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特開2025-25262ウレタン発泡成形体およびそれを用いた放熱構造体
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  • 特開-ウレタン発泡成形体およびそれを用いた放熱構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025262
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】ウレタン発泡成形体およびそれを用いた放熱構造体
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/373 20060101AFI20250214BHJP
   H01L 23/36 20060101ALI20250214BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20250214BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20250214BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20250214BHJP
   H01M 10/6554 20140101ALI20250214BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20250214BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20250214BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250214BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250214BHJP
   C08K 7/00 20060101ALI20250214BHJP
   C08K 9/02 20060101ALI20250214BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
H01L23/36 M
H01L23/36 D ZAB
H05K7/20 F
H01M10/613
H01M10/653
H01M10/6554
C09K5/14 E
C08L75/04
C08K3/013
C08K3/04
C08K7/00
C08K9/02
C08K3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129881
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】小瀬 峻久
(72)【発明者】
【氏名】杉江 陽成
(72)【発明者】
【氏名】鐘ヶ江 亮祐
【テーマコード(参考)】
4J002
5E322
5F136
5H031
【Fターム(参考)】
4J002AB042
4J002CK021
4J002DA026
4J002DA027
4J002DA088
4J002DE149
4J002DJ049
4J002FA016
4J002FA046
4J002FB077
4J002FD016
4J002FD017
4J002FD018
4J002FD019
4J002FD139
4J002FD202
4J002FD206
4J002FD207
4J002FD208
4J002GQ00
5E322EA10
5E322FA04
5F136BC04
5F136BC05
5F136DA27
5F136FA23
5F136FA51
5F136FA55
5F136FA63
5H031AA09
5H031EE03
5H031EE04
5H031HH04
(57)【要約】
【課題】 柔軟で熱伝導性に優れ、熱伝導材として使用することができるウレタン発泡成形体、およびそれを用いた放熱構造体を提供する。
【解決手段】 ウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材に含有され、熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された磁性粒子と、を有する複合粒子と、を有する。ウレタン発泡成形体において、該複合粒子は熱伝導方向に配向している。ウレタン発泡成形体は、熱伝導方向に圧縮率5%以上65%以下で圧縮された圧縮部を有する。発熱体の熱を放熱させる放熱構造体は、放熱体と、該ウレタン発泡成形体と、を備え、該ウレタン発泡成形体の圧縮部が、該発熱体と該放熱体との間に配置される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタンフォームからなる基材と、
該基材に含有され、熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された磁性粒子と、を有する複合粒子と、
を有し、該複合粒子は熱伝導方向に配向しているウレタン発泡成形体であって、
該熱伝導方向に圧縮率5%以上65%以下で圧縮された圧縮部を有することを特徴とするウレタン発泡成形体。
【請求項2】
前記複合粒子の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の5体積%以上50体積%以下である請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項3】
前記圧縮部以外の部分の空孔率は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の4体積%以上40体積%以下である請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項4】
前記熱伝導性粒子は薄片状または繊維状を呈し、前記圧縮部における該複合粒子の配向度は0.2以上である請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項5】
前記熱伝導性粒子は、膨張黒鉛粒子を有する請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項6】
さらに、前記基材中に分散している絶縁性無機粒子を有する請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項7】
