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特開2025-25245脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025245
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/352 20060101AFI20250214BHJP
   D01F 6/80 20060101ALI20250214BHJP
   D06M 13/228 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
D06M13/352
D01F6/80 331
D06M13/228
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129840
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】周 宗揚
【テーマコード(参考)】
4L033
4L035
【Fターム(参考)】
4L033AA08
4L033AB01
4L033AC15
4L033BA22
4L033BA56
4L035AA04
4L035BB04
4L035BB11
4L035BB17
4L035BB18
4L035BB89
4L035BB91
4L035CC20
4L035JJ10
4L035MG01
4L035MG02
(57)【要約】
【課題】分散染料また顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、特定のイオン液体、及び非プロトン性有機溶媒を含む脱色用処理液を用いて脱色する方法を提供する。
【解決手段】分散染料または顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、分子内に炭素数5以下のアルキル基を含むイミダゾリウム系イオン液体、及び非プロトン性有機溶媒を含む脱色用処理液と接触させて、処理温度100℃~130℃にて3~5時間脱色処理を施す。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散染料または顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、分子内に炭素数5以下のアルキル基を含むイミダゾリウム系イオン液体、及び非プロトン性有機溶媒を含む脱色用処理液と接触させて、処理温度100℃~130℃にて3~5時間脱色処理を施すことにより、該全芳香族ポリアミド繊維の、着色前と脱色処理後のJIS Z 8729:2013に準拠した色差ΔEを13以下とすることを特徴とする脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項2】
全芳香族ポリアミド繊維が、酸クロライド成分とジアミン成分とから構成されるパラ型全芳香族コポリアミド又はメタ型全芳香族コポリアミドであって、該酸クロライド成分としてテレフタル酸ジクロライド(以下第一成分という)を含み、該ジアミン成分としてパラフェニレンジアミンまたはメタフェニレンジアミン(以下第二成分という)、並びに3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、及び4,4’オキシジフェニレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミン(以下第三成分という)を含んでなり、該ジアミン成分における第二成分と第三成分とのモル比率が20/80~80/20である請求項1に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項3】
イミダゾリウム系イオン液体が1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリド、又は1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム クロリドである請求項1又は2に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項4】
非プロトン性有機溶媒が、植物由来の有機溶媒である請求項1又は2に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【請求項5】
非プロトン性有機溶媒がγ-バレロラクトンである請求項1又は2に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、分散染料また顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、イミダゾリウム系イオン液体、及び非プロトン性有機溶媒を含む脱色用処理液を用いて脱色する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全芳香族ポリアミド繊維(以下、アラミド繊維とも言う)は、その高強度、高弾性率、耐薬品性などの特性を生かし、産業資材用途や機能性衣料品に活用されている。さらに、近年では高機能繊維製品の需要が持続的成長を求められ、繊維産業においてもリサイクルを求める声が高まってきている。このような背景のもと、アラミド繊維を有効活用する目的で、廃棄した産業資材用途や機能性衣料用繊維の屑または/及びアラミド繊維を製造・加工する工程において発生する繊維屑を再利用することが要望されている。
このような要望に応えるため、例えば、アラミド繊維製品では、リサイクルを行うための回収技術(特許文献1参照)などが知られている。
【0003】
しかしながら、現在アラミド繊維製品は通常顔料によって着色されており、回収したアラミド繊維を再利用する、またはアラミド繊維のドープとして再利用するためには、繊維中の顔料をある程度除去し、脱色することが必要である。しかしながら、まだ効率的に脱色する方法が開発されているとは言い難いのが現状である。
【0004】
