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2025-25191作業停止計画支援装置及び作業停止計画支援方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025191
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】作業停止計画支援装置及び作業停止計画支援方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20250214BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/38 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129759
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 啓文
(72)【発明者】
【氏名】山崎 潤
(72)【発明者】
【氏名】友部 修
(72)【発明者】
【氏名】小野 哲嗣
(72)【発明者】
【氏名】戸邊 澄人
(72)【発明者】
【氏名】坪田 亮
(72)【発明者】
【氏名】林 子粤
(72)【発明者】
【氏名】菊池 賢一
(72)【発明者】
【氏名】西村 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】原 弘一
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅浩
【テーマコード(参考)】
5G066
【Fターム(参考)】
5G066AA01
5G066AA03
5G066AA10
5G066AE03
5G066AE07
5G066AE09
5G066HB06
(57)【要約】
【課題】再エネ大量導入時にも系統信頼度が確保された作業停止計画の日時を立案する。
【解決手段】本発明の作業停止計画支援装置は、電力系統における作業停止時の潮流計算結果及び分散型電源の調達可否に基づき系統信頼度を算出し、前記算出した系統信頼度に基づき系統にとって最過酷となる時間断面を決定する最過酷断面決定部と、前記決定した時間断面の系統信頼度が最大化するように日時を選択し、同一日時に設定可能な作業停止の最大数に関する制約を違反している日時がある場合、当該日時に設定されている作業停止を系統信頼度が悪化しないように別日に移動させる日時決定部と、を備えることを特徴とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統における作業停止時の潮流計算結果及び分散型電源の調達可否に基づき系統信頼度を算出し、前記算出した系統信頼度に基づき系統にとって最過酷となる時間断面を決定する最過酷断面決定部と、
前記決定した時間断面の系統信頼度が最大化するように日時を選択し、
同一日時に設定可能な作業停止の最大数に関する制約を違反している日時がある場合、当該日時に設定されている作業停止を系統信頼度が悪化しないように別日に移動させる日時決定部と、
を備えることを特徴とする作業停止計画支援装置。
【請求項2】
作業停止に伴う系統切替を考慮した系統モデルを構築する系統モデル候補構築部と、
前記決定した時間断面の系統信頼度を改善するために、作業停止可能な時間断面を限定する、又は、設備の追加を含む運用方策を決定する運用方策決定部と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の作業停止計画支援装置。
【請求項3】
前記最過酷断面決定部が決定した結果、前記運用方策決定部が限定又は決定した結果、及び、前記日時決定部が移動させた結果を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする請求項2に記載の作業停止計画支援装置。
【請求項4】
前記最過酷断面決定部は、
将来の再エネの増設及び未観測気象条件により生じる再エネ出力変動を算出し、
前記算出した再エネ出力変動が系統信頼度に与えるリスクを評価し、
系統信頼度が確保された気象条件を保存すること、
を特徴とする請求項3に記載の作業停止計画支援装置。
【請求項5】
前記運用方策決定部は、
前記再エネ出力変動のリスク及び系統信頼度が確保された気象条件から、前記決定した時間断面の予測が外れた場合に備える調整用の日時又は運用方策を決定すること、
を特徴とする請求項4に記載の作業停止計画支援装置。
【請求項6】
前記表示部は、
前記再エネ出力変動のリスク及び系統信頼度が確保された気象条件を表示すること、
を特徴とする請求項5に記載の作業停止計画支援装置。
【請求項7】
前記系統モデル候補構築部は、
送電線の増設を含む設備計画情報、及び、分散型電源の連系申請情報に基づき、系統モデルを構築すること、
を特徴とする請求項2に記載の作業停止計画支援装置。
【請求項8】
作業停止時に発生した潮流断面を含む実績情報に基づき、作業停止後に、過去の潮流断面及び系統構成を更新する作業停止後補正部を備えること、
を特徴とする請求項1に記載の作業停止計画支援装置。
【請求項9】
作業停止計画支援装置の最過酷断面決定部は、
電力系統における作業停止時の潮流計算結果及び分散型電源の調達可否に基づき系統信頼度を算出し、前記算出した系統信頼度に基づき系統にとって最過酷となる時間断面を決定し、
前記作業停止計画支援装置の日時決定部は、
前記決定した時間断面の系統信頼度が最大化するように日時を選択し、
同一日時に設定可能な作業停止の最大数に関する制約を違反している日時がある場合、当該日時に設定されている作業停止を系統信頼度が悪化しないように別日に移動させること、