前記圧縮部は、発熱体と放熱体との間に配置される請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項8】
全体が前記圧縮部からなる請求項1に記載のウレタン発泡成形体。
【請求項9】
発熱体の熱を放熱させる放熱構造体であって、
放熱体と、請求項1に記載のウレタン発泡成形体と、を備え、
該ウレタン発泡成形体の前記圧縮部が、該発熱体と該放熱体との間に配置される放熱構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱伝導材として用いられるウレタン発泡成形体、およびそれを用いた放熱構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車に搭載されるバッテリーパック、電子機器などにおいては、使用中に発生する熱を外部に放熱するために、ヒートシンクや冷却プレートなどの放熱体が用いられる。発熱体と放熱体の間には、サーマルインターフェースマテリアル(TIM)と呼ばれる熱伝導性材料が配置され、発熱体と放熱体との間の熱抵抗を低減して放熱性を高めている。例えば、特許文献1、2に記載されているように、熱伝導性材料としては、グリース、ゲル、相変化材料(PCM)、シート状の成形体など、適用対象に応じて種々の材料が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-88108号公報
【特許文献2】特開2022-121447号公報
【特許文献3】国際公開第2013/042611号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱伝導性材料のうち、熱伝導性グリースを用いる場合には、液だれの他、塗布された部材の変形によりグリースが部材間から外へ押し出されるポンプアウトが問題になる。ポンプアウトにより、グリースと部材との間にボイドが発生すると、両者の密着性が低下して熱抵抗が大きくなる。液だれやポンプアウトを回避する材料として、熱伝導性シートなどの固体状の材料が挙げられる。上記特許文献2には、シリコーンマトリックスと炭化水素系化合物の混合物であるバインダー成分に、熱伝導性充填材が分散されてなる熱伝導性シートが記載されている。バッテリーパックに収容されるバッテリーセルは、充放電に伴い膨張、収縮を繰り返す。電子機器における電子部品にも、発熱、冷却を繰り返すことで反りなどの変形が生じる場合がある。したがって、固体状の熱伝導性材料においては、発熱体などの変形に追従できるような柔軟性が要求される。しかしながら、特許文献2に記載されている熱伝導性シートのように、ソリッドの高分子マトリックス(基材)に熱伝導性充填材を配合した材料は、柔軟性に乏しい。また、熱伝導率を大きくするためには、熱伝導性充填材の含有量は多い方がよいが、含有量を多くすると柔軟性が損なわれ、質量が増加してしまう。
【0005】
柔軟な材料としては、ポリウレタンフォームなどの発泡体が知られている。しかしながら、発泡体は、内部に多数の気泡を有しており熱伝導率が小さい。この点、特許文献3には、ポリウレタンフォーム中に、熱伝導性粒子と磁性粒子とが複合化した複合粒子を配向させて配置して、その配向方向に熱の伝導経路を形成することにより放熱性を向上させたウレタン発泡成形体が記載されている。しかしながら、当該ウレタン発泡成形体は、吸音材として開発されたものであるため、放熱を主目的とした熱伝導材としては熱伝導率が十分とはいえず、そのままでは適用することが難しい。この場合、複合粒子の含有量を多くすれば、熱伝導率を大きくすることができるかもしれないが、含有量を多くすると、柔軟性が低下して、質量が増加してしまう。また、ポリウレタンフォームの発泡硬化反応に影響したり、成形性を阻害したりするおそれもある。
【0006】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、柔軟で熱伝導性に優れ、熱伝導材として使用することができるウレタン発泡成形体、およびそれを用いた放熱構造体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するため、本開示のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材に含有され、熱伝導性粒子と、該熱伝導性粒子の表面にバインダーにより接着された磁性粒子と、を有する複合粒子と、を有し、該複合粒子は熱伝導方向に配向しているウレタン発泡成形体であって、該熱伝導方向に圧縮率5%以上65%以下で圧縮された圧縮部を有することを特徴とする。
【0008】
本開示のウレタン発泡成形体は、熱伝導方向に5%以上65%以下という特定の圧縮率で圧縮された圧縮部を有する。ウレタン発泡成形体が圧縮されると、気泡が潰れる。これにより、熱伝導率を大きくすることができる。ウレタン発泡成形体の圧縮方向は、熱伝導方向であり、これは複合粒子の配向方向でもある。すなわち、複合粒子が配向して線状に連なることにより、基材中に熱の伝導経路が形成される。よって、ウレタン発泡成形体が熱伝導方向に圧縮されると、複合粒子の配向状態を維持したまま、複合粒子同士が接近し、複合粒子同士が接触しやすくなる。これにより、熱伝導率を大きくすることができる。このように、本開示のウレタン発泡成形体によると、複合粒子の含有量を増加させなくても、気泡および複合粒子による作用により、圧縮部において大きな熱伝導率を実現することができる。複合粒子の含有量が増加しないため、柔軟性の低下や質量の増加を回避することができる。また、ポリウレタンフォームの発泡硬化反応や成形性に対する影響もない。
【0009】
本開示のウレタン発泡成形体の基材は、気泡を有する発泡体である。このため、基材がソリッドの高分子材料である従来の成形体と比較して、柔軟で軽量である。また、気泡によるクッション性を有するため、適用する部材が変形してもポンプアウトしにくい。このように、本開示のウレタン発泡成形体は、柔軟で比較的軽量であり、圧縮部における高い熱伝導性を利用して、熱伝導材として使用することができる。
【0010】
(2)上記構成において、前記複合粒子の含有量は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の5体積%以上50体積%以下である構成としてもよい。本構成によると、ウレタン発泡成形体の軽量化を実現することができる。また、発泡硬化反応、成形性への影響を少なくしつつ、複合粒子による熱伝導性向上の効果を得ることができる。
【0011】
