(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025226
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】集積化流体デバイス、及び集積化流体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129816
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳川 善光
(72)【発明者】
【氏名】清水 沙彩
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA15
(57)【要約】
【課題】安価であり、且つ迅速なサーマルサイクルを実現することが可能な集積化流体デバイスを提供する。
【解決手段】集積化流体デバイス116は、基板108と、基板108の表面に所定間隔を隔てて設けられるヒータ配線101及びヒータ配線102と、基板108に設けられ、ヒータ配線101及びヒータ配線102に電流を入出力する端子106及び端子107と、ヒータ配線101及びヒータ配線102の上面に配置される蓋100と、少なくともヒータ配線101、ヒータ配線102、及び蓋100により形成され、溶液を収容し、ヒータ配線101及びヒータ配線102の発熱により溶液中の遺伝子を増幅する溶液槽105と、溶液槽105の上流に接続される前処理部111と、溶液槽105の下流に接続される遺伝子検出部112と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に所定間隔を隔てて設けられる第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線と、
前記基板に設けられ、前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線に電流を入出力する端子と、
前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線の上面に配置される蓋と、
少なくとも前記第一のヒータ配線、前記第二のヒータ配線、及び前記蓋により形成され、溶液を収容し、前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線の発熱により前記溶液中の遺伝子を増幅する溶液槽と、
前記溶液槽の上流に接続される前処理部と、
前記溶液槽の下流に接続される遺伝子検出部と、を備える
ことを特徴とする集積化流体デバイス。
【請求項2】
前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線の厚さが18μm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項3】
前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線の厚さは、前記所定間隔よりも大きい
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項4】
前記第一のヒータ配線又は前記第二のヒータ配線の配線幅又は配線厚さは、前記第一のヒータ配線又は前記第二のヒータ配線の長手方向の中心に向かって大きくなる
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項5】
前記蓋、前記基板、前記第一のヒータ配線、及び前記第二のヒータ配線に、核酸吸着防止コーティングがなされる
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項6】
前記基板又は前記蓋に前記溶液槽内の前記溶液の温度を測定するための計測孔が形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項7】
前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線に接続され、前記溶液槽の下部に設けられる放熱用の1又は複数の放熱用配線をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項8】
前記基板の前記溶液槽の下部にスリットが形成され、
前記スリットを封止するテープをさらに備え、
前記溶液槽は、前記第一のヒータ配線、前記第二のヒータ配線、前記蓋、及び前記テープにより形成される
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項9】
前記第一のヒータ配線又は前記第二のヒータ配線の両端の電圧値を計測するための電圧計測用端子をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項10】
前記溶液槽の下部に設けられる温度計測用の温度計測用配線と、
前記温度計測用配線に電流を入力するための電流入力端子と、
前記温度計測用配線の両端の電圧を計測するための電圧計測用端子と、をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の集積化流体デバイス。
【請求項11】
板材の裏面に、溶液の前処理を行う前処理部を形成する第一の凹部、前記溶液中の遺伝子を増幅する遺伝子増幅部を形成する第二の凹部、及び前記溶液中の増幅された遺伝子を検出する遺伝子検出部を形成する第三の凹部、を形成すること、
前記第二の凹部に収容されるように基板の表面に所定間隔を隔てて第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線を形成し、前記基板に前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線に電流を入出力する端子を形成すること、及び
前記第一の凹部、前記第二の凹部、及び前記第三の凹部が形成された前記板材の裏面と、前記第一のヒータ配線、前記第二のヒータ配線、及び前記端子が形成された前記基板の表面と、を接合すること、を有する
ことを特徴とする集積化流体デバイスの製造方法。
【請求項12】
