混合して用いてもよい。ここで、一種類の石灰系原料を用いる場合には、生石灰を用いることができ、複数種類の石灰系原料を用いる場合には、生石灰を主成分として用いることができる。
【0024】
焼結用炭材中のCaO濃度が5質量%以上となるように石灰系原料の配合量を調整すればよい。石灰系原料として生石灰を用いた場合には、焼結用炭材における生石灰の含有量がCaO濃度となる。一方、石灰系原料として、石灰石又は消石灰を用いた場合には、石灰系原料の配合量からCaO濃度に換算した値が5質量%以上であればよい。焼結用炭材中のCaO濃度は、5質量%以上、20質量%以下であることが好ましい。
【0025】
被覆型の焼結用炭材を製造する場合には、石灰系原料の粒径を所定炭材の粒径よりも小さくすることが好ましい。これにより、石灰系原料を所定炭材の表面に効率的に付着させて、所定炭材の表面を石灰系原料で被覆しやすくなる。上述したように所定炭材の粒径を10mm以下とする場合には、石灰系原料の粒径を0.25mm以下とすることが好ましい。
【0026】
混合型の焼結用炭材を製造する場合には、所定炭材及び石灰系原料が混合しやすくなるように、所定炭材の粒径及び石灰系原料の粒径を等しくすることが好ましい。例えば、所定炭材の粒径及び石灰系原料の粒径を共に0.25mm以下とすることができる。
【0027】
(他の炭材)
焼結鉱の製造に用いられる炭材としては、本実施形態である焼結用炭材だけを単独で用いることもできるが、この焼結用炭材に加えて、他の種類の炭材を用いることもできる。他の炭材は、適宜選択することができるが、例えば、石灰系原料が付着していない炭材を用いたり、H/Cが0.19未満である炭材を用いたり、揮発分が15質量%よりも高い炭材を用いたりすることができる。他の炭材は、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。他の炭材としては、例えば、粉コークスを用いることができる。
【0028】
所定炭材及び他の炭材を併用する場合では、すべての炭材に石灰系原料を付着させるのではなく、H/Cが0.19以上かつ揮発分が15質量%以下である所定炭材のみに石灰系原料を付着させることにより、効果的に微細ダストの排出量を低減させつつ、石灰系原料の使用に伴うコスト上昇を抑制することができる。
【0029】
焼結用炭材及び他の炭材を併用するときにおいて、焼結用炭材の配合比率M1[質量%]と、他の炭材の配合比率M2[質量%]は適宜決めることができる。ここで、配合比率M1は、すべての炭材(焼結用炭材及び他の炭材を含む)の総質量に対する焼結用炭材の配合量の割合であり、配合比率M2は、すべての炭材(焼結用炭材及び他の炭材を含む)の総質量に対する他の炭材の配合量の割合である。焼結用炭材の配合比率M1が低すぎると、本実施形態の効果(微細ダストの排出量の低減)が得られにくくなることがあるため、配合比率M1を10質量%以上とすることが好ましい。
【0030】
(焼結鉱の製造方法)
本実施形態である焼結用炭材を鉄鉱石及び副原料と混合して加熱することにより、焼結鉱を製造することができる。焼結鉱の原料となる鉄鉱石としては、1種類の鉄鉱石を用いることもできるし、複数種類の鉄鉱石を用いることもできる。副原料としては、例えば、石灰石、生石灰、カンラン岩、蛇紋岩が挙げられる。焼結鉱の原料には、鉄鉱石、副原料及び焼結用炭材に加えて、返鉱を含めることができる。
【0031】
焼結鉱の配合原料は、造粒された後に、ホッパーを介して焼結機に装入される。これにより、焼結機内では原料充填層が形成され、原料充填層の上部に点火することにより、原料充填層が燃焼して焼結ケーキが生成される。焼結ケーキを解砕及び整粒することにより、所定粒径の焼結鉱が得られる。
【0032】
