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特開2025-25227差分検出装置、差分検出方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025227
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】差分検出装置、差分検出方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   E02D 1/08 20060101AFI20250214BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20250214BHJP
   G06T 7/00 20170101ALN20250214BHJP
【FI】
E02D1/08
E02B3/12
G06T7/00 610C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129818
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000135771
【氏名又は名称】株式会社パスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】姫木 祐太郎
【テーマコード(参考)】
2D043
2D118
5L096
【Fターム(参考)】
2D043AC03
2D043BA10
2D118AA00
2D118CA07
5L096AA06
5L096AA09
5L096BA08
5L096DA04
5L096FA66
5L096GA08
(57)【要約】
【課題】より効率的に形状の歪みや変形の全体像を把握することのできる差分検出装置、差分検出方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】差分検出装置は、対象の表面上の3次元位置を表す点の集合である第1点群と、第1点群とは相異なる点の集合である第2点群との和集合を得るデータ生成部と、和集合に対してパーシステントホモロジーを求め、穴形状を表す部分点群を抽出する解析部と、部分点群を構成する点が第1点群及び第2点群の両方の点を含むか否かを判定し、両方の点を含む部分点群を第1点群と第2点群との間で生じている相違の範囲を示す差分点群として特定する判定部と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の表面上の3次元位置を表す点の集合である第1点群と、前記第1点群とは相異なる点の集合である第2点群との和集合を得るデータ生成部と、
前記和集合に対してパーシステントホモロジーを求め、穴形状を表す部分点群を抽出する解析部と、
前記部分点群を構成する点が前記第1点群及び前記第2点群の両方の点を含むか否かを判定し、両方の点を含む前記部分点群を前記第1点群と前記第2点群との間で生じている相違の範囲を示す差分点群として特定する判定部と、
を備える差分検出装置。
【請求項2】
前記解析部は、前記穴形状の発生パラメータ及び消滅パラメータの差分値が基準範囲内にある前記部分点群を抽出する、請求項1記載の差分検出装置。
【請求項3】
前記基準範囲の上限は、前記和集合に属する2点間の最大距離又は検出対象とする前記相違の範囲の最大サイズの定数倍又は定数乗によって規定され、
前記基準範囲の下限は、前記和集合に属する2点間の最小距離又は検出対象とする前記相違の範囲の最小サイズの前記定数倍又は前記定数乗によって規定される、
請求項2記載の差分検出装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記和集合のうち前記部分点群を内包する一部を設定し、当該一部の範囲内で、前記両方の点を含むか否かの判定を行う、請求項1記載の差分検出装置。
【請求項5】
特定された前記差分点群を構成する点をつないだ3次元ポリゴン又は2次元ポリゴンを生成するポリゴン生成部を備える、請求項1記載の差分検出装置。
【請求項6】
対象の表面上の3次元位置を表す点の集合である第1点群と、前記第1点群とは相異なる点の集合である第2点群との和集合を得るデータ生成ステップ、
前記和集合に対してパーシステントホモロジーを求め、穴形状を表す部分点群を抽出する解析ステップ、
前記部分点群を構成する点が前記第1点群及び前記第2点群の両方の点を含むか否かを判定し、両方の点を含む前記部分点群を前記第1点群と前記第2点群との間で生じている相違の範囲を示す差分点群として特定する判定ステップ、
