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特開2025-25274含水爆薬の密度の測定装置及び測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2025025274
(43)【公開日】2025-02-21
(54)【発明の名称】含水爆薬の密度の測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
   F42D 1/08 20060101AFI20250214BHJP
   G01N 9/12 20060101ALI20250214BHJP
【FI】
F42D1/08
G01N9/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129898
(22)【出願日】2023-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104927
【弁理士】
【氏名又は名称】和泉 久志
(72)【発明者】
【氏名】早津 隆広
(72)【発明者】
【氏名】村田 健司
(72)【発明者】
【氏名】関根 一郎
(72)【発明者】
【氏名】巽 義知
(72)【発明者】
【氏名】若竹 亮
(72)【発明者】
【氏名】辻川 泰人
(72)【発明者】
【氏名】三上 英明
(72)【発明者】
【氏名】生島 直輝
(57)【要約】
【課題】工事現場等での迅速かつ正確な含水爆薬の密度の測定を可能にする。
【解決手段】爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合することにより製造される含水爆薬について、密度が爆薬として使用に供する最適密度範囲に入っているか否かを確認する際に使用される含水爆薬の密度の測定装置1である。前記最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液2が入った容器3と、前記最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液4が入った容器5とを備える。分取した含水爆薬を前記上限密度基準液2に投入する工程と、分取した含水爆薬を前記下限密度基準液4に投入する工程とを行い、各基準液中での含水爆薬の浮沈状態から、前記含水爆薬の密度を測定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合することにより製造される含水爆薬について、密度が爆薬として使用に供する最適密度範囲に入っているか否かを確認する際に使用される含水爆薬の密度の測定装置であって、
前記最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液が入った容器と、前記最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液が入った容器とを備えることを特徴とする含水爆薬の密度の測定装置。
【請求項2】
前記上限密度基準液と下限密度基準液の間の密度を有する中間密度基準液が入った容器を更に備える請求項1記載の含水爆薬の密度の測定装置。
【請求項3】
前記上限密度基準液より大きな密度を有する過上限密度基準液が入った容器及び前記下限密度基準液より小さな密度を有する過下限密度基準液が入った容器のいずれか又は両方を更に備える請求項1記載の含水爆薬の密度の測定装置。
【請求項4】
各基準液の密度を確認するため、所定の密度に調整された浮沈子を備える請求項1記載の含水爆薬の密度の測定装置。
【請求項5】
爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合することにより製造される含水爆薬について、密度が爆薬として使用に供する最適密度範囲に入っているか否かを確認する際に使用される含水爆薬の密度の測定方法であって、
製造した前記含水爆薬を分取して、前記最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液に投入する工程と、
製造した前記含水爆薬を分取して、前記最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液に投入する工程と、を行い、
各基準液中での前記含水爆薬の浮沈状態から、前記含水爆薬の密度を測定することを特徴とする含水爆薬の密度の測定方法。
【請求項6】
