(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025209
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】燃料電池用セパレータの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/0228 20160101AFI20250214BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20250214BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250214BHJP
【FI】
H01M8/0228
H01M8/0247
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129783
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 孝俊
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 幸弘
【テーマコード(参考)】
5H126
【Fターム(参考)】
5H126AA12
5H126BB06
5H126DD05
5H126DD14
5H126EE03
5H126GG18
5H126HH01
5H126HH02
5H126HH04
5H126HH10
(57)【要約】
【課題】2枚のセパレータ基材が導通した状態で互いに接合された構成を有する燃料電池用セパレータを高い生産性で製造する。
【解決手段】燃料電池用セパレータの製造方法は、塗布工程と、セット工程と、加圧硬化工程とを備える。塗布工程では、2枚の基材31,41の各々における対向面34,44の両方に、第1結合材および導電性粒子を含む第1塗料50aを塗布する。セット工程では、2枚の基材31,41を、それらの対向面34,44の間に第1塗料50aを挟む状態であり、且つ、それらの対向面34,44が対向する状態にセットする。加圧硬化工程では、対向方向において2枚の基材31,41を加圧した状態で第1塗料50aを硬化させることで、2枚の基材31,41を一体化する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ延在する突条および溝が交互に設けられた導電材料からなるセパレータ基材を2枚有するとともに、前記2枚の前記セパレータ基材が重ねられた状態で一体に形成されてなる燃料電池用セパレータの製造方法であって、
前記2枚の前記セパレータ基材の各々における対向面の少なくとも一方に、樹脂材料からなる結合材および導電性粒子を含む塗料を塗布する塗布工程と、
前記塗布工程の後に、前記2枚の前記セパレータ基材を、前記各々における対向面の間に前記塗料を挟む状態であり、且つ、前記各々における対向面が対向する状態にセットするセット工程と、
前記セット工程の後に、前記対向面の対向方向において前記2枚の前記セパレータ基材を加圧した状態で前記塗料を硬化させることで、前記2枚の前記セパレータ基材を一体化する加圧硬化工程と、を備える、
燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項2】
前記結合材を構成する樹脂材料として熱硬化性の樹脂材料を用い、
前記加圧硬化工程では、前記2枚の前記セパレータ基材ともども前記塗料を加熱することで当該塗料を硬化させる、
請求項1に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項3】
前記塗布工程では、前記2枚の前記セパレータ基材の各々における対向面の両方に、前記塗料を塗布する、
請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【請求項4】
前記塗布工程では、前記2枚の前記セパレータ基材の各々における両面に、前記塗料を塗布する、
請求項1または2に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用セパレータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池(以下、単に燃料電池という)は、複数の単セルを有している。単セルは、それぞれ延在する突条および溝が交互に設けられた金属板材からなるセパレータを2枚有している。単セルは、膜電極接合体を備える発電部が2枚のセパレータにより挟持された構成を有している。各セパレータと発電部との間には、燃料ガスや酸化ガスが供給されるガス流路が区画形成されている。
