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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025230
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】移動量推定装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 21/28 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
G01C21/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129822
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成重 篤志
(72)【発明者】
【氏名】山元 左近
【テーマコード(参考)】
2F129
【Fターム(参考)】
2F129AA03
2F129BB03
2F129BB15
2F129BB20
2F129BB22
2F129BB33
2F129BB35
2F129BB36
2F129BB66
2F129EE70
2F129EE78
2F129GG17
2F129GG18
2F129HH20
(57)【要約】
【課題】車両の移動量の推定において、瞬時的誤差の影響を抑制する。
【解決手段】移動量推定装置100は、移動体に設けられる外界センサ224であって、移動体の外部の物標OBに関する外界情報を検出可能な外界センサによって検出された外界情報を用いて外界移動量CDを取得する外界移動量取得部114と、移動体に設けられる少なくとも一の内界センサ222であって、移動体の移動に関する内界情報を検出可能な内界センサによって検出された内界情報を用いて内界移動量を取得する内界移動量取得部116と、外界移動量と内界移動量との少なくともいずれかを用いて移動体の移動量を推定する移動量推定部120と、を備える。移動量推定部は、外界移動量と内界移動量との差を取得し、取得された差が予め定められた閾値以下であるか否かに基づいて、外界移動量と内界移動量とのいずれを用いて移動量を推定するかを決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の移動量を推定する移動量推定装置(100)であって、
前記移動体に設けられる少なくとも一の外界センサ(224)であって、前記移動体の外部の物標(OB)に関する外界情報を検出可能な外界センサによって検出された前記外界情報を用いて、前記移動体の移動量としての外界移動量(CD)を取得する外界移動量取得部(114)と、
前記移動体に設けられる少なくとも一の内界センサ(222)であって、前記移動体の移動に関する内界情報を検出可能な内界センサによって検出された前記内界情報を用いて、前記移動体の移動量としての内界移動量を取得する内界移動量取得部(116)と、
前記外界移動量と前記内界移動量との少なくともいずれかを用いて前記移動体の移動量を推定する移動量推定部(120)と、を備え、
前記移動量推定部は、
前記外界移動量と前記内界移動量との差を取得し、
取得された前記差が予め定められた閾値以下であるか否かに基づいて、取得された前記外界移動量と前記内界移動量とのいずれを用いて前記移動量を推定するかを決定する、
移動量推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の移動量推定装置であって、
さらに、前記移動量を補正するための補正値(CV)を、取得された前記差が前記閾値以下であるか否かに応じて決定する補正値決定部(118)を備え、
前記移動量推定部は、前記内界移動量と、決定された前記補正値とを用いて、前記移動量を推定する、
移動量推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の移動量推定装置であって、
前記閾値は、少なくとも前回以前に決定された前記補正値を用いて決定される前回補正値(CV(n-1))を用いて設定され、
前記補正値決定部は、今回取得された前記外界移動量と今回取得された前記内界移動量との差である今回差が、前記前回補正値以下であるか否かに基づいて、異なる前記補正値を決定する、
移動量推定装置。
【請求項4】
請求項3に記載の移動量推定装置であって、
前記補正値決定部は、前記今回差が前記前回補正値以下である場合に、前記今回差を今回の補正値として決定し、
