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特開2025-25233筋肉増強剤、筋肉増強用経口組成物及びプラズマローゲンの使用
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  • 特開-筋肉増強剤、筋肉増強用経口組成物及びプラズマローゲンの使用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025233
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】筋肉増強剤、筋肉増強用経口組成物及びプラズマローゲンの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/683 20060101AFI20250214BHJP
   A61K 31/685 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20250214BHJP
   A61K 35/57 20150101ALI20250214BHJP
   A61K 35/618 20150101ALI20250214BHJP
   A61K 35/655 20150101ALI20250214BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20250214BHJP
【FI】
A61K31/683
A61K31/685
A61P43/00 107
A61P21/00
A61K35/57
A61K35/618
A61K35/655
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129825
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(74)【代理人】
【識別番号】100146916
【弁理士】
【氏名又は名称】廣石 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】庭瀬 紗明
(72)【発明者】
【氏名】本庄 雅則
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB05
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018MD45
4B018MD69
4B018MD70
4B018MD75
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA41
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZB22
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB16
4C087BB27
4C087BB33
4C087MA16
4C087MA28
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA41
4C087MA43
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA94
4C087ZB22
(57)【要約】
【課題】筋衛星細胞賦活作用を有する安全性の高い筋肉増強剤及び筋肉増強用経口組成物を提供する。
【解決手段】筋肉増強剤は、プラズマローゲンを有効成分として含む。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマローゲンを有効成分として含む、
筋肉増強剤。
【請求項2】
プラズマローゲンを有効成分として含む、
筋肉増強用経口組成物。
【請求項3】
前記プラズマローゲンは、
動物組織から抽出されたプラズマローゲンである、
請求項1に記載の筋肉増強剤又は請求項2に記載の筋肉増強用経口組成物。
【請求項4】
前記動物組織は、
貝類、ホヤ及び鳥類からなる群から選択される動物の組織である、
請求項3に記載の筋肉増強剤又は筋肉増強用経口組成物。
【請求項5】
前記動物組織は、
ホタテ類の組織である、
請求項3に記載の筋肉増強剤又は筋肉増強用経口組成物。
【請求項6】
筋肉増強剤又は筋肉増強用経口組成物の製造のためのプラズマローゲンの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋肉増強剤、筋肉増強用経口組成物及びプラズマローゲンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋は人体で最大の組織であり、身体を支える、手足を動かす等の重要な役割を有する。運動不足、寝たきり、ギブスで固定する等、筋を一定期間使わない状態が続くと筋は小さくなり、その機能が低下する。ヒトの筋は40歳以降から毎年1%以上ずつ減少し、80歳になると最大筋量の50%レベルまで減少する。筋の減少は、元気に自立して過ごせる期間である“健康寿命”を脅かすだけでなく、関節炎、腰痛、慢性の痛みを増加させる。そのため、超高齢化社会を迎えた日本において加齢に伴い筋量又は筋力が低下する加齢性筋脆弱症(サルコペニア)等の運動器疾患の問題が顕在化している。
【0003】
筋の再生能力の大部分を担っているのは骨格筋幹細胞である筋衛星細胞である。通常、筋衛星細胞は静止状態にあり増殖しないが、激しい運動等によって骨格筋が損傷する等の刺激を受けると、活性化されて筋分化制御因子MyoDを発現することで筋芽細胞と呼ばれる前駆細胞となる。非特許文献1では、MyoDの発現が減少することにより、筋量が減少してサルコペニアになるという報告がなされている。