現行の化学繊維の脱色技術にあっては、環境負荷を考慮して溶媒に非塩素系のものを用いた方法もある(特許文献2参照)。この方法は、処理対象であるポリエステル繊維を全体的に溶媒に浸け込んで、繊維からの顔料の除去を行うものである。しかし、この方法では、繊維が常に溶媒に接触しているので、溶け出した顔料が溶媒中で飽和すると、顔料が繊維に再び付着するといった問題が起きる。そこで、完全に脱色するには、溶媒中の染料が飽和するたびに新しい溶媒を用意して繰り返し繊維を浸ける必要があるので、溶媒を大量に使用しなくてはならない上、このような方法がアラミド繊維へも適用可能かどうかは、まだ検討されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2023-507132号公報
【特許文献2】米国特許第7959807号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的としては、かかる従来技術における問題点を解消し、分散染料また顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、特定のイオン液体、及び非プロトン性有機溶媒を含む脱色用処理液を用いて脱色する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討をおこなった結果、染色又は原料着色(以下、原着と言う場合がある。)されたアラミド繊維を、イオン液体と有機溶媒を混合した脱色用処理液と接触させて剪断応力下にて混合させるとき、着色アラミド繊維を、着色前に近い状態まで脱色できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明によれば、
1.分散染料または顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、分子内に炭素数5以下のアルキル基を含むイミダゾリウム系イオン液体、及び非プロトン性有機溶媒を含む脱色用処理液と接触させて、処理温度100℃~130℃にて3~5時間脱色処理を施すことにより、該全芳香族ポリアミド繊維の、着色前と脱色処理後のJIS Z 8729:2013に準拠した色差ΔEを13以下とすることを特徴とする脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
2.全芳香族ポリアミド繊維が、酸クロライド成分とジアミン成分とから構成されるパラ型全芳香族コポリアミド又はメタ型全芳香族コポリアミドであって、該酸クロライド成分としてテレフタル酸ジクロライド(以下第一成分という)を含み、該ジアミン成分としてパラフェニレンジアミンまたはメタフェニレンジアミン(以下第二成分という)、並びに3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、及び4,4’オキシジフェニレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミン(以下第三成分という)を含んでなり、該ジアミン成分における第二成分と第三成分とのモル比率が20/80~80/20である上記1に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
3.イミダゾリウム系イオン液体が1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリド、又は1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム クロリドである上記1又は2に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
4.非プロトン性有機溶媒が、植物由来の有機溶媒である上記1又は2に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
及び、
5.非プロトン性有機溶媒がγ-バレロラクトンである上記1又は2に記載の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法、
が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の脱色全芳香族ポリアミド繊維の製造方法を用いれば、脱色処理により染料及び顔料を繊維から容易に脱色することが可能であるため、リサイクル可能な全芳香族ポリアミド繊維製品を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0011】
<全芳香族ポリアミド>
本発明で使用する全芳香族ポリアミドは、酸クロライド成分とジアミン成分とから構成されるパラ型全芳香族ポリアミド又はメタ型全芳香族ポリアミドであって、中でも、該酸クロライド成分としてテレフタル酸ジクロライド(以下第一成分という)を含み、該ジアミン成分としてパラフェニレンジアミンまたはメタフェニレンジアミン(以下第二成分という)、並びに3,3’オキシジフェニレンジアミン、3,4’オキシジフェニレンジアミン、及び4,4’オキシジフェニレンジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種のジアミン(以下第三成分という)を含んでなり、該ジアミン成分における第二成分と第三成分とのモル比率が20/80~80/20であるパラ型全芳香族コポリアミド又はメタ型全芳香族コポリアミドであることが好ましい。
【0012】
上記パラ型全芳香族コポリアミド繊維を製造するには、該パラ型全芳香族コポリアミドをNMPで濃度調整し、該ポリマー溶液を、紡糸ドープとして用い、紡糸口金から吐出しエアギャップを介してNMP水溶液中に吐出する凝固工程、それに引き続き熱延伸工程、洗浄工程、乾熱処理工程を経る、従来公知の方法でパラ型全芳香族コポリアミド繊維を得ることができる。
【0013】
また、上記メタ型全芳香族コポリアミド繊維を製造するには、該メタ型全芳香族コポリアミドを用いて、ポリマー濃度が15~20質量%である紡糸液調製工程により紡糸ドープを製造し、該ドープを紡糸口金から吐出する凝固工程、それに引き続き熱延伸工程、洗浄工程、乾熱処理工程を経る、従来公知の方法でメタ型全芳香族コポリアミド繊維を得ることができる。
【0014】
これら全芳香族ポリアミドからなる繊維のうちすでに工業化されたものとしてテクノーラ(登録商標、帝人株式会社製)及びテイジンコーネックス(登録商標、帝人株式会社製)が挙げられる。
【0015】
<顔料及び染料>
