(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025002522
(43)【公開日】2025-01-09
(54)【発明の名称】水処理施設の流出物質の吸着除去方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/28 20230101AFI20241226BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20241226BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20241226BHJP
【FI】
C02F1/28 A
B01J20/28 Z
B01J20/26 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023102753
(22)【出願日】2023-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仲田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】岸 真之
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA01
4D624AB05
4D624AB06
4D624AB11
4D624AB14
4D624AB15
4D624AB16
4D624BA17
4D624BB03
4D624BC04
4G066AC13B
4G066BA03
4G066BA16
4G066BA20
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA01
4G066CA05
4G066CA21
4G066CA28
4G066CA43
4G066DA07
4G066EA13
(57)【要約】
【課題】水処理施設で流出する多種類の物質を容易且つ効率良く吸着させて除去することが可能な水処理施設の流出物質の吸着除去方法を提供する。
【解決手段】水処理施設で流出する物質を吸着マットに吸着させて除去する水処理施設の流出物質の吸着除去方法において、平均繊維径が0.5~200μmの合成繊維で形成される不織布層を備え、5分間吸着させた後に5分間金網上に載置した後の、水の吸着量が5.0~12.5g/g、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が7.0~14.0g/g、硫酸アルミニウムの吸着量が8.0~15.5g/g、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が10.0~17.0g/g、高分子凝集剤の吸着量が7.0~14.5g/g、硫酸の吸着量が9.5~17.0g/g、水酸化ナトリウムの吸着量が6.0~14.5g/g、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が5.5~13.5g/g、重油の吸着量が3.5~10.5g/g、汚泥の吸着量が6.0~12.5g/gである吸着マットを用いる水処理施設の流出物質の吸着除去方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理施設で流出する物質を吸着マットに吸着させて除去する水処理施設の流出物質の吸着除去方法において、平均繊維径が0.5~200μmの合成繊維で形成される不織布層を備え、5分間吸着させた後に5分間金網上に載置した後の、水の吸着量が5.0~12.5g/g、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が7.0~14.0g/g、硫酸アルミニウムの吸着量が8.0~15.5g/g、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が10.0~17.0g/g、高分子凝集剤の吸着量が7.0~14.5g/g、硫酸の吸着量が9.5~17.0g/g、水酸化ナトリウムの吸着量が6.0~14.5g/g、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が5.5~13.5g/g、重油の吸着量が3.5~10.5g/g、汚泥の吸着量が6.0~12.5g/gである前記吸着マットを用いることを特徴とする水処理施設の流出物質の吸着除去方法。
【請求項2】