を含む差分検出方法。
【請求項7】
コンピュータを、
対象の表面上の3次元位置を表す点の集合である第1点群と、前記第1点群とは相異なる点の集合である第2点群との和集合を得るデータ生成手段、
前記和集合に対してパーシステントホモロジーを求め、穴形状を表す部分点群を抽出する解析手段、
前記部分点群を構成する点が前記第1点群及び前記第2点群の両方の点を含むか否かを判定し、両方の点を含む前記部分点群を前記第1点群と前記第2点群との間で生じている相違の範囲を示す差分点群として特定する判定手段、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、差分検出装置、差分検出方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造物や地形などの表面形状及びその変形量などを評価するために、3次元点群を活用する研究が行われている。例えば、河川堤防を点検する業務においては、河川堤防にはらみ出しなどの変状が生じていないか、変状が生じている場合にその量はどの程度であるか、などを評価することが要求される。また、例えば、土木工事では、設計に対する出来形の誤差がどの程度の量であるかを評価することが要求される。そのために、特許文献1に記載された土木工事の出来形評価システムでは、ある設計面から指定された方向についてのオフセット量の範囲内に出来形の点群の要素があるか否かを示す評価値により、出来形の表面形状の適否を容易に判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-40181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、指定された方向での評価となるので、構造物や地形などの表面形状、及びその歪みや変形が複雑であると、効率的に形状や変形の全体像を把握するのが難しくなるという課題がある。
【0005】
この発明の目的は、より効率的に形状の歪みや変形の全体像を把握することのできる差分検出装置、差分検出方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示は、
対象の表面上の3次元位置を表す点の集合である第1点群と、前記第1点群とは相異なる点の集合である第2点群との和集合を得るデータ生成部と、
前記和集合に対してパーシステントホモロジーを求め、穴形状を表す部分点群を抽出する解析部と、
前記部分点群を構成する点が前記第1点群及び前記第2点群の両方の点を含むか否かを判定し、両方の点を含む前記部分点群を前記第1点群と前記第2点群との間で生じている相違の範囲を示す差分点群として特定する判定部と、
を備える差分検出装置である。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、より効率的に形状の歪みや変形の全体像を把握することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】情報処理装置の機能構成を示すブロック図である。
図2】パーシステントホモロジーの本実施形態での利用を説明する図である。
図3】ある点群データから得られた発生/消滅期間を大きい順に並べて表示した例である。
図4】距離算出範囲の設定例を示す。
図5】差分領域検出処理の制御手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態の差分検出装置である情報処理装置1の機能構成を示すブロック図である。
【0010】
情報処理装置1は、制御部11と、記憶部12と、入出力インターフェイス13(I/F)と、表示部14と、操作受付部15などを備える。
【0011】
制御部11は、情報処理装置1の動作を統括制御する。制御部11は、演算処理を行うプロセッサを有する。プロセッサは、単一の汎用CPU(Central Processing Unit)であってもよいし、複数のCPUが並列に又は用途などに応じて独立に演算処理を行うものであってもよい。プロセッサには、特定の演算処理や画像処理などに特化したものが含まれていてもよい。制御部11は、記憶部12からプログラム121などを読み込んで実行することで各種制御処理を行う。
【0012】