焼結鉱の配合原料を造粒する工程においては、一般的に、配合原料に水分を添加して造粒を行う。配合原料に水分を添加して造粒を行うことにより、水がバインダーとなって比較的粗い粒子の周囲に比較的細かい粒子が付着する。これにより見掛けの配合原料粒径が増大し、配合原料が焼結機に装入された際に原料充填層の空隙率および空隙径が増加して通気性が向上する。通気性が向上すれば焼結の進行が速くなり、焼結鉱の生産率も向上する。
【0033】
本実施形態である焼結用炭材とその他の配合原料とを同時に混合・造粒すると、本実施形態である焼結用炭材に含まれる石灰系原料が混合・造粒時に焼結用炭材から離脱してしまうおそれがある。この場合には、本実施形態の効果(微細ダストの排出量の低減)が得られにくくなる。
【0034】
上述した問題を解消するために、焼結用炭材を後添加することができる。後添加とは、焼結鉱の配合原料を混合・造粒する工程において、焼結用炭材を最初に添加するのではなく、上述した工程を完了する途中で焼結用炭材を添加することである。例えば、上述した工程を開始してから焼結用炭材を添加するまでの時間を全工程時間に対して80%以上95%以下とすることが好ましい。後添加には、焼結用炭材の全量を後添加する場合と、焼結用炭材の全量の一部を後添加する場合とが含まれる。一部の焼結用炭材を後添加する場合には、残りの焼結用炭材は、焼結用炭材を除いた原料と同時に混合することができる。
【実施例0035】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0036】
(炭材の種類)
炭材として、下記表1に示す無煙炭A~J及びチャーA~Fを用意した。下記表1には、各炭材と、比較対象としての粉コークスについて、分析値(工業分析値及び元素分析値)及びH/Cを示す。下記表1に示すように、無煙炭A~J及びチャーA~Fについては、揮発分が15質量%以下であり、無煙炭A~E及びチャーA~Eについては、H/Cが0.19以上であった。
【0037】
【0038】
(焼結用炭材の製造)
炭材(各無煙炭A~J又は各チャーA~F)と、炭材質量の20質量%に相当する生石灰(石灰系原料)を混練機に投入し、水を添加しながら3分間混錬した。ここで、水の添加量は、炭材及び生石灰の合計質量に対して24質量%とした。混錬後、パンペレタイザーを用いて5分間造粒することにより、各炭材(各無煙炭A~J又は各チャーA~F)に生石灰が付着した炭材(以下、「付着炭材」という)を製造した。なお、後述する焼結試験で用いられる炭材として、上述した付着炭材の他に、生石灰が付着していない炭材(各無煙炭A~J又は各チャーA~F、以下、「非付着炭材」という)も用意した。
【0039】
(焼結試験)
焼結機を小型サイズにした実験設備(以下、「鍋」という)を用いて、焼成処理を行うことにより、微細ダストの濃度を測定した。鍋の直径は300mmであり、鍋の厚みは600mmである。また、焼成処理における燃焼ガスの吸引圧を15.0kPaとした。
【0040】
焼結試験で用いられた原料を下記表2に示す。
【0041】
【0042】
鉄鉱石として、銘柄A~Fの鉄鉱石を用意した。これらの鉄鉱石の配合比率[質量%]は上記表2に示す通りである。副原料として、石灰石、生石灰及びカンラン岩を用意した。これらの副原料の配合比率[質量%]は上記表2に示す通りである。一方、鉄鉱石及び副原料に対して、返鉱及び炭材を配合した。ここで、炭材としては、上述したように製造された付着炭材と、生石灰が付着していない非付着炭材(各無煙炭A~J又は各チャーA~F)とをそれぞれ用いた。
【0043】
返鉱の配合比率は、鉄鉱石及び副原料の総質量に対して15質量%とした。炭材の配合比率については、鉄鉱石及び副原料の総質量に対して4.5質量%の粉コークスと固定炭素の量が等しくなるように、焼結用炭材の配合比率を調整した。炭材の粒度分布は、下記表3に示す通りである。