本発明で用いられる顔料および分散染料は特に限定されるものではなく、従来公知の顔料および分散染料を使用することができる。酸化鉄系(赤)、Co系またはAl系(青)、カーボンブラック(黒)分散顔料から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0016】
更に、酸化鉄系(赤)、Co系またはAl系(青)、カーボンブラック(黒)分散顔料以外の酸化チタン、亜鉛等であっても、下記の脱色処理において問題にならない程度に色が残る顔料であれば、併用しても良い。
【0017】
顔料による染色は、前述したパラ型全芳香族コポリアミドやメタ型全芳香族コポリアミドの繊維製造の段階で分散顔料を投入し行われている。分散染料による染色は、前述したメタ型全芳香族コポリアミド繊維製品やパラ型全芳香族コポリアミド繊維製品が、糸状、綿状、織物状、編物状、不織布状などの形態や、衣服、鞄、袋物、テント、カーテン、布団、敷布などの縫製品の形態などのいずれの状態で行われてもよい。メタ型全芳香族コポリアミド繊維製品、パラ型全芳香族コポリアミド繊維製品いずれの場合も、カチオン系染料の使用が好ましい。
染色濃度は、淡色から濃色のいずれでもよく、染色色相は、赤、青、黄、グリーン、黒等任意の色であってもよい。
【0018】
<脱色処理>
本発明の、全芳香族ポリアミド繊維の脱色方法は、分散染料または顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、イオン液体と非プロトン性有機溶媒とを混合した脱色用処理液と接触させて、剪断応力下にて混合させる、脱色処理することを特徴とする。ここで、イオン液体としては、イミダゾリウム系のイオン液体を用いることが肝要である。
【0019】
イオン液体はカチオンとしてイミダゾリウム系が挙げられる。その対イオンとしてはクロリドが挙げられ、いずれもアルキルや芳香族基など修飾可能で、カチオンとアニオンのバランスを調整することが可能なイオン結合体である。
【0020】
このイオン結合体として一般的には塩化ナトリウムのように原子イオン同士のイオン対の場合にはイオンが局在化していないため、イオン結合力が高く、結果として融点の高い結晶となる。一方、イオン液体として用いられるものは分子内にイオンが局在化されているため、イオン結合力は低く、融点が低い。さらに、揮発性も低く、分子溶媒と比較すると安全性に優れていると考えられている。
【0021】
本発明で用いられるイミダゾリウム系イオン液体のカチオン種としては、分子式(1)のR1がメチル基で、R2が炭素数1以上5以下のアルキル基であるイミダゾリウム系イオンが例示される。R2が炭素数2以上4以下のアルキル基であるイミダゾリウム系イオンがさらに好ましい。炭素数が5を超えると固体となり、アラミド繊維脱色処理に好ましくない。アニオン種としてはClが好ましい。
【0022】
【化1】
【0023】
これらカチオンとアニオンの組合せは任意であるが(以降カチオン種とアニオン種の間にスペ-スを入れ区分する)、溶解性およびイオン液体の割合(コスト)の観点から、パラ型全芳香族ポリアミドの場合は1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリド、又は1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム クロリドが好ましく、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリドが特に好ましい。
【0024】
また、本発明で使用する非プロトン性有機溶媒とは、有機化合物からなる水酸基などのプロトン供与性の基を持たない溶媒であり、例えば、炭酸エチル、炭酸プロピル、フロロ炭酸エチル、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、1,2-炭酸ブチレン、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジプロピルスルホン、スルホラン、ジメチルスルフィド、ジエチルスルフィド、ジイソプロピルスルフィド、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジエチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、シクロベンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ジヒドロレボグルコセノン、α-アンゲリカラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-ヘプタノラクトン、γ-オクタノラクトン、γ-ノナラクトン、γ-デカノラクトン、δ-バレロラクトン、δ-ヘキサノラクトン、δ-オクタノラクトン、δ-デカノラクトン、δ-テトラデカノラクトン、ε-カプロラクトン、ε-デカノラクトン、ジメチルイソソルビド、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、中でも、γ-バレロラクトンが好ましい。
【0025】
上記イオン液体と非プロトン性有機溶媒とを混合した脱色用処理液におけるイオン液体の濃度は、0.05~10質量%、特に0.1~1質量%の濃度で用いられるのが好ましい。該イオン液体の濃度が0.05質量%未満であると脱色効果が十分でないことがあり、一方、該イオン液体の濃度が10質量%を超えると全芳香族ポリアミド繊維を溶かしてしまう可能性がある上、コスト的にも不利である。
【0026】
本発明においては、分散染料また顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、上記脱色用処理液と接触させて、剪断応力下にて混合させる、脱色処理を施すのであるが、その際の処理温度は、100~130℃であることが必要であり、特に120~130℃が好ましい。この温度が100℃を下まわると十分脱色ができなくなり、一方、処理温度が130℃を超えるとポリアミド繊維がゲル化してしまう。
【0027】
また、脱色処理の処理時間としては3時間以上5時間以下であることが必要である。処理時間が3時間未満の場合、脱色効果が弱くなり、十分な脱色処理が行えない。一方、処理時間が5時間を越えると、繊維のゲル化が起こり、やはり十分な脱色処理が行えない。
【0028】
