(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025256
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】流体機器、及び、流体機器の隙間調整方法
(51)【国際特許分類】
F04D 29/16 20060101AFI20250214BHJP
【FI】
F04D29/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129867
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】川口 瞬生
(72)【発明者】
【氏名】駒場 祐哉
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA02
3H130AB22
3H130AB46
3H130AC30
3H130BA53F
3H130BA66F
3H130BA73A
3H130DC12X
3H130DC18X
3H130DD01Z
3H130EB04F
3H130EB05D
3H130EB05F
3H130EC12F
3H130ED01F
3H130ED04F
(57)【要約】
【課題】流体機器において、長期の使用によって摩耗した羽根車とライナリングの最小隙間間隔を、分解メインテナンス時に調整可能に構成する。
【解決手段】回転することで流体に圧力を加える羽根車20と、羽根車20にて昇圧された流体を吐出し方向に誘導する流路を有するケーシング2と、ケーシングの取付部56に挿入され、羽根車20と隙間dを空けて対向するライナリング31を備え、ライナリング31および羽根車20の対向部分にそれぞれ傾斜面31b、22を形成した。また、ライナリング31と取付部56との間にスペーサー32を設けて、スペーサー32の厚さによって傾斜面31b、22の隙間dの大きさを調整可能とした。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源によって回転される主軸に固定され、回転することにより流体を軸心付近から径方向外側に向けて圧力を加える羽根車と、
前記羽根車を収容するものであって、流体の吸込み口と吐出し口を有し、前記羽根車にて昇圧された流体を前記吐出し口の方向に誘導する流路を有するケーシングと、
前記羽根車と隙間を空けて対向する前記ケーシングのマウス部に円筒状のライナリングを備えた流体機器であって、
最小の前記隙間をもって前記羽根車に対向する前記ケーシングのマウス部に、前記羽根車の回転軸線方向と交わる方向に傾斜する第1の傾斜面を形成したライナリングを設け、
前記ケーシングにおける前記ライナリングの取付部と前記ライナリングの間に、前記第1の傾斜面と前記羽根車との隙間の大きさを調整するスペーサーを設けたことを特徴とする流体機器。
【請求項2】
前記羽根車の前記ライナリングと対向する面を、前記回転軸線方向と交わる方向に傾斜する第2の傾斜面にて形成し、
前記第1の傾斜面と第2の傾斜面を、回転軸線を含む断面で見た際に同角度にて平行になるように形成したことを特徴とする請求項1に記載の流体機器。
【請求項3】
前記回転軸線方向の長さが異なる厚さを有する円環状の前記スペーサーを準備して、それらのいずれかを前記取付部と前記ライナリングの間に配置することによって前記取付部と前記ライナリングとの回転軸線方向の間隔が調整されることを特徴とする請求項2に記載の流体機器。
【請求項4】
前記羽根車の回転軸線方向の長さが同一の円環状の前記スペーサーが、前記取付部と前記ライナリングの間に複数枚配置することによって前記取付部と前記ライナリングとの回転軸線方向の間隔が調整されることを特徴とする請求項2に記載の流体機器。
【請求項5】
前記第1の傾斜面の前記主軸に対して成す角は、0度より大きく45度未満であることを特徴とする請求項3又は4に記載の流体機器。
【請求項6】
前記羽根車の前記第2の傾斜面の周方向の一部に、前記第2の傾斜面と直交する方向に窪む非貫通穴を形成したことを特徴とする請求項4に記載の流体機器。
【請求項7】