前記基板の表面に前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線を形成することは、厚さが18μm以上の前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線を形成することであって、
前記板材の裏面に前記第二の凹部を形成することは、前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線の厚さに対応する深さの前記第二の凹部を形成することである
ことを特徴とする請求項11に記載の集積化流体デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記基板の表面に前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線を形成することは、前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線の厚さが前記所定間隔よりも大きくなるように前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線を形成すること、を含む
ことを特徴とする請求項11に記載の集積化流体デバイスの製造方法。
【請求項14】
前記基板の表面に前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線を形成することは、前記第一のヒータ配線又は前記第二のヒータ配線の配線幅又は配線厚さが、前記第一のヒータ配線又は前記第二のヒータ配線の長手方向の中心に向かって大きくなるように、前記第一のヒータ配線及び前記第二のヒータ配線を形成すること、を含む
ことを特徴とする請求項11に記載の集積化流体デバイスの製造方法。
【請求項15】
前記板材の裏面、前記基板の表面、前記第一のヒータ配線、及び前記第二のヒータ配線に、核酸吸着防止コーティングを施すこと、をさらに有する
ことを特徴とする請求項11に記載の集積化流体デバイスの製造方法。
【請求項16】
請求項1~10の何れか1項に記載の集積化流体デバイスと、
前記集積化流体デバイス内の溶液の搬送を行うポンプと、
前記溶液槽内の溶液の温度を計測する温度センサと、
前記遺伝子検出部内の遺伝子を検出する遺伝子検出センサと、
前記集積化流体デバイスに電流を供給する電源と、
前記温度センサからの情報に基づき予め決められた手順で前記電源および前記ポンプの出力を制御するとともに、前記遺伝子検出センサの結果を外部に出力するコントローラと、を備える
ことを特徴とする遺伝子検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子を増幅する集積化流体デバイス、及び集積化流体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症検査では、適切な治療の開始を早めるとともに、二次感染を防ぐため迅速な病原体検出が求められる。特に、敗血症に代表される血流感染症は、わずかな菌が血流に存在するだけで、しばしばショック症状を呈し、抗菌薬による治療が遅れると生存率が急速に低下する。血流感染症の原因となる菌は多岐に渡り、それぞれ効果のある抗菌薬が異なるため、複数の菌を同時に検査し、迅速に適切な抗菌薬を投与することが重要である。PCR(Polymerase Chain Reaction)法に基づく遺伝子検査は、従来の微生物培養に基づく検査と比べ迅速性に優れ、近年盛んに研究がなされている。
【0003】
血流感染症の原因菌の血中濃度は、一般的に低く、少ないケースでは1CFU(Colony forming unit)/mL程度であると言われている。一方、患者の負担を考えると大量の採血は避ける必要があり、数mLから数10mLが限界である。すなわち、検査に供せる菌数は、せいぜい数菌から数10菌程度になる。16sリボソームRNA遺伝子領域を検出する場合、黄色ブドウ球菌では1菌あたり6コピーの遺伝子が存在することから、抽出できるDNAの総数は、数コピーから数10コピーである。このままでは濃度が薄く検出が困難であるため、これをPCR反応で増幅することで高感度に対象菌種を検出する。したがって、菌から抽出したDNAをどれだけロスなくPCR反応に用いることができるかが需要である。
【0004】
通常のPCRは、反応溶液を入れたマイクロチューブをヒートブロックにセットし、ヒートブロックの温度を変化させて、DNAの変性、アニーリング、伸長のステップ(サーマルサイクル)を繰り返すことで目的のDNAを増幅する。一般にヒートブロックの熱容量がマイクロチューブや反応溶液の熱容量よりも大きいことから、溶液の加熱冷却ではなくヒートブロックの加熱冷却時間が、反応を律速し、通常1時間程度の反応時間を要する。
【0005】
近年、DNA抽出、核酸増幅、及び遺伝子検出といった化学反応を集積化流体デバイス上で行う技術が発展している。抽出したDNAを直接PCR反応へと移せるため、少量のDNAのロスをなるべく抑制しながら増幅が可能という特徴がある。また、閉鎖的な空間で反応が完結するためコンタミネーションによる擬陽性(患者検体中の菌のDNA以外の、外来DNAが増えてしまい、誤検出となる)リスクが低減される。さらに、集積化流体デバイスは、多くの場合大量生産可能であるため、安価な検査が実現できる点が利点である。
【0006】
非特許文献1には、血液中の菌からDNAを抽出し、PCRによりDNAを増幅し、ハイブリダイゼーションによりDNAの有無を検出する集積化流体デバイスが開示されている。PCRは、樹脂チップ上に設けられた溶液槽の温度を、集積化流体デバイスとは別のペルチェ素子により変化させて実現される。また、プリント基板上の抵抗配線に電流を流すことで、局所的に温度を上げて、近接した流路にあらかじめ設置されたパラフィンを溶解させて溶液を導通するバルブが使われている。こうした集積化流体デバイスは、大量生産に適したプリント基板と、樹脂チップからなる単純な構成であり、安価に菌の遺伝子を検出することが特徴である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Robin L.、et al.、Anal.Chem.2004、76、1824-1831