前記移動量推定部は、今回取得された前記内界移動量と、決定された前記補正値とを用いて、前記移動量を推定する、
移動量推定装置。
【請求項5】
請求項3に記載の移動量推定装置であって、
前記補正値決定部は、前記今回差が前記前回補正値よりも大きい場合には、前記前回補正値を今回の補正値として決定する、
移動量推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の移動量推定装置であって、
前記移動量推定部は、
前記今回差が前記前回補正値よりも大きい場合に、今回取得された前記外界移動量と前回取得された前記外界移動量との差である外界移動量差と、今回取得された前記内界移動量と前回取得された前記内界移動量との差である内界移動量差とを取得し、
取得された前記外界移動量差が前記内界移動量差以上であるか否かに基づいて、取得された前記外界移動量と前記内界移動量とのいずれを用いて前記移動量を推定するかを決定する、
移動量推定装置。
【請求項7】
請求項6に記載の移動量推定装置であって、
前記補正値決定部は、取得された前記外界移動量差が前記内界移動量差以上である場合には、前記前回補正値を前記今回の補正値として前記補正値を決定し、
前記移動量推定部は、今回取得された前記内界移動量と、決定された前記補正値とを用いて、前記移動量を推定する、
移動量推定装置。
【請求項8】
請求項6に記載の移動量推定装置であって、
前記補正値決定部は、取得された前記外界移動量差が前記内界移動量差未満である場合には、前記前回補正値を前記今回の補正値として前記補正値を決定し、
前記移動量推定部は、今回取得された前記外界移動量を用いて、前記移動量を推定する、
移動量推定装置。
【請求項9】
前記外界センサは、複数の魚眼カメラを含むマルチカメラである、請求項1に記載の移動量推定装置。
【請求項10】
前記外界センサは、複数のピンホールカメラを含むマルチカメラである、請求項1に記載の移動量推定装置。
【請求項11】
前記内界センサは、車輪速センサである、請求項1に記載の移動量推定装置。
【請求項12】
推定される前記移動量は、前記移動体の移動距離を示すスカラー値、または前記移動体の移動距離と前記移動体の旋回角度とを含むベクトル値である、請求項1に記載の移動量推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、移動量推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車両の外部の無線機と、車両側無線機との相対的な位置関係に基づいて車両の移動量を算出する無線位置推定部と、車輪速などを検知するセンサの情報を用いて車両の移動量を算出する車両位置推定部とを備える自車位置推定装置が開示されている。この自車位置推定装置は、無線位置推定部が算出した移動量と、車両位置推定部が算出した移動量とを比較して、両者の差分が小さくなるように車両の移動量を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-182862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の技術では、車両の移動量を補正するために、車両の外部に設けられる無線機を用いる。そのため、車両に備えられる装置のみで車両の移動量を推定することが求められている。この場合において、移動量の検出精度を向上させる観点から、検出結果に対するノイズの影響が抑制されることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、移動体の移動量を推定する移動量推定装置(100)が提供される。この移動量推定装置は、前記移動体に設けられる少なくとも一の外界センサ(224)であって、前記移動体の外部の物標(OB)に関する外界情報を検出可能な外界センサによって検出された前記外界情報を用いて、前記移動体の移動量としての外界移動量(CD)を取得する外界移動量取得部(114)と、前記移動体に設けられる少なくとも一の内界センサ(222)であって、前記移動体の移動に関する内界情報を検出可能な内界センサによって検出された前記内界情報を用いて、前記移動体の移動量としての内界移動量を取得する内界移動量取得部(116)と、前記外界移動量と前記内界移動量との少なくともいずれかを用いて前記移動体の移動量を推定する移動量推定部(120)と、を備える。前記移動量推定部は、前記外界移動量と前記内界移動量との差を取得し、取得された前記差が予め定められた閾値以下であるか否かに基づいて、取得された前記外界移動量と前記内界移動量とのいずれを用いて前記移動量を推定するかを決定する。