前記第2の傾斜面を、前記第1の傾斜面とそれぞれ平行な複数段の傾斜面にて段状に形成したことを特徴とする請求項5に記載の流体機器。
【請求項8】
駆動源によって回転される主軸に固定され、回転することにより流体を軸心付近から径方向外側に向けて圧力を加える羽根車と、
前記羽根車を収容するものであって、流体の吸込み口と吐出し口を有し、前記羽根車にて昇圧された流体を前記吐出し口の方向に誘導する流路を有するケーシングと、
前記羽根車と隙間を空けて対向する前記ケーシングのマウス部に円筒状のライナリングを備えた流体機器であって、
最小の前記隙間をもって前記羽根車に対向するライナリングに、前記羽根車の回転軸線方向と交わる方向に傾斜する第1の傾斜面を形成し、
前記ライナリングに、前記第1の傾斜面と平行に対向する第2の傾斜面を形成し、
前記ケーシングの分解時に前記羽根車の前記第2の傾斜面の摩耗量を測定して、前記摩耗量に応じて前記ライナリングの取り付け位置を前記羽根車に近い位置にて固定するように前記ライナリングと前記ケーシングの取付部との間に所定の厚さのスペーサーを介在させることを特徴とする流体機器における隙間調整方法。
【請求項9】
隙間調整時の前記羽根車の摩耗量は、前記羽根車の前記第2の傾斜面の最内周位置の直径を測定し、製造段階の値または設計値と比較することにより判別することを特徴とする請求項8に記載の流体機器における隙間調整方法。
【請求項10】
前記第2の傾斜面を、複数段の傾斜面にて形成し、
前記隙間調整時の前記羽根車の摩耗量が、前記羽根車の前記傾斜面の残存する段差の数と、製造初期の段差数と比較することにより、一段あたりの大きさと摩耗により消滅した段差数によって判別することを特徴とする請求項9に記載の流体機器における隙間調整方法。
【請求項11】
前記第2の傾斜面の周方向の一部に、前記第2の傾斜面と直交する方向に窪む非貫通穴を形成しておき、
前記隙間調整時の前記羽根車の摩耗量は、残存する前記窪みの深さを測定して、製造初期の深さと比較することによって判別されることを特徴とする請求項10に記載の流体機器における隙間調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、羽根車とライナリング間の隙間を調整可能とした流体機器、及び、隙間の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化などの環境問題の対策が急務となっている現代社会では、単純な製品品質以外にも環境面に配慮したものづくりが求められる。ポンプ事業では、古いポンプは廃棄し新規品に買い替えることが一般的であったが、環境への影響を考え、古いポンプを補修し再利用することが考案されている。古いポンプを再利用するには、外観・性能ともに新品同様の水準にする必要があるが、特に性能の要となる羽根車は、長年使用するとライナリングと羽根車の対向部分が摩耗し、隙間が広がってしまい、製造初期の性能を担保できなくなる場合が多い。ライナリングと羽根車の隙間に関しては、特許文献1に、軸受部ごと羽根車を動かすことで隙間を調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術では、流体機器の羽根車を回転軸線方向に向けて、ライナリングに近づけるように動かすことで隙間を調整する。この方法では、軸受部ごと羽根車を移動させるため、例えば玉軸受は主軸とケーシングカバーに挟まれる形で圧迫されるなど調整され、隙間部位以外の機構部分に余分な負荷かかり、結果として製品寿命を短くする恐れがある。環境影響を鑑みると一つの部品は長く、繰り返し使えるようにすることが好ましい。
【0005】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、隙間を形成する部品以外の機構部品に対して余分な負荷をかけることなく、ライナリングと羽根車の隙間を調整することができる流体機器と、その隙間調整方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、ライナリングの形状とライナリングに対面する羽根車の形状を改良することにより、ライナリング及びその対面部分が摩耗した場合であっても隙間を容易に調整可能とした流体機器と、その隙間調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願において開示される発明のうち代表的な特徴を説明すれば次のとおりである。