【0044】
【0045】
炭材以外の他の焼結用原料(鉄鉱石、副原料及び返鉱)をドラムミキサ(直径1m、回転数23rpm)に投入し、1分間混合した。次に、ドラムミキサに目標水分が7.5質量%(外数)となるように水を添加した後に、ドラムミキサ内の混合物を一定時間造粒した。次に、ドラムミキサ内の混合物を更に4分間の間混合(造粒)した。ここで、4分間が経過する30秒前に炭材を添加した。炭材を添加するときには、ドラムミキサを一時的に停止させた。
【0046】
以下、微細ダスト濃度の測定方法について、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は焼結試験装置の概略図であり、
図2は焼結試験装置におけるエアロゾル測定部の概略図である。
【0047】
焼結試験装置100は、鍋1、吸引管2、ブロア3、排出管4、煙突5及びエアロゾル測定部10を備える。鍋1は、焼結原料を焼結する円筒状の容器であり、上端が開放され、下端は図示しない火格子を備える。吸引管2は、焼結時に鍋1から焼結排ガスを吸引する管である。吸引管2の一端は、鍋1の下端に接続される。ブロア3は、吸引管2の他端に接続され、吸引管2に負圧を与える。排出管4は、焼結排ガスをブロア3から煙突5に導く管であり、排出管4の下端がブロア3に接続される。煙突5は、排出管4の上端に接続されており、焼結排ガスを大気中に排出する。
【0048】
エアロゾル測定部10は、焼結排ガスに含まれる微細ダストの濃度を測定する。
図2に示すように、エアロゾル測定部10は、導入管11、希釈器(Dekati社製、DI-1000)12、センサ(PALAS社製、2070H)13、エアロゾルスペクトロメータ(PALAS社製、Prоmо2000)14、ドライヤ15、フィルタ16、流量計17、吸引ポンプ18を備える。
【0049】
導入管11は、焼結排ガスをエアロゾル測定部10に吸引する配管であり、排出管4内における焼結排ガスの流路に配置される。導入管11は、ブロア3(
図1参照)よりも焼結排ガスの流路の下流に設けられることが好ましい。ブロア3よりも焼結排ガス流路の上流に位置する吸引管2に導入管11を設けると、焼結で生じた水分により、導入管11から導入した焼結排ガスが結露しやすくなってしまう。また、ブロア3による負圧の影響を受け、エアロゾル測定部10に導入する焼結排ガスの流量を調整することが難しくなる。したがって、導入管11は、ブロア3よりも焼結排ガスの流路の下流に設けられることが好ましい。
【0050】
希釈器12は、導入管11から一定量導かれた焼結排ガスを空気で希釈して微細ダスト濃度を下げる。本実施例では、焼結排ガスを8倍に希釈した。焼結排ガス中の微細ダスト濃度が、エアロゾルスペクトロメータ14の測定限界濃度を超える場合には、希釈器12を用いることが好ましい。希釈器12に供給される空気は、コンプレッサ21から供給される。空気がコンプレッサ21から希釈器12に移動する間、結露防止のためにドライヤ22によって空気中の水分が除去され、レギュレータ23によって空気の圧力が調整され、ヒータ24によって空気の温度が調整される。また、焼結排ガス中の水分が多い場合には、更なる結露防止のために希釈器12の周囲をヒータ(不図示)で加熱してもよい。
【0051】
センサ13は、焼結排ガスに含まれる微細ダストを検出する。センサ13は、微細ダストを含む焼結排ガスが流れる流路内であって、かつ微細ダストを検出するための光が通過する光路内に配置されている。エアロゾルスペクトロメータ14は、微細ダストの濃度を測定する。具体的には、エアロゾルスペクトロメータ14は、焼結排ガスの流路に光を照射し、照射した光が微細ダストによって散乱される現象を利用して微細ダスト濃度を測定する。ドライヤ15は、センサ13を通過した焼結排ガスから水分を除去する。フィルタ16は、ドライヤ15を通過した焼結排ガスに含まれる微細ダストを捕捉する。流量計17は、フィルタ16を通過した焼結排ガスの流量を測定する。吸引ポンプ18は、焼結排ガスを排出管4からエアロゾル測定部10に導入するための吸引力を発生させる。