【0004】
筋芽細胞が筋管細胞へ分化し、さらに筋管細胞が融合した筋線維によって筋は成り立っている。筋衛星細胞は、筋再生に加え、発育段階での筋の成長及び筋力トレーニングによる筋肥大においても欠かせない役割を担っている。また、筋ジストロフィー等の難治性筋疾患及び増加の一途を辿るサルコペニアの病態においては、筋衛星細胞の数の減少及び機能の低下がみられる。
【0005】
これまでに、高負荷な運動による筋衛星細胞の活性化法が示されている。非特許文献2には、最大挙上重量(1RM)の80%以上の強度で、挙上回数8~12回/セットを2~3セット、週3回の頻度での3か月以上の期間の筋力トレーニングで筋衛星細胞と筋線維断面積の増加が報告されている。
【0006】
また、特許文献1には、筋芽細胞の賦活又は筋タンパク質の合成を促進することを意図して、ベルガモットの植物抽出物を有効成分として含有する筋肉活性化剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2023-029511号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Jin-A Kim,外6名,「Sinensetin regulates age-related sarcopenia in cultured primary thigh and calf muscle cells」,BMC Complementary and Alternative Medicine,2019年,19:287,1-8
【非特許文献2】Lex B. Verdijk,外5名,「Satellite cell content is specifically reduced in type II skeletal muscle fibers in the elderly」,Am J Physiol Endocrinol Metab,2007年,292,E151-E157
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献2に開示された高負荷な運動は、実施者の負担がかなり大きく安全とは言い難い。高負荷な運動は特に高齢者にとって実施が困難である。特許文献1に開示された筋肉活性化剤は、筋衛星細胞への効果が不明である。筋衛星細胞賦活作用を有する安全性の高い筋肉増強剤及び筋肉増強用経口組成物が求められている。
【0010】
本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり、筋衛星細胞賦活作用を有する安全性の高い筋肉増強剤及び筋肉増強用経口組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、当該筋肉増強剤又は筋肉増強用経口組成物の製造のためのプラズマローゲンの使用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る筋肉増強剤は、
プラズマローゲンを有効成分として含む。
【0012】
本発明の第2の観点に係る筋肉増強用経口組成物は、
プラズマローゲンを有効成分として含む。
【0013】
前記プラズマローゲンは、
動物組織から抽出されたプラズマローゲンである、
こととしてもよい。
【0014】
前記動物組織は、
貝類、ホヤ及び鳥類からなる群から選択される動物の組織である、
こととしてもよい。
【0015】
前記動物組織は、
ホタテ類の組織である、
こととしてもよい。
【0016】
本発明の第3の観点に係る使用は、
筋肉増強剤又は筋肉増強用経口組成物の製造のためのプラズマローゲンの使用である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、筋衛星細胞賦活作用を有する安全性の高い筋肉増強剤及び筋肉増強用経口組成物が提供される。また、本発明によれば、当該筋肉増強剤又は筋肉増強用経口組成物の製造のためのプラズマローゲンの使用が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】免疫染色された大腿筋の筋線維の蛍光顕微鏡画像を示す図である。
図2】ヒラメ筋におけるAMPKのリン酸化の解析結果を示す図である。Aはリン酸化されたAMPK(pAMPK)に係るウエスタンブロッティングの結果を示す。Bはウエスタンブロッティングの結果に基づくpAMPK/AMPKの相対量を示す。
図3】ヒラメ筋におけるMyoDの発現評価結果を示す図である。AはMyoDに係るウエスタンブロッティングの結果を示す。Bはウエスタンブロッティングの結果に基づくMyoDの相対量を示す。
図4】筋線維の直径の測定結果を示す図である。Aは大腿筋の明視野観察画像を示す。Bは筋繊維の直径を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0020】
本実施の形態に係る筋肉増強剤は、プラズマローゲンを有効成分として含む。プラズマローゲンは、グリセロール骨格のsn-1位にビニルエーテル結合を有し、sn-2位にエステル結合を有することで特徴づけられるグリセロリン脂質に特有のサブクラスに属する。プラズマローゲンは、多くの哺乳類の組織の細胞膜中に高濃度に存在する。
【0021】