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1に開示される集積化流体デバイスでは、装置本体側に設置されたサーマルサイクル装置によってPCR溶液槽の温度制御が行われる。サーマルサイクル装置は、通常、金属製のヒートブロックと、ヒートブロックを加熱するヒータ、ヒートブロックを冷却するファンやペルチェ素子で構成される。また、冷却用のペルチェ素子で加熱も兼ねることも可能である。これらの構成要素は、それ自体が熱容量を持っており、例えばヒートブロックを加熱及び冷却するために時間がかかる。仮に、ヒートブロックを使用せず直接ペルチェ素子をPCR溶液槽に押し当てて温度制御する場合も、PCR溶液槽を形成する樹脂チップを介して溶液が加熱及び冷却されるため、ペルチェ素子の熱容量と樹脂チップ自体の熱容量によりサーマルサイクル時間が律速される問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、安価であり、且つ迅速なサーマルサイクルを実現することが可能な集積化流体デバイス、及びその集積化流体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の集積化流体デバイスは、基板と、基板の表面に所定間隔を隔てて設けられる第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線と、基板に設けられ、第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線に電流を入出力する端子と、第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線の上面に配置される蓋と、少なくとも第一のヒータ配線、第二のヒータ配線、及び蓋により形成され、溶液を収容し、第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線の発熱により溶液中の遺伝子を増幅する溶液槽と、溶液槽の上流に接続される前処理部と、溶液槽の下流に接続される遺伝子検出部と、を備える。
【0011】
本発明の集積化流体デバイスの製造方法は、板材の裏面に、溶液の前処理を行う前処理部を形成する第一の凹部、溶液中の遺伝子を増幅する遺伝子増幅部を形成する第二の凹部、及び溶液中の増幅された遺伝子を検出する遺伝子検出部を形成する第三の凹部、を形成すること、第二の凹部に収容されるように基板の表面に所定間隔を隔てて第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線を形成し、基板に第一のヒータ配線及び第二のヒータ配線に電流を入出力する端子を形成すること、及び第一の凹部、第二の凹部、及び第三の凹部が形成された板材の裏面と、第一のヒータ配線、第二のヒータ配線、及び端子が形成された基板の表面と、を接合すること、を有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安価であり、且つ迅速なサーマルサイクルを実現することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施の形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】実施例1の第1変形例の集積化流体デバイスの構成図
【
図5】実施例1の第2変形例の集積化流体デバイスの構成図
【
図7】実施例1の第3変形例の集積化流体デバイスの構成図
【
図9】実施例1の第4変形例の集積化流体デバイスの断面図
【
図11】実施例1の第5変形例の集積化流体デバイスの構成図
【
図12】実施例1の第6変形例の集積化流体デバイスの構成図
【
図14】実施例3の集積化流体デバイスの製造方法を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の実施の形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合及び原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0015】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0016】
<実施例1>
以下、実施例1の集積化流体デバイス(遺伝子検出デバイス)について説明する。実施例1の集積化流体デバイス116は、生体試料(溶液)の前処理を行う前処理部111と、生体試料中の遺伝子の増幅を行う遺伝子増幅部105と、遺伝子の検出を行う遺伝子検出部112と、を備える。遺伝子増幅部105の上流に前処理部111が接続され、遺伝子増幅部105の下流に遺伝子検出部112が接続される。また、集積化流体デバイス116は、前処理部111に生体試料を導入する溶液導入孔113、及び遺伝子検出部112から検出済みの生体試料を排出する溶液排出孔114を備える。生体試料は、溶液導入孔113から前処理部111に導入され、前処理部111にて生体試料に対して前処理が施される。前処理後の生体試料は、遺伝子増幅部105に搬送され、遺伝子増幅部105にてサーマルサイクルが実施され、生体試料中の遺伝子が増幅される。サーマルサイクルが実施された生体試料は、遺伝子検出部112に搬送され、遺伝子検出部112にて遺伝子検出が実施される。そして、検出済みの生体試料は、遺伝子検出部112から溶液排出孔114を介して外部に排出される。
【0017】
図1は、実施例1の集積化流体デバイス116の平面図であり、
図2は、
図1のA-A´線に沿った断面図である。集積化流体デバイス116は、蓋100と、蓋100に接合される基板108とを備える。また、集積化流体デバイス116は、基板108の表面に形成されるヒータ配線101(第一のヒータ配線)、ヒータ配線102(第二のヒータ配線)、端子106、及び端子107を備える。
【0018】
ヒータ配線101とヒータ配線102とは、基板108の表面に、ヒータ配線101及びヒータ配線102の長手方向(図中のX方向)に直交する方向(図中のY方向)に所定間隔を隔てて形成される。
【0019】