本発明においては、上記非プロトン性有機溶媒として、植物由来の非プロトン性有機溶媒も使用することができる。植物由来の非プロトン性有機溶媒とは、植物由来の原料(糖/デンプン系バイオマス、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等を含むリグノセルロース系バイオマス)から合成される有機化合物や、動植物や微生物が産生する天然物のことである。植物由来の溶媒と化石由来の溶媒は、分子量、熱物性(融点、沸点)などの物C1性に差を生じない。そこで、これらを区別するためには、一般的にバイオマス度が用いられている。
【0029】
バイオマス度とは、放射性炭素(14C、半減期5730年)測定によりバイオマス由来の炭素の含有量を測定した値である。上層大気中で高エネルギー宇宙線によって14Nが14Cに変化され、大気中の二酸化炭素には14Cが一定量含まれている。光合成により二酸化炭素が炭水化物として植物中に固定化されるので、植物中には14Cが同程度含まれている。一方、化石由来の石油には14Cが実質的に存在しないことから植物由来の炭素と化石由来の炭素の区別ができる。バイオマス度の測定方法は一般的にASTM D6866などが知られている。したがって、本発明の動植物由来の有機溶媒もポリマー溶液中の有機溶媒を抽出した後、バイオマス度を測定することで区別できる。
【0030】
本発明においては、長繊維、短繊維などは混錬機での取り扱い性の良さからカットして使用することが好ましい。好ましい繊維長としては40mm以下であり、短ければ短いほど溶媒との接触面積が増え好ましい。カットする方法としては、ギロチン式カッター、ロータリー式裁断機、反毛用繊維裁断機などを用いてカットする。
【0031】
カット時には飛散防止のために水分を付与することはできるが、溶解する前に乾燥する必要がある。100℃以上の温度条件で、水分率が10%以内になるようにコントロールすることが好ましい。10%以上の場合には溶解不足となるため好ましくない。
【0032】
脱色処理には、公知のミキサーを使用することができる、1軸のミキサー、リボンミキサー、プラネタリーミキサーなどを使用することができる。その中でも、プラネタリーミキサーを選定するのが好ましい。
【0033】
脱色処理にあたっては、イオン液体と非プロトン性有機溶媒とをミキサー内に投入後、全芳香族ポリアミド繊維糸条あるいはカットされた糸条、粉末状の全芳香族ポリアミド重合体を脱色用処理液に分散させ、上記処理温度、処理時間で脱色処理を行う。
【0034】
<脱色効果の評価>
全芳香族ポリアミド繊維を、着色前と脱色処理後とで色差計によりL a b色空間光学測定を行った(JIS Z 8729:2013に準拠。)なお、Lの値は100で白、0で黒を示す。aの値は100でマゼンダ、0で緑を示す。bの値は100で黄色、0で青を示す。脱色が十分に行えたと言うためには、染色繊維の下記の如き脱色処理後の色と、該繊維が染色される前の繊維の色と比較した色差ΔEが13以下であることが必要であり、10以下であることが好ましい。ここで、色差ΔEは、CIE1976LAB ΔE=√(ΔL+Δa+Δb)、光源D65、10°視野にて求めたものである。
【実施例0035】
以下、実施例および比較例により、本発明詳細に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例及び比較例に制限されるものではない。
【0036】
[参考例1]
[アラミド繊維の製造]
反応容器にN-メチル-ピロリドン(NMP)を入れ、p-フェニレンジアミン、3,4’-ジアミノジフェニルエーテルを等モルとなるように秤量して溶解させた。このジアミン溶液にテレフタル酸ジクロライドをジアミン総モル量と略等モルとなるように秤量し加えた。反応終了後、水酸化カルシウムで中和し、全芳香族ポリアミド溶液を得た。この際、全芳香族ポリアミド溶液に対して、全芳香族ポリアミド重合体の質量濃度が6%になるように調製した。
【0037】
該溶液を、紡糸ドープとして用い、孔数が1000ホールであり、口径1.2mmΦの紡糸口金から吐出し、3~10mmのエアギャップを介して質量濃度が30%のNMP水溶液中に吐出固化させた。その後、水洗、乾燥し、500℃で6倍延伸した後、巻き取ることにより、単糸繊度が1.67dtexの全芳香族ポリアミド繊維(コポリパラフェニレン・3,4’-オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維)を得た。得られた繊維の、JIS Z 8729:2013に準拠したL a bの値を表1に示す。
【0038】
[実施例1]
[アラミド繊維の製造]
参考例1において、全芳香族ポリアミド溶液と赤色顔料(酸化鉄)とを6:1.5の質量比率でブレンドして紡糸ドープとして用いた以外は参考例1と同様に実施した。
上記方法で製造された繊維の内、繊度異常で製品とならなかった繊維屑(単糸繊度1.5dtex)をギロチンカッターで3mmにカットし、脱色処理に用いた。
【0039】
[脱色処理]
3mmにカットされた繊維屑を120℃で2時間乾燥した。プラネタリーミキサーに1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリドを1880g、γ-バレロラクトンを2820g、合計で4,700g、乾燥した繊維屑を300g投入し、窒素雰囲気下、100℃で5時間剪断応力下で混錬した。
混練後の溶液から固形物をろ過したところ、繊維はほぼオレンジ色になっており、わずかに赤味を有していた。次に、脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0040】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが9.08であり、13以下であることが確認されて、脱色効果があった。
【0041】
[実施例2]
[アラミド繊維の製造]
実施例1において、顔料を青色顔料(酸化クロム/アルミニウム)とし、全芳香族ポリアミド溶液と青色顔料との質量比率を6:1.5とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0042】
[脱色処理]
実施例1と同様に実施した。脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0043】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが10.30であり、13以下であることが確認されて、脱色効果があった。