【0003】
燃料電池は、複数の単セルが積層された構成を有している。特許文献1に記載の燃料電池では、隣合うセパレータ同士が溶接されることで、隣合う単セルが互いに固定されている。この燃料電池では隣合うセパレータが溶接されることで導通されているため、同燃料電池の内部抵抗が低くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
燃料電池の構造上、ガス流路は微細な構造を有する。したがって、ガス流路を区画形成するセパレータについても同様に微細な構造を有する。このことから、隣合うセパレータを互いに溶接する溶接工程は煩雑な工程になると云える。しかも、溶接工程の後においては、セパレータの品質を担保するために、セパレータを洗浄する洗浄工程や、セパレータに表面処理を施す表面処理工程などが必要になる場合がある。このように、2枚のセパレータを溶接する製造方法を採用すると、セパレータの製造にかかる工程が煩雑になってしまう。これにより、燃料電池の生産性の低下を招くおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための燃料電池用セパレータの製造方法の各態様を記載する。
[態様1]それぞれ延在する突条および溝が交互に設けられた導電材料からなるセパレータ基材を2枚有するとともに、前記2枚の前記セパレータ基材が重ねられた状態で一体に形成されてなる燃料電池用セパレータの製造方法であって、前記2枚の前記セパレータ基材の各々における対向面の少なくとも一方に、樹脂材料からなる結合材および導電性粒子を含む塗料を塗布する塗布工程と、前記塗布工程の後に、前記2枚の前記セパレータ基材を、前記各々における対向面の間に前記塗料を挟む状態であり、且つ、前記各々における対向面が対向する状態にセットするセット工程と、前記セット工程の後に、前記対向面の対向方向において前記2枚の前記セパレータ基材を加圧した状態で前記塗料を硬化させることで、前記2枚の前記セパレータ基材を一体化する加圧硬化工程と、を備える、燃料電池用セパレータの製造方法。
【0007】
上記製造方法によれば、セパレータ基材の表面に塗布した塗料を利用して2枚のセパレータ基材を接合することで、煩雑な工程である溶接工程を採用することなく、2枚のセパレータ基材を重ねた状態で一体に形成することができる。これにより、2枚のセパレータ基材を溶接によって接合する場合とは異なり、洗浄工程や表面処理工程などの後工程が不要になるため、簡素な工程でセパレータを製造することができる。
【0008】
しかも、塗料を硬化させる際には、2枚のセパレータ基材が対向方向に加圧されるため、塗料に含まれる導電性粒子がセパレータ基材の表面に押し付けられた状態になる。これにより、2枚のセパレータ基材の間に導電性粒子を挟み込んだ状態で、上記塗料を硬化させることができる。したがって、上記製造方法によれば、2枚のセパレータ基材の間に塗料(詳しくは、結合材)からなる結合層が形成されるとはいえ、同塗料に含まれる導電性粒子によって2枚のセパレータ基材を導通する導通経路が形成される。
【0009】
このように、上記製造方法によれば、2枚のセパレータ基材が導通した状態で互いに接合された構成を有する燃料電池用セパレータを高い生産性で製造することができる。
[態様2]前記結合材を構成する樹脂材料として熱硬化性の樹脂材料を用い、前記加圧硬化工程では、前記2枚の前記セパレータ基材ともども前記塗料を加熱することで当該塗料を硬化させる、[態様1]に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【0010】
上記製造方法によれば、塗料を間に挟んだ状態の2枚のセパレータ基材を加熱しつつ加圧することで、2枚のセパレータを一体化することができる。
[態様3]前記塗布工程では、前記2枚の前記セパレータ基材の各々における対向面の両方に、前記塗料を塗布する、[態様1]または[態様2]に記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【0011】