端子106及び端子107は、基板108の蓋100が接合されていない領域に設けられ、外部電源(たとえば定電流電源)を接続できるように露出されている。端子106及び端子107は、基板108の表面(ヒータ配線101とヒータ配線102と同じ面)に設けてもよいし、基板108の裏面に設けてもよい。かかる構成によれば、カードエッジコネクタなどの安価なプリント基板用コネクタを用いて容易に端子106および端子107を外部電源に接続できる。また、遺伝子検出後は使用済みの集積化流体デバイスを外し、新たな集積化流体デバイスに容易に差し替えることが可能となる。
【0020】
また、集積化流体デバイス116は、基板108の内層に設けられる接続配線103及び接続配線104を備える。接続配線103は、ヒータ配線101と、ヒータ配線102と、端子106とを電気的に接続する。また、接続配線104は、ヒータ配線101と、ヒータ配線102と、端子107とを電気的に接続する。
【0021】
また、集積化流体デバイス116は、基板108の表面に形成されるヒータ配線101、ヒータ配線102、端子106及び端子107と、内層の接続配線103及び接続配線104と、を電気的に接続するビア115を備える。
【0022】
上記したように、実施例1の集積化流体デバイス116は、前処理部111と、遺伝子増幅部105と、遺伝子検出部112と、を備える。遺伝子増幅部105は、基板108と、基板108の表面に設けられるヒータ配線101及びヒータ配線102と、ヒータ配線101及びヒータ配線102の上面に配置される蓋100との間に形成された空間であって、生体試料を収容することが可能な溶液槽である。以下、遺伝子増幅部105を、適宜、溶液槽105と呼ぶ。
【0023】
蓋100には、流路109及び流路110が形成されている。流路109は、前処理部111と溶液槽105とを接続し、流路110は、溶液槽105と遺伝子検出部112とを接続する。
【0024】
蓋100の材質は、温度変化及び圧力変化に安定で、化学反応に用いられる溶液に対して侵されにくく、成型性が良い材質から形成されることが好ましい。このような材質としては、たとえばシクロオレフィンポリマ(COP)、ポリカーボネート(PC)、アクリル樹脂(PMMA)が好適である。
【0025】
基板108は、温度変化及び圧力変化に安定で、化学反応に用いられる溶液に対して侵されにくく、かつ、絶縁性を有する材料が好ましく、たとえば、ガラスエポキシ(FR-4)やセラミックなどが好適である。
【0026】
ヒータ配線101、ヒータ配線102、接続配線103、接続配線104、端子106、及び端子107の材料は、導電性を有し、低コストで配線可能な銅が好適であり、銅であれば一般的なプリント基板の配線プロセスにより安価に形成可能である。
【0027】
溶液槽105は、蓋100と、基板108と、ヒータ配線101と、ヒータ配線102との間に形成されるため、溶液槽105の深さ(基板108の表面に垂直な方向の溶液槽105の高さ)は、おおむね銅配線であるヒータ配線101及びヒータ配線102の厚さにより決定される。銅配線(ヒータ配線101及びヒータ配線102)の厚さは、一般的な厚さの18μmや35μmであってもよいし、より多くの電流を流すために70μm~1000μmを超えてもよい。すなわち、ヒータ配線101及びヒータ配線102の厚さは、18μm以上である。
【0028】
ヒータ配線101及びヒータ配線102は、溶液に触れるため、表面を化学的に安定な樹脂薄膜で被覆されている。なお、当該樹脂薄膜は、図示を省略している。樹脂薄膜の材料は、熱に強く、化学的に安定であることが望ましく、たとえばプリント基板のレジストに使われる材料が好適である。
【0029】
接続配線103及び接続配線104は、プリント基板の内層配線プロセスにより形成される。なお、接続配線103及び接続配線104は、プリント基板の下面に設けてもよい。端子106及び端子107は、それぞれビア115によりプリント基板の内層の接続配線103及び接続配線104に電気的に接続される。また、ヒータ配線101及びヒータ配線102のそれぞれは、ビア115によりプリント基板の内層の接続配線103及び接続配線104に電気的に接続される。
【0030】
実施例1の集積化流体デバイス116が対象とする検体は、例えば血流感染症患者の血液である。あらかじめ、溶血試薬により赤血球を破壊したのち、遠心分離により菌を濃縮・精製しておく。菌の濃縮液を溶液導入孔113から導入すると、前処理部111で、菌の破壊が行われ、菌のDNAが抽出される。菌のDNAの抽出は、一般的な界面活性剤やアルカリ試薬などの化学的手段、加熱による熱的な手段、又は微小な刃物や超音波によるキャビテーションによる物理的な手段で細胞壁を破壊することで実現される。菌から抽出されたDNAは、PCRに必要な試薬、具体的にはPCRバッファ、ポリメラーゼ、基質、プライマーなどと混合される。以下、この混合液をPCR溶液と称する。PCR溶液の一般的な液量は、50μLであるが、より少ない液量(例えば1μL)やより多い液量500μLでも増幅可能である。迅速なPCR増幅を実現する場合、PCR溶液の温度を迅速に変更し、サーマルサイクルに必要な時間を低減する必要がある。したがって、PCR溶液の液量は、少ない方が望ましく、例えば1μLから25μL程度が好適である。PCR溶液の液量は、抽出したDNAに混合するPCRバッファ、ポリメラーゼ、基質、プライマーの濃度を適宜選択することにより、適切に設定することが可能である。また、バッファの成分である塩、ポリメラーゼ、基質、又はプライマーを凍結乾燥させて流路上に配置しておくことで、液量の増加を最小限に抑制することが可能である。
【0031】
溶液槽105へとPCR溶液が搬送されると、遺伝子検出装置(