【0052】
なお、エアロゾル測定部10は、焼結排ガスに含まれる微細ダストの濃度を測定可能な構成であればよく、
図2に示す構成に限定されない。
【0053】
焼結試験装置100を用いた焼結試験では、焼結用原料を用いて焼結試験を行う。焼結試験は、公知の鍋焼結試験(例えば、「鉄と鋼 Vоl.88(2002)1号、第16~22頁」参照)と同様の試験方法で行った。焼結試験時に発生した焼結排ガス中の微細ダスト濃度をエアロゾル測定部10で測定した。ここで、炭材として付着炭材(炭材に生石灰が付着したもの)を用いた場合と、炭材として非付着炭材(すなわち、生石灰が付着していないもの)を用いた場合とに分けて、焼結試験を行った。
【0054】
微細ダスト濃度は、連続して測定することが好ましい。これにより、バッチ処理のように、焼結排ガス中の微細ダストをフィルタ等で捕捉した後に微細ダスト濃度を測定する処理と比べて、微細ダストの捕捉率が高く、微細ダスト濃度の測定精度を高めることができる。また、焼結の開始から終了までの間における微細ダスト濃度の経時変化も測定することができる。
【0055】
微細ダスト濃度は、例えば、焼結排ガスの単位体積当たりの微細ダストの個数(個/ml)で表すことができる。微細ダスト濃度は、焼結中に変動(経時変化)するため、焼結の開始から終了までの間で測定された複数の微細ダスト濃度を平均した平均値を用いることが好ましい。なお、平均値に限るものではなく、例えば、焼成中の所定のタイミングで測定された微細ダスト濃度に着目したり、焼成中で最も高い微細ダスト濃度に着目したりすることもできる。
【0056】
焼結排ガスには、鉄鉱石に由来するダストや、炭材に由来するダストが含まれるが、炭材に由来するダストの粒径(直径)は、鉄鉱石に由来するダストの粒径よりも小さくなる傾向があり、この最大粒径は1μm以下となる。本実施例では、炭材に由来するダスト(微細ダスト)を測定対象とした。
【0057】
微細ダスト濃度の測定結果を
図3に示す。
図3において、縦軸は微細ダスト濃度[×10
3個/ml]であり、横軸はH/C[-]である。
図3には、炭材として付着炭材(炭材に生石灰が付着したもの)を用いて焼結試験を行ったときの微細ダスト濃度(CaO=20[質量%])と、炭材として非付着炭材(すなわち、生石灰が付着していないもの)を用いて焼結試験を行ったときの微細ダスト濃度(CaO=0[質量%])とを示す。
【0058】
上述したように希釈器12(
図2参照)によって焼結排ガスを8倍に希釈しているため、
図3に示す微細ダスト濃度は、焼結排ガスを8倍に希釈したときの微細ダスト濃度である。また、
図3に示す微細ダスト濃度としては、焼結の開始から終了までの間で測定された複数の微細ダスト濃度を平均した平均値を算出した。
【0059】
図3から分かるように、H/Cが0.19未満であるときには、炭材(各無煙炭F~J又はチャーF)に生石灰(石灰系原料)が付着しているか否かにかかわらず、微細ダスト濃度は同等であった。一方、H/Cが0.19以上であるときには、炭材(各無煙炭A~E又は各チャーA~E)に生石灰が付着した付着炭材(本発明における焼結用炭材)を用いたときの微細ダスト濃度(CaO=20[質量%])は、生石灰が付着していない炭材(各無煙炭A~E又は各チャーA~E)を用いたときの微細ダスト濃度(CaO=0[質量%])よりも大幅に低下した。
【0060】
これにより、H/Cが0.19以上であり、揮発分が15質量%以下である所定炭材(具体的には、無煙炭A~EやチャーA~E)については、石灰系原料を付着させることにより、微細ダストの排出量を低減できる。