製造した前記含水爆薬を分取して、前記上限密度基準液と下限密度基準液の間の密度を有する中間密度基準液に投入する工程を更に含む請求項5記載の含水爆薬の密度の測定方法。
【請求項7】
製造した前記含水爆薬を分取して、前記上限密度基準液より大きな密度を有する過上限密度基準液に投入する工程及び前記下限密度基準液より小さな密度を有する過下限密度基準液に投入する工程のいずれか又は両方を更に含む請求項5記載の含水爆薬の密度の測定方法。
【請求項8】
所定の密度に調整された浮沈子を用いて、各基準液の密度を確認する請求項5記載の含水爆薬の密度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、山岳トンネルのトンネル発破などに用いられる含水爆薬の密度を測定するための測定装置及び測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、山岳トンネルのトンネル発破のための装薬作業は、切羽に近づいて行う必要があるため、肌落ち災害の危険性が高い作業の一つとして知られている。この装薬作業を自動化することができれば、切羽に近づいて行う作業が減り、山岳トンネル工事の安全性を高めることができる。また、リニア中央新幹線に代表されるように、硬岩の長大トンネルの建設工事では、長孔発破が必要となるため、発破作業の生産性向上が求められている。
【0003】
このような要求を満足する技術として、サイトミキシング型(現場混合型)の含水爆薬(バルクエマルション爆薬)を使用した発破装薬の自動化技術が注目されている。バルクエマルション爆薬は、硝酸アンモニウム(AN)を主剤とし水を含有するゲル状の低粘性爆薬で、紙や樹脂フィルム等で包装しておらず、ゲル状の爆薬がモノポンプ等の圧送機械によってホース内を圧送されることにより、削孔内に適量の装填を可能にした爆薬である。したがって、装薬量のコントロールが容易であり、ドリルジャンボの削孔データと連動させることで、効率的な装薬及び発破を行うことができるようになる。
【0004】
サイトミキシング型の含水爆薬は、爆発性を有しない原材料である「爆薬中間体」(エマルションマトリックス)に対して、装薬時に何らかの形で微小気泡を内包させることで、起爆できるように改質したものである。前記微小気泡は、ホットスポットを形成し、起爆感度を高め、伝爆性を確保する役割をする。
【0005】
爆薬中間体に微小気泡を内包させる手段は、下記特許文献1の明細書の段落[0024]などにも開示されるように、次の2つの方法が知られている。
【0006】
第1の方法は、微小気泡を含む物質を物理的に混ぜ込む方法である。この方法は、ガラス製微小中空粒子やパーライトなどのガラスマイクロバルーン(GMB)と呼ばれる中空ガラス球体(微小中空粒子)を爆薬中間体に混合することにより、含水爆薬中に微小気泡として存在させるようにしたものである。この方法では、混合が完了した時点で爆薬中間体の密度は、混合量に比例して低下する。
【0007】
次いで第2の方法は、爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合して、化学反応で微小気泡を発生させる方法である。例えば、爆薬中間体に、亜硝酸ナトリウム水溶液と酢酸水溶液をポンプなどで混合し、更にミキサーで混ぜれば、化学反応で亜硝酸イオンが分解し、亜硝酸ナトリウム→三酸化二窒素→一酸化窒素と変化し、微小気泡が内包される。この方法では、化学反応に時間を要することから、混合の瞬間を時間ゼロとすると、15分~45分程度かけて微小気泡が化学反応で発生して内包が進み、次第に密度が低下する。
【0008】
上述の第1の方法は、予め混合比と密度の関係を求めておけば所望の密度の含水爆薬が簡単に製造できるが、物理的にガラスマイクロバルーンを混ぜる装置・工程で、発火・爆発の危険があるため、これに対するしっかりとした防護がなされた火薬工場等で製造する場合を除き、工事現場等での製造は行われていない。
【0009】
一方、上述の第2の方法は、ポンプとインラインミキサーで混ぜるだけなので、混合による発火・爆発の危険はなく、工事現場等でも使用可能である。このため、サイトミキシング型の含水爆薬における爆薬中間体に微小気泡を内包させる手段としては、上述の第2の方法、即ち爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合して化学反応で微小気泡を発生させる方法が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008-57797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、サイトミキシング型の含水爆薬は、爆発性を有しない爆薬中間体に発泡剤等を混合して微小気泡を内包させることで、起爆できるように改質しているが、このときの改質の程度は密度に依存する。即ち、密度が高すぎると燃焼しかせず、密度が低すぎると爆発も燃焼もしない。このため、爆薬として使用に供するには最適な密度範囲に設定する必要があり、トンネル発破現場等での迅速な密度の測定及び管理が必須となる。