本発明の一つの特徴によれば、駆動源によって回転される主軸と、主軸に固定されて回転することにより流体を軸心付近から径方向外側に向けて圧力を加える羽根車と、羽根車を収容するものであって流体の吸込み口と吐出し口を有し、羽根車にて昇圧された流体を吐出し口の方向に誘導する流路を有するケーシングと、羽根車と隙間を空けて対向するケーシングのマウス部に円筒状のライナリングを備えた流体機器であって、最小の隙間をもって羽根車に対向するマウス部のケーシング側に、羽根車の回転軸線方向と交わる方向に傾斜する第1の傾斜面を形成したライナリングを用いるようにした。ライナリングは、ケーシングに回転軸線方向に向けてケーシングの内壁側に挿入されており、羽根車と隙間を空けて対向するように配置する。また、ケーシングにおけるライナリングの取付部とライナリングの間に、第1の傾斜面と羽根車との隙間の大きさを調整するためのスペーサーを介在させた。羽根車のライナリングと対向する部位には、前記第1の傾斜面と平行に形成された第2の傾斜面を形成した。第1の傾斜面と第2の傾斜面は、回転軸線方向に交わる方向に傾斜させる。
【0007】
本発明の他の特徴によれば、回転軸線方向の長さが異なる円環状のスペーサーを複数準備し、そのいずれかを取付部とライナリングの間に配置することによって取付部とライナリングとの回転軸線方向の間隔が調整される。また、同一サイズの円環状のスペーサーを複数準備し、取付部とライナリングの間に必要な枚数だけスペーサーを配置することによって第1の傾斜面と第2の傾斜面の間隔が調整される。第1の傾斜面の回転軸線に対して成す角は、0度より大きく45度未満であると好ましい。また、羽根車の第2の傾斜面の周方向の一部に、第2の傾斜面と直交する方向に窪む非貫通穴を形成することで、長年の流体機器の使用後に、非貫通穴の深さを測定することで羽根部の表面の摩耗量を測定できる。さらに、羽根車の第2の傾斜面を、第1の傾斜面とそれぞれ平行な複数段の傾斜面にて段状に形成しても良い。複数段の傾斜面のそれぞれと第1の傾斜面は、それぞれが平行な面とされるが、第1の傾斜面との間隔がそれぞれ異なる。
【0008】
本発明のさらに他の特徴によれば、流体機器の分解メインテナンスにおいてケーシングを分解した時に、羽根車の第2の傾斜面の摩耗量を測定して、測定された摩耗量に応じてライナリングの取り付け位置を羽根車に近い位置に移動させてから固定するように調整する。この調整はライナリングとケーシングの取付部との間に所定の厚さのスペーサーを介在させることで行う。摩耗量は、羽根車の第2の傾斜面の最内周位置の直径を測定し、製造段階の値または設計値と比較することにより計算により求めることができる。また、第2の傾斜面を複数段の傾斜面にて形成すれば、隙間調整時の羽根車の摩耗量が、羽根車の傾斜面の残存する段差の数と、製造初期の段差数を比較することにより、一段あたりの大きさと摩耗によって消滅した段差数によって判別することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流体機器の分解メインテナンス時に、羽根車とライナリングの摩耗量を容易に測定でき、スペーサーを設けることでライナリングと羽根車の間隔を適切に調整することが可能となる。さらに、この調整時に羽根車の回転軸線Ax方向への移動を伴わないので、最小の隙間部分以外のその他の部位(特に軸受や軸封部)やその他の構成部品に負担をかけることなくライナリングと羽根車の間隔を適切に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例に係る遠心ポンプ1の外観を示す斜視図である。
【
図2】従来の遠心ポンプ101の分解斜視図である。
【
図3】従来の遠心ポンプ101の回転軸線Axを通る鉛直断面図である。
【
図4】従来の遠心ポンプ101を長期に使用した後の羽根車120’とライナリング131’の状態を示す部分断面図である。
【
図5】本発明の実施例に係る遠心ポンプ1の回転軸線Axを通る鉛直断面図である。