記憶部12は、RAM(Random Access Memory)と不揮発性メモリとを有し、各種データを記憶する。RAMは、制御部11に作業用のメモリ空間を提供し一時データを記憶する。不揮発性メモリは、プログラム121や設定データなどを記憶保持する。不揮発性メモリは、例えば、フラッシュメモリやHDD(Hard Disk Drive)などであるがこれに限られない。記憶部12は、ROM(Read Only Memory)を有していてもよい。ROMには、初期制御プログラムなどが記憶され得る。プログラム121には、後述の差分領域検出処理に係る制御プログラムが含まれる。
【0013】
入出力インターフェイス13は、情報処理装置1の外部(周辺機器を含む)との間でデータの入出力を行う。入出力インターフェイス13は、接続端子131及び通信部132を有する。接続端子131には、例えば、USB(Universal Serial Bus)端子やLAN(Local Area Network)コネクタなどが含まれる。通信部132は、例えば、TCP/IPなどのLANに係る通信規約(プロトコル)に従って通信を制御する。
【0014】
周辺機器としては、補助記憶装置であるデータベース装置21、並びにCDROM、DVD及びBlu-ray(登録商標)などの可搬型記憶媒体(光学ディスク)を読み取る光学読取装置22などが含まれていてもよい。また、可搬型記憶媒体に磁気テープが含まれ、この磁気テープを読み取る読取装置が周辺機器に含まれていてもよい。
【0015】
入出力インターフェイス13を介して情報処理装置1が外部から取得可能なデータには、点群データ201が含まれる。点群データ201は、対象の表面の3次元形状を表すデータであって、対象の表面上の複数点の3次元位置を示すデータである。3次元点群データ201の各点は、例えば、水平方向に互いに直交するX軸及びY軸、並びに鉛直方向に沿ったZ軸により表される直交座標系における3次元位置の情報を有する。3次元位置の情報は、上空からのレーザー計測、すなわち、無人航空機(UAV)などから照射されたレーザー光が反射して戻ってくるまでの時間に基づいて得られる。レーザー光は、適宜な間隔で照射される。これに応じて、各点は、レーザー光が反射した点の離散データの集合(点群データ)として得られる。レーザー光の照射間隔は、一様である必要はなく、また、計測ごとに互いに異なっていてもよい。
【0016】
点群データ201は、互いに異なる計測時(異なる日、異なる月、異なる年など)に相異なる座標分布(主に計測時に水平面内での位置が同一ではない)の点で得られた第1点群データ2011及び第2点群データ2012を含む。第1点群データ2011及び第2点群データ2012は、いずれも比較される対象の座標範囲の点を含む。あるいは、第1点群データ2011及び第2点群データ2012のうち一方は、構造物の設計データなどであってもよい。この場合の点群データは、例えば、設計線上の点の3次元位置が適宜離散的に設定されたものであればよい。また、同一の点群データであっても、同一性が仮定される範囲内の異なるタイミングで得られたデータ点が混じっていてもよい。構造物は、特に限られるものではないが、例えば、河川の堤防、護岸、樋門、樋管、堰、床止め、水門、閘門、揚水機場、排水機場などの河川構造物である。また、構造物には、これらに付随する手すりや柵なども含まれ得る。
【0017】
表示部14は、制御部11の制御に基づいて表示画面に表示を行う。表示画面は、例えば、液晶ディスプレイ又は有機EL(Electro-Luminescent)ディスプレイなどであるが、これらに限られるものではない。
【0018】
操作受付部15は、外部からの入力操作を受け付けて、入力操作に応じた操作信号を制御部11へ出力する。操作受付部15は、例えば、キーボードとポインティングデバイスなどを含む。ポインティングデバイスは、マウスであってもよい。
表示部14及び/又は操作受付部15は、情報処理装置1の周辺機器であって、上記制御部11、記憶部12及び入出力インターフェイス13を含む情報処理装置1の本体(コンピュータ)に取り付けられるものであってもよい。
【0019】
次に、点群データ201を用いた差分検出について説明する。
上記のように、点群データ201は、第1点群データ2011及び第2点群データ2012を含む。これらの点群データで表される面の差分が、設計された構造と実際の構造のずれや、実際の構造の変化などである。実際の構造物が河川構造物である場合、構造の変化(変状)には、例えば、はらみ出し、寺勾配、亀裂、沈下などが含まれる。
【0020】