図13参照)により端子106に電流が印加され、ヒータ配線101及びヒータ配線102がジュール発熱し、ヒータ配線101とヒータ配線102との間に存在するPCR溶液が所定のディネーチャー温度、たとえば98℃に加熱される。溶液槽105は、ヒータ配線101、ヒータ配線102、蓋100、及び基板108から形成され、溶液槽105へと搬送されたPCR溶液は、レジストを介してヒータ配線101及びヒータ配線102と接する。かかる構成により、ヒータ配線101及びヒータ配線102と加熱対象のPCR溶液とがレジストを介して接することから、ヒータ配線101及びヒータ配線102により迅速にPCR溶液を加熱することが可能である。その結果、より迅速に病原菌に応じた適切な抗菌薬の投与が可能となる。遺伝子検出装置は、PCR溶液の温度を監視しており、所定のディネーチャー温度に到達したら電流を停止する。PCR溶液は、基板108や蓋100への熱伝導により冷却され、所定のアニーリング温度、例えば65℃へと冷却される。温度が65℃に達した段階で、ヒータ配線101およびヒータ配線102に微弱な電流を流し、それ以上温度が低下しないように一定時間維持される。これにより、プライマーの非特異結合を抑制し、ターゲット以外のDNAの増幅を抑制することが可能である。再びディネーチャー温度、例えば98℃へと加熱される。DNAの伸長反応は65℃に保持されている間に開始され、98℃へ加熱する途中段階で行われる。98℃と65℃の2つの温度帯においてサーマルサイクルを行うことで、古典的なPCRで行われるディネーチャー温度(例えば98℃)、アニーリング温度(例えば65℃)、伸長温度(例えば72℃)の3温度帯で変化させるPCR反応よりも高速に遺伝子を増幅することが可能となる。ただし、本明細書で開示される集積化流体デバイスは2温度帯でのサーマルサイクルに特化したものではなく、3温度帯でのサーマルサイクルを実施することも可能である。以上のプロセスを繰り返すことでPCR溶液のサーマルサイクルが実施され、PCR反応が進む。PCR溶液の温度は、外部から赤外線によりモニタしてもよいし、ヒータ配線101又はヒータ配線102の抵抗値または電圧値を計測することでモニタできる。PCR溶液の温度を赤外線でモニタする場合は、基板108又は蓋100にPCR溶液が通らない程度の微小な計測孔をあけておき、当該計測孔を通してPCR溶液から発せられる赤外線を計測してもよい。かかる構成によれば、蓋の上から観察するよりもより正確にPCR溶液の温度を計測することが可能になる。
【0032】
血流感染症患者の血液に含まれる菌の数は、少ないケースで血液1mLあたり1菌程度である。この場合、10mLの患者血液から抽出される菌の遺伝子は、最小で10コピーである。10コピーの遺伝子を正しく迅速にPCRで増幅するためには、溶液導入孔113から溶液槽105に至る流路において、可能な限り表面吸着を抑制することが望ましい。吸着によりDNAが容易に失われ、溶液槽105でのPCR反応の効率が低下するためである。そこで、蓋100、基板108、ヒータ配線101、及びヒータ配線102の少なくとも1つに、核酸吸着防止コーティングがなされる。表面吸着を防ぐ手段としては、増幅対象の菌のDNAとは異なる配列を有するDNAやRNA(ブロッキングDNAやブロッキングRNA)をあらかじめ前処理部111や流路109、溶液層105、流路110、遺伝子検出部112に流し、基板108、蓋100、ヒータ配線101、又はヒータ配線102などの表面にブロッキングDNAを吸着させて、ターゲットとなる菌のDNAの吸着を防ぐ方法がある。
【0033】
PCR反応後のPCR溶液は、遺伝子検出装置のポンプによって遺伝子検出部112へと搬送される。遺伝子検出部112は、PCRの増幅産物を検出できれば手法は問わず、例えばマイクロアレイや核酸クロマトグラフィーによるハイブリダイゼーション反応を蛍光や呈色反応で検出することができる。
【0034】
また、実施例1では、サーマルサイクルを実施する溶液槽105をプリント基板である基板108で構成することができるので、安価に集積化流体デバイス116を得ることができる。
【0035】
<実施例1の第1変形例>
図3は、実施例1の第1変形例の集積化流体デバイス116の平面図である。
図1及び
図2の実施例1の集積化流体デバイス116と同様の構成については、適宜説明を省略する。実施例1の第1変形例では、ヒータ配線101及びヒータ配線102の配線幅が不均一になっている点が特徴である。ヒータ配線101及びヒータ配線102は、長手方向(図中のX方向)の中央部分が他の部分より配線幅が広くなっている。
【0036】
かかる構成によれば、ヒータ配線101及びヒータ配線102に低抵抗部301と高抵抗部302とが生じる。ヒータ配線101及びヒータ配線102に流れる電流(Iとする)は一定であることから、ヒータ配線101及びヒータ配線102で発生するジュールエネルギーP(P=I^2*配線抵抗R)が、ヒータ配線101及びヒータ配線102の長手方向の位置で変化する。すなわち、高抵抗部302では単位長さ当たりの発熱量が高く、低抵抗部301では単位長さ上がりの発熱量が低くなる。これにより、溶液槽105の中心部分だけが集中的に加熱されることを防ぎ、溶液槽105全域にわたってより均一に溶液を加熱でき、迅速かつ高効率なPCR反応を実現できる。その結果、より迅速に病原菌に応じた適切な抗菌薬の投与が可能となる。
【0037】
なお、ヒータ配線101及びヒータ配線102の配線幅は、長手方向(図中のX方向)の中央部分に向かってリニアに大きくしたが、当該配線幅は、長手方向(図中のX方向)の中央部分に向かってステップ状に大きくしてもよい。また、ヒータ配線101及びヒータ配線102の配線幅でなく、ヒータ配線101及びヒータ配線102の配線厚さを長手方向(図中のX方向)の中央部分に向かってリニア又はステップ状に大きくしてもよい。さらに、ヒータ配線101又はヒータ配線102の何れか一方のみの配線幅又は配線厚さを変更してもよい。
【0038】
図4は、
図3のB-B´線に沿った断面図である。ヒータ配線101及びヒータ配線102の厚さ、すなわち溶液槽105の深さaは、ヒータ配線101とヒータ配線102との間隔、すなわち溶液槽105の幅bよりも、大きいことが望ましい。かかる構成によれば、PCR溶液の体積に対してより多くの表面積をヒータ配線101及びヒータ配線102に接触させることが可能となり、より迅速にPCR溶液の加熱が可能となる。
【0039】
<実施例1の第2変形例>
図5は、実施例1の第2変形例の集積化流体デバイス116の平面図である。
図1及び
図2の実施例1の集積化流体デバイス116と同様の構成については、適宜説明を省略する。実施例1の第2変形例では、基板108の裏面に複数の裏面配線501(放熱用配線)が形成される。複数の裏面配線501は、ヒータ配線101及びヒータ配線102とビア115で電気的に接続される。
【0040】