上記製造方法によれば、セット工程において、両方の対向面に予め塗布されている塗料同士を接触させて一体にするといったように、2枚のセパレータ基材の間に塗料を配置することができる。そのため、各対向面の一方のみに塗料を塗布する場合、すなわち一方の対向面に予め塗布されている塗料を他方の対向面に接触させることで2枚のセパレータ基材の間に塗料を配置する場合と比較して、塗料をバランス良く配置することが可能になる。したがって、この塗料により、2枚のセパレータ基材を強固に接合することができる。
【0012】
[態様4]前記塗布工程では、前記2枚の前記セパレータ基材の各々における両面に、前記塗料を塗布する、[態様1]~[態様3]のいずれか一つに記載の燃料電池用セパレータの製造方法。
【0013】
上記製造方法によれば、加圧硬化工程において、2枚のセパレータ基材の各々における両面において塗料を硬化させることができる。そのため、硬化した結合材からなる結合層を介して2枚のセパレータ基材を一体化することに加えて、各セパレータ基材の外面を覆う態様で硬化した結合材からなる被覆層を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2枚のセパレータ基材が導通した状態で互いに接合された構成を有する燃料電池用セパレータを高い生産性で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】燃料電池用セパレータの製造方法の一実施形態について、当該セパレータを有する単セルを中心とした燃料電池のスタックの拡大断面図である。
【
図2】同実施形態の製造方法が適用される燃料電池用セパレータの断面図である。
【
図3】同燃料電池用セパレータにおける
図2中に矢印3で示す部分を拡大して示す拡大断面図である。
【
図4】同燃料電池用セパレータにおける
図2中に矢印4で示す部分を拡大して示す拡大断面図である。
【
図5】基材の表面に第1塗料が塗布されている状態を示す断面図である。
【
図6】基材の表面に第1塗料が塗布された状態を示す断面図である。
【
図7】フィルムに第2塗料が塗布されている状態を示す断面図である。
【
図8】第2塗料が塗布されたフィルムが圧延されている状態を示す断面図である。
【
図9】第2塗料が塗布されたフィルムが圧延された状態を示す断面図である。
【
図10】加圧硬化装置に基材およびフィルムがセットされた状態を示す断面図である。
【
図11】2枚の基材が一体化されている状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、
図1~
図11を参照して、燃料電池用セパレータの製造方法の一実施形態について説明する。
各図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張または簡略化して示す場合がある。また、各部分の寸法比率については実際と異なる場合がある。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の燃料電池用セパレータ(以下、セパレータ20と称する)は、固体高分子形燃料電池のスタック1に用いられるものである。なお、セパレータ20は、後述する第1セパレータ30および第2セパレータ40が一体に形成された構成を有する。
【0018】
スタック1は、複数の単セル10が積層された構造を有している。単セル10は、アノード側の第1セパレータ30と、カソード側の第2セパレータ40とにより挟持された発電部11を備えている。
【0019】
発電部11は、膜電極接合体12と、膜電極接合体12を挟持するアノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16とにより構成されている。アノード側ガス拡散層15は、膜電極接合体12と第1セパレータ30との間に設けられている。カソード側ガス拡散層16は、膜電極接合体12と第2セパレータ40との間に設けられている。アノード側ガス拡散層15およびカソード側ガス拡散層16は、共に炭素繊維により形成されている。
【0020】
膜電極接合体12は、湿潤状態で良好なプロトン伝導性を有する固体高分子材料からなる電解質膜13と、電解質膜13を挟持する一対の電極触媒層14とを備えている。各電極触媒層14には、燃料電池における反応ガスの電気化学反応を促進するために、例えば白金などの触媒が担持されている。