を特徴とする作業停止計画支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業停止計画支援装置及び作業停止計画支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統を保守する一環として、一部の電力系統の機能を停止する計画(作業停止計画)をコンピュータが立案することが一般的になっている。現状、多くのコンピュータは、固定の潮流断面(シナリオ)を入力とし、各種制約条件(電圧制約、送電容量制約等)に違反しないことを条件としたうえで、作業停止計画を出力する。一方、近年の再生可能エネルギー電源(再エネ)の大幅な増加に伴い、作業停止計画立案時に考慮すべきシナリオ及び制約違反のケースが増加し、複雑化している。
【0003】
例えば、近年、再エネの典型である太陽光発電機(PV,Photovoltaics)の導入量増加に伴い、気象条件及び時間帯に応じた逆潮流が発生するようになり、それまで作業停止時に制約違反のなかった地域でも、電圧上昇による電圧制約違反が発生するようになった。このため、作業停止計画立案時には、再エネにより制約違反が発生する地域、及び、再エネが稼働していない日時を判断する必要が出てきた。しかし、現状の作業停止計画では、前記地域及び日時は、系統運用者又は現場の保守員の経験に基づいて判断されている。今後、さらに再エネ導入量が増加すると、現状の経験に基づく判断だけでは、系統運用者の負担が増加するだけでなく、系統信頼度を確保した適切な作業停止計画を立案することが困難になると懸念される。
【0004】
再エネの影響を考慮した作業停止計画について述べている文献として、特許文献1が存在する。特許文献1の作業停止計画作成支援装置は、再エネの発電有効電力及び発電無効電力を含むシナリオを入力とし、停止期間候補と運用方策候補を出力する。
【0005】
系統信頼度を最大化する日時の決定手法について述べている文献として、特許文献2が存在する。特許文献2の設備停止計画自動立案装置は、制約違反が発生した時、系統信頼度評価値が最も低い時間断面に着目する。そして、当該設備停止計画自動立案装置は、その時間断面で系統信頼度評価値を低下させている作業を、より系統信頼度評価値が高くなる別日時へ移動させる。この操作を制約違反がなくなるまで繰り返すことで、当該設備停止計画自動立案装置は、系統信頼度を確保した日時を選択する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-48729号公報
【特許文献2】特開2012-10501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとしている課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の作業停止計画作成支援装置は、再エネにより制約違反が発生する地域では、再エネが稼働していない時間帯を作業停止要件として予め受け付けなければならない。そのため、系統運用者の負担が増加する、制約違反しやすい地域を見落とす、系統信頼度が低い日時を選択する等、実務上使いにくい場面が発生する可能性がある。また、出力結果が停止期間候補の表示に留まっているため、系統信頼度を最大化する日時の決定はなされない。
【0008】
特許文献2の設備停止計画自動立案装置には、そもそも再エネ出力に関する入力及び処理がないので、系統信頼度評価値及び日時の選択手法は、再エネの影響を考慮したものになっていない。このため、特許文献2は、再エネ大量導入時にも系統信頼度が確保されるような日時の決定処理にはなっていない。加えて、特許文献2は、制約違反の解消のみを目的とした処理となっているため、今後、再エネ導入量が拡大していくと、特定の日時(例えば、PVの逆潮流の影響が小さい日時)に作業停止が集中してしまう可能性がある。
【0009】
本発明は、前記の点を鑑みてなされたものであって、再エネにより制約違反が発生する地域、再エネが稼働していない時間帯等の総合的な判断を作業停止計画支援装置側ですることにより、系統運用者の負担や過失を軽減する。本発明は、加えて、再エネの影響を考慮した上で系統信頼度が最大化するよう日時を調節することにより、再エネ大量導入時にも系統信頼度が確保された作業停止計画の日時を立案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の作業停止計画支援装置は、電力系統における作業停止時の潮流計算結果及び分散型電源の調達可否に基づき系統信頼度を算出し、前記算出した系統信頼度に基づき系統にとって最過酷となる時間断面を決定する最過酷断面決定部と、前記決定した時間断面の系統信頼度が最大化するように日時を選択し、同一日時に設定可能な作業停止の最大数に関する制約を違反している日時がある場合、当該日時に設定されている作業停止を系統信頼度が悪化しないように別日に移動させる日時決定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再エネ大量導入時にも系統信頼度が確保された作業停止計画の日時を立案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】作業停止計画支援装置のハードウェア構成例を示す図である。
図2】実施例1における作業停止計画支援装置の機能構成例を示す図である。
図3】作業停止系統DBの例を示す図である。
図4】系統情報DBを構成するデータテーブルの例を示す図である。
図5】実施例1における系統モデル候補構築部の処理例を示すフローチャートである。
図6】系統切替前後の系統モデルの例である。
図7】運用容量制約DBの例を示す図である。
図8】信頼度KPI属性DBの例を示す図である。
図9】実施例1における最過酷断面決定部の処理例を示すフローチャートである。
図10】信頼度KPIDBの例を示す図である。
図11】実施例1における運用方策決定部の処理例を示すフローチャートである。
図12】同時作業停止禁止制約DBの例を示す図である。