【
図6】(A)は
図5のマウス部Cの拡大図であり、(B)はライナリング部30の斜視図である。
【
図7】本実施例に係る遠心ポンプ1の隙間調整手順を示す図である。
【
図8】本実施例に係る遠心ポンプ1のマウス部Cの隙間計測方法の一例を示す図である。
【
図9】(A)は第1の実施例のマウス部Cの拡大図であり、(B)は第2の実施例に係るマウス部Cの拡大図である。
【
図10】本発明の第3の実施例に係る流体機器1Aのマウス部Cの拡大図である。
【
図11】本発明の第4の実施例に係る流体機器1Bのマウス部Cの拡大図である。
【
図12】本発明の第5の実施例に係る流体機器1Cのマウス部Cの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。本実施例では、流体機器の一例として、片吸込単段渦巻ポンプと呼ばれる遠心ポンプの例にて説明する。ただし、本発明は、遠心ポンプに限らず、羽根車を用いる流体機器全般に適用することが可能である。以下の各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示している。よって、本発明は、図示の例のみに限定されるものではなく、適宜組み合わせることができる。また、各図において、共通する構成要素や同様の構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【実施例0012】
図1は本発明の一実施例に係る流体機器(遠心ポンプ1)の斜視図である。本実施例では、流体機器が遠心ポンプ1である場合を想定して説明する。遠心ポンプ1は片吸込単段渦巻ポンプとして構成されるもので、渦巻ケーシング2とケーシングカバー40によって遠心空間が形成される。遠心空間は、後述する羽根車によって吸い込んだ液体を、加圧して流速をあげて吐き出すための空間である。渦巻ケーシング2には、回転軸線Ax方向の前方から後方に流体を吸い込む吸込み口5と、回転軸線Ax方向と直交方向、ここでは上向きに流体を吐き出す吐出し口6が設けられる。吸込み口5の周囲には取り付け用のフランジ51が設けられ、フランジ51に形成された4つのボルト穴を用いて、図示しない外部の配管がボルト締めにより接続される。同様に、吐出し口6の周囲には取り付け用のフランジ61が設けられ、フランジ61に形成された4つのボルト穴を用いて、図示しない外部の配管がボルト締めにより接続される。本実施例の遠心ポンプ1にて扱う液体は、きれいな水を主に想定するが、それ以外の液体であっても良い。
【0013】
渦巻ケーシング2の後方側は、ケーシングカバー40によって閉鎖される。渦巻ケーシング2の後方側開口の外縁には、複数個所のねじ穴用のネジボス3が形成される。また、ケーシングカバー40の外周側の周囲には、図示しないねじ又はボルトを貫通させるための貫通孔用のネジボス41が複数形成される。ケーシングカバー40の後方側には主軸7を貫通させる貫通孔(
図1では見えない)が形成され、貫通孔と同軸上に、主軸7を回転可能に支持する軸受部8が設けられる。渦巻ケーシング2の下側には、脚部4が接続される。脚部4は遠心ポンプ1を床や台座等にボルト止めするための固定用器具であり、図示しないねじやボルトを貫通させるための貫通孔4aが複数形成される。
【0014】
遠心空間の内部には、渦巻ケーシング2を貫通するように配置された主軸7と、主軸7に一体に回転可能に固定された羽根車20(後述する
図5参照)が収容される。主軸7は、渦巻ケーシング2の内部から、軸受部8を貫通して後方側に延在する。軸受部8よりも後方側に延びる主軸7には、駆動源(図示せず)が接続され、羽根車20(後述の
図5参照)を回転させる。この駆動源は、例えばモータであるが、本実施例の流体機器の駆動源は、モータだけに限られずに、主軸7に回転力を供給できる機器ならば、エンジン、水車、風車等、公知の様々な動力源を用いることができる。
【0015】
図2は、従来の遠心ポンプ101の分解斜視図である。従来の遠心ポンプ101と、
図1に示した本実施例の遠心ポンプ1との違いは、ライナリング131の形状と、羽根車120の一部の形状、渦巻ケーシング2におけるライナリング131の取付部付近の形状だけである。それ以外は、