【0021】
<第1セパレータ>
第1セパレータ30は、ステンレス鋼などの導電性を有する材料(以下、導電材料)によって板状に形成された基材31を有している。基材31には、それぞれ延在する第1突条部32および第1溝部33が交互に設けられている。第1突条部32および第1溝部33は複数設けられている。各第1突条部32は、互いに間隔をおいて並列して延在する突条をなしている。各第1突条部32は、アノード側ガス拡散層15に接触している。各第1溝部33は、隣合う2つの第1突条部32の間において第1突条部32に沿って延在する溝状をなしている。なお本実施形態では、基材31が、セパレータ基材に相当する。
【0022】
<第2セパレータ>
第2セパレータ40は、ステンレス鋼などの導電材料によって板状に形成された基材41を有している。基材41には、それぞれ延在する第2突条部42および第2溝部43が交互に設けられている。第2突条部42および第2溝部43は複数設けられている。各第2突条部42は、互いに間隔をおいて並列して延在する突条をなしている。各第2突条部42は、カソード側ガス拡散層16に接触している。各第2溝部43は、隣合う2つの第2突条部42の間において第2突条部42に沿って延在する溝状をなしている。なお本実施形態では、基材41が、セパレータ基材に相当する。
【0023】
<第1結合層>
図2および
図3に示すように、第1セパレータ30の基材31における両面の全体と第2セパレータ40の基材41における両面の全体とには、それぞれ第1結合層50が形成されている。第1結合層50は、熱硬化性の樹脂材料からなる第1結合材51および導電性粒子52を含む。第1結合材51は、例えば、エポキシ樹脂とフェノール樹脂とを含む。導電性粒子52は、例えば、窒化チタンである。なお、窒化チタンは、基材31,41の表面に形成された酸化被膜31a,41aよりも硬度が高い。
【0024】
第1セパレータ30の基材31と第2セパレータ40の基材41とは、第1結合層50を介して、一体に形成されている。詳しくは、本実施形態では、第1セパレータ30および第2セパレータ40は、第1溝部33の裏面と第2溝部43の裏面とが対向する部分において第1結合層50を共有している。これにより、第1セパレータ30および第2セパレータ40は一体になっている。
【0025】
本実施形態では、第1溝部33の裏面と第2溝部43の裏面とが対向する部分においては、第1結合層50に含まれる導電性粒子52が、各溝部33,43の裏面に形成された酸化被膜31a,41aを貫通して基材31,41に接触している。そのため、第1セパレータ30の基材31と第2セパレータ40の基材41との間には、導電性粒子52によって、酸化被膜31a,41aを経由しない導電経路が形成される。
【0026】
<第2結合層>
図2および
図4に示すように、第1結合層50の表面のうち、基材41における第2突条部42の頂面に対応する部分には、第2結合層60が形成されている。また、第1結合層50の表面のうち、基材31における第1突条部32の頂面に対応する部分には、第2結合層60が形成されている。
【0027】
第2結合層60は、熱硬化性の樹脂材料からなる第2結合材61および導電性炭素材62を含む。第2結合材61は、例えば、エポキシ樹脂を含む。導電性炭素材62は、例えば、グラファイト粒子である。
【0028】
本実施形態では、基材31,41における各突条部32,42の頂面に対応する部分においては、第1結合層50に含まれる導電性粒子52が、各突条部32,42の表面に形成された酸化被膜31a,41aを貫通して基材31,41に接触している。そして、この導電性粒子52と導電性炭素材62とは互いに接触している。そのため、第1セパレータ30の基材31と発電部11(
図1参照)との間には、導電性粒子52、および導電性炭素材62によって、酸化被膜31aを経由しない導電経路が形成される。また、第2セパレータ40の基材41と発電部11との間には、導電性粒子52および導電性炭素材62によって、酸化被膜41aを経由しない導電経路が形成される。
【0029】
このように本実施形態では、第1セパレータ30の基材31と第2セパレータ40の基材41とに、それぞれ第1結合層50および第2結合層60が形成される。とはいえ、スタック1の内部には、基材31,41、導電性粒子52および導電性炭素材62によって導電経路が形成される。
【0030】