図13】作業停止期間制約DBの例を示す図である。
図14】作業停止順序制約DBの例を示す図である。
図15】同時作業停止可能数制約DBの例を示す図である。
図16】日時決定部の処理例を示すフローチャートである。
図17】ある日時における複数の作業停止の信頼度KPIを示す図である。
図18】実施例1における表示部の出力例を示す図である。
図19】実施例2における作業停止計画支援装置の機能構成例を示す図である。
図20】設備計画DBの例を示す図である。
図21】連系申請DBの例を示す図である。
図22】実施例2における系統モデル候補構築部の処理例を示すフローチャートである。
図23】実施例2における最過酷断面決定部の処理例を示すフローチャートである。
図24】ステップS3201の具体的な処理のフローチャートである。
図25】再エネ出力変動リスクの例を示す図である。
図26】実施例2における運用方策決定部の処理例を示すフローチャートである。
図27】実施例2における表示部の出力例を示す図である。
図28】作業停止後DBの例を示す図である。
図29】作業停止後補正部の処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、、本発明の作業停止計画支援装置及び作業停止計画支援方法の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。実施例1が分散型電源を含む電力系統に適用可能な基本的な例であるのに対し、実施例2は、特に再エネを電力系統に連系する場合に有効な例である。なお、各実施例により本発明が限定されるものではない。そして、処理内容が矛盾しない範囲で各実施例を適宜組み合わせることが可能である。
【0014】
〈実施例1〉
図1は、作業停止計画支援装置1のハードウェア構成例を示す図である。図1において、作業停止計画支援装置1は、通信部11、入力手段12、表示装置13、CPU(Central Processing Unit)14、メモリ15及びデータベース16を備える。これらは、バス17を介して相互に接続されている。
【0015】
通信部11は、通信ネットワークに接続するための回路及び通信プロトコルを備える。通信ネットワークは、電力系統の構成、潮流状況等の情報を自動で取得するためのものであってもよい。入力手段12は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等、使用者が任意の情報を入力するための装置を備える。表示装置13は、ディスプレイ装置、プリンタ装置等、使用者が任意の情報を知覚するための装置を備える。
【0016】
CPU14は、データベース16又はメモリ15に記憶されているデータの検索、コンピュータプログラムの実行、メモリへの演算結果の格納等、作業停止計画に関する処理を行う。メモリ15は、例えばRAM(Random Access Memory)等であり、コンピュータプログラム、演算結果、画像データ等の情報記憶手段を備える。データベース16は、作業停止に関わる各種データを保存している。データベース16は、後記の各データベース(DB,Database)51~63を格納する。
【0017】
図2は、実施例1における作業停止計画支援装置1の機能構成例を示す図である。図2において、作業停止計画支援装置1のデータベース16は、作業停止系統DB51、系統情報DB52、運用容量制約DB53、信頼度KPI(重要業績評価指標,Key Performance Indicator)属性DB54、信頼度KPIDB55、同時作業停止禁止制約DB56、作業停止期間制約DB57、作業停止順序制約DB58、及び、同時作業停止可能数制約DB59を保存している。作業停止計画支援装置1のメモリ15は、系統モデル候補構築部21、最過酷断面決定部22、運用方策決定部23、日時決定部24及び表示部25を備える。これらは、各処理の主体となるコンピュータプログラムである。以降、図2のフローに従い、各構成について説明する。
【0018】
図3は、作業停止系統DB51の例を示す図である。作業停止系統DB51は、各作業停止予定の設備に対する、停止期間の予測日数及び作業内容を記憶している。なお、作業停止系統DB51の各レコード(行)は、“作業停止”と呼ばれる。
【0019】
図4は、系統情報DB52を構成するデータテーブルの例を示す図である。データテーブル521は、晴れ時におけるあるPVの1時間毎の発電電力を示している。一方、データテーブル522は、雨の時における当該PVの1時間毎の発電電力を示している。また、データテーブル523は、重負荷時におけるある送電線の1時間毎の負荷潮流を示している。一方、データテーブル524は、軽負荷時における当該送電線の1時間毎の負荷潮流を示している。また、データテーブル525は、各送電線に対するインピーダンスを示している。
【0020】
系統モデル候補構築部21は、作業停止系統DB51及び系統情報DB52を入力として、系統モデル候補を構築する。
【0021】
図5は、実施例1における系統モデル候補構築部21の処理例を示すフローチャートである。
ステップS2101において、系統モデル候補構築部21は、作業停止系統DB51に格納された各作業停止を行うための系統切替等に起因して、作業停止時の系統モデルが通常運用時の系統モデルから変化するか否かを判断する。系統切替の有無及び箇所が、作業停止箇所だけでなく、季節等の時間断面にも依存する場合、系統モデル候補構築部21は、時間断面ごとに前記判断を行ってもよい。例えば季節に依存する場合、系統モデル候補構築部21は、春、夏、秋、冬ごとに前記判断を行ってもよい。系統モデル候補構築部21は、系統モデルが変化する場合、ステップS2102に進み、そうでない場合、処理を終了する。
【0022】