かかる構成によれば、ヒータ配線101及びヒータ配線102と裏面配線501とが金属で熱的に結合される。すなわち、ヒータ配線101及びヒータ配線102と裏面配線501との間の熱抵抗を下げることが可能となる。
【0041】
図6は、
図5のA-A´線に沿った断面図である。PCR溶液を冷却する場合、遺伝子検出装置内の冷却機構、例えば冷却ファン502やペルチェ素子により、裏面配線501を冷却することで、ヒータ配線101及びヒータ配線102を、基板108への熱伝導で冷却する場合よりもより効果的に冷やすことが可能である。かかる構成によれば、より迅速にPCR溶液を冷却することが可能になり、サーマルサイクル時間を短縮し、より迅速なPCR反応を実現することが可能となる。
【0042】
<実施例1の第3変形例>
図7は、実施例1の第3変形例の集積化流体デバイス116の平面図であり、
図8は、
図7のA-A´線に沿った断面図である。
図1及び
図2の実施例1の集積化流体デバイス116と同様の構成については、適宜説明を省略する。実施例1の第3変形例では、蓋100の一部に溝701を形成し、溶液槽105に近接する蓋100の熱容量を下げ、溝701の表面から溶液槽105に至るまでの熱抵抗を下げる。そして、冷却ファン702により溝701に風を当てることで、溶液槽105の上面からの冷却効果を高める。かかる構成によれば、より迅速にPCR溶液を冷却することが可能になり、サーマルサイクル時間を短縮し、より迅速なPCR反応を実現することが可能となる。
【0043】
図7及び
図8では、第2変形例の
図5及び
図6と同様に裏面配線501及び冷却ファン502を設けたが、裏面配線501及び冷却ファン502は設けなくてもよい。
【0044】
<実施例1の第4変形例>
図9は、実施例1の第4変形例の集積化流体デバイス116の平面図であり、
図10は、
図9のA-A´線に沿った断面図である。
図1及び
図2の実施例1の集積化流体デバイス116と同様の構成については、適宜説明を省略する。実施例1の第4変形例では、基板108のヒータ配線101とヒータ配線102との間の部分に、スリット901を設ける。そして、スリット901の上面を薄いテープ902で封止する。テープの材料は、熱抵抗が低く、かつPCRのサーマルサイクルによる温度変化に耐えられる素材が望ましく、例えばポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)、シリコンゴム、環状オレフィンなどを利用可能である。
【0045】
図10の例では、遺伝子増幅部105は、蓋100と、テープ902と、ヒータ配線101と、ヒータ配線102との間に形成された空間である。
【0046】
かかる構成によれば、冷却ファン502からの風を、スリット901を介してテープ902に当てることにより、溶液槽105に含まれるPCR溶液をより迅速に冷却することが可能となる。
【0047】
<実施例1の第5変形例>
図11は、実施例1の第5変形例の集積化流体デバイス116である。
図1及び
図2の実施例1の集積化流体デバイス116と同様の構成については、適宜説明を省略する。実施例1の第5変形例では、ヒータ配線101及びヒータ配線102の両端電圧を測定するための端子1101(電圧計測用端子)及び端子1102(電圧計測用端子)、端子1101とヒータ配線101及びヒータ配線102とを接続する接続配線1103、及び端子1102とヒータ配線101及びヒータ配線102とを接続する接続配線1104が新たに設けられる。外部の電流源1105は、端子107から端子106に向かって電流を流して、ヒータ配線101及びヒータ配線102を加熱する。このとき、端子1101及び端子1102に接続された外部の電圧計1106によって、ヒータ配線101及びヒータ配線102の両端電圧が計測される。コントローラ1107は、加熱中に電流源1105で印可する電流値と電圧計1106の測定値とから、オームの法則および4端子法の原理によりヒータ配線101及びヒータ配線102の抵抗値を精密に算出することが可能である。一般的に、温度tにおけるヒータ配線の抵抗値Rtは次式で表すことができる。
Rt=R0*(1+α0*t)
【0048】
ここで、R0は、0℃におけるヒータ配線の抵抗値である。α0は、0℃におけるヒータ配線の温度係数であり、ヒータ配線101又はヒータ配線102の金属材料(例えば銅)に固有の値である。上記式より、R0の値とα0の値とをあらかじめ測定しておき、PCRを実行中の抵抗値Rtを計測することで、ヒータ配線101及びヒータ配線102の温度tを算出することができる。
【0049】
かかる構成によれば、集積化流体デバイス116に追加の温度計測手段を設けることなく、低コストで溶液の温度を推定することができる。なお、冷却中についても電流源1105から微弱な電流を流すことで上記と同様の手段で温度を計測することが可能である。
【0050】
<実施例1の第6変形例>
図12は、実施例1の第6変形例の集積化流体デバイス116である。
図1及び
図2の実施例1の集積化流体デバイス116と同様の構成については、適宜説明を省略する。実施例1の第6変形例では、溶液槽105の下部に温度計測用の配線1201(温度計測用配線)と、温度計測用の配線1201に電流を印可するための端子1205(電流入力端子)及び端子1206(電流入力端子)と、温度計測用の配線1201の両端の電圧を計測するための端子1207(電圧計測用端子)及び端子1208(電圧計測用端子)と、が新たに設けられる。PCR中は、温度計測用の配線1201に外部の電流源1202から電流を流し、外部の電圧計1203で温度計測用の配線1201の両端の電圧を計測する。コントローラ1204は、電流源1202で印可する電流値と電圧計1203の測定値とから、オームの法則及び4端子法の原理によりヒータ配線101及びヒータ配線102の抵抗値を精密に算出する。さらに、コントローラ1204は、上記式を用いて温度計測用の配線1201の温度を算出する。あらかじめ、溶液槽105内の溶液の温度と、その時の温度計測用の配線1201の抵抗値との関係を計測しておくことで、温度計測用の配線1201の抵抗値から間接的に溶液槽105中のPCR溶液の温度を推定することが可能となる。
【0051】