前記合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差が1.2倍以上である前記吸着マットを用いて前記物質を吸着させることを含む請求項1に記載の水処理施設の流出物質の吸着除去方法。
【請求項3】
厚みが0.5mm以上の前記吸着マットに前記物質を吸着させることを含む請求項1又は2に記載の水処理施設の流出物質の吸着除去方法。
【請求項4】
前記合成繊維がポリプロピレン製である請求項1又は2に記載の水処理施設の流出物質の吸着除去方法。
【請求項5】
目付が30~900g/m2、密度が0.5~1.5g/cm3の前記吸着マットを用いる請求項1又は2に記載の水処理施設の流出物質の吸着除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理施設の流出物質の吸着除去方法に関し、特に、水処理施設で流出する種々の物質に対して広く利用可能な水処理施設の流出物質の吸着除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種施設等から流出する薬剤、水分、油分等の種々の物質を吸着させて拭き取るための吸着マットが知られている。特許文献1には、海難事故等で流出した原油又は厨房や食品加工工場等の排水中に含まれる油脂(グリース)の除去に適した油吸着シートの例が記載されている。
【0003】
浄水場、下水処理場、し尿処理場、民間工場などの種々の水を取り扱う水処理施設においても多くの化学物質が使用されている。水処理施設では水処理施設特有の化学物質がある程度限定的に存在する。
【0004】
例えば凝集剤の一種であるポリ塩化アルミニウム(以下、「PAC」ともいう)、硫酸アルミニウム(以下、「硫酸バンド」ともいう)、ポリ硫酸第二鉄(以下、「ポリ鉄」ともいう)等の凝集剤は、負に帯電しているコロイドを荷電中和して粒子径を大きくすることで、汚泥を沈降除去させるためなどに使用されている化学物質である。「ポリマ」などと呼称される高分子凝集剤は、荷電中和後の凝集粒子を架橋作用により粗大化し、汚泥沈降及び汚泥脱水の促進等に使用される化学物質である。硫酸や水酸化ナトリウムなどのpH調整剤は、凝集剤や高分子凝集剤の凝集に最適pHとなるように排水をpH調整するため等に使用される化学物質である。次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒剤は、放流水に含まれる大腸菌などの微生物を消毒するためなどに使用される化学物質である。重油などの油分は、水処理施設及び排水処理施設の機器類の燃料などに使用される化学物質である。
【0005】
水処理施設に特有の化学物質を使用する際の種々のトラブル等によって化学物質が流出する場合がある。例えばハンディポンプで薬品タンクに充填する際は、ポンプ末端から少量が液だれすることがある。薬品注入ポンプをメンテナンスする際は、吐出部から少量が液だれすることがある。実験室で作業手順を誤って化学物質の入った瓶を机にこぼすこともある。震災により薬品タンクにひび割れが生じて、化学物質が床一面に広がってしまう場合がある。このように化学物質が水処理施設内に流出する原因は極めて多岐に渡る。
【0006】
化学物質が流出した際の災害としては、例えば高粘度の高分子凝集剤を床にこぼした際の転倒、硫酸や水酸化ナトリウムなどの強酸・強アルカリのpH調整剤による薬傷、次亜塩素酸ナトリウムと他の酸性溶液との接触による塩素ガス発生、重油などの油分の引火による火災、汚泥由来の病原菌による感染症罹患、雨水による機器の短絡(ショート)などが考えられる。化学物質が漏洩した際は、速やかに拭き取り除去する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
化学物質が流出した際、ウェスや雑巾などで拭き取ることが一般的である。しかしながら、水処理施設で使用される化学物質は基本的に高濃度であり、化学物質の性状も親水性、疎水性など多岐に渡るため、流出した物質が必ずしも水のような吸着性能を示すとは限らない。そのため市販のウェスや雑巾などでは吸着性能が十分に得られないことがある。
【0009】
化学物質以外でも、水処理施設では、定期的に汚泥を採取し、実験室で汚泥分析を行うことで、日常的な運転管理を行っているため、汚泥採取時に汚泥をこぼすこともある。建屋においては台風や雨漏りなどにより床面が雨水浸水する場合もある。このような水処理施設において流出する種々の物質は速やかに吸着させて除去することが求められている。
【0010】