これらの変状が生じると、構造物の強度が低下して、破堤などが生じやすくなる。したがって、これらの構造物の3次元形状が定期的に及び災害時などに点検されることで、速やかに変状が把握される。本実施形態の情報処理装置1は、上記の第1点群データ2011及び第2点群データ2012を比較することで、変状の発生有無及びその範囲や規模を把握する。
【0021】
航空計測などによる異なる点群データでは、通常、各点位置が互いに異なるので、直接点同士で比較するのは難しい。一方で、点群データをメッシュデータに変換するなどした場合には、元の点群データとメッシュデータを並列に準備、処理及び比較する必要があり、手間が増大する。情報処理装置1は、点群データのままパーシステントホモロジーを利用することで変状の範囲及び変状量を定量的に評価する。
【0022】
パーシステントホモロジーは、位相的データ解析であり、点群データの各点のつながりや偏りなどの幾何的な構造を評価する技術に用いられている。パーシステントホモロジーによる3次元構造の解析(2次のパーシステントホモロジー)では、各点を中心とした球体の半径を拡大していくと、球体は、中心位置間の距離の近いものから順に接触、重複していく。どの球体(点)からも距離の離れた領域は、なかなか球体と接触しない隙間領域(穴形状)となる。すなわち、パーシステントホモロジーでは、点群データ(点の空間分布)内で周囲のどの点からも離れた空隙は、球体の半径(直径でもよい)をパラメータとして評価される。周囲の点からの距離が離れた空間ほど、球体の半径が大きくなっても隙間領域として残る。なお、2次元構造の解析(1次のパーシステントホモロジー)では、各点を中心とした円形状の範囲の半径を拡大することで、3次元構造と同様にパーシステントホモロジーを計算することができる。
【0023】
図2は、パーシステントホモロジーの本実施形態での利用を説明する図である。
図2(a)及び図2(b)は、3次元空間において面状に広がった2つの点群データの例を示している。図2(a)に示す第1点群データAでは、各点はxy平面上に広がっている。図2(b)に示す第2点群データBでは、中央付近の点が他の周囲の点に比してz方向に隆起した位置にある。これら2つの点群データの和集合C=A∪Bをとると、図2(c)に示すように、この和集合Cは、第2点群データの隆起部分と第1点群データの平面部分との間に点のない空隙を有する。
【0024】
この和集合Cのデータに対してパーシステントホモロジーを適用する(求める)と、上記空隙が隙間領域(穴形状)として検出される。特に、この空隙のうち下側半分が第1点群データの点により区切られ、上側半分が第2点群データの点によって区切られる。すなわち、第1点群データAの点及び第2点群データBの点の両者によって区切られる空隙は、両点群データ間のずれによって生じたものである。
【0025】
パーシステントホモロジーでは、上記のように各点を中心とした等方形状の空間(ここでは球体)を拡大していくと、近くにある球体の範囲が重複、接続して、あるサイズ(半径など、発生パラメータb)で上記空隙に対応する隙間領域(穴)を囲うように接続するのが特定される。この隙間領域を囲う球体群の中心点の集合である点群は、後述の部分点群Ekである。各球体を更に拡大していくと、あるサイズ(消滅パラメータd)で隙間領域(穴)が埋められて隙間領域が消滅するのが特定される。大きな空隙では、発生パラメータbと消滅パラメータdの差分値d-b(パーシステント区間、発生/消滅期間)が大きい。一般に、発生/消滅期間が小さいものは、ノイズでありやすい。また、原理上、全ての点の一方の側が開放面となる空間では、消滅パラメータdが決まらない。
【0026】
図3は、ある点群データから得られた発生/消滅期間を大きい順に並べて表示した例である。
上記のように、著しく発生/消滅期間が長いものを除外するために、上限Ltを定めることができる。一方で、発生/消滅期間が短いものを除外するために、下限Lbを定めることができる。発生/消滅期間が下限Lb以上かつ上限Lt以下の基準範囲内のものを、2つの点群データ間における検出対象の差異に応じた隙間領域(穴)であるとすることができる。下限Lbは、第1点群データ2011及び第2点群データ2012のデータ密度に応じて定められてもよい。すなわち、下限Lbは、和集合Cに属する2点間の最小距離を基準としてその定数倍(例えば、1~3倍など)又は定数乗(例えば、2乗~3乗)として規定されてもよい。同様に、上限Ltは、和集合Cに属する2点間の最大距離を基準としてその定数倍又は定数乗として規定されてもよい。また、下限Lb及び上限Ltは、ノイズだけではなく、検出対象とする変状の内容及び種別などを考慮して定められてもよい。例えば、下限Lb及び上限Ltは、検出対象とする変状(相違の範囲)の特徴的なサイズ、例えば、検出対象の変状として想定される幅、長さなどの最大値や最小値(最小サイズ及び最大サイズ)を所定の定数倍して、又は所定の定数乗して規定されてもよい。定数倍としては、例えば、最小サイズの0.2~0.9倍、最大サイズの1.1~2.0倍などが挙げられる。定数乗としては、例えば、2乗~3乗が挙げられる。