【0061】
次に、上記表1に示す無煙炭Bを用いて、添加する石灰系原料の配合割合の影響を確認した。焼結用炭材中のCaO濃度が2,5,20,30質量%となるように配合量を調整した石灰系原料(生石灰)をそれぞれ用意し、各石灰系原料を無煙炭Bに付着させた焼結用炭材を製造した。そして、焼結試験において、上述した測定方法によって微細ダスト濃度を測定した。この測定結果を下記表4に示す。なお、下記表4には、焼結用炭材中のCaO濃度が0質量%である無煙炭B(すなわち、石灰系原料が付着していない無煙炭B)を用いて焼結試験を行ったときの微細ダスト濃度も示す。
【0062】
【0063】
CaO濃度が2質量%であるときの微細ダスト濃度は、CaO濃度が0質量%であるときの微細ダスト濃度と同程度であった。一方、CaO濃度が5質量%以上であるときには、CaO濃度が0又は2質量%であるときと比べて、微細ダスト濃度が低減した。このため、微細ダスト濃度を低減する効果を得る上では、CaO濃度を5質量%以上にすればよい。
【0064】
一方、上記表4によれば、微細ダスト濃度の減少量は、CaO濃度の増加量に比例していなく、CaO濃度を20質量%から30質量%に増加させたときの微細ダスト濃度の減少量(0.2=11.0-10.8)は、CaO濃度を5質量%から20質量%に増加させたときの微細ダスト濃度の減少量(10.9=21.9-11.0)よりも少ない。上述したように、CaO濃度は5質量%以上であればよいが、CaO濃度が高いほど、微細ダスト濃度を低減させる効果は収束しやすくなると考えられる。石灰系原料のコストも考慮すると、CaO濃度の上限値を20質量%とすることができる。
【0065】
次に、2種類の炭材を併用して焼結鉱を製造するときにおいて、2種類の炭材のそれぞれに対して石灰系原料を付着させたときの影響を確認した。2種類の炭材としては、上記表1に示す粉コークス及び無煙炭Bを用い、各炭材の配合比率を同等(50質量%、ここでの配合比率は、各炭材へ石灰系原料を付着させる前の質量を基準とした)とした。また、焼結用炭材中のCaO濃度が20質量%となるように生石灰を無煙炭Bに付着させた焼結用炭材を用いた。
【0066】
粉コークスのH/Cは0.02[-]であり、無煙炭BのH/Cは0.43[-]であった(上記表1参照)。実施例1では、粉コークスに石灰系原料を付着させずにこのまま用いるとともに、無煙炭Bに石灰系原料を付着させた焼結用炭材を用い、実施例2では、粉コークス及び無煙炭Bのそれぞれに石灰系原料を付着させたものを用いた。比較例では、粉コークス及び無煙炭Bのいずれにも石灰系原料を付着させずにこのまま用いた。
【0067】
実施例1,2及び比較例の炭材を用いて焼結試験を行い、上述した測定方法によって微細ダスト濃度を測定した。この測定結果を下記表5に示す。
【0068】
【0069】
無煙炭Bだけに石灰系原料を付着させた場合(実施例1)や、粉コークス及び無煙炭Bの両方に石灰系原料を付着させた場合(実施例2)では、粉コークス及び無煙炭Bのいずれにも石灰系原料を付着させない場合(比較例)と比べて、微細ダスト濃度を大幅に低減することができた。また、無煙炭Bだけに石灰系原料を付着させた場合(実施例1)では、粉コークス及び無煙炭Bの両方に石灰系原料を付着させた場合(実施例2)と比べて、微細ダスト濃度を同程度に低減することができた。
【0070】
これにより、炭材として、粉コークス及び無煙炭Bを併用する場合において、H/Cが0.19以上である無煙炭Bだけに石灰系原料を付着させるだけで微細ダスト濃度を低減できることが分かる。言い換えれば、微細ダスト濃度を低減する上では、H/Cが0.19未満である粉コークスに石灰系原料を付着させる必要は無く、粉コークスをそのまま用いるだけでよい。