<ガス流路、冷却水流路>
図1に示すように、第1セパレータ30の第1溝部33に対応する部分と、アノード側ガス拡散層15とで区画される部分には、燃料ガスが流通する燃料ガス流路が形成されている。第2セパレータ40の第2溝部43に対応する部分と、カソード側ガス拡散層16とで区画される部分には、酸化ガスが流通する酸化ガス流路が形成されている。本実施形態における燃料ガスは水素であり、酸化ガスは空気である。さらに、第1セパレータ30の第1突条部32の裏面に対応する部分と、第2セパレータ40の第2突条部42の裏面に対応する部分とで区画される部分には、冷却水が流通する冷却水流路が形成されている。
【0031】
<製造方法>
以下、本実施形態のセパレータ20の製造方法について説明する。
<塗布工程>
図5に示すように、先ず、塗布工程が実行される。
【0032】
塗布工程では、スプレーガン100を用いて第1塗料50aを基材31,41に向けて噴射することで、基材31,41の表面に第1塗料50aが塗布される。
ここで、第1塗料50aは、第1結合材51、導電性粒子52、第1溶剤、および第2溶剤、および硬化促進剤を含む。第2溶剤は、第1溶剤の沸点よりも低い沸点を有している。このため、第2溶剤は、第1溶剤よりも揮発しやすい。
【0033】
本実施形態の第1溶剤は、例えば、ブチルカルビトールである。第1溶剤の沸点は、およそ230℃である。本実施形態の第2溶剤は、例えば、メチルエチルケトン(MEK)である。第2溶剤の沸点は、およそ79℃である。なお、本明細書中における沸点とは、常温常圧下における沸点を指す。本実施形態の硬化促進剤は、例えば、キュアゾール(登録商標)である。
【0034】
スプレーガン100を用いて第1塗料50aを基材31,41に向けて噴射することで、第1塗料50aが常温常圧下に曝されるため、第1塗料50aから第2溶剤が揮発する。こうした第2溶剤の揮発は、スプレーガン100から噴射された第1塗料50aが、基材31,41の表面に到達するまでの間に生じる。このため、第1塗料50aが基材31,41の表面に到達した際には、第1塗料50aから第2溶剤の大部分が揮発した状態となっている。
【0035】
したがって、本実施形態では、第1塗料50aの塗布に際して第2溶剤を揮発させながら、第1塗料50aを基材31,41の表面に塗布する(塗布工程)。
図6に示すように、本実施形態では、基材31,41の表面、詳しくは厚さ方向(
図6の上下方向)の両面に第1塗料50aを塗布する。これにより本実施形態では、2枚の基材31,41の各々における対向面34,44の両方に、第1塗料50aが塗布される。そして、第1結合材51の熱硬化温度よりも低い所定の温度にて基材31,41を乾燥させる(乾燥工程)。
【0036】
<フィルム形成工程>
また、
図7~
図9に示すように、フィルム形成工程が実行される。
フィルム形成工程では、前記第2結合層60の形成に用いるフィルム部材70(
図9)が形成される。
【0037】
図7に示すように、先ず、樹脂製のフィルム71を図示しない搬送装置により搬送するとともに、コータ110を用いて第2塗料60aをフィルム71の厚さ方向の一側の表面に塗布する。ここで、第2塗料60aは、第2結合材61、導電性炭素材62、および溶剤を含む。本実施形態の第2塗料60aの溶剤は、例えば、N-メチル-2-ピロリドンである。フィルム71は、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)等の樹脂材料により形成されている。
【0038】
図8に示すように、その後においては、第2塗料60aが塗布されたフィルム71を、互いに対向して逆回転する第1ローラ121と第2ローラ122との間を通すことで圧延する。本実施形態の第1ローラ121は、例えば、ステンレス鋼などの金属材料により形成されている。また、第1ローラ121の表面には、例えば、クロムめっきなどの表面処理が施されている。本実施形態の第2ローラ122は、例えば、ゴムなどのエラストマにより形成されている。圧延工程では、フィルム71を第1ローラ121に接触させるとともに、第2塗料60aを第2ローラ122に接触させる。
【0039】
図9に示すように、圧延工程を行うことで、フィルム71に塗布された第2塗料60aの厚さが小さくなる。これにより、第2塗料60a内における導電性炭素材62同士の間隙が低減される。フィルム形成工程では、このようにしてフィルム部材70が形成される。