【0012】
特に、上述の化学反応で微小気泡を発生させる方法は、安全な方法である反面、現場でしっかりと密度の測定・管理を行わないと、発泡が完了しているのか、まだ発泡途中なのか、出来上がりの含水爆薬の密度が望ましい範囲に入っているのか、などが判らない。
【0013】
予め、発泡剤、発泡助剤の混合比から発泡率を求める方法も考えられるが、爆薬中間体は粘度が高く、温度による粘度の変化も大きいので、計測した温度で補正を行っても、なかなか計画通りには行かない。
【0014】
更に、機械の設定ミスや、ポンプの数パーセントと僅かな能力低下の不具合、発泡剤、発泡助剤の化学的な劣化などで発泡に異常があり、密度が望ましい範囲に入らない場合もあり、このときは不爆となり、発破工程が失敗に終わるおそれもある。
【0015】
従来から行われていた含水爆薬の密度の測定方法は、予め重量を正確に測定した数百ミリリットルの体積が既知の容器に、発泡剤を混合したサイトミキシング型の含水爆薬を摺り切りいっぱいまで充填した後、秤量室などの定盤上に設置された電子天秤などで、その重さを測定し、容器の重量分を減算して含水爆薬の重量を求め、体積と重量から密度を算出する、というものである。
【0016】
しかしながら、この測定方法では、電子天秤での精密な測定を可能とする定盤などの水平な台が必要であるとともに、電子天秤での測定時に有害な振動の影響を受けない環境が必要である。更には、含水爆薬を容器に充填する際、空気を抱き込まないように注意する必要がある。つまり、空気を抱き込むと、見かけの密度が低下するとともに、抱き込んだ空気は微小気泡でなく爆発に寄与しないので、この方法で計測した密度が適正な範囲に収まっていても、実際の微小気泡を含む含水爆薬の密度は異なり、爆発しない場合がある。
【0017】
そこで本発明の主たる課題は、爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合して微小気泡を発生させた含水爆薬について、工事現場等での迅速かつ正確な密度の測定が可能な含水爆薬の密度の測定装置及び測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合することにより製造される含水爆薬について、密度が爆薬として使用に供する最適密度範囲に入っているか否かを確認する際に使用される含水爆薬の密度の測定装置であって、
前記最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液が入った容器と、前記最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液が入った容器とを備えることを特徴とする含水爆薬の密度の測定装置が提供される。
【0019】
上記請求項1記載の発明では、最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液が入った容器と、最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液が入った容器とを備えた測定装置を用い、製造した含水爆薬を分取して、前記上限密度基準液が入った容器及び下限密度基準液が入った容器にそれぞれ投入し、基準液中での含水爆薬の浮沈状態を観察することで含水爆薬の密度を測定する。すなわち、投入した含水爆薬が、上限密度基準液には浮き、下限密度基準液には沈む場合は、含水爆薬の密度が最適密度範囲であると測定される。
【0020】
このように、本発明に係る含水爆薬の密度の測定装置では、静穏で精密な設置場所などが不要で、少量分取したものを基準液に投入して測定しているので気泡を抱き込むおそれも少なく、工事現場等でも迅速かつ正確に密度の測定ができるようになる。
【0021】
請求項2に係る本発明として、前記上限密度基準液と下限密度基準液の間の密度を有する中間密度基準液が入った容器を更に備える請求項1記載の含水爆薬の密度の測定装置が提供される。
【0022】
上記請求項2記載の発明では、上限密度基準液と下限密度基準液の間の密度を有する中間密度基準液が入った容器を更に備えているため、最適密度範囲内において更に詳細な密度が測定できる。