(3)上記いずれかの構成において、前記圧縮部以外の部分の空孔率は、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の4体積%以上40体積%以下である構成としてもよい。空孔率は、ウレタン発泡成形体に含まれる空孔(気泡)の体積割合である。空孔率が小さすぎる、すなわちポリウレタンフォーム中の気泡量が少なすぎると、十分に圧縮を行うことができない。反対に、空孔率が大きすぎると、ウレタン発泡成形体の熱伝導率が小さくなる。本構成によると、所望の熱伝導率を確保しつつ、65%という高い圧縮率の圧縮部を実現することができる。
【0012】
(4)上記いずれかの構成において、前記熱伝導性粒子は薄片状または繊維状を呈し、前記圧縮部における該複合粒子の配向度は0.2以上である構成としてもよい。複合粒子の配向度が1に近いほど、ウレタン発泡成形体の熱伝導方向に対する複合粒子の長軸の傾きが小さく、長軸方向が熱伝導方向に近づく(熱伝導方向と平行になる)ことを示す。本構成によると、複合粒子の配向状態を崩さずに、複合粒子同士を接近させることができる。これにより、圧縮部の熱伝導率を大きくすることができる。
【0013】
(5)上記いずれかの構成において、前記熱伝導性粒子は、膨張黒鉛粒子を有する構成としてもよい。膨張黒鉛粒子は、鱗片状の黒鉛の層間に加熱によりガスを発生する物質が挿入されてなる。膨張黒鉛粒子に熱が加わると、発生したガスにより、層間が広がると共に、熱や化学品に対して安定した層が形成される。形成された層が断熱層となり、熱の移動を妨げることにより、難燃効果がもたらされる。
【0014】
通常、難燃性が付与されているウレタン発泡成形体は、炎に晒されても火種を落下させて延焼を抑制するドロッピング作用を有する。しかしながら、磁性粒子が配合されていると、ドロッピング作用が損なわれ、ウレタン発泡成形体の自己消火性が低下するおそれがある。本開示のウレタン発泡成形体において、複合粒子は熱伝導方向に配向している。このため、ウレタン発泡成形体に加わった熱は、熱伝導性粒子に伝わりやすく、膨張黒鉛粒子が膨張開始温度に早く到達する。これにより、膨張黒鉛粒子による難燃効果が、速やかに発揮される。したがって、本構成によると、ウレタン発泡成形体の自己消火性の低下を抑制し、難燃性を維持することができる。
【0015】
(6)上記いずれかの構成において、さらに、前記基材中に分散している絶縁性無機粒子を有する構成としてもよい。基材中に絶縁性無機粒子が存在すると、複合粒子同士が導通しにくくなり、ウレタン発泡成形体に電気絶縁性が付与される。また、絶縁性無機粒子の熱伝導率が比較的大きい場合には、複合粒子による熱の伝導経路に加えて、絶縁性無機粒子による熱の伝導経路も形成される。これにより、ウレタン発泡成形体の熱伝導性がより向上する。また、絶縁性無機粒子が難燃性を有する場合には、ウレタン発泡成形体の難燃性が向上する。
【0016】
(7)上記いずれかの構成において、前記圧縮部は、発熱体と放熱体との間に配置される構成としてもよい。本構成によると、圧縮部における高い熱伝導性を利用して、発熱体と放熱体との間の熱抵抗を低減することができる。本構成のウレタン発泡成形体は、比較的軽量で、発熱体などの変形に追従可能な柔軟性を有する熱伝導材として有用である。
【0017】
(8)上記いずれかの構成において、ウレタン発泡成形体の全体が前記圧縮部からなる構成としてもよい。本構成のウレタン発泡成形体は、例えばシート状に成形して、熱伝導性シートとして使用することができる。
【0018】
(9)本開示の放熱構造体は、発熱体の熱を放熱させる放熱構造体であって、放熱体と、上記いずれかの構成のウレタン発泡成形体と、を備え、該ウレタン発泡成形体の前記圧縮部が、該発熱体と該放熱体との間に配置されることを特徴とする。前述したように、本開示のウレタン発泡成形体は、柔軟で比較的軽量であり、圧縮部において高い熱伝導性を有する。したがって、本開示の放熱構造体によると、軽量化を図ることができ、発熱体と放熱体との間に配置される圧縮部は、発熱体などの変形に対する追従性に優れる。また、発熱体と放熱体との間から圧縮部が外へ押し出されるポンプアウトも生じにくい。本開示の放熱構造体によると、発熱体から放熱体への放熱性が向上するため、例えば放熱体として、冷媒を使用する冷却プレートを用いた場合に、冷却に要する出力を低下させることができ、冷却装置の小型化などを図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本開示のウレタン発泡成形体は、柔軟で比較的軽量であり、圧縮部における高い熱伝導性を利用して、熱伝導材として使用することができる。本開示の放熱構造体によると、発熱体から放熱体への放熱性を向上させることができる。加えて、軽量化を図ることができ、発熱体と放熱体との間に配置される圧縮部は、発熱体などの変形に対する追従性に優れ、ポンプアウトしにくい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本開示の放熱構造体が配置されたバッテリーパックの断面模式図である。
図2】ウレタン発泡成形体の圧縮率に対する熱伝導率を示すグラフである。
図3】ウレタン発泡成形体の圧縮率に対する複合粒子の配向度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本開示のウレタン発泡成形体および放熱構造体の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0022】
<ウレタン発泡成形体>
本開示のウレタン発泡成形体は、ポリウレタンフォームからなる基材と、該基材に含有される複合粒子と、を有し、該複合粒子は熱伝導方向に配向しており、該熱伝導方向に圧縮率5%以上65%以下で圧縮された圧縮部を有する。
【0023】
[基材]
基材の形状、大きさなどは、特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜決定すればよい。基材のポリウレタンフォームは、ポリイソシアネート成分およびポリオール成分などの発泡ウレタン樹脂原料から製造される。発泡ウレタン樹脂原料は、ポリオール、ポリイソシアネートなどの既に公知の原料から調製すればよい。ポリオールとしては、多価ヒドロキシ化合物、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリマーポリオール類、ポリエーテルポリアミン類、ポリエステルポリアミン類、アルキレンポリオール類、ウレア分散ポリオール類、メラミン変性ポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、アクリルポリオール類、ポリブタジエンポリオール類、フェノール変性ポリオール類などの中から適宜選択すればよい。また、ポリイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、およびこれらの誘導体(例えば、ポリオール類との反応により得られるプレポリマー類、変成ポリイソシアネート類)などの中から適宜選択すればよい。