ステップS2102において、系統モデル候補構築部21は、系統情報DB52に格納されているデータから、系統切替後の系統モデルを構築(出力)する。系統切替の有無及び箇所が、作業停止箇所だけでなく、季節等の時間断面にも依存する場合、系統モデル候補構築部21は、時間断面ごとに上記系統モデルを作成してもよい。例えば季節に依存する場合、系統モデル候補構築部21は、春、夏、秋、冬ごとに前記系統モデル作成してもよい。系統モデル候補構築部21は、その後、処理を終了する。
【0023】
図6は、系統切替により、作業停止時の系統モデルが通常運用時の系統モデルから変化した場合における、系統切替前後の系統モデルの例である。図6の上段図(a)は、系統切替前の通常運用時の系統モデルを示す。図6の上段図(a)では、常時開放の回路が1箇所存在する。なお、“開放”とは、スイッチが開放されているため、その回路に電力が流れないことを意味する。
【0024】
図6の中段図(b)及び図6の下段図(c)の両者は、系統切替後の作業停止時の系統モデルを示す。図6の中段図(b)では、送電線aの作業停止に伴い、負荷aの電力供給量が減少するため、常時開放であったスイッチが閉路(短絡)されている。図6の下段図(c)では、送電線aの作業停止に伴い、送電線aに発電機の潮流がすべて流れ込み容量制約を違反する可能性があるため、常時開放であったスイッチが閉路(短絡)されている。
【0025】
図6で示したように、作業停止時に系統切替する可能性の有無及び場所は、容量制約等の各種制約条件から判断されてもよいし、作業停止系統に常時開放のスイッチが存在する等の系統構成から判断されてもよい。また、作業停止時に系統切替する可能性の有無及び場所は、作業停止箇所及び制御可能なスイッチの電気的距離で判断されてもよい。
【0026】
図7は、運用容量制約DB53の例を示す図である。運用容量制約DB53の1列目に並んだ各設備に対して、各種制約条件の上限値及び/又は下限値が設定されている。制約条件の上限値及び下限値は、系統運用上の限界値から一定以上のマージンを確保した値であってもよい。
【0027】
図8は、信頼度KPI属性DB54の例を示す図である。信頼度KPI属性DB54は、1行目に信頼度KPIの基本式を示し、2行目以降にその基本式に代入される式及び条件を示している。信頼度KPIは、各種制約条件に対する裕度の総和を示し、この総和が低いほど、その作業停止が系統にとって過酷であることを示す。
信頼度KPI属性DB54の2行目以降において、最過酷断面決定部22は、基本式に代入されるべき式を、以下の条件によって決定する。
・送電容量又は電圧が制約違反をしているか否か
・分散型電源を調達可能であるか否か
・電圧上昇又は電圧低下のいずれによる制約違反が発生しやすいか
【0028】
最過酷断面決定部22は、系統モデル候補構築部21が構築した系統モデル、作業停止系統DB51及び系統情報DB52を入力として、信頼度KPIを出力する。
【0029】
図9は、実施例1における最過酷断面決定部22の処理例を示すフローチャートである。
ステップS2201において、最過酷断面決定部22は、1又は複数の作業停止に着目する。最過酷断面決定部22は、複数の作業停止に着目する場合、例えば、「特開2005-80471号公報」で述べられている「作業系統候補生成処理(I)」に基づき、着目する作業停止の組み合わせを決定してもよい。
【0030】
ステップS2202において、最過酷断面決定部22は、着目中の作業停止の信頼度KPIを初めて求めるか否かを判断する。最過酷断面決定部22は、信頼度KPIを初めて求める場合、ステップS2203に進み、そうでない場合、ステップS2213に進む。
ステップS2203において、最過酷断面決定部22は、ある1つの時間断面を選択する。最過酷断面決定部22は、月別(12通り)、平休日別(2通り)、及び、昼夜別(2通り)の組み合わせである計48通りの時間断面のうち、1つを選択してもよい。
ステップS2204において、最過酷断面決定部22は、系統モデル候補構築部21が構築した系統モデルを1つ選択する。但し、系統モデルが時間断面によって異なる場合、最過酷断面決定部22は、選択中の時間断面に該当する系統モデルを選択する。
【0031】
ステップS2205において、最過酷断面決定部22は、気象条件等を1つ選択する。最過酷断面決定部22は、例えば、天候(晴れ・雨)、日照度、気温の高低、風速、及び、負荷の軽重を選択する。但し、再エネの影響を考慮した最過酷断面の決定に過不足ない気象条件等が候補であることが望ましい。
ステップS2206において、最過酷断面決定部22は、選択中の時間断面、系統モデル、及び、気象条件に基づき、系統情報DB52からいずれかのデータテーブル(シナリオ)を抽出し潮流計算を行う。
【0032】
ステップS2207において、最過酷断面決定部22は、潮流計算結果及び運用容量制約DB53に基づき、信頼度KPI属性DB54から条件に合う信頼度KPIの式を抽出する。
【0033】
例えば、潮流計算結果及び運用容量制約DB53から、「制約違反をしておらず、送電容量のため分散型電源を任意に制御(調達)すること可能であり、かつ、電圧上昇による制約違反が発生しやすい」という結果が得られたとする。この場合、最過酷断面決定部22は、
「送電容量の裕度X =(Ps- P+Pr)/Ps」及び
「電圧の裕度Y=(Vsmax- Vmax)/ Vsmax」を、
信頼度KPIの基本式「信頼度KPI=F(X)+G(Y)+・・・」に代入する。
結局、最過酷断面決定部22は、以下の式を得る。
信頼度KPI=F((Ps-P+Pr)/Ps)
+G((Vsmax-Vmax)/Vsmax)+・・・
【0034】
また、制約違反をしている場合、各種制約条件に対する裕度は大きな負の値をとる。例えば、送電容量制約を違反している場合、Ps-Pは負となり、これに大きな正の重み係数Aを乗算するので、裕度は、大きな負の値となる。これが信頼度KPIの基本式に代入されるため、各種制約条件のうち1つでも制約違反が発生した場合、信頼度KPIは、急激に低下する。これにより、異常値であることが簡単に判別できるようになる。