【0027】
このようにして得られた穴の発生パラメータ及び消滅パラメータの組に対応する接続点の組、すなわち空隙を囲んで位置する点のグループは、逆解析により部分点群Ek(k=1~N;Nは得られた空隙の数)として抽出される。部分点群Ekのうち、発生/消滅期間が上記の基準範囲内であり、かつ部分点群Ekを構成する点に第1点群データ2011の点及び第2点群データ2012の点の両方が含まれている場合に、当該部分点群Ekを検出対象の第1点群と第2点群との相違の範囲を示す差分点群Dkであると特定する。
【0028】
差分点群Dkを特定するために、部分点群Ekに含まれる各点が第1点群データ2011(又は第2点群データ2012)の点と一致するか否かが改めて判別される。上記のように、第1点群データ2011の点と第2点群データ2012の点とは相異なる。したがって、部分点群Ekの対象点が第1点群データ2011のいずれかの点と距離がゼロであることは、すなわち比較された2点が同一の点であることを意味する。この場合には、当該対象点は第1点群データ2011の点である。対象点が第1点群データ2011のいずれの点とも距離がゼロではない場合には、対象点は第2点群データ2012の点である。
【0029】
対象点と和集合Cの全ての点との距離を求めるのは手間がかかるので、距離を求める対象は、和集合Cの点のうち部分点群Ekの周囲の一部の点のみに限られてもよい。
図4には、距離算出範囲の設定例を示す。
例えば、部分点群Ekに含まれる点の3次元座標の各成分について最大値と最小値とを特定し、3成分が全て最大値と最小値の範囲内にある点のみを和集合Cから抽出してもよい。このような範囲Mは、部分点群Ekを内包、特に外接する直方体である。
【0030】
また、距離はゼロであるか否かが分かればよいので、L1距離(各成分の差分の絶対値の和)などを求めてもよい。L1距離の計算の方が、L2距離(ユークリッド距離)の計算などよりも演算の手間が軽減される。また、第1点群データ2011の点と第2点群データ2012の点とがそれぞれ1つずつ検出されればよいので、それぞれの点群データが1つずつ検出された時点で距離の算出も終了してよい。
【0031】
差分点群Dkのデータは、出力情報とされる。差分点群Dkに属する点は、例えば、表示画面において和集合Cの他の点と異なる色などで表示されてもよい。また、差分点群Dkに属する各点が周囲の点と接続されてポリゴン化されることで、表面形状などが得られる。またポリゴンを用いて更に空隙をボクセルの組み合わせで表すことで、空隙のサイズが定量的に求められる。ポリゴンには、3次元ポリゴン及び差分点群をある面に正射影した2次元ポリゴンなどが含まれる。
【0032】
図5は、本実施形態の情報処理装置1において制御部11が実行する差分領域検出処理の制御手順を示すフローチャートである。本実施形態の差分検出方法を含むこの差分領域検出処理は、比較対象の2つの点群データ又はその更に一部の範囲の指定とともにプログラム121により実行される。
【0033】
制御部11は、第1点群データ2011を取得する(S1)。制御部11は、第2点群データ2012を取得する(S2)。制御部11は、データ生成部として、第1点群データ2011と第2点群データ2012の和集合Cを生成する(S3;データ生成ステップ、データ生成手段)。
【0034】
制御部11は、解析部として、和集合Cに対してパーシステントホモロジーを求めて、穴の発生/消滅の組(bk、dk)を抽出する(S4)。解析部は、穴の発生/消滅期間(差分値dk-bk)が基準範囲内にない組を除外する(S5)。
処理S4及び処理S5が本実施形態の差分判別方法における解析ステップを構成し、本実施形態のプログラム121における解析手段を構成する。
【0035】
制御部11は、残っている穴の発生/消滅の組(bk、dk)にそれぞれ対応する部分点群Ekを求める逆解析を行う(S6)。制御部11は、判定部として、各部分点群Ekについてそれぞれ、第1点群データ2011に属する点及び第2点群データ2012に属する点の両方が含まれているか否かを判別して、各部分点群Ekが差分点群Dkであるか否かを判定する(S7;判定ステップ、判定手段)。