【0024】
発泡ウレタン樹脂原料には、さらに、触媒、発泡剤、整泡剤、可塑剤、架橋剤、鎖延長剤、難燃剤、帯電防止剤、減粘剤、安定剤、充填剤、着色剤などを適宜配合してもよい。例えば、触媒としては、テトラエチレンジアミン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミンなどのアミン系触媒や、ラウリン酸錫、オクタン酸錫などの有機金属系触媒が挙げられる。また、発泡剤としては水が好適である。水以外には、塩化メチレン、フロン類、COガスなどが挙げられる。また、整泡剤としてはシリコーン系整泡剤が、架橋剤としてはトリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどが好適である。
【0025】
[複合粒子]
基材中に含有される複合粒子は、核となる熱伝導性粒子の表面に磁性粒子などがバインダーにより接着された粒子である。熱伝導性粒子は、非磁性体であって、熱伝導率が比較的大きい粒子である。本明細書では、強磁性体および反強磁性体以外の、反磁性体および常磁性体を、非磁性体と称す。例えば、熱伝導性粒子の熱伝導率は、200W/m・K以上であることが望ましい。熱伝導性粒子の材質としては、例えば、黒鉛、炭素繊維などの炭素材料が挙げられる。また、アルミニウム、金、銀、銅、およびこれらを母材とする合金などでもよい。熱伝導性粒子は、単一の粒子でも複数の粒子が一体化した集合粒子でもよい。
【0026】
熱伝導性粒子の形状は、磁性粒子などの他の粒子と複合化できれば、特に限定されない。例えば、薄片状、繊維状、柱状、球状、楕円球状、長円球状(一対の対向する半球を円柱で連結した形状)など、種々の形状を採用することができる。熱伝導性粒子が球以外の形状をなす場合には、複合粒子同士の接触面積が大きくなる。これにより、熱の伝導経路が確保されやすくなると共に、伝導する熱量も大きくなる。例えば、薄片状、繊維状などが好適である。この場合、熱伝導性粒子のアスペクト比は1.2以上であることが望ましい。ここで、アスペクト比とは、粒子の短軸長さに対する長軸長さの比であり、例えば、薄片状の粒子の場合は最長部分の長さ/最短部分の長さを意味し、繊維状の粒子の場合は繊維長さ/繊維直径を意味する。
【0027】
黒鉛粒子は、アスペクト比が大きい形状のものでも、金属粒子と比較して安価に入手できる。このため、熱伝導性粒子としては、黒鉛粒子が好適である。黒鉛としては、鱗片状黒鉛、鱗状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛や、人造黒鉛などが挙げられる。人造黒鉛は、鱗片状になりにくい。このため、鱗片状であり、熱伝導性の向上効果が高いという理由から、天然黒鉛が好適である。また、黒鉛として、鱗片状の黒鉛の層間に、加熱によりガスを発生する物質が挿入された膨張黒鉛を用いてもよい。膨張黒鉛に熱が加わると、発生したガスにより、層間が広がると共に、熱や化学品に対して安定した層が形成される。この安定層が断熱層となり、熱の移動を妨げることにより、難燃効果がもたらされる。よって、難燃性を考慮すると、熱伝導性粒子としては、膨張黒鉛粒子が好適である。膨張黒鉛粒子としては、膨張開始温度や膨張率などを考慮して、適宜選択すればよい。膨張開始温度は、ウレタン発泡成形体の成形時の発熱温度よりも高くなければならないため、膨張開始温度が150℃以上の膨張黒鉛粒子が好適である。
【0028】
熱伝導性粒子のメディアン径は、熱伝導率を大きくするという観点から、100μm以上であることが望ましい。700μm以上であるとより好適である。他方、熱伝導性粒子が大きすぎると、それを起点としてクラックが入るなどして成形体が脆くなるおそれがある。よって、熱伝導性粒子のメディアン径は、3000μm以下であることが望ましい。2000μm以下であるとより好適である。本明細書におけるメディアン径は、特に明記しない限り、レーザー回折・散乱法により測定される体積基準の粒度分布から求めた値(D50)である。なお、市販品についてはカタログ値を採用してもよい。
【0029】
磁性粒子は、複合粒子を配向させることができればよく、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、ガドリニウム、ステンレス鋼、マグネタイト、マグヘマイト、マンガン亜鉛フェライト、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライトなどの強磁性体、MnO、Cr、FeCl、MnAsなどの反強磁性体、およびこれらを用いた合金類の粒子が好適である。なかでも、微細な粒子として入手しやすく、飽和磁化が高いという観点から、鉄、ニッケル、コバルト、およびこれらの鉄系合金(ステンレス鋼を含む)が好適である。特に鉄は、比較的安価で入手しやすいため、製造コストを削減することができ、大量生産するのに好適である。
【0030】
磁性粒子は、熱伝導性粒子の表面に直接接着されてもよく、後述する絶縁性無機粒子などを介して間接的に接着されてもよい。また、磁性粒子は、熱伝導性粒子の表面の一部のみに接着されてもよく、表面全体を被覆するように接着されてもよい。磁性粒子の大きさは、熱伝導性粒子の大きさ、複合粒子の配向性、および複合粒子間の熱伝導性などを考慮して、適宜決定すればよい。例えば、磁性粒子の粒子径は、熱伝導性粒子の粒子径の1/10以下であることが望ましい。この場合の「粒子径」は、等体積球相当径である。磁性粒子の大きさが小さくなると、磁性粒子の飽和磁化が低下する傾向がある。したがって、より少量の磁性粒子により複合粒子を配向させるためには、磁性粒子のメディアン径を100nm以上とすることが望ましい。1μm以上、さらには5μm以上とするとより好適である。
【0031】
磁性粒子の形状は、特に限定されるものではない。例えば、磁性粒子の形状が扁平の場合には、球状の場合と比較して、隣接する熱伝導性粒子間の距離が短くなる。これにより、隣接する複合粒子間における熱伝導性が向上する。結果、ウレタン発泡成形体の熱伝導性が向上する。また、磁性粒子の形状が扁平の場合には、磁性粒子と熱伝導性粒子とが面で接触する。つまり、両者の接触面積が大きくなる。これにより、磁性粒子と熱伝導性粒子との接着力が向上する。よって、磁性粒子が剥離しにくくなる。加えて、磁性粒子と熱伝導性粒子との間の熱伝導性も向上する。このような理由から、磁性粒子としては、薄片状の粒子を採用することが望ましい。