【0035】
ステップS2208において、最過酷断面決定部22は、ステップS2207において抽出された式に、潮流計算結果及び運用容量制約DB53の数値を入力することで、信頼度KPIを算出する。
ステップS2209において、最過酷断面決定部22は、全ての気象条件等を選択したか否かを判断し、選択した場合、ステップS2210の処理に進む。最過酷断面決定部22は、そうでない場合、ステップS2205に戻り、次の気象条件等を選択する。
ステップS2210において、最過酷断面決定部22は、算出した信頼度KPIのうちから、最も低い信頼度KPI及びその時の気象条件等を、信頼度KPIDB55に最過酷断面として保存する。
【0036】
ステップS2211において、最過酷断面決定部22は、全ての系統モデルを選択したか否かを判断し、選択した場合、ステップS2212の処理に進む。最過酷断面決定部22は、そうでない場合、ステップS2204に戻り、次の系統モデルを選択する。
ステップS2212において、最過酷断面決定部22は、全ての時間断面を選択したか否かを判断し、選択した場合、ステップS2213の処理に進む。最過酷断面決定部22は、そうでない場合、ステップS2203に戻り、次の時間断面を選択する。
ステップS2213において、最過酷断面決定部22は、全ての作業停止に着目したか否かを判断し、着目した場合、処理を終了する。最過酷断面決定部22は、そうでない場合、ステップS2201に戻り、次の作業停止に着目する。
【0037】
図10は、信頼度KPIDB55の例を示す図である。信頼度KPIDB55の1列目~4列目は、潮流計算の条件(作業停止設備、時間断面、系統モデル、最過酷断面の気象条件等)を示す。5列目は、各種制約条件の裕度を示す。6列目は、信頼度KPIを示す。
【0038】
運用方策決定部23は、信頼度KPIDB55を入力として、全作業停止に対して系統信頼度を確保する運用方策を決定する。
【0039】
図11は、実施例1における運用方策決定部23の処理例を示すフローチャートである。
ステップS2301において、運用方策決定部23は、1又は複数の作業停止に着目する。
ステップS2302において、運用方策決定部23は、着目した作業停止の中に、信頼度KPIが基準値以下となる時間断面又は系統モデルが存在するか否かを判断する。基準値未満のものが1つでもある場合、運用方策決定部23は、ステップS2303に進み、そうでない場合、ステップS2306に進む。
【0040】
運用方策決定部23は、各種制約条件の裕度(X,Y等)に対して予め目標値を設定しておき、その目標値から算出された信頼度KPIを基準値として用いてもよい。また、運用方策決定部23は、全作業停止の信頼度KPIのうちから、上から100番目等、特定のアルゴリズムにより選択された作業停止の信頼度KPIを基準値として用いてもよい。
【0041】
ステップS2303において、運用方策決定部23は、その信頼度KPIが基準値以下であった作業停止に対して、時間断面を限定(変更)することでその信頼度KPIが基準値以上となる(改善可能である)か否かを判断する。例えば、ある作業停止の信頼度KPIが、「5月・休日・昼」の時間断面では基準値未満である一方、「5月・休日・夜」の時間断面では基準値以上となることができる場合、運用方策決定部23は、時間断面を限定することで改善可能であると判断する。運用方策決定部23は、改善可能である場合、ステップS2304に進み、そうでない場合、ステップS2305に進む。
【0042】
ステップS2304において、運用方策決定部23は、時間断面を限定することで改善可能であると判断された作業停止に対して、基準値未満の時間断面が作業停止期間として選択されないように、作業停止期間制約DB57に条件を追加する。例えば、着目中の作業停止の信頼度KPIが「5月・休日・昼」の時間断面では基準値未満であった場合、運用方策決定部23は、当該時間断面以外を作業停止期間として、作業停止期間制約DBに設定する。
【0043】
ステップS2305において、運用方策決定部23は、時間断面を変更しても改善不可能であると判断された作業停止に対して、SVC(静止型無効電力保証装置、Static Var Compensator)等の設備を追加する等、運用方策を決定する。この運用方策の決定手法は、特許文献1(特開2021-48729号公報)で述べられているものであってもよい。
【0044】
ステップS2306において、運用方策決定部23は、全作業停止に着目したか否かを判断し、着目した場合、処理を終了する。運用方策決定部23は、そうでない場合、ステップS2301に戻り、次の作業停止に着目する。
【0045】
図12は、同時作業停止禁止制約DB56の例を示す図である。同時作業停止禁止制約DB56の1~3列目には、作業停止系統に関する情報が格納されており、4列目には当該作業停止と同時に行うことができない作業停止に関する情報が格納されている。
【0046】
図13は、作業停止期間制約DB57の例を示す図である。作業停止期間制約DB57の1~3列目には、作業停止系統に関する情報が格納されており、4列目には、作業停止期間制約(当該作業停止を実施可能な時間断面)が格納されている。
【0047】
図14は、作業停止順序制約DB58の例を示す図である。作業停止順序制約DB58の1~3列目には、作業停止系統に関する情報が格納されており、4列目には、作業停止順序制約(当該作業停止の実施順序)が格納されている。
【0048】
図15は、同時作業停止可能数制約DB59の例を示す図である。同時作業停止可能数制約DB59の1列目は、日時を示す。2列目及び3列目は、当該日時において、同時に実施可能な作業停止の最大数を示す。例えば、1行目のデータによると、○月において、同時に実施可能な作業停止の最大数は、同一系統の場合は1つ、他系統との組み合わせの場合は2つであることがわかる。