上述の特許文献1等に記載されるように、油脂吸着に特化した吸着マットなどは様々な種類が販売されている。通常は種々の種類の中から対象物に応じた最適な吸着マットを選択して対象物を吸着除去することが望ましい。しかしながら、水処理施設等における化学物質の漏洩時は緊急トラブルである場合が多く、その際、最適な吸着マット銘柄を選びながら使用するような時間的余裕は無く、単一銘柄の吸着マットを速やかに使用しトラブルを解消したい場合も多い。また、特許文献1に記載されるような撥水性を有する油吸着シートの場合、PAC、次亜塩素酸ナトリウム等の親水性の化学物質を吸着させることができないため、このような化学物質を吸着させる場合には効果を有しない。このような種々の事情により、水処理施設で流出する多種類の物質をいずれも満遍なく吸着可能な汎用性の高い吸着マットによる吸着方法が求められている。
【0011】
上記課題に鑑み、本発明は、水処理施設で流出する多種類の物質を容易且つ効率良く吸着させて除去することが可能な水処理施設の流出物質の吸着除去方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の平均繊維径を有し、水処理施設で流出する流出物質に対して所定の吸着量を発揮する吸着マットを利用することが有用であるとの知見を得た。
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は一側面において、水処理施設で流出する物質を吸着マットに吸着させて除去する水処理施設の流出物質の吸着除去方法において、平均繊維径が0.5~200μmの合成繊維で形成される不織布層を備え、5分間吸着させた後に5分間金網上に載置した後の、水の吸着量が5.0~12.5g/g、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が7.0~14.0g/g、硫酸アルミニウムの吸着量が8.0~15.5g/g、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が10.0~17.0g/g、高分子凝集剤の吸着量が7.0~14.5g/g、硫酸の吸着量が9.5~17.0g/g、水酸化ナトリウムの吸着量が6.0~14.5g/g、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が5.5~13.5g/g、重油の吸着量が3.5~10.5g/g、汚泥の吸着量が6.0~12.5g/gである吸着マットを用いる水処理施設の流出物質の吸着除去方法である。
【0014】
本発明に係る水処理施設の流出物質の吸着除去方法は一実施態様において、合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差が1.2倍以上である吸着マットを用いて物質を吸着させることを含む。
【0015】
本発明に係る水処理施設の流出物質の吸着除去方法は別の一実施態様において、厚みが0.5mm以上の吸着マットに物質を吸着させることを含む。
【0016】
本発明に係る水処理施設の流出物質の吸着除去方法は更に別の一実施態様において、合成繊維がポリプロピレン製である。
【0017】
本発明に係る水処理施設の流出物質の吸着除去方法は更に別の一実施態様において、目付が30~900g/m2、密度が0.5~1.5g/cm3の吸着マットを用いる。
【0018】
本発明は別の一側面において、水処理施設で流出する物質を吸着させて除去する吸着マットであって、平均繊維径が0.5~200μmの合成繊維で形成される不織布層を備え、5分間吸着させた後に5分間金網上に載置した後の水の吸着量が5.0~12.5g/g、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が7.0~14.0g/g、硫酸アルミニウムの吸着量が8.0~15.5g/g、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が10.0~17.0g/g、高分子凝集剤の吸着量が7.0~14.5g/g、硫酸の吸着量が9.5~17.0g/g、水酸化ナトリウムの吸着量が6.0~14.5g/g、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が5.5~13.5g/g、重油の吸着量が3.5~10.5g/g、汚泥の吸着量が6.0~12.5g/gである水処理施設用吸着マットを用いる。
【0019】
