(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025229
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】モルタル・コンクリート吹付け構造体及び吹付け方法
(51)【国際特許分類】
C04B 28/02 20060101AFI20250214BHJP
C04B 24/40 20060101ALI20250214BHJP
B28B 1/32 20060101ALI20250214BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20250214BHJP
E01D 19/02 20060101ALI20250214BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B24/40
B28B1/32 B
E04G23/02 F
E01D19/02
E01D22/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129820
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 健一
(72)【発明者】
【氏名】本田 亮
(72)【発明者】
【氏名】原田 匠
(72)【発明者】
【氏名】大橋 英紀
【テーマコード(参考)】
2D059
2E176
4G112
【Fターム(参考)】
2D059AA03
2D059GG01
2D059GG39
2E176AA04
2E176BB28
2E176BB29
4G112PB41
(57)【要約】
【課題】撥水剤を塗布する手間を省略しつつ、吹付け層の耐久性を向上する。
【解決手段】セメント、水、急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤を含む吹付け層からなるモルタル・コンクリート吹付け構造体1である。層厚方向の外側に行くに従って漸次、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を増大させている。層厚方向の途中から外側部分に、シラン・シロキサン系撥水剤が含まれ、それより内側部分には、前記シラン・シロキサン系撥水剤が含まれないようにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、水、急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤を含む吹付け層からなるモルタル・コンクリート吹付け構造体であって、
吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次、前記シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を増大させていることを特徴とするモルタル・コンクリート吹付け構造体。
【請求項2】
前記シラン・シロキサン系撥水剤が、層厚方向の途中から外側部分に含まれ、それより内側部分には含まれていない請求項1記載のモルタル・コンクリート吹付け構造体。
【請求項3】
表層に、前記シラン・シロキサン系撥水剤100%からなる層が形成されている請求項1記載のモルタル・コンクリート吹付け構造体。
【請求項4】
セメント、水、急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤を含む吹付け材料を吹き付けて吹付け層を形成する吹付け方法であって、
前記急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤以外の材料を練り混ぜ、圧送ポンプで圧送し、これに前記シラン・シロキサン系撥水剤を、吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次添加率を増大させつつ添加し、さらに前記急結剤を添加した後、吹き付けることを特徴とする吹付け方法。
【請求項5】
吹付け初期の段階では前記シラン・シロキサン系撥水剤を添加せず、吹付け層の層厚方向の途中から、前記シラン・シロキサン系撥水剤を、吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次添加率を増大させつつ添加する請求項4記載の吹付け方法。
【請求項6】