図1で示した本実施例の遠心ポンプ1は従来の遠心ポンプ101と同一の部品を用いて製造できる。よって、本実施例の遠心ポンプ1と、
図2~
図4で示す従来の遠心ポンプ101は、外部から見える形状は同一である。
【0016】
渦巻ケーシング2の内部には、流体を流す流路が設けられており、後方側には羽根車120を挿入するための円形の開口穴2aが形成される。開口穴2aは、ケーシングカバー40によって閉鎖される。羽根車120の円筒部121に隣接するように対向する部分であって、渦巻ケーシング2の内壁部分には、円筒状のライナリング131が設けられる。ライナリング131は渦巻ケーシング2に回転軸線Ax方向の後方側から前方側に向けて挿入される。
【0017】
主軸7は、前後方向に長い金属の一体成型部材であって、固定する対象に応じで外径が異なる部位を有するように複数段設けられる。主軸7の最前方には、羽根車120を固定するための細径部7aと、細径部7aの前方側から雌ネジ部7bが形成される。羽根車120は、主軸7の細径部7aに図示しないボルト19(後述の
図3参照)によって固定される。主軸7を貫通させた状態にて回転可能に軸支するために、ケーシングカバー40の後方側には軸受部8が設けられる。軸受部8は、ケーシングカバー40に図示しないボルトによって固定される。軸受部8は、軸受9b又は図示しない複数の軸受を固定するための部材であり、軸受部8の内部を主軸7が貫通するように配置され、径方向に見て主軸7と軸受部8の間にボールベアリング等の公知の軸受が1つ又は複数配置される。軸受9bの後方側であって主軸7の段差部との間にはスペーサー10が設けられる。ケーシングカバー40の前方側であって羽根車20の後方側には軸封部9aが設けられる。軸封部9aは、羽根車120によって昇圧された流体の外部への漏出を防止する役割を持つ。
【0018】
図3は従来の遠心ポンプ101の回転軸線Axを通る鉛直断面図である。渦巻ケーシング2の前方側には吸込み口5が形成され、上方側には吐出し口6が形成される。流入用の配管等から給送される水などの流体は、回転軸線Ax方向前方の吸込み口5から矢印53の方向に向けて渦巻ケーシング2の内部の吸込空間52に流れ込み、回転する羽根車120の前側の円筒部121の内側の開口から羽根車120内に吸い込まれる。吸い込まれた流体は、ブレード125によって圧縮及び加速されつつ径方向外側に流れ、排出口126から渦巻きケーシング2の内部に排出される。高圧で加速された流体は、遠心空間62において渦巻きケーシング2の形状に沿って出口空間63に案内され、吐出し口6から矢印64の方向に吐出される。ここで、回転軸線Axを通る鉛直断面で見ると、遠心空間62と出口空間63は分断されているように見えるが、これらは連続する空間であり、本明細書では渦巻ケーシング2の渦巻きの内周側の空間を遠心空間62の符号を付し、外周側の空間を出力空間63の符号を付している。
【0019】
羽根車120は、複数のブレード125が形成された回転体であり、ブレード125の前側縁部は前方壁127に接続され、後側縁部は後方壁128に接続される。ブレード125は、例えば金属のダイカストによって一体的に製造される。ブレード125は、周方向に等間隔で複数枚配置される。高速にて回転するブレード125の作用によって羽根車120の前方壁127と後方壁128の間に存在する流体は、圧縮及び加速されて高速で羽根車120の外周付近に誘導され、排出口126から遠心空間62内に放出される。ケーシングカバー40及び軸封部9aは、羽根車120によって昇圧された流体の外部への漏出を防止する。
【0020】
羽根車120は、主軸7の先端(前端)部分にボルト19によって固定される。羽根車120と主軸7は、主軸7側にキー7cが形成され、羽根車120側にそれに対応するキー溝(図では見えない)が形成され、空転しないように固定される。尚、羽根車120と主軸7の固定方法や、空転を防ぐための固定構造は、公知の他の構造を用いても良い。主軸7は、軸受9b(
図2参照)等の複数の軸受を介して軸受部8(
図2参照)により回転可能に軸支される。尚、遠心ポンプ1における主軸7の軸支方法は任意であり、その他の公知の軸支手段にて実現しても良い。
