(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025175
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】引張試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/04 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
G01N3/04 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129722
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 輝一
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB09
2G061BA07
2G061CA10
2G061CB01
2G061CC03
(57)【要約】
【課題】チャックと試験片とのすべりを抑制することができる引張試験装置を提供する。
【解決手段】薄肉板状の非圧縮性の試験片Tを少なくとも一方向に引っ張る引張試験装置10であって、試験片Tの一端側を把持して引っ張るチャック20を備え、チャック20は、磁力によって試験片Tの一端側を把持する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄肉板状の非圧縮性の試験片を少なくとも一方向に引っ張る引張試験装置であって、
前記試験片の一端側を把持して引っ張るチャックを備え、
前記チャックは、磁力によって前記試験片の一端側を把持する、
引張試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の引張試験装置であって、
前記チャックの前記試験片を挟んだ一方には、磁石が設けられ、
前記チャックの前記試験片を挟んだ他方には、磁性体が設けられる、
引張試験装置。
【請求項3】
請求項2に記載の引張試験装置であって、
前記磁石は、電磁石である、
引張試験装置。
【請求項4】
請求項3に記載の引張試験装置であって、
前記チャックの引張力の増加に応じて前記電磁石の磁力を増加させる、
引張試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験片を少なくとも一方向に引っ張る引張試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試験片を少なくとも一方向に引っ張り、試験片の引張強度、降伏点、伸び、絞り等の機械的性質を測定する引張試験が公知である。また、引張試験を行うにあたって、試験片を少なくとも一方向に引っ張る引張試験装置も公知である。例えば、特許文献1には、薄肉板状の試験片を4方向に引っ張る2軸引張試験装置が開示されている。
【0003】
引張試験装置は、試験片の一端側を把持して引っ張るチャックを有する。また、チャックは、試験片の一端側を把持する一対の把持部を有する。一対の把持部は、試験片の一端側を把持した状態でボルトおよびナット等の固定手段によって固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、引張試験装置において、試験片が例えばゴムのような非圧縮性の材質の場合には、引っ張りによる試験片の変形において試験片の厚さが小さくなり、上述したようなボルトおよびナット等の固定手段で試験片を把持している場合には、把持力が小さくなってチャックと試験片とのすべりが生じる。この場合には、引張試験の測定精度が著しく低下する。
【0006】
そこで、本発明は、チャックと試験片とのすべりを抑制することができる引張試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る引張試験装置は、薄肉板状の非圧縮性の試験片を少なくとも一方向に引っ張る引張試験装置であって、試験片の一端側を把持して引っ張るチャックを備え、チャックは、磁力によって試験片の一端側を把持することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の引張試験装置によれば、チャックと試験片とのすべりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の一例である二軸引張試験装置を示す模式図である。
【
図2】実施形態の一例であるチャックを示す模式図である。
【
図3】引張試験装置の効果を説明するグラフである。
【
図4】実施形態の他の一例であるチャックを示す模式図である。
【
図5】実施形態の他の一例であるチャックを示す模式図である。
【
図6】実施形態の他の一例である二軸引張試験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、方向、数値等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができる。
【0011】
[二軸引張試験装置]
図1から
図3を用いて、実施形態の一例である二軸引張試験装置10について説明する。
【0012】
引張試験装置としての二軸引張試験装置10は、試験片Tの引張試験を行う装置である。引張試験は、試験片Tを少なくとも一方向に引っ張り、試験片Tの引張強度、降伏点、伸び、絞り等の機械的性質を測定する。二軸引張試験装置10によれば、詳細は後述するが、チャック20と試験片Tとのすべりを抑制することができる。
【0013】
試験片Tは、非圧縮性の固体であって薄肉板状に形成されている。非圧縮性とは、連続体の密度が変形の前後で変化しないような性質であって、ゴムに代表される超弾性体、降伏した金属等のような塑性体等である。薄肉板状とは、例えば厚さ1~2mmの矩形状のものである。本実施形態の試験片Tは、例えばタイヤゴムである。
【0014】