【0023】
請求項3に係る本発明として、前記上限密度基準液より大きな密度を有する過上限密度基準液が入った容器及び前記下限密度基準液より小さな密度を有する過下限密度基準液が入った容器のいずれか又は両方を更に備える請求項1記載の含水爆薬の密度の測定装置が提供される。
【0024】
上記請求項3記載の発明では、上限密度基準液より大きな密度を有する過上限密度基準液が入った容器及び下限密度基準液より小さな密度を有する過下限密度基準液が入った容器のいずれか又は両方が更に備えられているため、測定された含水爆薬の密度が最適密度範囲から外れている場合でも、どの程度外れているかを測定することができ、最適密度範囲にするための対策が簡単に行えるようになる。
【0025】
請求項4に係る本発明として、各基準液の密度を確認するため、所定の密度に調整された浮沈子を備える請求項1記載の含水爆薬の密度の測定装置が提供される。
【0026】
上記請求項4記載の発明では、各基準液の劣化などによる密度変化の有無を確認するために、所定の密度に調整された浮沈子を各基準液に投入し、浮沈子の浮沈状態から基準液の密度を確認している。
【0027】
請求項5に係る本発明として、爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合することにより製造される含水爆薬について、密度が爆薬として使用に供する最適密度範囲に入っているか否かを確認する際に使用される含水爆薬の密度の測定方法であって、
製造した前記含水爆薬を分取して、前記最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液に投入する工程と、
製造した前記含水爆薬を分取して、前記最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液に投入する工程と、を行い、
各基準液中での前記含水爆薬の浮沈状態から、前記含水爆薬の密度を測定することを特徴とする含水爆薬の密度の測定方法が提供される。
【0028】
請求項6に係る本発明として、製造した前記含水爆薬を分取して、前記上限密度基準液と下限密度基準液の間の密度を有する中間密度基準液に投入する工程を更に含む請求項5記載の含水爆薬の密度の測定方法が提供される。
【0029】
請求項7に係る本発明として、製造した前記含水爆薬を分取して、前記上限密度基準液より大きな密度を有する過上限密度基準液に投入する工程及び前記下限密度基準液より小さな密度を有する過下限密度基準液に投入する工程のいずれか又は両方を更に含む請求項5記載の含水爆薬の密度の測定方法が提供される。
【0030】
請求項8に係る本発明として、所定の密度に調整された浮沈子を用いて、各基準液の密度を確認する請求項5記載の含水爆薬の密度の測定方法が提供される。
【0031】
上記請求項5~8記載の発明では、含水爆薬の密度の測定方法について規定している。
【発明の効果】
【0032】
以上詳説のとおり本発明によれば、工事現場等での迅速かつ正確な含水爆薬の密度の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】サイトミキシング型の含水爆薬の製造工程を示す模式図である。
図2】本発明に係る含水爆薬の比重の測定要領を示す模式図である。
図3】比重の測定結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0035】
例えばトンネル工事現場で用いられる、サイトミキシング型(現場混合型)の含水爆薬(バルクエマルション爆薬)を製造する爆薬製造システム20は、図1に示されるように、エマルション状態の爆薬中間体(ANE:硝酸アンモニウムエマルション)を貯蔵する爆薬中間体貯蔵タンク21と、発泡剤・発泡助剤を貯蔵する発泡剤貯蔵タンク22と、前記爆薬中間体及び発泡剤・発泡助剤を圧送する圧送ポンプ23と、前記爆薬中間体及び発泡剤・発泡助剤が圧送され、トンネルの切羽に穿設された削孔24内に挿入した状態で、先端から爆薬中間体及び発泡剤・発泡助剤を吐出して削孔24内に含水爆薬を装薬する装薬ホース25とから構成される。
【0036】
装薬ホース25の先端から吐出された爆薬中間体及び発泡剤・発泡助剤は、削孔24内で混合されることで、削孔24内でのみ鋭感化し、含水爆薬となる。すなわち、発泡剤・発泡助剤が混合される前の爆薬中間体は爆薬ではなく、火薬類取締法の適用外で、消防法上の危険物として取り扱われるため、爆薬のような管理体制は必要なく、各々の材料を別個に貯蔵・運搬・取り扱いが可能である。