本発明に係る水処理施設の水処理施設用吸着マットは一実施態様において、平均繊維径が0.5~200μmのポリプロピレン又はポリエチレンテレフタラート製の合成繊維で形成され、合成繊維の繊維径の最大径と最小径の差が1.2倍以上である不織布層と、不織布層の表面に積層され、不織布層を保護するポリプロピレン又はポリエチレンテレフタラートで形成された表面層とを備える。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水処理施設で流出する多種類の物質を容易且つ効率良く吸着させて除去することが可能な水処理施設の流出物質の吸着除去方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】不織布層、表面層、固定部を備える吸着マットの一例を示す概念図である。
【
図2】合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差が0.8倍以上1.2倍未満の吸着マットの不織布層の写真である。
【
図3】吸着マットを構成する繊維径の最小径と最大径の差が2.0倍以上の吸着マットの不織布層の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を説明する。本発明の実施の形態に係る水処理施設用吸着マット1は、水処理施設で流出する種々の物質を吸着させて除去するための吸着マットとして使用される。水処理施設は、限定的ではないが、例えば、浄水場、下水処理場、し尿処理場など水処理を本業とする水処理施設(排水処理施設、メタンガス化施設などを含む)の他、屠畜場、農場、食品製造工場、化学品製造工場、機器製造工場、医薬品製造工場などの各種水を取り扱う水処理施設を含むことができる。
【0023】
吸着対象とする水処理施設の流出物質としては、水、PAC、硫酸バンド、ポリ硫酸第二鉄、アルミン酸ソーダ、アンモニウムミョウバン、カリミョウバン、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、塩化コッパラスなどの凝集剤、無機系高分子凝集剤、有機系天然高分子凝集剤、有機系合成高分子凝集剤などの高分子凝集剤、硫酸、塩酸、水酸化ナトリウムなどのpH調整剤、次亜塩素酸ナトリウム、その他塩素系消毒剤、臭素系消毒剤などの消毒剤、A重油、B重油、C重油、灯油、機械油などの油分などが該当する。
【0024】
その他にも液糖、廃糖蜜などのBOD供給剤、メタノールなどの水素供与体、窒素、リン、重金属などの微量元素を供給する液体栄養剤も含まれる。水には、水道水、雨水、井水、用水などの他に、水処理現場における原水(河川水、海水、下水流入水、し尿、工場排水など)、水処理現場における処理水(沈殿槽上澄水、河川放流水、海域放流水など)などを含む。汚泥には、曝気槽汚泥、余剰汚泥、返送汚泥、脱水汚泥、浄化槽汚泥などの汚泥が挙げられる。水処理現場に存在する液体の化学物質であれば、本発明の実施の形態に係る水処理施設の流出物質として吸着対象とする。
【0025】
水処理施設に特有な物質ではないが、水処理施設に併設する各種施設に存在する上記以外の化学物質、例えば飛灰処理剤、ボイラ用薬品、冷却塔用薬品などの薬品のほか、農場で使用している液体肥料、食品工場で使用している食用油、医薬品工場で使用している医薬原料等が漏洩し、流出した際にも、本発明の実施の形態に係る吸着マットは適宜吸着することが可能である。
【0026】
吸着マットは主として繊維からなる不織布層で構成されている。吸着マットを構成する不織布層の主成分(製品重量比51%以上の成分をいう)は、綿等の天然繊維よりも、合成繊維であることが好ましい。合成繊維としては、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタラート等のポリエステル系繊維、ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維等が用いられる。中でも、合成繊維としてはポリプロピレン製の合成繊維を用いることがより好ましい。ポリプロピレン製の合成繊維を不織布層の主成分として用いることで、水処理施設で流出する多種類の物質を特に効率良く吸着させることができる。
【0027】
不織布層の副成分(製品重量比51%未満)としては、アルミニウム、マグネシウム、鉄等の無機物を更に含むことが好ましい。副成分として、主成分以外の上述の天然繊維又は合成繊維を更に含んでも良い。水処理施設の流出物質を更に効率良く吸着させるための吸着ゲル、活性炭、パーライト、バーミキュライト、木粉等を副成分として更に含んでもよい。不織布層は、親水性や疎水性、酸親和性やアルカリ親和性等の表面性状を変化させるための所定の加工(例えば、界面活性剤の塗布など)が施されていても良い。