【0040】
<セット工程>
塗布工程およびフィルム形成工程の後には、セット工程が実行される。
セット工程では、加圧硬化装置130の内部に、両面に第1塗料50aが塗布された基材31,41と2枚のフィルム部材70とがセットされる。
【0041】
図10に示すように、加圧硬化装置130は、第1型131と、第1型131に対向して配置される第2型132とを備えている。第2型132は、固定型であり、第1型131は、第2型132に対して進退可能に設けられた可動型である。第1型131の内部および第2型132の内部には、電熱線133および電熱線134がそれぞれ設けられている。各電熱線133,134に通電することにより第1型131および第2型132が所定の温度までそれぞれ加熱される。上記所定の温度は、熱硬化性樹脂である第1結合材51および第2結合材61が熱硬化する温度である。
【0042】
セット工程においては、基材31,41および2枚のフィルム部材70が、第2型132側からフィルム部材70、基材41、基材31、フィルム部材70の順に重ねられて並ぶようにセットされる。このときには、第2型132とフィルム部材70のフィルム71とが接触した状態になるとともに、基材41の第1塗料50aとフィルム部材70の第2塗料60aとが接触した状態になっている。また、2枚の基材31,41が、それらの対向面34,44の間に第1塗料50aを挟む状態になるとともに、それらの対向面34,44が対向する状態になっている。さらに、第1型131と基材31との間においては、同基材31の第1塗料50aとフィルム部材70の第2塗料60aとが接触した状態になっている。
【0043】
<加圧硬化工程>
セット工程の後には、加圧硬化工程が実行される。
加圧硬化工程では、両面に第1塗料50aが塗布された基材31,41と2枚のフィルム部材70とを対向方向において加圧した状態で、第1塗料50aおよびフィルム部材70の第2塗料60aを硬化させることで、2枚の基材31,41が一体化される。
【0044】
具体的には、
図11に示すように、加圧硬化装置130が型締めされる。これにより、2枚の基材31,41および2枚のフィルム部材70は、第1型131と第2型132との間に挟み込まれる態様で加圧される。このとき、第1塗料50aに含まれる導電性粒子52が基材31,41の表面に押し付けられる。これにより、導電性粒子52が酸化被膜31aを貫通して基材31に接触するようになるとともに、同導電性粒子52が酸化被膜41aを貫通して基材41に接触するようになる(
図3、
図4参照)。また、第1型131側のフィルム部材70の第2塗料60aが基材31の第1塗料50aの表面に押し付けられて転写されるとともに、第2型132側のフィルム部材70の第2塗料60aが基材41の第1塗料50aの表面に押し付けられて転写される。なお、加圧硬化装置130による2枚の基材31,41および2枚のフィルム部材70の加圧は、基材31,41が塑性変形しない程度の圧力により行われる。
【0045】
加圧硬化装置130を型締めする際には、各電熱線133,134に通電することにより、第1型131および第2型132が所定の温度までそれぞれ加熱されている。そのため、第1塗料50aの第1結合材51が熱硬化することで、基材31,41の表面に第1結合層50が形成される。本実施形態では、この第1結合層50を介して、2枚の基材31,41、ひいては第1セパレータ30および第2セパレータ40が一体化される。また、第2塗料60aの第2結合材61が熱硬化することで、第1結合層50の表面に第2結合層60が形成される。
【0046】
最後に、加圧硬化装置130を型開きして、一体化された第1セパレータ30および第2セパレータ40を取り出すとともに、第1セパレータ30および第2セパレータ40からフィルム71を剥離する。このようにしてセパレータ20は製造される。
【0047】
<本実施形態の作用>
本実施形態によれば、基材31,41の表面に塗布した第1塗料50aを利用して、2枚の基材31,41を接合することができる。これにより、煩雑な工程である溶接工程を採用することなく、2枚の基材31,41、ひいては2枚のセパレータ30,40を重ねた状態で一体に形成することができる。したがって、2枚のセパレータを溶接によって接合する場合とは異なり、洗浄工程や表面処理工程などの後工程が不要になるため、簡素な工程で第1セパレータ30および第2セパレータ40を製造することができる。