【0021】
渦巻ケーシング2の吸込空間52を形成する円筒部54と、遠心空間62を形成する前側壁面55の境界領域付近であって、点線Cでの囲んだ部分(本明細書では、ライナリング131と吸入口を形成する円筒部121によるラビリンス隙間を形成する部位を「マウス部」と称することにする)には、円筒形状のライナリング131が設けられる。このマウス部Cは、円筒方向に延在する円筒部54の後端と、径方向外向きに延在する前側壁面55の内側端部の接続点である。この角部にライナリング131を取り付けるための取付部56(符号は後述の
図4参照)が形成される。ライナリング131は円筒形であって、後方側から回転軸線Ax方向の前方向に向けて取付部に圧入により固定される。ライナリング131の内側壁面に対向する部位であって、羽根車120の吸入口を形成する円筒部121は、前端に開口を有する略円筒状に形成される。円筒部121の外周壁面が、ライナリング131の内周面とわずかな距離を隔てて断面視で平行な隙間になるように傾斜面22にて形成される。これは、高圧の遠心空間62側に存在する液体が、隙間部分を通って高圧の遠心空間62側から低圧の吸込空間52側に向けて逆流しないようにシールするためである。
【0022】
図4は
図3のマウス部Cの拡大図である。従来の遠心ポンプ101のマウス部Cでは、羽根車120の流入口側に円筒部121が形成され、円筒部121の外周面121aに対向するように円筒状のライナリング131が配置される。ライナリング131は金属製であって、羽根車120の円筒部121と所定の間隔dを隔てるように同軸上に配置される。ライナリング131を取り付けるために渦巻ケーシング2の内側角部には、取付部56が形成される。取付部56は、外周側にライナリング131を圧入させる面となる円筒面56aが形成され、前側に回転軸線Axと直交する円盤状の突当面56bが形成される。
【0023】
遠心ポンプ1の製造時には、点線にて示す円筒部121の外周面と、点線にて示すライナリング131の内周面が距離dの隙間を有するように形成される。この配置により対向部分で吸込空間52と遠心空間62との流体の流れが実質的に阻害され、昇圧された流体が圧力の低い吸込み口5側に逆流することを防止し、渦巻ケーシング2による吐出し口6方向への流体の誘導を効率化する。このようなマウス部Cの構造は、遠心ポンプ1の長年の稼働によって羽根車120の吸入口付近の表面が摩耗し、点線で示す初期位置から実線で示す位置へと変化する。尚、羽根車120の外側表面だけでなく、その他の部位(例えば内側)も摩耗するが、
図4ではその他の部位の摩耗は正しく図示していない。同様に、ライナリング131側も、点線で示す初期位置から実線で示すライナリング131’の状態へと摩耗する。これら摩耗の結果、ライナリング131’と円筒部121’の隙間はd
1のように大きくなってしまう。隙間d
1が大きくなることは、高圧側と低圧側の液体の圧力隔離性能が悪化することにつながるので、遠心ポンプ1としての性能低下は避けられない。
【0024】
図4で示した隙間d
1を分解メインテナンスによって、もとの隙間dに戻すことができるように構成したものが本実施例による遠心ポンプ1である。
図5は本発明の実施例に係る遠心ポンプ1の回転軸線Axを通る鉛直断面図である。
図3で示した従来の遠心ポンプ101との違いは、渦巻ケーシング2のマウス部Cの形状と、羽根車20の円筒部21付近の形状と、使用するライナリング31の形状であり、さらにはスペーサー32を使用する点である。マウス部C以外の構造は、従来の遠心ポンプ101と同一構造であり、同じ部品には同じ番号の参照符号を付している。また、渦巻ケーシング2は、内側の構造の一部(
図6(A)で詳述する取付部56の形状)が従来の渦巻ケーシング2と若干異なる場合があるが、実質的に同一なので、遠心ポンプ1、101の外見上の違いはない。
【0025】
羽根車20の回転軸線Axの方向の前端には液体の吸込口となる円筒部21が形成されるが、円筒部21の外周面は、前方側から後方側に行くにつれて外径がリニアに増加するような円錐状の傾斜面22になっている。円筒部21の内周側(回転軸線Axに近い側)は、ほぼ円筒状とされるが、内側を流れる液体の流れに適するようにある程度の曲面にて形成されている。