前記セメントを含む吹付け材料の吹付けが終了したならば、前記圧送ポンプを停止し、前記吹付け層の表面に、前記シラン・シロキサン系撥水剤100%からなる吹付け材料を吹き付ける請求項4記載の吹付け方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強のため既存のコンクリート構造物の外周部分に構築された、モルタルやコンクリートの吹付け層からなるモルタル・コンクリート吹付け構造体及び吹付け方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば高架橋の橋脚や建物の柱など既設のコンクリート構造物の耐震補強構造として、既設コンクリート構造物の外周に鋼板を巻立て、この鋼板と既設コンクリート構造物との間に無収縮モルタルを充填する鋼板巻立て工法(下記特許文献1)や、既設コンクリート構造物の外周に主筋及びせん断補強筋を設け、この外周に型枠を設置し、この型枠内にコンクリートを打設し、コンクリート硬化後に脱型するRC(鉄筋コンクリート)巻立て工法(下記特許文献2)などが知られている。
【0003】
ところが、前記鋼板巻立て工法では、鋼板の組立てに現場溶接が必要になるとともに、クレーンでの揚重作業が必要になり、現場での品質管理や作業管理に手間がかかるなどの欠点がある。また、前記RC巻立て工法では、型枠の設置や脱型の手間があり工期が長期化する欠点があった。
【0004】
一方で、既設コンクリート構造物の周囲に補強用の鉄筋を巻立てるとともにモルタルを吹き付けるモルタル吹付け工法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-214857号公報
【特許文献2】特開2005-320819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記モルタル吹付け工法により形成された吹付け層は、RC巻立て工法によって形成された補強層と比較して薄層であるため、乾燥収縮によるひび割れや、水分浸透による劣化が生じやすい。このため、吹付モルタルに膨張材や収縮低減剤を配合して、ひび割れ低減効果を付与する対策が施されているが、必ずしも十分な効果が得られない場合もある。
【0007】
一方、コンクリート内部に、塩化物イオンや酸性雨などの劣化因子を伴う水が浸入するのを防止するため、コンクリート構造物の表面に撥水剤を塗布して吸水防止層を形成する技術が知られている。しかし、従来の撥水剤は、脱型後、施工面を十分乾燥させた後(例えば表面水分率8%以下など)でないと塗布できないため、施工に時間がかかり、施工費用が嵩む問題があった。また、従来の撥水剤の大半は、数回にわたる塗布が必要であり、施工に手間や時間がかかる欠点があった。つまり、十分乾燥させたコンクリートの表面に1回目の撥水剤を塗布した後、この撥水剤が乾燥するまで更に十分時間をおいてから、2回目の撥水剤を塗布するという作業を、最低でも3回程度は繰り返さなければならない。また、従来の撥水剤は、施工時に飛散や液だれを起こし、塗布量の管理が難しいなどの課題もあった。
【0008】
そこで本発明の主たる課題は、撥水剤を塗布する手間を省略しつつ、吹付け層の耐久性が向上できるモルタル・コンクリート吹付け構造体及び吹付け方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、セメント、水、急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤を含む吹付け層からなるモルタル・コンクリート吹付け構造体であって、
吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次、前記シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を増大させていることを特徴とするモルタル・コンクリート吹付け構造体が提供される。
【0010】
上記請求項1記載の発明では、撥水剤としてシラン・シロキサン系撥水剤を用いている。このシラン・シロキサン系撥水剤は、浸透性が高いというシランの特徴を活かし、高分子のシロキサンで揮発を抑えた撥水剤である。本発明に係るモルタル・コンクリート吹付け構造体では、このシラン・シロキサン系撥水剤の添加率を、吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次増大させているため、撥水効果及び収縮低減効果が必要な表層部に効果的に付与することができる。これらの効果は、モルタル・コンクリートを吹き付ける吹付け作業だけで付与でき、吹付け後に撥水剤を塗布する手間が省略できる。また、撥水剤が吹付け層の表層部から内部まで、必要な範囲に高密度で配置されるため、吹付け層に十分な耐久性を付与することができる。
【0011】
請求項2に係る本発明として、前記シラン・シロキサン系撥水剤が、層厚方向の途中から外側部分に含まれ、それより内側部分には含まれていない請求項1記載のモルタル・コンクリート吹付け構造体が提供される。
【0012】