【0037】
前記爆薬中間体に混合される発泡剤及び発泡助剤としては、エマルション爆薬の発泡剤及び発泡助剤として広く用いられている従来から公知のものを制限なく使用することができる。
【0038】
上述の爆薬製造システム20では、爆薬中間体に発泡剤及び発泡助剤を混合して、多数の微小気泡を内部に発生させることにより、爆薬中間体を起爆可能な含水爆薬に改質しているが、このときの改質の程度は含水爆薬の密度に依存する。つまり、含水爆薬は、爆薬としての使用に供するため、密度が最適密度範囲内である必要がある。本発明に係る含水爆薬の密度の測定装置1は、含水爆薬の密度が、このような最適密度範囲に入っているか否かを、トンネル発破現場で迅速に測定・管理できるようにしたものである。
【0039】
具体的な最適密度範囲について説明すると、前記爆薬中間体の密度は1.4g/cmであり、このままでは燃焼させることはできても、爆発はしないため、この爆薬中間体の密度を、前記発泡剤及び発泡助剤を混合して多数の微小気泡を混入させることで、含水爆薬として起爆できる密度まで低下させる必要がある。多数の微小気泡を内包した含水爆薬は、爆轟するようになるとともに、微小気泡の内包量に比例して密度が低下するので、爆轟反応速度や爆轟圧力も低下する。KHTと呼ばれる木原・疋田の分子間ポテンシャルモデルより導かれた高温・高圧下に基づく状態式より爆薬の化学平衡計算を含めた燃焼・爆発特性解析を行うための計算プログラムを用いて、計算により求めた密度と爆轟反応速度及び爆轟圧力との関係を表1に示す。
【表1】
【0040】
表1のシミュレーション結果から明らかなように、密度と爆轟反応速度、爆轟圧力は比例関係にある。岩盤に対する破壊力は、爆轟反応速度、爆轟圧力が高いほど大きい。密度が1.3g/cmよりも高い領域は、爆轟反応が中断し不爆となる可能性がある。密度が1.0g/cmよりも低い領域は、破壊力が不足するとともに、装薬長が長いと不爆となる可能性がある。そのため、含水爆薬の密度を1.0~1.3g/cm程度に制御することが望ましい。この密度範囲が、爆薬として使用に供する最適密度範囲となる。含水爆薬の密度を調整することにより、起爆性を持たせるとともに、爆轟反応速度・爆轟圧力の調整を行うことができる。含水爆薬の密度を調整するには、前記発泡剤及び発泡助剤の混合比を調整することにより行うことができる。
【0041】
本発明に係る含水爆薬の密度の測定装置1は、図2(C)に示されるように、少なくとも、最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液2が入った容器3と、最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液4が入った容器5とを備える。
【0042】
所定の密度の基準液は、「理科年表2023 令和5年 第96冊(机上版)、自然科学研究機構 国立天文台、丸善出版株式会社、p.397~398、(2022年11月30日発行)」に記載された種々の物質の密度(g/cm、20℃)に基づいて各物質の水溶液を作成することにより得ることができる。各密度に対応する主な物質の水溶液の例を次に示す。
【0043】
密度1.0:水
密度1.1:ZnSO4の10%水溶液、BaCl2の12%水溶液、K2CO3の10%水溶液
密度1.2:NaCl2の20%水溶液、K2CO3の22%水溶液
密度1.3:K2CO3の30%水溶液
密度1.4:K2CO3の40%水溶液
また、前記基準液として、水及び含水爆薬に対して化学的な反応を直ちに起こさない、硫酸アンモニウム水溶液を用いることも可能である。
【0044】
前記基準液は、密度の測定を何度も行ううちに、又は時間の経過とともに、劣化による密度変化を生じるおそれがある。また、作製した水溶液の密度が所定の密度に調製されているかを確認する必要もある。このような劣化などによる密度変化の有無を確認するため、又は水溶液が所定の密度に調製されているかを確認するため、所定の密度を有する浮沈子を各基準液に投入し、この浮沈子の浮沈状態から、基準液の密度を確認することができるようにする。
【0045】
前記浮沈子は、所定の密度に調整された、樹脂、金属、ガラスなどからなる中実の物体であり、水溶液の密度より、プラス側に設定された若干密度が高いものと、マイナス側に設定された若干密度が低いものとを組として、それぞれの基準液の密度に適合した浮沈子の組が複数種用意されている。
【0046】