筋肉増強剤に含有されるプラズマローゲンは、一般にプラズマローゲンに分類されるものであれば特に制限されない。プラズマローゲンとして、例えば、Pls、PlsCho、イノシトール型プラズマローゲン、セリン型プラズマローゲン等を挙げることができる。なお、Plsはグリセロール骨格のsn-3位におけるリンに結合する酸素原子に-CHCHNHが結合した構造を有する。PlsChoはグリセロール骨格のsn-3位におけるリンに結合する酸素原子に-CHCHN(CHが結合した構造を有する。
【0022】
好ましくは、プラズマローゲンは動物組織から抽出される。動物組織はプラズマローゲンを含む動物組織であれば特に制限されない。例えば、動物組織としては、貝類、ホヤ及び鳥類からなる群から選択される動物の組織が例示される。より具体的には、貝類、ホヤ、ナマコ、サケ、サンマ、カツオ等の水産動物の組織が動物組織として好ましい。好適には、動物組織は、貝類の組織である。動物組織の中でも食用部位が好ましい。動物組織は切断した組織であってもよく、より効率的にプラズマローゲンを抽出するために粉砕した組織でもよい。
【0023】
貝類としては、ホタテ類、ムールガイ、アワビ等の二枚貝又は巻貝を例示することができる。貝類としてはホタテ類が特に好ましい。ホタテ類は、イタヤガイ科に属する食用の二枚貝であり、例えば、Mizuhopecten属又はPecten属に属するホタテ類が例示される。具体的には、貝類として、日本で採取されるホタテガイ(Mizuhopectenyessoensis)、ヨーロッパで採取されるヨーロッパホタテ(Pectenmaximus(Linnaeus))等を挙げることができる。ホタテ類の食用部位としては、貝柱、ひも等を挙げることができる。
【0024】
ホヤは、マボヤ科に属する食用の脊索動物であり、例えばマボヤ属又はアカボヤ属に属するホヤを挙げることができる。具体的には、ホヤとして、マボヤ(Halocynthia roretzi)、アカボヤ(Halocynthia aurantium)等を挙げることができる。ホヤの食用部位としては、身の部分(筋膜体)を挙げることができる。
【0025】
鳥類は、例えば食用の鳥類である。鳥類として、鶏、烏骨鶏、鴨等を挙げることができる。鳥類の組織としては、プラズマローゲンを豊富に含む点でムネ肉が好ましい。
【0026】
プラズマローゲンは、有機溶媒又は含水有機溶媒を用いて抽出でき、好ましくは酵素処理を併用して抽出される。プラズマローゲンの抽出方法として、例えば、エタノール抽出法及びヘキサン抽出法を挙げることができる。
【0027】
エタノール抽出法では、エタノールを含む抽出液に動物組織を暴露すればよい。抽出工程で用いるエタノールを含む抽出液は、含水エタノールであってもよく、エタノールと他の有機溶媒との混合物であってもよい。抽出液のエタノール濃度は、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは95質量%以上で、100質量%であってもよい。エタノールの使用量は、例えば、動物組織100gに対して、好ましくは100~3000mL、より好ましくは200~2000mL、さらに好ましくは250~1000mLである。なお、エタノールを用いた抽出は複数回行ってもよい。
【0028】
好適には、エタノールを含む抽出液に暴露される動物組織はプロテアーゼで処理された動物組織である。プロテアーゼは、例えば、Aspergillus属、Rhizopus属等の糸状菌由来のプロテアーゼ;Bacillus属等の細菌由来のプロテアーゼ;パパイヤ、パイナップル等の植物から抽出されたプロテアーゼ等である。プロテアーゼとして市販のプロテアーゼを用いてもよい。特には糸状菌由来のプロテアーゼが好ましく、麹菌由来のプロテアーゼがさらに好ましい。また、プラズマローゲンは酸性及び塩基性では不安定であることから、中性プロテアーゼが好ましい。
【0029】
プロテアーゼの使用量は、例えば、動物組織100gに対して、0.1~10.0g、好ましくは0.2~8.0g、より好ましくは0.3~5.0gである。
【0030】
抽出後、固形分を除去して抽出液を回収し、必要に応じて乾燥固化することによって、プラズマローゲンを含む抽出物が得られる。なお、抽出物に対して濃縮処理を施すことで、プラズマローゲンを濃縮してもよい。
【0031】
ヘキサン抽出法の場合、エタノール抽出法で得られた抽出物に含まれる総脂質を、n-ヘキサンと水溶性ケトン系溶剤との混合溶剤で抽出処理し、不溶部と、可溶部とに分離する。水溶性ケトン系溶剤は、例えばアセトン、メチルエチルケトン又はこれらの組み合わせ等であるが、好ましくはアセトンである。混合溶剤として、n-ヘキサンとアセトンとの混合物を用いる場合、その割合は容量比で、例えば4:6~6:4、好ましくは4.5:5.5~5.5:4.5である。混合溶剤の使用量は、総脂質1g(乾燥質量)当たり、例えば10~30mLである。
【0032】
混合溶剤による抽出処理で得られた可溶部を乾燥処理後、水溶性ケトン系溶剤で抽出処理することで、プラズマローゲンを分離回収できる。
【0033】
本実施の形態に係る筋肉増強剤におけるプラズマローゲンの含有量は適宜調整される。例えば、筋肉増強剤は、有効成分として0.000001~99.9質量%、0.00001~99.8質量%、0.0001~99.7質量%、0.001~99.6質量%、0.01~99.5質量%、0.1~99質量%、0.5~60質量%、1~50質量%又は1~2質量%のプラズマローゲンを含む。
【0034】
本実施の形態に係る筋肉増強剤の投与対象は、細胞、生体組織、生物、動物等である。医薬品としての筋肉増強剤は、ヒト及び動物に投与される。動物としては、好ましくは哺乳類で、より具体的には、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、シカ等が挙げられる。