【0044】
[実施例3]
[アラミド繊維の製造]
実施例1において、顔料を黒色顔料(カーボンブラック)とし、全芳香族ポリアミド溶液と黒色顔料との質量比率を6:1.5とした以外は実施例1と同様に実施した。
【0045】
[脱色処理]
実施例1と同様に実施した。脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0046】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが12.53であり、13以下であることが確認されて、脱色効果があった。
【0047】
[実施例4]
[アラミド繊維の製造]
実施例1と同様に実施した。
【0048】
[脱色処理]
実施例1において、イオン液体として、1-ブチル-3-メチルイミダゾリウム クロリドを用いる以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過したところ、繊維はほぼ灰色色になっていた。脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0049】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが12.68であり、13以下であることが確認されて、脱色効果があった。
【0050】
[実施例5]
[アラミド繊維の製造]
実施例1と同様に実施した。
【0051】
[脱色処理]
実施例1において、イオン液体として、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム クロリドを用いる以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過したところ、繊維はほぼ灰色色になっていた。脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0052】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが12.97であり、13以下であることが確認されて、脱色効果があった。
【0053】
[比較例1]
[アラミド繊維の製造]
実施例3と同様に実施した。
【0054】
[脱色処理]
実施例1において、混練温度を50℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過したところ、溶液は無色透明のままであった。脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0055】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが53.33であり、脱色効果はなかった。
【0056】
[比較例2]
[アラミド繊維の製造]
実施例3と同様に実施した。
【0057】
[脱色処理]
実施例1において、イオン液体として、1-ヘキシル-3-メチルイミダゾリウム クロリドを用いる以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過しようとしたところ、繊維屑が溶解され、溶液から分離出来なかった。従って、着色前の繊維と脱色後の繊維との色差ΔEは測定できなかった。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
[アラミド繊維の製造]
実施例3と同様に実施した。
【0059】
[脱色処理]
実施例1において、混練温度を140℃とした以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過しようとしたところ、繊維屑がゲル化され、溶液から分離出来なかった。従って、着色前の繊維と脱色後の繊維との色差ΔEは測定できなかった。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0060】
[比較例4]
[アラミド繊維の製造]
実施例3と同様に実施した。
【0061】
[脱色処理]
実施例1において、混練時間を2時間とした以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過したところ、溶媒系は無色透明のままであった。脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0062】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが53.33であり、脱色効果はなかった。
【0063】
[比較例5]
[アラミド繊維の製造]
実施例3と同様に実施した。
【0064】
[脱色処理]
実施例1において、混練時間を8時間とした以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過しようとしたところ、繊維屑がゲル化され、溶液から分離出来なかった。従って、着色前の繊維と脱色後の繊維との色差ΔEは測定できなかった。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0065】
[比較例6]
[アラミド繊維の製造]
実施例3と同様に実施した。
【0066】
[脱色処理]
実施例1において、、イオン液体に代えてエタノールを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
混練後の溶液から固形物をろ過したところ、溶媒系は無色透明のままであった。脱色後の繊維のL a bの値を測定し、参考例1で得た、着色前の繊維との色差ΔEを求めた。脱色効果の測定結果を表1に示す。
【0067】
[脱色効果の評価]
着色前と脱色処理後のΔEが53.33であり、脱色効果はなかった。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、分散染料また顔料で着色された全芳香族ポリアミド繊維を、特定のイオン液体、及び非プロトン性有機溶媒を含む脱色用処理液を用いて脱色する方法が提供されるので、着色されたアラミド繊維製品や、製造工程中で発生した着色繊維屑などを再利用することが可能となり、その工業的価値は極めて大きい。