【0028】
不織布層は、複数の不織布が積層された積層体であることが好ましい。また、不織布層の表面強度を向上させるために、不織布層の両最外層面には、不織布層を構成する不織布よりも強度が高い、典型的には不織布層を構成する不織布よりも固い、不織布層を保護するための表面層が積層されていてもよい。
【0029】
不織布層を構成する合成繊維の平均繊維径が大きすぎると、水処理施設で流出する典型的な流出物質(水、PAC、硫酸バンド、ポリ鉄、高分子凝集剤、硫酸、水酸化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、重油、汚泥)の全てに対して良好な吸着性能が得られない場合がある。水処理施設の流出物質を短時間で効率良く吸着させるためには、合成繊維の平均繊維径は0.5~200μmとすることが好ましく、0.5~100μmとすることがより好ましく、0.5~50μmであることがより更に好ましい。
【0030】
合成繊維の平均繊維径は、5cm×5cmに裁断した吸着マットの不織布層の中央付近の層から5本の繊維を抜き出し、これらを卓上走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、Miniscope(登録商標)TM3000)により繊維観察を行った際の各繊維の直径の平均値を求める。典型的には5本の繊維を抜き出して各繊維の直径の平均値を求める操作を全部で5回行い、5回の平均値を合成繊維の平均繊維径とする。
【0031】
合成繊維の繊維径の最小値(最小径)と最大値(最大径)の差(繊維径のばらつき)が小さい場合、即ち、不織布を構成する合成繊維の繊維径が均一であると、水処理施設で流出する典型的な上述の流出物質を効率良く吸着させることができない場合がある。
【0032】
水処理施設で流出する典型的な流出物質をより効率良く吸着させるためには、合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差が0.8倍以上1.2倍未満よりも、1.2倍以上とすることが好ましく、2.0倍以上とすることがより好ましい。合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差は、上述の合成繊維の平均繊維径の評価に用いた5本の繊維のうち、最小径となる合成繊維と最大径となる合成繊維との差を求める。典型的には5本の繊維を抜き出して繊維径の最大径と最小径との差を求める操作を全部で5回行い、5回の平均値を合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差とする。
【0033】
本発明の実施の形態に係る吸着マットの厚みは、強度と水処理施設で流出する典型的な10種類の流出物質を安全に効率良く吸着させる観点から0.5mm以上であることが好ましく、0.5~10.0mmがより好ましく、0.8~8.0mmが更に好ましく、1.0~5.0mmがより更に好ましい。
【0034】
吸着マットの目付が重すぎると、水処理施設の流出物質を吸着した吸着マットが重くなりすぎて吸着マットの破損が生じる場合があり、目付が軽すぎると水処理施設の流出物質の吸着性が十分に得られない場合がある。吸着マットの目付は、一実施態様では30~900g/m2であることが好ましく、50~600g/m2であることがより好ましい。この際、吸着マットの密度は0.5~1.5g/cm3であることが好ましく、0.7~1.2g/cm3であることがより好ましい。密度は、JIS R 7603:1999のD法(比重瓶法)に準拠して測定する。
【0035】
本発明の実施の形態に係る吸着マットは一実施形態において、水の吸着量が5.0g/g以上、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が7.0g/g以上、硫酸アルミニウムの吸着量が8.0g/g以上、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が10.0g/g以上、高分子凝集剤の吸着量が7.0g/g以上、硫酸の吸着量が9.5g/g以上、水酸化ナトリウムの吸着量が6.0g/g以上、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が5.5g/g以上、重油の吸着量が3.5g/g以上、汚泥の吸着量が6.0g/g以上である。
【0036】