二軸引張試験装置10は、互いに直交する2軸の4方向から試験片Tを引っ張ることによって試験片Tの引張り試験を行なう装置である。ただし、本発明の引張試験装置は、二軸引張試験装置10に限定されることはない。例えば、引張試験装置は、試験片Tに互いに1軸の2方向から試験片Tを引っ張ることによって試験片Tの引張り試験を行なう一軸引張試験装置であってもよい。
【0015】
以下では、説明を分かり易くするため、試験片Tの互いに直交する引張方向をそれぞれX方向およびY方向として説明する。また、X方向およびY方向と直交する方向を上下方向として説明する。
【0016】
二軸引張試験装置10は、試験片TのX方向およびY方向の一方側および他方側にそれぞれ設けられるチャック20と、複数のチャック20が固定されるスライド部11と、スライド部11をX方向またはY方向に移動させるアクチュエータ12と、アクチュエータ12の駆動を制御する制御装置30とを有する。
【0017】
チャック20は、試験片TのX方向およびY方向の一方側および他方側にそれぞれ設けられ、試験片TのX方向またはY方向の一端側または他端側を把持してX方向またはY方向に引っ張る。チャック20によれば、試験片TをX方向およびY方向の一方側および他方側に同時に引っ張ることができる。チャック20は、X方向またはY方向の一方側または他方側において複数(本実施形態では4つ)設けられる。チャック20は、スライド部11に整列して設けられる。チャック20について、詳細は後述する。
【0018】
スライド部11は、試験片TのX方向およびY方向の一方側および他方側にそれぞれ設けられ、X方向またはY方向に移動可能に構成されている。スライド部11は、図示しないガイドレール上を摺動するように構成されている。それぞれのスライド部11は、アクチュエータ12によって移動される。
【0019】
アクチュエータ12は、試験片TのX方向およびY方向の一方側および他方側にそれぞれ設けられ、それぞれのスライド部11をX方向またはY方向に移動させる。アクチュエータ12は、例えばエアシリンダが好適に用いられる。アクチュエータ12は、図示しないベースに固定されるシリンダ12Aと、シリンダ12Aから突出してスライド部11に固定されるロッド12Bとを有する。
【0020】
制御装置30は、アクチュエータ12の駆動を制御すると共に、チャック20に設けられた後述する電磁石22への通電のОNまたはОFFを切り替える。制御装置30について、詳細は後述する。
【0021】
[チャック]
図2に示すように、チャック20は、それぞれ詳細は後述する、把持部21と、磁石としての電磁石22と、磁性体としての鉄片23と、規制部24とを有する。
【0022】
把持部21は、試験片Tを引っ張るために試験片TのX方向またはY方向の一端側または他端側を把持する。把持部21は、上側把持部21Aと、下側把持部21Bとを含む。上側把持部21Aおよび下側把持部21Bは、上下方向に並んで互いに対向して設けられる。上側把持部21Aは、下側把持部21Bに設けられた回転軸P周りに回動可能に設けられる。上側把持部21Aおよび下側把持部21Bは、互いが近接することによって試験片Tを把持する。
【0023】
電磁石22は、通電することによって一時的に磁力を発生させる磁石である。電磁石22は、上側把持部21Aの上部に設けられる。また、電磁石22は、後述する制御装置30に接続されている。電磁石22は、試験片Tを挟んで対向する鉄片23との間で磁力を発生させる。これにより、把持部21は、電磁石22と鉄片23との間で発生した磁力によって試験片Tを把持することができる。
【0024】
なお、本実施形態では、磁石として電磁石22を用いる構成としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、磁石として永久磁石を用いる構成であってもよい。
【0025】
ここで、本実施形態の試験片Tのような非圧縮性のタイヤゴムを引っ張る場合には、引っ張りによる試験片Tの変形において試験片Tの厚さが小さくなり、例えばボルトおよびナット等の固定手段で試験片Tを把持している場合には、把持力が小さくなってチャックと試験片Tとの間ですべりが生じる。
【0026】
しかし、本実施形態のチャック20のように、試験片Tを挟んで対向する電磁石22と鉄片23との間で発生する磁力によって試験片Tを把持することによって、引っ張りによる試験片Tの変形において試験片Tの厚さが小さくなるものの、同時に電磁石22と鉄片23との距離も短くなり、電磁石22と鉄片23とが引き合う磁力が増加し、把持部21の把持力も増加する。これにより、チャック20と試験片Tとのすべりを抑制することができる。
【0027】
また、電磁石22を上側把持部21Aの上部に設けることによって、制御装置30と電磁石22とを接続する配線をチャック20の上方に配置することができる。これにより、チャック20およびスライド部11が移動する時に、配線がチャック20およびスライド部11の移動の妨げにならない。
【0028】
鉄片23は、下側把持部21Bの下部に設けられる。鉄片23は、上述したように試験片Tを挟んで対向する電磁石22との間で磁力を発生させる。これにより、把持部21は、電磁石22と鉄片23との間で発生した磁力によって試験片Tを把持することができる。ただし、本発明の磁性体は、鉄片23に限定されることはない。例えば、磁性体としてニッケル、コバルト、およびこれら(鉄を含む)の合金等が用いられてもよい。
【0029】
規制部24は、上側把持部21Aと下側把持部21Bとの隙間が所定距離以上とならないように規制する。規制部24は、ボルトと、ナットとを含む。規制部24によれば、電磁石22への通電がOFFとされている場合に、上側把持部21Aと下側把持部21Bとが開きすぎて試験片Tの落下を防止することができる。
【0030】
チャック20によれば、従来のボルトおよびナット等の固定手段によって試験片Tを固定するチャックに対し、電磁石22および鉄片23を追加することによって実現することができる。この場合には、従来のチャックの固定手段が規制部24となる。
【0031】
[制御装置]
再度、
図1に示すように、制御装置30は、アクチュエータ12と、電磁石22とに接続されている(