【0036】
制御部11は、ポリゴン生成部として、特定された差分点群Dkの各点を3Dポリゴン化し、また、これを正射影した2Dポリゴン化する(S8)。制御部11は、得られたポリゴンを用いたボクセルなどにより差分量(空隙のサイズ)を算出する(S9)。制御部11は、表示部14の表示画面に和集合Cの分布を表示させる(S10)。このとき制御部11は、差分点群Dkに属する各点を和集合Cの他の点とは異なる表示態様(色、サイズ、形状など)で表示させる。そして、制御部11は、差分領域検出処理を終了する。
【0037】
上記のように算出し、表示させた差分領域(差分点群で表す領域)が、設計された構造と実際の構造とのずれや、実際の構造の変化などを表す。したがって、構造が河川構造物である場合には、そのはらみ出し、寺勾配、亀裂や沈下を検出することが可能となる。
【0038】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、航空機により上空からレーザー測量された河川構造物の変状又は設計との差異などを特定する場合について説明したが、これに限られない。座標を表す点群データ間を比較するものであればよい。具体的には、点群データは、上記UAVに代えて、航空機、ドローン、人工衛星などによるレーザープロファイラのデータであってもよい。あるいは、点群データは、走行車両に搭載されたレーザーを利用した測量データであってもよい。また、点群データは、UAVや走行車両から撮影された複数の画像にSfM(Structure from Motion)の処理が施されて得られたデータであってもよい。また、計測対象は、土砂の流入や流出などを含む自然地形の変化、水位、潮位、積雪量といった自然データの変化の特定などに用いられてもよい。あるいは、河川構造物以外の他などの構造物に適用されてもよい。例えば、道路面や滑走路などの轍、亀裂、トンネルの壁面形状、橋脚などのコンクリート構造物の亀裂や剥離、線路の歪み、電柱や架線などのたわみといったものの変状を検出するのに用いられてもよい。
【0039】
また、上記実施の形態では、和集合Cの各点のデータには座標のみが含まれると説明したが、これに限られない。各点のデータには、元々第1点群データ2011のデータであったか第2点群データであったかを識別するためのフラグデータなどが付されていてもよい。この場合には、改めて和集合Cの各点と比較せずとも、部分点群Ekの各点がどちらの点群データの点であるかを直接特定することができる。また、第1点群データ2011のデータ点と第2点群データ2012のデータ点との間に同一座標のデータが含まれていてもよい。
【0040】
また、和集合Cの各点のデータに座標が含まれる場合における範囲Mの設定は、他の方法、基準でなされてもよい。
【0041】
また、上記では、表示などの出力の際に点群の点間をつないでポリゴン化したが、必ずしもポリゴン化されなくてもよい。また、出力は、表示画面である必要はない。ポリゴンの頂点をなす各座標をグループ化したデータ出力などであってもよい。
【0042】
また、上記実施の形態では、単一の情報処理装置1で全ての処理が行われたが、これに限られない。複数の装置で分散処理されてもよい。
【0043】
また、以上の説明では、本発明の差分検出制御に係るプログラム121を記憶するコンピュータ読み取り可能な媒体としてHDD、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリなどからなる記憶部12を例に挙げて説明したが、これらに限定されない。その他のコンピュータ読み取り可能な媒体として、MRAMなどの他の不揮発性メモリや、CD-ROM、DVDディスクなどの可搬型記憶媒体を適用することが可能である。また、本発明に係るプログラムのデータを、通信回線を介して提供する媒体として、キャリアウェーブ(搬送波)も本発明に適用される。
その他、上記実施の形態で示した具体的な構成、処理動作の内容及び手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載した発明の範囲とその均等の範囲を含む。
【0044】
以上のように、本実施形態の差分検出装置である情報処理装置1は、制御部11を備える。制御部11は、データ生成部として、対象の表面上の3次元位置を表す点の集合である第1点群と、第1点群とは相異なる点の集合である第2点群との和集合Cを得る。制御部11は、解析部として、和集合Cに対してパーシステントホモロジーを求め、穴形状を表す部分点群Ekを抽出する。制御部11は、判定部として、部分点群Ekを構成する点が第1点群及び第2点群の両方の点を含むか否かを判定し、両方の点を含む部分点群Ekを第1点群と第2点群との間で生じている相違の範囲を示す差分点群Dkとして特定する。