このような吸着マットは、典型的には、水の吸着量が5.0~12.5g/g、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が7.0~14.0g/g、硫酸アルミニウムの吸着量が8.0~15.5g/g、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が10.0~17.0g/g、高分子凝集剤の吸着量が7.0~14.5g/g、硫酸の吸着量が9.5~17.0g/g、水酸化ナトリウムの吸着量が6.0~14.5g/g、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が5.5~13.5g/g、重油の吸着量が3.5~10.5g/g、汚泥の吸着量が6.0~12.5g/gである。
【0037】
更なる一実施形態においては、吸着マットの水の吸着量が9.5g/g以上、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が11.0g/g以上、硫酸アルミニウムの吸着量が12.5g/g以上、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が14.0g/g以上、高分子凝集剤の吸着量が11.5g/g以上、硫酸の吸着量が14.0g/g以上、水酸化ナトリウムの吸着量が11.5g/g以上、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が10.5g/g以上、重油の吸着量が7.5g/g以上、汚泥の吸着量が9.5g/g以上であることがより好ましい。
【0038】
このような吸着マットは、より典型的には、水の吸着量が9.5~12.5g/g、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が11.0~14.0g/g、硫酸アルミニウムの吸着量が12.5~15.5g/g、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が14.0~17.0g/g、高分子凝集剤の吸着量が11.5~14.5g/g、硫酸の吸着量が14.0~17.0g/g、水酸化ナトリウムの吸着量が11.5~14.5g/g、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が10.5~13.5g/g、重油の吸着量が7.5~10.5g/g、汚泥の吸着量が9.5~12.5g/gである。
【0039】
このような吸着マットを水処理施設内の適切な箇所に置いておき、流出物質が発生した際に、この吸着マットで流出物質を吸収させて拭き取ることで、水処理施設の流出物質を効率良く除去できる。
【0040】
本実施形態において、吸着量は、常温下(20℃)において測定対象とする物質と吸着マットとを接触させ、測定対象とする物質を吸着マットに5分間吸着させた後に5分間金網上に載置した後の吸着マットの重さと、吸着処理前の吸着マットの重さとの関係から測定する。
【0041】
吸着量の測定は吸着対象物によって最大で±3.0g/g程度の誤差が生じることもある。しかしながら測定誤差を考慮したとしても、水の吸着量が6.5~12.5g/g、ポリ塩化アルミニウムの吸着量が8.0~14.0g/g、硫酸アルミニウムの吸着量が8.0~15.5g/g、ポリ硫酸第二鉄の吸着量が10.0~17.0g/g以上、高分子凝集剤の吸着量が8.5~14.5g/g、硫酸の吸着量が11.0~17.0g/g、水酸化ナトリウムの吸着量が6.0~14.5g/g、次亜塩素酸ナトリウムの吸着量が5.5~13.5g/g、重油の吸着量が3.5~10.5g/g、汚泥の吸着量が6.0~12.5g/gの吸着マットを用いることが好ましい。
【0042】
水の吸着量は、より典型的には6.6~12.4g/gであり、より更に典型的には6.7~12.3g/gである。ポリ塩化アルミニウムの吸着量は、より典型的には8.1~13.9g/gであり、より更に典型的には8.2~13.8g/gである。硫酸アルミニウムの吸着量は、より典型的には9.6~15.4g/gであり、より更に典型的には9.7~15.3g/gである。ポリ硫酸第二鉄の吸着量は、より典型的には11.1~16.9g/gであり、より更に典型的には11.2~16.8g/gである。高分子凝集剤の吸着量は、より典型的には8.6~14.4g/gであり、より更に典型的には8.7~14.3g/gである。硫酸の吸着量は、より典型的には11.1~16.9g/gであり、より更に典型的には11.2~16.8g/gである。水酸化ナトリウムの吸着量は、より典型的には8.6~14.4g/gであり、より更に典型的には8.7~14.3g/gである。次亜塩素酸ナトリウムの吸着量は、より典型的には7.6~13.4g/gであり、より更に典型的には7.7~13.3g/gである。重油の吸着量は、より典型的には4.6~10.4g/gであり、より更に典型的には4.7~10.3g/gである。汚泥の吸着量は、より典型的には6.6~12.4g/gであり、より更に典型的には6.7~12.3g/gである。