図1では、制御装置30と電磁石22との接続線の記載を省略している)。制御装置30は、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶部を有し、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行う。
【0032】
制御装置30は、アクチュエータ12の駆動を制御するアクチュエータ駆動部31と、電磁石22への通電のОNまたはОFFを切り替える電磁石ОN/ОFF切替部32と、電磁石22への通電電流値を設定する電流値設定部33とを有する。アクチュエータ駆動部31、電磁石ОN/ОFF切替部32および電流値設定部33は、CPUがRОMまたはRAMに格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0033】
電磁石ОN/ОFF切替部32によれば、電磁石22に通電しないことによって把持部21に磁力が発生しない状態とすることができる。これにより、例えば、把持部21に試験片Tを設置する場合等には、電磁石22が磁力を発生しない状態として把持部21に試験片Tを設置することによって作業効率を向上させることができる。
【0034】
電流値設定部33によれば、電磁石22へ通電する電流値の大きさを調整することによって、電磁石22と鉄片23との間で発生する磁力の大きさを調整することができる。そのため、チャック20の把持力を調整することができる。これにより、試験片Tの厚みに応じた磁力(把持力)を把持部21に発生させることができる。その結果、厚みの異なる試験片Tの引張試験を行うことができる。
【0035】
[効果]
図3では、横軸を引張力とし、縦軸を把持力とし、非圧縮性の試験片Tをチャック20で把持したときの引張力と把持力との関係を表している。また、把持力が所定値以下では、チャック20と試験片Tとにすべりが生じる。
図3中の破線は、従来のボルトおよびナットによる固定手段によって把持しているチャック20の引張力と把持力との関係を表している。一方、
図3中の実線は、本実施形態の電磁石22の磁力によって把持しているチャック20の引張力と把持力との関係を表している。
【0036】
図3に示すように、試験片Tのような非圧縮性のタイヤゴムを引っ張る場合には、引張による試験片Tの変形において試験片Tの厚さが小さくなり、引張力が大きくなるほど把持力が低下する。ここで、本実施形態のチャック20は、従来のチャックと比較して把持力の低下が抑制されることによって、チャック20と試験片Tとのすべりを抑制することができる。
【0037】
[他の実施形態]
図4を用いて、実施形態の他の一例であるチャック40について説明する。以下では、チャック40を説明するにあたって、上述したチャック20と異なる構成についてのみ説明し、チャック20と同様の構成については説明を省略する。
【0038】
チャック40は、把持部41と、磁石としての電磁石42と、規制部44とを有する。把持部41は、上側把持部41Aと、下側把持部41Bとを含む。上側把持部21Aの上部には、電磁石42が設けられる。下側把持部41Bは、磁性体として鉄、ニッケル、コバルト、およびこれらの合金等から形成されている。チャック40によれば、チャック40と試験片Tとのすべりを抑制することができる。また、上述したチャック20と比較して電磁石42と磁性体との距離が短くなるため、さらに把持力を増加させることができる。
【0039】
図5を用いて、実施形態の他の一例であるチャック50について説明する。以下では、チャック50を説明するにあたって、上述したチャック20と異なる構成についてのみ説明し、チャック20と同様の構成については説明を省略する。
【0040】
チャック50は、把持部51と、磁石としての電磁石52と、規制部54とを有する。把持部51は、上側把持部51Aと、下側把持部51Bとを含む。上側把持部51Aの内部には、電磁石52が内蔵されている。下側把持部41Bは、磁性体として鉄、ニッケル、コバルト、およびこれらの合金等から形成されている。チャック50によれば、チャック50と試験片Tとのすべりを抑制することができる。また、上述したチャック20およびチャック40と比較して電磁石52と磁性体との距離が短くなるため、さらに把持力を増加させることができる。
【0041】
図6を用いて、実施形態の他の一例である二軸引張試験装置110について説明する。以下では、二軸引張試験装置110を説明するにあたって、上述した二軸引張試験装置10と異なる構成についてのみ説明し、二軸引張試験装置10と同様の構成については説明を省略する。
【0042】
二軸引張試験装置110の制御装置30は、アクチュエータ12の駆動を制御するアクチュエータ駆動部31と、電磁石22への通電のОNまたはОFFを切り替える電磁石ОN/ОFF切替部32と、電磁石22への通電電流値を設定する電流値設定部33と、詳細は後述する電流値増加部34とを有する。アクチュエータ駆動部31、電磁石ОN/ОFF切替部32、電流値設定部33および電流値増加部34は、CPUがRОMまたはRAMに格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0043】
電流値増加部34は、試験片Tの引張力の増加に応じて電磁石22へ通電する電流の大きさを増加させる。具体的には、アクチュエータ12の駆動力の増加に応じて電磁石22へ通電する電流の大きさを増加させる。これにより、引張力の増加に応じて把持力が低下するものの、把持力の低下に応じて把持力を増加させることができる。
【0044】
なお、本発明は上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0045】
10、110 二軸引張試験装置(引張試験装置)、11 スライド部、12 アクチュエータ、12A シリンダ、12B ロッド、20、40、50 チャック、21、41、51 把持部、21A、41A、51A 上側把持部、21B、41B、51B 下側把持部、22、42 電磁石、23 鉄片(磁性体)、24、44、54 規制部、30 制御装置、31 アクチュエータ駆動部、32 電磁石ОN/ОFF切替部、33 電流値設定部、34 電流値増加部、T 試験片