【0007】
この形態の移動量推定装置によれば、外界移動量と内界移動量との差が閾値以下である否かにより、取得された外界移動量と内界移動量とのいずれに瞬時的誤差が含まれるか否かを判定することができる。したがって、瞬時的誤差が発生していない外界移動量と内界移動量といずれかを用いることにより、移動量の推定において、瞬時的誤差の影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1実施形態に係る移動量推定装置の構成を示す説明図。
図2】移動量推定装置の内部機能構成を示すブロック図。
図3】移動距離に対する外界移動量の誤差の変化を示すグラフ。
図4】車両の移動量を推定する処理における処理ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態に係る移動量推定装置100の構成を示す説明図である。移動量推定装置100は、車両200の移動量を推定する。車両200の移動量とは、例えば、回転行列および並行移動行列を含む並進回転移動量である。本実施形態では、移動量推定装置100は、車両200に搭載されるECU(Electronic Control Unit)であり、走行制御など、車両200の各種の制御を実行することも可能である。なお、移動量推定装置100は、ECUとは別体として車両200に設けられてもよく、また、外部のサーバなど、車両200の外部の装置によって実現されてもよい。
【0010】
移動量推定装置100による車両200の移動量の推定結果は、車両200の走行制御に利用される。「車両200の走行制御」とは、例えば、車両200の自動運転を制御する自動運転制御、運転支援制御などである。運転支援制御とは、車両200を走行車線に沿って走行させるための車線維持制御、ならびにリスク回避制御などである。「リスク回避制御」とは、車両200と物体との衝突リスクを低減するための操舵制御と制動制御とのうち少なくともいずれかを行う制御を意味する。車両200の走行制御では、車両200の位置に関する情報が用いられる。車両200の位置は、移動量推定装置100によって推定される車両200の移動量を用いて推定される。
【0011】
車両200は、例えば、乗用車、トラック、バス、ならびに工事用車両などである。本実施形態では、車両200は、電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)である。車両200は、電気自動車に限らず、例えば、ガソリン自動車、ハイブリッド自動車、ならびに燃料電池自動車でもよい。車両200は、内界センサ222、外界センサ224、および移動量推定装置100を備えている。
【0012】
内界センサ222は、車両200の走行に関するデータである内界情報を検出する。内界情報あるいはその解析等によって、車両200の移動量を取得することができる。内界情報は、例えば、車両200の移動量であってもよく、車両200の位置やこれらを取得可能な車両200の走行に関する種々のデータであってもよい。内界情報を用いて取得される車両200の移動量のことを「内界移動量」とも呼ぶ。
【0013】
本実施形態では、内界センサ222は、車輪212に設けられる車輪速センサであり、内界情報は、車輪212の回転量あるいは車輪212の回転速度などである。例えば、内界センサ222によって得られる回転量に車輪212の円周を乗じることによって、内界移動量としての車両200の移動量を取得することができる。内界センサ222は、車輪速センサのみには限らず、操舵角センサ、ヨーレートセンサ、IMU(Inertial Measurement Unit)、GNSS(Global Navigation Satellite System/全球測位衛星システム)受信機などであってもよく、あるいはこれらが任意に組み合わせられてもよい。内界移動量は、車両200の移動距離を示すスカラー値、または車両200の移動距離および車両200の旋回角度などを含むベクトル値であってもよい。
【0014】
図1には、内界移動量SD(n)が概念的に示されている。内界移動量SD(n)は、内界センサ222の検出結果から得られる車両200の移動量である。内界移動量SD(n)は、例えば、前回の処理ルーチンから今回の処理ルーチン間の期間に検出された車輪速及び操舵角の履歴に基づいて算出することができる。所定の処理ルーチンの時点での車両200の位置を車両位置P(n)とし、前回の処理ルーチンあるいはそれ以前の時点での車両200の位置を車両位置P(n-1)としたとき、前回の車両位置P(n-1)から今回の車両位置P(n)までの移動量が今回の内界移動量SD(n)である。図1には、前回の内界移動量SD(n-1)、および次回の内界移動量SD(n+1)も示されている。