【0032】
磁性粒子の含有量は、複合粒子を比較的低磁場中でも配向させることができるという観点から、基材中の熱伝導性粒子の質量を100質量%とした場合の20質量%以上であることが望ましい。また、コスト削減や軽量化を図るという観点から、磁性粒子の含有量は130質量%以下であることが望ましい。100質量%以下、さらには80質量%以下であるとより好適である。
【0033】
熱伝導性粒子と磁性粒子とを接着するバインダーは、接着性、発泡硬化反応への影響などを考慮して、適宜選択すればよい。発泡硬化反応への影響が少なく、環境にも優しいという理由から、水溶性高分子が好適である。例えば、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、デンプンなどが挙げられる。なかでも、デンプンは、比較的安価であり、粘着性が高く造粒性に優れるため好適である。
【0034】
熱伝導性粒子および磁性粒子は導電性を有する。このため、複合粒子が連なって配向することにより、基材中に導通経路が形成される。例えば、熱伝導性粒子の表面に、磁性粒子に加えて絶縁性無機粒子をバインダーにより接着して、複合粒子を構成することができる。こうすることにより、複合粒子が配向しても、隣接する複合粒子間の電気抵抗を大きくしたり、導通を遮断したりすることができる。結果、ウレタン発泡成形体に電気絶縁性を付与することができる。
【0035】
絶縁性無機粒子は、絶縁性を有する無機材料の粒子であればよい。絶縁性無機材料としては、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカなどが挙げられる。これらの一種類を単独で、または二種類以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、タルク、マイカは薄片状を呈しており被覆性に優れるため好適である。また、複合粒子間の熱伝導性を阻害しないという観点から、熱伝導率が比較的大きいものを採用してもよい。
【0036】
絶縁性無機粒子は、熱伝導性粒子の表面に直接接着されてもよく、磁性粒子などを介して間接的に接着されてもよい。また、絶縁性無機粒子は、熱伝導性粒子の表面の一部のみに接着されてもよく、表面全体を被覆するように接着されてもよい。複合粒子間の電気抵抗を大きくして、ウレタン発泡成形体の電気絶縁性を高めるという観点から、絶縁性無機粒子は、複合粒子の最表層に配置されることが望ましい。熱伝導性粒子に磁性粒子を接着するバインダーと、絶縁性無機粒子を接着するバインダーと、は同じでも異なってもよい。
【0037】
絶縁性無機粒子の大きさは、熱伝導性粒子および磁性粒子に対する接着性、複合粒子間の電気絶縁性および熱伝導性を考慮して、適宜決定すればよい。絶縁性無機粒子が大きすぎると、接着性や複合粒子間の熱伝導性が低下する。例えば、絶縁性無機粒子の粒子径は、熱伝導性粒子の粒子径の1/10以下であることが望ましい。この場合の「粒子径」は、等体積球相当径である。例えば、絶縁性無機粒子のメディアン径は、1μm以上20μm以下であればよい。
【0038】
絶縁性無機粒子の形状は、特に限定されるものではない。例えば、絶縁性無機粒子の形状が扁平の場合には、球状の場合と比較して、隣接する熱伝導性粒子間の距離を短くすることができる。よって、隣接する複合粒子間の熱伝導性を阻害しにくい。また、熱伝導性粒子との接触面積が大きくなることにより、絶縁性無機粒子が剥離しにくくなる。
【0039】
複合粒子の含有量は、ウレタン発泡成形体の質量、柔軟性、熱伝導性、ポリウレタンフォームの発泡硬化反応に対する影響、成形性などを考慮して決定すればよい。所望の熱伝導性を実現するためには、複合粒子の含有量を、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の5体積%以上とすることが望ましい。10体積%以上とするとより好適である。他方、ウレタン発泡成形体の軽量化を図り、柔軟性を維持する、発泡硬化反応を阻害しないようにする、成形性を良好にするという観点においては、複合粒子の含有量を、50体積%以下とすることが望ましい。20体積%以下とするとより好適である。
【0040】
基材に含有される複合粒子は、ウレタン発泡成形体の熱伝導方向に配向している。複合粒子の配向方向が熱伝導方向に近いほど、熱伝導性は向上する。例えば、熱伝導性粒子が薄片状または繊維状を呈する場合、圧縮部における複合粒子の配向度は0.2以上であることが望ましい。複合粒子の配向度は、ウレタン発泡成形体の熱伝導方向に対する複合粒子の長軸の傾き具合を示す指標である。配向度が1に近いほど、複合粒子の長軸の傾きが小さく、長軸方向が熱伝導方向に近づく(熱伝導方向と平行になる)ことを示す。複合粒子の配向度を0.2以上にすることにより、複合粒子の配向状態を崩さずに、複合粒子同士を接近させることができる。これにより、圧縮部の熱伝導率を大きくすることができる。
【0041】
本明細書における複合粒子の配向度は、次の方法で得られた値である。まず、株式会社リガク社製の高分解能3DX線顕微鏡「nano3DX」を用いて、ウレタン発泡成形体の圧縮部のサンプルのX線CT(Computerized Tomography)測定を行う。次に、得られた断層像データについて、3次元CT用ソフト(Volume Graphics社製「VGStudio(登録商標) MAX」による繊維配向解析を行う。そして、1つの複合粒子をX線CT測定の最小単位であるボクセルの集まりとみなし、ボクセルの連結方向をテンソルで表し、テンソルの熱伝導方向成分を配向度として計算する。
【0042】
[その他の成分]
本開示のウレタン発泡成形体は、本開示の作用効果を阻害しない範囲で、基材中に複合粒子以外の成分を含んでいてもよい。例えば、基材中に絶縁性無機粒子が分散していると、複合粒子同士が導通しにくくなり、ウレタン発泡成形体の電気絶縁性が向上する。基材中に分散される絶縁性無機粒子の種類は、複合粒子の構成粒子として加えられる絶縁性無機粒子と同じでも、異なってもよい。絶縁性無機粒子の形状は、特に限定されず、球状でも薄片状でもよい。絶縁性無機粒子は、一種類でも二種類以上でもよい。絶縁性無機粒子としては、前述した水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、炭酸カルシウム、クレー、マイカ、シリカなどが好適である。絶縁性無機粒子の熱伝導率が比較的大きい場合には、複合粒子による熱の伝導経路に加えて、絶縁性無機粒子による熱の伝導経路も形成される。よって、ウレタン発泡成形体の熱伝導性を高めるという観点から、熱伝導率が比較的大きいもの、例えば、熱伝導率が5W/m・K以上のものが好適である。また、絶縁性無機粒子が難燃性を有する場合には、ウレタン発泡成形体の難燃性が向上する。例えば、水酸化アルミニウムは、比較的熱伝導率が大きく、難燃性も有するため好適である。