かかる構成によれば、プリント基板の製造工程において配線を追加するコストは無視できるレベルであるから、低コストで溶液の温度を推定することができる。
【0052】
<実施例2>
図13は、実施例2の遺伝子検出装置1300の構成を示す図である。実施例2の遺伝子検出装置1300は、上記した実施例1の集積化流体デバイス116を用いて、遺伝子の検出を行う。
図13では、遺伝子検出装置1300は、
図1に示した集積化流体デバイス116を用いる例を示すが、遺伝子検出装置1300は、実施例1の第1~第6変形例の集積化流体デバイス(
図3~
図12)を用いてもよい。
【0053】
遺伝子検出装置1300は、ポンプ1301と、温度センサ1302と、遺伝子検出センサ1303と、電源1304と、コントローラ1305と、を備える。ポンプ1301は、集積化流体デバイス116内の液体を搬送する。たとえば、ポンプ1301は、PCR反応後のPCR溶液を溶液槽105から遺伝子検出部112に搬送する。温度センサ1302は、例えば非接触型の赤外線センサであり、PCR溶液の温度を検出する。温度センサ1302が検出した信号は、コントローラ1305へ送られる。遺伝子検出センサ1303は、遺伝子検出部112内の遺伝子を検出するセンサであって、遺伝子検出部112での遺伝子検出反応を観察するために情報を取得する。遺伝子検出センサ1303が検出した信号は、コントローラ1305へ送られる。遺伝子検出センサ1303は、例えば蛍光検出センサ、または画像認識センサである。電源1304は、集積化流体デバイス116に電流を供給する定電流電源であり、端子106又は端子107に電流を入力する。
【0054】
コントローラ1305は、一般的なコンピュータシステムであり、プロセッサ1351と、主記憶部1352と、補助記憶部1353と、インターフェース1354と、を有する。プロセッサ1351は、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASICなどである。主記憶部1352は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)などであって、プロセッサ1351の作業領域として使用される。補助記憶部1353は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、又はそれらの組み合わせ等であって、各種プログラム及び各種データを記憶する。インターフェース1354は、コントローラ1305に接続される周辺機器(ポンプ1301、温度センサ1302、遺伝子検出センサ1303、及び電源1304)の動作を制御するデバイスコントローラなどである。
【0055】
コントローラ1305は、温度センサ1302が検出した信号に基づいて、予め決められた手順で電源1304及びポンプ1301の出力を制御する。例えば、コントローラ1305は、電源1304のオン又はオフ、電源1304から供給される電流量、もしくはオン期間のデューティを制御して、ヒータ配線101及びヒータ配線102の加熱を調整し、サーマルサイクルを実施する。また、コントローラ1305は、遺伝子検出センサ1303の結果を外部に出力する。
【0056】
なお、遺伝子検出装置1300は、
図11の電圧計1106や
図12の電圧計1203を備えてもよい。また、上記したコントローラ1107及びコントローラ1204は、コントローラ1305と同様の構成であってもよい。
【0057】
<実施例3>
図14は、実施例3の集積化流体デバイス116の製造方法を示すフローチャートである。
図15~
図17は、
図14のフローチャートの各工程の詳細を示した図である。
図15~
図17の図中の左側の図は、同図のA-A´線に沿った断面図である。集積化流体デバイス116の製造方法は、主に蓋100を形成すること(S1401)、基板108を形成すること(S1402)、及び蓋100と基板108とを接合すること(S1403)を有する。
【0058】
(蓋100の形成(S1401))
S1401の蓋100の形成は、透明の板材1500の裏面に、生体試料(溶液)の前処理を行う前処理部111を形成する第一の凹部1501、溶液中の遺伝子を増幅する遺伝子検出部112を形成する第二の凹部1502、及び溶液中の増幅された遺伝子を検出する遺伝子検出部112を形成する第三の凹部1503を形成すること、を含む。また、S1401の蓋100の形成は、透明の板材1500の裏面に、流路109を形成する第四の凹部1504、及び流路110を形成する第五の凹部1505を形成すること、を含む。さらに、S1401の蓋100の形成は、溶液導入孔113及び溶液排出孔114を形成することを含む。
【0059】
上記した透明の板材1500の裏面に第二の凹部1502を形成することは、ヒータ配線101及びヒータ配線102の厚さに対応する深さの第二の凹部1502を形成することである。つまり、ヒータ配線101及びヒータ配線102の厚さの設計値に従って、第二の凹部1502の深さが決定される。第二の凹部1502の幅(
図15中のW1)は、ヒータ配線101の幅(
図16中のW2)とヒータ配線102の幅(
図16中のW3)とを加えた値より大きい。そして、W1-(W2+W3)が遺伝子増幅部105(溶液槽105)の幅となる。
【0060】
S1401の蓋100の形成はさらに、試薬スポット1506、試薬スポット1507および、DNAの検出をマイクロアレイで実施する場合はDNAと結合するプローブの検出スポット1508の形成手順を含む。試薬スポット1506は、PCRに必要な試薬、具体的にはPCRバッファ、ポリメラーゼ、基質、プライマーなどを凍結乾燥させたものである。試薬スポット1507は、DNAの検出手法により必要に応じて形成されるものであり、マイクロアレイを使う場合は、マイクロアレイへのハイブリダイゼーション反応条件に必要な塩や界面活性剤などを含む試薬を凍結乾燥させておく。検出スポット1508は、検出対象の菌のDNAに特異的に結合するDNAプローブを蓋100に固定したものである。図中では2つのスポットの形成例を示したが、検出対象のDNAの数や、ポジティブコントロール、ネガティブコントロールの数に応じて適宜スポット数を増やしてもよい。
【0061】
(基板108の形成(S1402))