【0015】
外界センサ224は、車両200の外部の物標OBに関するデータである外界情報を検出する。物標OBとは、例えば、白線、ポール、電信柱、標識、看板、建物などの静止物体などである。外界情報あるいはその解析等によって、車両200の移動量を取得することができる。外界情報は、物標OBの移動量であってもよく、物標OBの位置やこれらを取得可能な物標OBの移動に関する種々のデータであってもよい。外界情報を用いて取得される車両200の移動量のことを「外界移動量」とも呼ぶ。
【0016】
本実施形態では、外界センサ224は、車両200の前後左右に設けられる4台の魚眼カメラを含むマルチカメラであり、外界情報は、物標OBの画像データなどである。なお、魚眼カメラとは、魚眼レンズを利用したカメラである。ただし、外界センサ224は、魚眼カメラに代えて、またはそれとともにピンホールカメラを含むマルチカメラとされてもよい。ピンホールカメラを用いることにより、簡易な構成の外界センサ224によって車両200の外部の物標を検出することができる。外界センサ224は、カメラのみには限定されず、LiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)やレーダ装置などであってもよい。外界情報は、外界センサ224がLiDARである場合には、3次元点群データである。3次元点群データとは、点群の3次元位置などを示すデータである。外界移動量は、車両200の移動距離を示すスカラー値、または車両200の移動距離および車両200の旋回角度などを含むベクトル値であってもよい。
【0017】
図1には、外界移動量CD(n)が概念的に示されている。外界移動量CD(n)は、外界センサ224の検出結果から得られる車両200の移動量である。絶対座標系における物標OBの絶対位置は、既知である。外界センサ224に対する物標OBの相対位置FP(n)は、外界センサ224による検出結果に基づいて算出される。外界移動量CD(n)は、例えば、前回の処理ルーチン時に算出された相対位置FP(n-1)から今回の処理ルーチン時に算出された相対位置FP(n)までの移動量である。所定の処理ルーチンの時点での物標OBの位置を相対位置FP(n)とし、前回の処理ルーチンあるいはそれ以前の時点での物標OBの位置を相対位置FP(n-1)としたとき、前回の相対位置FP(n-1)から今回の相対位置FP(n)までの移動量が今回の外界移動量CD(n)である。図1には、前回の外界移動量CD(n-1)、および次回の外界移動量CD(n+1)も示されている。
【0018】
図2は、移動量推定装置100の内部機能構成を示すブロック図である。移動量推定装置100は、中央演算処理装置としてのCPU110と、記憶装置130と、インタフェース回路150とを備えている。CPU110と、記憶装置130と、インタフェース回路150とは、内部バスを介して双方向に通信可能に接続されている。インタフェース回路150には、アクチュエータ群210と、センサ類220とが接続されている。移動量推定装置100が車両200の外部に備えられる場合には、さらに、ネットワーク等を介して車両200と通信を行うための通信装置がインタフェース回路150に接続されてもよい。
【0019】
記憶装置130は、たとえば、HDD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)、光記録媒体、半導体メモリ等である。記憶装置130の読み書き可能な領域には、外界移動量CDと、内界移動量SDと、補正値CVとが格納されている。補正値CVは、後述するように、車両200の移動量の算出に用いられる。本実施形態では、補正値CVは、内界移動量SDが外界移動量CDに整合するように補正する。補正値CVは、例えば、外界移動量CDと内界移動量SDとの差の算出により取得することができる。
【0020】
記憶装置130には、本実施形態において提供される機能の少なくとも一部を実現するためのコンピュータプログラムが格納されている。記憶装置130に記憶されたコンピュータプログラムがCPU110によって実行されることにより、CPU110は、走行制御部112、外界移動量取得部114、内界移動量取得部116、補正値決定部118、ならびに移動量推定部120として機能する。ただし、これらの機能の一部または全部はハードウェア回路によって構成されてもよい。