上記請求項2記載の発明では、層厚方向の途中から外側部分に前記シラン・シロキサン系撥水剤を含み、それより内側部分にはシラン・シロキサン系撥水剤が含まれないようにしている。これによって、撥水効果の必要ない部分には撥水剤を含まず、外側部分に集中的に撥水剤を配置できるので、撥水性が効果的に付与できるとともに、撥水剤の使用量を抑えることができ、経済的である。
【0013】
請求項3に係る本発明として、表層に、前記シラン・シロキサン系撥水剤100%からなる層が形成されている請求項1記載のモルタル・コンクリート吹付け構造体が提供される。
【0014】
上記請求項3記載の発明では、層厚方向の外側に行くに従って漸次、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を増大させ、好ましくは最終的に表層にシラン・シロキサン系撥水剤100%の層を形成している。これによって、吹付け層の表層が撥水剤によって保護される。
【0015】
請求項4に係る本発明として、セメント、水、急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤を含む吹付け材料を吹き付けて吹付け層を形成する吹付け方法であって、
前記急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤以外の材料を練り混ぜ、圧送ポンプで圧送し、これに前記シラン・シロキサン系撥水剤を、吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次添加率を増大させつつ添加し、さらに前記急結剤を添加した後、吹き付けることを特徴とする吹付け方法が提供される。
【0016】
上記請求項4記載の発明は、吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を増大させるようにするための吹付け方法である。
【0017】
請求項5に係る本発明として、吹付け初期の段階では前記シラン・シロキサン系撥水剤を添加せず、吹付け層の層厚方向の途中から、前記シラン・シロキサン系撥水剤を、吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次添加率を増大させつつ添加する請求項4記載の吹付け方法が提供される。
【0018】
上記請求項5記載の発明は、吹付け層の層厚方向の途中から外側部分にのみ、シラン・シロキサン系撥水剤が含まれ、それより内側部分にはシラン・シロキサン系撥水剤が含まれないようにするための吹付け方法である。
【0019】
請求項6に係る本発明として、前記セメントを含む吹付け材料の吹付けが終了したならば、前記圧送ポンプを停止し、前記吹付け層の表面に、前記シラン・シロキサン系撥水剤100%からなる吹付け材料を吹き付ける請求項4記載の吹付け方法が提供される。
【0020】
上記請求項6記載の発明は、吹付け層の表面に、シラン・シロキサン系撥水剤100%からなる層を形成するための吹付け方法である。
【発明の効果】
【0021】
以上詳説のとおり本発明によれば、撥水剤を塗布する手間を省略しつつ、吹付け層の耐久性が向上できるモルタル・コンクリート吹付け構造体及び吹付け方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明に係るモルタル・コンクリート吹付け構造体1の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0024】
本発明に係るモルタル・コンクリート吹付け構造体1(以下、「吹付け構造体1」という。)は、
図1に示されるように、例えば高架橋の橋脚や建物の柱など既存のコンクリート構造物30の耐震補強のため、既存のコンクリート構造物30の外周部分に構築された、内部に鉄筋2が配筋されたモルタルやコンクリートの吹付け層からなる吹付け構造体である。本発明に係る吹付け構造体1は、セメント、水、急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤を含み、更に骨材や各種混和剤を含む吹付け層で構成されたものである。
【0025】
前記シラン・シロキサン系撥水剤は、シラン分子と高分子のシロキサン分子を混合したモルタル及びコンクリート用の撥水剤である。これまでに市販されている一般的な撥水剤は、ほとんどがシラン系撥水剤である。このシラン系撥水剤は、浸透性が高い反面、揮発しやすいという性質を有しているため、塗布によって撥水層を形成する場合、複数回の塗布が必要であった。一方、揮発を生じにくい撥水剤として、高分子のシロキサンというシリコン分子を主成分としたものがあるが、浸透性が低く、長期の耐久性に課題があった。これらの課題を解決したものとして、シランを主成分としながら揮発を抑えたシラン・シロキサン系撥水剤が存在する。このシラン・シロキサン系撥水剤は、粘性が高く、施工時に飛散や液だれをほとんど生じないため、塗布量を管理することが可能であるとともに、有効成分量が80%程度と多く、1回の塗布で十分な撥水効果が得られることが報告されている。また、吹付け材料にシラン・シロキサン系撥水剤を配合することで、内部に形成された撥水層により外部からの水の浸透を抑制し、同時に収縮低減効果によって乾燥収縮によるひび割れが低減でき、かつエフロレッセンス抑制効果等が付与でき、構造物の耐久性を向上させることができる。