【0043】
本発明の実施の形態によれば、例えば、不織布層を構成する合成繊維がポリプロピレン製で、平均繊維径が0.5~50μmで、繊維径のばらつきが2.0倍以上であり、吸着マット1gあたり、水を9.55g、PACを11.40g、硫酸バンドを12.77g、ポリ鉄を14.07g、高分子凝集剤を11.99g、硫酸を14.36g、水酸化ナトリウムを11.83g、次亜塩素酸ナトリウムを10.69g、重油を7.85g、汚泥を9.66g吸着させる吸着マットを用いることにより、水処理施設で流出する種々の物質を、1枚の吸着マットで速やかに吸着させて除去することができる。これにより、物質漏洩によって緊急トラブルが生じた場合においても、流出物質に適した吸着マットを探し回る必要がない。その結果、水処理施設で流出する多種類の物質を1枚の吸着マットで容易且つ効率良く吸着させて除去することが可能となる。
【0044】
水処理施設で流出する物質を吸着マットに吸着させて除去する方法としては、例えば床に流出物質をこぼした際には、本発明の実施の形態に係る吸着マットを覆い被せて吸着させる方法がある。流出物質上に吸着マットを覆い被せた後に、更に吸着マットで拭き取る方法もある。更には、流出物質上に吸着マットを覆い被せた後に、吸着マットの上を一時的に歩行する方法、床に多量にこぼした際には吸着マットを重ねて、あるいは丸めて防液堤として使用する方法、ドレン配管への流出を防ぐために吸着マットを丸めて配管に詰める方法などがある。更には、化学物質の容器から液だれした状態を拭き取る方法、ドラム缶などの薬品容器の下敷きとして使用する方法、ドアや窓の隙間に入り込む雨水の浸水を防ぐ方法などにも適宜使用可能である。流出物質の濃度が高濃度であり、吸着作業に危険を要する場合には、流出物質を水等の溶媒で希釈し、無害な状態にしてから吸着させてもよい。また、重油吸着の場合に油脂分散剤で希釈、ポリマ吸着の場合に粘度低減剤で希釈、酸・アルカリ吸着の場合に中和剤で希釈など、流出物質を化学物質等の溶媒で希釈し、無害な状態にしてから吸着させてもよい。
【0045】
(製品)
吸着マット製品の形状は特に限定されない。例えば、吸着マット製品としては、所定の大きさ(例えば40cm×50cm程度)の矩形状に成形した本発明の実施の形態に係る吸着マットを複数枚収納袋又は収納箱に梱包したものであってもよい。或いは、吸着マット製品としては、所定の長さごとにミシン目で切り取りできるように加工された帯状の吸着マットをロール状に巻回し、この巻回物を収納箱の中に収容し、収納箱の取出し口から吸着マットを所望の長さだけ引き出して利用できるようなものであってもよい。或いは、本発明の実施の形態に係る吸着マット製品はチューブ状に加工されたものであってもよい。
【0046】
例えば、本実施形態に係る吸着マットを矩形状に成形して得られる水処理施設用吸着マット1として、
図1に示すように、不織布層11と、不織布層11の一方又は両方の表面上に積層された表面層10とを備え、不織布層11と表面層10とを固定する固定部12を備える水処理施設用吸着マット1が好適である。不織布層11は平均繊維径が0.5~200μmのポリプロピレン又はポリエチレンテレフタラート製の合成繊維で形成され、合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差が1.2倍以上であることが好ましい。表面層10は、不織布層11と同一材料又は異なる材料で構成されてもよいが、不織布層11を適切に保護しつつ強度を向上させるために、不織布層よりも硬く形成されていることが好ましい。
【0047】
本発明は上記の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。本開示は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を相互に組み合わせ、変形して具体化できる。
【実施例0048】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0049】
(実施例1)