【0043】
基材中に分散される絶縁性無機粒子の大きさは、特に限定されないが、例えば、メディアン径が55μm以上200μm以下の大径粒子を有することが望ましい。メディアン径が55μm以上の場合、基材のポリウレタンフォームとの接触面積が小さくなる。これにより、絶縁性無機粒子が水と反応してアルカリ性を示す粒子である場合に、ポリウレタンの加水分解による劣化が抑制される。他方、メディアン径が200μm以下であれば、成形性への影響は少ない。
【0044】
基材中に分散される絶縁性無機粒子の含有量は、ポリウレタンフォームの発泡硬化反応に対する影響、成形性などを考慮すると、ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合の20体積%以下とすることが望ましい。15体積%以下とするとより好適である。また、電気絶縁性の付与、熱伝導性の向上などの所望の効果を得るためには、5体積%以上とすることが望ましい。8体積%以上とするとより好適である。
【0045】
[圧縮部]
本開示のウレタン発泡成形体は、熱伝導方向に圧縮率5%以上65%以下で圧縮された圧縮部を有する。圧縮率は、次式(I)により算出される。
圧縮率(%)=[圧縮前(無荷重状態)の厚さ-圧縮後の厚さ]/圧縮前の厚さ×100 ・・・(I)
圧縮率を5%以上65%以下にすることで、気泡が潰れたり、複合粒子同士が近づいたりすることにより、熱伝導率の向上効果を得ることができる。圧縮率を7%以上、10%以上、15%以上、さらには20%以上にすると、複合粒子同士の接触面積が大きくなり、熱伝導率をより大きくすることができる。また、複合粒子の配向状態を崩さずに、複合粒子同士を接触させるという観点から、圧縮率を60%以下、55%以下、さらには50%以下にするとよい。
【0046】
圧縮部は、ウレタン発泡成形体の一部に配置されてもよく、全体に配置されてもよい。全体が圧縮部からなる形態の一例として、ウレタン発泡成形体の全体を圧縮してシート状にした熱伝導性シートなどが挙げられる。本開示のウレタン発泡成形体を熱伝導材として用いる場合には、圧縮部を発熱体と放熱体との間に配置すればよい。こうすることにより、圧縮部における発熱体などの変形への追従性、および高い熱伝導性が発揮され、発熱体と放熱体との間の熱抵抗を低減して放熱性を高めることができる。この場合、予めウレタン発泡成形体に圧縮部を形成しておき、それを発熱体と放熱体との間に配置する形態でもよく、圧縮前のウレタン発泡成形体を発熱体と放熱体との間に配置して、片側または両側から圧縮した状態で使用する形態でもよい。
【0047】
[空孔率]
ウレタン発泡成形体の体積を100体積%とした場合、最大で65%の圧縮率で圧縮可能にするという観点から、圧縮部以外の部分の空孔率を4体積%以上にするとよい。また、所望の熱伝導率を確保するという観点から、同空孔率を40体積%以下にするとよい。圧縮部がウレタン発泡成形体の全体に配置されている場合には、「圧縮部以外の部分」は、圧縮前のウレタン発泡成形体を意味する。
【0048】
ウレタン発泡成形体の空孔率は、ウレタン発泡成形体を製造する際に使用する発泡型に、原料(後述する混合原料)をどの程度充填するかにより調整することができる。発泡剤により発泡反応が十分に進行すると仮定した場合、空孔率は次式(II)により算出される。
空孔率(%)=(発泡型の容積-充填する原料全体の体積)/発泡型の容積×100 ・・・(II)
また、ウレタン発泡成形体の空孔率は、圧縮部以外の部分の単位体積(例えば1cm)当たりの複合粒子などのフィラーおよびポリウレタンフォームの体積を求めることにより、次式(III)により算出することができる。式(III)中、単位体積に占めるフィラーおよびポリウレタンフォームの体積は、例えば、単位体積に含まれるフィラーの質量と比重とから算出されたフィラー体積と、ポリウレタンフォームの質量と比重とから算出されたポリウレタンフォーム体積と、を合計して求めればよい。
空孔率(%)=(単位体積-単位体積に占めるフィラーおよびポリウレタンフォームの体積)/単位体積×100 ・・・(III)
【0049】
<ウレタン発泡成形体の製造方法>
本開示のウレタン発泡成形体の製造方法は特に限定されない。好適な製造方法の一形態として、本開示のウレタン発泡成形体の製造方法は、複合粒子製造工程と、混合原料製造工程と、発泡成形工程と、圧縮部形成工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0050】
[複合粒子製造工程]
本工程は、熱伝導性粒子の粉末、磁性粒子の粉末、必要に応じて配合される絶縁性無機粒子の粉末、バインダー、および水を有する造粒原料を撹拌して複合粒子を製造する工程である。使用する粉末、バインダーの配合量については、複合粒子の磁場配向性、ウレタン発泡成形体の電気絶縁性、熱伝導性などを考慮して、適宜調整すればよい。例えば、バインダーの配合量は、粒子の接着に必要十分な量として、接着対象の粉末の合計質量を100質量%とした場合の2質量%以上にすることが望ましい。他方、バインダーが過剰になると、複合粒子同士が凝集するおそれがある。このため、バインダーの配合量は、10質量%以下にすることが望ましい。5質量%以下にするとより好適である。バインダーは固体でも液体でもよい。バインダーとして水溶性の粉末を用いる場合、予め、バインダーと他の粉末原料とを撹拌した後に、水を添加するとよい。こうすることにより、粒子の凝集を抑制することができる。
【0051】
造粒原料に絶縁性無機粒子の粉末を含めて、絶縁性無機粒子を複合粒子の最表層に配置する場合には、本工程を、熱伝導性粒子の粉末、磁性粒子の粉末、バインダー、および水を有する第一原料を撹拌する第一撹拌工程と、該第一原料の撹拌物に、絶縁性無機粒子の粉末を添加して、さらに撹拌する第二撹拌工程と、を有する構成としてもよい。
【0052】
[混合原料製造工程]
本工程は、先の工程において製造された複合粒子の粉末と、必要に応じて配合される絶縁性無機粒子の粉末と、発泡ウレタン樹脂原料と、を混合して混合原料を製造する工程である。
【0053】