この情報処理装置1によれば、比較対象の2つの点群データを混ぜてパーシステントホモロジーを求めるので、これらの点群データの差異が穴として現れる。したがって、差異の位置、形状やサイズが効率的に検出される。よって、情報処理装置1は、点群データを補間するなどによって位置合わせをしたり、メッシュデータに変換したりする必要がなく、より効率的に形状の歪みや変形の全体像を得ることができる。
【0045】
また、解析部は、穴形状の発生パラメータ及び消滅パラメータの差分値が基準範囲内にある部分点群Ekを抽出してもよい。パーシステントホモロジーでは、差分値が小さい部分にノイズとして表れやすい。また、表面の差異を検出する際には、表面上方の半開放された空間も穴として検出される。したがって、適切な基準範囲を設定することで、実在する差異を適切に抽出することができる。さらに、基準範囲を適切に絞ることで、検出対象としたい要因などに応じた差異を選択的に抽出することができる。
【0046】
また、基準範囲の上限Ltは、和集合Cに属する2点間の最大距離又は検出対象とする相違(穴)の範囲の最大サイズの定数倍又は定数乗によって規定されてもよい。基準範囲の下限Lbは、和集合Cに属する2点間の最小距離又は検出対象とする相違の範囲の最小サイズの定数倍又は定数乗によって規定されてもよい。このように、基準範囲を点群データの空間密度や検出対象の表面の差異に応じて定めることで、ノイズや不要な差異を適切に除外して、所望の差異を抽出することができる。
【0047】
また、判定部は、和集合Cのうち部分点群Ekを内包する一部を設定し、当該一部の範囲内で、第1点群及び第2点群の両方の点を含むか否かの判定を行ってもよい。部分点群Ekの各点のデータが元の点群の所属情報を含まない場合、改めて元の第1点群データ又は第2点群データと比較参照する必要がある。このときに、明らかに部分点群Ekに属していないデータと比較するのは、時間や手間の無駄である。したがって、部分点群Ekを含む一部範囲を和集合Cから設定して比較対象とすることで、時間及び手間を低減することができる。
【0048】
また、情報処理装置1の制御部11は、ポリゴン生成部として、特定された差分点群Dkを構成する点をつないだ3次元ポリゴン又は2次元ポリゴンを生成してもよい。点群データをつないでポリゴン化することで、表面をより適切に認識し、また、全体又は差異部分の表面積を定量的に得ることが容易になる。またさらに、3次元ポリゴンを用いてボクセル化することで、差異部分の体積も容易に得ることが可能になる。
【0049】
また、本実施形態の差分検出方法は、次のステップを含む。対象の表面上の3次元位置を表す点の集合である第1点群と、第1点群とは相異なる点の集合である第2点群との和集合Cを得るデータ生成ステップ(処理S3)。和集合Cに対してパーシステントホモロジーを求め、穴形状を表す部分点群Ekを抽出する解析ステップ(処理S4、S5)。部分点群Ekを構成する点が第1点群及び第2点群の両方の点を含むか否かを判定し、両方の点を含む部分点群Ekを第1点群と第2点群との間で生じている相違の範囲を示す差分点群Dkとして特定する判定ステップ(処理S7)。
このような差分検出方法によれば、比較対象の2つの点群データを混ぜてパーシステントホモロジーを求めるので、これらの点群データの差異を適切に穴として抽出することができる。したがって、この差分検出方法では、点群データの点の位置を合わせたり、メッシュなどに変換したりせずとも、差異の位置、形状やサイズが効率的に検出される。よって、ユーザは、より効率的に形状の歪みや変形の全体像を把握することができる。
【0050】
また、上記差分検出方法に係るプログラム121をコンピュータにインストールして実行することで、特別なハードウェアを有さずとも容易かつより効果的に形状の歪みや変形を検出してその全体像を示すことができる。
【符号の説明】
【0051】
1 情報処理装置
11 制御部
12 記憶部
121 プログラム
13 入出力インターフェイス
131 接続端子
132 通信部
14 表示部
15 操作受付部
21 データベース装置
22 光学読取装置
201 点群データ
C 和集合
Dk 差分点群
Ek 部分点群
Lb 下限
Lt 上限
M 範囲
図1
図2
図3
図4
図5