【0035】
本実施の形態に係る筋肉増強剤のヒト等への投与経路は特に限定されない。筋肉増強剤は、外用剤、注射剤及び経口投与剤として用いられるのが好ましい。筋肉増強剤は、例えば、プラズマローゲンと、薬理的に許容される担体とを含んでもよい。薬理的に許容される担体は、製剤素材として用いられる各種の有機担体物質又は無機担体物質である。薬理的に許容される担体は、例えば、固形製剤における賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味矯臭剤等、又は液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、矯味矯臭剤等である。また、必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を配合してもよい。
【0036】
賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軟質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等が挙げられる。
【0037】
結合剤として、例えば、上記賦形剤の他、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。
【0038】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、軟質無水ケイ酸、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0039】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカ、ポリエチレングリコール等が挙げられる。
【0040】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム、無水酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
【0041】
溶剤としては、例えば、注射用水、生理食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が挙げられる。
【0042】
懸濁化剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリン等の界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等の親水性高分子;ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等が挙げられる。
【0043】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、ブドウ糖、キシリトール、果糖等が挙げられる。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩等の緩衝液等が挙げられる。
【0044】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等が挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩等が挙げられる。着色剤としては、例えば、水溶性着色タール色素、レーキ色素、天然色素等が挙げられる。甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビア等が挙げられる。
【0045】
本実施の形態に係る筋肉増強剤は、既知の方法で製造され、例えば、液剤、クリーム剤、軟膏、錠剤、顆粒剤、細粒剤、粉剤、タブレット、カプセル剤等の形態で提供される。
【0046】
本実施の形態に係る筋肉増強剤の投与量は、投与対象のヒト又は動物の年齢、体重、症状等によって適宜決定される。筋肉増強剤は、上記プラズマローゲンが有効量となるように投与される。有効量とは、所望の結果を得るために必要なプラズマローゲンの量であり、治療又は処置する状態の進行の遅延、阻害、予防、逆転又は治癒をもたらすのに必要な量である。筋肉増強によって治療及び予防される状態又は疾患としては、例えばサルコペニア等の運動器疾患及び筋ジストロフィー等の難治性筋疾患が挙げられる。
【0047】
本実施の形態に係る筋肉増強剤の投与量は、例えば、成人の1日当たり0.000001μg以上、好ましくは1μg以上又は500μg以上で、より好ましくは1000μg以上である。その上限は、例えば、1日当たり20000μgであり、好ましくは10000μgである。筋肉増強剤は、1日に1回又は複数回投与することができる。また、筋肉増強剤は、隔日、1週間に1回、隔週、1か月に1回等の様々な投与頻度で投与してもよい。なお、必要に応じて、上記の範囲外の量を用いることもできる。
【0048】
本実施の形態に係る筋肉増強剤における有効成分であるプラズマローゲンは、下記実施例に示されたように、筋衛星細胞を賦活化させ、さらに筋線維を太くする作用を有する。当該筋肉増強剤は、筋の修復、強化の他、筋量及び筋力の増加に有用である。プラズマローゲンは、動物組織等から抽出される物質であるため、本実施の形態に係る筋肉増強剤は安全性が高い。
【0049】
なお、本実施の形態に係る筋肉増強剤は、試薬として、in vitro及びin vivoの実験における筋肉を増強させる目的で使用されてもよい。