発泡ウレタン樹脂原料については、前述したように、ポリオール、ポリイソシアネート、触媒、発泡剤、整泡剤などの原料から調製すればよい。混合原料は、例えば、複合粒子の粉末、絶縁性無機粒子の粉末、および発泡ウレタン樹脂原料を、撹拌羽根などを用いて機械的に撹拌して製造することができる。また、発泡ウレタン樹脂原料の二つの成分(ポリオール原料、ポリイソシアネート原料)の少なくとも一方に、複合粒子の粉末および絶縁性無機粒子の粉末を添加して、二種類の原料を調製した後、両原料を混合して製造してもよい。
【0054】
[発泡成形工程]
本工程は、先の工程において製造された混合原料を発泡型のキャビティ内に注入し、該キャビティ内の磁束密度が略均一になるように磁場をかけながら発泡成形する工程である。
【0055】
混合原料の注入量は、発泡剤により発泡反応が十分に進行すると仮定して、所望の空孔率になるように調整すればよい。磁場は、複合粒子を配向させる方向(熱伝導方向)に形成すればよい。例えば発泡型を挟むように、発泡型の一端および他端の両面近傍に磁石を配置することにより、キャビティ内の磁力線を、キャビティの一端から他端に向かって略平行に生じさせることができる。磁石には、永久磁石または電磁石を用いればよい。電磁石を用いると、磁場形成のオン、オフを瞬時に切り替えることができ、磁場の強さの制御が容易である。よって、発泡成形を制御しやすい。また、磁場を構成する磁力線は閉ループを形成していることが望ましい。こうすることで、磁力線の漏洩が抑制され、キャビティ内に安定した磁場を形成することができる。
【0056】
キャビティ内の磁束密度が略均一になるように磁場を形成するには、キャビティ内の磁束密度の差が、±10%以内であるとよい。±5%以内、さらには±3%以内であるとより好適である。発泡型のキャビティ内に一様な磁場を形成することで、複合粒子の偏在を抑制することができ、所望の配向状態を得ることができる。また、発泡成形は、150mT以上350mT以下の磁束密度で行うとよい。こうすることで、混合原料中の複合粒子を、確実に配向させることができる。磁場は、発泡ウレタン樹脂原料の粘度が比較的低い間にかけられることが望ましい。発泡ウレタン樹脂原料が増粘し、発泡成形がある程度終了した時に磁場をかけると、複合粒子が配向しにくいため、所望の熱伝導性を得ることが難しい。なお、発泡成形を行う時間の全てにおいて磁場をかける必要はない。本工程にて発泡成形が終了した後、脱型して得られるウレタン発泡成形体の一端および他端の少なくとも一方に、表皮層が形成される場合がある。当該表皮層は、切除してもしなくてもよい。
【0057】
[圧縮部形成工程]
本工程は、先の工程において得られたウレタン発泡成形体の一部または全部を熱伝導方向に圧縮して圧縮部を形成する工程である。圧縮部は、部材に適用する前に予めプレス機、圧縮治具などの装置を用いて形成してもよく、適用時に圧縮部の両側に配置される部材で圧縮して形成してもよい。前者の場合、装置による押圧時間は、72時間以上にするとよい。圧縮率については、用途に応じて所望の特性が得られるよう、5%以上65%以下の範囲で適宜決定すればよい。
【0058】
<放熱構造体>
本開示の放熱構造体は、発熱体の熱を放熱させる部材であり、放熱体と、前述した本開示のウレタン発泡成形体と、を備え、該ウレタン発泡成形体の圧縮部が、発熱体と放熱体との間に配置される。以下に、本開示の放熱構造体の一実施形態を示す。図1に、本開示の放熱構造体が配置されたバッテリーパックの断面模式図を示す。図1の方位については、バッテリーセルの並び方向(積層方向)をX方向、X方向に直交する二方向のうち、バッテリーセルの長手方向をY方向、短手方向(端子-底面方向、図1の上下方向)をZ方向としている。まず、本実施形態のバッテリーパックおよび放熱構造体の構成を説明する。図1に示すように、バッテリーパック1は、筐体10と、複数のバッテリーセル20と、放熱構造体30と、を有している。
【0059】
筐体10は、金属製であり箱状を呈している。複数のバッテリーセル20は、各々、リチウムイオン電池からなり、筐体10に収容されている。複数のバッテリーセル20は、各々、直方体状を呈しており、厚さ方向(X方向)に積層されている。放熱構造体30は、冷却プレート31と、熱伝導性シート32と、を有している。冷却プレート31は、金属製であり、薄板状を呈している。冷却プレート31は、筐体10の底面に配置されている。熱伝導性シート32は、全体が圧縮率20%の圧縮部からなる形態の本開示のウレタン発泡成形体からなる。当該ウレタン発泡成形体において、複合粒子はZ方向に配向している。熱伝導性シート32は、バッテリーセル20の積層体と冷却プレート31との間に介装されている。熱伝導性シート32の厚さは2mmである。熱伝導性シート32は、冷却プレート31の上面に圧縮前のウレタン発泡成形体(厚さ2.5mm)を配置して、上方からバッテリーセル20の積層体で押圧することにより製造されている。バッテリーセル20は本開示における発熱体の概念に含まれ、冷却プレート31は本開示における放熱体の概念に含まれる。
【0060】
次に、本実施形態の放熱構造体の作用効果を説明する。放熱構造体30を構成する熱伝導性シート32は、バッテリーセル20の底面(X-Y面)および冷却プレート31の上面に接触している。熱伝導性シート32は、熱伝導性に優れ、バッテリーセル20の充放電時の膨張、収縮に追従可能な柔軟性を有する。これにより、バッテリーセル20から冷却プレート31への放熱性が向上する。また、熱伝導性シート32は、比較的軽量で、バッテリーセル20が膨張、収縮を繰り返してもポンプアウトしにくい。
【0061】
上記実施形態では、発熱体をバッテリーセルとし、放熱体を冷却プレートとしたが、本開示の放熱構造体の適用対象である発熱体は、これに限定されるものではない。発熱体としては、電子機器に使用されるCPU、電源などの各種電子部品などが挙げられる。放熱体も、特に限定されるものではなく、ヒートシンク、バッテリーパックや電子機器の金属製筐体などでもよい。
【実施例0062】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。本実施例においては、ウレタン発泡成形体の圧縮率が異なるサンプルを製造し、圧縮率と熱伝導率との関係、および圧縮率と複合粒子の配向度との関係を調べた。
【0063】
<サンプルの製造>
[複合粒子の製造]
熱伝導性粒子としての膨張黒鉛粉末、磁性粒子としてのステンレス鋼粉末、バインダーとしてのデンプン粉末、絶縁性無機粒子としてのタルク粉末、および水を有する造粒原料を撹拌して、複合粒子を製造した。まず、膨張黒鉛粉末1000質量部、ステンレス鋼粉末600質量部、およびデンプン粉末100質量部を、高速撹拌型混合造粒機の容器内へ投入して羽根撹拌により混合し、さらに水400質量部を添加して1分間混合した。次に、タルク粉末400質量部を投入して、さらに4分間混合した。撹拌速度は400rpmとした。得られた粉末を乾燥して、複合粒子の粉末とした。使用した材料の詳細を次の(a)~(d)に示す。