【0026】
ライナリング部30は、ライナリング31と、その前方側に設けられるスペーサー32の組み合わせにより形成される。ライナリング31は略円筒形であるが、完全な円筒形ではなく、第1の傾斜面31bが第2の傾斜面22と反対向きに傾斜するような円錐状の傾斜面になっている。スペーサー32は、ライナリング31の前面壁と、渦巻ケーシング2の壁面との間に設けられ、ライナリング31の回転軸線Ax方向の位置を調整するための調整部材として機能する。
【0027】
図6は本発明の実施例に係るライナリング部30を示す図であり、(A)は
図5のマウス部Cの拡大図であり、(B)はライナリング部30の斜視図である。本実施例のライナリング部30は、従来のライナリング131(
図3、
図4参照)に替えて設けられるもので、スペーサー32とライナリング31の組によって構成される。
図6(B)は、ライナリング部30の組であり(工場出荷時)、図に示すように、スペーサー32は周方向に連続して同一断面で形成される一体の部品であって、円環状の板材によって形成された一定の厚さを有する。ライナリング31も周方向に連続して同一断面形状で形成される、金属の円筒状の一体部品である。ライナリング31の内周面は、前方の一部がわずかに円筒面31aとされるが、その後方側は傾斜面31bにて形成される。
【0028】
図6(A)にてわかるように、ライナリング31は取付部56に設けられるが、その際、突当面56bとライナリング31の前側端面との間にスペーサー32を挟むようにした。スペーサー32を設けることでライナリング31の前後位置を調整することができる。円筒部21の外周側にはライナリング31の傾斜面31bに対応する傾斜面22が形成される。ライナリング31と羽根車20の対向部分の傾斜面31b、22は、お互いに平行として一定の間隔dとすることが好ましい。しかしながら、必ずしも2つの傾斜面22と傾斜面31bが完全に平行である必要はなく、ライナリング31の傾斜面31bと羽根車20の傾斜面22のいずれの箇所にて最小の隙間(間隔dの部分)が形成できれば良い。
【0029】
リボン部Cの傾斜面31bと傾斜面22は非接触の平行な面とされ、回転軸線Ax方向に対し交わる方向に同角度θで傾斜するように形成される。傾斜面θの大きさは、回転軸線Ax方向に対して0°よりも大きく90°未満の角度で交わっていれば良いが、好ましくは、0°より大きく45°よりも小さい角度、特に好ましくは10~30°程度で形成すると良い。尚、遠心ポンプ1の工場出荷時にはスペーサー32を設けずにライナリング31だけ設けて、使用後の分解メインテナンス時に適切な厚さ(回転軸線Ax方向の長さ)のスペーサー32を取り付けるように構成しても良い。また、ライナリング31の内周面の前端に円筒面31aを設けずに、前端から後端までのすべてを傾斜面31bにて形成するようにしても良い。
【0030】
図7は、遠心ポンプ1の分解メインテナンス時に、
図5の点線で示すマウス部Cの隙間調整をするための手法を説明する図である。
図5にて示した羽根車20、主軸7、ケーシングカバー40は、ケーシングカバー40の外周側に配置される複数のねじを取り外すことで、渦巻ケーシング2から後方側に取り外し、さらにライナリング部30を外すことができる。この取り外しをした後に、ライナリング31の摩耗状況を視認すると共に、摩耗の度合いを測定器具を用いて測定することが可能となる。
【0031】
図7(A)は、ライナリング31とスペーサー32を、渦巻ケーシング2から取り外すときの状態を示す部分断面図である。ライナリング31とスペーサー32は、圧入によって渦巻ケーシング2の取付部56に固定されている。長年の使用によってライナリング31の第1の傾斜面31bが摩耗すると、傾斜面31bが対向する第2の傾斜面22に対して後退して、間隔dがd
1(d
1>d)のように広くなってしまう。この対策としてライナリング31を新品の部品に交換する。ライナリング31とスペーサー32の取り外しには、図示しない専用の工具を用いて、矢印35aのようにそれぞれを後方側に移動させることで行う。