【0021】
走行制御部112は、車両200の走行制御、および車両200の運転制御を実行する。「運転制御」とは、例えば、加速度、速度、ならびに舵角の調整など、車両200の「走る」、「曲がる」、「止まる」の機能を発揮するアクチュエータ群210を駆動させるための種々の制御である。アクチュエータ群210には、車両200を加速させるための駆動装置のアクチュエータ、車両200を減速させるための制動装置のアクチュエータ、および車両200の進行方向を変更するための操舵装置のアクチュエータなどが含まれている。
【0022】
外界移動量取得部114は、外界センサ224によって検出された外界情報を用いて外界移動量CDを取得する。取得された外界移動量CDは、記憶装置130に格納される。内界移動量取得部116は、内界センサ222によって検出された内界情報を用いて内界移動量SDを取得する。取得された内界移動量SDは、記憶装置130に格納される。
【0023】
補正値決定部118は、補正値CVを決定する。本実施形態では、補正値決定部118は、内界移動量SDに発生する漸次的誤差、あるいは内界移動量SDや外界移動量CDに瞬時的誤差が発生したか否かの判定結果に対応する補正値CVを決定する。決定された補正値CVは、記憶装置130に格納される。
【0024】
所定の期間中における内界移動量SDと、外界移動量CDとは、互いに一致しないことがある。例えば、内界移動量SDには、車輪212の径のばらつきや変化、車輪212の空気圧の減少などに起因する漸次的に蓄積され得る誤差(以下、「漸次的誤差」とも呼ぶ。)が発生することがある。漸次的誤差は、一般的に、車両200の走行距離の増加にともなって増加する。取得された内界移動量SDを、補正値CVを用いて補正することにより、内界移動量SDの検出値は外界移動量CDに整合される。この結果、漸次的誤差の影響を低減することができ、車両200の移動量の推定精度を向上させることができる。
【0025】
図3は、移動距離に対する外界移動量の誤差の変化を示すグラフである。横軸は、車両200の移動距離であり、縦軸は、外界移動量の検出誤差の大きさを示している。例えば、外界センサ224がカメラである場合には、車両200外部の視界不良などにより物標OBの特徴点の検出ミスなどが発生することがある。この場合には、図3の誤差P1で示すように、検出ミスに起因する一時的な誤差が外界移動量CDに発生することがある。一時的に発生する誤差を「瞬時的誤差」とも呼ぶ。内界センサ222では、例えば、走行中における車輪212のスリップや車輪212の空転などが発生すると、これらに起因する瞬時的誤差が内界移動量SDに発生することがある。瞬時的誤差を含んだ状態で車両200の移動量が算出されると、車両200の移動量の推定精度は低下する。そのため、取得された外界移動量CDおよび内界移動量SDに瞬時的誤差が含まれるか否かを検出し、検出結果に対応する算出方法あるいは補正値CVを用いて、車両200の移動量を算出することが望ましい。
【0026】
外界移動量CDおよび内界移動量SDに瞬時的誤差が含まれるか否かは、外界移動量CDと内界移動量SDとの乖離を確認することによって判定する。例えば、外界移動量CDと内界移動量SDとの差を算出し、当該差が所定の閾値を超えたか否かによって判定することができる。本実施形態では、閾値は、前回の処理ルーチン時に決定された補正値CV(「前回補正値」とも呼ぶ。)で設定されている。具体的には、今回の処理ルーチン時の外界移動量CDと今回の内界移動量SDとの差である今回差が、前回の処理ルーチン時の外界移動量CDと前回の内界移動量SDとの差である前回差よりも大きい場合に、瞬時的誤差が発生したと推定する。なお、今回差は、今回の処理ルーチン時に決定される補正値CV(「今回補正値」とも呼ぶ。)と等しく、前回差は、前回の処理ルーチン時に決定される補正値CVと等しい。閾値は、前回に変えて前々回など、前回以前に決定された補正値CVで設定されてもよい。また、閾値は、固定値で設定されてもよく、例えば、前回以前の補正値CVの平均値など、過去の補正値CVを用いて任意に設定されてもよい。
【0027】
図2に戻り、移動量推定部120は、車両200の移動量を推定する。移動量推定部120は、今回取得された内界移動量SD、外界移動量CD、ならびに補正値CV、あるいは記憶装置130に格納された内界移動量SD、外界移動量CD、ならびに補正値CVのうち少なくともいずれかを用いて移動量を推定する。本実施形態では、移動量推定部120は、後述するように、内界移動量SDや外界移動量CDに瞬時的誤差が発生したか否かの判定結果に応じて異なる算出方法で車両200の移動量を推定する。