【0026】
本発明に係る吹付け構造体1は、撥水剤を表面に塗布するのではなく、吹付け材料自体にシラン・シロキサン系撥水剤を添加している。このときのシラン・シロキサン系撥水剤の添加形態としては、
図1に示されるように、吹付け構造体1の層厚方向の外側に行くに従って漸次、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を増大させている。すなわち、
図1に示される吹付け構造体1の断面視で、コンクリート構造物30に近い層より、コンクリート構造物30から遠い層(吹付け層1の表層に近い層)の方がシラン・シロキサン系撥水剤の添加率が次第に大きくなるグラデーションを形成している。
図1では、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率のイメージとして、添加率が大きい部分を濃い黒色とし、添加率が小さい部分を薄くしたグラデーションで表現している。ここで、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率とは、セメントに対するシラン・シロキサン系撥水剤の重量比(%/C)である。
【0027】
前記シラン・シロキサン系撥水剤は、吹付け構造体1の層厚方向の途中から外側部分にのみ添加し、それより内側部分には含まれないようにするのがよい。また、吹付け構造体1の表層は、層厚方向に対してシラン・シロキサン系撥水剤の添加率が最大となっていればよく、シラン・シロキサン系撥水剤100%の層としてもよい。
【0028】
すなわち、
図1に示されるように、コンクリート構造物30の外周面に沿って配筋された鉄筋2を含むA層は、シラン・シロキサン系撥水剤を含まないモルタルやコンクリートのみを吹き付けた層であり、その外側のB層は、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を、吹付け構造体1の層厚方向の外側に行くに従って漸次増大させたグラデーション層であり、表層のC層は、層厚方向に対してシラン・シロキサン系撥水剤の添加率が最大となる層、好ましくはシラン・シロキサン系撥水剤100%からなる層である。
【0029】
前記A層は、シラン・シロキサン系撥水剤を含まない(添加率0%)、従来の吹付け材料と同様にモルタルやコンクリートに急結剤を添加しただけの吹付け材料を吹き付けた層である。このA層は、少なくとも鉄筋2が埋没する程度の厚みで形成されており、前記B層及びC層によって鉄筋2の被り部が形成されるようにするのがよい。なお、A層を形成する吹付け材料にはシラン・シロキサン系撥水剤が含まれていないが、これに隣接するB層を形成する吹付け材料にシラン・シロキサン系撥水剤が含まれているため、吹付け構造体1のA層部分には、B層を形成する際に吹き付けられた吹付け材料が混入することにより、又はB層に添加されたシラン・シロキサン系撥水剤が浸透することにより、若干のシラン・シロキサン系撥水剤が存在する場合がある。
【0030】
前記B層は、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を、例えば0.05~5%/C、好ましくは0.1~0.5%/Cの範囲で、徐々に又は段階的に増大させた吹付け材料を吹き付けた層である。前記シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を調整するには、
図2に示される吹付け系統図において、圧送ポンプ11によって圧送されたモルタル等に、シラン・シロキサン系撥水剤を送り出す量を、撥水剤供給装置16で調整することによって行うことができる。シラン・シロキサン系撥水剤の添加量を段階的に増大させる場合、少なくとも3段階、好ましくは5段階以上変化させた吹付け層を形成するのがよい。前記B層の厚みとしては、鉄筋2の適正な被り厚さに対応する厚みで形成するのがよい。
【0031】
前記C層は、前記A層及びB層よりシラン・シロキサン系撥水剤の添加率が多くなっている層であり、層厚方向に対してシラン・シロキサン系撥水剤の添加率が最大となっている層である。好ましくは、セメント等を含まず、シラン・シロキサン系撥水剤100%を吹き付けて形成した層とするのがよい。シラン・シロキサン系撥水剤100%の層を形成するには、