【0048】
本実施形態では、第1塗料50aとして、熱硬化性の樹脂材料からなる第1結合材51を含むものが用いられる。そして、2枚の基材31,41の間に第1塗料50aを挟んだ状態で、基材31,41ともども同第1塗料50aが加熱される。これにより、2枚の基材31,41の間で第1塗料50aに含まれる第1結合材51が熱硬化して第1結合層50を構成するようになる。そして、この第1結合層50によって互いに接合することで、2枚の基材31,41、ひいては2枚のセパレータ30,40を一体化することができる。
【0049】
本実施形態では、2枚の基材31,41の各々における両面に、第1塗料50aが塗布される。そのため、加圧硬化工程において、2枚の基材31,41の各々における両面で、第1塗料50aに含まれる第1結合材51を熱硬化させることができる。これにより、2枚の基材31,41を一体化するべく基材31,41の間で第1塗料50aを熱硬化させる際に、各基材31,41の外面全体においても第1塗料50aを熱硬化させることで、各基材31,41の外面を覆い保護する被覆層を形成することができる。このように本実施形態によれば、基材31,41を接合する工程と、基材31,41の表面に被覆層を形成する工程とを、加圧硬化工程において同時に実行することができる。
【0050】
本実施形態では、2枚の基材31,41の各々における対向面34,44の両方に、第1塗料50aが塗布される。そのため、セット工程において、2枚の基材31,41を加圧硬化装置130の内部にセットする際には、基材31の対向面34と基材41の対向面44とが合わせられることで各対向面34,44の第1塗料50aが接触して一体になる。このようにして、2枚の基材31,41の各々における対向面34,44の間に第1塗料50aが配置される。そのため、対向面34,44の一方に予め塗布された第1塗料50aを対向面34,44の他方に接触させることで同第1塗料50aを配置する場合と比較して、2枚の基材31,41の間に第1塗料50aをバランス良く配置することが可能になる。したがって、この第1塗料50aに含まれる第1結合材51により、2枚の基材31,41を強固に接合することができる。
【0051】
本実施形態では、加圧硬化工程において、2枚の基材31,41および2枚のフィルム部材70が対向方向(
図11の上下方向)に加圧されるため、第1塗料50aに含まれる導電性粒子52が基材31,41の表面に押し付けられた状態になる。これにより、2枚の基材31,41の間に導電性粒子52を挟み込んだ状態で、上記第1塗料50aを硬化させることができる。本実施形態によれば、2枚の基材31,41の間に第1塗料50a(詳しくは、第1結合材51)からなる第1結合層50が形成されるとはいえ、第1塗料50aに含まれる導電性粒子52によって2枚の基材31,41を導通する導通経路を形成することができる。したがって、基材31,41を有する本実施形態のセパレータ20を用いてスタック1を組み立てることにより、同スタック1の内部抵抗を低くすることができる。
【0052】
本実施形態によれば、このようにして、2枚の基材31,41が導通した状態で互いに接合された構成を有するセパレータ20を高い生産性で製造することができる。
本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られるようになる。
【0053】
(1)本実施形態の製造方法は、塗布工程と、セット工程と、加圧硬化工程とを備える。塗布工程では、2枚の基材31,41の各々における対向面34,44の両方に、第1結合材51および導電性粒子52を含む第1塗料50aを塗布する。セット工程では、2枚の基材31,41を、それらの対向面34,44の間に第1塗料50aを挟む状態であり、且つ、それらの対向面34,44が対向する状態にセットする。加圧硬化工程では、対向方向において2枚の基材31,41を加圧した状態で第1塗料50aを硬化させることで、2枚の基材31,41を一体化する。
【0054】
本実施形態によれば、2枚の基材31,41が導通した状態で互いに接合された構成を有するセパレータ30,40を高い生産性で製造することができる。