【0049】
同時作業停止可能最大数は、全作業停止の停止期間の合計値を1年間の日数で除算することで求めてもよい。例えば、全作業停止の停止期間の合計値1000日を365日で除算し、小数点以下を繰り上げた値「3」を、同一系統又は他系統の同時作業停止可能最大数としてもよい。また同一系統の同時作業停止を避けるため、全日時で同一系統の同時作業停止可能最大数を「1」としてもよい。
【0050】
日時決定部24は、運用方策決定部23の演算結果、同時作業停止禁止制約DB56、作業停止期間制約DB57、作業停止順序制約DB58、及び、同時作業停止可能数制約DB59を入力として、再エネの影響を考慮した系統信頼度の最大化を目的とし、全作業停止に対して日時を決定する。
【0051】
図16は、日時決定部24の処理例を示すフローチャートである。
ステップS2401において、日時決定部24は、作業停止期間制約、作業停止順序制約、及び、同時作業停止禁止制約の条件を満たし、かつ、例えば1年間といった期間に亘り信頼度KPIの合計値が最大化するように、日時及び系統モデルを決定する。しかし、ステップS2401の処理だけでは、特定の日時(例えば、夜間)に作業停止が集中してしまう可能性がある。以降は、信頼度KPIの合計値を高く維持すること、及び作業停止日時を分散することを両立するための処理である。
【0052】
ステップS2402において、日時決定部24は、同時作業停止可能数制約DB59から同一日時に実施可能な作業停止の最大数を抽出する。
ステップS2403において、日時決定部24は、当該最大数を超えている日時に割り当てられている作業停止に着目する。
ステップS2404において、日時決定部24は、例えば1年間といった期間に亘る信頼度KPIの合計値が最大化するように、着目中の作業停止を別日に移動させる。この処理を、図17を用いて説明する。
【0053】
図17は、ある日時における複数の作業停止の信頼度KPIを示す図である。ステップS2401の段階で、作業停止A及び作業停止Bの両者は、信頼度KPIの合計値が最大となる「8/1 18:00-24:00」に割り当てられる。次に、ステップS2402及びステップS2403の処理により、同時作業停止可能数制約DB59から、「8/1」には1つしか作業停止できないことが判明したとする。この場合、日時決定部24は、作業停止A又は作業停止Bのどちらかを別日に移動させる必要がある。
【0054】
作業停止Aを次点で信頼度KPIの大きい「8/1 06:00-12:00」の日時に移動すると、作業停止A及び作業停止Bの信頼度KPIの合計値は、「8+12=20」となる。一方、作業停止Bを次点で信頼度KPIの大きい「8/1 06:00-12:00」の日時に移動すると、その合計値は、「10+9=19」となる。この場合、日時決定部24は、より信頼度KPIの合計値が高くなるように、作業停止Aを別日へ移動させる。説明は、図16に戻る。
【0055】
ステップS2405において、日時決定部24は、全日時において、作業停止の数が同時作業停止可能最大数以下であるか否かを判断する。日時決定部24は、作業停止の数が同時作業停止可能最大数以下である場合、処理を終了し、そうでない場合、ステップS2403に戻り、前記の処理を繰り返す。
【0056】
図18は、実施例1における表示部25の出力例を示す図である。表示部25が出力するデータテーブル251は、各作業停止設備に対して、最過酷断面、及び、その断面における各制約条件の裕度を示す。また、運用方策決定部23が時間断面を限定する運用方策を決定した結果、「4/1~4/3 18:00~24:00」へ日時が決定されたことがわかる。表示部25は、これらの情報を表示することで、系統運用者に系統状況の理解を促すことができる。
【0057】
〈実施例2〉
図19は、実施例2における作業停止計画支援装置1の機能構成例を示す図である。図19において、作業停止計画支援装置1は、実施例1の構成に加えて、設備計画DB60、連系申請DB61、再エネ出力変動リスクDB62、作業停止後DB63、及び、作業停止後補正部35を備える。また前記構成の追加に伴い、実施例1の系統モデル候補構築部21、最過酷断面決定部22、運用方策決定部23、及び、表示部25の処理内容が、一部変更されている。○○部の符号の末端の“b”は、○○部の処理内容の一部が、実施例1における同名の○○部の処理内容に比して変化していることを意味する。
【0058】
以降、図19のフローに従い、各構成について説明する。ただし、実施例1にて既に説明済みのものは、説明を省略する。
【0059】
図20は、設備計画DB60の例を示す図である。設備計画は、送電線の増設、撤去等、電力系統の設備変更のための作業計画である。設備計画DB60は、設備計画の対象設備、日時、及び、作業内容を示している。
【0060】
図21は、連系申請DB61の例を示す図である。連系申請とは、PV等の分散型電源を電力系統に接続することを送配電事業者に対して申請することである。連系申請DB61は、分散型電源が新しく電力系統に連系する日時、場所、発電機の種類、定格電力等を示している。
【0061】
系統モデル候補構築部21bは、作業停止系統DB51、系統情報DB52、設備計画DB60、及び、連系申請DB61を入力として、系統モデル候補を構築(出力)する。
【0062】
図22は、実施例2における系統モデル候補構築部21bの処理例を示すフローチャートである。実施例1の系統モデル候補構築部21の処理(図5)と比較して、ステップS3101が追加されている。
【0063】
ステップS3101において、系統モデル候補構築部21bは、設備計画DB60から送電線の増設等により構成が変化する電力系統を抽出し、系統モデル候補を構築する。系統モデル候補構築部21bは、同様に、連系申請DB61からもPV等の連系により構成が変化する電力系統を抽出し、系統モデル候補を構築する。