前記浮沈子を用いた基準液の密度の測定方法は、はじめに、基準液の密度より若干高い密度を有する浮沈子を基準液に投入したとき、この浮沈子が沈むことを確認する。次いで、基準液の密度より若干低い密度を有する浮沈子を同様にして基準液に投入したとき、この浮沈子が浮くことを確認する。これにより、基準液の密度が、プラス側に設定された浮沈子の密度と、マイナス側に設定された浮沈子の密度との間の密度であることが確認できる。
【0047】
各基準液が入れられる前記容器3、5は、口広の透明な有底筒状の樹脂製又はガラス製の縦に細長い容器が用いられ、この容器3、5の5分目~8分目位まで各基準液が入れられている。前記容器3、5としては、200~300mlの容積を有する漏れ防止用の蓋付き容器が好適である。
【0048】
前記測定装置1は、更に、図2(A)、(B)に示されるように、上記爆薬製造システム20で装薬ホース25の筒先から出た含水爆薬6のサンプルを取り出す含水爆薬用容器7を備えるとともに、この含水爆薬用容器7内の含水爆薬6を分取して、前記上限密度基準液2又は下限密度基準液4に投入するステンレス製又は樹脂製のスパチュラ8(さじ)を備える。更に、図示しないが、測定終了後の含水爆薬や残った含水爆薬を溜めておくための廃棄用容器も別途用意されている。この廃棄用容器に溜まった含水爆薬は、適宜、分解装置において分解処理される。
【0049】
次に、以上の構成からなる測定装置1を用いた含水爆薬の密度の測定方法について説明する。測定時の温度条件は、常温であれば特に制限はないが、0℃~40℃などとするのがよい。
【0050】
先ずはじめに、図2(A)に示されるように、前記含水爆薬用容器7に含水爆薬6を受け、発泡剤及び発泡助剤の作用する時間(概ね15~45分程度)待つ。
【0051】
所定の時間経過後、図2(B)に示されるように、含水爆薬用容器7に入れられた含水爆薬6から、スパチュラ8で少量の含水爆薬6を分取し、前記最適密度範囲の上限の密度を有する上限密度基準液2に投入する。そして、投入した含水爆薬6の浮沈状態を観察する。また、前記スパチュラ8で少量の含水爆薬6を分取し、前記最適密度範囲の下限の密度を有する下限密度基準液4に投入する。そして、投入した含水爆薬6の浮沈状態を観察する。
【0052】
投入した含水爆薬6が上限密度基準液2には浮き、下限密度基準液4には沈む場合、含水爆薬6の密度が、爆薬として使用に供する最適密度範囲に入っていることが確認できる。
【0053】
このように、本発明に係る測定方法では、測定に際して振動などがない静穏な場所や水平状態を保持できる精密な場所などが不要で、トンネル工事に用いられるジャンボの作業用バスケット上などでも実施可能であり、工事現場等でも迅速に密度の測定ができる。また、少量分取した含水爆薬を基準液に投入して測定するので、気泡を抱き込むおそれも少なく、正確な密度の測定が可能となる。更に、電源などのユーティリティーも必要としないため、簡単に測定が行える。また、少量分取した含水爆薬を水溶液中に投入するので、発火の危険もなく、安全に測定ができるという効果もある。
【0054】
含水爆薬の密度の測定は、削孔24内への含水爆薬の装填開始時、装填途中、装填終了時の適宜のタイミングで、1回又は複数回行うことができる。例えば、装薬開始前に装薬ホースの筒先から出た初期流動サンプルについて測定するとともに、装薬終了後、装薬ホース内に残ったサンプルについて測定することにより、含水爆薬の装填開始から装填終了まで密度が最適密度範囲に入っていることが確認できる。
【0055】
次に、前記測定装置1の変形例について説明すると、図3に示されるように、上限密度基準液2と下限密度基準液4の間の密度を有する中間密度基準液9が入った容器10が更に備えられるようにしてもよい。例えば、上限密度基準液2の密度を1.3g/cm、下限密度基準液4の密度を1.1g/cmとした場合、中間密度基準液9の密度は1.2g/cmとすることができる。
【0056】
前記中間密度基準液9が入った容器10は、上限密度基準液2と下限密度基準液4の丁度真ん中の密度を有する中間密度基準液9が入った1つの容器10で構成することもできるし、上限密度基準液2と下限密度基準液4の間の異なる複数の密度を有する中間密度基準液9がそれぞれ入った複数の容器10…で構成することもできる。
【0057】
前記中間密度基準液9を入れる容器10としては、上述の上限密度基準液2及び下限密度基準液4を入れる容器3、5と同様のものを用いることができる。
【0058】
前記中間密度基準液9が入った容器10が備えられることにより、最適密度範囲内において含水爆薬の密度が更に詳細に測定できるようになり、表1に示されるように含水爆薬の爆轟反応速度・爆轟圧力の調整を行うことができるようになる。