(2)熱硬化性の樹脂材料によって第1結合材51を構成する。加圧硬化工程では、2枚の基材31,41ともども第1塗料50aを加熱することで、第1塗料50aを硬化させる。本実施形態によれば、第1塗料50aを間に挟んだ状態の2枚の基材31,41を加熱しつつ加圧することで、2枚の基材31,41を一体化することができる。
【0055】
(3)塗布工程において、2枚の基材31,41の各々における対向面34,44の両方に、第1塗料50aを塗布するようにした。これにより、2枚の基材31,41の間に第1塗料50aをバランス良く配置することが可能になるため、この第1塗料50aに含まれる第1結合材51により、2枚の基材31,41を強固に接合することができる。
【0056】
(4)塗布工程において、2枚の基材31,41の各々における両面に、第1塗料50aを塗布するようにした。そのため、2枚の基材31,41を一体化するべく基材31,41の間で第1塗料50aを熱硬化させる際に、各基材31,41の外面全体においても第1塗料50aを熱硬化させることで、各基材31,41の外面を覆って保護する被覆層を形成することができる。
【0057】
<変更例>
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態および以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0058】
・第1ローラ121や第2ローラ122として、ステンレス鋼以外の金属材料により形成されるものを採用したり、ゴムなどのエラストマにより形成されるものを採用したりすることができる。
【0059】
・上記実施形態では、スプレーガン100を用いて第1塗料50aを基材31,41の表面に塗布したが、第1塗料50aが貯留された槽に基材31,41を浸漬させることで、第1塗料50aを基材31,41の表面に塗布することもできる。
【0060】
・第1溶剤の種類および第2溶剤の種類は適宜変更することができる。
・第1結合材51や第2結合材61は、エポキシ樹脂やフェノール樹脂に代えて、あるいは、これに加えて、その他の熱硬化性樹脂を含むものであってもよい。
【0061】
・第1結合材51や第2結合材61として、熱可塑性の樹脂材料によって構成されるものを採用することができる。この場合には、加圧硬化工程において、第1結合材51や第2結合材61を、加圧硬化装置の内部で所定時間放置したり強制冷却したりする等して冷ますことによって硬化させるようにすればよい。
【0062】
・グラファイト粒子に代えて、あるいは、これに加えて、カーボンブラックなどの他の導電性炭素材62を用いることもできる。
・窒化チタンに代えて、炭化チタンや硼化チタンなどの他の導電性粒子52を用いることもできる。
【0063】
・基材31,41をステンレス鋼以外の他の金属材料により形成することもできる。こうした金属材料としては、例えば、チタン合金や、アルミニウム合金や、マグネシウム合金などが挙げられる。その他、基材31,41を形成する材料としては、例えば導電性を有する樹脂材料を用いる等、金属材料以外の導電材料を用いることができる。
【0064】
・上記実施形態にかかる燃料電池用セパレータの製造方法は、第2結合層60を有していないセパレータにも適用することができる。
・塗布工程において、基材31の両面のうちの対向面34のみに第1塗料50aを塗布してもよい。塗布工程において、基材41の両面のうちの対向面44のみに第1塗料50aを塗布してもよい。
【0065】
・塗布工程において、基材31の対向面34および基材41の対向面44の一方のみに、第1塗料50aを塗布するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
10…単セル
11…発電部
12…膜電極接合体
13…電解質膜
14…電極触媒層
15…アノード側ガス拡散層
16…カソード側ガス拡散層
20…セパレータ
30…第1セパレータ
31…基材
31a…酸化皮膜
32…第1突条部
33…第1溝部
34…対向面
40…第2セパレータ
41…基材
41a…酸化皮膜
42…第2突条部
43…第2溝部
44…対向面
50…第1結合層
50a…第1塗料
51…第1結合材
52…導電性粒子
60…第2結合層
60a…第2塗料
61…第2結合材
62…導電性炭素材
70…フィルム部材
71…フィルム
100…スプレーガン
110…コータ
121…第1ローラ
122…第2ローラ
130…加圧硬化装置
131…第1型
132…第2型
133,134…電熱線