図2に示される吹付け系統図において、B層の吹付けが終了したならば、モルタル等を圧送する圧送ポンプ11を停止するとともに、急結剤供給装置14を停止し、シラン・シロキサン系撥水剤の撥水剤供給装置16及びコンプレッサ13のみを運転し、ノズル12からシラン・シロキサン系撥水剤を吹き出すことこにより行うことができる。
【0032】
吹付け材料を吹き付けるには、
図2に示されるように、混練機10にセメント、水、骨材、混和剤などを投入して練り混ぜ、練り上がったモルタルやコンクリート(以下、「モルタル等」という。)を圧送ポンプ11でノズル12に向けて圧送する。その途中で、コンプレッサ13からの圧縮空気が混入されるとともに、急結剤供給装置14によって急結剤15が添加され、かつ撥水剤供給装置16によってシラン・シロキサン系撥水剤17が添加される。
【0033】
この吹付け装置において、シラン・シロキサン系撥水剤を添加しない吹付け材料を吹き付ける際は、前記撥水剤供給装置16の運転を停止して、シラン・シロキサン系撥水剤17をモルタル等に添加しないようにする。また、シラン・シロキサン系撥水剤17の添加率を、吹付け構造体1の層厚方向の外側に行くに従って漸次増大させる際は、撥水剤供給装置16の運転を調整して、モルタル等に対するシラン・シロキサン系撥水剤17の供給量を調整する。また、シラン・シロキサン系撥水剤100%からなる吹付け材料を吹き付ける際は、圧送ポンプ11及び急結剤供給装置14の運転を停止し、撥水剤供給装置16から供給された撥水剤17がコンプレッサ13の圧縮空気によってノズル12から噴射するようにする。
【0034】
次に、既存のコンクリート構造物30の外周部分に吹付け構造体1を形成する手順について説明する。先ずはじめに、
図1に示されるように、コンクリート構造物30の表面をケレンするとともに、欠損部分の補強や露出する鉄筋の防錆処理などを施した上で、コンクリート構造物30の周囲に鉄筋2を配筋する。この鉄筋2は、上下方向に沿うとともに、周方向に所定の間隔で配置された主筋2aと、その周囲を巻回するように周方向に沿うとともに、上下方向に所定の間隔で配置された帯筋2bとから構成される。
【0035】
鉄筋2の配筋が終了したならば、
図2に示される吹付け装置によって吹付け材料を吹き付ける。吹付けは、はじめに急結剤及びシラン・シロキサン系撥水剤以外の材料、すなわちセメント、水、骨材、混和剤などを混練機10で練り混ぜ、これを圧送ポンプ11で圧送し、途中でコンプレッサ13からの圧縮空気及び急結剤供給装置14からの急結剤15を混入してノズル12から噴射する。このときの吹付け要領は、常法に従って行うことができる。
【0036】
シラン・シロキサン系撥水剤を含まない吹付け材料の吹付けによって鉄筋2が埋没する程度の厚みの吹付け層が形成されたら、その上層に、前記圧送ポンプ11で圧送されたモルタル等にシラン・シロキサン系撥水剤を、吹付け層1の層厚方向の外側に行くに従って漸次添加率を増大させつつ添加して吹き付ける。
【0037】
その後、吹付け構造体1の表層にシラン・シロキサン系撥水剤100%からなる層を設ける場合には、セメントを含む吹付け材料の吹付け終了後、前記圧送ポンプ11を停止するとともに急結剤供給装置14を停止してモルタル等及び急結剤が供給されないようにし、撥水剤供給装置16からのシラン・シロキサン系撥水剤とコンプレッサ13からの圧縮空気のみがノズル12から噴射されるようにする。
【0038】
本発明に係る吹付け構造体1では、シラン・シロキサン系撥水剤の添加率を、吹付け層の層厚方向の外側に行くに従って漸次増大させているため、吹付け材料の吹付け作業だけで、表層部に撥水性及び収縮低減効果を付与でき、従来のように、吹付け後に表面が乾燥するのを待ってから、撥水剤を塗布するという手間が省略できる。また、撥水剤が吹付け構造体1の表層部から内部まで、必要な範囲に高密度で配置されるため、吹付け構造体1に十分な耐久性を付与することができる。
【0039】
また、層厚方向の途中から外側部分に、シラン・シロキサン系撥水剤が添加され、それより内側部分にはシラン・シロキサン系撥水剤が添加されないようにしているため、撥水効果が必要な外側部分に集中的に撥水剤を配置することができ、撥水剤の使用量が抑えられ、経済的である。
【0040】
また、吹付け構造体1の表層にシラン・シロキサン系撥水剤100%からなる層が設けた場合には、吹付け構造体1の表層が撥水剤によって保護される。
【0041】
〔他の形態例〕
上記形態例では、湿式の吹付け方法に適用した場合について説明したが、乾式の吹付け方法についても同様に適用できる。
【符号の説明】
【0042】
1…モルタル・コンクリート吹付け構造体(吹付け構造体)、2…鉄筋、10…混練機、11…圧送ポンプ、12…ノズル、13…コンプレッサ、14…急結剤供給装置、15…急結剤、16…撥水剤供給装置、17…撥水剤、30…既設のコンクリート構造物