【0050】
また、本実施の形態における別の側面では、筋肉増強用経口組成物が提供される。当該経口組成物としては、具体的には、サプリメント、飲食品組成物、機能性食品及び食品添加剤が挙げられる。
【0051】
サプリメントの形態は、特に制限されず、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、糖衣錠、フィルム剤、トローチ剤、チュアブル剤、溶液、乳濁液及び懸濁液等の任意の形態でよい。サプリメントは、サプリメントとして通常使用される任意の成分を含んでもよい。
【0052】
“機能性食品”とは、健康の維持の目的で摂取する食品又は飲料を意味し、保健機能食品である特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品、健康食品及び栄養補助食品等を含む。機能性食品としては、保健機能食品である特定保健用食品又は栄養機能食品が好ましい。なお、機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる様々な添加剤、具体的には、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、漂白剤、防菌防黴剤、酸味料、甘味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤及び香料等を筋肉増強用経口組成物に添加してもよい。
【0053】
機能性食品は、食品であっても飲料であってもよく、経口で摂取できれば特に限定されない。機能性食品の態様としては、例えば、飲料、菓子、穀類加工品、練り製品、乳製品、調味料等が挙げられる。飲料として、栄養ドリンク、清涼飲料水、紅茶、緑茶等が例示される。菓子として、キャンデー、クッキー、錠菓、チューインガム、ゼリー等が例示される。穀類加工品麺として、パン、米飯、ビスケット等が例示される。練り製品として、ソーセージ、ハム、かまぼこ等が挙げられる。乳製品として、バター、ヨーグルト等が挙げられる。
【0054】
筋肉増強用経口組成物は、食品添加剤として食品に添加されてもよい。この場合、当該食品添加剤は、食品に添加しやすいように、ペースト剤、ゲル状剤、散剤、液剤、懸濁剤、乳剤、顆粒剤等であってもよい。
【0055】
本実施の形態に係る筋肉増強用経口組成物は、筋肉増強に係る有効性を維持する範囲で、水、ビタミン類、ミネラル類、有機酸、有機塩基、果汁、フレーバー、機能性成分、食品添加物等を含有してもよい。筋肉増強用経口組成物は、必要に応じてプラズマローゲン以外の他の成分を添加して、公知の方法によって製造することができる。
【0056】
上記の筋肉増強用経口組成物は、1日の摂取量が上述の摂取量となるように1個又は複数個の容器に分けて収容されてもよく、この場合、好ましくは1個の容器に1日分の筋肉増強用経口組成物が収容される。
【0057】
上記の筋肉増強用経口組成物は、プラズマローゲンを含有し、筋肉増強に用いられる点において、製品として他の製品と区別することができる態様で提供される。例えば、筋肉増強用経口組成物に係る製品の包装、説明書及び宣伝物の少なくとも1つに、筋肉増強機能がある旨が表示される。
【0058】
本実施の形態に係る筋肉増強用経口組成物が飲食品組成物として提供される場合、筋肉増強の他、運動器疾患及び難治性筋疾患の予防、これら疾患のリスク低減、疾患の症状緩和、疾患の治療等の用途(保健用途を含む)が表示された飲食品として提供又は販売されてもよい。“表示”行為には、需要者に対して上記の用途を知らせるためのすべての行為が含まれる。上記の用途を想起又は類推させ得るような表現であれば、表示の目的、表示の内容、表示する対象物、媒体等の如何に拘わらず、すべて“表示”行為に該当する。
【0059】
“表示”は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に上記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁気的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0060】
“表示”には、健康食品、機能性食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、医薬用部外品等としての表示が挙げられる。この中でも特に、特定保健用食品、栄養機能食品、若しくは機能性表示食品に係る制度、又はこれらに類似する制度にて認可される表示等が挙げられる。具体的には、特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造又は機能に影響を与える旨の表示、疾病リスク減少表示、科学的根拠に基づいた機能性の表示等を挙げることができ、より具体的には、特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が典型的な例として挙げられる。
【0061】
本実施の形態における別の側面では、筋肉増強剤又は筋肉増強用経口組成物の製造のためのプラズマローゲンの使用が提供される。また、本実施の形態における別の側面では、プラズマローゲンを対象に投与するステップを含む、筋肉増強方法が提供される。また、本実施の形態における別の側面では、筋肉増強における使用のためのプラズマローゲンが提供される。なお、筋肉増強には、筋量又は筋力の低下の防止、抑制、抑止及び回復が含まれる。
【0062】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0063】