【0064】
従来の技術では、設備計画及び連系申請に関する情報は、作業停止計画支援装置と連携しない。しかし、今後、再エネ導入量が増加すると、それらによる系統構成の変化が最過酷断面を変える可能性がある。このため、系統モデル候補構築部21bは、前記したように、系統モデル候補を構築し、今後の再エネ導入量増加にも対応可能な作業停止計画を作成してもよい。
【0065】
最過酷断面決定部22bは、系統モデル候補構築部21bが構築した系統モデル、作業停止系統DB51、及び、系統情報DB52を入力として、信頼度KPI及び再エネ出力変動リスクを出力する。
【0066】
図23は、実施例2における最過酷断面決定部22bの処理例を示すフローチャートである。実施例1の最過酷断面決定部22の処理(図9)と比較して、ステップS3201が追加されている。ステップS3201において、最過酷断面決定部22bは、再エネ出力変動リスクを算出し、その結果を再エネ出力変動リスクDB62へ保存する。なお、図23のステップS2202において、最過酷断面決定部22bは、着目中の作業停止の信頼度KPIに加えて再エネ出力変動リスクを始めて求めるか否かを判断する。
【0067】
図24は、ステップS3201の具体的な処理のフローチャートである。
ステップS32011において、最過酷断面決定部22bは、最過酷断面での信頼度KPIを取得する。
【0068】
ステップS32012において、最過酷断面決定部22bは、将来のPVの新設及び未観測気象条件による再エネ出力の増減を算出する。最過酷断面決定部22bは、この再エネ出力変動に起因して、直前に求めた最過酷断面の信頼度KPIより過酷となった断面(気象条件等)での信頼度KPIを算出する。将来のPVの増加量等は、マルコフ連鎖モンテカルロ法(MCMC)等の確率分布から推測された値であってもよい。
【0069】
ステップS32013において、最過酷断面決定部22bは、ステップS32012において算出された信頼度KPIが基準値以上であるか否かを判断する。最過酷断面決定部22bは、基準値以上である場合、ステップS32014に進み、そうでない場合、ステップS32015に進む。最過酷断面決定部22bは、基準値に関して、各種制約条件の裕度(X,Y等)に対して予め目標値を設定しておき、その目標値から算出された信頼度KPIを基準値として用いてもよい。
【0070】
ステップS32014において、最過酷断面決定部22bは、その信頼度KPIが基準値以上であった作業停止に対して、再エネ出力変動リスクが「低」である旨を、再エネ出力変動リスクDB62に保存する。
ステップS32015において、最過酷断面決定部22bは、その信頼度KPIが基準値未満であった作業停止に対して、再エネ出力変動リスクが「高」である旨を、再エネ出力変動リスクDB62に保存する。
【0071】
ステップS32016において、最過酷断面決定部22bは、ステップS32011における最過酷断面以外において信頼度KPIが基準値以上となる作業停止があるか否かを判断する。最過酷断面決定部22bは、そのような作業停止がある場合、ステップS32017に進み、そうでない場合、処理を終了する。
【0072】
ステップS32017において、最過酷断面決定部22bは、基準値以上の断面(気象条件等)があった作業停止に対して、その断面の中で最も低リスクとなる断面を抽出し、再エネ出力変動リスクDB62に、低リスクの作業条件として保存する。
【0073】
図25は、再エネ出力変動リスクDB62の例を示す図である。再エネ出力変動リスクDB62は、各作業停止設備、各時間断面、各系統モデルに対して、再エネ出力変動リスク、及び、低リスクの作業条件を示している。
【0074】
運用方策決定部23bは、信頼度KPIDB55、再エネ出力変動リスクDB62を入力として、全作業停止に対して、系統信頼度を確保する運用方策を決定する。
【0075】
図26は、実施例2における運用方策決定部23bの処理例を示すフローチャートである。実施例1の運用方策決定部23の処理(図11)と比較して、ステップS3301及びステップS3302が追加されている。なお、図26においては、ステップS2302“Nо”の場合、ステップS3301に進む。
【0076】
ステップS3301において、運用方策決定部23bは、再エネ出力変動リスクDB62に保存された再エネ出力変動リスクが「高」であるか否かを判断する。運用方策決定部23bは、再エネ変動リスクが「高」である場合、ステップS3302に進み、「低」である場合、ステップS2306に進む。
【0077】
ステップS3302において、運用方策決定部23bは、再エネ出力変動リスクが「高」である作業停止に対して、再エネ出力の予測が外れた場合に備えて、調整用の日時又は運用方策の候補を、低リスクの作業条件に照らし合わせて決定する。
【0078】
このように、運用方策決定部23bは、気象変化時等に再エネ出力が変動するリスクに応じて予め立てた計画を調整する仕組みを作業停止計画に組み込んでもよい。
【0079】
図27は、実施例2における表示部25bの出力例を示す図である。実施例1における表示部25の出力例(図18)と比較すると、表示部25bが表示するデータテーブル341(図27)では、実施例1に加えて、再エネ出力変動リスクが「低」であること、低リスクの作業条件が「平日・夜」の「雨・曇り」であることがわかる。表示部25bは、これらの情報を表示することで、気象条件の変化等に伴う再エネ出力変動に合わせて、短期的に作業停止日時を調整することが可能となる。
【0080】
例えば、作業停止当日の実際の気象条件が作業停止の数日前に予測した気象条件より過酷になることが判明する場合がある。この場合、運用方策決定部23bは、系統運用者が低リスクの作業条件に合う日時を付近から探索することにより、再エネ出力変動を考慮して、短期的に作業停止日時を微調整することができる。通常、作業停止計画は、1年前に1年分作成される。