【0028】
図4は、車両200の移動量を推定する処理における処理ルーチンを示すフローチャートである。本フローは、例えば、車両200あるいは移動量推定装置100の起動により開始される。本フローは、例えば1秒や0.1秒などの所定の時間ごとに繰り返し実行され得る。
【0029】
ステップS10では、外界移動量取得部114は、外界センサ224の検出結果を取得し、今回の外界移動量を算出する。算出される今回の外界移動量を「外界移動量CD(n)」とも呼ぶ。また、記憶装置130に格納されている外界移動量CDを「前回の外界移動量」あるいは「外界移動量CD(n-1)」とも呼ぶ。
【0030】
ステップS20では、内界移動量取得部116は、内界センサ222の検出結果を取得し、今回の内界移動量を算出する。算出される今回の内界移動量を「内界移動量SD(n)」とも呼ぶ。また、記憶装置130に格納されている内界移動量SDを「前回の内界移動量」あるいは「内界移動量SD(n-1)」とも呼ぶ。
【0031】
ステップS30では、移動量推定部120は、外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)との差が、閾値としての補正値CV以下であるか否かを確認する。補正値CVは、記憶装置130に格納された補正値CVである。記憶装置130に格納されている補正値CVを「前回の補正値」あるいは「補正値CV(n-1)」とも呼ぶ。
【0032】
本実施形態では、移動量推定部120は、外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)との差の絶対値が、補正値CVの絶対値以下であるか否かを確認する。具体的には、移動量推定部120は、以下の式(1)を満たすか否かを確認する。式(1)を用いることにより、外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)とのいずれかに瞬時的誤差が発生したか否かを判定することができる。
【0033】
|外界移動量CD(n)-内界移動量SD(n)|≦|補正値CV(n-1)|
・・・式(1)
【0034】
式(1)を満たす場合(S30:YES)、すなわち瞬時的誤差が発生しなかったと判定された場合、移動量推定部120は、処理をステップS40へと移行する。ステップS40では、補正値決定部118は、補正値CV(n)を、「外界移動量CD(n)-内界移動量SD(n)」の算出値に決定する。決定された補正値CV(n)は、記憶装置130に格納されて更新される。
【0035】
ステップS50では、移動量推定部120は、取得された外界移動量CD(n)を、記憶装置130の外界移動量CDに上書きして更新する。ステップS60では、移動量推定部120は、取得された内界移動量SD(n)を、記憶装置130の内界移動量SDに上書きして更新する。
【0036】
ステップS70では、移動量推定部120は、今回の内界移動量SD(n)に、ステップS40で決定された補正値CV(n)を足し合わせて得られた値を、車両200の移動量として取得する。移動量推定部120は、取得された車両200の移動量を走行制御部112に出力して、本フローを終了する。
【0037】
ステップS30において、式(1)を満たさない場合(S30:NO)、移動量推定部120は、処理をステップS32へと移行する。ステップS32では、移動量推定部120は、外界移動量CD(n)と外界移動量CD(n-1)との差(以下、「外界移動量差」とも呼ぶ。)と、内界移動量SD(n)と内界移動量SD(n-1)との差(以下、「宇内界移動量差」とも呼ぶ。)と、を比較する。具体的には、移動量推定部120は、以下の式(2)を満たすか否かを確認する。式(2)を用いることにより、瞬時的誤差が内界移動量SDと、外界移動量CDとのいずれに発生したかを判定することができる。
【0038】
|外界移動量CD(n)-外界移動量CD(n-1)|≧|内界移動量SD(n)-内界移動量SD(n-1)| ・・・式(2)
【0039】
式(2)を満たす場合(S32:YES)、移動量推定部120は、処理をステップS100へと移行する。式(2)を満たす場合とは、外界移動量CD(n)に瞬時的誤差が発生したと判定された場合である。ステップS100では、補正値決定部118は、記憶装置130に格納された前回補正値CV(n-1)を今回補正値CV(n)に決定する。すなわち、補正値決定部118は、記憶装置130に格納された補正値CVを更新しない。これにより、瞬時的誤差が発生した外界移動量CD(n)を用いて算出された補正値によって車両200の移動量が推定されることを防止することができる。なお、ステップS100は省略されてもよい。