[sPlsの調製]
sPlsをホタテガイ(Mizuhopecten yessoensis)から次の方法で調製した。生ホタテヒモにコクラーゼP(三菱ケミカルフーズ社製)を加え混和し、エタノールを加え、吸引濾過した。ろ液をロータリーエバポレーターで乾固し、sPlsを得た。
【0064】
[sPlsの投与]
4週齢の雄性c57BL6Jマウス(各群4匹、n=4)にsPlsを1mg/kgの用量で4週間飲水投与した。各マウスからヒラメ筋及び大腿筋を回収し、以下のように解析した。
【0065】
[免疫染色によるAMPKの活性化の評価]
4%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液で固定した大腿筋をdHOでリンスした。37℃で3時間、0.2%コラゲナーゼI溶液と反応させて試料を得た。なお、0.2%コラゲナーゼI溶液はBuffer(50mM Tris-HCl、0.36mM CaCl、pH7.4)にCollagenase typeI(C0130、Sigma-Aldrich社製)を0.2%の濃度で含む。
【0066】
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で試料を洗浄し、dHOでリンス後、実体顕微鏡下で筋線維をほぐし、単一筋線維をスライドガラス上にのせ、65℃で乾燥後、37℃で18時間乾燥させた。
【0067】
試料を65℃で15分間乾燥後、4%PFA溶液で40分間、室温で固定した。PBSで洗浄後、0.5% Tx-100/PBSで室温にて6分間処理した。PBSで洗浄後、Blocking buffer(1% BSA-PBS)で室温にて20分間処理した。
【0068】
1次抗体として、Phospho-AMPKα(Thr172)抗体(#2535、Cell Signaling technology社製)及びMyoD抗体(NB120-788、Novus Biologicals社製)をいずれも5%BSA-PBSで2000倍希釈して使用した。1次抗体を試料と4℃で18時間反応させた。PBSで洗浄後の試料を、Alexa Fluor 488 anti-rabbit IgG、Alexa Fluor 568 anti-mouse IgG(いずれもInvitrogen社製)及び3mM DAPIを1%BSA-PBSに2000倍希釈した溶液と室温にて1時間、遮光下で反応させた。試料をPBSで洗浄後、dHOでリンスし、カバーガラスで包埋し、BZ-X810(キーエンス社製)で観察した。
【0069】
[AMPKのリン酸化とMyoDの発現解析]
ヒラメ筋をバッファーA(0.25Mスクロース、10mM Hepes-KOH(pH7.5)、1mM EDTA、プロテアーゼ阻害剤カクテル)で18Gから25Gまでの注射針にてホモジナイズすることで破砕し、タンパク質を定量後、同タンパク量を電気泳動した。次いで、PVDF膜に転写し、Phospho-AMPKα(Thr172)抗体(#2535、Cell Signaling technology社製)とAMPKα抗体(#5831、Cell Signaling technology社製)をそれぞれ2000倍希釈した抗体溶液を用いたウエスタンブロッティングで検出した。シグナルは、Multi Gauge software version 3.0 software(富士フィルム社製)で定量した。Phospho-AMPKα(Thr172)抗体で得られたシグナルをAMPK抗体で得られたシグナルで除することで標準化した。さらに、未処理の細胞から得られた値を1として各処理を行った細胞におけるシグナル強度を相対値で示した。3回以上試行し、平均値と標準偏差で示した。
【0070】
ヒラメ筋から同様に調製した試料をMyoD抗体(NB120-788、Novus Biologicals社製、2000倍希釈)とGAPDH抗体(M171-3、MBL社製、4000倍希釈)で検出し定量した。
【0071】
[筋線維の直径の測定]
大腿筋から上述のように調製した単一筋線維が最も太くなるように焦点深度を合わせ、明視野観察画像をBZ-X810(キーエンス社製)で撮像した。続いて、各筋線維に対し2又は3か所の直径を計測した。sPls非投与の筋線維では計9か所、sPlsを投与した筋線維では計29か所の測定をおこなった。
【0072】
[結果]
図1は免疫染色によるAMPKの活性化の評価の結果を示す。大腿筋における個々の細胞においてsPlsによってpAMPKと筋分化マーカーであるMyoDの発現が増加した。これは、sPlsによって筋衛星細胞が増加したことを示す。
【0073】
図2AはpAMPKに係るウエスタンブロッティングの結果を示す。図2Bはウエスタンブロッティングの結果に基づくpAMPK/AMPKの相対量を示す。ヒラメ筋においてsPlsによるAMPKの活性化が認められた。図3AはMyoDに係るウエスタンブロッティングの結果を示す。図3Bはウエスタンブロッティングの結果に基づくMyoDの相対量を示す。ヒラメ筋においてsPlsによるMyoDの増加が認められた。
【0074】
図4Aは大腿筋の明視野観察画像を示す。図4Bは筋繊維の直径を示す。sPlsによって筋におけるAPMKが活性化され、筋線維が太くなることが示された。
【0075】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等な発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、筋肉増強剤に有用である。
図1
図2
図3
図4