【0081】
図28は、作業停止後DB63の例を示す図である。作業停止後DB63のうち、データテーブル631は、昨年のある作業停止について、計画時における、作業停止日時、各種制約条件の裕度、及び、電力潮流を示している。一方、データテーブル632は、同じ作業停止について、実際の作業時における、作業停止日時、各種制約条件の裕度、及び、電力潮流を示している。作業停止後DB63は、作業停止ごとに、このような計画時の潮流等のデータ及びそれに対応する実作業時の潮流等のデータを格納している。
【0082】
作業停止後補正部35は、作業停止後DB63を入力として、系統情報DB52に格納されている情報を自動で補正する。
【0083】
図29は、作業停止後補正部35の処理例を示すフローチャートである。
ステップS3501において、作業停止後補正部35は、作業停止後DB63から、各作業停止に対する各種制約条件の裕度又は潮流について、計画時と実際の作業時との差を算出する。
【0084】
ステップS3502において、作業停止後補正部35は、各作業停止に対して、ステップS3501の算出結果から、実際の作業時の制約条件等が計画時のものより系統にとって過酷になっているか否かを判断する。作業停止後補正部35は、過酷になっている場合、ステップS3503に進み、そうでない場合、処理を終了する。
【0085】
ステップS3503において、作業停止後補正部35は、計画時より作業時の方が過酷になっていると判断された作業停止の情報を参考にし、系統情報DB52に格納された潮流及び系統構成を更新する、又は、シナリオを追加する。
【0086】
作業停止後補正部35は、このように、運用者の負担軽減を目的として、作業停止実施後に、実績情報をフィードバックし、次の作業停止計画に活かしてもよい。
【0087】
本発明は、以下の付記に記載の技術的思想を包含する。
(付記1)
電力系統における作業停止時の潮流計算結果及び分散型電源の調達可否に基づき系統信頼度を算出し、前記算出した系統信頼度に基づき系統にとって最過酷となる時間断面を決定する最過酷断面決定部と、
前記決定した時間断面の系統信頼度が最大化するように日時を選択し、
同一日時に設定可能な作業停止の最大数に関する制約を違反している日時がある場合、当該日時に設定されている作業停止を系統信頼度が悪化しないように別日に移動させる日時決定部と、
を備えることを特徴とする作業停止計画支援装置。
【0088】
(付記2)
作業停止に伴う系統切替を考慮した系統モデルを構築する系統モデル候補構築部と、
前記決定した時間断面の系統信頼度を改善するために、作業停止可能な時間断面を限定する、又は、設備の追加を含む運用方策を決定する運用方策決定部と、
を備えることを特徴とする付記1に記載の作業停止計画支援装置。
【0089】
(付記3)
前記最過酷断面決定部が決定した結果、前記運用方策決定部が限定又は決定した結果、及び、前記日時決定部が移動させた結果を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする付記2に記載の作業停止計画支援装置。
【0090】
(付記4)
前記最過酷断面決定部は、
将来の再エネの増設及び未観測気象条件により生じる再エネ出力変動を算出し、
前記算出した再エネ出力変動が系統信頼度に与えるリスクを評価し、
系統信頼度が確保された気象条件を保存すること、
を特徴とする付記3に記載の作業停止計画支援装置。
【0091】
(付記5)
前記運用方策決定部は、
前記再エネ出力変動のリスク及び系統信頼度が確保された気象条件から、前記決定した時間断面の予測が外れた場合に備える調整用の日時又は運用方策を決定すること、
を特徴とする付記4に記載の作業停止計画支援装置。
【0092】
(付記6)
前記表示部は、
前記再エネ出力変動のリスク及び系統信頼度が確保された気象条件を表示すること、
を特徴とする付記5に記載の作業停止計画支援装置。
【0093】
(付記7)
前記系統モデル候補構築部は、
送電線の増設を含む設備計画情報、及び、分散型電源の連系申請情報に基づき、系統モデルを構築すること、
を特徴とする付記2に記載の作業停止計画支援装置。
【0094】
(付記8)
作業停止時に発生した潮流断面を含む実績情報に基づき、作業停止後に、過去の潮流断面及び系統構成を更新する作業停止後補正部を備えること、
を特徴とする付記1に記載の作業停止計画支援装置。
【0095】
(付記9)
作業停止計画支援装置の最過酷断面決定部は、
電力系統における作業停止時の潮流計算結果及び分散型電源の調達可否に基づき系統信頼度を算出し、前記算出した系統信頼度に基づき系統にとって最過酷となる時間断面を決定し、
前記作業停止計画支援装置の日時決定部は、
前記決定した時間断面の系統信頼度が最大化するように日時を選択し、
同一日時に設定可能な作業停止の最大数に関する制約を違反している日時がある場合、当該日時に設定されている作業停止を系統信頼度が悪化しないように別日に移動させること、
を特徴とする作業停止計画支援方法。
【符号の説明】
【0096】
1 作業停止計画支援装置
11 通信部
12 入力手段
13 表示装置
14 CPU
15 メモリ
16 データベース
21、21b 系統モデル候補構築部
22、22b 最過酷断面決定部
23、23b 運用方策決定部
24 日時決定部
25、25b 表示部
35 作業停止後補正部
51 作業停止系統DB(データベース)
52 系統情報DB
53 運用容量制約DB
54 信頼度KPI属性DB
55 信頼度KPIDB
56 同時作業停止禁止制約DB
57 作業停止期間制約DB
58 作業停止順序制約DB
59 同時作業停止可能数制約DB
60 設備計画DB
61 連系申請DB
62 再エネ出力変動リスクDB
63 作業停止後DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29