(a)熱伝導性粒子
膨張黒鉛粉末:富士黒鉛工業(株)製「EXA-50」、メディアン径300μm。
(b)磁性粒子
ステンレス鋼粉末:三菱製鋼(株)製「AKT」、メディアン径8.5~13.0μm。
(c)バインダー
デンプン粉末:日本コーンスターチ(株)製「インスタントテンダージェルC」。
(d)絶縁性無機粒子
タルク粉末:日本タルク(株)製「ミクロエース(登録商標)K-1」、メディアン径8μm。
【0064】
[ウレタン発泡成形体の磁場成形]
製造した複合粒子の粉末と、基材中に分散させる絶縁性無機粒子としての水酸化アルミニウム粉末と、を用いてウレタン発泡成形体を製造した。まず、ポリエーテルポリオール(住化コベストロウレタン(株)製「SBU(登録商標)ポリオール0248」)100質量部と、鎖延長剤のジエチレングリコール(三菱化学(株)製)2質量部と、発泡剤の水2質量部と、テトラエチレンジアミン系触媒(花王(株)製「カオーライザー(登録商標)No.31」)1.5質量部と、シリコーン系整泡剤(東レ・ダウコーニング(株)製「SZ-1333」)0.5質量部と、を混合して、ポリオール原料を調製した。また、ポリイソシアネート原料として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)変性物を準備した。MDI変性物は、ポリエーテルポリオール(同上)と、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(東ソー(株)製「ミリオネートMT」)と、をイソシアネート(NCO)含有量が70質量%となるように混合し、窒素パージ下、100℃にて180分間反応させて製造した。次に、ポリオール原料100質量部に、複合粒子の粉末80質量部と、水酸化アルミニウム粉末(日本軽金属(株)製「SB53」、メディアン径55μm、熱伝導率8W/m・K)60質量部と、を添加、混合して、プレミックスポリオールを調製した。続いて、プレミックスポリオール100質量部と、ポリイソシアネート原料(MDI変性物)10質量部と、を混合して、混合原料とした。
【0065】
混合原料を、アルミニウム製の発泡型(キャビティは縦130mm×横130mm×厚さ2mmの直方体)に注入し、発泡型を密閉した。混合原料の注入量は、水により発泡反応が十分に進行すると仮定して、空孔率が40体積%になるように調整した。それから、発泡型を磁気誘導発泡成形装置に設置して、発泡成形を行った。発泡型のキャビティ内には、上方から下方に向かって略平行な磁力線により一様な磁場が形成される。キャビティ内の磁束密度は200mT、キャビティ内における磁束密度の差は±3%以内である。発泡成形は、最初の2分間は磁場をかけながら行い、続く約5分間は磁場をかけないで行った。発泡成形が終了した後、脱型して、厚さ方向に複合粒子が配向しているウレタン発泡成形体を得た。得られたウレタン発泡成形体における複合粒子の含有量は10体積%であり、絶縁性無機粒子の含有量は10体積%である(いずれもウレタン発泡成形体の体積を100体積%とする)。発泡成形においては、発泡型の厚さを変更して、厚さが異なる八種類のウレタン発泡成形体を製造した。製造されたウレタン発泡成形体の厚さは、2.00mm、2.02mm、2.04mm、2.11mm、2.50mm、4.00mm、5.71mm、6.67mmである。
【0066】
[圧縮部形成]
製造した八種類のウレタン発泡成形体から、各々、縦50mm×横50mmの正方形状のサンプルを切り出した。そして、厚さ2.00mm以外の七種類のサンプルについては、厚さ方向両面をジグで挟み、サンプル全体を室温下で厚さ2.00mmまで圧縮した状態を48時間保持した。これにより、圧縮率が1%、2%、5%、20%、50%、65%、70%の七種類のサンプルを製造し、圧縮しなかった厚さ2.00mmのサンプルを含めて、合計八種類のサンプルを準備した。
【0067】
<サンプルの評価>
製造した各サンプルの熱伝導率と、複合粒子の配向度と、を測定した。測定方法は次のとおりである。
【0068】
[熱伝導率]
JIS A1412-2:1999の熱流計法に準拠した英弘精機(株)製「HC-110」を用いて、熱伝導率を測定した。
【0069】
[複合粒子の配向度]
まず、株式会社リガク社製の高分解能3DX線顕微鏡「nano3DX」を用いて、サンプルのX線CT測定を行った。次に、得られた断層像データについて、3次元CT用ソフト(Volume Graphics社製「VGStudio(登録商標) MAX」による繊維配向解析を行い、複合粒子の配向度を算出した。
【0070】
[測定結果]
図2に、ウレタン発泡成形体の圧縮率に対する熱伝導率をグラフで示す。図2に示すように、圧縮率が0%のサンプルの熱伝導率は0.6W/m・Kであるのに対して、圧縮率が5%のサンプルの熱伝導率は1.1W/m・Kであり、圧縮率が5%以上になると、熱伝導率は急激に大きくなった。特に、圧縮率が20%、50%のサンプルの熱伝導率は、1.5W/m・K以上になり大きくなった。他方、圧縮率が70%のサンプルの熱伝導率は0.6W/m・Kであり、圧縮率が高すぎると熱伝導率は小さくなることが確認された。図3に、ウレタン発泡成形体の圧縮率に対する複合粒子の配向度をグラフで示す。図3に示すように、圧縮率が高くなるほど複合粒子の配向度は小さくなった。この結果より、圧縮率が高くなると、厚さ方向に対する複合粒子の長軸の傾きが大きくなり、配向状態が崩れるおそれがあることがわかる。例えば、圧縮率が70%のサンプルの複合粒子の配向度は0.15と小さく、熱伝導率の低下と対応している。
【0071】
これとは別に、製造したウレタン発泡成形体のサンプル(発泡成形後の厚さ2.00mm)を用いて、ポンプアウトの有無を調べた。まず、縦50mm×横50mm×厚さ10mmのアルミニウム製の二枚の薄板の間にサンプルを挟んで、圧縮率30%で圧縮した。そして、薄板の周囲にサンプルがはみ出したかどうかを目視で観察し、はみ出した部分があればその長さを測定した。結果、製造したウレタン発泡成形体のサンプルについては、薄板の全周に亘って、はみ出した部分の長さは5mm未満であり、ポンプアウトなしという判定であった。
【符号の説明】
【0072】
1:バッテリーパック、10:筐体、20:バッテリーセル、30:放熱構造体、31:冷却プレート、32:熱伝導性シート。
図1
図2
図3