【0059】
上限密度基準液2の密度を1.3g/cm、下限密度基準液4の密度を1.0g/cm、中間密度基準液9の密度を1.1g/cm、1.2g/cmの2種類としたとき、含水爆薬の生じ得る浮沈状況のパターンを表2にまとめる。
【表2】
【0060】
状況1は、含水爆薬の密度が1.0g/cmより小さく、発泡剤を多く混入し過ぎて不爆のおそれがある。状況2、3、4は、含水爆薬の密度が最適密度範囲内であり、適切な発泡剤量である。状況5は、含水爆薬の密度が1.3g/cmより大きく、発泡剤が少な過ぎるか、発泡剤が変質しているか、爆薬中間体と発泡剤及び発泡助剤を混合する際に用いられるスタティックミキサーの不具合などの可能性がある。
【0061】
また、前記測定装置1の他の変形例として、上限密度基準液2より大きな密度を有する過上限密度基準液が入った容器及び下限密度基準液4より小さな密度を有する過下限密度基準液が入った容器のいずれか又は両方が更に備えられるようにしてもよい。
【0062】
表2に示される状況1や状況5の含水爆薬の密度は、最適密度範囲から外れていることが判るが、どの程度外れているかが明確でないため、発泡剤の量をどの程度増減すればよいか判断できない。そこで、最適密度範囲より一定量大小させた過上限密度基準液及び過下限密度基準液を用意し、大まかな密度が測定できるようにしている。上限密度基準液2及び下限密度基準液4より大小させる範囲としては、±0.5以下、好ましくは±0.3以下とするのがよい。
【実施例0063】
図2に示されるように、300mlの広口樹脂製の容器3、5を2個用意し、それぞれ上限密度基準液2(1.3g/cm)、下限密度基準液4(1.1g/cm)を200mlずつ入れて測定装置1を構成した。また、含水爆薬用容器7及び廃棄用容器として、それぞれ20Lの容積の樹脂製容器を用いた。
【0064】
サイトミキシング型の自動装填装置を用いて含水爆薬を製造し、装薬ホース25の筒先から出た含水爆薬の初期流動サンプル約100gを前記含水爆薬用容器7に受けた(図2(A))。
【0065】
図2(B)に示されるように、ステンレス製のスパチュラ8(ステンレス製大さじ)で、親指大の含水爆薬を分取し、図2(C)に示されるように、上限密度基準液2には浮き、下限密度基準液4には沈むことを確認した後、削孔24内への装薬作業を開始した。含水爆薬用容器7に残った含水爆薬は、廃棄用容器に移し替えた。
【0066】
装薬作業終了後、装薬ホース25内に残った含水爆薬を含水爆薬用容器7に受け、前記スパチュラ8で親指大の含水爆薬を分取し、上限密度基準液2には浮き、下限密度基準液4には沈むことを確認した後、退避し、安全確認の上、発破した。
【実施例0067】
実施例2は、上記実施例1と比較して、図3に示されるように、中間密度基準液9(1.2g/cm)を200ml入れた容器10を更に備える点で異なる。
【0068】
前記スパチュラ8を用いて分取した含水爆薬が、前記上限密度基準液2には浮き、下限密度基準液4には沈むことを確認した後(図3(A))、更に、中間密度基準液9においても浮沈状況を確認した。図3(B)に示されるように、中間密度基準液9に沈む場合は、1.2~1.3g/cmの間の密度であり、図3(C)に示されるように、中間密度基準液9に浮く場合は、1.1~1.2g/cmの間の密度である。
【比較例】
【0069】
300mlの広口樹脂製の容器を1個用意するとともに、秤量室に備えられた定盤上に設置した電子天秤を用意した。
【0070】
サイトミキシング型の自動装填装置を用いて含水爆薬を製造し、装薬ホースの筒先から出た含水爆薬の初期流動サンプル約200gを、予め電子天秤などで重量を秤量した前記容器に摺り切りいっぱいに受け、これを秤量室まで運び、定盤上に設置した電子天秤によって重量を測定することで、含水爆薬の密度を算出した。
【0071】
このような方法で密度を測定することは、実際のトンネル工事現場等では困難である。すなわち、トンネル工事現場等に秤量室を設けることは難しく、仮に坑外のヤードなどに秤量室を設けたとしても、そこまでの運搬が必要で、長大トンネルでは迅速な測定を行うことが不可能である。
【符号の説明】
【0072】
1…測定装置、2…上限密度基準液、3…容器、4…下限密度基準液、5…容器、6…含水爆薬、7…含水爆薬用容器、8…スパチュラ、9…中間密度基準液、10…容器、20…爆薬製造システム、21…爆薬中間体貯蔵タンク、22…発泡剤貯蔵タンク、23…圧送ポンプ、24…削孔、25…装薬ホース
図1
図2
図3