【0040】
ステップS110では、移動量推定部120は、記憶装置130に格納された外界移動量CDを、内界移動量SD(n)に補正値CV(n)を足し合わせて得られた算出値で上書きして更新する。内界移動量SDを用いた算出結果で外界移動量CDを更新することにより、瞬時的誤差が発生したと推定される外界移動量CD(n)を用いて車両200の移動量が推定されることを防止することができる。ステップS120では、移動量推定部120は、ステップS60と同様に、取得された内界移動量SD(n)を、記憶装置130の内界移動量SDに上書きして更新する。
【0041】
ステップS130では、移動量推定部120は、取得された今回の内界移動量SD(n)に、ステップS100で決定された補正値CV(n)、すなわち補正値CV(n-1)を足し合わせて得られた値を、車両200の移動量として取得する。移動量推定部120は、取得された車両200の移動量を走行制御部112に出力して、本フローを終了する。
【0042】
ステップS32において、式(2)を満たさない場合(S32:NO)、移動量推定部120は、処理をステップS200へと移行する。式(2)を満たさない場合とは、内界移動量SD(n)に瞬時的誤差が発生したと判定された場合である。ステップS200では、補正値決定部118は、記憶装置130に格納された前回補正値CV(n-1)を今回補正値CV(n)に決定する。すなわち、補正値決定部118は、記憶装置130に格納された補正値CVを更新しない。これにより、瞬時的誤差が発生した内界移動量SD(n)を用いて算出された補正値によって車両200の移動量が推定されることを防止することができる。なお、ステップS200は省略されてもよい。
【0043】
ステップS210では、移動量推定部120は、取得された外界移動量CD(n)を、記憶装置130に格納された外界移動量CDに上書きして更新する。ステップS220では、移動量推定部120は、取得された外界移動量CD(n)を、記憶装置130に格納された内界移動量SDに上書きして更新する。外界移動量CD(n)を用いて内界移動量SDを更新することにより、瞬時的誤差が発生したと推定される内界移動量SD(n)を用いて車両200の移動量が推定されることを防止することができる。
【0044】
ステップS230では、移動量推定部120は、取得された今回の外界移動量CD(n)に、ステップS200で決定された補正値CV(n)、すなわち補正値CV(n-1)を足し合わせて得られた値を、車両200の移動量として取得する。移動量推定部120は、取得された車両200の移動量を走行制御部112に出力して、本フローを終了する。
【0045】
以上、説明したように、本実施形態の移動量推定装置100によれば、移動量推定部120は、外界移動量CDと内界移動量SDとの差が予め定められた閾値以下であるか否かに基づいて、取得された外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)とのいずれを用いて車両200の移動量を推定するかを決定する。外界移動量CDと内界移動量SDとの差が閾値以下である否かにより、取得された外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)とのいずれに瞬時的誤差が含まれるか否かを判定することができる。したがって、瞬時的誤差が発生していない外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)といずれかを用いることにより、次の車両200の移動量の推定において、瞬時的誤差の影響を抑制することができる。
【0046】
本実施形態の移動量推定装置100によれば、さらに、取得された外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)との差が閾値以下であるか否かに基づいて、補正値CVを決定する補正値決定部118を備えている。取得された外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)とのいずれかに瞬時的誤差が含まれるか否かに基づいて補正値CVが決定されるので、瞬時的誤差が発生した場合の補正値CVが移動量の算出に用いられることを防止することができる。したがって、車両200の移動量の推定において、瞬時的誤差の影響を抑制することができる。
【0047】