吸着マットの主成分となる不織布層の素材について検討を行った。吸着対象となる水処理施設の流出物質は、水処理施設の現場で一般的に用いられる濃度の製品を使用した。具体的には、PACは酸化アルミニウム濃度が10~11wt%、硫酸バンドは酸化アルミニウム濃度が8.0~8.2wt%、ポリ硫酸第二鉄は全鉄濃度が11wt%以上、高分子凝集剤は有機系合成高分子凝集剤の液体品原液、硫酸は60wt%、水酸化ナトリウムは20wt%、次亜塩素酸ナトリウムは有効塩素12%、重油はA重油の原液を使用した。汚泥は食品工場の曝気槽汚泥を使用した。水は純水で実施した。
【0050】
不織布層が天然繊維(綿)、ポリエチレンテレフタラート、ポリプロピレンで形成された3種類の吸着マットを用意した。いずれの素材も平均繊維径が0.5~50μmの間であり、繊維径の最小値(最小径)と最大値(最大径)の差が2.0倍以上であった。5cm×5cmに裁断した吸着マットの重量(吸着前重量)を測定し、室温(20℃)で所定の化学物質に浸漬して5分間静置した後(吸着させた後)、メッシュ状の織金網の上に吸着マットを5分間放置して水切りし、吸着マットの重量(吸着後重量)を測定した。物質吸着前後の重量を元に、吸着マット1g当たりの各物質の吸着量を算出し、評価した。結果を表1に示す。
【0051】
【0052】
表1より、天然繊維の綿と比較すると合成繊維の方が単位重量あたりの吸着量が多く、更に、合成繊維の中でもポリエチレンテレフタラートよりもポリプロピレンの方が、各物質の吸着量がいずれも多いことが分かる。
【0053】
(実施例2)
吸着マットの平均繊維径について検討を行った。ポリプロピレンを主成分とした吸着マットの不織布層から繊維を取り出し、卓上走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、Miniscope(登録商標)TM3000)により繊維観察を行い、繊維5本の平均繊維径(直径)を算出した。繊維径の平均が0.5~50μm、50~200μm、200~1,000μmの吸着マットに対し、実施例1と同様に吸着試験を実施した。なお、いずれの素材も繊維径の最小値(最小径)と最大値(最大径)の差が2.0倍以上であった。試験結果を表2に示す。
【0054】
【0055】
表2より、平均繊維径が200~1,000μmの吸着マットよりも、平均繊維径が50~200μmの方が吸着性能が高く、更に0.5~50μmの方がより吸着性能が高いことが分かった。表2より、平均繊維径が小さく細い繊維を使用した方が、毛細管現象などにより、化学物質に対して高い吸着性能を発揮できると考えられる。
【0056】
(実施例3)
吸着マットの繊維径のばらつきについて検討を行った。繊維径の平均が20μm前後の吸着マットを用意し、平均繊維径の評価に用いた5本のうち最小径と最大径の差が0.8倍以上1.2倍未満、1.2倍以上2.0倍未満、2.0倍以上の3種類の吸着マットを用意した。例えば、吸着マットから抜き出した繊維の最小径19μm最大径21μmであれば最小径と最大径の差が約1.1倍となるため0.8倍以上1.2倍未満の範囲となり、最小径15μm最大径25μmであれば最小径と最大径の差が約1.7倍となるため1.2倍以上2.0倍未満の範囲となり、最小径14μm最大径30μmであれば最小径と最大径の差が約2.1倍となるため2.0倍以上となる。結果を表3に示す。
【0057】
【0058】
表3より、合成繊維の最小径と最大径の差が0.8倍以上1.2倍未満よりも1.2倍以上2.0倍未満の方が吸着性能が高く、更に2.0倍以上の方が吸着性能が高かった。このことより、均一な繊維径を有する繊維よりも、繊維径のばらつきの大きな繊維の方が水処理現場の流出物質の吸着に適していると考えられる。
【0059】
図1は不織布層11、表面層10、固定部12を備える吸着マット1の概念図である。
図2は合成繊維の繊維径の最小径と最大径の差が0.8倍以上1.2倍未満の吸着マット1の不織布層11の写真の例を示す。
図3は、繊維径の最小径と最大径の差が2.0倍以上の吸着マット1の不織布層11の写真の例を示す。
図2及び
図3の写真はいずれも卓上走査電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、Miniscope(登録商標)TM3000)による不織布層11の繊維観察の結果である(倍率200倍)。不織布層11を構成する繊維の吸着原理は、単純な毛細管現象の他に、繊維間の空隙の存在や吸着物質の蒸散なども関与しているため、繊維径のばらつきが吸着除去性能向上の要因に影響を与えた可能性が推測される。