【0032】
次に、羽根車20の円筒部21の摩耗量を測定することによって、新たに取り付けるライナリング部30の長さL1(=スペーサー33の長さ+ライナリング31の長さ)を計算する。この計算値を求めるには、羽根車20の傾斜面22について、吸込み口5側の端点や吐出し口6側の端点などの特定点をあらかじめ決めておき、その部分の直径を測定し、測定値を製造初期の測定結果や、設計値などと比較することにより、羽根車20がどの程度摩耗しているかを算出する。
【0033】
図8は羽根車20の摩耗の度合いを測定する様子を示す図である。左側にはノギス300の側面図を示し、右側には取り外した羽根車20の回転軸線Axを通る断面図にて示している。ノギス300を用いて、内側用測定刃302、303にて傾斜面22の最内周部分の直径Dを計測する。計測する位置は、傾斜面22の最内周側の端部の直径であることが好ましいが、傾斜面22の軸方向の別の位置を測定のための基準点を用いて測定しても良い。
【0034】
再び
図7に戻る。ライナリング31は、組立の工程上、一度取り外すと再利用しないため、取り外したライナリング31側の摩耗の測定は必須ではない。羽根車20とライナリングの摩耗量分だけ、製造初期段階より隙間dが拡大していることとなるので、その摩耗量に相当する板厚(=回転軸線Ax方向の長さ)が増加された新たなスペーサー33が設けられる。スペーサー33に隣接するように設けられるライナリング31は、摩耗していない新品部品を用いる。ライナリング31の傾斜面31bの新たな固定位置は、ライナリング31と渦巻ケーシング2の突当面56bの間に位置するスペーサー33の板厚により決定される。従って、調整用のスペーサーとして板厚の異なる複数種類のスペーサー32、33等を準備すれば、分解メインテナンス時においてライナリング31の羽根車20に対する相対位置を適切に調整することが可能となる。
【0035】
ライナリング部30の取付方法は、
図7(A)に示す取り外し方向35aとは反対の前方向(矢印35bの方向)にスペーサー33とライナリング31を移動させ、取付部56に対して渦巻ケーシング2に向かって回転軸線Axの前方側に圧入する。これらを圧入した後の状態を示すのが
図9(A)である。
図9(A)において、取り外したスペーサー32に対して、新たに取り付けるスペーサー33の厚さ(回転軸線Ax方向の距離)が大きいため、新たなライナリング31の傾斜面31bの位置を、回転軸線Ax方向でより羽根車20に近い位置、即ち工場出荷時の傾斜面31bの位置よりもさらに後方側にずれた位置に固定することができる。よって、羽根車20の傾斜面22が摩耗して傾斜面22が回転軸線Ax方向後方に後退した状況であっても、隙間dを適切に調整することが可能となる。
【0036】
羽根車20とライナリング31の材質は、従来では同じ材質を使用することが一般的であったが、本実施例では、ライナリング31の材質を、羽根車20よりも少しだけ柔らかく削れやすい金属、例えば硬度が低い部材にて製造することが望ましい。例えば羽根車20の材質がFC200やSCS13である場合、ライナリング31の材質は、CAC406、CAC902などが良い。スペーサー32、33の形状は、ライナリング31の外径及び最小内径と同じ外径と内径をもつリング状である。また、スペーサー32、33の材質はライナリング31と同等か、それ以上の強度を持つ金属とすると良い。これにより、スペーサー32の変形や摩耗による、ライナリング31の回転軸線Ax方向に対する変位が軽減される。
【0037】
以上、第1の実施例によれば、
図7(B)に示すような調整の結果、ライナリング31の傾斜面31bは、羽根車20の対向部の傾斜面22に近づくこととなり、隙間dが適切になるように調整することが可能となった。これにより、長期間の使用による遠心ポンプ1の性能低下を回復させることができるので、長期間使用した遠心ポンプ1を一式買い替えずに継続使用することが可能となった。遠心ポンプ1の継続使用のために要する費用は、ライナリング31及びスペーサー33の部品代と、分解及び交換作業、調整作業に伴う費用であって、新品との交換に対して十分に抑えることができるので、環境にやさしくエコな遠心ポンプ1を実現できた。