本実施形態の移動量推定装置100によれば、閾値は、前回あるいはそれ以前に決定された前回補正値CV(n-1)を用いて定められている。補正値決定部118は、今回取得された外界移動量CD(n)と今回取得された内界移動量SD(n)との差である今回差が、前回補正値CV(n-1)以下であるか否かに基づいて、補正値CV(n)を決定する。過去に決定された実績がある補正値を閾値として用いることにより、閾値を用いた瞬時的誤差の検出確率を高めることができる。
【0048】
本実施形態の移動量推定装置100によれば、補正値決定部118は、今回差が前回補正値CV(n-1)以下である場合に、今回差を今回の補正値CV(n)として補正値CVを決定する。移動量推定部120は、今回取得された内界移動量SD(n)と、決定された補正値CVとを用いて、車両200の移動量を推定する。瞬時的誤差が発生していないと推定される場合には、内界移動量SD(n)を外界移動量CD(n)に整合させるように補正することにより、車両200の移動量の推定精度を向上させることができる。
【0049】
本実施形態の移動量推定装置100によれば、補正値決定部118は、今回差が前回補正値CV(n-1)よりも大きい場合には、前回補正値CV(n-1)を今回補正値CV(n)として補正値CVを決定する。瞬時的誤差が発生したと推定される場合には、補正値を更新しないことにより、次の車両200の移動量の推定において、瞬時的誤差の影響を抑制することができる。
【0050】
本実施形態の移動量推定装置100によれば、移動量推定部120は、今回差が前回補正値CV(n-1)よりも大きい場合に、外界移動量差と内界移動量差とを取得する。移動量推定部120は、取得された外界移動量差が内界移動量差以上であるか否かに基づいて、取得された外界移動量CDと内界移動量SDとのいずれを用いて移動量を推定するかを決定する。外界移動量差が内界移動量差以上であるか否かにより、瞬時的誤差が外界移動量CD(n)と内界移動量SD(n)とのいずれに発生したかを判定することができる。したがって、取得された外界移動量CDと内界移動量SDとのうち瞬時的誤差は発生していない方を用いることにより、車両200の移動量の推定精度を向上させることができる。
【0051】
本実施形態の移動量推定装置100によれば、補正値決定部118は、外界移動量差が内界移動量差以上である場合には、前回補正値CV(n-1)を今回の補正値CV(n)として補正値CVを決定する。移動量推定部120は、今回取得された内界移動量SD(n)と、決定された補正値CVとを用いて、車両200の移動量を推定する。外界移動量CD(n)に瞬時的誤差が発生したと推定される場合に、補正値CVを更新せず、前回補正値CV(n-1)と、内界移動量SD(n)を用いることにより、瞬時的誤差の影響を低減することができる。
【0052】
本実施形態の移動量推定装置100によれば、補正値決定部118は、外界移動量差が内界移動量差未満である場合には、前回補正値CV(n-1)を今回の補正値CV(n)として補正値CVを決定する。移動量推定部120は、今回取得された外界移動量CD(n)を用いて、車両200の移動量を推定する。内界移動量SD(n)に瞬時的誤差が発生したと推定される場合に、補正値CVを更新せず、内界移動量SD(n)に代えて外界移動量CD(n)を用いることにより、瞬時的誤差の影響を低減することができる。
【0053】
B.他の実施形態:
(B1)上記第1実施形態では、車両200が乗用車、トラック、バス、ならびに工事用車両などである例を示した。ただし、車両200は、これらに限らず、二輪車、四輪車などの種々の自動車や電車などを含んでもよい。また、車両200以外の種々の移動体であってもよい。「移動体」とは、移動し得る物体を意味する。移動体は、例えば、電動垂直離着陸機(いわゆる空飛ぶ自動車)、船舶、航空機、ロボット、リニアモーターカーなどが含まれる。この場合には、本開示における「車両」「車」との表現を、適宜に「移動体」に置き換えることができ、「走行」との表現を、適宜に「移動」に置き換えることができる。
【0054】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0055】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
100…移動量推定装置、114…外界移動量取得部、116…内界移動量取得部、118…補正値決定部、120…移動量推定部、222…内界センサ、224…外界センサ、CD…外界移動量、OB…物標、SD…内界移動量
図1
図2
図3
図4