S1402の基板108の形成は、第二の凹部1502に収容されるように基板108の表面に所定間隔を隔ててヒータ配線101及びヒータ配線102を形成すること、基板108にヒータ配線101及びヒータ配線102に電流を入出力する端子106及び端子107を形成すること、を含む。ヒータ配線101及びヒータ配線102を形成することは、厚さが18μm以上のヒータ配線101及びヒータ配線102を形成すること、であってもよい。基板108の表面にヒータ配線101及びヒータ配線102を形成することは、ヒータ配線101及びヒータ配線102の厚さが所定間隔よりも大きくなるようにヒータ配線101及びヒータ配線102を形成すること、であってもよい。
【0062】
基板108の表面にヒータ配線101及びヒータ配線102を形成することは、ヒータ配線101又はヒータ配線102の配線幅又は配線厚さが、ヒータ配線101又はヒータ配線102の長手方向(X方向)の中心に向かって大きくなるように、ヒータ配線101及びヒータ配線102を形成すること、であってもよい。
【0063】
また、S1402の基板108の形成は、基板108の内層に接続配線103及び接続配線104を形成することを含む。基板108の内層に接続配線103及び接続配線104を形成することは、一般的なプリント基板の内層配線プロセスにより実現される。
【0064】
さらに、S1402の基板108の形成は、ヒータ配線101と接続配線103とを電気的に接続するビア115、ヒータ配線101と接続配線103とを電気的に接続するビア115、及び端子106と接続配線103とを電気的に接続するビア115を形成することを含む。また、S1402の基板108の形成は、ヒータ配線101と接続配線104とを電気的に接続するビア115、ヒータ配線101と接続配線104とを電気的に接続するビア115、及び端子106と接続配線104とを電気的に接続するビア115を形成することを含む。
【0065】
なお、S1401の工程とS1402の工程との実行順は、逆でも構わない。
【0066】
(蓋100と基板108との接合(S1403))
S1403の蓋100と基板108との接合は、第一の凹部1501、第二の凹部1502、及び第三の凹部1503が形成された蓋100の裏面と、ヒータ配線101、ヒータ配線102、端子106、及び端子107が形成された基板108の表面と、を接合すること、を含む。この接合により、蓋100(第二の凹部1502)と、基板108と、ヒータ配線101と、ヒータ配線102との間に形成された空間である遺伝子増幅部105が形成される。また、この接合により、蓋100(第一の凹部1501)と基板108との間に形成された空間である前処理部111、及び蓋100(第三の凹部1503)と基板108との間に形成された空間である遺伝子検出部112が形成される。また、この接合により、蓋100(第四の凹部1504)と基板108との間に形成された空間である流路109、及び蓋100(第五の凹部1505)と基板108との間に形成された空間である流路110が形成される。接合は、接着剤や、蓋100の凹部に沿って切り抜かれた両面テープ、またはレーザー溶着技術により、蓋100と基板108を接着することで実現できる。
【0067】
集積化流体デバイス116の製造方法は、蓋100の裏面、基板108の表面、ヒータ配線101、及びヒータ配線102に、核酸吸着防止コーティングを施すこと、をさらに有してもよい。
【0068】
なお、集積化流体デバイス116の製造方法は、
図5及び
図6のように、基板108の裏面に複数の裏面配線501を形成すること、を有してもよい。複数の裏面配線501は、ヒータ配線101及びヒータ配線102とビア115で電気的に接続される。
【0069】
また、集積化流体デバイス116の製造方法は、
図7及び
図8のように、蓋100の一部に溝701を形成すること、を有してもよい。
【0070】
また、集積化流体デバイス116の製造方法は、
図9及び
図10のように、基板108のヒータ配線101とヒータ配線102との間の部分にスリット901を設けること、及び当該スリット901を封止するテープ902を設けること、を有してもよい。
【0071】
また、集積化流体デバイス116の製造方法は、
図11のように、基板108にヒータ配線101及びヒータ配線102の両端電圧を測定するための端子1101及び端子1102を設けること、を有してもよい。
【0072】
また、集積化流体デバイス116の製造方法は、
図12のように、基板108の溶液槽105の下部に温度計測用の配線1201と、温度計測用の配線1201に電流を印可するための端子1205及び端子1206と、温度計測用の配線1201の両端の電圧を計測するための端子1207及び端子1208と、を形成すること、を有してもよい。
【0073】
(変形例)
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0074】
100:蓋
101:ヒータ配線(第一のヒータ配線)
102:ヒータ配線(第二のヒータ配線)
103、104、1103、1104:接続配線
105:遺伝子増幅部(溶液槽)
106、107:端子
108:基板
109、110:流路
111:前処理部
112:遺伝子検出部
113:溶液導入孔
114:溶液排出孔
115:ビア
116:集積化流体デバイス
301:低抵抗部
302:高抵抗部
501:裏面配線(放熱用配線)
502、702:冷却ファン
701:溝
901:スリット
902:テープ
1101、1102:端子(電圧計測用端子)
1105、1202 電流源
1106、1203 電圧計
1107、1204、1305 コントローラ
1201:配線(温度計測用配線)
1205、1206:端子(電流入力端子)
1207、1208:端子(電圧計測用端子)
1300:遺伝子検出装置
1301:ポンプ
1302:温度センサ
1303:遺伝子検出センサ
1304:電源
1351:プロセッサ
1352:主記憶部
1353:補助記憶部
1354:インターフェース
1500:板材
1501:凹部(第一の凹部)
1502:凹部(第二の凹部)
1503:凹部(第三の凹部)
1504:凹部(第四の凹部)
1505:凹部(第五の凹部)
1506、1507:試薬スポット
1508:検出スポット